No.327981
めたぐかめばさん
「ねえ」
「……」
「もしもーし」
「……へ? あれ、お前、なんで?」
「やあ」
「やあ、じゃねえよ。だって、おかしいな。鍵閉めてたはずなんだけど」
「へへ、ちょっとすり抜けてですね」
「すり抜け?」
「うーんなんというか、身体がすり抜けられるように、ね」
「……何言ってんだよ」
「まぁ、こんな感じに」
「げ、はぁ? 何の真似だよこれ。もしかしてプロジェクターとか? どっかにあんの?」
「そんなのないよ。だから、私がすり抜けられるようになったんだって」
「うわ、嘘だろ……。何かトリックが」
「信じてよ」
「バカ言え、そんなの信じられるかよ。何仕込みやがった。てか、何が目的だよ」
「いやぁまあ、とりあえずうち来て欲しいんだけど」
「……そんだけ?」
「まぁ、そっからいろいろとだね」
「んだら、こんな手の込んだ仕込みなんてしなくったって。メール一通入れといてくれれば」
「だから、身体がすり抜けちゃうの」
「……はあ」
◇
「げ」
「うん」
「なにこれ」
「私」
「いや、お前はここに」
「あぁ、だから、死んじゃった」
「ほう」
「これは本体で、私は幽霊ってとこかな」
「いやいや。おい、冷たいぞこれ」
「だって死体だし」
「……」
「わかった?」
「どういうこと。なにこれ、ふざけてんの?」
「ふざけてないよ、ごめん。緊張感ないのはしょうがないんだ。私も、なんだか実感がわかないから」
「実感……」
「なんというか、死んだんだっていう」
「救急車」
「え?」
「呼んだほうがいいのかな」
「いや、もう死んでるし」
「ええと、じゃぁ、お前の、家族とか」
「まぁそういうことになるけど、とりあえずきみを呼んだ理由ってのがあるじゃん」
「あ、ああ。そうだ、じゃぁなんで俺はここに」
「きみには、その、遺品整理ってやつをやってもらいたいんだ」
◇
「うわ、すげえ量だな、これ」
「へへ」
「わわ、まだあんぜ、奥に」
「うへへ」
「うへへ、じゃねえよ。どうすんのこれ。てか、なんでこんなの」
「毎日見てたんだ、まだあんたとヤッたことない時、ちょっと予習がてらさ。そしたら、ついついね」
「ついつい、って量かよ。知らなかったぜ」
「ゲンメツした?」
「ゲンメツ、っていうか……。げ、こっちのは」
「へっへっへ」
「笑ってんじゃねーって。なぜにオモチャまでこんなに……」
「ついついね」
「……」
「怒った?」
「え?」
「いや、その、隠してて」
「いや、まぁ、いいけど」
「やっぱり、おかしいよね、こんなの」
「いや、じゃなくてさ、まぁ、おかしいかもだけど。なんつーか、知りたかったかな、というか。お前のこと、全然知らなかったんだな、俺」
「嫌われるかと思ったから……」
「嫌うかよ。あーあ。だって、なんだ。俺だって、割りとノーマルなことしかしなかったじゃんよ」
「うん」
「もっと、色々出来たな」
「……えっち」
「お前に言われたかねーよ。だーもう。どうすんだよこれ」
「あげる」
「これ全部?」
「全部。私の、遺品」
「う、うん」
「使って」
「……なんか、違くねえ?」
「そう、かな」
「そうだよ、もっと遺品ってこう、なんていうかな、感動的なさ。俺もよくわかんないけど。まぁ、でもある意味一番お前らしいのかな」
「へへ、なんか変な気分」
「でも、なんか嬉しかったよ。死んでから、まず俺んとこ来てくれたんだもんな」
「いや、だって、親とかに見られたら恥ずかしいじゃん」
「あ、そういうこと……」
「ショック?」
「ちょっと」
「へへ、嘘だよ。それもちょっとはあるけど」
「お前、なぁ……」
「死人ジョーク死人ジョーク」
「笑えねえって」
「……ありがとうね」
「いいって。あとは? 他に、なんかねえの」
「あとは……そこの、空いたところに、本とか置いてもらおうかな」
「本?」
「うん、まじめな学生っぽく見えるように」
「それは卑怯じゃねえ?」
「やっぱ、そうかな」
「そうだよ。でも、ここだけ空いてても不自然か」
「でしょでしょ」
「でもなぁ」
「最後のお願い」
「最後、か」
◇
「こんな感じかな」
「いい、いい。こういう大学生活をさ、夢見てたんだよ、私は」
「叶わぬ夢だったな」
「ね。……でも、あんたと会えて、よかった」
「恥ずかしい思いしなくて済んだから」
「そうじゃないって。もう、拗ねないでよ」
「はは、わりい」
「あ、あとさ、パソコンの中」
「うん?」
「日記があるんだ、私の」
「黒歴史?」
「そ。歴史上に残したくない、私のね。それ、私が成仏したら、持って行って」
「成仏?」
「思い残したことはもうないからさ、やりたいことはまだ沢山あったけど、でも、最低限はやってもらったからね」
「消えちゃうの?」
「うん」
「……片付けなければ、お前消えずに済んだのかな」
「どうかな。わかんない」
「……」
「ごめんね」
「なんで」
「え?」
「なんで死んじゃったんだよ」
「……ちょっと、ファンタジー気分台無しにしちゃうけど、エコノミークラス症候群ってやつ」
「……馬鹿かよ」
「馬鹿しちゃった」
「じゃなくて……なんなんだよ。俺達、これからもっと、いろんなこと出来たろうにさ」
「うん」
「お前だけ先に逝っちゃうなんてさ、そんなの」
「ごめん」
「どうすんだよ、一緒にレポート書くわけだったのに、俺、あの教授大嫌いなのに」
「うん」
「独りでなんて、俺、やっていけないよ」
「……」
「消えないでくれよ」
「だめ」
「どうして」
「もう死んじゃったもの」
「俺は、お前にとって、心残りじゃないのかよ」
「そんなの、心残りに決まってるよ」
「じゃぁ」
「決まりだもの。私はもう、死んじゃったの。でもあなたは生きてる」
「おれも死ぬ」
「だめ」
「自殺する」
「やめて、お願い」
「……俺が、いや?」
「違う。あなたは生きてる。私が生きられなかった世界で、まだ生きられるの」
「生きたくない」
「生きて」
「俺、心残りなんてないよ」
「私が、心残り」
「……」
「ごめん、いつも勝手だ。でも、精一杯生きて。誰か、他の人を好きになって。そうやって、普通の人としてでいいから、生きて。あと、私の日記はよろしく。これ全部私の遺言」
「……」
「じゃぁ、もう逝かなきゃ」
「……」
「元気でね」
「……」
「エコノミークラス症候群には」
「……気をつけるよ」
「うん。じゃあ、また何十年後かに」
「好きだった」
「……うん、私も、好き」
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彼女がエコノミークラス症候群になったそうです。
会話だけの小説です。
2011-11-01 20:24:07 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:77 閲覧ユーザー数:77