No.311313

ひたぎフェアリー 6

5の続き。

2011-10-02 11:17:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:339   閲覧ユーザー数:330

 

 

006

 

 

「貴方、また電話なんてかけてきて」

 戦場ヶ原の家の前に着いた僕は、それでもいきなりチャイムを押す勇気が無かったので、

 取りあえず電話で機嫌を伺ってみた。

 もしかしたら無視されたり、着信拒否にされているかも知れないと思ったが、無事戦場ヶ原は電話に出てくれた。

「その、話がしたいんだけど。少しいいか?」

「手短に用件だけ述べなさい、私は忙しいの」

「いや、そう言わずにちゃんと聞いてくれ。お前にとっても重要な話なんだ」

「重要かどうかは私が決めるわ、15秒だけ時間をあげる」

「おいちょっと——」

 なんだそのTVコマーシャルみたいな時間は。

「14,13,12……」

「覚えてないかもしれないけどお前は数日前に会った妖精に記憶を消されてしまったのかもしれないんだだからお前自身の記憶を取り戻す為にも僕に協力してくれっ!」

 物凄く早口になってしまったが、聞き取れただろうか。

 少しの沈黙の後に聞こえた戦場ヶ原の声は、すこし上ずって聞こえた。

「妖精が……なんですって?」

「妖精がお前の記憶を奪ってしまったのかもしれない。

 つまりお前は、そのせいで今記憶喪失なのかもしれないんだ」

 今度はさらに長い、それこそ30秒くらい沈黙が続いた後。

「ふふっ……あはははははっ、妖精が記憶をね、それで?」

 戦場ヶ原さん大爆笑。

 こんな笑い方をする奴だったっけか。

 あまりにも久しぶりすぎて、この状態の戦場ヶ原に対して違和感がありすぎる。

「いや、笑ってしまうのも判らなくは無いんだけどさ、真面目に聞いてくれ、今回も前回の蟹同様、怪異の仕業だと思うんだ」

「今回も、蟹? 何のことかしら?」

 あれ、この辺りの記憶も無いのか?

 そもそも今の戦場ヶ原の記憶が、どの辺りから途切れているのか、それが時間軸的な物なのか、事象的な物なのかすら判らない。

「その、今家の近く、というか家の前に居るんだけど、詳しい話がしたいから中に入ってもいいか?」

「……ええ、構わないわ」

「ありがとう」

 僕はドアノブに手をかけ、少し慎重になりながらドアを開ける。

 中では戦場ヶ原がテーブルの前に座り、携帯電話を折り畳んだ所だった。

 特に臨戦態勢というわけでも無さそうだったので、僕も戦場ヶ原の向かいに腰掛ける。

 一応意識して周りを見渡し、妖精みたいな物が居ないか気配を探ったが、それらしいものは感じ取れなかった。

「それで、改めて何の用かしら、阿良々木君?」

「お前が妖精のせいで記憶喪失になってるって話だ」

「ふふふっ、本当に貴方は愉快な脳みそをしているわね」

 本当に、容赦の無い暴言を吐くなコイツは。

「ていうか協力しろよな、お前だってこのままじゃあ困るだろ?」

「別にそんな事は無いわよ? 

 ああでも今正に不審人物に付きまとわれて、少し困っているけどね」

「お願いしますから協力して下さい!」

 もうとにかく下手に出るしかない。

 本当に素朴な疑問なのだが、どうやってこの人と会話してたんだろうな昔の僕。 

 取りあえず気を取り直してコミュニケーション再開。

「蟹の事は覚えていないのか?」

「何のこと?」

 記憶に無いのだろうか? 

 あの一件が、戦場ヶ原の性格を、ここまで研ぎ澄ませてしまう原因になったはずなのだけど。

「お前の母親が、その……怪しい宗教にはまった時の」

「……なんで貴方がそんな事を知っているの?

 ああ、そういえば彼氏なんだっけ?」

「先ずそこからかよ」

 もしかして今までのはとぼけられていたのだろうか?

 だとしたら前途多難過ぎる。

 妖精よりもこの状態の戦場ヶ原の方が強敵って感じだ。

「頼むから少しは僕の事を信用して話してくれ、でないと話が全然進まない」

「嫌よ、何処の誰だか知らない相手に、自分の話なんかしたくないわ」

「そんな——」

「だから貴方の方から自分の事を話しなさい、それで信用に足るか判断するわ」

 ——まあ、それでもいいか。

 それで戦場ヶ原が何かを思い出せれば万々歳だ。

 むしろ僕の話を聞いてくれるというだけで、一歩前進である。

「ええっと、一応僕はお前の彼氏だった訳だけれど」

「そもそも先ずそれが信用できないんだけど、一体どういう経緯で私は貴方とつきあう事になったのかしら?」

「まあ、そうなるよな……」

 僕は簡単に、階段で戦場ヶ原を受け止めた辺りから、告白を受けるまでの話をした。

 途中相槌こそロクに打たないものの、戦場ヶ原は大人しく、結構真面目に僕の話を聞いてくれたように思う。

 話しているうちに段々と、戦場ヶ原に対する違和感が消えてきた。

 ああ、確かに昔僕はこいつと、こんな風に話していたな、そんな懐かしい感じ。

「戦場ヶ原さんは随分と惚れっぽい女なのね」

「うん、お前だけどな」

 僕が話し終えた後の彼女の感想は、全くもって見も蓋も無いものだった。

「そう、そしてそれ以降、私は貴方に対する態度を軟化させたわけね」

「いや、あんまり変わらなかった」

「はい?」

「何故だか付き合い始めてからも、僕に対するお前の態度は、今みたいな感じだった」

「貴方よくそんな女と付き合っていたわね」

「だから、お前だけどな」

 まあそれは、僕自身たまに思ったりしたけれど。

「まあしょうがないわね、自分で言うのもなんだけど、私相当可愛いし、多少性格がアレでも、そんな事気にならないわよね」

「まるで僕が、女を顔だけで選んでる奴みたいな言い方は止めてくれないか?」

「そうじゃないなら、貴方随分と特殊な趣味の持ち主なのね、じゃあさっき私が貴方の首をボールペンで切りつけた時も、貴方は心の中で喜んでいたの。

 ああ、だからあんな事をされても、懲りずにこうして再びのこのこ現れる事が出来たのね、少し不思議に思っていたのだけれど、納得したわ」

「納得するな、それは誤った認識だ。

 僕はあくまで正常な感性を持った、普通の男子高校生だからな」

 その後、今度は戦場ヶ原の方から幾つか質問をされた。

 内容は、高校の中では二人はどんな感じだったのか、とか(高校に入った時の記憶はあるそうだ)僕の家族の事とか、そんな些細な事。

 そして最後に。

「貴方、羽川翼と、神原駿河という人間を知っているかしら」

 確認をするように戦場ヶ原。

「ああもちろん、僕たちのクラスメイトと、後輩だ。

 お前とは両方とも中学時代からの付き合いだったな」

「そう……貴方そこまで、私の中学時代の事まで知っているのね」

「信じてもらえたか」

「ええ、ストーカーにしては優秀すぎるわね。

 それでもその可能性が0になったわけでは無いけれど、取りあえず今は貴方の言葉を信じる事にするわ」

「そうかい、そりゃどうも」

 さて、ようやっとスタート地点である。

 といっても、具体的に何をすればいいのかは分からないわけだが。

 さっきまでの会話の途中で、記憶が戻ってくれる事を期待していたんだけど、どうやらその様子もない。

 ふと、携帯に着信があった。

 表示を見ると羽川から。

「ごめん、電話だ」

「どうぞ」

 僕は一応断りをいれてから羽川の電話に出た。

「もしもし」

「もしもし、阿良々木君」

「どうした羽川? 何かわかったか?」

「うんまあ、ところで阿良々木君。

 戦場ヶ原さんは今そこにいるの?」

「ああ」

「ちょっと部屋を出てもらえるかな?

 あんまり本人の居る前で、積極的にしたい話では無いし」

「まあ、そうだな」

 僕は一旦席を立ち、家の外に出た。

「それでどうしたんだ、羽川。何か解決策が見つかったのか?」

「残念ながら、そういうわけじゃないんだ、あれから調べる本を妖精関係に絞って、15冊くらいざっと目を通したんだけれど。

 それらしい、決め手になるような資料には行き当たらなかったの。

 でも一応経過報告と、もう少し戦場ヶ原さんの症状を聞きたかったから」

「そうか……」

 まあ、そうそう上手くはいかないよな。

 というか、あれから1時間ちょっとしか経ってないのに15冊か。

 やっぱり羽川さんすげえ。

「あんまり考えたくないけど、そもそもの前提が間違っているって事も、考えないといけないと思う」

「まあ、もちろんその可能性もあるよな」

 寧ろ当然といえよう。

 もともと僕の浅知恵からひねり出したものだし。

「それ以外にも、少し気になる事もあるから、取りあえず情報交換をしましょうか」

 それから、僕は戦場ヶ原の様子等を伝え、羽川はそういう事をする妖精の特徴、後は2,3具体的に確認して欲しい事と、アドバイスを受けた。

「うん、それじゃあこっちももう少し調べてみる。阿良々木君も頼んだ事、よろしくね」

「ああ、わかった」

 僕は電話を切って、再び家の中へ。

 戦場ヶ原は先ほどと変わらず机の前に座ったまま、携帯を弄っていた。

「お友達かしら?」

「ああ、羽川だ」

「彼女も私が今、どういう状況かを知っているのね」

「うん、そして協力もしてもらっている」

「そう」

 僕は羽川に言われたアドバイスや、確認しておいて欲しいと言われた事なんかを思い出しながら、会話を続ける事にする。

「本当はもっと、大勢に協力を仰ぎたいんだけどな」

「最近の私、あまり友達がいないみたいね」

「まあ、そうなんだよな」

 僕も人の事は言えないんだけど。

「本当は神原にも協力してもらいたいんだけど、あいつも微妙な立場だからな」

「どういう事?」

「ああ、お前は覚えて無いんだな。

 僕とあいつはお前を巡っての恋敵だったんだ。

 もう決着はついたんだけどさ。

 でも神原からしてみれば結果的に、僕がお前を奪った、みたいな形になってしまったからな。

 このままお前の記憶が無くなっていた方が、あいつにとっては都合がいいのかもしれない」

「ああ、そういう事ね。

 まあそれは確かに、協力を仰ぐのは止めておいた方がいいのかも知れないわね」

「やっぱりそう思うか?」

「ええ、幾らもう決着がついた事とはいえ、そういう話って結構根深いものよ。

 実際頼めば彼はやってくれるでしょうけれど、あまりお互い気分のいいことじゃないでしょう?」

「まあ無理に協力を仰ぐつもりもないさ、解決の糸口らしき物も丁度今、見えてきた所だし」

「あら、そうなの?」

 まあ殆どが羽川の功績なんだけれどな。

 というか、マジで羽川凄すぎるだろ。

 実際に直接見る事も無く、話を聞くだけでその怪異の正体を見破る。

 忍野が実際に八九寺との一件等で見せた事ではあるが、彼女は専門家ではないのに、それをやってのけた。

「その解決策っていうのを教えてくれないかしら?」

「もちろん、でもその前にお前に一つ確認したいんだけどさ」

 そう言って僕は改めて彼女に向かい合った。

「お前は戦場ヶ原ひたぎじゃないな?」

 

 

 

 


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