No.388325

【金魂】ぬくもり。【兄月】

ともちさん

昔の作品2
■読む前の諸注意
・金魂設定?の神威×月詠
・神威が第二の夜王で現在吉原の片隅に住んでる。
・月詠達とは一日に数回定時連絡をとってる(面倒くさがり神威は春雨組織との連絡の窓口代わりに月詠たちを使う。日輪は勝手に暴れない様に見張る為にそれを受け入れる。

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2012-03-07 21:38:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3870   閲覧ユーザー数:3868

 選択肢などこの腕にはもう入ってなかった。

 最初の時からずっと…、振り解けるわけない。

 

 [ぬくもり。]

 

 月詠は目の前のドアを見つめた。時刻は十時。日は暮れて丸い月が空を照らしている。

 すっと息をすう。言う事はもう決めてある。言葉を発しようとして口を開くと、ヒューと息だけが出た。柄でもないが緊張しているらしい。

 おでこの汗を拭った。何時もと違い前髪を下ろしていた為、前髪がおでこに張り付いているのだ。

 何時もと違うのは前髪にだけじゃない。此処に来るにあたり地味に地味と心がけていたら、何時の間にか町娘の様な格好になった。

 華やかとは名ばかりの戦闘服とは違う。懐かしいさえ覚える格好。

 だが、改めて自分の格好を見直して自然と溜め息がでた。

 深緑の着物に紫の布を頭被せた自分の姿。目立たぬ様にと選んだ格好は月詠の気分を沈ませた。

 早めに用事を済まそう。元からしていた決意を更に堅いものにさせた。

 

 コンコン。月詠は重々しく扉を叩いた。ボロい家が少しだけ歪んだ気がした。

 築四十年もたった様な家。こんな場所を彼らが何故好き好んでいるのだろう。聞く勇気はないので、きっとこれは未来永劫の謎だ。

 もっと街中行けば小綺麗な店が沢山あると言うのに、モノ好きな奴らめ、と月詠は毒づく。

 しかし彼がそこで大人しくしてくれる保証はない。やはり此処にいてくれる事が一番安全だ。

 月詠は小さく頷く。誰でもなく自分に言い聞かせる為にもう一度頷いて、再び目の前の扉に向かいあった。

 部屋の中から反応はない。神威はともかく、アブトは居留守を使う様なタイプではない。

 留守を覚悟し再び扉を叩く。さっきよりも強めに叩くと、ミシッと音を立てて扉が軋んだ。

 やっぱり建て替え時かも知れない。頭の片隅で予算の計算をしながら、もう一回だけドアを叩く。

「わっちだ。連絡がないので確認に来た。居るか?」

「いる」

 扉は開かない。代わりに中から不機嫌な男の声がした。何時もより数トーンも声が低い。

 理由はわからないが、酷く怒っている事が短い言葉だけで窺える。

 だが月詠は動じる事なく更に言葉を発する。

「ちゃんと定時連絡をしろ。何故わっちがこんな…」

「煩い…、静かにしろよ」

 男の殺気を感じてドアが震えた。月詠もその気配を感じると、自然と一歩身を引く。

「……っまぁ、要件はそれだけだ」

「あぁ」

 顔一つ見せないとは、月詠は地面を蹴りながら踵を返した。

 その時、ドカッと何か鈍い物が落ちる音がした。

「神威?…開けるぞ」

 

*

 

「か…むい………神威」

 なぁに、どうしたの母さん?

「もうアナタって子は少しは周りの子と仲良くなさい」

 嫌だね。俺は一人で平気だ。頼ったら付け入れられる。

「そんな事言わないの…神威。アナタはお兄ちゃんになんだから」

 兄ちゃん……。別にそんなの興味ない。

「そんな事言わないので、神楽を宜しくね。ちゃんと守ってあげるのよ」

 嫌だよ。なんであんな弱い奴。

「女の子だものしかたないわ」

 母さんも父さんも神楽、神楽って煩い。俺の方が強いのに……

「だからよ…。神楽を守ってあげてね。母さんの最後のお願いよ」

 最後とか言うなよ母さんっ!もう直ぐ医者が来るから!!

「お願いよ」

 嫌だ!俺は約束を守らない!嫌だ嫌だ!最後だなんて信じない

 

 行かないで母さん!

 

*

 

「……神威。大丈夫か?」

 目を開けると鈍い光に慣れる前に声が聞こえた。懐かしい女の声に神威は目を細めた。

 視線だけ動かして周りを見回す。自分が布団の上で寝かされている事に気づいた。

 病状はさっきより僅かなに回復していて、体が随分と楽になっていた。

 額の濡れタオルが自分の熱を少なからず吸ってくれていたからかも知れない。多分月詠がやってくれたのだろう。

 頬には涙が流れ出ていた。嫌な所を見られてしまった。神威は頭にあったタオルでそれを拭いた。

 暫く無言でいると、月詠が顔を覗き込んできた。何時もの雰囲気と違う彼女に、神威は一瞬誰だと顔をしかめた。

「タオルを代えるぞ」

「いい…」

 伸ばされた手を神威は地面に叩きつける。しかし何時もの威力はなく、子供に殴られた程度だ。

 これにビックリしたのは月詠の方だった。弾かれた手と神威を交互に見ながら数回瞬きを繰り返した。

「だるそうだな…」

「夜兎の力は陰にも陽にも影響する」

「不便だな」

 実にあっさりとした感想を述べると、月詠は額から落ちたタオルを拾い氷水の中に入れた。

「ドアの前で倒れてたからな、ビックリしたぞ。頭とか、打ってないか?」

「……そう言えばキセル。吸ってないなんて珍しい」

 こちらの質問には答えず、独り言の様に神威は呟く。ごまかす為でなく、単にこちらの話しを聞いていないのだろう。

 少し間を置いて、「病人の前では吸えん」っとだけ答えた。

 月詠は絞ったタオルを額に乗せた。今度は文句はない様で、代わりにじっと月詠を見つめた。神威の目はまるで子供の様な純粋な目だった。

「なんだ…?」

「よく、そんな無防備に俺の体に触れられるね。……別に怖いもの知らずってわけじゃないのに」

 そう言われ、初めて自分がどんな状況なのかを理解した。

 無防備に夜兎の傘の範疇に入ってしまった。それは普通なら死を意味する。夜兎の傘より中は、けして自分以外の人を寄せ付けないのだ。

 それは己の業を抑える為、その内側に入る事は死に直結する。

 だが月詠はその場から動く事をしない。神威もまたそれ以上何も言わなかった。月詠はじっと神威を見た。

「神威。わっちは邪魔か?」

「………俺が許す。だからちょっと膝をかして」

 言うが早いが直ぐさま膝に神威の頭が乗る。まるで風邪を引いただだっ子みたいな台詞と行動だ。

 月詠はあっけにとられながら瞬きを数回繰り返した。

「これは……命令か?」

「命令。俺は第二の夜王だぞ?……何溜息ついてるんだよ」

「おや聞こえたか?」

「……聞こえた」

 神威が手を伸ばすと、熱っぽい手が前髪に触れた。

 気持ちのよいぬくもりに月詠は目を閉じた。

 

 


 
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