No.310302

猟犬たち

政府の犬と罵られた警察組織があった。 『ハウンドドック』 彼らの仕事は様々な事情で公に出来ない事件を秘密裏に処理すること。 それが例え政治家の醜い理由であったとしても…

2011-09-30 21:20:35 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:367   閲覧ユーザー数:367

 

『最も完全なる政治社会は、中産階級が支配し、他の二つの階級よりも数においてまさるそれなり。』

アリストテレス

 

この言葉からすると今の日本の政治は不完全だ。

かといって民衆が革命を起こすことはない。

ヒトは進化しすぎた。

個という存在が個人ではなく、集団としての個になったからだ。

社会という名の歯車を永遠に回し続けなければならないから。

だからヒトは己の喪失を恐れて社会の歯車となった。

 

俺も他人のことは言えないが。

ただ一つ俺が他と違うのは立場だ。

歯車ではなく『歯車の錆を取る』立場だ。

民衆が歯車なら俺はさしずめ錆取りのスプレーとかだ。

 

俺は亜久 聖。

政府の犬、『ハウンドドック』だ。

 

 

 

 

 

俺は一人、ビル街の間を歩いていた。

寒い夜だ。息は口から放たれた途端、白い靄となり、一秒とない空中散歩を経て、闇へと消えてゆく。

風は吹いていなく、スーツの上に着た黒いコートが一歩踏み出す度に僅かに揺れるだけ。

最も、風なんて吹いていたら寒くてどうしようもないが。

 

勿論、俺は私用で歩いている訳ではない。前での男に用があるのだ。

無論、仕事の。

俺はコートのポケットに右手を突っ込む。

ひんやりとした冷たい感覚が指先を襲う。

それでいてソイツは丸みを帯びている。

物体の正体はG36。

オーストラリアのハンドガンメーカー、グロック社製の45口径弾を用いる小型ポリマーフレームオート。

「そろそろ始めるぞ。」

コートの襟に付いている小型マイクに向かい、小声で話す。

数秒後、耳に装着したイヤホンから「了解。」と言う声が聞こえた。

それを確認すると俺は右手をポケットに入れたまま歩くペースを早めた。

奴との距離は僅かだが狭まってゆく。ほんの数センチだが相手に悟られるよりはマシだ。

距離は大体目分量で10m前後。撃ち殺すのは容易だ。

だが幾ら機密組織とはいえ警察が簡単に「犯人が近くにいたので撃ち殺しました。」なんて洒落にならない。

ゆっくりと、確実に近づく。

すると奴は左に曲がった。ビルとビルの間。細く狭い路地。

「レディ」

マイクに向かって呟く。

「3カウント。」

どうやら俺の相棒もご到着のようだ。

「3、」

右手をポケットから抜き出す。

「2、」

左手は腰のナイフシースへと動かす。

「1、」

白金に輝くスタンナイフが月光を反射する。

「GO!!」

二人の声が合わさった。

鈍い音がビルの壁に反響する。俺の相棒、「拳隆 翔」が麻薬の購入者を殴った音だろう。

そう、俺がつけていたのは麻薬の密売人だ。

俺はその間にすかさずナイフを刺した。刃は、密売人の左肩に刺さる。

「テメェ等、警察か!?衣笠の差し金だな?」

黒人の密売人は姿に似合わぬ流暢な日本語を話す。

「そうだ、政府からの依頼だ。」

答えつつも俺はナイフを奥へと刺し込む。密売人が悲鳴を上げるが俺は動じない。

どくどくと血は流れ、奴の茶色のコートは傷口から赤黒くなってゆく。

「あの野郎……、金さえ払えば売っても良いといったのに…。」

「事情が変わったんだ、証拠隠滅さ。」

「まさか!?献金が!!」

だが動じない、仕事だから。

俺はグリップ部のスイッチを押し、電流を流した。

密売人はその大きな体をぐったりと地面に倒した。

「ああ、亜久だ。回収車を。任務は完了した。」

鉄の匂いが辺りにたちこめる。

 

俺はハウンドドッグ。冷徹にして最低の警察組織。

File No,1 Government & revolution ~Hello Anti government~

 

 

 

日本は平和になった。内閣支持率は恐ろしいほどの数字となり、まるで絵に描いたような理想の国。誰もが安心して楽しく暮らせる国に。

そうなったのは、大体五年前。現総理大臣、衣笠 衛が当選したころだったか。衣笠は極秘の組織を作った。もっとも極秘といっても知らないのは民衆だけであろう。

政治家達は皆、設立に賛成した。『ハウンドドック』の。

まあ、当然だろう。それが可決すれば幾ら悪事を働こうとも電話一本で無事解決する。実に都合の良いシステムだ。設立の理由は『社会を円滑に動かすため。』だそうだが本音ではないだろう。

だが、実質『ハウンドドック』により政治家の汚職事件は例年の十分の一となった。

いや、発見された数というべきか。

錆取りというのはつまりそういう事だ。

 

 

「さっってっとぉ。今回の依頼なんだけどぉ。」

俺達は、とあるオフィスビルの小さな会議室に呼び出されていた。ハウンドドックのブリーフィングは大抵ここで行なわれる。

白い長机とプロジェクターのみが置かれた非常に小さな部屋だ。

「ターゲットはぁ、ジュン・ウリマラス。日本人とロシア人のハーフねー。」

前で変な喋り方をしているのは加藤 沙紀。これでも結構なキャリアでハウンドドックを統率する女性だ。短い黒い髪は寝起きのようにボサボサ。いや、彼女のことだから本当に寝起きかもしれない。一日中酒を飲んでいるような人だから、ありえないことは無い。

「で、そのウリマラスを狙う理由は?」

俺の隣で質問したのは大辺 未来。彼女も非戦闘要員でオペレーターとして俺と拳隆のサポートを担っている。

「こいつの仕事はぁ、猟銃や警察やら自衛隊への銃器の卸売りをしてる会社の社長なのよぉ。そしたら最近ヤクザとかおっかなーい人たちにも売ってんのが一部でバレ始めてさぁ。」

「政府に飛び火する前に消せ。と?」

加藤がしゃべる前に俺が聞いた。政府からの依頼なんていつもこんなのばっかで耳が疲れるほどだ。

「ご明察!さっすが亜久くーん!」

だろ、やはり正解した。政府もいい加減懲りないものだ。

「ではぁジュンのいる会社に突撃して捕まえちゃってくださーい!よぉろしくぅ!!」

 

ハウンドドック政府の依頼ならばどんな手段を用いても任務を遂行する組織だ。それは同時にかなり荒っぽいことをしても大体は許されるということだ。

過去にも何度か誤って射殺なんてこともあった。そんなときも任務さえ滞り無く完了していれば始末書さえ書かなくて良いこともあった。政府にとっては我が身の為なら他人などどうでも良いなんて考えるクソったれの政治かもいるらしい。まあ、何度も人を殺めた俺がどうこうは言えないが。

 

今回はまだ楽な方だった。所謂『潜入操作』

ウリマラス インダストリーは政府との関係も深かったので潜入は容易だ。問題は証拠を手に入れることとジュンをいかにして自然に捕まえるか。

普通の警察は普通に逮捕をすればいいが、俺達は違う。事件を隠さなければならない。つまりなんでも良いから口実が必要という事だ。

射殺して表向きには事故死という風に発表するのもアリだが、それは最終手段にすぎない。メディアが嗅ぎつける前に対処するには遅くも一週間で片付けなければならない。

だが、こんな大企業ともなれば悪巧みの一つや二つはあるはず。

俺はハッキングによる捜査を進めることにした。

 

俺の会社での仮の姿はセールスマンだ。

各国の軍隊との商談がメインだと思われるがそんなものは殆ど無い。

多くの取引先はPMC(private military company=民間軍事企業)だ。

夜な夜な残業にハッキングをしてやると取引先リストには各国のPMCの名が連なっている。

Hooked eye , Wolf dogs , CSSA , RRMC…

どれも有名なPMCだ。流石大企業といったところか。

「ん?」

一つだけどうしても開けないファイルがある。名前はno nameとなっていて見当すらつかない。さらに時間もかなり遅い。今日調べるのは不可能だろう、俺は明日の夜に再開しようとした。

履歴を綺麗に削除して痕跡は全て消し去る。

そうして俺は会社を後にした。

 

 

 

翌日も実につまらないデスクワークが俺を待っていた。スリリングな仕事に慣れた俺にはかなりの苦痛だ。

ただひたすらにパソコンに向き合い、書類を製作する。これなら暗殺のほうが楽かもしれない。

何時間ものデスクワーク。それに耐え、ようやく行動開始の夜が訪れた。

もう社員など独りもいない。警備員には残業だといってあるので特に気にすることもない。

俺は昨日見つけたファイルへのハックを開始する。

大辺から貰ったUSBメモリー、それを差し込むだけでハッキングは開始される。

あいつは父が元ウィザード級ハッカーらしく父から叩き込まれた技術で警察にハックした所を加藤が引き入れたと聞いている。

つまりこのメモリーには自動でパスワードクラックを行なうプログラムが組み込まれているということだ。

新しく表示されたウィンドウにはパーセンテージが表示されている。これが100%になればクラックは完了、上手く行けば今回の件を収束に導ける。

緑のバーが段々伸びてゆき、パーセンテージも間も無く100%に達する。

『SUCCESS』

と、表示される。

俺は早速開けなかったファイルを開く。そこにはたった一行だけ記されていた。

 

『Anti government』

 

「反政府…まさかテロリストに加担を…」

とりあえず俺はデータをコピーした。しかしこれでは状況が悪化しただけ。まだ長期戦になりそうだ。

俺はため息を落としログを改ざんし、昨日のように部屋を出た。

そう、部屋を出るまでは昨日と同じだった。

「やあ、亜久君。仕事熱心だねぇ、実に感心するよ。」

「…ウリマラス社長。」

一番会いたくない奴が目の前にいた。

「まあ、これからも頑張りたまえ。」

にこやかな表情で俺の横を通り過ぎる。俺の肩を手でポンと叩くとそのまま立ち去る。

おかしい。

何かある。

とっさに俺は胸ポケットに手を突っ込む。中にはサイレンサー付きのG36があるはずだ。

丸っこいグリップを手が見つけ出し、がっちりと掴む。

「とでも言うと思ったかぁ?政府の犬がぁぁぁ!!!」

やはり来た。俺は一気に腰を低くし、足を伸ばす。ちょうど奴の向けた銃の射線から外れる。

奴が持っているのはスライドの形状からしてコルトガバメント。しかも手に隠れることはおろか、3cm程飛び出したマガジンが見える。おそらく装弾数の少ない.45ACP弾をロングマガジンでカバーしているのだろう。9mmならまだ怪我程度で済むが45口径ではそうはいかない。奴は俺を殺す気だ。

俺の脚はそのまま伸び、綺麗なスライディングとなる。ウリマラスの足に見事にヒットし、体勢を崩す。

俺はすぐさま起き上がり、G33を頭に押し付ける。

「チェックメイトだ。」

「ふッ、政府は滅びる…お前達は不必要になるぞ!」

奴が何を叫ぼうと、動じない。今は任務だ。雑念を捨て、引き金に手を掛ける。

サイレンサーから弾が発射されるパスッという音と共に鉄の臭いが一気に充満する。

奴はおそらく即死。だが社員を襲ってきたという口実は作れる。

俺は携帯から大辺にコールする。プルルという音が2,3回した後「もしもし」という女の声が流れる。

「目標を射殺した。回収をたのむ。」

「えっ、殺しちゃったの!?口実はあるんでしょうね?」

「ああ、奴はコルトガバメントを俺に向けてきた、正当防衛でも暴発でも好きに処理しろ。」

「あんたの方は?」

軽薄な答えが返る。

「事件のショックでPTSDに陥って療養中とでもしておけ。」

「あんたがPTSD?何それ、最高…」

途中で通話を切る。

これで一旦は解決した。

今はまだそう思っていた。

 

『ふッ、政府は滅びる…お前達は不必要になるぞ!』

 

「…まさかな。」

 

「さってー、いろいろあったけどぉ、今回の件はこれでオッケーねー。」

本当にいろいろあった。殺害のことに関して加藤が何も言わないのは彼女なりの配慮なのだろう。今更一人や二人殺したところで俺はどうもしないが。とりあえず好意は受け取っておいて損はないだろう。

俺がいるのはいつものブリーフィングルーム。他の連中はどうしたかというと大辺は新しい事件の捜査、拳隆に至っては未だに前回の始末書がまとまっていないらしく、大辺と一緒に下で画面と睨めっこをしている。全くご苦労な奴だ。

そして俺は『新しい事件』の説明を受けに来たわけだ。とはいっても大辺が作ったやけに小奇麗な書類に目を通せばすむ話だ。実質今回の件を把握するには5分とかからなかった。

では今回は何を押し付けられたかというとクーデターの捜査、及びそれの阻止だ。

最近、副総理がそんな計画を立てているのではないかと政治家の間では専らの噂だったらしい。俺からすればそんなガキやら何処ぞの主婦みたいな真似してる暇があったら自分達で何とかしろと言いたいところだが上辺のみ善人ぶってる政治家は余にも無力で、何の役にも立たない。出来るとしたら税金使って賄賂を贈るぐらいか。そんな事だから俺達みたいな人間がいるわけだが。

俺達に回ってきた理由は総理は重要なポストである副総理を簡単に手放したくないから、だそうだ。実に身勝手な理由だが、仕事は仕事だ。

要するに、今回俺と拳隆が引き受けるのは総理の身辺警護、そしてその間に大辺が証拠を見つけ、逮捕に踏み切る、という寸断だ。

 

 

カタカタというキーボードをタイプする音が部屋に響く。大辺は何かに取り憑かれたかのようにキーボード叩いていた。画面にはひたすら数列が並んでいてさっぱり分からない。

少しして、カタッ。とエンターキーをたたく音が響いた。

「ここも外れね…」

どうやらこっちには気づいていない。俺は横からそっとブラックコーヒーを差し出した。

「あっ、ありがと…・」

「作戦は明日からだろう?ずいぶん気合が入ってるな?」

すると大辺はめを輝かせて、

「だって、自由にハックしていいのよ!?政府機関を始め、あらゆる企業、団体…」

相変わらずこいつがどのタイミングで興奮するのか理解できない。俺も人のことは言えんが。

「今度は捕まえてよね?」

「当たり目だ。」

俺達は無言で拳を合わせた。

俺と拳隆は、総理官邸の廊下に立っていた。身辺警護は偽装とはいえ立っているだけとは、SPとは随分暇な仕事なんだと俺は曲解した。いや、俺達がハードすぎるだけか。

とはいえ本当に退屈だ。大辺が証拠を見つけ出し、連絡が入るまでは身辺警護のふりをしながら副総理をつけなければならない。

拳隆はあまりに暇なのか頭をぽりぽり掻きながら大きく口を開け、あくびをしている。いつもは何処のチンピラかと思うほどのチャラい格好で、髪も茶色だが黒く染めてあり、服もまともなスーツだ。これなら警察と名乗っても異論はないだろう。服装だけは。

にしても退屈だ。さっきから何も起きやしない。

 

そんな俺の不謹慎な感情が招いたのだろうか。

総理の執務室から『バンッ』という音が響いた。

 

「拳隆!」

俺は叫び、それと同時に部屋のドアを蹴飛ばす。バキバキと木製のドアは音を立て、開く。

その先には肩を押さえて蹲っている総理の姿があった。

「狙撃か…拳隆!俺は副総理を押さえる、総理の警護は任せた。」

「おう、任せとけ!」

先ほどぶち破ったドアを抜け、廊下へとでる。ポケットに手を突っ込み相棒を右手に、そして襟の無線機に怒鳴りつける。

「副総理は!?証拠は取れたか?」

「なんか外国人に巨額の金を払っていたかとぐらいしか…」

「その外人の顔は分かるのか?」

もしそいつが総理を狙ったスナイパーなら証拠はたつ。

「わかるわ。でも何でそんなこと…」

「いいから俺の話を聞け、総理官邸付近のビルの屋上にいる連中を衛星で割り出せ。わかったか?」

「まさか、もうクーデターが…」

「そのまさかだ。メディアへの露出は避けたい。さっさと終わらせるぞ。」

「了解!!」

総理官邸の廊下を駆け抜ける。普通ならそうそうありえない光景だろう。

肝心の副総理は総理の補佐として現在、官邸にいるという。

「逮捕するなら今だな。」

ハウンドドックは特例により逮捕状が出なければ逮捕、または最悪の場合射殺してはいけない。ここは普通の警察と同じだがハウンドドックの言い訳さえあれば逮捕状など後からでもかまわない。つまりは罪人だという証拠さえあれば捕まえても構わないということだ。まあ、政府から捏造した証拠を与えられることも日常茶飯事だが。

政治家や官僚は既に帰る時刻だ。誰も総理が撃たれたなんて知らずにいつも通りに帰ろうとしている。それは副総理も例外ではなかった。

木目の美しいドアを強引に開け、G33を前に突き出す。

「遠藤副総理、ハウンドドックです。私がここに来た理由は分かりますね?」

副総理は茶色のダッフルコートを着て、携帯電話を耳に当てていた。

「思ったより早かったな。噂通り腕の立つ男のようだ。」

遠藤は携帯を弄って通話を切ると俺のほうへ投げ、両手を挙げる。抵抗する気はないようだ。

「驚きましたね、元エリート自衛官のことですから軍属らしく抵抗するものかと。」

「年寄りが現役の特殊警官とまともに戦えるはずが無かろう。」

「賢明な判断です。」

俺は一歩ずつゆっくりと接近してゆく。

「では、遠藤秀二副総理、あなたを逮捕します。」

G33を右手だけで持ち、左手でコートのポケットに入れておいた手錠を取り出す。

「…悪いが、それはお断りだね。」

途端、遠藤はダッフルコートのポケットからリボルバー拳銃を取り出す。パイソン4インチモデルだ。

遠藤はそのパイソンの銃口を自分の右耳より少し上あたりに向けてみせる。

「君達が邪魔してくるのは折込済みさ。私の目的は政府の悪態を世に知らしめること。」

カチッという音がする、遠藤がトリガーに指を掛ける、

「クソッ!!」

俺はG33を投げ捨て、スーツのほうのポケットを急いで漁る。

すると、何か銃のようなものが指先に触れる。

「さようならだ。」

遠藤がぐりぐりと銃口を頭に押し付ける。同時に俺は掴んだものを引っ張り出す。

「間に合ええぇェェ!!」

白い小型マシンガンのような銃が姿を現す。

直後、バンッ!!という銃声が部屋に響き渡った。

「なんだ…これは…」

遠藤は右手を銃を持った形にしたまま硬直していた。その問題の銃。パイソンは、俺の手元にある。

パイソンから放たれた弾丸は遠藤の頭を大きく反れ、壁にかかった絵に穴を開けていた。

「…なにをした。」

「ワイヤーガン。小型消音麻酔銃と同じ特殊銃器。便利でしょう?」

皮肉たっぷりに俺は言ってやる。

「分かった。私も馬鹿じゃない。さあ、早く捕まえたまえ。クーデター容疑でも何でも構わん。」

「その前に、あなたに話してもらいたい事があります。この顔に見覚えは?」

俺は携帯を突き出す。見せたのは大辺が送ってきた副総理が金を払っていたという黒人。

「ああ、間違いない。暗殺を頼んだスナイパーだ。どうやら二流だったようだがな。」

話を聞きながら俺は遠藤の両手に手錠を掛ける。そして、画像を見せていた携帯で大辺に電話を掛ける。

「亜久だ。遠藤秀二を逮捕した。回収車、それとスナイパーはトレースできているか?」

「回収班が向かってるわ。貴方はいったん外に出て。ヘリが止まってるから、それを使ってスナイパーを追いかけるわ。」

「了解した。」

投げたG33を拾うと、俺はドアを開く。既に前には防弾チョッキを装備した回収班

がたっていた。

「ご苦労様です。」

7,8人ほどなお回収班の男達が敬礼をするので、俺も敬礼を返す。

「さて、今夜は長くなりそうだ。」

そう呟いて俺は外へ急いだ。

 

俺が総理官邸を出ると、既にヘリがホバリングしていた。

電灯が照らす黒い空へ溶け込むように特殊部隊仕様に黒くカラーリングされたAS 332シュペールピューマが停滞している。

操縦席から顔をのぞかせた大辺が何かを叫んでいるも、ヘリのローター音でこれっぽちも聞き取れない。

だが、俺に向かってロープを下ろしていることからおそらくは掴まれということだろう。

先端が輪っかになっているロープに右足を入れ、右手に持っていたワイヤーガンを左手に持ち替えてロープを握る。

一応命綱であろうカラビナの付いたロープがあるが面倒なので付けなかった。

俺は大辺に向かって左手を振る。するとシュペールピューマはゆっくりと上昇していく。

普通は俺を引き上げてから向かうものだが時間の関係もある。

たしかに危険だがこんなマネをするのはパイロットが大辺だからだろう。

デスクワークが似合う小柄な彼女だが、ああ見えて車やバイクはもちろんのこと。ヘリ、小型船舶、飛行機も操縦できるという驚異の腕前である。

伊達に社会の裏で秩序を守っている組織の一員ではないということだ。

「もうすこしで目標のビルに到達するわ。」

耳に装着したイヤホンから大辺の声が聞こえる。

だが、このコンクリートジャングルでもう少しと言われてもビルなんて有り余るほどある。

「どのビルだ。」

俺は問う。

「二つ向こうのビルよ。貯水ポンプのついたビルが見えるでしょ?」

言われて俺は納得した。確かにここからなら腕のいいスナイパーなら狙えるだろう。

副総理の言っていた通り「一流」では無さそうだ。

「了解した。で、パラシュートは?」

「アンタにはワイヤーガンがあるでしょう?」

やれやれ。と、俺は心の中でため息をつく。

確かにこの降下スタイルは迅速に着地でき、携行する物も実に少ない。隠密行動を行う特殊部隊は導入すべきだと思う。

その分、想像を絶するスリリング体験が待ちかねているが。

「降下まであと5秒よ。」

「了解した。」

俺はゆっくりと右手を離す。

途端、体が宙に浮いたような錯覚に陥るも0コンマ以下の飛行体験は終わりを告げ、落下にバトンパスされる。

ヘリからビルへの空中散歩というのは短いもので、俺は物の数秒の間にビルの壁面に向かってワイヤーを射出する。

ワイヤー先端の爪の部分にセットされた衝撃に反応して接着する高性能特殊接着剤が俺の体重をしっかりと支える。

大きく弧を描いてビルの谷間をすり抜ける。

俺がもう一度引き金を引くと、接着剤は何事もなかったかのように剥がれ、俺の体はブランコから飛び降りる子供のように宙を舞い、屋上へ着地した。

すると目の前にライフルを構えた男が立っていた。

「…チェックメイト。」

胸ポケットから一秒もない間にG33を抜き出し、奴の心臓に鉛を放つ。

直後、彼の胸に真っ赤な花が咲いた。

 

「目標を射殺した。任務完了だ。」

俺は大辺に無線越しにそう告げる。

だが返答はない。それどころかヘリはホバリングしたままピクリとも動かない。

「おい、どうした?」

問いかける。返答はない。

俺は襟元についたマイクからヘリへと目線を変える。

待て、よく見ろ。

「…降下してるだと!?」

大辺が操縦ミスをするとは考えられない。

だとしたら何が…

「おい!」

大声で怒鳴りつける。

「あっ、その…」

ようやく返答が帰ってくる。それと同時にヘリは態勢を持ち直していく。

「何かあったんだな?」

「ええ、…今そっちに離陸するわ。」

黒いAS 332がゆっくりとこちらに向かう。

こんな小さなビルに着陸するのは並みのパイロットでも難しいだろうが、彼女は難なく着陸してみせる。

まだプロペラの回転が止まらないヘリの中から黒いスーツの女性が姿をあらわす。

その手には小型のノートPC。大辺はそのディスプレイを俺へ見せる。

PCには有名なニュースサイトが映し出され、そなトップ記事にあまりに衝撃的な画像が掲載されていた。

その画像は一部モザイクが掛かっているものの掲載していいのか物議を醸すようなものだった。

そのトップ記事のタイトル。それは、

『副総理、暗殺。』

「馬鹿な、狙われていたのは総理だぞ?」

「分からないわ。でもこれで一つはっきりしたのは…」

「…メディアに露出した。」

大辺は黙ってコクリと頷く。

全く、厄介な事になってしまった。

今まで二、三回同じようなことがあったが一番注目すべきは事件と関係のないことが起きているという事だ。

今回の件は結果的にクーデターを計画していた副総理、実行犯であるスナイパーの男の処理には成功した。しかし…

「俺たちの知らないところで何か大きな犯罪が動いている…」

俺は妙な胸騒ぎがしてならなかった。

ジュン・ウリマラスな放った言葉。

『ふッ、政府は滅びる…お前達は不必要になるぞ!』

死に際に放った戯言だと軽くみていたが、今の俺にはそれが現実に思えてならなかった。

ある日の真実が、永遠の真実ではない。

チェ・ゲバラ

 

 

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File No,2 Report of a gun that reports starting ~The tohubohu is artificial~

 

 

 

今回の件は不確定要素が余りにも多すぎた。

副総理の殺害は誰も予期していなかった。容疑者が自殺するという事例は何件もあるがこのような事はそうそうあるわけではない。

護送中、一台の大型トラックが衝突。護送車に乗っていた者は皆死亡。

トラックに乗っていた男は驚くことに傷一つなく、護送車の後方を走っていた警官に現行犯で逮捕となった。

だが、これで事件は解決したわけではない。

『故意』なのか『事故』なのか分からない。この意味がわかるだろうか。

容疑者はまるで計算されたかのように事情聴取が始まった途端、心臓欲座を起こし。死亡した。

よってこの事件は未だに不可解な点が残っている。

そして、俺たちに依頼された次なる事件は、

 

「みんなにわぁ、『victory or a death』っていう組織について調べてもらっちゃいますぅ。」

 

 

『勝利か死か』

キューバ革命で知られるチェ・ゲバラの言葉。

この言葉からして今回の相手は革命を謳う連中だとわかる。

「そのvictory or a deathっていう組織はどんなことを?」

「いい質問ねぇ。実わぁ、副総理を殺した男がこの組織に入ってたりぃ。副総理がこいつらと連絡とってたりするのよぉ」

「つまり。そのvictory or a deathという組織で内部分裂か何かが起き、副総理は殺された。と」

加藤はコクリと頷く。

「でもそいつらってなにやってるんだ?」

「やっぱりストレートな質問は拳隆君の担当よね。表向きには日本を拠点に各国で内乱、紛争の停止を呼びかけるNGO団体。でもぉ実際わぁ…」

「革命を目指すテロリスト集団。」

俺は確証はないがそう答えた。そんな気がしてならかったのだ。

「確証はまだないけどぉその通りよ亜久くん。噂でわねぇ。じゃ、いつもどおりお願いね」

 

そう、この時気づいていたのだ。

ジュン・ウリマラスの言葉の真意を。

革命という考えが消えた訳では無いと。

 

victory or a deathの事務所というのは意外なところにあった。

この大都会。東京にこんな田舎があったのかと思わせるほど周りを田んぼに囲まれた場所であった。

俺は愛車であるBMWのZ4を飛ばして約一時間ほどだったであろうか。目的地である事務所に到着した。

はっきり言って事務所というより農家の一軒家としか言えない外観であった。

こんな所から世界中を飛び回って停戦活動をしているなんて冗談としか思われないであろう。

そこらの農道に駐車しても構わないだろうと思ったが、ご丁寧に駐車スペースまで用意してあったので車をそこに停めて入口へと向かう。

インターホンを押して数秒後、現れた男に促されて応接室へはいる。

 

「フリージャーナリストの一条誠さんですね。お待ちしておりました。」

先ほどとは違った少し小太りの男性が応接室に入る。

「はい、一条です。」

俺が偽の名刺を渡すと小太りの男は何の疑いもなく自分の名刺を差し出す。

『反紛争運動活動NGO団体victory or a death 会長 荻原健一』

「いやぁ、我々の活動に関心を持ってくださったこと。実に有難いです。よろしく。」

「ええ、貴方方はミャンマーでの一件以来、こういった筋では有名ですからね。」

「…ご存知でしたか。」

当たり前だ。近年まで続いていたミャンマーの軍事政権と民主主義を求める反政府組織との紛争。一時期は世界的な経済への打撃をも与えたこの事件。この事件を無血革命へ導いたとされるのがこの「victory of a death」なのだ。

「…そのことを聞きに来たんですか。」

「そのこともです。」

「…」

沈黙が応接室を支配する。

「…正直に言いましょう。いくらあの時民主主義への期待が強かったとはいえ私たちにそこまでの力はありません。」

「ですが貴方方は実際にやり遂げた。革命を。」

「…正確には私たちではありません。反政府組織を指揮していたのは…」

「じゃあ誰だと?」

「…導命 郭。」

「それは誰ですか?」

「それは言えません。一条さん、私が知るのはここまでです。会長といえど私はお飾りに過ぎません。」

「お飾り?ではあなたは…」

すると荻原はキョロキョロと左右を見回した後、俺に小声で耳打ちする。

『彼は今、ドバイにいます。そして彼は何かを企んでいます。貴方が真実を見つけてください。』

「…今日は取材に協力して頂いき有難うございました。」

俺は愛想笑いと共にICレコーダーやノートパソコンを片付け、事務所をそそくさ出ていく。

車に乗り、バックミラーを見ると玄関で深くお辞儀している荻原が見える。

俺は携帯をとりだす。そして大辺に電話をかける。

「導命 郭という男の身元を洗え。今すぐだ。」

 

 

 

「…ねえ、その導命郭って人なんだけど。」

「なんだ?何か分かっているのか?」

「いや、その…」

大辺は何かを後ろめるように、隠すように言う。

「…早く言ってくれ。事件に関わるも関わらなくともいい。」

 

「…その男、さっき厚生省の死亡者リストに追加されたわ。」

「死因は?どこで死んだ?」

想定外の答えに俺は戸惑う。もし奴がドバイにいるのだとすれば日本に伝わるのは若干のタイムラグがある。

そうなると日本の連中は導命の死について知っているか否か。つまり奴らへの嫌疑が問われる。

「東京、貴方のすぐ後ろよ。」

その言葉を聞いて俺はすぐさま後ろを振り向く。その時は不思議と驚きは無く、すっと行動に移れた。

俺の後方、畑の広がるのどかな風景と都心部の一軒家とあ比にならない大きさの日本家屋。

思い当たるとすればただ一つ。

「…連中の事業所、か。」

俺はもう一度携帯電話を耳にあて、大辺に聞く。

「他に死亡者で不可解な点はあるか?」

「ちょっと待って、戸籍情報システムにアクセスして…」

持ち手を替えたのか、ボワッという音がした。肩ででも抑えているのだろう。

カタカタとキーボードをたたく音が気持ちいほど素早く、それでいてリズムに乗っているような。静寂の中でその音が際立っている。

「…なにこれ…」

「どうした?」

「ここ最近の死亡者リスト。自殺者の大半が生導会っていう信仰宗教に所属してるのよ。」

「生導会?なんだそれは。」

この名前にはどこかで聞いた覚えがあった。

本当に昔から似たような宗教団体ってのは消えないものだ。

「最近話題になってる宗教団体ね。噂ではどこか野党との癒着が週刊誌とかで報じされているわ。」

「なるほど、通りでウチに仕事が回ってきた訳だ。」

俺はもう一度事業所へ振り返る。

導命郭とは何者だったのか。

連中は何を企んでいるのか。

俺の知らない所で何か大きな事件が動き始めている気がした。

 

 

 

時刻は4時を回ったところ。

今の季節では綺麗な夕日が見れる時間帯である。

赤い夕日に照らされ、その色を反射する田園。

その間をのどかな風景には似合わぬ大型のバイクが走っていた。

運転しているのはハウンドドッグのメンバーの一人である拳隆 翔。

先程まで大嫌いなデスクワークに囲まれていた彼はやっとの思いで始末書を処理し、こうして現場に赴いたという訳だ。

 

どこまでも広がる田園と学校の帰りと思われる子供達が歩いていく姿。

風を受けながらコロコロと変わっていく風景に少しばかりの楽しみを感じつつ目的地へとむかった。

その問題の目的地とは亜久が行った事務所のある町のちいさな公民館である。

運良く本日開催されていた生導会の公演がここで行われるのである。

そして時間もないのでちょうど良く書類を終えた拳隆が引きずり出されたという寸断だ。

 

バイクを飛ばして何分経っただろうか。ようやく田園は終を告げ、比較的開発の進んだ住宅地に出る。

その中にコンクリートで出来た三階建ての建物があった。それこそが目的地である。

拳隆はバイクを入口の駐車場へと停め、中へ入る。

その中での目的地は二階。大ホール。

どうやら希望者以外は立ち入り禁止なようだが警察だと言うと流石に通してくれた。

 

そのホールへと続く少し寂れた廊下。そんな所がレトロというか田舎な感じを演出している。

長いとも短いとも言えない廊下に足音が木霊する。

そして、目の前に厚めのドアが現れる。

この中で何かがある。

拳隆は好奇心と恐怖心。二つの感情でぐちゃぐちゃになりながらもドアに手をかけた。

ドアの向こう側は予想を大きく反した光景であった。

縦横きれいに整頓されたパイプ椅子に背筋を伸ばし、姿勢よく座った子供達の姿。

そして、その先のステージ。段の上。背広姿の一人の男。

ここまででは何らかの講習会と思えるだろうが落ち着いて考えて欲しい。

パイプ椅子に座っているのは10歳ぐらいの子供から中学生ぐらいの子供。

そしてここで行われているのは『信仰宗教の講演会』であること。

あまりにもミスマッチすぎる光景だ。

壇上の男は興奮しているのか拳隆の存在には気づかず。また、子供たちも男の話に集中しているのか全く視線を壇上から動かさない。

拳隆は様子を伺うためにも一旦ドアの影へと身を隠す。

すると携帯に着信履歴が残っている事に気づく。亜久からだ。

拳隆は直ぐ様履歴から亜久の番号を開き、発信する。

何回かのコール。その音が焦りをさらに加速させる。

それから数秒、亜久の携帯へと繋った。

「…亜久、そっちはどうだ?」

「お前も聞いていると思うが全く何も掴めちゃいない。今はお前が頼りといった所か。」

いつになく弱々しい口調の亜久。今、今回の事件への手がかりとなるのは生導会。即ち拳隆に掛かっている。

「オーケー、俺は今講演会場についたんだが…なんかおかしい。」

「と、いうと。」

「ああ、なぜか講演を聞いてんのが皆小学生や中学生なんだ。」

「…何かあるな。俺もそっちへ向かう。余計なヘマはするな。」

「当たり前だ。」

そう言うとブッという音がして通話は終了した。

そして拳隆はもう一度講演の方へ目を戻す。

「我々生導会は創始者である導命氏の考えに基づき。命を導く、社会を導く正義を行う。我々は…」

それは講演というよりも戦時中の演説といった方が当てはまる。

威圧的、高圧的。

自分の考えを押し通しす様。

そしてその言葉を聞き、うんうんと頷いている子供達の姿がなんとも奇妙である。

 

そこで拳隆は考える。

何故彼らが連続して自決しているのか。何故victory or a deathの人間が立て続けに死んでいくのか。

政党との癒着。では何故政府はその組織に関すると思われるNGOの捜査を命じたのか。

政府は何かを隠してるのではないか?生導会は何を目的にこんな事をしているのか?

結論が導かれない。有耶無耶な、厚い雲に覆われたようにその謎を振り払えなかった。

 

 

 

俺は焦っていた。

ここまで立て続けにことが起こるとなるとやはり裏に何かがあるとしか考えられない。

生導会。彼らが何かを知っている。

のどかな田園風景、景観の保持など考えずエンジン音を響かせて進む。

ここから公民館はさほど距離がある訳ではない。車でとばして5分とない。

舗装が行き届いていない道路。車体から尻へと揺れが伝わる。

 

生導会は政府と何か関係がある。

となると又、生導会と関係があると思われるvictory or a deathが何らかの失態を犯し、排除するために俺たちを差し向けた。

いや、だとすれば何故集団自決が生導会、victory or a deathで行われたか。

まだ、事件の鍵を握るピースは揃ってはいない。

そのためにも講演会場へ急がねばならないのだ。

 

 

俺が二階のホールへ入ろうとしたとき、職員に呼び止められた。

『二階で何かがあった。すぐ警察が来るから近づかないほうがいい』と

俺は拳隆に対して半ば呆れながら職員に警察手帳を差し出し、階段を駆け上がった。

 

ホールの入口は妙などよめきに包まれていた。

小学生、中学生ぐらいの子供たちが喋りながら一階へと向かっていく。

この群衆が拳隆の言っていた講演を聞いていた子供たちなのだろうか?

だとすれば拳隆はどこに行った?

まだホールにいるとすれば生導会に捕まったと見るのが妥当だろうか。

俺は子供たちの間を掻き分けて中へと入る。

「警察だッ!!」

中には誰一人として居らず、ただ己の声が木霊するだけ。

もう一度辺りを確認する。

拳隆はどこにいったのか。

無線機の周波数を拳隆に割り当てつつ、奥のステージの方向へ進む。

 

「あら、お仲間さん。来るの早かったわね。」

咄嗟に聞こえた声。その方向に俺は銃を向ける。

目の前には毛皮のコートを着た女。そして縛られた拳隆がガムテープで口を封じられたまま隣に横たわっていた。

「目的は私たちでしょ、政府のワンちゃん?」

「…、生導会のメンバーか。」

「メンバーねぇ、ちょっと惜しいかな。」

女は一旦後ろを向き、コートのポケットから銃を取り出す。

俺はそれを見逃さなかった。

「その手に持っている物を捨てろ、今すぐに。」

相手に威圧を与える為に敢えて大袈裟に構え、音を強調させる。

どうやら女も素人じゃない。銃をゆっくりと床に置いた後、俺に向かって蹴飛ばす。

そしてもう一度振り返り笑を浮かべながら両手を上げる。

「全く、アンタ達は何なのよ。そこの男と言いアンタと言い。ウチの大男二人を一発KOよ?そして貴方はレディーに銃を向けるのね?」

「貴様は疑いが晴れん限り事件の重要参考人だ。お前たち生導会が何か絡んでいるのは知っている。」

「そうね、強行派の連中はウリマラスが死んでから大分無茶をしていたからね。」

「強硬派?」

「あら、上は犬にご褒美もくれないんだ。」

女は白い歯を見せ、クスリと笑う。

「私はね、神に『日本を救え』と言われた者よ。」

「ジャンヌ・ダルクか。悪いが俺が知りたいのは貴様の妄想ではない。」

「妄想なんかじゃ無いわ。私たちは日本を救う。郭とはちょっとプロセスが違うだけ。」

「郭?やはり導命 郭と何か関係があるのか?」

「知らないわ。あとは自力で調べなさい、政府のワンちゃん。」

女は隠し持っていたナイフか何かで拳隆を縛っていた紐を切ると出口へと歩き出す。

「待て、動くな!」

G33を突き立てる。だが女は止まろうとはしない。

「フフ、捕まえても無駄よ。私が政府と関係があるのは分かるでしょ?私、戸籍上は死んでるから。」

「クッ、」

トリガーに指をかける。マニュアルセーフティの無いG33。撃ち漏らすとしたら弾詰まり<ジャム>か、もしくは…

「岩崎、内藤。頼んだわよ。」

女がそう言うと何処に隠れていたのか大男二人がどこからともなく姿を現す。

黒いスーツにサングラス。手にはコルトガバメント。これでは宗教団体というよりもヤクザと言った方が信憑性がありそうだ。

俺は床に倒れたままの拳隆を無理やり起こす。

「拳隆、仕事だ。」

拳隆はどうやら尋問でもされたようで顔を歪ませ、痛がりながら立ち上がる。

「ったく、人使いの荒い職場だよ。全く。」

革製のグローブを填め直した拳隆は指の関節を鳴らす。

「さあ、さっさと片付けてやる。」

 

 

先刻、俺はヤクザと言った方が信憑性があると思ったがそれは訂正しよう。

連中の動きはそこらのチンピラなんてものをはるかに超え、訓練された者でさえ軽くあしらってしまうだろう。

詰まり、奴らは只者ではない。何らかの訓練を受けたものだ。

そうなると銃火器の扱いに長けていない拳隆が捕まったのも納得できる。

実際、俺でさえ手間取っているのだから。

 

俺はステージの横の壁に身を隠していた。

襲ってくるのが一人だということから拳隆はもう一人を引きつけているのだろう。

おそらくカスタムされているであろうガバメントの放つ45口径弾は確実に俺を狙い、掠めていった。

無駄のない射撃、ここまでやれる奴は軍隊でもそうそういない。なんなんだこいつらは?

俺は装備を確認する。

G33、ワイヤーガン、スタンナイフ、スタングレネード。

こうなればスタンでチャンスを切り開くしかない。

ゆっくりと様子を伺う為に顔を出す。

すると途端。俺の頬に何かが掠れる。それから少しして頬から赤い液体が流れる。

もう、迷っている暇のどない。

狙いも定めず、ただ神に祈りながらグレネードを投げる。

ピンを抜き、相手は投げる。

たったこれだけの動作に対して恐怖を感じたのは今回が初めてかもしれない、

 

数秒後、俺の身を隠している後方より何かが光る。

キーンという音が耳に鳴り響くも生きている視界のみを頼りに相手の頭にリアサイト、そしてフロントサイトを合わせる。

夜間でも狙いが付けられるよう白い発行剤が付けられた照準器。それを0コンマ以下で合せ、何の躊躇いもなくトリガーを引く。

その数秒後、眼前には赤い液体を頭から垂れ流す巨体が横たわっているだけであった。

俺は一人目の死亡を確認する前に二人目の位置を確認する。

スタンが放たれて数秒。たったこれだけの時間にも関わらず拳隆と大男は殴り合いを既に再開していた。

二人がいるのは出口付近。ここからハンドガンで狙撃など出来なくわないが拳隆び当たる可能性が極めて高い。

仕方なしに俺は遮蔽物から身を出し、近くの遮蔽物へ移る。

周りにある遮蔽物といえば多量に並んだパイプ椅子程度。

そのパイプ椅子が今の戦闘で飛ばされ、積み上がってできた山へ身を隠す。ここからなら狙うこともできる。

俺はもう一度照準器を凝視する。

動き回る二人。そのうち一人の膝に狙いを定める。

なかなか止まらない二人に少々憤りを感じながらジッと狙いを定める。

すると途端、大男の動きが止まる。拳隆のフックが見事に鳩尾に入ったらしい。

腹を抱えて痛がる大男に俺は容赦なく鉛玉を撃ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

圧制は革命の種子である。

ダニエル・ウェブスター

 

File No,3 Two ideas are revealed.~The results are more important than the processes~

 

「つまりー、政府とグルんなって連中はなんか考えてるっつー訳ね。」

都内某所。

結果的に俺と拳隆は何もつかめないまま帰ってきた。

分かっているのは生導会が政府と繋がりがあり、何かを企んでいる。

そして強行派という存在。

「これは政府の方を洗った方がてっとり早いわぁー。」

「私が調べましょうか?」

後ろからパソコンをいじりながら大辺が言う。

「いんやー、未来ちゃんは引き続きそっちの捜査ねー。アタシは上と掛け合ってみるわん。」

「では、警視庁のの方に?」

「いや、調べるべきは民生党ね。」

民生党。

前に大辺が言っていた生導会との癒着が取りだたされている政党。

本来は政治と宗教は政教分離で関わってはならない。

つまりこの事が知られれは大スキャンダルだ。

昔はギリギリのラインでやりくりできていたが衣笠内閣が臆病と呼ばれるように日本の政治は弱腰であり、秘密裏に力を振るうようになった。

彼等民政党が何かを知っているのは、ほぼ確実であろう。

 

「私はね、神に『日本を救え』と言われた者よ。」

 

これはどういう意味だったのか。

副総理の件といい、政治家の中には革命を望むものがいるのだろうか?

自己の保身、繁栄しか考えないような彼らにそんな大反れた考えの奴がいるなら立派だが少なくともアノ女はそれを望んでいるのだろう。

だとすれば生導会と繋がりを持つ民政党も…という考えに行き着く。

俺はその疑問に頭を悩ませながらただ空虚な時間をすごしていた。

 

「代表、お客様です。」

豪勢な部屋に一人の女性が入り、そう告げる。

女性の目線の先には50歳ぐらいの男性。この男が民政党の幹部である。

「誰だその客人は。」

「いや…ハウンドドックとだけ述べていまして他は…」

「ハウンドドック…分かった。私は居ないと伝えたまえ。」

「よろしいのですか?」

書類の入ったファイルを持ちながら振り向きざまに女性は言う。

「いいんだ、彼等とはあまり関わりたくない。」

「…承知しました。」

秘書の女性はドアノブに手をかける。だがドアノブは女性が力を入れるより前に動き出した。

「悪いけどぉ、居留守なんて使わせないんだからぇ~?」

黒い短髪をボサボサにした全く身なりを気にしていないような女性がドアを思い切り開く。思わずドアの近くいた秘書は飛び上がって避ける。

「…加藤沙紀。」

「洗い浚い話して貰うから覚悟しなさいねー?」

 

 

 

 

俺は課長と共に民政党代表『宗井宗二』もとへ突撃した。

今回の役割はなにかがあった時のバックアップとなる。

本来こういった仕事は拳隆の担当だが生導会との一件で負傷しているので俺に回ってきたという訳だ。

因みに民政党本部上空には大辺が操縦するAS 332が停滞している。即ち彼は袋のネズミという訳である。

一応警戒のためにG33を持って突入したが流石に生導会と絡んでいるとはいえど武器の類は携行していなかった。

だが、安心はしきれない。俺は銃を下ろすがホルスターには仕舞わず持ったままでいる。

「さってぇ、大体見当は着くと思うけどアタシ達が知りたいのわぁ」

「生導会のことだろう?」

「だーいせいかい。早速話して貰おうかしらーん?」

「…わかった、そちらのお兄さんに頭を撃ち抜かれる訳にはいかんからな。私の知っていることは話そう。」

 

 

 

 

 

生導会とはもともと日本をよりよくしようという志を持った者たちが作った政党のような物だった。

だが、生導会代七代会長『導命 静』の代になってから事態は一変する。

彼女は神に日本を救えと言われたと言い始め、生導会は『導命 静』を教祖とする信仰宗教となる。

そこで何故我々民生党が彼等とのつながりがあるのか。

それはもともと民政党自体が生導会から派生したものだという事もある。だがそれは建前であり真実ではない。

我々民政党は現内閣。つまり衣笠内閣に反発する者が集まった政党。

副総理であった遠藤さんは我が党に移動しようとして殺された。

それは生導会の内部分裂が原因だった。

彼らは導命 静を軸とする多数派。そして導命 静の弟。『導命 郭』を軸とした強硬派。

多数派のやり方。即ち彼らの場合は、教徒を増やし、子供達に洗脳じみたエリート教育を行い。未来へ日本を託す。

確かに堅実ではあるがリスクも高く、時間も掛かる。

そこで導命 郭はもっと手っ取り早い方法があると言って実際にミャンマーを圧政から解放し、民主主義革命を成立させた。

だがここで転機が訪れる。

強硬派、即ちvictory or a deathへの武器供給がストップされる。君たちも覚えがあるだろう?

ウリマラスカンパニー事件。何を隠そう依頼主は私たち民政党と生導会だ。

これにより武力による革命を狙っていた強硬派の計画は崩れ、彼らは大きな賭けにでる。

集団自決だ。人が死ぬことほどショッキングなことはないからね。死で社会へ警笛をならそうとした。

だが、それも失敗に終わる。政府の情報統制がガッチリガードした訳だ。

そして、そんな中。何の因果か君たちハウンドドックが現れた。

 

宗井の言う事が真実ならば俺が公民館で出くわした女は『導命 静』で間違いないだろう。

俺は今でも鮮明に彼女の声で彼女の放った言葉を頭の中で再生することができる。

「じゃーあ今回、victory or a deathの駆除を依頼したのはー?」

「無論、私たち。いや、正確には生導会だ。君たちはクライアントの事も知らされていなかったのか?」

「ええ、政府の犬ですから。」

加藤は腕組みをしながら皮肉たっぷりに言う。

 

本来の警察機関ならばこんな事を自白したら即逮捕だが俺達は政治家、政府を擁護する組織。

これからの仕事。つまりは民政党と生導会についての一連の事件はメディアに信頼性の高い情報等が漏れ、民衆からの意見が無い限りは見放すのである。

俺たちの仕事ではない。俺達は引き続きvictory or a deathに関する捜査になる、俺はそう思っていた。

だが、真実を知られたことを快く思わない連中もいる。

宗井への一連の質問は終わり、課長と俺は一旦情報の整理をしようと思っていた。

「…待て、君たちに頼みたい事が。」

俺は胸いが何かを言おうとしている事に気づいて後ろを振り返った。

だが、俺の眼前に映っていたのは先程話していた男性の姿と少し変わっていた。

黒いスーツを着た大きな体はぐったりと後ろへ力なく倒れ、髪の薄い禿げかかった頭は赤い滴が溢れ出し、何かピンク色の物体が飛び出している。

「ったく、余計なこと話さなければ脳みそ掻き回されすにすんだってのに。」

聞いたことのある声。その声はすぐ近くから聞こえていた。

宗井の秘書だと思っていた女性。

彼女が俺の隣で宗井の脳天にむけてS&WのMK22 Mod0を向けていた。

普通、秘書が特殊部隊向けの暗殺用拳銃など持っている筈がない。

俺は左手で課長を後ろに下がらせながら握っていたG33をそのまま女に向ける。あの時の判断がなければ今頃どうなっていたかと思う。

だが、それよりも俺は目の前の女の事で頭がいっぱいだった。

この声はどこかで聞いたことがあった。

 

「私はね、神に『日本を救え』と言われた者よ。」

 

間違いない。俺は確信する。

よりにもよって灯台もと暗しである。

 

「また会ったわね、政府のワンちゃん。」

そう言いながら彼女は顎の当たりから何かをはずす。ベリベリト音をたて、皮を剥ぐように女の顔が剥けていく。

その下に隠れた顔。それこそ導命 静そのひとであった。

 

「さて、交渉と行こうかしら。加藤沙紀さん?」

静は手にもったハッシュパピーの照準を全く狂わせることなく、こちらを見つめている。

「加藤さん。貴方たちはこれ以上私たちに介入する理由は無いはずよね?政府からの依頼はvictory or a deathの危険査定だけのはずよ。」

「えー、その通りね。」

すると課長は俺の手を押しのけて歩き始める。俺は咄嗟にもう一度後ろに下がるよう促したが彼女はそれをも無視した。

「でもねー、私達は如何なる理由があっても警察なのよん。あなたたちがvictory or a deathと。いや、何か違法行為を企んでるってだけで私たちには介入する権利があるわ。そこんとこ間違えないどいてね。」

「チッ、犬が。」

静かはそう吐き捨てると何かを取り出す。それは黒い長方形の物体。彼女の携帯電話。

彼女はそれを使って誰かに電話をかける。だがその間も俺達から銃口が外される事は決してない。ハッシュパピーとG33。二つの銃口の先は空中で重なり合っている。

「…どう、予定通りでしょ?…流石ね、よくやったわ。それじゃ手筈通りに。」

その途端、彼女は俺に向かって携帯を向ける。

「さて、問題。あなた方は輸送ヘリを飛ばしていました。そして私たちはウリマラスからの流れ物であるガンシップを二機飛ばしています。さて、パイロットはどうなりますか?」

俺は一瞬冷静さを失った。

実際に見えるのだ。ガンシップが二機。窓から丁度いい具合に。

なんというサディストだと感服すると共に俺は好奇心と絶望の両極に満ち溢れていた。

感情的になってはいけないこの職業のタブーに手を掛けそうなのだ。

「交渉するなら乗ってあげるわ。こっちの要求は貴方達が二度と私たちに関わらないこと。さもなくば…わかるわね?」

「ええ、これでもあたしは統率係だかんねー。人員を第一にするわ。いいでしょー?」

「流石ハウンドドックの長。物わかりがいいわね。」

そういって彼女はもう一度電話を耳にあてる。

その表情は憎たらしいほどにこやかで。只でさえ煮えくり返っていた俺の腸をさらに挑発する。

だが、冷静さのかけていた俺には課長の考えが分かっていなかった。

彼女の持つ携帯電話。彼女は何を血迷ったかそれを地面に叩き付けてみせた。

「…よくやってくれたわね、犬共。」

彼女のにこやかな顔は途端に鬼のような形相へと変わった。

俺にはそのとき何がなんだか理解できなかったがその次の出来事です全てを把握した。

 

途端、窓ガラスの割る音が響く。

このようなチャンスを生かさない訳にはいかない。無闇にスタンを使えない状況で自然に相手を一瞬だが硬直させたのだから。

俺はスモークグレネードを投げ、窓の方へ課長の手を引いて走る。

その先にあったのは一機のヘリだった。AH-1S。陸自で使われているガンシップ。

そしてそのコックピットには大辺と拳隆の姿があった。

 

俺はG33を一旦ホルスターに戻してワイヤーガンに持ち替えた。

目の前のガンシップは風圧で部屋のあらゆる書類をまき散らしながらホバリングする。キャノピーから顔を覗かせ、窓ギリギリにヘリを着けながら叫んでいる。

俺は先に課長を誘導させる。動きづらいスーツのスカートを手で破き、走り幅跳びの容量でヘリへと飛び移る。素人目に見ればもう少し寄せられるのではないかと思うだろうがここまで寄せるのは相当な技量が必要である。

ハッキングといい、ヘリといい。こいつには感服させられる。

だが、そう安堵している暇など俺には無かった。

煙の中を掻き割って一人の女が姿を現す。

導命 静。彼女は怒りをもった目で照準器越しに俺を見つめる。

その銃口はまるで彼女の殺意が乗り移ったかのようにおぞましく見えた。先程のような柔らかい物腰に戻っているようだが明らかにそれはフェイクであり。強烈な殺意をひしひしと感じる。

「全く、ご主人様の言うことも聞けないワンちゃんにはお仕置きしないとねぇ。そう思うでしょ、亜久 聖?」

彼女は途端、姿勢を前に倒す。右手にハッシュパピーの先は床へと変わる。

俺は咄嗟に腰のナイフシースからスタンナイフを取り出す。この状況でワイヤーガンは無意味。そしてG33を取り出している暇は無いと判断したのだ。

そして一秒も経たないうちに俺達は合間見えた。

互いの頬を、武器は違えどかすり合っている。化粧を落としながら血液が頬から流れる様を俺は間近で見ることができた。

勝負は引き分け。…ではない。

生憎最後は運と経験が物を言うようだった。

俺の右手はワイヤーガンを通してガンシップと繋がっている。俺はもう逃げる準備が整えることが出来ているのだ。

そのまま引きずられるようにして俺は民政党本部を去る。

煙の中から出てきた部下を引き連れ、俺を睨む導命 静。

離れていく彼女たちを見ながら、俺はワイヤーを徐々に縮めてガンシップへと乗り込んだ。

「おう、危機一発だったな。映画のヒーローみてえだったぜ。」

まず俺に言葉を掛けたのは拳隆だった。

彼はケガをして入院をしたはずだと思っていたがどこにもその形跡は見当たらない。

「課長、どういうことですか?」

「あー、敵を騙すにはぁ、まずは味方からー。つまーり、連中にこっちは戦力がすくねーですから襲うチャンスだよーってなアピールをしたかったのよ。」

そう説明するとなりで拳隆はニヤニヤとしている。俺から一本とったのがそれ程嬉しいのだろう。

「全く、私もヘリを出そうとしたら先に拳隆君が乗てって驚いたのよ?」

愚痴りながら大辺は操縦桿を動かしている。

追ってが居ないことからどうやら他のガンシップも拳隆がなんとかしたのだと思う。

だが、安堵は出来なかった。俺達は政府サイドである生導会に喧嘩を売ったことになる。事件解決の為といえど流石に限度がある。

では、この事件を。革命を語る彼等を突き詰める手立ては…

「…ドバイか。」

俺は気づいた。

 

『彼は今、ドバイにいます。そして彼は何かを企んでいます。貴方が真実を見つけてください。』

 

死んだ男の事を何故こう言ったのか。嘘にしても説得力がない。

確かにドバイは経済的にも世界有数の国だ。では何故彼がそこにいると言ったのか。

その答えはやはり自分で見つける他ない。

 

『貴方が真実を見つけてください。』

 

その言葉が俺の中でループしていた。

もし、我々が空想家のようだといわれるならば、救いがたい理想主義者だといわれるならば、出来もしないことを考えているといわれるならば、何千回でも答えよう。「そのとおりだ」と。

チェ・ゲバラ

 

俺はその日、ドバイに降り立っていた。

無論正規の手続きではなく、日本側が『導命 郭』というドバイに潜伏している男を逮捕したいと申し出たところ彼らは快く許可した。これが現在トップクラスの経済を持つ国の余裕だということだろうか。

 

現在、日本政府では冷戦が始まっている。

革命を狙う。政府転覆を目標とする民政党。そして現在の与党である人民党。

その二つの政党が俺たちハウンドドックを始めとするあらゆる機関を用いて牽制し合っていた。

ことが大沙汰にならにのは両者、この事がバレたら不利益しか無いということからだ。

民政党は立派な違憲行為。人民党はこの一件で民衆の反政府感情に一気に火が点くかもしれない。

そのような理由から俺達は早期解決のため重要参考人である導命 郭について捜査することとなった。

 

ここまで俺たちが調べたことを整理する。

導命 郭は、生導会現会長『導命 静』の弟であり、エリート洗脳教育を行う等、次代を担う者を支配することで日本を革命へと緩やかに導こうとしていた。

しかし、郭は意見が違っていた。彼は武力、経済力による迅速かつ古典的な統制による革命を目指した。

意見の食い違った姉弟は決別。多数派と強硬派に分裂した。

そして郭は何故か味方を残してどこかに消え、データ上は死亡した。だが、ドバイ警察から操作用に頂いた監視カメラの映像に導命郭と疑わしき人物が写っていた。

彼の入国履歴は無く、密入国と疑われる。

そして彼の写っていた箇所。そこが問題だった。

 

ドバイ金融市場(DFM)

 

この証券取引所に彼がいることは俺たちからすれば明白な事実であった。

たった一瞬映ったアラブ系男性の顔が導命 郭と酷似しているというのだ。

つまり彼は整形を施し、ここまで生き延びた。

そして影武者をも殺し、アラブから日本の金融を操作、破綻。そして改革を狙った。

それが今のところ一番しっくりくるだろう。

数年前のドバイショックによる円高も彼の原因かもしれない。

俺は空港に降り立ったジェット機から降り、冬にも関わらず日照りの強い中東の空を見上げながらただ、任務のことを考えていた。

 

中東。特にアラブと聞くとターバン等のイメージが強いだろう。

確かにしている人がいないわけではない。だが、経済の発展に伴い、大きく国際化へ動いたこの国はどちらかと言えばアラブ系だけでなく。白人、黒人、黄色人と様々な人種を見て取れた。

特に国際的経済の中心となる国際空港と証券取引所は白人が多かった。通り際にある程度見た程度だがはっきりとわかるレベルだ。

 

俺は日本大使館へと向かっていた。レンタルした安物の車はタバコの臭いで満ち、ギシギシと音を立てながら走行する。助手席の拳隆は顔色一つ変えていないが俺にとっては吐きそうな程の臭いが染み付いている。

そう、ドバイには加藤沙紀をのぞいたハウンドドッグのメンバーが揃っている。彼女は上に調べたいものがあると言い、俺たちを先に行かせ、有力な情報が見つかり次第連絡すると言ってきた。

因みに大辺は空港に残って機体を確認した後、大使館に向かい捜査を続けるそうだ。

俺達はそれよりも先に詳しい事情を話し、向こうの事情も聞くために大使館に来たわけだ。

 

受付につくと若い受付嬢が俺たちを出迎えた。

うかつに事情を漏らすなんて阿呆なマネは出来ないので、ただ俺は「責任者を呼べ」とだけ言った。

受付嬢はぽかんとした顔で俺を見つめる。拳隆は横でやれやれと肩を竦めている。

一旦彼女は奥の部屋へと戻る。俺たちが不審者と思われてもおかしくはない。だが一応は連絡がついているはずだ。

 

それから何分経っただろうか。奥の部屋からは若い女ではなく、40歳ぐらいの女が姿を現した。

彼女はどうやら政府と生導会、victory or a deathについて知っているようで俺たちに関しては何も詮索せず、ふくよかなその顔を全く表情を変えずに応接間へと案内した。

中にはソファと机、その上には灰皿と緑茶が置いてあり日本の普通の会社とは何らかわりは無かった。

そして、白髪頭の男性がその椅子に座っている。

彼はここの責任者であり、今回の我々の協力者。

『十力 三郎』

俺たちのドバイへの調査はこの人なしでは実現しなかったという程だ。

「さて、失礼ながら手短に話しますね。」

そういって彼は一枚の写真を取り出す。

この写真こそ証券取引所に写っていた導命 郭の写真。

整形の技術は発達したと言えど現代の科学では個人の特定は難解であるが出来ないことではなかった。

「この写真ならもう見たぜ。これがなんだってんだ。」

俺が言う前に拳隆が口走ったのは言うまでもない。

「ええ、でも注目すべきところは…」

三郎は写真右側を指さす。

「こっちのアジア系の男女です。」

写真は結構鮮明であった。

だが素人目にはアジア系と分かってもこの写真から日本人、中国人、韓国人。分類するのはなかなか容易ではない。

彼曰く日本人だという男女は郭の部下だという。

だが、気づくべき点はもう一つあった。

写真奥。髪の長い女性。

「…導命 静!?」

息をのんだ。対立する二つの派閥が世界経済の基盤となるドバイに降り立っている。

これは全面戦争になりかねない事態である。

話しが終わってないにも関わらず、俺はG33のグリップを少し握った。

 

証券取引所は騒がしかった。それは株価の変動によるものではない。もっと原始的な、本能的なものだ。

恐怖。

DFMは俺たちが駆けつけた頃には既に中で銃声が鳴り響いていた。

まわりにいたアラブ系の女性たちは銃器の上げる甲高い音に怯え、耳を塞ぎながらDF<とは真逆の方向へ逃げていく。

俺達はそんな人々と真逆。つまりは現場であるDFMに向かう。

既に大辺がヘリから捉えた映像でDFMの状態は大凡把握したつもりでいたが数分前に見た映像と現状は大きく違い、悪化していた。

既に入口には白人男性の死体が転がっている。正確に脳天を突かれず少々耳の方へ行った弾痕から流れ弾に当たったと推測できる。ご愁傷さまだ。

その死体をよけるように入ったDFM。その中ではライフル銃の連射音が響く。

取引に使われれるPC、モニターは無残な姿になり、コードがでろんと出ている電子機器類は実にみすぼらしい。

その中にいる二人の男女。そして二人を囲む日系男性3人。

一人は導命 郭と言われたアラブ系の顔をした男性。もう一人は生導会会長、導命 静。

まわりにいるのは郭の取り巻きであり、静かの部下は恐らくどこかしらでここを狙っているだろう。

「これで3人目…」

僅かに動いた静の唇はそう告げる。

途端、指は引き金を引き、思い鉄製の撃鉄が上がりスライドが後退。弾丸が装填、射出される。

その様子を郭の取り巻きは止めることもなく只呆然と見つめる。

いや、正確には見つめる事など出来ない。死んでいるのだから。

一瞬の内に全ては静の方へ傾いた。

狙撃により射殺され、肝心の親玉も脳天を撃ち抜かれる。

まるで映画のような、完成した物語。作られたものを見るかのような印象だった。

「動くなッ!」

俺はG33を突き出して叫んだ。

そして導命 静は返り血の付いたその顔を歪め、笑いながらこちらを振り向く。

甲高い嘲笑の声が3人しかいないDFMに木霊す。

「何?私たちを追ってきたの?ご苦労さんね。」

そしてゆっくりと動き出す。

俺はそれに対し無慈悲に銃弾を撃ち込む。

最初は威嚇。すぐ隣りのPCのディスプレイに風穴が空く。

「動くなと言った筈だ。」

「あら、怖いわね。」

そういって静はゆっくり銃を置き、俺の方へ蹴飛ばす。

「拳隆、生存者の確認を。」

「分かった。」

そして俺と拳隆は背中合わせに動き出す。

敵の下へ、守るものの下へ。

 

 

ドバイにて激しい戦いが起こる中、日本では冷たい戦いが起こっていた。

「さってー、もう生導会に繋がる点は見事に消されちゃってるわねん。」

民政党の党首は消され、接点のあった副総理も消され。これ以上深い事を知る手立ては無い。

いや、たった一つの手を残して。

「…民政党創始者…」

閑静な住宅街の中にある一軒の家。その前に加藤咲は立っていた。

そしてインターホンをゆっくりと押す。

ピンポーン、と電子音がした後女性の声が流れる。鳥の鳴き声が響くだけの空間に響く。

「誰ですか?」

「警察です。」

いつもとは全く違う淡白な口調で答える。

「警察…ですか?」

「そうです、導命 康蔵さんにお話があります。令状は出ています。」

「祖父が何をしたと…」

「お話を聞きたいだけです。」

念には念押し、硬い、白いドアが開く。

この家は民政党の元党首、導命 康蔵の自宅。彼は寝たきりのまま自宅療養中である。

「祖父は寝ているのですが…」

「いいです、すぐ終わります。」

そう言って加藤は奥にある寝室に近づく。康蔵は生導会創始者の末子であり、政治と宗教を絡めることに大きく貢献した人物である。

彼ならば何かを知っている。彼女はそう考えたのである。

白い布団にくるまったやせ細った男。壁に掛かっている若かりし頃の彼の写真からは全く予想がつかない程である。

無理もない、彼は既に100歳を超えている。

「ハウンドドックの加藤咲っていう者なんですけどぉ、導命さーん聞こえます?」

すると彼はゆっくりこちらを向く。そしてかすかに唇を動かす。

「…郭の事を聞きに来たんだろう…」

「ええ、そのとおり」

加藤は大きく首を縦に振った。

 

「私はぁ、貴方のお兄さんの曾孫さんのお話を聞きたいの。」

「…だから郭のことだろう…」

加藤は黙って頷く。

「貴方が知っている事を全て教えて欲しいんですよー?」

「…わかってる、あいつらのやってることは私も…ゲホッ!ゴホッ!」

滑舌の悪いその話が唐突に切れる。康蔵につながれた機械は黄色いランプを点滅させている。

何か危険のサインだろう。加藤は慌てて康蔵の背中をさする。

「…いいか、あんた…郭は…」

「ええ」

背中をさすりながら相槌を打つ。未だに康蔵はむせておりとぎれとぎれに微かに声を放つ。

「郭は…もう死んでいる…」

「…データ上は…ですか?」

「いや、違う。動物として、だ。」

「動物として?」

康蔵はベットへもう一度倒れ、体勢を戻す。

「本当の郭はDNAサンプルに過ぎない…お前たちが追っているのは郭の紛い物…」

「クローン?」

「そうだ…導命郭は…5人いる…」

途端、部屋の中に電子音が響いた。

心拍数を表示する機械は0を指し示し、それは同時に康蔵の死を意味していた。

「お爺さん!?」

先程加藤を案内した女性がそれに気づきドアをぶち破る勢いで入ってくる。

加藤はそれと反対に歩き出す。

女性が康蔵のベッドの下で啜り泣いているがそれには見向きもしなかった。

『導命郭は5人いる』

今すぐそのことを伝えようと亜久の携帯に電話をかける。

だが、何度コールしてもかかる気配は無かった。

あちらもあちらで何かが起き始めている。加藤はそう思い自分の車へと急いだ。

 

File No,4 The truth.~Revolution for whom?~

 

「導命 静。殺人、内乱の及び陰謀、国家反逆罪で逮捕する。」

「ふふ、どうせ射殺命令が出てるんでしょ?早く殺しなさい。そうすれば全て終わりになるわ。」

彼女の言うとおり射殺命令は降されている。俺がここで彼女の脳みそを鉛でグチャグチャに掻き混ぜたところでなんの罪にも問われない。

照準器はリアサイトで彼女の顔を挟み、フロントサイトは顔と重なって見えた。正確に、無慈悲に。俺は命を奪おうとしている。

トリガーから飛び出たトリガーセーフティを解除した音が響く。

その鉄の生み出す甲高い小さな音がうるさく聞こえるほど静かだった。

だが、その静寂は破られる。

無線機に声が響いた。

耳に総装着したイヤホンから聞こえるのは拳隆のこえ。

「亜久、導命 静を殺すな!」

まさにナイスタイミングというべきか。俺はあと数秒で彼女を肉塊に変えていた。

それが面白くないのか導命 静は先程までしていた憎たらしい笑顔ではなくなり無表情でつまらなそうにしている。

「どういうことだ?」

「分かった手短に言う。」

その彼女の顔から銃口は未だブレさせない。

「導命 郭は死んでない、まだ終わってねえんだよ。そして導命 郭の居場所をしってんのは…」

「導命 静。」

そのとおりだと拳隆は答える。

だがここで一つ疑問が上昇する。さきほど殺された導命 郭はなにものだったのか。

「亜久、あの飲んだくれ上司によれば導命 郭本人は植物状態。そしてお前の目の前にいるのはクローンだ。連中は導命 郭を利用している。」

「それはどういう?」

「郭本体は奴らの手中。クローンは行方不明。」

「証拠を掴むにはアイツが必要と。」

俺は照準器越しに彼女の顔を凝視する。

この事件を解決するには双方の派閥を壊滅させねばならない。

近いようで遠いゴールがなんとももどかしくさせる。

そして、事件はさらに加速する。

俺の後方、DFMの入口から光が差し込む。革靴のたてる音から誰かが入って来たことがわかる。

俺はナイフを持ち、導命 静にも注意しながら横目で後ろの人物を見る。

その顔には見覚えがあった。

「…ノコノコ殺されに来たか、郭。」

導命 静が殺気だった声をだす。だが俺はそれよりも後方の人物に気を取られていた。

『彼は今、ドバイにいます。そして彼は何かを企んでいます。貴方が真実を見つけてください。』

数日前に聞いた声が再生される。

 

『反紛争運動活動NGO団体victory or a death 会長 荻原健一』

 

単なるお飾りだと名乗った彼がそこに居た。

 

 

「郭ぁ。いや、出来損ない。何しにきたんだぁ?」

導命 静はゆっくりと動き出す。

「動くな!」

俺はG36から45.ACP弾が放たれる。

鉛は彼女の足へ命中。右太ももの肉は赤く染まっているだろう。

「動くなといった筈だ。無駄な抵抗はするな!」

「黙れッ!」

一喝する。

覇気の篭ったその声はDFMの外まで聞こえていたのでは無いだろうか。

「姉さん、もうやめよう。」

「クローンが姉と呼ぶなッ!」

彼女は被弾した足を抑えながら倒れ込む。

そして、彼女の服に隠れたもの。床に落ちているのは…

「…シグザウエル!?」

俺は直ぐ様彼女の右手に照準を合わせる。

「伏せろッ!」

鉛玉が二つ、空中へ放たれる。

そして弾丸は両者の肉をかき混ぜていく。

二つの叫びが共鳴する。

静は右腕。郭は左肩。赤黒い血糊が見える。

「導命郭!こっちに来い!」

足を引きずり、ゆっくりとこちらへ向かってくる郭を見ていられなくなった俺は走り、そして肩を貸す。

「あんたには聞きたい事が山ほどある。ここで死んで貰っては困る。」

光の差し込む所へ、出口へと俺は向かった。

 

外にはヘリのローター音が響いていた。AS332がホバリングしている。

現地軍から大辺が拝借した物らしく既に拳隆共々乗っている。

「乗って!」

人通りの無くなった大通りに着陸するAS332。

俺は導命郭の肩を持ったまま乗り込んだ。

 

「亜久、そいつは…」

「本件の重要参考人だ。」

俺は別に警戒を怠っている訳ではない。

こいつを信用している訳ではないし、立場上そんな事はしない。

さっきからずっと俺のもったG36の銃口は彼の背中に突きつけられている。

「もしかしてこいつ…」

拳隆が導命の俯いた顔をのぞき込む。俺は仕方なく彼が導命郭だと。強硬派のリーダー。いや、そのクローンだと答えた。

予想はしていたらしいが流石に拳隆も、ヘリを操縦していた大辺も驚いていた。

「大辺、穏健派の連中の追っ手はいるか?」

「もう振り切ったわ。で、その重要参考人への尋問は?」

「今からするところだ。」

突き付けられたG36から彼の体の震えが伝わる。

「さて、まず聞こうか。なぜここにいる?」

「簡単な理由ですよ…私は導命静を止めに来た。それだけです。」

「誰の命令で?」

「…導命郭。私たちのオリジナルですよ。」

「待て、本人は植物状態じゃなかったか?」

銃を持つ俺の手に力が入る。

「一条さん。いや、亜久聖さん。穏健派と強行派の対立はそもそも考えの違いじゃないんです。私達はオリジナルの命で穏健派の違法行為を止めようとしてるんです。」

「どういうことだ。穏健派のやり方が気に食わなかったからじゃなかったのか。」

「全く違いますね。」

導命の声は以前怯えたようなままで震えていた。

「もともとはオリジナルが穏健派の洗脳じみたやり方が気に入らなかったんです。ここで対立にならば貴方の考えは正しい。けど問題はここからなんです。導命静はオリジナルを拘束、尋問。いや、拷問したんです。実の弟に麻袋被せて殴ったり、生爪剥いだり、果てはウリマラスから流れた拷問器具も使ったとか。はは、全くひどい話ですよね。」

彼は笑っていたが声は、顔は笑っていなかった。

「その際、彼女はオリジナルの神経を傷つけ、彼は植物状態。一部細胞の破壊された脳は機械でカバーしたらしいですがやっぱり無理だったらしいです。けど彼女はオリジナルの持つ絶対的なカリスマ性が欲しかった。少数派である私たちが戦ってこれたのは彼の才能の影響です。」

「で、その才能欲しさにクローンを作った。」

「正解、けど彼女たちは大きな失敗をしました。しかも彼女達はまだその欠陥に気づいていない。」

「その欠陥ってのは?」

「私たちの体にはICチップが埋め込まれ、情報は全てネットを介し穏健派にわたります。でもそこ問題だったんです。ネットを介して送信される情報は途中、機械とインターネットを使って代理演算による生命維持を行なっているオリジナうrに伝わる。またオリジナルの情報を私たちに伝わる。」

「それで君たちは利用して穏健派を止めようと…」

「ええ…お願いです。私たちがやってきた事を許してくれとは言いません。でも、姉さんだけはとめてくれませんか。」

俺は拳隆の方を向く、すると途端彼は俺から目を逸らす。

仕方なく大辺の方を向く。

「どうする、彼と俺たちの目的は同じだと思うが。」

「…そうね、課長の居ない今、指揮権は全て私たちにある。どうする、拳隆君?」

「…やるしかねえだろ。導命静をとっ捕まえてさっさと日本へ帰る。それだけさ。」

俺は一旦息を吐く。

「…決まったな。俺達はこれから導命静の暗殺を導命郭と共に行う。異論は無いな?」

二人は黙って首を縦に振った。

 

ヘリはDFMからどんどんと遠ざかっていた。これからの行く宛と言っても正直導命静がどこにいるか分からない。

DFMは既に現地警察が強行突入を行い、クリアリングが済んでいる。つまり穏健派が彼女を回収したのだろう。

そして彼女たち穏健派は導命郭の命を狙っている。それ即ち俺たちが狙われている。

「いいか、連中は俺たちを追ってくる。大辺、悪いが囮役をやってもらうぞ。」

「ええ、構わないわ。」

「拳隆は大辺とヘリに残り、機銃で敵に対応。導命は俺と降下、直接ターゲットを狙う。この提案に異論は?」

誰も口を開かない。俺はそれを了承したと判断する。

「では目標がこちらに接近し次第行動開始。それまでに各自準備をしておけ。」

そう言うと拳隆は後方から無骨なデザインの大きな機銃。FNのミニミを取り出す。

そして俺は導命にHK45を渡す。

彼はのちのち俺達の手にかけられる訳だが導命静を殺すまでは重要な戦力であり、オリジナルと繋がる唯一の接点。本件の重要参考人である。そんな彼をそう簡単に殺される訳にはいかない。

「…来た。八時の方向、数は三…ってこんなにいるの!?」

「もう何を言っても遅いぜ未来ちゃん?敵は俺に任せて操縦に集中してくれよ。」

「わかってるわ。二人とも、降下の準備は?」

一瞬へりが前に傾き、導命はバランスを崩す。

「ラベリングの準備は整ってます。…でも亜久さんは?」

俺はワイヤーガンを片手に風の入り込むヘリの出入口にたっていた。

「あー…心配いらないわ。すごく画期的な降下方があるの。」

そう言われ、半分理解できたような出来てないような顔を導命はする。

「無駄口を叩くのは終わりだ。降下するぞ、ヘリを一旦停滞させてやれ。」

「了解。」

ヘリの傾きが戻る。今度は前振りがあったためか導命はバランスを崩さなかった。

俺はG33のスライドを引き、チャンバー内に弾丸を装填する。

「行くぞ。」

体を空中へと落とす。

上半身からゆっくりと、倒れるように落下する。

嫌というほど風が当たり、耳に強い音を響かせていく。

その音を聞いてわずか一秒も無い間に近くのビルにワイヤーを射出、落下速度を減速、そしてゆっくりと着地する。

上空には3機のヘリ。

この事件はあと少しで終わりを告げようとしていた。

 

上空で痛烈な銃声が鳴り響いた。いくら一般人はいないとはいえここまで派手な戦いをするのはハウンドドックではそうそう無いことで、ある種緊張はしていた。

ミニミから一気に放たれる鉛玉は反動により分散、空に弾幕を張っている。

面制圧。機関銃などでは「敵に当てる」のではなく「その場に弾をばら撒く」という感じである。

俺はロープで降下してくる郭を待ちながらワイヤーガンをホルスターに仕舞い、G33を取り出す。

それからしてちょうど良く導命郭が俺が身を隠していたビル影へと走ってきた。

「導命静がどこにいるかわかるか?」

「いえ…私は何も…オリジナルからも連絡は無しです。」

「となると片っ端から探すしかないか…」

G33を前に向け、周りを警戒する。頭上では激しい空中戦が展開しており、既に大辺と拳隆はヘリを一機落としていた。その代償として何発か被弾したようだがまだ囮としてはもちそうだが急ぐに越したことはない。

俺はを後ろにつかせ、ビル陰から出る。

夕方になってはいたが赤い夕日から放たれる日差しがジリジリと肌を焼いていくのが分かった。

頭上の派手さと引き換えに地上は人一人おらず、静まり返っていた。自分の足音が五月蝿いほどである。

俺と郭。二人の足音がコツコツと路地に響く。俺は耳を澄ませる。些細の足音でも敵位置を知る重要な情報である。

コツコツ。二人の足音が響く。

コツコツ。コツコツ。

耳を澄ませる。誰かがいる、もう一人の足音が二人の足音にかき消されながらも微かに聞こえる。

「…伏せろッ!」

叫んだ途端、隣のビルが粉砕した。

窓ガラスが粉々になり、頑丈そうな鉄筋が丸見えになっている。

埃にむせながら銃声の鳴った方向に銃を向ける。

「惜しかったな、お前が塵になるはずだった。」

向かいのビルの上、そこにまたも見覚えのある顔。いや、見覚えというより鮮烈な印象、不快感を与える顔。

「出来損ないは死ぬべきだ。」

導命郭。彼と全く同じ顔。ドッペルゲンガー。クローン。

だが継ぎ接ぎや焼け爛れのある顔。

俺に不快感をあたえた彼は米陸軍のグレネードランチャー。XM-25を片手にもち、こちらを冷めた目で見つめていた。

「…サクセスタイプ、貴方が実戦に駆り出されるとは。」

「フェイルアータイプ。お前の存在は私の最大の汚点。そして排除すべき存在。」

サクセスタイプと呼ばれた郭はもう一度XM-25を俺たちに向ける。

「クソっ、立つな!伏せていろ!」

サクセスタイプの足元に鉛を放つ。

その間に俺はビルの陰、遮蔽物に郭を連れていく。

「なんだ彼奴は?」

「サクセスタイプ、要するに成功型。穏健派に従順な唯一のクローンです。その代わり精神状態が不安定で薬の摂取をしなければまともではいられないと…」

「また面倒な奴が…」

その途端、遮蔽物が粉砕される。

幸いケガは無いが腰を打ったらしく少しばかりか痛む。

「…では、俺がこいつを止める。お前は姉の下へ行け。」

「そうはいきません。クローンの始末はクローンが着けます。貴方は姉を止めてください。」

俺は少しの間黙り、考え込もうとした。しかし敵を目前にそのような余裕は皆無であり、今は彼の提案に乗るしかなかった。

彼はサクセスタイプの下へ、俺は奥へ宛もなく走った。

 

 

「フェイルアータイプ、次でお前は最後だ。」

右手でグリップを持ち、左手はフォアグリップを掴む。

ガチャンという金属音が響き、榴弾が装填、チャンバー内に巨大な弾丸が入る。

光学式の照準器には炸裂する距離をはじめとしたデータ、そして何より殺すべき相手。「フェイルアータイプ」が映る。

このままトリガーを引かれれば恐らくフェイルアータイプは木っ端微塵。一瞬の間に肉塊へと変貌するだろう。

だが、幾らクローンであろうと生存本能がそうはさせない。

人間の原始的な、脳の最も原始的な『生きたい』という本能が彼の右手を、銃を持った手をサクセスタイプへと向けさせる。

既にスライドの引かれているHK45には初発が装填されており、マニュアルセーフティも解除されている。

つまり、トリガーさえ引けば目の前の男を死体に変えられる。

両者が両者を殺せる。

妙な汗が頬を伝い、奇妙な静寂が二人を支配する。

先に撃てば、先に当てれば勝利は確定する。

にも関わらず二人は少しの間、顔をあわせ、にらみ合い、互いを威圧しあい、恐れ合い、そして引き金を引かなかった。いや、引けなかった。

二人は立場は違えど元をたどれば同じ人間。同じ遺伝子を持つ者。それを殺すというのは必ずしも快い行為ではない。人殺し自体気持ちの良いものではないが自分そっくりの者を殺すというのがさらに気持ち悪さを増大させる。

 

 

俺はただ宛もなく走っていた。

ワイヤーガンを使い、ビルに飛び移り、上空のヘリの動きに気を付けながら。

彼女は郭を狙っている。だがサクセスタイプと呼ばれる彼女の手先とは一緒ではなかった。

だとすれば彼女は、彼女達穏健派は分散して捜索にあたり、運悪くサクセスタイプとやらに接触した。と考えるのが妥当であろう。

俺は上空のヘリから身を隠すため、ビルにある屋根つきのベランダから街全体を見渡す。

腰の当たりのポーチをガサガサと漁り、ファイバースコープを取り出す。

まさかドバイに来てまでこんな激しい銃撃戦になるなんて数日前、このファイバースコープをジュラルミンケースに入れていた俺は考えもしなかっただろう。

スコープに目をあて、街を見渡す。

規制がかかっているとはいえここまで人がいないとまるでゴーストタウンのようだ。

その人影のない町の路地をしらみ潰しに探していく。入り組んだ道は人探しには最悪である。

だが、幾ら入り組んでいるとは言え、ヘリに連中が乗っているとはいえ、人があまりにも見当たらない。いや、最早いない。

俺は妙な胸騒ぎがした。

そして、ここに居てはならない。今すぐいかなくてはならない。そんな衝動に駆られる。

俺は、その本能<ゴースト>がままにビルを出た。

 

俺が着いたときには既に死体が転がっていた。

弾丸に頭を撃ち抜かれ、ぐったりと倒れたその死体からは死体特有の異質な香りと弾丸が奥まで入り込んだ事を表すように鮮やかな鮮血が飛び散り、壁に付着していた。

サクセスタイプと呼ばれる俺たちを狙ってきたクローンはXM-25を使用していた。だがこの死体への弾痕は.45ACP弾だ。俺がフェイルアータイプに渡したHK45の使用する弾薬は45口径。

サクセスタイプがサブウェポンとしてガバメントでも持っていたという可能性は否めないが確率としてはフェイルアータイプがサクセスタイプを殺したと考えるのが妥当であろう。

だとすればフェイルアータイプはどこへ行ったのか。

周りの壁面が先程俺がいた時より崩れていることからグレネードランチャーが撃たれたということが推測される。

では、相打ちにでもなって木っ端微塵にでもなったのか。

だとすれば俺が殺すべき相手はあと一人。『導命静』のみ。

バンッ、

銃声が鳴る。鳴らしたのは俺だ。

咄嗟に感じた殺気。それに対して鉛を放った。

だが狙った先にいたのは静の部下と思われる男が一人。心臓から血を垂れ流し、その場に倒れていた。

そして俺はグレネードによって壊された壁の破片を遮蔽物代わりに隠れる。

案の定、先程俺が立っていたポイントに弾丸が当たり、跳弾した。

既に俺は囲まれている。だとすると囮を任せていた大辺達がどうなったのか、不安が募る。

するとそこに丁度良く拳隆から無線が入る。噂をすればなんとやらということか。

「すまねえ亜久、連中お前たちに気づいてヘリを捨てて降下したもんで…」

「分かった、そっちはまだ落ちてないんだな?」

「ああ、まだ弾薬も燃料もたっぷりだ。」

「では航空支援を頼んだぞ。」

了解と言われた後、通信は切れる。

それから1秒もしなかっただろうか。上空から多数の鉛が降り注ぐ。

少なくとも近辺にいた俺を包囲した連中は排除できているだろう。残るはただ一人。

「導命静…」

その名前を口にし、そしてマガジンをリロードする。

いつも手馴れた手つきでさっさと行う動作が今回は何故だかオーバーになっていた。

体内に分泌されるアドレナリンが俺の興奮を高ぶらせ、コンバットハイに陥らせる。俺は人を殺す。それに対して罪悪感が欠如していた。

そう、一掃されたはずの地帯。その中にいた返り血をかぶった女。

彼女が俺の興奮を高ぶらせた。

 

俺にとって彼女は、

敵。

殺す相手。

抹殺対象。

殺害目標。

彼女は情けかけてはならない敵。

俺の心はあらゆる使命。殺意衝動。そして任務を忠実に遂行する無心。慈悲を捨てる心。

あらゆる矛盾が俺の中で感情のマトリクスを形成していく。

彼女の白い肌。

中東の強い日差しに照りつけられているにも関わらずその肌は妖怪のように色白かった。

その真っ白な肌にべっとりと付いた血のり。

周りの黒煙を上げる破壊されたビル。

彼女の手にもったXM-25

あらゆるものが俺のアドレナリンを活性化させ、興奮を助長させる。

息は荒くなり、銃を持つ手はコンバットハイによるものか迷いのない慈悲のない人殺しの動きになる。

G33のサイトは確実に彼女の頭を抑えている。

そして又彼女のXM-25の光学式サイトも俺を狙っているのであろう。

嫌な汗が頬をつたう。

航空支援があればと思うが彼女の後ろからは多数の爆発音。また、RPGやスティンガーミサイル特有の爆発音も聞こえ向こうでは地対空戦闘が行われていると予測される。

このままでは俺が彼女を殺害するしかない。

いつもやってきた行為が酷く怖く思えてきた。

だが、手が震えるわけでも罪悪感を感じるわけでもない。本能的な怖さを知らぬまに感じているのだ。

俺はトリガーに指を掛ける。トリガーセーフティが指にあたる。

そしてまた彼女もこちらに向け、照準を合わせる。

一瞬の沈黙。

銃火器の激しい音の中に、二人の中にわずかな静けさが訪れた後、二つの発砲音が響きわたった。

 

俺は痛みを覚悟していた。この状況、遮蔽物の全くない状態では相打ちも避けられない。

死ぬ覚悟は無かった。でも、ある種の覚悟は混沌とした感情のマトリクスの中に存在していたのだろう。

そして放たれた弾丸は外れていた。頭を正確に狙っていたしかし着弾したのは彼女の左耳。赤い液体が溢れていくのを手で必死に抑えている。

コンバットハイだった俺を抑止した。本能的な恐怖が俺の使命よりも勝った。それが結果として彼女の生として眼前に表されている。

俺はというと直撃はまぬがれたものの爆風に巻き込まれ、腰を強打。立つのがやっとといったところか。

先の戦いで右腕を撃たれ、右耳をも負傷したにも関わらず以前彼女は左手にXM-25を持ち替えてでもこちらに近づく。

爆発で遮蔽物が出来たのが不幸中の幸いといったところだろう。

俺はG33のマガジンリリースボタンを押し、左手でリロードしようとするもどうやら左腕も打ったらしく上手く動かない。

仕方なく一旦地面にG33を置き、腰から弾倉をとりだす。そして弾倉を口でくわえ右手で持ったG33を口元へ近づけリロードする。

彼女の足音は既に近くまで迫っている。今度こそ覚悟は出来ている。

左足で体を蹴飛ばし、体を床に倒すようにガレキから這い出る。

銃口は既に彼女の胸を狙いに定めている。

そしてもう一度銃声が鳴り響いた。

 

 

俺は彼女の胸、心臓を狙っていた。

だが彼女の体は頭、そして胸を貫かれ一瞬の内に力を失い倒れた。二発の弾丸が同時に放たれたのだ。

俺は後ろを見る。そこには小太りの日系男性がHK45を構えて立っていた。

HK45の銃口からは未だに硝煙が立ち込めている。

「…お前が撃ったのか…」

導命郭。彼のクローンが彼の実姉を撃ち抜いた。

俺の放ったG33の弾丸もあるが彼の放った弾丸が彼女の脳天を撃ち抜いた事が決定打になっていることは間違いない。

「…これであとは一人だけですよ。」

フェイルアータイプは俺を見つめて言う。

「ああ、そうだな。」

俺には彼が悲しい顔をしているようには見えなかった。むしろ喜んでいる。笑顔に見えた。

彼はこれから俺の手によって射殺される。そういう契約だった。

G33を持つ右手が微妙に震えている。

「さあ、終わりにしましょう。革命なんてもういいんです、姉はただの独裁者に過ぎません。もうお遊びは終わりにしましょう。」

腰の痛みに耐えながら俺は立ち上がる。肘を伸ばし、彼の頭に銃口を向ける。

「…言い残す事はないか?」

「そうですんね…オリジナルに会ったら『ありがとう』と『すみません』、と伝えて下さい。」

「…分かった、絶対に伝えておく。」

トリガーセーフティが解除される。

「ありがとうございます。」

そして弾丸が彼の頭に向けて放たれた。スライドが後退し、火薬が爆発する。薬莢が地面に落ち、硝煙の香りが立ち込める。

彼は感謝と共に、笑顔と共にこの世を去った。

 

 

人が革命家になるのは決して容易ではないが、必ずしも不可能ではない。

 

しかし革命家であり続けることは、歴史上に革命家として現われながらも暴君として消えていった多くの例に徴するまでもなく、きわめて困難なことであり、さらにいえば革命家として純粋に死ぬことは、よりいっそう困難なことである。

チェ・ゲバラ

Epilogue Constancy.~Peace is not made by Justice~

 

導命静、郭が死亡し。指導者の居なくなったこの争いは終結した。

瓦礫の山となった広場に俺は佇んでいた。

サクセスタイプ、フェイルアータイプ、そして導命静。三人の遺体が俺の周りで横たわっている。

ヘリの引き起こす強風が俺の血の滲んだ服をたなびかせている。

ロープで降下してきた拳隆が俺の体を引っ張る。既に現地警察が死体の処理に来ており俺たち二人に向けて敬礼している。

ギリギリまで着けられたヘリに俺は横たわるように乗り込む。

力がでない。負傷したからでもあるが精神的な喪失感が俺を襲っていた。

「これで蹴りがついたな。」

拳隆が言う。

「…まだだ、オリジナルをなんとかする。」

「オリジナって導命郭か?彼奴は植物状態だからもう何も…」

「伝えなければならないんだよ。」

俺は痛みに耐え、立ち上がって椅子に座り込む。

「伝えるって植物状態の奴になにを?」

拳隆が不審そうな顔で俺をのぞき込む。

「彼の…彼なりの…帰還報告<デブリーフィング>」

拳隆は聞いてもよく分からなっかったようで首を傾げたまま視線を元に戻した。

開いたドアから風が入り込み、火照った俺の体を撫でていった。

俺たちのやったことは正しくはない。いや、むしろ悪に近い。

だがそれによって一時的ではあるが平和が訪れているのは紛れもない事実だ。

俺は衣笠の思う『隠すことによる平和』が正しいとは思わないし悪いとも思わない。

だが長続きしないのは確実であろう。

俺はそこまで知っていながら警察という正義の名で悪を成す。

そう、俺達はハウンドドック。冷徹にして最低の警察組織。

                            Temporary Exit.

 

 

 
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