No.259336

【編纂】日本鬼子さん序「どうしてなの……」

歌麻呂さん

今ある日本鬼子さんの作品を参考にしながら、自分なりに編纂して鬼子ワールドを開拓してみた。
まだ文章に力がなくて陳腐に見えるかもしれませんが、宜しくお願いします。
叱咤・激励・雑言・罵り言承っております。どれも小躍りしながら拝読致しますが、お返事はできないと思いますのでご了承あれ。
ただ短歌であれば返歌を、五七五であれば七七でお返しはしたいと思います。試験的に。(ちなみに本編に短歌も俳句も川柳もほぼ登場しません)
最後に、参考にさせて頂いたイラスト、漫画、SS、音楽、レスに大いなる敬意を表しまして、本編スタートです。

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2011-08-04 22:03:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:929   閲覧ユーザー数:929

 間に合った。

 間一髪だ。

 どうにか鬼の一撃を防ぐことができた。

 薙刀で鬼を振り払い、距離をとる。相手の姿は黒く、そこだけに夜が訪れているようだった。まるで遠近感を感じさせない。ただその輪郭のない黒い頭に生えた角だけが夕陽を浴びて黒光りしている。

 無言の雄叫びをあげ、獲物の邪魔をした私を威嚇していた。

 

 夕暮れの山間、そこに広がる畑、この時間……。戦いたくないところに鬼が現れてしまったのは運がなかった。

 鬼が踏みしめた畑は邪気によって穢されてしまっている。私には対処のしようがない。やっと大きくなってきたほうれん草も、これではもう食べられない。

 日が沈んでしまえば、闇に染まりきった鬼と戦うのは困難を極める。この鬼は、夜や闇や影に関係した神さまが堕ちてしまわれたのだろうが、今この段階で特定する呪術や観察眼は持ち合わせていない。

 それから、

 

「ああ、ああぁ……」

 

 私の背後で腰を抜かしてしまっているのは、仕事帰りの農夫だろう、帰り道で鬼に出くわしてしまったようだ。この方に怪我をさせないように戦わなければいけない。逃がしてあげたいけれども、敵に背を向けるほど私は愚かではないし、そうでなくてもその役は不適任なんだから。

 

 そう、私一人では、何もできない。

 もしも、こんな自分に生きる価値があるのだとしたら、

 

「黒き鬼よ、あなたを散らしてあげましょう」

 

 鬼と戦って、あるべき姿に還してあげるしかない。

 挑発に乗った鬼が闇夜の腕を振りかざした。とっさに防御の構えをとり、頭上で受け止める。まるで大岩を持ち上げているような重みが両腕にのしかかる。押しつぶされそうになるけど、こういった力任せな鬼はいたるところで出くわしてきたし、その度に散らし、浄化してきた。

 力を受け流すように薙刀で払いのける。五尺ほど離れた地面に腕が振り落とされ、耕された土が邪気を含んで飛び散った。

 

 ごめんなさい、と心の中で呟きながら影の鬼の懐に潜り込む。

 隙は一瞬だけしか見せないから、合掌はできない。

 だからせめて、あなたを――

 

「萌え散れ!」

 

 一閃。

 

 上下に裂けた鬼が声にならない叫びを上げる。罪の意識を抱きつつ、薙刀に付いた邪気を振るう。同時に背後の鬼が影となって四散した。こうして、元のおられるべき場所へと還ってゆく。鬼の正体は「影」の神さまの一柱であったようだ。

 

 

 

 

 薙刀を神さまの元へお返しし、振り返る。そこにあるのは黒く穢れた畑と、尻餅をついたままでいる男だけで、もう鬼の姿は見当たらない。

 

「あの……」

「来んな!」

 男に声を掛けたか掛けないかの、ほんの一瞬の出来事だった。

 陽は山に入り、カラスの群れが列をなして秋の山へと飛んでいる。風は畑の実りを揺らし、足元に広がる穢れはただじっとそこにあり続けていた。

 

 男は私を拒絶していた。

 

「おめえらが、おめえらが畑を荒らしてっから、みんな苦しんでんだ! 許さねえ、許さねえ!」

 

 そう……だよね。

 私も同類、なんだよね。

 

「同族殺しめ! 俺もやんのか? やんならやれ、どうせ飢えて死んじまうんだ! さあ、さあ!」

 

 私の頭には、角が生えている。

 さっきの鬼と同じ、醜い角が。

 ただそれだけの理由で、人々は恐れおののく。

 

 ある人々は「鬼が来たぞ」と叫んで逃げまどい、またある人々は敵意を見せない私を見て「父を返せ」と「子を返せ」と涙を流しながら怒鳴り喚く。

 

 ただ角があるだけで。

 

「殺せ、さあ殺せ!」

 ときには、彼のように気の狂った人を目の当たりにすることもある。

 

 でも、私の取る行動はただ一つ。

 人々に背を向け、静かに立ち去る。それだけ。

 金切り声を背に受けながら、歩く。

 

「どうしてなの……」

 

 ぎゅっと、手のひらを握りしめて、過去を思った。

 遠くから列をなしていたカラスの声が聞こえる。

 本当は分かってる。こんなこと、考えたって意味のないことだって。

 涙が穢れきった地に落ちる。

 

 でも、問い掛けに答えてくれる人なんて、どこにもいなかった。


 
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