No.374105

Varentain

羅月さん

某先輩に『原作知らないからとっつきにくい』との指摘を受けまして、久々にオリジナルものです。  化物語、と言うか西尾維新の影響を受けて文体があれな事になってます。特に後半はひたすらSS風味です。  昨日雨の中夕食の食材とかウィスキーとかと一緒にチョコケーキの材料も買いに行ったのですが、その帰り道に思いついた話です。  こんくらい一時間かからず書ける、私の妄想力はまだまだ捨てたもんじゃない。

2012-02-06 23:48:28 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:532   閲覧ユーザー数:531

 2/12(日)

 

 

 

 「遅いです」

 「……無茶言うな」

 

 街路樹がバンザイなしよってくらいしなりまくってる中、夕食の食材を買ってくるついでにしこたま色々注文を付けてきやがった無粋な妹の第一声がそれだった。

 

 数日インフルで寝込んでいる妹に何か買ってきて欲しい物を聞いたらびっしり材料の名前が羅列された短いメモを渡されたのだ。兄貴としての温情を垣間見せようとしたらこんな目に遭ってしまいやれやれと言った所ですよ。

 

 窓は雨と風のセッションが鳴り響く。ガンガンと打ちつけられ、よくもまあ俺はこんな中を買い物に行って来たもんだと感心してしまった。

 

 妹は汗でほんのり蒸れたピンク色のパジャマをだらしなく着ながら眼をこすりこすり一階に降りて来た。よほど俺がちゃんとお使いが出来るか不安だったらしい。

 

 「ん~……大丈夫みたいですね」

 「俺何歳だと思ってんだ。少なくともお前より年上なんですけど」

 「今までの過ごしてきた人生の密度は圧倒的にお兄ちゃんを上回ってると思います」

 「んぐ……とりあえず、熱は下がったのか? これだってバレンタインの素材だろうにお前自身が学校行けなきゃ興ざめだろ」

 

 そう、妹に頼まれたのはバターや薄力粉、ココアパウダーやベーキングパウダー等など。そして時期的にも明らかにバレンタイン御用達の素材だ。妹の体調が壮絶に酷いこの状況では流石に手慰みとは考えにくい。

 

 「ちゃんと当日には治る算段でいるんです」

 「じゃあ最初から体調崩さない算段でいろよ」

 「インフルはまだ地球人じゃ超越出来ない相手何だからしょうがないじゃないですか」

 「知らねぇよそんな事。どうでもいいから寝てろ、すぐ夕飯作って持ってくから」

 「今日は何?」

 「オリーブオ」

 「病人にギトギトの油もの作らないでください」

 「冗談だって……」

 

 別に某番組に影響されている訳ではないのに。良い年したおっさんがオリーブオイルを買っていくのを見ると少し笑ってしまうそんな俺だよ。

 

 

 

 2/13(月)

 

 「遅いです」

 「え何これ無限ループ? エンドレスな八日間!?」

 

 今日から長いテスト期間からも解放され、吹奏楽部で届いたばかりの課題曲を吹きまくって意気消沈しながら帰って来た俺をエプロン姿の妹が出迎えてくれた。

 

 まあ出迎えてくれたなど所詮幻想でしかないのだが。てかこいつ元気だな、今日も今日とて休んでたくせに。

 

 「もう少し早く帰って来てくれたら味見くらいさせてあげたんですけど」

 「別に良いよ……てか、甲斐甲斐しいな、彼氏とか無縁のくせに」

 「別に彼氏じゃ無くても、大切な人にあげるくらい何でもないです」

 

 別に鍋がことことしてる訳でもないし、そういやそもそも俺は昨日チョコを依頼されてはいなかった。うちの冷蔵庫は俺が管理しているのでこいつは家に何の食材があるか知らない(てか実際チョコのストックは無い)、チョコ使わないのだろうか。

 

 「ふ~ん……じゃあ俺にもくれたり」

 「どこの三次元世界に、だらしない兄に義理でも手作りチョコを渡す妹が居るんですか」

 「あ~……はいはい」

 

 黙って引き下がる。それにしても大分予想と違うものだ。チョコを湯煎でとかすわけでもないし火を使うでもない。ただチョコレート色のドロドロした液体をへらでかき混ぜているだけだ。

 

 妹はまだ頬が赤い。ぽーっとした表情は可愛いが少し不安になる。まあ火器を使うわけでもないし大丈夫だろう。俺はスコアの読み込みの為に二階に上がろうとした。

 

 「お兄ちゃん、明日貰うあては?」

 「無い。別に良いだろ、周りには嫌われてるわけじゃない。付きあってもいない奴に渡そうなんて天使が俺の周りには居ないだけだ」

 「つまらない兄ですね……じゃあ、もしお兄ちゃんがチョコを一個も貰えずのこのこ帰って来やがったら、罰ゲームとして私の好きな物何でも作って下さい」

 「罰って……貰ってきたら?」

 「私の大好きな料理を作らせてあげます」

 

 それ選択肢なしの一本道じゃないですか。どこのギャルゲーだよ。

 

 

 2/14(火)

 

 

 「よ~っす」

 

 昼休み。やって来たのは幼馴染だった。

 

 「ん、どうした?」

 「さっき下駄箱の所で妹ちゃんに会ったぞ。うちの兄は教室ですか? って言ってた」

 「妹が……?」

 「何か忘れ物でもしたのか?」

 「いや、もう昼だぞ。別に何も忘れた覚えはないし、そもそもあいつが教室に来た訳でもないし」

 「ん~、何なんだろな」

 

 幼馴染は長い桃色の髪をくいくいと指で絡みつけまたほどいてを繰り返していたが……一言呟いた。

 

 「……私の描写雑じゃね?」

 「うるせぇよ脇役」

 

 

 「……………」

 

 下駄箱の中には可愛くラッピングされた蒼い包み。メッセージが付いている。

 

 『いつも近くで見てます、お口に合えば幸いです』……か。

 

 

 「お兄ちゃん、おかえりなさい」

 「ん、今日はちゃんと学校行ったみたいだな」

 「まあ、折角作ったチョコを渡さない訳にもいかないですから」

 「それより、チョコ貰ったぞ。ちょこっとだけど」

 「へぇ~……誰からですか?」

 「さあね、でも俺の隠れファンが居るらしいと言う事は判明した。字も綺麗でかわいいし、相当な手だれと見た」

 

 適当な所に鞄を降ろし、居間のソファに腰かけていた妹の隣に同じく腰かける。

 

 外を見ると、しんしんと静かに粉雪が降っていた。多分積もらないだろうけど、ロケーションとしては中々の物だ。

 

 実際、空気を読まず迷惑でしかない事も多いのだけれど。

 

 「つーわけで気分が良いから今日はお前の好きな物作ってやるぞ。とりあえずうな丼と肉じゃがの材料を買って来た」 

 「本当!? ……くっくっく、計画通り」

 「……何か言ったか?」

 「くっくっく、計画通り」

 「隠す気無かった!!?」

 

 此処だけ聞くと某厨二病な妹キャラ(CV花澤)を思い起こすが、まあそれは良いとして。

 

 最高に良い笑顔を見せる妹に、ちょっと渋い和風の食卓を提供すべく奮戦するのだった。

 

 

 

 ……………

 

 ………

 

 …

 

 「……夢か……」

 

 ……そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『私』には、お兄ちゃんなんて居ない。


 
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