No.318950

閃光のプロキオン 第一話 犬の先駆〈プロキオン〉

今から17年前。東京を壊滅させる程の何かが起きた。都市は破壊され、日本は17年の歳月を経て首都を長野県へ移した。しかし、『何か』がもたらしたものはそれだけでは無かった―――

2011-10-15 23:29:31 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:376   閲覧ユーザー数:375

プロローグ

 

17年前。日本は未曾有の危機に陥った。東京で起きた「何か」によって首都の機能は全て止まって国の運営は最意不能だと言われた。

それからいろんな国の人たちにお世話になって今では東京は第一級封鎖区画と名前を変えている。

こんなこと今では中学生。いや、下手したら小学生でも知っているような知識だ。

首都は長野県に移され、日本はようやく再び歩きだした。

 

第一話 犬の先駆〈プロキオン〉

 

 

「こら、瀬田!何やってる!」

スコン。頭に何かが当たったような感覚がする。僕は何事かと思って上を見上げると仏頂面の先生が立っていた。その手には丸めた日本史の教科書があって僕はそれに殴られた。

どうやら僕は眠っていた。前の席の西 涼介が僕のほうを振り向いて笑う。何だと思って頬に触ると凹凸のような物が感じられた。顔にシワが出来たのだ。

涼介を原因に始まった笑いはクラス中に拡散し、先生はイライラを募らせる。とうとう怒りが頂点に達したのか先生はチョークを黒板に叩きつける。

「いいか、続きからやるぞ。17年前の『何か』が発生した後、東京探査探査班として――」

僕は頬のシワを隠すように触れながら窓を見た。僕の席は窓際ではない。窓際の横の列、そこの一番後ろだ。しかしながら僕の隣は空席で既に半年はそこの席の持ち主が現れたことは無かった、確か長門さんがったかな?

物思いにふけっている間にも授業は進んでいる。東京探査班。東京が壊滅した理由を解き明かすべく相模原宗介という科学者がいろんな人を引き連れて東京に向かった。けれども第6回の東京探査班で班員は皆行方不明になった。確か昨日の予習で読んだ内容はそんな感じだった。

 

 

5時限目の社会が終わり、掃除当番だった特別教室を適当に箒ではくと僕は教科書類の入ったカバンを肩にかけると隣の教室である2年4組の廊下に立った。ややあって教室の中から茶髪の髪の長い少女が急いでカバンを持って僕の方へ駆け寄る。

「ゴメン、待たせた?」

「いいや」

そう言って僕らは歩きだした。

僕と彼女、「雀野 愛菜」は恋人でもなんでもない。ただのご近所さんだ。訳あって家に親の居ない僕は彼女の家になかば居候の形で住ませてもらっている。その理由はというと僕の親父は軍人だからだ。それも全て東京で起きた「何か」が関係している。

突然遺伝的変異凶暴化生命体。異性体とかMFLと呼称される奇形の生物が17年前から大量発生し始めた。遺伝的な影響で凶暴化した生物は人々を襲い、二次災害を引き起こした。これも昨日日本史の教科書で読んだことだ。始めはアメリカに頼っていたけど今では自衛軍が本格的に異性体の駆除を始めている。

時折この新長野市にも現れることもあったりするぐらいで親父の勤め先のVMFLという部隊が出動しているらしい。

 

下駄箱で靴をはきかえると校門前の駅には既に電車が止まっていた。新長野市は再開発によって交通網が発達した。学校などの施設をいっぱいつくるよりも交通網を発達させた方が安上がりだからだ。

僕と愛菜は電子定期券を改札にタッチさせるとホームへと向かった。新長野第三高校駅はさほど広くはない。僕らは止まっていた電車に駆け込むと万席だった座席を諦めて奥の窓際に背中をもたれた。

「間も無く発車します」

アナウンスが流れ、警笛が鳴ると数秒してから電車が発車した。

ガタンガタンと一定のリズムを刻んだ揺れが僕を眠りへと誘うが夕暮れの強い日差しがそうはさせてくれなかった。

「ねえ、今日の夕飯は何がいいかな?」

愛菜がツンツンと僕の制服をつつきながら言った。

「そうだな――」

両手を組んで考える。無難にカレー……いや、ハンバーグか……

すると先程の列車の揺れとは比にならない震動が響いた。強い地震でも起きたのかというような強い揺れが。

「最近……多いね」

愛菜が窓を見ながら言った。僕は愛菜の視線の先を追う。町の中で黒い煙が上がっている。

「また異性体か……」

慣れというのは怖いもので地震に日本人が慣れているように現存している巨大都市の中で一番東京に近いこの長野にはよく異性体が現れた。

サイレンが鳴った、予め列車に取り付けられたものだ。

「新日本政府よりお伝えします。現在、新長野市B7ブロックにてMFLが出現しました。よって、この列車は通常運行を中止しシェルターに向かいます。ご了承ください。繰り返し――」

バチンと音が鳴った。その途端に電車が大きく揺れる。何時もの路線から緊急時避難用の路線に変更されたのだ。

電車の中にいた人たちも慌ただしくなった。いつもは冷静なはずなのに僕も今日は妙な胸騒ぎがした。

「ねぇ、大丈夫……よね?」

愛菜が僕の服を引っ張って言った。するとマナーモードにしておいた僕のケータイが震えた。先程から妙な感じがしていた所に電話が鳴ったのでやけに怖かった。

ポケットから取り出して電話ににでる。掛けてきたのは涼介だった。

「どうした?」

僕が呑気にそう聞くと涼介は息を切らして答える。

「どうしたもこうしたもねえさ。ったく、緊急時回線に変更される前につながってよかったぜ」

「で、何の要件だ?変異体が来てるんだろ、逃げなくてもいいのか?」

「そんな事してられっか!自衛軍の新兵器を拝むチャンスなんだぞ!前々から噂になってたけど緊急時にしか使わないって言われてたしな。外見てみろよ、そこら中MLFだらけだぜ」

涼介がそういうので僕は反対側の窓をみた。おかしい。真っ暗だ。光が一切差し込んで居ない。

「……まさか!」

その黒いものが途端に動いた。液体のような物を列車に塗りつけながら。

列車の中はさらにパニックに陥った。満員電車じゃなかったのが幸いだ。

「ねえ大ちゃん……あれってMFL……」

ギロリ。何かが睨んだ。黒い物体から見開かれた赤い眼球が僕らを睨みつける。

「伏せろおぉぉぉぉォォォッ!」

無理やりに愛菜を床へ倒す。その刹那、何かを切り刻むような音がして電車が大きく揺れた。大きくなんてレベルじゃない。転がった。

二、三度壁や床に背中を打ち付けるとようやく列車は動きを止める。

僕は窓を見た。破られたガラスは血が滲んでいて既にそこにMLFの姿は無かった。

携帯を見る。通話は涼介の方から切れていた。

「……そうだ、愛菜!無事か?」

ハッとして愛菜を探した。良かった。すぐ僕の近くにいた。

「大丈夫か愛菜?」

「うん、ちょっとぶつけたみたいだけど」

白い足には青痣が出来ていた。

「立てるか?」

「うん」

彼女はそう言いながらも僕の手に捕まって腰を上げる。

 

酷い有様だ。生き残った人たちは必死に連絡を取ろうとしながら壊れた電車から出ていく。車体は真っ二つで一部火が出ている。これは爆発してもおかしくない。

「愛菜、早くシェルターに行こう」

愛菜の手を引っ張ると僕は凹んだ扉を外して外へとでた。

 

 

「戦況報告を」

プシュッと音を立て、近未来的な雰囲気の巨大な部屋に男が入った。男は瀬田浩三。VMFLの司令官。

たくさんのモニターとランプ、そして人間がひしめきあうその部屋には警報が鳴り響く。

「現在MFLはB7ブロック、D14ブロックより進行中。現在第七次防衛ラインにて機構中隊が交戦中。戦局は劣勢です」

瀬田は一番上の真ん中の席に座ると肘を突き、考える。

「増援を出せ。これ以上の被害は許すな」

部屋にいたオペレーター達が「了解」と答える。その声が重なり、瀬田の耳に届く。

「ほう、同時に二体とは異例ですね」

「……鏑木教授か」

白衣を着た男が何時の間にか彼の後ろに立っていた。

「どうするんです、瀬田司令。プロキオンはもう準備出来ておりますが」

「まだ最終テストが残っている筈だ。まだ出撃は出来ない。それにシリウスの二の舞にしたくはない」

「今度はそうはさせませんよ」

白衣の男はそう言うと瀬田の前に立ってニヤリと笑ってみせた。

 

「どうなってんだよ……」

僕は言葉を失った。町の一部。B区画と呼ばれる商業施設の立ち並ぶここは火の海になっている。

「大ちゃん、シェルターが……」

崩壊している。崩された娯楽施設によっ封鎖されたシェルター。そして前には火の海。前に進むなんて出来ない。でも何処に逃げればいいんだ……

「……そうだ、父さんから貰ったID――」

思い出す。父さんがいざとなったら軍施設に逃げ込めと言っていたこと。そしてその時に僕用にIDカードを作ってくれたこと。僕の記憶が正しければカバンのなかにある財布に入っているはずだが……

「大ちゃん!」

愛菜に名前を呼ばれて考えが吹き飛んだ。それと同時、僕らの後ろには巨大な生物がいた。犬のような四本足とイソギンチャクのような触手、顔からは唾液があふれ出ていて赤く染まった目で僕らを見つめる。

「愛菜、逃げるぞ!」

手を取って走る。でもあんな化け物からどうやって逃げろって言うんだ。今日は本当にどうかしてる。父さんは何をやってるんだ。

すると目の前、パチンコ店に止められたバイクが目に入った。バイクには鍵が掛かりっぱなしで近くには血溜まりと腕のような物が転がっている。僕は吐きそうになるのを必死に堪えてバイクに乗った。

「愛菜!早く!!」

「でも、大ちゃん免許なんて――」

「そんな事言ってる場合かよ!」

僕は愛菜が後ろに座った事を確認すると途端にアクセルを全開にした。不安定な前輪が持ち上がって急加速をする。それから少しして車輪は地面へと着く。

しかし、僕らの状況は変わらない。後ろには巨大なMFL。彼らは殺人衝動し駆られた醜い生物。父さんはそう言っていた。だけど今の状況で僕にはそれが醜くなんて見えなくて恐ろしく見えてたまらなかった。

「クソッ、なんだアイツ。なんであんなに早いんだよぉ!」

諦めるように声を出した。急加速をしても振り切れないし、モノレールのレールにぶつかっても何事も無く襲ってくる。

「自衛軍は何を――」

僕がそう言った途端、交差点を疾走するものがあった。グレーと白、黒の混ざった市街地迷彩に塗装された小柄な戦車。VMFLが正式採用している高機動戦車――と涼介が熱く語っていたっけ。

助かった気分だった。でもそうでもない。標識には『VMFL本部まで1km』と書かれている。もうここまで来ていたのかと半ば呆れてしまう。

「おい坊主!さっさと逃げろ!」

砲手のオジサンがそう言ってMFLに弾丸w撃ち込む。疾走している僕と愛菜も耳を塞ぎたくなるような爆音が轟く。

足に一発。命中した途端に炸裂した弾丸はMFLの足を崩す。

横転したMFLを尻目に僕はもう一度アクセルを強く握る。ヘルメット無しの顔に冷たい風が通り過ぎた。

 

VMFL基地への看板は途中で途絶えた。勘を頼りに進むけれど確証はないから不安だった。

ややあって僕は地下につづくスロープを見つけた。確か前に父さんの職場を見せて貰った時はこんな感じの所から入った気がする。

スロープをゆっくりと下る。ここまで来たらMFLが襲ってくる事は無い。

地下駐車上に入る。閑散とした駐車場は人っ子しとりいない。いや、非常事態にこんな所にいるほうがおかしいのだろう。

僕はバイクを駐車場に止めると愛菜の手を引っ張ってゆっくりと下ろした。愛菜の足はガクガクと震えていた。

「確かこの辺に――」

昔の記憶をたどる。駐車場の入口から奥へ進んだ所に大きめのドアがあったはずなのだが……

「ねえ、大ちゃん。これじゃない?」

愛菜が指を指す。僕は最初、ただの壁かと思ったがよく見ればスリットが入っていた。僕も恐らくここだろうと思って扉を開けようとする。金属の重厚な扉はそう簡単にはびくともせず、開ける時にはへとへとになった。

ずずず、と引きずった音がして扉がしまっていく。けれども僕は目の前の物を呆然と見ていた。

「これって、涼介の言ってた―――」

巨大なロボット。恐らく7mぐらいはあるだろう。

「それではプロキオンの起動実験はこれから――」

声が途端に聞こえた。僕は思わず愛菜の手を引っ張って奥の屏に隠れる。

「――誰かいるのか?」

ガチャリ。聞き慣れない音がした。金属が擦れる独特のこの音。

僕は仕方なしに両手を上げてゆっくりと上げて表へ出る。

「その……僕ら逃げ込んできて……」

「民間人はここには入れないはずだが?」

白衣姿の男とぴちっとしたウェットスーツのような服を着た男。そのうちの白衣の男が僕に向かって銃を向けた。

「その……これっ!これです!僕、瀬田大佐の息子で――」

「大佐の息子さんか……」

IDカードを見てようやく納得してくれたのか男は銃を降ろす。

「で、そちらのお嬢さんは?」

「居候先の雀野 愛菜さんで、一緒にMFLから逃げていて――」

ボンッ!

途端に耳をつんざくような音がした。それからややあって熱風が部屋に立ち込める。

「クソッ……博士、早くプロキオンを出さないと」

「ああ。――そこの君たちは隠れていろ、死にたくなければな」

白衣の男の言っている通り。僕らはそれに従って奥の壁に身を隠した。

愛菜が小さくなっている。お父さんの事、お母さん事。心配することだったらいくらでもある。

もう一度爆発が起きた。今度はさっきよりも近い。音がした途端に温度の増した熱風が体を包む。

「……愛菜。僕、ちょっと見てくる」

そう言って立ち上がる僕を愛菜は止めた。制服を引っ張って必死に抵抗する。

「ダメだよ、ここから出たら死んじゃう!」

「うん。――でも、僕だってやれる事があるはずなんだ。僕だってこれでも男なんだ」

そう言って僕は無理やりに愛菜の腕をふりほどく。

『男なら誰かの為に何かをしてみろ』

父さんが言っていた。その言葉が鮮明に再生される。

隔壁から出ると橋のような所に先程のスーツの男性と白衣の男性が横たわっていた。

「どうしたんですか?」などと聞かなくても原因は分かった。

白いロボットと対を為すように立つMFL。原因はコイツしかいない。居るはずがない。

「瀬田大佐の息子さんか……」

スーツを着た男性が僕の方を向いてゆっくりと話す。

「やめて下さい!しゃべらないでください!」

僕が必死に止めても彼は血を吹きながら話す。何が彼をそうさせるんだ。

「いいか、お前はこのプロキオンに乗れ。乗って彼女を助けろ!」

「――はいっ!」

言われるがまま。僕はロボットの胸にあるコックピットに乗り込んだ。戦い方なんてそんなモノは知らない。でも、誰かの役に立てるのなら――

「……戦え、守るために……」

そう言うと彼は何かのスイッチを押す。その途端、ハッチが締りコンソールが起動する。目の前に表示される球体型のモニターが周りを鮮明に映す。あの男の人も、白衣の人も、隠れた愛菜も見えた。さらに目を凝らしてみると白衣の男性はコンピュータのような物をいじっている。

「行け、少年!彼の意思を引き継いでみせろ!」

橋がゆっくりと動き、MFLとロボットを隔てる物がなくなる。

「プロキオン……そうか、プロキオン」

悲鳴にも似たMFLの鳴き声がこだます。

「プロキオン、行きます!」

レバーを無作為に動かす。それに連動してプロキオンの腕がMFLを殴る。

「この……この……この……このおぉぉぉぉォォォ!!」

思い切りレバーを押し込んだ。しかし、その重たい一撃は触手に絡み取られ、機体の制御が効かなくなる。

「待て……待ってくれ、どうなって――」

機体がきしむ。触手に締め付けられているのだ。

ギシギシと金属がきしむ。計器が悲鳴を上げ、モニターには砂嵐が起きる。

「クソッ!僕は結局……結局何も出来ないのかよ!!」

とくん。早かった心臓の鼓動一際強く感じる。今まで何とも思わなかった鼓動が違和感でもあるかのように感じるのだ。

『DE-S』

何の略称かは分からない。でもそのワードが砂嵐をかき消し、画面を覆い尽くす。

機体が金色し光り始める。光を放つと同時、『DE-S』の文字を振り払われるかのように消え失せる。

「……僕にやれること。僕にしかできないこと……」

ペダルを踏み込む。バーニアが点火するよりも前に機体が目に動き出す。機体を縛っていた触手はあまりの速さに耐えられなくなったのかプロキオンから剥がれ始める。

「ちょっと、プロキオン。何やってるの!」

途端に無線が掛かった。でも僕には使い方が分からないので何も答えることができない。それよりも目の前の敵に対して無我夢中だった。

「――まあいいわ、A20ブロックにてAD隊が待機してるわ。そこにおびき寄せて。いいわね」

通信が切れる。それと同時、画面には地図と赤い点が表示される。

「ここに行けってことか!」

もう一度ペダルを深く踏み込む、細い通路を火花を散らしながら進む。赤い火花と金色の光が美しい花火のような物を作り出す。

「目標地点まであと……50、40、30……」

光りが見えてきた。先程通信をしてきた人はきっとそこにいるんだろう。

「あと……20、10……0!!」

世界が開ける。夕日がモニタ差し込んだ。

それと時を同じくして多数の弾丸がMFLへと発射される。目の前には特殊な武器を装備した者達。足からはバーニアが噴出され、高度を一艇に保っている。

着弾する。その衝撃は僕にも伝わって途端に僕の集中力は切れてしまった。

へなへなと椅子にもたれかかる。先程まで押し出していたMFLはもう黒こげになっている。

終わったんだ。よくわからないまま戦ってしまったけど僕はこうして生きていて誰かを守ることが出来たのだ。


 
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