No.327981

エコノミークラス症候群

彼女がエコノミークラス症候群になったそうです。
会話だけの小説です。

2011-11-01 20:24:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:77   閲覧ユーザー数:77

「ねえ」

「……」

「もしもーし」

「……へ? あれ、お前、なんで?」

「やあ」

「やあ、じゃねえよ。だって、おかしいな。鍵閉めてたはずなんだけど」

「へへ、ちょっとすり抜けてですね」

「すり抜け?」

「うーんなんというか、身体がすり抜けられるように、ね」

「……何言ってんだよ」

「まぁ、こんな感じに」

「げ、はぁ? 何の真似だよこれ。もしかしてプロジェクターとか? どっかにあんの?」

「そんなのないよ。だから、私がすり抜けられるようになったんだって」

「うわ、嘘だろ……。何かトリックが」

「信じてよ」

「バカ言え、そんなの信じられるかよ。何仕込みやがった。てか、何が目的だよ」

「いやぁまあ、とりあえずうち来て欲しいんだけど」

「……そんだけ?」

「まぁ、そっからいろいろとだね」

「んだら、こんな手の込んだ仕込みなんてしなくったって。メール一通入れといてくれれば」

「だから、身体がすり抜けちゃうの」

「……はあ」

 

 ◇

 

「げ」

「うん」

「なにこれ」

「私」

「いや、お前はここに」

「あぁ、だから、死んじゃった」

「ほう」

「これは本体で、私は幽霊ってとこかな」

「いやいや。おい、冷たいぞこれ」

「だって死体だし」

「……」

「わかった?」

「どういうこと。なにこれ、ふざけてんの?」

「ふざけてないよ、ごめん。緊張感ないのはしょうがないんだ。私も、なんだか実感がわかないから」

「実感……」

「なんというか、死んだんだっていう」

「救急車」

「え?」

「呼んだほうがいいのかな」

「いや、もう死んでるし」

「ええと、じゃぁ、お前の、家族とか」

「まぁそういうことになるけど、とりあえずきみを呼んだ理由ってのがあるじゃん」

「あ、ああ。そうだ、じゃぁなんで俺はここに」

「きみには、その、遺品整理ってやつをやってもらいたいんだ」

 

 ◇

 

「うわ、すげえ量だな、これ」

「へへ」

「わわ、まだあんぜ、奥に」

「うへへ」

「うへへ、じゃねえよ。どうすんのこれ。てか、なんでこんなの」

「毎日見てたんだ、まだあんたとヤッたことない時、ちょっと予習がてらさ。そしたら、ついついね」

「ついつい、って量かよ。知らなかったぜ」

「ゲンメツした?」

「ゲンメツ、っていうか……。げ、こっちのは」

「へっへっへ」

「笑ってんじゃねーって。なぜにオモチャまでこんなに……」

「ついついね」

「……」

「怒った?」

「え?」

「いや、その、隠してて」

「いや、まぁ、いいけど」

「やっぱり、おかしいよね、こんなの」

「いや、じゃなくてさ、まぁ、おかしいかもだけど。なんつーか、知りたかったかな、というか。お前のこと、全然知らなかったんだな、俺」

「嫌われるかと思ったから……」

「嫌うかよ。あーあ。だって、なんだ。俺だって、割りとノーマルなことしかしなかったじゃんよ」

「うん」

「もっと、色々出来たな」

「……えっち」

「お前に言われたかねーよ。だーもう。どうすんだよこれ」

「あげる」

「これ全部?」

「全部。私の、遺品」

「う、うん」

「使って」

「……なんか、違くねえ?」

「そう、かな」

「そうだよ、もっと遺品ってこう、なんていうかな、感動的なさ。俺もよくわかんないけど。まぁ、でもある意味一番お前らしいのかな」

「へへ、なんか変な気分」

「でも、なんか嬉しかったよ。死んでから、まず俺んとこ来てくれたんだもんな」

「いや、だって、親とかに見られたら恥ずかしいじゃん」

「あ、そういうこと……」

「ショック?」

「ちょっと」

「へへ、嘘だよ。それもちょっとはあるけど」

「お前、なぁ……」

「死人ジョーク死人ジョーク」

「笑えねえって」

「……ありがとうね」

「いいって。あとは? 他に、なんかねえの」

「あとは……そこの、空いたところに、本とか置いてもらおうかな」

「本?」

「うん、まじめな学生っぽく見えるように」

「それは卑怯じゃねえ?」

「やっぱ、そうかな」

「そうだよ。でも、ここだけ空いてても不自然か」

「でしょでしょ」

「でもなぁ」

「最後のお願い」

「最後、か」

 

 ◇

 

「こんな感じかな」

「いい、いい。こういう大学生活をさ、夢見てたんだよ、私は」

「叶わぬ夢だったな」

「ね。……でも、あんたと会えて、よかった」

「恥ずかしい思いしなくて済んだから」

「そうじゃないって。もう、拗ねないでよ」

「はは、わりい」

「あ、あとさ、パソコンの中」

「うん?」

「日記があるんだ、私の」

「黒歴史?」

「そ。歴史上に残したくない、私のね。それ、私が成仏したら、持って行って」

「成仏?」

「思い残したことはもうないからさ、やりたいことはまだ沢山あったけど、でも、最低限はやってもらったからね」

「消えちゃうの?」

「うん」

「……片付けなければ、お前消えずに済んだのかな」

「どうかな。わかんない」

「……」

「ごめんね」

「なんで」

「え?」

「なんで死んじゃったんだよ」

「……ちょっと、ファンタジー気分台無しにしちゃうけど、エコノミークラス症候群ってやつ」

「……馬鹿かよ」

「馬鹿しちゃった」

「じゃなくて……なんなんだよ。俺達、これからもっと、いろんなこと出来たろうにさ」

「うん」

「お前だけ先に逝っちゃうなんてさ、そんなの」

「ごめん」

「どうすんだよ、一緒にレポート書くわけだったのに、俺、あの教授大嫌いなのに」

「うん」

「独りでなんて、俺、やっていけないよ」

「……」

「消えないでくれよ」

「だめ」

「どうして」

「もう死んじゃったもの」

「俺は、お前にとって、心残りじゃないのかよ」

「そんなの、心残りに決まってるよ」

「じゃぁ」

「決まりだもの。私はもう、死んじゃったの。でもあなたは生きてる」

「おれも死ぬ」

「だめ」

「自殺する」

「やめて、お願い」

「……俺が、いや?」

「違う。あなたは生きてる。私が生きられなかった世界で、まだ生きられるの」

「生きたくない」

「生きて」

「俺、心残りなんてないよ」

「私が、心残り」

「……」

「ごめん、いつも勝手だ。でも、精一杯生きて。誰か、他の人を好きになって。そうやって、普通の人としてでいいから、生きて。あと、私の日記はよろしく。これ全部私の遺言」

「……」

「じゃぁ、もう逝かなきゃ」

「……」

「元気でね」

「……」

「エコノミークラス症候群には」

「……気をつけるよ」

「うん。じゃあ、また何十年後かに」

「好きだった」

「……うん、私も、好き」

 

 

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