No.359412

Just Walk In The ----- ep.1『Mist ~五里霧中~』・1

ども、峠崎ジョージです。
投稿76作品目になりました。
能力者SF第1章、開幕です。
意見感想その他諸々、一言だけでもコメントして下さると、そのついでに支援ボタンなんかポチッとして下さるとテンションあがって執筆スピード上がるかもです。
では、本編をどぞ。

2012-01-06 22:42:54 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:5816   閲覧ユーザー数:5092

何かを成す為には『力』が必要だ。

 

肉体。頭脳。金銭。権力。

 

越えなければ達成しない、出来ない、成し得ない、そんな境界線が、この世界には沢山ある。

 

最初から届く者もいれば、届かずに諦める者もいる。届かない分を埋めようとする者もいれば、届こうとすらしない者もいる。

 

『力』とは使役するためにある。

 

よりよい衣食住を得る為。新しい関係を築く為。自らの欲求を満たす為。

 

用途は、目的は、それこそ人の数だけ存在し、齎す結果もまた然り。

 

『力』を得れば、世界が変わる。

 

広がりもする。狭まりもする。大きくもなる。小さくもなる。暖かくもなる。冷たくもなる。優しくもなる。厳しくもなる。

 

ならば、君は何に使う?

 

ならば、君は何を使う?

 

ならば、君はどこで使う?

 

ならば、君はいつ使う?

 

ならば、君はどうなれる?

 

ならば、君はどうなりたい?

 

ならば、君はどうあれる?

 

ならば、君はどうありたい?

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

「…………」

 

昇り始めた朝日、その微かな光が、窓の隙間から差し込んでいた。

町が目覚め始める時間。皆が目覚め始める時間。

しかし、その部屋の主は既に活動を開始していた。

 

「…………」

 

先述した通り、この部屋に朝日は殆ど差し込んでおらず、未だ暗闇の占める体積が遥かに勝っている。他に室内を照らすのはPCの液晶のみ。それがぼんやりと『彼』の輪郭を縁取っていた。

 

「…………」

 

目的は達したのか、彼は電源を落とし、傍らの写真立てを伏せて立ち上がる。そして徐に衣服を脱ぎ去り、洗濯機へと放り込んで浴室へと向かった。

 

「……はぁ」

 

熱めの雨に後頭部を打たれながら、自分の顔を、身体を伝い落ちていく水滴を、落ちて爆ぜては流れていく水滴を、眺めていた。重力に従って、慣性に従って、何と言う事もなく流されていくそれを、眺めていた。

 

「……―――」

 

何かを、唇が紡いだ。決して長くはないそれは、容易に水音に掻き消される程に小さく、しかし噛み締める歯の強さは決して弱くない。特定こそ出来ないが、人間にそうさせるのは間違いなく、その人間にとっての『負の感情』。

変わらない。何も変わらない。

進まない。何も進まない。

消えない。何も消えない。

終わらない。何も終わらない。

だから、

 

「…………」

 

蛇口を捻り、シャワーが止む。

断続的に続いていた水滴の音が、一気に疎らに、僅かになる。

そして、

 

 

「―――許さない」

 

 

彼は、色々な事を、色々なものを、止めた。

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

沈んでいた意識が昇る。海面へ向かう水泡のように。

浮かんでいた身体が降りる。海底へ沈む小石のように。

目が覚める、その予兆を感じていた。

 

「ん……」

 

気だるく重い瞼を、そして身体を持ち上げる。若干ふらつく頭を左右に振り、その原因を思い返して、

 

「……あぁ、そうだ」

 

年甲斐もなく涙腺を決壊させ、皆に半ばあやされるという記憶に行き当たり、顔を顰めさせ、頬を紅潮させる。

兎に角、そんな事実を忘却の奥底に封印せんと頭を切り替え、辺りを見回す。

 

「食堂……そっか、あのまま落ちちゃったんだ」

 

壁の時計が示す時刻は午前6時半。当然、開店している筈のない無人の店内には静寂が飽和している。昨日の盛況を思い出し、ここまで両極端であるがためだろう、まるで別世界のようにすら捉えられた。

 

「あ、毛布」

 

いつの間にか、自分にかけられていたそれを摘み上げる。見下ろせば、枕元には2、3枚積み重ねられた座布団があった。そして、

 

「ぐぉ~……すかぁ~……」

 

傍ら、呑気に寝息を立てながら眠る一人の青年。衣服や体勢は乱れに乱れ、枕代わりの座布団は足元に。恐らく寝ている間に上下が反転してしまったのだろう。

 

「物凄い寝相ですね、光さん……」

 

それでもしっかりと毛布に包まって暖をとっている辺り、流石というか何というか。思わず苦笑し、そして気付く。

 

「他の皆さんは、何処に?」

 

光の熟睡具合からして、恐らく皆も同じようにここで眠っていたのだろう。実際、自分が眠っていたこの座敷、周囲の木卓が意図的に動かされ、ある程度の空間が確保されていた。そう、丁度5人くらいが並んで横になれる程度には。

しかし、見回した所で自分と光以外の人影は全く視界に入って来ない。畳まれた毛布がある事から、誰かがそこで眠っていた事はまず間違いないのだが。

と、

 

「あ、起きましたか戦国くん」

 

階段を踏みならす音。ゆっくりと近づくたび、鼻腔を擽る石鹸の香り。視線を向けたその先には、

 

「ゆっくり眠れましたか? 畳の上で寝辛かったり、寝違えたりしませんでした?」

 

「……マリア、さん?」

 

どうも湯上りらしい。微かに湯気を昇らせる仄かに湿った栗色の髪を優しくバスタオルで挟みながら拭き取っていた。水気の抜けきっていない肌は赤く艶を帯びて、纏うそれは男性らしからぬ『色気』そのものであった。

 

「お風呂、お借りしたんです。まだお酒が抜け切ってなかったみたいで、少しふらついてたので」

 

「あ、そうだったんですか……」

 

「戦国くんも、入って来られてはどうですか?」

 

聞く前に答えてくれる辺り、流石だと思う。そのまま暫く考えた後、僕はゆっくり立ち上がって、

 

「……そう、ですね。僕も少し残ってるみたいなので、入って来ます」

 

「はい。いってらっしゃい」

 

微笑みと一緒の挨拶に顔を背け、僕は照れ隠しの早歩きで階段へと向かった。

 

 

2階に昇り、風呂場に向かおうとした、その時だった。

 

「?」

 

何やら妙な音が聞こえた。

重い何かが床を叩く音。金属同士が擦れ合う音。そして同時に、微かに聞こえるのは、つい昨日まで耳に馴染んだ言語。

 

「……英語?」

 

音源は丁度、風呂場とは正反対の扉の向こうから。そこは他ならぬここの家主の部屋。

 

「…………」

 

興味が、好奇心が、自ずと踵を返させた。

花の香りに誘われる蝶、なんて綺麗な例えは似合わないが、ゆっくりと、ふらふらと、両足を踏み出していた。磁力のような、重力のような、さもそれが自然であるかのように。

ドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと捻って、開いた先には、

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

「……丈二、さん?」

 

部屋の主がいた。まぁ、これは当然の事だ。これだけなら、なんら疑問はない。新兵訓練(ブートキャンプ)を元にした有酸素運動のDVDエクササイズに励んでいた。あれだけの肉体の持ち主なのだ、何らかのトレーニングでもしていなければ逆におかしい。

 

 

が、国士の疑問符の理由はそこではなかった。

 

 

そのDVDには付属品にゴム製のバンドがついてくる。両足に片方を輪をかけ、スポンジ状のバンドを握る事で両手足に負荷をかける為のものだ。当然、それがなくても十分な運動になるのだが、それを使う事でより大きな効果が得られる。

が、丈二はそのバンドを使っていなかった。

何も使っていない、と言う訳ではない。むしろ、その正反対。彼の両の手首、足首にはそれぞれパワーリスト、パワーアンクルが付けられていた。それも一つではない。確認できるだけで五つ、まるで手甲か脚甲のように。

しかし、件の彼はそれをものともせず、健康的な汗の粒を浮かばせ、滴らせながら、ボディビルダー顔負けの肉体に、更に磨きをかけ続けていた。まるで錘の負荷を感じさせない、正にダンスでも踊っているような、嘘のような本当の光景。

唖然とせざるを、呆然とせざるを得なかった。確かに、物理的に可能ではある。が、果たしてそれを実現できる領域まで辿りつける者がどれほどいるだろうか。遠まわしな表現を用いたが、言いたい事はただ一つ。

 

「……やっぱり、とんでもない人だ、丈二さん」

 

「―――ん? あぁ、戦国か」

 

こちらに気付くと丈二はDVDを一時停止し、傍らのハンドタオルを手にとってこちらを向いた。今はアロハを脱いでいるが、やはり外していないサングラスが若干曇り始めている。一体どれほどの時間を、どれほどの単位で費やしたのだろうか。常日頃からそれなりに運動していなければ、普通はバンド無しでもかなりの疲労する事は間違いないのだが。

 

「起きたか。身体の調子はどうだ? 時差ぼけの方は大丈夫か?」

 

「あ、はい。特に、悪かったりは……あの、それ、重くないんですか?」

 

「ん? ……あぁ、これか。この程度、何てことはない」

 

先程と同様、軽々と動かして見せる。足元に同じリストがあったので拾い上げてみると、

 

「っ、うわっ!?」

 

見た目に反した重さに一瞬、持ち上げられずに戸惑ってしまう。腕にはめてみると、余計にその重さが実感できた。片方でこの5倍。両方でこの10倍。そして、合計でこの20倍。

 

「これ、1個で何キロですか?」

 

「3キロだ」

 

と言う事は、片方で15キロ。両方で30キロ。そして、

 

「全部で60キロ、ですか?」

 

「いや、75キロだ」

 

「へ? でも、3キロが5個ずつで、それが4倍だから、」

 

「あぁ、そう言う事か。ん」

 

そう言って、丈二がTシャツを脱ぐと、

 

「うわぁ……」

 

そこにはタンクトップのような黒い布と、そこに仕込まれた金属の錘。パワージャケット。残りの15キロの正体も驚きなのだが、

 

(物凄い腹筋……)

 

彫刻のようだった。傍から見ても間違いなく『割れてるんだろうな』とは思っていたが、いざ目の当たりにすると何と言うか。

使う為の筋肉と魅せる為の筋肉は違う。ボディビルのような魅せる為の筋肉を身に付けたいならば最悪、鍛える必要すらない。ある程度の運動と食事のバランスに気を配り、筋肉を膨らませる薬を飲めばいい。

が、丈二のそれは違う。ただひたすらに重ね続けた鍛錬のみで構成された筋肉はしなやかさと強靭さを持つ。超一流のアスリート達の肉体が、そのトレーニング量に反して引き締まっているのもその為だ。そして、丈二の筋肉はどちらかと言うと、使う為の筋肉に類しているようだった。

ある程度、その二つは見れば判別がつくのだ。漫画やアニメに出て来るような、いかにも筋肉質な大男がいるだろう。腕回りが常人の胴回り近くだったり、身長が平然と2メートルを越えていたり。ああいう筋肉はあくまで架空の段階であり、いくらドーピングを重ねた所で医学的にも生物学的にも有り得ない―――とは、専門家ではないので言い切れないが、少なくとも常人がおいそれと至る事の出来る段階ではない。

だと、言うのに、

 

(どれだけ鍛えたら、こうなるんだろう……?)

 

思わず、見惚れてしまう。磨いて輝かない物などない。そして、輝くものに惹かれない者などいない。

そして、思ってしまう。彼が肉体を鍛える理由、その経緯。趣味、と言われてしまえばそこまでだし、この人ならそう言われても何の違和感もないんだけど、

 

(そうとは、思えないんだよなぁ)

 

「……もういいか、戦国。いい加減、汗が冷えてきてるんだが」

 

「―――えっ!? あっ、はい、どうぞお構いなく」

 

「ん。……お前もやるか?ブートキャンプ」

 

「あ、あはは……遠慮しておきます」

 

「そうか。しかし、もう起きて来るとはな……マリアはまだしも、お前達はもう少し寝ていると思っていたんで、朝メシの用意も全くできていないんだが」

 

返事を予想していたのか特に気に留める事もなく、汗を拭き取りながら巨大な収納スペースへと向かう丈二さん。その一つを開け放つと、

 

「……うわぁ」

 

そこは衣類の箪笥として使っているらしい。下の引き出し部分を開けて新しいシャツを取り出しているんだけど、僕が驚いているのはそこじゃない。

その上の中吊り、そこにハンガーで吊るされた大量の、しかし一種類の上着。画面の前の皆様方は概ね予想がついていると思うけど、敢えて聞いてみる。

 

「丈二さん」

 

「ん? 何だ?」

 

「物凄い大量のアロハシャツですね……」

 

「あぁ、これか」

 

赤、青、緑、黄、白、黒、橙、桃、その他諸々。よくもまあここまで集めたものだと思う。アロハシャツは安物でも2000円くらいはしたと思うんだけど、並んでいるそれはとてもそうは見えない。となると、合計で幾らほどしたのだろうか、想像を絶する。

 

「好き、なんですね。アロハシャツ」

 

そうじゃなきゃ、ここまでやらない。僕だって落語のCDやDVDなんかには目がないし、その時その時の懐具合によるけど、基本糸目はつけない。それは、誰だってそうなはずだ。趣味嗜好というのは唯一、合理的でないと解っていながら選びたくなる、選ばざるを得ない、お金の使い道だ。

でも、

 

「……あぁ、まぁな」

 

返答は、あまり芳しくなかった。声のトーンは低く―――いや、元から丈二さんの声は低いんだけど、その強さというかテンションというか、そういった何かが低くて、黒いレンズ越しで見えないんだけど、きっと今の丈二さんの目は、何かを思い出すように遠くを見ているように思えた。

 

(また、何か地雷踏んじゃったかな?)

 

ほんの少し、申し訳なさを覚えながら、話の軌道を変えようと部屋の中を見回してみた。しかし、改めて見ると、

 

「トレーニング器具の他には、あんまりものがないんですね」

 

「……まぁな。普段はほぼ一日中店にいるし、休みも筋トレか読書ぐらいしかしてないし」

 

どうやら、乗ってくれるみたいだった。知りたい事だったのは事実だし、何よりこういう空気が好きじゃない。

 

「本のジャンル、随分バラバラなんですね」

 

「あぁ、俺は乱読だからな。読みたいのがありゃ、持って行ってもいいぞ」

 

にしても、これは幅広過ぎだと思う。ライトノベルや携帯小説の文庫本があったかと思えば、その下段には歴史書や哲学書のハードカバーが並んでいる。

 

「これ、旧約聖書ですよね?」

 

「あぁ。中々面白いぞ。文体こそ硬いが、やってる事は完全に厨二だからな」

 

……その発言は、色々不味いと思いますよ?

 

「さて、俺は一旦風呂にいくぞ。雷電が起きる前に朝飯の準備、しねえとな」

 

「あ、僕もお風呂に入ろうとしてたんでした」

 

「そうだったか。だったら先に入れ。俺は後でいい」

 

「えっ? でも丈二さん、汗だくですよね」

 

「構わん。女ならまだしも、男の風呂なんざあっという間だろ」

 

マリアは例外だが、というのが語尾に聞こえた気がしたが、それは聞かなかった事にして。

 

「いや、駄目ですって。僕はたださっぱりしたいだけだったので、別に後でも、」

 

「いいから、戦国から先に入れ」

 

「いやいや、丈二さんからお先に」

 

「戦国から」

 

「丈二さんから」

 

「…………」

 

「…………」

 

で、結局どうなったかと言うと―――

 

 

 

「流石に二人一緒だと狭く感じるな」

 

 

「ですね。でも、あのままだと平行線のままでしたし」

 

 

「まぁな。……ったく、妙な気分だ」

 

 

「あははっ、そうですね。子供の頃ならまだしも、そんな歳でもないですし」

 

 

「そういう意味じゃないんだが……まぁいい。とっとと洗ってとっとと出るぞ」

 

 

「はい―――って、ちょ!? 隠して下さいよ、丈二さんっ!?」

 

 

「男同士で何を憚るんだ? それに、ここは俺の家だ」

 

 

「それはそうですけど―――って、KING KONG!?」

 

 

「……は? 何の話だ?」

 

 

「い、いえっ、何でもありません!!(け、桁が違い過ぎる!! 棍棒、棍棒だっ!!)」

 

 

何のことかは、皆様のご想像にお任せする。

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

「頂きます」

 

「「「頂きます」」」

 

取り敢えず、お風呂から上がって数十分後。

起き抜けで半分寝たままのような光さんを丈二さんが叩き起こして、今は皆揃っての朝ご飯タイム。

白米に味噌汁は和食において最強の組み合わせだと僕は思う。そこに納豆と生卵、そして胡瓜と白菜、茄子の漬物。おかずは昨日に引き続き鮭。でも今朝は塩焼きだった。

 

「ん~、やっぱ旦那のメシは最高だね。毎朝こんなの食えるとか羨まし過ぎんぞ、戦国」

 

「あはは……確かに、嬉しい誤算でした」

 

「今日のお味噌汁はお豆腐とナメコですか」

 

「あぁ。何か食えないものでも入ってたか?」

 

「いえ、全然。ただ、このお出汁とお味噌のバランスがどうも掴めなくて」

 

「凄い絶妙ですよね。濃過ぎず薄過ぎず、ぴったり『美味しい』って所にドンピシャですもんね」

 

「こんなもん慣れだ。回数こなしゃ自然と覚える。それに、個人の好みだってあるだろ」

 

「そう、ですね。私もまだまだ修行不足という事ですね」

 

「……花嫁修gy」

 

「何カ言いマしタカ、雷電くン?」

 

「何でもござぁません!! 失礼致すますたっ!!」

 

そんな会話を交わしながら、のんびりとブレックファストは過ぎていった。となみにそこで知ったんだけど、狼さんとタンデムさんは早朝にもう帰ったらしい。

 

「随分早起きなんですね、二人とも」

 

「まぁ狼さんは刑事だからな。昨日調べてた事件の事もあるんだろうさ」

 

「タンデムさんは『寝足りないから僕んちで寝なおすよ~』って、欠伸しながら帰って行かれましたけどね」

 

「昨日は夕方の飛行機で戻って来た後、荷物だけおいてそのまま来てくれたらしいからな、無理もないだろう」

 

それも初耳だった。多少の申し訳なさと同時にほんの少しの嬉しさを覚える。

 

「ん。ごっそ~さん。んじゃ、俺はそろそろバイトなんで」

 

と、食べ終わった光は爪楊枝を咥えながら立ち上がり、お盆ごと食器を台所に運んで行って、

 

「今日は、何のバイトなんですか?」

 

「商店街の本屋の棚卸の手伝いっすね。昼からなんすけど、流石に昨日の格好のままってのはアレっすから。『汚れてもいい、動きやすい格好で』とも言われてるんで、一旦帰んなきゃなんないんで」

 

「頑張って下さいね、光さん」

 

「おう。んじゃまた、次のバイトでな」

 

そして、光は上着を羽織ると店の入り口から出て行って、

 

「そう言えば戦国くん。今日の予定はどうなってるんですか?」

 

「予定、ですか? 入学の準備は殆ど終わってますし、特にやらなきゃならない事も……」

 

晶に問われて、ふと箸を止めて気付く。そう言えば特に何をするか、決めるどころか考えてもいなかった。

始業式までは1週間近く。時間はそれこそ、掃いて捨てる程ある。スーツ一式は持って来ているし、革靴も購入済み。参考書は学校が始まってから購買で売り出される事になっているから、特に用意を急ぐものはないのだ。

どうしたものかと国士が首を傾げていると、

 

「用事が無いんでしたら、大学まで案内しましょうか?」

 

「案内、ですか?」

 

「えぇ。ここからどうやって行くのか、どれくらいかかるのか、早めに覚えておいた方がいいと思いますよ?」

 

成程、思えば確かにそうだ。大雑把な位置こそ覚えているが、ここからの道順や手段はまだ知らないままだ。

 

「でも、いいんですか? 態々案内してもらっても」

 

「別に構いませんよ。どうせ私も行かなきゃならない用事がありますから」

 

「……へ? 僕の大学に、ですか?」

 

「あれ? 戦国くん、知らなかったんですか?」

 

そう尋ねると、マリアさんは意外そうな表情でこちらを向いて、

 

 

 

 

 

 

―――――私、戦国くんと同じ大学なんですよ?

 

 

 

 

 

ほんの少しだけ首を傾けながら、相変わらずの明るい笑顔でそう言ってみせてくれた。

 

 

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

まずは、明けましておめでとう御座います。今年も何卒宜しくお願い申し上げます。

実は2日から今日まで実家に帰省しておりまして、その間にちまちまと書き進めていました。

次は多分コレか『蒼穹』、こしくは去年から進めてました第2回『瑚裏拉麺』になると思います。こっちはやっとある程度まとまったので(といっても元々気分転換用のSSなんですがww)、参加表明してくれた方々、相当お待たせしてしまいましたが、もう少しだけお待ち下さい。

 

 

で、

 

 

『Just Walk』第1章開幕。いよいよ物語が本格始動、プロローグで広げた(フラグ)解明(回収)が徐々に始まります。

新キャラや皆の過去、そして能力者が生まれた理由。

書きたい事が多過ぎて(増え過ぎて)自分でも収集つけられるかどうかww

『盲目』『蒼穹』ですらまだ折り返し地点ですらないというのにww

兎に角、マイペースではありますが、少しでも多くの読者に楽しんで頂けると幸いです。

 

では、次の更新でお会いしましょう。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

…………うたまるや弟が無事にセンターを終える事を切に願いつつ、就職活動に頭を悩ませる今日この頃。


 
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