No.336058

Just Walk In The ----- Prologue・5(Last)

ども、峠崎ジョージです。
投稿74作品目になりました。
能力者SF序章、その最後です。
意見感想その他諸々、一言だけでもコメントして下さると、そのついでに支援ボタンなんかポチッとして下さるとテンションあがって執筆スピード上がるかもです。
では、本編をどぞ。

2011-11-18 05:44:35 投稿 / 全29ページ    総閲覧数:5653   閲覧ユーザー数:4928

「やっぱり、タンデムさん、なんですか?」

 

「うん、そうだよ。吃驚した?」

 

ここに集まったメンバーを見れば、ある程度想像もつくというもの。

『ジョージ』、『雷電』、『マリア』、『狼』。

何を隠そう皆、『あのラウンジ』を通じて知り合った知人達ばかりなのだ。

そして、普段から集まる事の多いメンバー最後の一人のHNが、他ならぬ『タンデム』。

メンバー皆を『~ちゃん』付けで呼ぶ彼の言動は非常に気さくで、年上と知りながら天真爛漫ささえ感じさせる。

が、まさか外見までもそれ相応だったと、誰が想像できようか。

 

「いやぁ大変だったよ。今日の為にスケジュール詰めて、何とか帰って来れたんだから」

 

「スケジュール、ですか?」

 

「うん。僕、依頼があれば全国飛び回ってるからね」

 

「全国……」

 

予想以上の広範囲に若干たじろいてしまう。

 

「あの、どういうお仕事を?」

 

「ん~、スピリチュアリティ、って言うのかな。場合によってはお祓いとか成仏もするよ」

 

「それって、心霊現象、って事ですか?」

 

「そうだね、簡単に言えばそういう事。結構需要あるんだよ、こういうの」

 

「虎鉄さんは依頼があれば貴賎問わず、全国どこでも格安で駆けつける、心霊現象専門の何でも屋なんだよ。稀にだが、国からも直々に依頼があるくらい有名なくらい、な」

 

「そんなに、ですか?」

 

「大した事じゃないでしょ。お金なんてあり過ぎても無さ過ぎても碌な事ないんだから。交通費と現地での寝泊まりさえ面倒見てくれるなら、それで十分。そこにプラスアルファを付けてくれるかどうかは、依頼人の懐具合で決めてくれればいいの」

 

丈二の補足にそう言う彼の顔は、流石に自立した社会人なだけあり、年相応に思われた。

すると、

 

「話は後でも出来るっしょ~? それよか早く始めまぜ~ん? 俺もう腹ペコなんすけど~」

 

「あ。雷ちゃん、久し振り~。そうだね、僕もお腹空いてるし、始めちゃわない、ジョーちゃん?」

 

「そうですね。あまり遅くなって明日に支障が出てもなんですし」

 

「あの、さっきから気になってたんですけど、この後、何かあるんで―――って、何ですかタンデムさん? 押さなくても、」

 

「いいからいいから。主賓は早く行く~」

 

光の声に頷き合うと、虎鉄は国士の背中をぐいぐいと押して座敷の方へと誘導する。

訳も解らずに混乱の体を表している彼の目に直後、映った光景は、

 

 

 

 

 

 

「「「「「戦国(くん)/戦ちゃん、ごりら食堂へようこそ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

突如、弾けるように鳴る癇癪玉のような音と、鮮やかに宙を舞う紙テープに彩られたそこには、やはり見るも鮮やかな料理の数々が所狭しと並べられていた。座敷席の中心、集められた木卓の上に並ぶ大皿で盛られた料理には、分けやすいよう大きなスプーンやトングが傍らに置かれていたり、直接手掴みで食べられるような工夫が設けられていたりと、明らかに大人数で食べる事を前提としていた。並べられた取り皿、空のグラス、周囲に敷かれた座布団、全て丁度6人分。徐々に混乱も治まってきた思考回路が、やっと結論に行き着いた。

 

「……ひょっとして、僕の?」

 

「はい、歓迎会ですよ。吃驚しましたか?」

 

「こういうのはサプライズでやるべきだからな、お前にも内緒にしてたんだよ。あんまし大々的には出来なかったから結構こじんまりしちまったけど、この方が却って隠しやすかったしな」

 

呆然と振り返りながら尋ねる国士に晶と光がそう返す。

 

「うわ~、気合い入ってるねジョーちゃん! どれも皆、美味しそ~♪」

 

「マリアにも手伝ってもらいましたからね。幾つかは完全に、アイツの手製ですよ」

 

「ほぉ。元から上手かったけど、更に腕を上げたねマリアくん」

 

「あ、有難う御座います」

 

会話しながら次々に座敷に上がり、各々腰を降ろしていく。最後、放ったクラッカーの残骸を回収していた光に背中をポンと後押しされ、

 

「ほれ、主賓は真ん中。早く座る」

 

「あ、はい」

 

「皆さん、グラスこっちに下さい。注ぎますよ~?」

 

国士が座ると晶は瓶ビールの栓を開け、それぞれのグラスに注いでいく。

 

「戦国は未成年だからコーラ(こっち)な。ん~と、旦那の分は、」

 

「いや、俺にも注いでくれ」

 

「「「「―――え?」」」」

 

「……え? え?」

 

意外。4人の目はそう物語っていた。

国士が瓶コーラを受け取り、光が次の瓶コーラを差し出そうとして、しかし丈二は未然に断り空のグラスを差し出していた。

その光景を、まるで信じられないもののように4人は見ており、やはりそれを理解できない国士も戸惑いを隠しきれない。

 

「……なんだ、そんなに驚く事か?」

 

「いや、だって旦那はこういう時はいつも瓶コーラだったじゃん」

 

「今日はそういう気分なんだ。注いでくれ、マリア」

 

「はぁ……解りました」

 

手にしていたコーラを戻し、再びビール瓶を傾けた。注がれた黄金色が透明のグラスを満たし、真白の泡が溢れんばかりに膨れ上がる。その光景を光と晶は物珍しそうに見ており、

 

「ほぉ……」

 

「へぇ……」

 

しかし他の二人、乾と虎鉄は違った。

さながら猛禽のように細められた双眸は少なからずの『楽』を含んでいて、

 

「……何ですか、二人とも」

 

「いや、別に。なぁ、タンデム」

 

「ね、狼ちゃん」

 

「?」

 

「ほれ。栓、開けな、戦国」

 

「あ、はい」

 

差し出された栓抜きを受け取りながらも、余計に訳が解らなくなった国士は思わず眉をひそめてしまい、

 

「さてと、んじゃ主賓の戦国くん。乾杯の音頭を宜しく」

 

「―――えっ? ぼ、僕ですかっ!?」

 

故にか、突然の乾の振りに普段以上に大袈裟に驚いてしまう。

 

「そりゃそうだろう。今日は君の歓迎会なんだからな、主賓が音頭をとるのは当たり前だろう?」

 

「あ~、えっと、何を言えば……」

 

当然ながらこんな事になるなど予想だにしておらず、突然振られた所で正解と思しき答えも思いつかない。困り果てていると、

 

「難しく考える必要はないよ、戦ちゃん。ただ、皆に言いたい事を言えばいいの」

 

「僕の、言いたい事、ですか」

 

「そ。言いたい事、言っておきたい事、ないかい?」

 

「…………」

 

隣の虎鉄の言葉に暫し考え込み、たどたどしくも立ち上がって、

 

「その、僕には夢があります」

 

「…………」

 

皆が一様に口を閉じ、耳を傾ける。

 

「僕は小さい頃、父親の転勤に付き添ってアメリカに移住して以来、昨日までずっと向こうで過ごしてきました。それで、小さい頃の僕はどっちかというと、人づきあいが得意な方ではなくて、それも向こうだと日本人は僕一人で、ずっと寂しい思いをしていました。……でも、そんな時、僕に手を差し伸べてくれたのが、僕がいた学校の、日本語の先生だったんです」

 

「日本語の先生、って事は、」

 

「はい、日本人の先生です。英語もまだまともに話せなかった僕に、一つ一つ丁寧に教えてくれました。自己紹介の仕方とか、友達の誘い方とか、簡単な所から一つずつ。お陰で、少しずつ友達も増えて、英語も話せるようになって、皆と打ち解けられるようになって、毎日が楽しくなって、それで、先生にお礼させて欲しいって言ったら、こう言われたんです。『だったら、君が同じ事を皆にしてあげてくれないか?』って」

 

「へぇ、いい先生じゃん」

 

「……あ、じゃあ戦国の夢っていうのは、ひょっとして」

 

 

 

「はい。僕は、日本語教師になりたいんです」

 

 

 

「日本語教師ってぇと、外国で働きたいって事か?」

 

「はい。出来る事なら、アメリカで」

 

「ほぉ。だが、俺の記憶が確かなら、日本語教師になる為の講座、って言うのか? あれは別に日本じゃなくても受講できたはずだろう。それこそ、アメリカでも出来たんじゃないのか?」

 

「日本語教師養成講座の事ですね。通信教育ですけど、確かにあります。それに、シドニーやゴールドコーストにはちゃんと学校もあって、早ければ3カ月くらいで修了する事も出来ます。それでも、大学の主専攻か副専攻の修了はしていた方がいいので、元々大学には入る積もりでいましたけど」

 

「そうなんだ。でもさ、だったらそれこそ、そこの大学に行った方が良かったんじゃないの?」

 

「それは、その、やっぱり日本語を学ぶなら日本で学ぶべきかな、と。それに……」

 

「それに?」

 

タンデムが尋ね返すと、もとより緊張はしていたのだろうが、どもる国士は更に縮こまって、

 

「その、色々見てみたかったんです。歌舞伎とか、落語とか、実際に」

 

「…………へ?」

 

急な話題の転換に皆、若干の呆然を見せてしまう。

 

「だって、凄いじゃないですか!! 色んな言語を積極的に取り入れてるし、年々増えてる俗語(スラング)なんかまで入れたら、同音異義語も、その逆も、こんなに存在する言語なんて、他にないですよ!? 落語や川柳なんて面白い言葉遊びがこんなに身近にある国を、少なくとも僕は知りません!!」

 

「あぁ、まぁ言われてみればそうだな」

 

「勿体ないですよ!!『昨今の日本語は乱れつつあるのです』なんて言う学者さんがいるみたいですけど、それは違うと僕は思います。時代が変われば、使う言葉も変わったって当然なんですよ。温故知新と言いますけど、昔ばかりを振り返ってばかりいても駄目だと思うんです!!」

 

「おいおい、この子『学者』という職業を今そこはかとなく否定したぞ?」

 

「そんなに面白いものを勉強しないなんて勿体ないじゃないですか!! 折角、日本人に生まれたんですよ!? 自分達の国の言葉くらい、しっかりと知っておくべきじゃないですか!!」

 

「お~、昨今のだらけ切った学生達に言ってやりたい言葉だねぇ」

 

「っていうか戦国くん、ちょっと落ち着いて。段々話が逸れてきちゃってますから」

 

「―――あっ、済みません。つい」

 

急に饒舌になったかと思えば、晶の諫言にあっさりと素に戻る国士。

 

「あのさ、戦ちゃんってひょっとしなくても日本文化大好きっ子?」

 

「……そういや、送られてきた荷物の中身の殆どは本かCDかDVDだったな。それも表紙の大半が着物の人物だった気がするが」

 

「うぇっ!? 見たんですか、丈二さん!?」

 

「一応、確認の為にな。勝手に見るのは悪いと思ったが、もし間違ってたら大問題だろう」

 

「それは、まぁそうですけど……」

 

赤面し俯いてしまう国士と丈二の会話からしてある程度の想像はついたと思うが、その大半が落語や歌舞伎、能楽や和楽器のそれである。齢18をして、実に渋い趣味嗜好ではなかろうか。

 

「うぅ……と、兎に角っ!!」

 

纏わりつく恥ずかしさを振り払わんと一際大きな声を上げて、

 

「僕は、夢を叶える為にここに来ました。皆さん、今日はこのような場を用意して下さって、有難う御座います!! 御迷惑をおかけするかもしれませんが、これから宜しくお願いします!!」

 

ぎゅっと瞼を閉じ、頭を下げる。続く沈黙は果たして呆れか憐れみか、そのような単語しか脳内に過らない。

しかし、

 

「……はい。私たちこそ、宜しくお願いします」

 

「ビシバシこき使ってやるからな、後輩?」

 

「頑張れ若人。オジサンは応援してるぞ?」

 

「うん。僕達で良かったら、遠慮なく頼ってくれていいからね」

 

恐る恐る見上げた先で晶は、光は、乾は、虎鉄は、笑っていた。決して嗤っておらず、哂っておらず、紛れもなく、間違いなく、ただ純粋に笑っていた。

そして、真向かい。こちらを見上げる丈二の表情は、やはり穏やかに和らいでいて、

 

「ここはもうお前の家で、俺はお前の家族だ。迷惑ぐらい、いくらでもかけろ」

 

「あ……」

 

その言葉に、国士は思わずその隣の乾へと視線をやって、

 

(な、言った通りだったろ?)

 

(……はい)

 

小さく目配せをしてくる彼に、やはり小さく頷き返す。

 

「さ、挨拶もしてくれた事だし、乾杯と行こうか!! 全員、グラス持て~?」

 

乾の声に皆がそれぞれのグラスを手にし、

 

「では、戦国くんの歓迎と、彼の前途を祝してっ」

 

 

 

「「「「「「乾杯っ!!」」」」」」

 

 

 

ぶつかり合い、軽やかな音を鳴らして、真夜中の宴は始まった。

 

「ぷっはぁ、美味えっ!!」

 

「流石に歳食ってるだけありますね~、飲みっぷりが板についてる」

 

「ブン殴るぞ雷電」

 

「っ、う~……どうもお酒には慣れませんね」

 

「体質もあるし、無理して飲むことないよ、マリアちゃん」

 

「そうですね。ゆっくり頂きます」

 

乾杯も終わり、それぞれ好き好きに飲み食いを始めようとして、

 

「……あ、あの、皆さん?」

 

「ん? どした、戦国?」

 

「その、丈二さんが……」

 

「「「「?」」」」

 

国士が指差す先、件の丈二はというと、

 

「んぐっ、んぐっ、んぐっ」

 

「……お、おい、丈二? そんな一気に飲んで大丈夫か?」

 

「じ、ジョーちゃん、無理はしない方が、」

 

ドンッ

 

両隣りの乾と虎鉄が案じたその直後、グラスの中身を一気に仰ぎ飲み干した丈二はそのまま拳骨のようにグラスを叩きつけた。

一瞬、地震のようにぐらりと木卓が揺れ、それに思わず皆は黙り込んで、

 

 

 

「ウイ~~~……」

 

 

 

「……え?」

 

それは、あまりに予想外な光景だった。

丈二の顔はまるで茹で蛸のように紅潮し、佇まいも何処か覚束ない。心なしかサングラス越しの双眸は据わっているように見えるし、何よりこの人が『ウイ~~~』なんて発言をするとは予想だにしてなかった。

そう、まるで、というか、間違いなく、

 

(……酔っ払ってる? ビール1杯で?)

 

そのまま、暫くやじろべえのように身体を左右に揺らしたかと思った、次の瞬間。

 

「っ、あぁ……」

 

「じょ、丈二さんっ!?」

 

糸の切れた人形のように、綺麗に真後ろへと大転倒。驚いた国士は思わず立ち上がろうとして、

 

「あ~、大丈夫大丈夫。コイツ、寝てるだけだから」

 

「へ?」

 

言われてみれば確かに、仰向けの丈二の胸元は小さくゆっくりと上下運動を繰り返しており、

 

「……ZZZZZZ」

 

「あ。本当だ」

 

耳を澄ましてみれば規則正しい寝息も聞こえ、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「珍しいっすよね、旦那が飲むなんて。普段から全然飲まねえのに」

 

「そうなんですか、光さん?」

 

「あぁ。酒・煙草・賭博と、不健康の3大神器には一切手ぇ出さない人だからな、旦那って」

 

まぁ何事も程々だとは思うけどな、と光は再びビールを仰ぎ、

 

「それに、丈二さんって下戸なんですよ。それも体質的なものらしくて、パッチテストで直ぐ真赤になっちゃうくらい」

 

「そんなにですか!? なのに一気飲みなんてして、大丈夫なんですか!?」

 

「まぁ吐かなかっただけ増しな方だろう。コイツが酒飲んだ時は、最後はいつも吐くか寝るか倒れるか、だからな」

 

晶の補足に驚く国士に、苦笑しながらの乾が更に続ける。

 

「だったら、いいですけど」

 

だとしたら、余計に気になるのが、

 

「どうして、態々飲んだんでしょう、お酒?」

 

「……解らないか、戦国くん?」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

―――――君が、来たからだよ。

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

「酒に弱いコイツが態々飲む時はな、決まって何か嬉しい事があった時なんだよ。マリアと雷電のバイト初日の夜も、こうして集まった時に飲んでただろ?」

 

「……あぁ。言われてみりゃそうですね」

 

「あの時くらいですね、私が丈二さんが飲んでる所を見たのは」

 

「そういう事だ。コイツは本当に不器用だがな、心の底から君を歓迎してるんだよ」

 

「……丈二さん」

 

あ、不味い。ちょっと涙腺が緩くなってきた。

直ぐに座り込み、瓶コーラをちびちび飲みながら俯いて顔を隠す。からかわれるかと思ったけど、皆は凄く優しそうな目で一瞬僕を見て、それから自由に料理に手を伸ばし始めていた。

それがちょっぴり有難くも恥ずかしくもあって何とも言えなくなってしまったけれど、

 

 

 

(父さん、母さん。僕、ここでなら本当にやっていけそうな気がするよ)

 

 

 

そう思えた事だけは、間違いなかった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

それからは正に『宴会』という光景が広がっていた。

眠ってしまった丈二さんを楽な姿勢で傍らに寝かせてからは皆、自由に食べて、自由に飲んで、自由に話していた。仕事の愚痴や、昨日見たテレビ番組。過去の失敗談や、自分の趣味。僕はと言えば、専ら美味しい料理に舌鼓を打ちながらアメリカにいた頃を話なんかを思い出しながら話していた。そんな中、ほろ酔い気味だった光さんがとある事に気付いて、

 

「あれ? 狼さ~ん、さっきから唐揚げばっか食ってませ~ん?」

 

見れば確かに、乾さんの取り皿にはこんもりと狐色の山が出来上がってた。他にも彼の周囲には焼き鳥や豚串などの動物性たんぱく質―――早い話、肉料理の皿ばかりが集められており、明らかに栄養バランスという要素は微塵も含まれていない布陣となっていた。

 

「もう若くないんすから、食生活には気をつけないと駄目っすよ~? でないと色んな部分が土佐犬みたいな事に」

 

「誰が犬だっつの。本当は俺だってこんな脂っこいもんばっか食いたくねえよ」

 

「でも丈二さん、コレステロールとか低めのヘルシーな油で揚げてるって言ってましたよ?」

 

「にしたって、こんだけ食えばプラマイゼロだろ。むしろ体重とか血糖値的な意味でプラスだよ。……はぁ、『対価』とはいえ、辛いなぁ」

 

 

 

 

 

―――――はい?

 

 

 

 

あれ? えっと、今ぼそっととんでもない単語が聞こえたような?

 

「あぁ、今日は『能力』を使われたんですね」

 

「そ。若い頃ならまだしも、この歳にもなるとこの『対価』は正直きついんだって……後で丈二のトレーニング器具、借りさせてもらおうかな」

 

「流石、犬のおまわりさん♪」

 

「だから犬言うなっつに!! いつも言ってんだろうが、俺の『能力』は犬じゃなくて狼なんだって!!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

 

「「「「……?」」」」

 

思わず張り上げた大声に、皆が呆然の視線でこっちを向いた。

 

「あの、えっと、ちょっと今、物凄い会話を聞いた気がするんですけど」

 

「……今の俺達、変な事話してたか、マリア?」

 

「いえ、特に何も言ってないと思いますけど」

 

「あれじゃないっすか? やっぱ戦国も犬だと思ってるんですって」

 

「ちょっ、そうなのか!? そうなのか戦国くんっ!?」

 

「狼ちゃん、ちょっと落ち着いて」

 

「そうじゃないです!! そうじゃないと言うか、それ以前と言うか……」

 

アルコールが入って沸点が低くなっているのだろう狼を宥め、一挙に流れ込んできた情報に混雑する脳内を何とか整理して、

 

「えっと、取り敢えず聞かせて欲しいんですけど、乾さん」

 

「ん? 何だ?」

 

固唾を嚥下し、高鳴る動悸を抑え込み、一欠片の勇気を振り絞って、

 

「乾さんって、『能力者』なんですか?」

 

「うん、そう」

 

だと言うのに、返答のなんと呆気ない事か。予想外の『あっさり』さに国士は呆然として、

 

「なんだ、まだ聞いてなかったのか? 俺ってか、ここにいる全員が『能力者』だぞ?」

 

「……はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

更に追い打ちをかけられた思考回路は最早正常な動作を完全に放棄した。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「で、落ち着いたか?」

 

「……はい。大声出して、済みませんでした」

 

「無理もないですよ。世間的に私達は非日常の存在ですからね」

 

「あ、いやっ、嫌だったとかそういう事じゃなくて、ただ単純に吃驚しただけですから。……お気を悪くしてしまったなら、御免なさい」

 

「ふふっ、解ってますよ。戦国くんがそういう人だと思っていたら、乾さんもあんなに簡単に明かしたりはしませんから」

 

「まぁそうだね。狼ちゃんはちょっと抜けてる所はあるけど、基本的に信用した人にしかこういう話はしないし」

 

「……タンデム、口が悪いぞ」

 

あれからどれくらい時間が経ったのか。何とか冷静さを取り戻した国士は改めて乾を見て、

 

「あの、本当に能力者なんですか?」

 

「あぁ、本当も本当さ。大体、能力者犯罪専門の刑事が、ただの人間な訳がないだろう?」

 

「……あ」

 

確かに、少し考えてみれば当然の話だ。能力者の能力は人間の領域を軽々と超越するものばかりである。それも犯罪に用いられるような悪質なものとなれば、対抗するのが並の人間では危険以外の何物でもない。

 

「目には目を、歯には歯を、能力者には能力者をってな。あまり表沙汰にはされてないが、俺が所属してる捜査第4課の人間は基本的に能力者で構成されてんだよ。警視庁お抱えの養成所があってな、素質を見抜かれた奴はそこで訓練受けて、正式な警察官として全国各地に派遣されるんだわ。俺もその一人って訳」

 

「そうだったんですか……」

 

「狼さん。ここは一つ、俺達の能力を戦国に見せてやるべきじゃないっすか?」

 

「はぁ!? 何言ってんだよ雷電!! ここで使ったらまた『対価』が延長されちまうじゃねえか!!」

 

「そこを何とか、ねっ? 戦国だって見てみたいだろ?」

 

「え? えっと、その、はい」

 

「えぇ……マジで?」

 

心底嫌そうな顔をする乾には申し訳ないとも思うが、正直興味の方が勝っていた。幼少期の一件でアメリカに引越して以来、今までひたすら自分が能力者である事を隠してきた国士に能力者の知り合いなどいる訳もなく、他人がどのような能力を保持しているのか、純粋に見てみたかった。

 

「……はぁ、解ったよ。他ならぬ今日の主賓の頼みだ」

 

長考の末、乾が立ち上がり苦笑と共に嘆息した、その直後。

 

 

 

―――グルルルルルルルルル……

 

 

 

「えっ? うわっ!?」

 

彼の影が徐々に隆起したかと思うと、徐々にそれは輪郭を帯びていき、やがて象ったそれは、

 

「……犬?」

 

「違う、狼だ」

 

しなやかな四肢。艶やかな毛並み。漆黒の体毛に覆われた肉体は見るからにしっかりと引き締まっており、剥き出しの犬歯をこちらに見せていた。

 

「コイツの聴覚は人間の4倍以上、嗅覚に至っては1000倍以上だ。運動能力も狼そのもの。俺の思い通りに動いてくれて、全ての感覚を俺と共有してる。犯人の追跡にはうってつけって訳だ」

 

「わぁ……触っても大丈夫ですか?」

 

「あぁ。コイツはさっき見たまんま、俺の影そのものでね、コイツ自身に意志はないんだ。言うなれば、俺の分身兼使い魔って所かな?」

 

「へぇ……わ、毛並み凄い。サラサラしてる。肉球も柔らかくて気持ちいい」

 

成程、見知らぬ人間が全身を撫で回しているのに、吠えも逃げもしないどころか身じろぎ一つない訳である。

 

「……あ~、戦国くん? あんまり撫でられるとこそばゆいから程々にね?」

 

「はい?」

 

と、撫で回しているのは影犬の方であるにも関わらず、何故か乾が若干身体をくねらせ唇の端を吊り上がらせていた。軽くヒントを出すとするならば、肉球は人間にとって何処にあるものか、考えていただけると自ずと理解できるだろう。

 

「さっきもっ、言ったけどぉっ!? 俺とっ、コイツはっ、感覚をぉ!? 全部っ、共有してるんだぁっ!! コイツがっ、感じてる事はっ、全部俺もぉっ!? 感じてるんだってえっ!?」

 

「……あ、すっ、済みません!!」

 

「はぁっ、はぁっ……いいよ、解ってくれればそれで……(なんか、軽く弄ばれた気分……)」

 

いけない、余りに触り心地が良かったものだからつい調子に乗ってしまった。若干息が乱れ、肩を上下させている乾はそのまま座布団に腰を落として影を元に戻して、

 

「で、これの『対価』が何かと言うと、ね……ほれはのほ(これなのよ)

 

諦め半分で渋々と、再び唐揚げを口に放り込んて、そう言った。

 

「これ、って?」

 

「乾さんは能力を使うと、暫くの間はお肉しか食べられなくなるんですよ」

 

「…………うわぁ」

 

晶の説明に国士は思わず顔を歪ませた。それは何とも、地味にきつそうである。

乾は暫く咀嚼した後、しっかりと飲みこんで、

 

「美味いよ? 滅茶苦茶美味いよ、丈二のメシはさ? 外はパリッと中はジューシーでさ、ちゃんと肉汁出てくんのも最高だよ? でもさ、こんなにはいらねえよ……おかげで能力使う度に胃薬常備しなきゃなんないし、メタボだって気になってくるし、何より心配なのが生活習慣病だよ。こういうのが嫌いって訳じゃないけどさ、もっとあっさりしたの食いてぇよ……」

 

「それは何と言うか……御愁傷様です」

 

「うぅ……早く終わってくれ~」

 

虚しく響く心からの叫びには、流石に苦笑する他なかった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「さて、んじゃ次は俺の番かな?」

 

涙を流しながら『美味いなぁ……』と唐揚げを食べ続けると言う、事情を知らなければただ美味くて感動しているようにしか見えない乾を余所に、そう言って立ち上がったのは光だった。

 

「戦国。俺がこれから使う能力、どういう能力なのか当ててみ?」

 

「あ、はいっ」

 

切り替えも早く視線を光へと向ける。すると、

 

「すぅ、ふぅ、すぅ、ふぅ……んじゃ、行くぞ。すぅ―――」

 

暫く深呼吸を繰り返した後、一際深く息を吸い込んで、

 

 

 

その、次の瞬間だった。真正面に見据えていたはずの光の姿を『見失った』のは。

 

 

 

「えっ?」

 

ほんの一瞬、正に瞬く間とはこの事か。

まるでそこから切り取られたかのような、最初からそこに存在していなかったような、それはそんな気さえするほどに呆気なく。

思わず周囲を見回そうとして、

 

 

 

―――――どうだ? 解ったか?

 

 

 

「―――えぇっ!?」

 

直後、聞こえた声は背後から。軽くポンと肩を叩かれて振り返った先、しゃがみ込んだ光が実に楽しそうな笑顔でこっちを見ていた。

まるでその過程、手段、その悉くが完全に省略されたような。

 

「……瞬間移動、ですか?」

 

「ん~、割といい線いってっけど外れ。正解は、そうだな……戦国に解りやすく言えばステルスってところかな?」

 

「……隠密って、事ですか?」

 

「そ。こんな風にな。すぅ―――」

 

再び息を吸い込んだ直後、光の姿は再び目の前から消え、次の瞬間にはカウンター席の上に腰をかけていた。

 

「携帯とか、テレビのリモコンとか、部屋中探し回っても見つからなくて、気が付いたら目の前にあった、なんて事、あるだろ?」

 

「あぁ、確かに」

 

「あれってな、脳が『そこにはない』って思いこんじまってるから、そこにあるはずなのに、目には映ってないように見えるからなんだとさ。俺は息を止めてる間だけ、それくらいまで気配を希薄化させられんのさ。ついでに、高速移動もな。存在を感じ取れない上で高速で動けば、相手は俺を完全に見失うって訳」

 

「雷ちゃん、テーブルなんかに座ったら、ジョーちゃんに怒られるよ?」

 

「おっと、そうでした」

 

身軽に飛び降り、後で拭いとかなきゃな、と溢す光を見て、改めて凄いと思った。

そう、まるで、

 

「―――忍者」

 

「……戦国? 今、俺にとって凄く不吉な単語が聞こえた気がすんだけど?」

 

「光さんは忍者だったんですか!? 装束は持ってますか!? 真っ黒ですか!? 真っ白ですか!? それとも唐草模様ですか!?」

 

「よし落ち着け。多分そう来るかもとは思ったけど典型的な見た目から入るタイプだったのかお前は」

 

「分身の術は!? 水遁の術は!? 流派は伊賀ですか、甲賀ですか!? 何処かに手裏剣や鉤縄を隠し持ってたりは!? やっぱり忍者は生き残ってたんだ!! きっと侍や殿様やカラテマスターもまだ、日本の何処かにいるんだ!!」

 

「おいちょっと待て、それどっかで見た事あるぞ!? 確かネットのMADだろ!! 仮にも日本フリークだってんならその真偽くらい見極めろよ!!」

 

暫し、妙なスイッチの入った国士に問い詰められ続ける光であったそうな。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「戦国……お前、その癖本当になんとかした方がいいぞ」

 

「はい、済みませんでした……」

 

数分後。やっと国士が冷静さを取り戻した頃、光は乱れ切った衣服を直しながらそう言った。

若干の息も乱れもあり、『婦女子』の同音異義語な方々が今の二人を見たならば、間違いなく違うシチュエーションを即座に思い浮かべる事だろう。

 

「さてと、まぁ気を取り直して次、マリアさん行ってみよう」

 

「私、ですか? でも、私の能力は……」

 

急に振られた晶は少なからずの戸惑いを見せる。そんな彼の態度に国士の脳内には様々な憶測が飛び交って、

 

「……そんなに、危険な能力なんですか?」

 

「あ、いや、そういう事じゃないんですけど、私の場合、『対価』がちょっと厄介というか、面倒というか」

 

「対価が、ですか?」

 

「その、ですね……私の能力は、言霊なんですよ」

 

「ことだま、ですか」

 

確か、言葉には霊的な力が宿るという日本独特の考えだったはず。

 

「私が能力を用いて発する言葉は、強力な催眠の力を持つんです。あくまで催眠であって強制ではないので、人によってはかかりにくかったりもするんですが、その……対価が、使った後の1時間は一切口が利けなくなる、というものでして」

 

「あ、成程」

 

言葉の能力の対価が、言葉を失う事、という訳か。確かに、それは避けたいとは思う。

 

「ですから、普段は滅多に使わないんです。見せてあげてもいいんですけど、ここではちょっと……」

 

「あ、いえ、無理に見せてくれなくてもいいんです。……それにしても、言霊ですか」

 

「はい。でも、その能力のお陰で、私の夢も見つかったんですよ?」

 

「……へ?」

 

それは、国士にとって少なからずの衝撃だった。自らの能力で日常を失った彼にとって、能力が所有者に齎すのは不幸ばかりだと思っていたから。

 

「それは、どういう?」

 

「えっと、その、ですね……」

 

恥ずかしそうに頬を赤らめ、それを隠すように手を掲げる様は、完全に女性のそれである。誤解のないようここに宣言しておくが、彼は決して態とやっている訳ではない。やがて意を決したのか、晶は国士の顔を正面から見つめ、

 

 

 

「私は、心理カウンセラーになりたいんです」

 

 

 

「―――あ」

 

それは、実に納得のいく答えだった。

 

「この能力に目覚めてから、言葉というものに真剣に向き合うようになって、面白いと思ったんです。大学も心理学部を選んで、色んな人から話を聞いたり、資格の勉強をしたり、忙しい毎日です。まぁ、戦国みたいに立派な理由ではないかもしれませんけどね」

 

「そんな!! 別に僕は、立派だなんて事は、」

 

「立派ですよ。そんなに小さい頃からしっかりと目標を見定めて、それに向かって努力を重ねて、今もこうして両親の元を離れて……この場合は留学って言っていいのか解りませんけど、一人で頑張ると決めたんでしょう? 並大抵の覚悟で出来る事ではありませんよ。素直に、尊敬します」

 

「は、はぁ……有難う御座います」

 

照れ臭い事この上なし。年上に尊敬されるという、そうそうありえない経験に思わず委縮してしまう国士を見て、晶は更に優しい笑みを深めるのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「それじゃ、次は僕の番だね」

 

「タンデムさん」

 

ゆっくり立ち上がる彼の背丈はやはり決して高くはなく、改めて年上には見えないと思う。ただ、皆を『~ちゃん』付けで呼ぶ上に丈二が敬語を使う事から、少なくとも彼よりは年上だろう事は推測できる。

 

「とは言っても、僕の能力もちょっと説明し辛いんだけどね、どうやって説明したものかな……?」

 

「説明、し辛いんですか?」

 

「うん。マリアちゃんみたいに対価が厄介だっていう訳じゃなくて、僕の能力って単純に僕以外には解り辛いから」

 

「解り辛い、というと?」

 

「う~ん、何て言ったらいいのかな……さっき、僕の仕事の事、説明したよね?」

 

「あ、はい。心霊現象専門の何でも屋、なんですよね?」

 

「うん。でね、その仕事が出来てるのは、僕の能力のお陰なの」

 

「……はい?」

 

能力のお陰で仕事が出来るとなると、自ずと選択肢は限られてくる。仕事ありきの能力なのか。それとも、能力ありきの仕事なのか。

どちらも、今の世間では珍しい事ではない。能力の使用により頭角を現したタレントさえいるこの時世、能力を職に用いるのは最早当然とさえ言える。

が、しかし、彼の職業からしてどのような能力なのかが今一つ想像がつかない。

世俗的に霊能力者と言われている人は一般にも数多く存在する。霊の存在が解る、声が聞こえる。それもまた一つの能力ではないか、そんな話が一時期世間を賑わせた事も―――

 

「―――あれ? えっと、ひょっとして『そういう事』ですか?」

 

「気付いた? 中々鋭いみたいで感心感心。そ、僕の能力は『霊感』。彼等の声が聞こえるし、姿が見えるの。確かめようがない能力でしょ?」

 

「それは、確かにそうですね……」

 

「だから、こればっかりは信じて貰うしかないんだよね。僕以外にも影響のある能力だったらよかったんだけど、どうもそれは出来ないみたいでさ。最初は大変だったよ? 実績も何もないただの素人が『霊の存在が解るんです』って言ったって誰も信じてくれる訳ないじゃない?」

 

それから暫くの間、まだ駆け出しだった頃の苦労話が続いた。曰く『八百長だろう』だの『出まかせにしか聞こえん』だの、そう言った中傷は世間一般の霊能力者に注がれるそれとさして変わらないものだったらしい。

が、虎鉄と彼らとの間には決定的な違いが一つあった。

 

「僕はね、彼等に直接干渉する事もできるんだよ」

 

「直接干渉、ですか?」

 

「そう。幽霊って聞いて真っ先に思い浮かぶのって、やっぱり恨みだったり妬みだったり、何かしらの未練で残ってるってイメージがあるでしょ? 僕の場合、彼等の話を聞いてそれを解消してあげたり、それが無理なら妥協案を考えて実行する事で成仏させてあげるのがいつもなんだけど、中にはどうしても話を聞いてくれない、話を聞ける状態じゃない人達も沢山いるんだ。俗に言う、悪霊って人達がね」

 

「あぁ、成程……」

 

「そうなってしまうと、殆どの場合が自我を失っていてね、無差別に人を襲ってしまう事もあって、凄く危険なんだ。その人が何を求めてるのかがはっきり解っていれば別なんだけど、どうしてもそれが解らない時は、強制的にいなくなってもらうしかないんだよね……」

 

出来れば僕もそんな事はしたくないんだけど、と続ける虎鉄の顔は、実に不満そうで、不快そうで、残念そうだった。

 

「こういう依頼ってさ、基本的に人間側の事情ばっかりが重要視されるでしょ?『この日までに済ませてくれ』とか『兎に角祓ってしまってくれ』とかさ。そういうのって、ちょっと違うと思うんだよね。彼らだって、ちゃんとした人間なんだよ? 死んでもやり残した事があって、諦め切れない事があって、何とかこの世界にしがみついてる人達なんだよ? それをまるで厄介払いするみたいにさ……可哀そうでしょ? だからね、僕の力がそういう事を少しでも減らす手助けになるなら、それを仕事にしてみてもいいかなって、そう思ったんだ」

 

「タンデムさん……」

 

どうしよう、予想以上に感動した。

この人、見た目通りに言葉遣いも何処か幼くて自由奔放なイメージを勝手に持ってたけど、ちゃんとした社会人だ。

 

「っと、ちょっと熱くなり過ぎちゃったかな? 話を戻そっか。で、僕の能力の対価だけど……まぁ、その結果がこれ、なんだよね」

 

「……これ?」

 

会話を軌道修正した途端、少なからずの落胆を見せながら自分の身体を見下ろす虎鉄。今一つその真意が掴みとれない国士はやはり頭上に疑問符を浮かべ、

 

「はっきり言っちゃいましょ~よ、タンデムさん。チビになる事だって」

 

それはいきなり、見るからに酔っ払った赤ら顔の光が説明し始めた。

 

「……『身長』って事ですか?」

 

「いやぁ、ちょっと違うな~。成長が止まるというか、逆戻りすんの。丁度、ビデオテープの巻き戻しみたいにさ。何て言うんだっけ、こ~いうの……退行?」

 

「……雷ちゃん?」

 

「だからさ、言わば使うたんびに若返んのよ、この人は。羨まし~よね~♪ 全国の婦女子の皆様を敵に回してるよね~♪」

 

「雷ちゃん、その辺にしておこっか」

 

「え~、ちゃんと説明しときましょ~よ~。こんな機会、中々ないんすから。だからな、この人の見た目がガキンチョなのも、チビッ子なのも、全部そのせいなの!! 狼さんなんかいつも言ってんだぞ、『アイツの対価が羨ましい』って」

 

「ら・い・ちゃん?」

 

「ふぁい? なんすか?」

 

 

 

 

 

 

―――――ちょっと、黙ろうか。

 

 

 

 

 

 

それは、今日だけで2度目の経験だった。

周囲の気温が2度どころか急転直下、絶対零度にすら思える程の錯覚。何事も限度を超えると感覚が麻痺し、身体は何も感じなくなるというが、とんでもない。全身が恐怖に

打ち震え、滝のように汗が止めどなく流れ出る。

国士の位置からは、虎鉄の顔は窺い知れない角度だった。しかしそうであって尚、彼の纏う鈍重な黒いオーラはおどろおどろしい事この上なく、果たして彼とまともに相対している光の恐怖はどれほどのものかと想像して、更に恐怖に拍車がかかる。

そして、件の光はと言うと、

 

「ぁ……ぁぁ……」

 

完全に酔いが吹き飛び、先程までの愚行にやっと気付いたのだろう、その形相はさながら、パンドラの箱を開けたエピメテウスとでも言おうか。

 

「知ってるよね、僕がそういう扱いが大嫌いなの……」

 

「す、すんませ、」

 

「君が悪戯好きなのはよく知ってるけど……やって良い事と悪い事があるって事くらい、解ってるよね?」

 

必死に恐怖に耐えながら首肯を繰り返す。そして、

 

「おいたしたら、子供だって怒られるのは当然だよね? だから、僕が君に怒るのも当然の事だよね?」

 

冥王。覇王。暗黒指令。今、そんなBGMが流れたとして、そこで違和感と言う違和感が全く仕事をしないだろう事は、既に明白だった。いや、むしろその原因が極めて個人的であるという点においては、彼らよりもよっぽど性質(たち)が悪いかもしれない。

そして、

 

 

 

「今から君を恐怖のどん底に叩き落とすけど、いいよね? 答えは聞いてない」

 

 

 

「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「―――ん? どうしたの、戦ちゃん?」

 

「いえっ、なんでもありますん!!」

 

あれから一体どれほどの時間が経過したのだろうか。きっとノストラダムスは恐怖の大魔王の降臨を11年ほど間違えていたのでは、と思わず勘繰りたくなった。

あの後の事は、誰一人として語ろうとしなかった。ただ一つ、国士が脳裏にしっかりと刻み込んだのは、『この先生きのこる為には、この店には目の前で決して禁句を口にしてはならない人物が少なくとも二人いる』という事だった。

 

「? まぁ、何でもないならいいけど。さてと、それじゃあこれで全員終わったかな?」

 

「あ、いや、その……まだ一人、残ってます」

 

虎鉄のあまりに呆気ない変わり身に戸惑いつつも、国士は進言する。

 

「え? ……あぁ」

 

そこで初めて、木卓を囲んでいた5人の目は一斉にある人物へと向けられた。

すぐ傍、あれだけの騒ぎの間近にいながら寸分たりとも反応を示さず眠り続けている、アロハとサングラスを纏った筋骨隆々の巨体。

 

「丈二は、なぁ……」

 

「ジョーちゃんは、ねぇ……」

 

「丈二さんは、ねぇ……」

 

「旦那は、なぁ……」

 

「うわっ、光さん、復活早いですね」

 

「? 何の事だ?」

 

「……いえ、何でもないです(自己防衛かな、完全にさっきの事を忘れてるっぽい)それで、丈二さんが、何か?」

 

完全にすっ呆けた表情の光を無視して話の続きを促すと、

 

「実は、ですね……私達も、丈二さんが能力を使っている所を殆ど見た事がないんですよ」

 

「……へ?」

 

「旦那、何でか知らんけど滅多に使わねえんだよな。見た事あんのは精々、片手で数えられるくらい。それも、能力も対価も見た目には殆ど影響出ないっぽいから、今一解らねぇんだよな」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ。どうやら、狼さんとタンデムさんは知ってるみたいなんですけどね」

 

国士、光、晶の3人が視線を向けるものの、件の二人は、

 

「まぁ、本人がまだ話してねぇんなら、俺から言う事は何もない」

 

「右に同じ。僕も、言う気はないよ」

 

「とまぁ、ずっとこの1点張りで教えてくんないんだよねぇ……ま、俺は話してくれるまで気長に待つ積もりだけど」

 

光は既に割り切っているのか、割と簡単に諦観の表情を見せていた。それは晶も同様のようで、

 

「私もです。正直、知りたいとは思ってますけどね」

 

「……それで、いいんですか?」

 

「あぁ。昼間にも言ったろ? 言いたくない事は無理に言わなくても良いんだって」

 

「…………」

 

二人の表情には虚偽の感情は全く感じられず、

 

「……どうして?」

 

「? どした、戦国」

 

「どうして、それで信じられるんですか?」

 

その事実が国士にとっては信じられないものだった。

先にも述べた通り、彼は能力者であるが故に彼の日常を打ち砕かれ、平穏な生活を送れずにいた過去を持っている。異能を恐れる目を、蔑む目を、忌み嫌う目を知っている。

例えそれが同じ異能の持ち主だったとして、全てを明かさずに一定以上の信頼を保てているこの5人があまりに近くて、あまりに遠くて、あまりに羨ましかった。

 

「ん~、どうしてっつってもなぁ……なぁ、戦国」

 

暫し、思案を巡らせて、光は言葉を選びながら言う。

 

「お前はさ、旦那が悪い人に見えるか?」

 

「……はい?」

 

「いやな、ぶっちゃけ確かに見た目だけならこの人は歩く誤解製造機だぜ? でもさ、俺達は本当のこの人を知ってる訳で、それが能力者だろうとなんだろうとなくなる事はない訳で……ねぇ、皆さん?」

 

振られたと同時、3人はさも当然と言わんばかりに嘆息し、

 

「知ってるだろ? コイツは料理上手のゴリラ主夫で、」

 

「困ってる人を見過ごせない、呆れるくらいのお人好しで、」

 

「早い話、何でかと言うと、」

 

 

 

 

―――――丈二だからだ。

 

 

 

―――――ジョーちゃんだからね。

 

 

 

―――――丈二さんですからね。

 

 

 

―――――旦那だからな。

 

 

 

 

「…………」

 

何も、言えなくなっていた。

きっと、この人達の間にはそう簡単には断てないだろう繋がりがあって、それは『疑う』なんて言葉とは程遠いもので、きっと世間ではそれは『絆』って呼ばれるものなんだろう。

 

「……羨ましいな」

 

先程は出なかったその一言が、今は簡単に出て来る。

とても綺麗で、眩しくて、魅力的で、

 

「何を他人事のように言ってるんだ、戦国くん? 今日から君も、その一員なんだぞ?」

 

 

 

―――――へ?

 

 

 

「言ったじゃん、君の歓迎会だって。ってか、ネットで知り合った時から仲間だと思ってたけど?」

 

「そうですよ。私達はずっと前から、赤の他人じゃないでしょう?」

 

「言葉を交わして、お互いを気に入ったら、それはもう友達だよ。ね、戦ちゃん」

 

 

 

―――――うわぁ、これは本当に参ったなぁ……

 

 

 

「……あれ? 戦国くん?」

 

「ちょっ、何で泣いてんの!? マリアさん、ティッシュティッシュ!!」

 

「は、はいっ!! えっと、確か厨房の方に、」

 

「わっ、わっ、どうしよう!? どうしよう!?」

 

 

 

―――――駄目だ、もう限界だよ……

 

 

 

「ほ、ほらっ、唐揚げ食べるか!? それとも、焼き鳥の方がいいか!?」

 

「狼さん、食いもんで泣きやむのは本当のガキンチョだけですって!!」

 

「ティッシュ取って来ましたよ!! ほら、チーンして、チーン」

 

「マリアちゃん……君、本当に態とじゃないんだよね?」

 

 

 

―――――父さん、母さん、やっぱり、前言撤回するよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕、今度こそ、ここでなら、この人達となら、本当にやっていける。

 

 

 

 

 

今、心の底から、そう思えたんだ。

 

 

 

 

 

だから、心配しないで欲しいんだ。

 

 

 

 

 

僕はきっと、もう大丈夫だから

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

その後の有り様は、さながら雛鳥に餌を与え続ける親鳥か。

きっと、人当たりのよい親戚の家に幼い子供を訪れさせても同様の現象が確認出来る事だろう。

やれ『食わせろ』だの『飲ませろ』だの、ひたすら国士を泣き止ませんと奮闘する(=空回る)彼等の姿は、実に滑稽甚だしかった。

結局全員がアルコール摂取の限界を上回るまでその騒ぎは続き、気付けば死屍累々と表現しても差し支えない程に四肢を、体躯を、投げ出す醜態を晒す結果となり、実に濃厚なプログラムだった『戦部国士歓迎会』は閉幕と相成った。

そしてその後、皆が酔い潰れて熟睡を通り越し爆睡の真っ只中に陥ってからの事だった。

 

「ぬぅ……うぉ、頭痛ぇ」

 

のそりと起き上がる巨体。それはまるで冬眠明けの大熊のように。

内側から殴られるような頭痛に顔を顰めつつ、丈二はすっかり静まり返った宴会跡地を見回して、

 

「……こりゃ酷ぇ」

 

彼の評価は当然の範疇だろう。食い散らかすという文字通り、一帯には様々な物質が散乱し、そんな汚泥の海の中に漂うかのように5人の死体―――じゃなかった、肢体が転がっていたのだから。

 

「はぁ……早々に潰れた俺が言える義理じゃないが、お前ら少しは加減を覚えろよ」

 

嘆息と共に立ち上がり、まずは散らばったゴミの回収から。厨房よりゴミ袋を引っ張り出し、目に見えて大きなものから一つずつ拾い上げる。やがてある程度片付いた頃に汚れた食器を回収、さっさと洗い場の水中へ沈めて、皆の回収へ。

 

「ったく、マリアまで潰れてんのか。珍しいな」

 

一人一人を抱きかかえ、取り敢えず比較的綺麗な場所へ避難。その後、階上より毛布を降ろしてきて、かけてやる。

 

「明日が定休日じゃなかったらどうなってた事か……」

 

そうしてやっと空いた現場の清掃に入る。幸い、畳の上には溢していないようだったので、汚れた差布団を入れ替えるくらいで済みそうだった。もし染みでも作っていようものなら、まず間違いなく鉄拳制裁である。

騒音にならないよう箒と塵取りで埃や食べ溢しを回収、ゴミ袋に放り込んで口を縛る。確か明日―――もう今日か、は可燃ごみの日なので丁度いい。

そのまま店の裏口までゴミ袋を運び、汚れた食器を洗ってしまい、何とか後始末が完了する。

ちなみにここまでの所要時間、僅か15分である。

 

「ふぅ……あぁ、まだ頭痛ぇ。頭痛薬、あったっけか?」

 

階上に上がり、自室へ。さほど広くはないそこは、無骨な金属製のダンベルやらジムやら、俗にトレーニング器具と呼ばれるそれが半分以上を占めており、他にはこれと言って特筆すべきものがなかった。通常、部屋と呼ばれる場所にあって然るべきもの、その程度。特徴的なものは何もない。

強いて言うならば、他の部屋には見られない巨大な収納スペースだろうか。中に何が仕舞われているのか、知るのはこの部屋の主のみである。その収納スペース、割と下段の方を開き、探る事5分程度。

 

「……無いっぽいな。仕方無ぇ、別のもんで我慢すっか」

 

言うや否やそこを閉じ、部屋の隅に置かれた小型の冷蔵庫へと向かう。開くと同時、先程の飲み会でも出されたそれと同様の瓶コーラを数本取り出して、

 

「……屋上でも行くか。少し、風に当たった方が気も紛れるだろ」

 

そのまま、部屋を後にした。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

丈二の所有するこの雑居ビルは、実は5階建てという、どちらかと言うと高層の類に入る建造物である。

傍目にはコンクリート製の硬いイメージを受けるそれだが、屋上からの光景はそれほど悪くはない。

ましてや余計な街灯りのない深夜である。月が、星が、常日頃よりも鮮明な輝きを放っていた。

 

「いい天気だな……」

 

呟き、歯で瓶コーラの栓を咥え、抜き取る。シュポッ、っと心地良い音を立て、酸素を取り込み始めた黒い炭酸水が、代わりに大気中へ二酸化炭素を吐き出し始めた。

一口仰ぎ、無言。手すりに両肘を乗せ脱力し、辺りを見渡すその姿は、中々に絵になっていた。

 

「…………」

 

ふと見下ろす胸元。そこには、シルバーのチェーンがあった。シャツの中に入って窺えないそれを引っ張り出して初めて、それがドックタグである事が確認できた。

 

『И G041』

 

月明かりを帯び、冷たい反射光を返すそこには、確かにそう刻まれている。

 

「…………」

 

やはり無言。しかし、それを見つめる彼の双眸は僅かに細められ、心中の葛藤、もしくはそれに似た何かを確かに携えている。再びシャツの中へそれを仕舞い込み、コーラをまた一口仰いで、

 

 

 

―――――やっぱり、ここだったか。

 

 

 

振り返った先、背後からの声の主は、やはり彼の想像に違っていなかった。

 

「起きましたか、乾さん」

 

「毛布、サンキュな。いやぁ、年甲斐もなく飲み過ぎちまったよ。いい加減、気をつけないとな……コーラ(それ)、俺も1本貰えるか?」

 

「どうぞ」

 

先程と同様に歯で栓を開け手渡すと乾はすぐ隣に、しかし手すりには背中を凭れさせて、口に含んだ。

そのまま、それほどの時間が過ぎただろうか。春先とはいえ、決して暖かくはない夜風が肌を撫ぜ、吹き抜けていく。

そのまま。

そのまま。

ひたすらに、そのまま。

まるで、それがさも当然であるかのように。

そして、月明かりが淡い影を鈍色の床に落とす中、ゆっくりと乾が言葉を紡ぐ。

 

「……あの子が、そうなのか?」

 

「……えぇ」

 

「まさか、あんなに大きいとは思わなかったぞ?」

 

「それは、俺も同感です」

 

「だろうな。で、どうするつもりなんだ? 俺は未だに、お前があの子を呼んだ理由を知らないんだが?」

 

「…………」

 

「……近いのか?」

 

「……えぇ」

 

「……そうか」

 

「…………」

 

「我儘だな、お前は」

 

「でしょうね。俺自身、そう思います」

 

「だがまぁ、お前は今まで散々耐えてきた。これくらい、許されてもいいだろう」

 

「そうですかね? 俺は今までもずっと、強欲だったと思いますが?」

 

「だが、俺はお前のそういう所は嫌いじゃない。お前はいつだって、誰かの為だ。そんなお前が、今回初めて、自分の為に動いた。俺はそれを評価してるんだ。義父としても、長年の友人としてもな」

 

「…………」

 

「……後悔だけは、するなよ」

 

「……えぇ。したくはありませんし、する積もりもありません」

 

「なら、いいけどな」

 

再び含む一口。

漂う空気は重く、しかし何処か軽さを覚える。

一体何がそうさせるのか。

それとも初めからそうなのか。

 

「……で?」

 

「……は?」

 

「何か、俺に話があるんでしょう?」

 

「あぁ、そうだったな。すっかり忘れる所だった」

 

「しっかりして下さいよ、まだボケるには早いでしょう?」

 

「うっせ……おら、これだ」

 

差し出したのは小さな長方形。ごく一般的に販売されているUSBメモリ。

 

「後で見とけ。今回の『依頼』だ。俺が見せてやれる情報は全部入ってる」

 

「……また、ですか」

 

「あぁ、まただ。どうも最近、匂うんだよな」

 

「……加齢臭ですか?」

 

「こらてめぇ」

 

「冗談ですって……勘、ですか」

 

「それも、嫌な方のな。こういうのに限って当たりやがる」

 

苦々しい笑顔を浮かべ、乾は手すりを離れた。

確かな足取りはそのまま屋上の入口へと向かって、

 

「―――丈二」

 

「……何ですか?」

 

「まだ、アイツ等には教えてやんねえのか?」

 

「…………」

 

「……そうか、迷うくらいにはなったか」

 

「……本当に、貴方には敵いませんね」

 

「何年一緒に暮らしたと思ってる? それに、曲がりなりにもお前の父親だぞ?」

 

「そうでしたね」

 

振り返り、互いの視線が交わる。

言葉は交わさない。

その必要がない。

ただ、互いの存在を、意志を、確かめるように。

そして、

 

 

 

「……また来るぞ、馬鹿息子」

 

 

 

「……いつでも来いよ、馬鹿親父」

 

 

 

その苦笑いと同時、鉄扉の音が二人の間を遮断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が更ける。

 

 

 

 

 

朝が迫る。

 

 

 

 

 

影が来る。

 

 

 

 

 

空が白む。

 

 

 

 

 

笛が鳴る。

 

 

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

 

 

花が咲く。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

物語が、始まる

 

 

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

序章のラスト、やっと書き上がりました。

 

今現在、ほぼ午前四時半……この時間にあまり眠気を感じていない事に改めて『ヤバいんじゃね?』とか思いつつ御報告致します事が一つ。

 

続きを楽しみにしてる方もいらっしゃるかもしれませんが、暫く『Just Walk』の更新はお休みいたします。

 

最近『蒼穹』『盲目』ほっぽりっ放しだったからねぇ……流石に書き進めなきゃでしょ、これは。

 

サークルの方の原稿もあるんで、ちょっとこれの更新は暫くお預けという事で了解しておくんなまし。

 

どうやら『第3回同人祭り』もあるみたいだしね。

 

 

 

で、

 

 

 

とうとう一段落つきましたが、皆さんいかがでしたでしょうか?

 

少しでも『この先が早く読みたい』なんて思っていただけた方がいらっしゃるのか非常に不安な自己満足小説ですが、目一杯面白くするつもりですので、どうか今まで通り生温かく見守っていただけると幸いです。

 

では、前回予告した通り、ネタバレにならない程度に各キャラの設定を公開いたします。

 

 

戦部 国士(いくさべ くにお)

HN:戦国

能力:物質変換

   触れた物質の形状を自在に変更したり、成分の分解や合成などが出来る。

   例)鉄骨を刀に変えたり、水を水素と酸素に分解したり。

   また、精密な構造を必要とする物の精製には、その構造を理解していなければ不可能。

設定:一人称は『僕』。アメリカ帰りの帰国女子で日本の教育大学に進学する際、丈二の店『ごりら食堂』に下宿する事に。

   勤勉家で責任感が強く、任された事は最後までやり遂げようとするものの、偶に視野が狭くなりがちなのが玉に傷。

   また、彼は世にも珍しい生まれつきの能力者であり、それが原因で過去にいじめられていた事から自身の能力をそれほど好んでおらず誰にも話せずにいたが、丈二達の存在を知って次第に向き合うように。

   両親がアメリカに移住した理由はここに起因する部分が大きく、対価らしい対価がない理由もここにあるのではないかと考えられる。

   海外生活が長かったからか、日本人でありながら日本フリーク。『和』に目がない。

 

 

峠崎 丈二(とうげざき じょうじ)

HN:ジョージ

能力:???

設定:一人称は『俺』。鍛錬好きで筋骨隆々な『ごりら食堂』の店長。

   ぶっきらぼうだが不器用なだけで根は好青年。アロハシャツとサングラスをこよなく愛する。

   面倒見がよく、何でもそつなくこなす運動神経や感覚の持ち主。

   頭も悪くはないが、頭脳労働は他に任せる事多し。

   本人は『視線の動きを悟られない為だ』と言い張っているが、アロハやサングラスを決して外さない理由はどうやら彼の過去に起因しているらしい。

   ちなみに乾とは養子縁組の取引を行っている為、二人は血縁関係こそないものの『親子』という関係にある。

   また、かなりの健康グッズマニアで、食事のバランスや生活スタイルに五月蠅いのは当然。

   また、健康食品などの通信販売に目がなく、好物も俗に『身体にいい』と言われているものが多い。

    

 

 

丹田 虎鉄(たんだ こてつ)

HN:タンデム

能力:心霊現象

   彼自身の言なので定かではないが、彼の目にはこの世ならざる者達の姿が映っており、彼らと干渉する事がその能力。

   霊の言葉を訊くのは勿論の事、自身に憑依させたり、彼らの手を借りて超能力的な現象を起こす事さえできる。

   対価は『退行』。身体的な成長が止まる、もしくは逆行する。彼が年齢の割に低身長、童顔な理由はここに起因している部分が大きい。

   狼が偶に『俺の対価と入れ替えてくれ』とか言う事もあるとかないとか。

設定:一人称は『僕』。明らかに10代な外見からよく間違われる驚異の○○歳。皆を『ちゃん』付けで呼ぶ事もその一因か。

   能力を用いて『そういう』仕事をメインにしている為、依頼者は一般人からVIPまで幅広く、そのお陰でとんでもない人脈を持っていたりもする。

   天真爛漫な言動からマスコット的な位置に見られがちだが、その実は結構なSで悪戯好き。能力が能力なので、偶に口にする『そういう』発言はよく皆を怯えさせる。

   丈二とは古くから知り合いで、彼の過去を知る数少ない一人。丈二も頭が上がらず、彼をさん付けで呼ぶ。

   自分の低身長を気にしておき、故に誤解を受ける機会は非常に多い。一々反応するのも面倒になってきているらしいが、あまりに度を超えると『能力』でトラウマを植え付けられる事も。

 

 

 

鞠原 晶(まりはら あきら)

HN:マリア

能力:言霊

   彼の言葉には催眠の力が宿る。その強制力は調節可能で、時には記憶を掘り起こしたり、相手の動きを封じたりさえ可能。

   あくまで催眠なのでその度合いによっては看破する事も可能で、一定以上の集中力をもって催眠させられなければ、その威力は弱まってしまう。

   対価は『沈黙』。能力使用後、1時間は強制的に口が利けなくなってしまう。

設定:一人称は『私』。見た目、体格は完全に女性だが立派な男な俗に言う『男の娘』。

   柔らかい物腰や優しい性格の為に男女問わず絶大な人気があり、裏でファンクラブまであるとかないとか。

   が、本人はその事を非常に気にしており、彼の前で『オ○マ』や『男女』などと言ったが最期、真っ黒な悪魔が御降臨なされる。

   その能力が切欠でカウンセラーの道を志すようになり、現在は大学院で心理学を学んでいる。いずれは海外留学も視野に入れており、その資金作りの為に丈二に相談し『ごりら食堂』で『バイト』するように。

 

 

乾 太郎(いぬい たろう)

HN:狭乃 狼

能力:影の犬

   彼の影が犬として実体化する。その能力は警察犬と同レベル。

   影の性質上、全ての感覚や情報を共有する為、その犬が傷つけば彼自身も傷つき、彼自身が傷つけば犬も傷つく。

   生成は複数可能だがその分制御が難しくなる為、多ければ多くなるほど単純な指示しか下せない上、総量は能力発動時の彼の影に等しいので、その際にはなるだけ影を大きくする必要がある。

   対価は『肉食』。使用後、暫くの間は肉しか食べられなくなる。

   ちなみに、彼はしきりに『犬じゃない。狼だ』と言っている。

設定:一人称は『俺』。警察署に務める年長の刑事。

   最近頭に混じり始めた白髪と加齢臭に日々頭を悩ます、子供っぽい一面も持ったナイスミドル。

   彼自身もそうである事から『能力者』に関する事件を任される事が多い。

   古巣故、地元に顔は知れ渡っており、それなりに影響力も持っている。

   あと、名前を呼ばれる事を極端に嫌う(犬っぽいから)。ヘビースモーカー。

   丈二とは書類上の親子関係にあり、面倒見の良さから周囲からの信頼も厚い。

   また、彼は信頼が置けると判断した者には率先して能力者である事を明かす傾向がある。

 

 

稲村 光(いなむら ひかる)

HN:雷電

能力:隠密

   自身の気配を周囲に溶け込ませ完全に同一化させる事で、相手に自分の存在を悟らせられなくする事が出来る。

   その上、高速移動が可能な為、能力発動時の彼の存在を感じ取れる者は皆無に等しい。

   が、しかし、その能力の発動条件が『呼吸を止めている間のみ』なので、使い所を選ぶ必要がある。

設定:一人称は『俺』。飄々とした態度で自由闊達。興味を持った事には片っ端から突っ込む快楽主義者。

   その性格上、熱しやすく冷めやすいので趣味がころころと変わるため、翌日には『アレはもう終わりだな。時代はコレだぜ』なんて発言はいつもの事。

   そんな、一見軽いと思われがちな彼だが、隠密としては非常に優秀で、現場では正確な判断を下す冷静さも持ち合わせている。

   フリーター。

 

 

こんな感じですかね。実際にはこの倍以上の文章量になっています。見せられないのが残念……

 

ちなみに能力者には以下のように大まかな分類があり、今現在公開している情報ではこのようになります。

 

 

『条件』型:能力の発動に時間や回数など、一定の条件がある能力者。 雷電 

『支払』型:能力の発動後に対価を支払う能力者。 マリア 狭乃狼 

『強制』型:能力の発動中に対価を支払う能力者。 タンデム 

『特殊』型:上記のどれにも該当しない(その判断がつかない)能力者。 戦国 丈二

 

 

これからも徐々に増えていく予定なので(現時点でで少なくとも7人は完成しています)、乞う御期待。

 

それと、俺の能力はこの時点では『???』となってますが……『峠崎丈二』を使っている時点で、解りますよね?

 

まぁ、何故彼が能力を好んで使わないか、その強さの理由は、その点についても作品中で触れていきます。

 

既に様々な伏線を張っておきましたが……さて、どれくらいの人が当てられるかしら?

 

では、次の更新でお会いしましょう。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

 

…………今月末、とうとうKKP#8の前売り券予約開始との事。PCの前で万全待機せねば。

 

 

 

『私、戦国くんと同じ大学なんですよ?』

 

 

 

『お前もやるか? ブートキャンプ』

 

 

 

『改めまして、御挨拶を。私は、黒山羊介と言います』

 

 

 

『オイ待て、今ウォーリーがいなかったか!?』

 

 

 

『俺にはどうもひっかかるんだよなぁ』

 

 

 

『お見舞いに行くのに百合の花はどうかと……』

 

 

 

『生半可な覚悟で首を突っ込むな。いいな?』

 

 

 

『嘘だっ!! こんなものが、私の現実であるハズがないっ!!』

 

 

 

『僕は、人を信じたいんです』

 

 

 

『彼は、嘘は吐いていませんでした。あれがきっと、彼にとっての真実だったんです』

 

 

 

『これが、力を持つって事だ、戦国』

 

 

 

次回、Just Walk In The ----- 第1章 『Mist ~五里霧中~』

 

 

 

Coming Soon ……?

 

 

 

※あくまで現段階でのプロットからの抜粋であり、必ずしも同じセリフが使われるとは限りません。


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