No.347321

【先行公開】 真・恋姫†無双 ~天下争乱、久遠胡蝶の章~  序章・天

茶々さん

初めてお目にかかる方、初めましてです。
久々にお目にかかる方、お久しぶりです。

以前このサイトにて、長編『真・恋姫†無双 ~美麗縦横、新説演義~』及び、短編『魏√END AFTER』シリーズ等の拙作を投稿させて頂いておりました、茶々と申します。
完結より半年以上が経過し、別所にて別系統の作品を投稿中の身の上ではありますが、今回、様々に煮詰めていった結果、再び私の拙作を皆々様の御前に披露するに至りました。

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2011-12-14 18:45:49 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2291   閲覧ユーザー数:2139

 

       

 

―――それは、遥かなる夢の中に紡がれた物語。

戦いの中に、争いの中に、諍いの中に綴られ、紡がれ、繋がれた物語。

 

 

憎しみを、悲しみを、怒りを、嘆きを。

全てが糧となり、血肉となった少年は、世界へと反逆の狼煙を上げた。

 

 

永く、遠い道のりの果てに。

暗く、冷たい夜の向こうに。

 

 

その最果てに光を見出し、そして再び、今度こそ明ける事無き終端へと導かれた、一つの魂へと贈られた鎮魂歌。

 

 

夢さえも、現さえも、何一つ彼を救う事はなかった。

多くが願えど、少年はそれを拒んだ。

 

 

自らが望んだ終端。

自らが望んだ終焉。

自らが望んだ終末。

 

 

その願いは、祈りは僅かばかりとはいえ彼の友へと、仲間へと、敵であった者達へと届き、通じて―――いつか、その想いだけが無形のまま残り、『彼』の存在はやがて消えていく。

 

 

 

それは少年が望んだ事。

それは少年が願った事。

 

 

幾つもの世界で、幾つもの時空で、終ぞ届く事のなかった想いが、祈りが、願いが届いた場所。届いた世界。

そこに自分がいなくとも、そこに広がる世界は、光景は、少年がただ只管に願った平穏なる姿として続いていた。

 

 

 

 

徐々に視界が霞んでいく。

意識が希薄なものとなって、霞の中に霧散する様に消え往くのを感じる。

 

 

遂に訪れた、待ち望んだ真の終端。

魂の終着点は白く、淡く、そこに溢れる光は強く輝いて世界を照らしていた。

 

 

『……………………ん、ぅ……?』

 

 

声が、聞こえた。

白く霞む世界の何処かで、酷く聞き慣れた声音が響いた。

 

 

『……おやおや~?』

 

 

だけど、その姿は何処にも見えない。

手探る様に身体を動かそうとして、手のみならず腕も―――体中、自分を構成する全てが水泡の様に脆い姿をしている事に漸く意識が行きわたった。

 

動けば、脆く崩れ去るより他ない運命の肉体は、けれど迷う事なくその手を伸ばした。

粒子の様に小さな光の粒が一つ、二つと零れていく。

 

 

『…………これは、夢でしょうか?』

 

 

声のする方へ。

温もりを感じる方へ。

 

 

何処にあるのか、そんな明確な判断は欠片もないまま、ただ心がざわめく方へ、意識が赴く方へと手を伸ばす。

どれだけ身体が崩れ去っているかなど、最早判別もつかないくらいにボロボロと砂の様に散りゆく事に割ける意識などある筈もなく。

 

 

終わりを求めていながら、どうしてこんな真似をしてしまうのか。

 

そんな問いは愚問であると、自分自身を嘲笑う様に切り捨てて進む。

 

 

『……永遠に覚めない転寝、でしょうか?』

 

 

心が渇望する様に叫びを上げた。

魂の奥底からその存在を求める様に声を張り上げた。

 

 

もう粒子は止めどなく崩れ落ち、伸ばした腕と、申し訳程度の顔の部位以外はその殆どが水泡と化した様に散っている。

 

 

このまま届かず、永遠の終わりを望む自分。

今更になって存在を惜しみ、届いて欲しいと願う自分。

 

 

いずれもが自身の意識であり自分自身である事を理解し、相反する想いが鬩ぎ合う様に崩壊と到達は並行して進む。

 

 

『フフ……この際、どちらでもいいのですよ~』

 

 

何かが此方へと伸びてくるのを感じた。

その存在を求める様に、加速する崩落の中で身体は進み、腕を懸命に伸ばす。

 

 

 

―――そして、すれ違う様にして互いの掌がお互いの顔へと辿りついた。

 

 

『―――会いたかった、です……』

 

 

懐かしい温もりが、求めた温かさが、そこにあった。

そして仲達は、自分が光に包まれていく感覚に身を委ねた。

 

 

―――やっと、捕まえた。

―――ようやく、見つけた。

 

 

―――――――これは、遥かなる夢の果てに紡がれる物語。

戦いの中に、争いの中に、諍いの中に綴られ、紡がれ、繋がれた、その先の物語。

 

久遠の彼方、胡蝶が魅せる最期の奇跡。

ただ一度だけの、たった一つの祈りを聞き届ける為の物語。

 

 

何かおかしい。

聖フランチェスカ学園に附設されている博物館で今朝方担任より与えられた有難くもない課題という面倒な物を片付ける為、親友兼悪友の及川と共に館内を巡っていた一刀は、足を運ぶ事自体稀な筈のこの空間に妙な既視感を感じていた。

 

 

「ん?どないしたんや、かずピー」

「……いや、何か前にも来た気がするなぁって…………」

「……は?」

 

 

及川は一瞬呆けたかと思うと、次の瞬間にはまるで掘り返した土の中から徳川埋蔵金の在り処を示す古文書を発見した土木業者の様な奇異な視線を一刀に向けた。

 

 

「……そっかそっか。かずピー、気持ちはよーっく分かる。うん」

「…………」

「いやー!この間はホンマすまんかったって!なんせ、折角の『でぇと』やったからついつい張り切ってしもて!!なっははははは!!」

「…………」

「そっかそっか!思わず現実逃避しとうなるくらいショックやったっちゅう事か!!ま、かずピーかて顔はそこそこイケてるんやし?頑張ればワイみたいに休日に女の子とキャッキャウフフでハッピーなサンデーも送れるんやないか?ん?」

 

 

藪蛇だったか。

隣で喧しく口を開き続ける似非関西人をリアル○拳で黙らせてやろうか、と思った矢先、

 

 

「―――ン゛、ン゛!!」

 

 

明らかに故意的な野太い咳払いが鼓膜を揺らす。

見れば身長は2mはあろうかという大男が、制服をパッツンパッツンになるくらいに内側から押し上げる筋肉をピクつかせながらギョロリと剣呑な瞳を此方に向け、それだけならまだ頑強な警備員という事で通りそうなのに……何故か制服は上しか着てないしネクタイを首に直接巻いているしスキンヘッドだし揉み上げが三つ編だしリボンだし髭だし。

ツッコミ所満載というより最早ツッコミを入れない個所が存在しないのではないかと思えるくらいに珍妙な存在がそこにいた。

 

 

というか、警備員(?)だった。

 

 

「うぉ……!おっかないわぁ……」

「黙って見学しろ、って事だろ?大人しくしとこうぜ」

「せやな…………しっかし、あれが一番の不審者と違うんか?」

 

 

思わず心中で同意しつつ、歩を進める。

 

 

館内の展示物は、今朝の朝礼における学園長曰く「鑑定書付きの由緒正しい代物」らしく、言われてみればあらゆる展示物の脇にそれと思しき紙がこれ見よがしに張り付けられている。

 

 

 

曰く、関羽の武器。

曰く、南蛮王の独鈷杵。

曰く、袁家の宝刀。

曰く、五斗米道(ごっどう゛ぇいどー)の医術書。

 

 

……えとせとら、エトセトラ、etc.

 

 

「……なぁ、かずピー?」

「言うな及川、何も言うんじゃない」

 

 

学園長はまたしょうもないものをつかまされてきたようだ。

この間は何だっけ?織田信長の刀剣だとか秀吉の黄金の茶碗とかそんなんを展示していた記憶があるが、あれもやはりというか何と言うか……まぁ『展示品』としてはそれなりに良く出来た品だった、とだけ言っておこう。主に学園長の名誉の為に。

 

 

そもそも、千八百年も前の品物がこんなに上等な品質のまま残っている訳が―――

 

 

――――――……ず………と

 

 

「……ん?呼んだか及川」

「んぉ?何の話や?」

「…………いや、何でもない」

 

 

まただ。

さっきから妙な既視感というか、変な感覚が喉の奥に引っ掛かった小骨の様に気になって仕方がない。

 

 

それは歩を進める内にどんどん強くなって、やがて脳にズキリと一条の激痛を奔らせる。

 

 

「ッ!?」

 

 

思わず顔を顰めて抑えると、前を歩いていた及川が「どうした?」とでも言いたげな視線を向けてくる。

気にするな、とだけ答えて、二、三度深呼吸を繰り返して落ちつかせた。

 

 

きっとさっきから妙に強く感じる冷房の所為だろう。早く外に出てあったかいお茶でも飲みたい。

 

 

そう思ってやや早足に館内を進んでいくと―――

 

 

「……お?」

「……ん?」

 

 

及川の声に惹かれる様に視線を向け、その先に一人の男を見つけた。

凡そ日本人とはかけ離れた真っ白な肌、モデルと見紛う程にスラリと伸びた手足の隅々に至るまで丁寧な手入れが成されているのか、やや病的とも思えるくらいに綿雪の様に白い肌にはシミ一つ見当たらない。深い蒼と紫が織りなすコントラストがやたら格調高く感じられる髪と濃紺の双眸と云えば、如何に金髪銀髪碧眼紅眼が入り乱れる人種魔境的なこの聖フランチェスカにおいても一人しか該当者は存在しない。

 

 

司馬 達也。

 

純正の日本人とか嘘だろ、と思わずにはいられないそいつを視界に収めた瞬間、穿つ様に鋭い痛みが目の奥を抉る様に響いた。

 

 

「ッ!」

 

 

及川は何事かを呟いていて気づいた様子はない。

余計な心配はかけまい、と今の内に速やかに痛みを抑えつけて落ちつかせる。

 

 

やや荒くなった吐息を整えながら、視線は達也の先へと移った。

 

 

彼が見ているのは、一枚の紙だった。

千八百年前と云えば、紙はまだ高級品の部類を出ていなかった。となれば、それを書いた人間は自然と上層階級に絞られてくるのだが……

 

 

「諸葛亮、直筆……?」

「なんや、たつやん孔明に興味あるんか?」

 

 

斜め後ろから突然投げかけられた筈の言葉に、しかし達也は取り立てて驚いた様子も見せずに此方を振り向いた。と、深い濃紺の双眸が俺達――恐らく、正確には俺――を捉えた瞬間、僅かにその目が見開かれる。

 

 

「かず……ッ!ほ、北郷か…………それに、江川、だったか?」

「うぉいっ!?ええ加減名前くらい憶えてぇな!及川や!お・い・か・わ!」

 

 

音量こそ押し下げたが、やはり似非とは云え関西人の気質が裏平手を見舞う。

 

 

と、不意に達也の腕が俺を捉えた。

 

 

「すまない。では及川、暫しの間北郷を借りるぞ」

「は?」

「え?」

「理由に関しては今は何も言えん。『帰って』これたならその時に全てを話すと俺の名に懸けて約束する。だから今は何も問うな…………行くぞ、北郷」

 

 

何が「では」で何が「行くぞ」なのか。

当事者の筈なのに何も聞かされていない俺を引き連れて、呆気に取られる及川を尻目に細腕のくせにどこにそんな力があるのかと問いたくなるくらいに力強く握られた俺の腕を引っ張って達也はぐいぐいと館内を進んでいった。

 

 

曲がって、昇って、進んで、降って、曲がって、曲がって。

どれくらい進んだのか、今いるエリアがどの辺りなのか、そもそも附設のくせになんでこんなにこの博物館は広いんだとあれこれ問いたくなりながらも、結構な速度で進んでいく達也に引きずられる様にたたらを踏みながらその後を追いかける。

 

と、不意に随分と開けた展示室でその足取りが止まった。

 

何時の間にか解放されていた腕にはうっすらと指痕が残り、気がつけば随分と痛みを増していた頭痛に顔を顰めながらも上げて、達也の背を見やった。

 

 

―――か……………と!

 

 

瞬間、また激痛が奔る。

頭の奥底を揺らす様な誰かの声と共に、ズキリズキリと痛みが脳内を抉る様に響く。

 

 

「……嘗て」

 

 

独白の様に、達也の声が鼓膜を揺らした。

 

 

「千八百年も昔、今の中国と呼ばれる大陸に三つの国家が生まれた。三人の王が生まれた。数多の英傑が、幾多の死闘が、そこに生まれた」

 

 

朗々と、澄み渡った小川の様に清らかな声が響く度、『知らない』光景が瞼の裏に映る。

 

 

 

――――――桃の花咲き誇る中、杯を交わす四人―――己が覇道を貫く気高き王――――血の海に沈む女傑―――――余りにも遠大な理想に潰されそうになる■■――――――死地において尚その志を曲げない■■―――――母の、そして姉の背を追う様にひた走る■■―――――

 

 

 

幾つもの光景が、映像が、音声が、まざまざと蘇る。

記憶の奔流にのまれそうになって、酩酊する視界が虚ろになりかけて、

 

 

「―――そして、天下は『晋』なる四つ目の国家の元で『一つ』になった」

 

 

違う。

 

思って、口に出して、途端に俺はそれが俺の意志から出た言葉なのかと自分自身を疑った。

 

 

「…………北郷、一刀」

 

 

ゆっくりと、噛み締める様に俺の名前を紡ぐ。

涼やかな声音が、唐突に脳裏を過った『青年』の影と重なる。

 

 

 

――――――一刀

 

 

 

「ちゅ、う…………達?」

 

 

カチリ、とばらばらだったパズルが一枚の画になる音が頭を打った。

眼前で達也は―――仲達は、ただ笑っている。ほんの少し嬉しそうに。ほんの少し寂しそうに。

 

 

「あの時、あの『外史』で僕の物語は完結した……その筈だった。それがどうだ?気づけば千八百年もの時を超えて君のいた時代に蘇り、気づけば『司馬 達也』などという名を与えられて―――気づけば、僕は僕が『私』であった事すら、忘れていた」

「…………」

「誰がこんな事を望んだ?誰がこんな事を願った?華琳様が、劉備が、孫権が―――朱里が、風が、そして何よりも、君が。君達が成した筈の全てが『無かった』事にされる等、どうして許容出来る?」

「……仲達」

「嗚呼、分かっている。これが本来あるべき正しい『世界』だという事くらい、僕にはとっくに理解出来ているよ。だけど、ならば何故僕は此処にいる?何故『私』は目覚めた?」

 

 

何故、何故。

答えを求めない問いかけを繰り返して、仲達の独白は尚も続いた。

 

 

「全ては終わった事、過去の事実――――――そう受け止めようと、そう思っていた。・…………だが、見つけてしまったのだよ。巡り合ってしまったのだ、僕は」

 

 

その瞳に蘇るのは、恐らくはあの手紙。

諸葛亮―――否、『朱里』が残した、『仲達』に向けた手紙。

 

 

「朱里は生きていたんだ……千八百年も昔、この世界に。そしてそれは誰だって同じ筈だ。風も、琦瑞も、月も…………なのに、なのに!どうして皆が忘れ去られなければならない!?どうして皆が消え去らなくてはならない!?誰が望んだ!誰が願った!!こんな結末を、こんな顛末を!こんな―――こんな終わり方を!!!」

 

 

震える声音を絞りあげる様にして、仲達は叫んだ。

 

 

「何だったんだ!?あの乱世は、一体何の為に存在したと……ッ!!」

 

 

遣る瀬無い思いのたけをぶちまける様な声が、俺と仲達しか存在しない空間に反響する。

 

 

―――その時。

 

 

「ッ!?」

 

 

突如として凄まじい地響きが襲ってきた。建物が激しく揺れて、大地がひっくり返るのではないかと錯覚するくらいに凄まじいそれに呼応する様に―――まるで意志を持ったかの様に、そこに飾られていた剣が、置物が、そして鏡が震えた。

 

 

「何だッ!?」

「一刀!!」

 

 

仲達の声が鼓膜を打つ。

見やれば、ただの展示物でしかない筈のそれらが眩いばかりの輝きを放って世界を白く塗り潰していく。

 

 

「かず―――ッ!!」

 

 

刹那、感覚の全てが失われて。

俺は『光』に呑まれた。

 

 

【後書き】

 

白状してしまうと、茶々は後書きなるものが苦手です。

元々リアルでもそんな本音トークしたことないのにそれ語れとか何ぞ、的な気分でいっぱいいっぱいなのですが、まぁここでしか語れないものもあるという事で。

 

本編『真・恋姫✝無双 ~天下争乱、久遠胡蝶の章~』は、言ってしまえば前回の消化不良を回収してしまおうというEXステージ的な何かです。したがって、もう一度天下統一するのかと問われれば、現段階では正直微妙というよりほかありません。

『恋姫』世界のメタ的部分の目立つ第四章と、ある意味『司馬懿√』的な第五章(攻略される意に非ず)。

 

そしてそんな感じですので、当然というか何というか、話数もそんなに伸びる事はないと思います。

多分月に二、三回の更新ペースでも下手したら半年で終わるかもしれません。

 

前作の補完的内容を踏まえつつ、一見さんでも理解できる。

……正直言って問題が山積しすぎてうもれそうですが、頑張っていこうと思います。

 

 

本編開始は一月上旬を予定しております。

 

それでは。

 


 
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