No.327398

真剣で私たちに恋しなさい! EP.9 仲間達

元素猫さん

真剣で私に恋しなさい!を伝奇小説風にしつつ、ハーレムを目指します。
「まじこいS」が楽しみです。新キャラも色々登場させたいですね。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-10-31 21:43:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6680   閲覧ユーザー数:6253

 川神院に、風間ファミリーの面々が集められた。何か大変なことが起きたのだろうということは、さすがに感じ取っているようで、皆、神妙な面持ちで座っている。

 川神百代と椎名京、直江大和の姿はない。

 

「待たせたようじゃの」

 

 やがて、川神鉄心が百代、京を伴って部屋に入って来た。百代の表情は険しく、京は憔悴しきった顔をしている。

 

「学園の方には儂が連絡をしておいた。どうせ土曜日は半日なんじゃから、午後でも良かろうと儂は言うたんじゃが、百代が聞かなくての」

「当たり前だ、じじい! 大事な……大和の事なんだ」

 

 百代が拳を握りしめてそう言うと、風間翔一が口を開いた。

 

「寮で何かあったって、夜のバイトから帰ってまゆっちに聞いたけど、いったい何があったんだ? 大和がいないじゃないか」

「それは――」

 

 夜這いの事は伏せつつ、百代は大和に起きた出来事を仲間達に話して聞かせた。誰も口を挟むことなく、黙って耳を傾ける。一通りの説明が終わると、百代は改めて鉄心を見た。

 

「理由は、私にはわからない。でも、じじいなら知っているんじゃないかって、今朝、目が覚めて詰め寄ったんだ。わかる範囲で話すと言うから、それならみんなにも聞いてもらおうと、こうして集まってもらった」

 

 全員が鉄心に視線を向ける。いまいち話の内容が理解出来ない一子も、さすがに空気を読んで黙っていた。

 

「ふむ……何から話せばよいのか。あくまでも推測じゃが、直江にはかつてこの地に住んでおった竜神が取り憑いておるのかも知れん」

「竜神? そんなものの存在は初耳だ」

 

 百代が言うと、同意するように他の面々も頷く。

 

「そうじゃな、少し、川神の歴史について話そうかの」

 

 鉄心は以前、ルーに話して聞かせた葛木行者と祟り神となった竜神の戦いについて、みなに語った。それは、川神院創建の歴史でもあった。鉄心はさらに、竜舌蘭にまつわる言い伝え、書庫の隠し部屋にある行者の秘術書、そしてそれを盗み出した釈迦堂刑部のことなど、包み隠さずに彼らに伝えたのである。

 

 

 黙って話を聞いていた百代が、鉄心を見て口を開く。

 

「だいたいわかった。確かにあの時の大和の気配には、普通の人間じゃない邪悪さが感じられたが、それが竜神だっていう確証はあるのか?」

「じゃから言うておるじゃろう。あくまでも推測じゃと。正直なところ、儂も釈迦堂が秘術書を盗み出さなければ、こんな神話なぞ気にも留めなかったくらいじゃ。それゆえ、わからぬこともまだ多いしのう」

「ちっ。役に立たない、じじいだな」

 

 悪態を吐いた百代は、ハッとした様子で鉄心に訊ねた。

 

「まさか、大和をあんな風にしたのは釈迦堂さんが関わっているんじゃ……」

「それはないじゃろう。問題のある男だったが、つまらない嘘を言う男ではない。おそらく、奴の使った何らかの術が影響して、直江の中にいる竜神が覚醒したと考えるのが妥当じゃのう」

「そうか……」

 

 どこかホッとした様子の百代は、仲間たちに視線を向けた。少し落ち着いた空気の中、岳人がさっそく一子をからかっている。

 

「ちゃんとわかったのか、ワン子?」

「も、もちろんよ」

「じゃあ、説明してみろよ」

「あ、あれでしょ? ほら、昔のエライ人が神様を倒せるほど強くて……それで、何か大和が大変だと」

「わかってねえじゃんかよ!」

 

 そう言って一子にツッこむ岳人を、卓也が生ぬるい目で見つめる。

 

「そういうガクトもだろ?」

「うっせー! モロはどうなんだよ!」

 

 二人がそんな言い合いをしていると、突然、翔一が立ち上がった。

 

「難しいことはどうでもいいんだよ! 大和が一大事だってことなんだ。俺たちがやることは、一つしかないじゃんか」

「そうだ」

 

 真剣な表情で、百代が同意する。

 

「竜神のことは後でもいい。今はとにかく、大和を見つけ出すことだ」

「おう!」

 

 全員がやる気を露わにし声を上げる中、京だけがどこか暗い眼差しでうつむいている。それを横目に見ながら、百代は心に浮かぶ不安を打ち消した。

 

 

 休み時間の学園の屋上に、珍しい組み合わせの姿があった。忍足あずみとマルギッテの二人である。共に同じS組ではあるが、接点はあまりない。

 ただ、二人にはある共通点があった。それはどちらにも、守るべき者がいるということだ。あずみには九鬼英雄、マルギッテにはクリスという命に代えても守らなければならない存在があった。それゆえだろう、周囲の変化には人一倍、神経を尖らせていたのだ。

 

「てっきり、そっちが何かしでかしたのかと思ったがな」

「それはこちらのセリフです。九鬼財閥が新たな兵器でも投入したのかと思いました」

「兵器ね……」

 

 あずみは呟き、眉をひそめた。

 

「あれは、そんな生ぬるいもんじゃねえ。わかってるんだろ?」

「……」

 

 昨夜感じた気配は、長い間、戦場を生きてきた二人でさえも初めて感じるような、深い闇の匂いをまとわりつかせていた。

 

「久しぶりだった。頭の後ろがピリピリ痺れるような感覚だ。死と常に隣り合わせだった昔、何度も感じた事のある緊迫感。踏み出す一歩、一歩が重く苦しい、地雷原の行軍みたいなあの緊迫感だ」

「私も似たようなものを感じました。さすがは、武士道の国です」

「いや、それはあんま関係ないだろ?」

 

 そんなツッコミをしつつ、あずみは深く息を吐く。

 

「偶然か、今日はモモ先輩たちが揃って休みらしいじゃないか?」

「クリスお嬢様からは今朝、川神院に行くと連絡がありました。内容は伺ってませんが」

「ふん。となれば、一番怪しいのはソッチか……いずれにせよ、あたいは戦いたくはないね」

「私は少し、興味があります。ですが……」

「ん?」

「得体の知れない、怖さもまた――」

 

 風が吹き抜ける。あずみは思う。戦場で信じられるのは、自分だけだ。この腕と勘で、幾多の戦場を生き抜いてきた。そんな自分の勘が囁く。

 

(これは、始まりの狼煙だ……)

 

 平和な街に投げ込まれた、手榴弾のように。

 

 

 少し時間をさかのぼる。早朝、人通りの少ない通りに一人の女性がたたずんでいた。男性用の黒いスーツを着こなしたショートカットの女性で、右手には日本刀を握っている。

 

「邪悪な気配を感じてやって来たが……」

 

 戸惑うように周囲を見渡しながら、落胆を隠せない様子でとぼとぼと歩き出す。

 

「おにぎりでも持ってくればよかった」

 

 そう呟きながらうろうろとしていると、不意にあるものを見つけて足を止めた。それはゴミの集積場に倒れる直江大和の姿だ。

 

「酔っ払いか? いや、腕を怪我しているな」

 

 女性は近寄ると、大和の両腕をまじまじと観察する。

 

「骨折しているようだが……よほどの手練れか、後からくっつき易いように綺麗に折ってあるな」

 

 すぐさま女性は、そばにあった雑誌の束に手を伸ばす。紐をほどき、厚めの週刊漫画雑誌を取り出すと、大和の腕を包むようにあてがった。そしてほどいた紐で、雑誌をぐるぐると腕に固定していったのである。両腕に同じように雑誌を縛り、女性は満足そうに頷いた。

 

「添え木の代わりにはなるだろう。後は医者に診せればよいが……しまったな、次の仕事まであまり時間がない」

 

 土地勘のない場所ゆえ、女性には病院がどの辺りにあるのかわからない。困った様子で考えこんでいると、不意に誰かが声を掛けて来た。

 

「あれ、大和君?」

「ん?」

 

 声に気付いた女性が振り向くと、警備員のバイト帰りの板垣辰子が立っていた。

 

「お前はこの子の知り合いか?」

「うん、よく知ってるよ」

「それは丁度良かった。私はもう行かねばならない。後を頼んでも構わないだろうか?」

「わかったよ」

 

 そう言うと、辰子は大和を背中におぶった。

 

「両腕の骨が折れている。医者に診せるといい。そうだ、これを渡しておこう」

 

 女性はポケットから、何やら薬包を取り出す。

 

「持ち歩いている痛み止めだ。効き目は短いが、即効性がある。痛みがひどく、暴れるようなら飲ませるといい。あと、これは私の名刺だ。何かあれば、いつでも頼ってくれ。ではな」

 

 辰子は女性から薬包と名刺を受け取り、走り去るその後ろ姿を見送った。そしてふと、名刺に視線を落とす。

 

「鉄乙女……護り屋?」

 

 ボディーガードのことだろうか。辰子はそれをポケットにしまい、大和を背負ったまま帰路を急いだ。


 
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