No.23057

公園の君

コタマさん

ガチ中学生日記  続きのまんがは→http://kotamagarden.michikusa.jp/bcrusize.html

2008-08-03 12:38:37 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:635   閲覧ユーザー数:605

「見ろよ、ガチ! 彼女 来てるぞ!」

「うそ!マジで!?」

彼女がその公園に姿を見せたのは久しぶりだった。

 

 

「久しぶりジャン!」

さりげなく声をかける。さりげなく…自分ではそのつもりだけど

声がうわずってる気がする。

横で軽くQが笑ってる。

「あぁ、久しぶり!」

こちらの心配をよそに笑顔で返事をしてくれる彼女。

笑顔。

かわいい。

一瞬無言になるオレをフォローするようにQが話し出す。

「どしたの最近、ココ来なくなったね。」

「ん? …。ま、受験生だしね~。そうしょっちゅうは来れないよ~。」

「んじゃ、今日は息抜きか。」

「そそ。」

そう言うと彼女はフェンスの向こうへ行ってしまった。

 

「何かあんのかな?来なくなった理由。」

Qの問いに答えられるわけも無く、

「なんでそう思うの?」

「イヤ、彼女なんか口ごもったような…。」

そうだったかな?

オレはとにかく顔が見れただけで満足だった。

 

公園のバスケのゴールはもうネットなんか無くてボロボロだ。

高さも規定通りなのかあやしい。

でもQは上手いことボールをバックボードに当ててシュートを決めた。

「トコロで名前、聞いた?」

不意の質問。

「う…。 まだ…。」

「マジかよ!なにやってんの!?」

ホントなにやってんだろオレ。

自分でも信じられん、自分の行動。

こんなオレってヘタレだったか?

なんなんだ自分!

「なんかさ、彼女と会ってお前 変わってね? オレのお前のイメージって…、」

「いいよ!言わなくて!」

怒ったワケじゃなかったけど、声がデカくなってしまった。

正直、今までの自分は好きじゃない。

ヘタレでもなんか今の方が…。

「ま、なんか今の方がイイけどな。」

とQが笑う。

「オレはいつでもイイ男よ♪」

今度は二人で笑う。

「ちょっと!けい君!!」

朝からうるせーなぁ。

めちゃくちゃ不機嫌な顔して振り向いてやった。

そんなオレの顔なんかおかまいなしに喋りまくる。

「あの話、本当? ウソでしょ!? ねぇ!!」

すごい勢いで人の袖をひっぱる。

無視し続けたら袖を破られそうだ。

「あのなぁ…。菜三。」

ため息のようにその名前を呼ぶ。

「何度も言うけど、オレお前と同じ高校には行かねーよ。」

信じてたのに!

そんな瞳をしてコッチを見てる。

なんだよ、その目は。

イライラする。

これ以上お前と話したくねーよ!

 

「いい加減にしろって。菜三。」

Qが菜三の肩をつかみ、オレから引き離す。

「お前、三崎がいいんだろ? 奴ンとこ行けよ。」

吐き捨てるようにQが言う。

「なんでよ!誰がそんなコト言ったのよ!」

「三崎が言ってたぜ?奴の彼女になったんだろ?お前。」

ムッとQの言葉に顔を歪ませる。

Qを振りほどき、こっちを向いて菜三は言った。

「ウソよ!」

「それは口癖か!!」

キレた。

マジで。

その目もその声も、もう何もかもにムカついた。

 

「よく殴らなかったな。」

「オレもそう思う。えらいなぁ、オレ。」

昼休み、屋上でQからタバコをもらう。

沈黙が続く。

菜三の話はQとしたくない。

多分Qも…。

 

ガッチャン!

 

屋上のトビラが開いた。

Qと顔を見合わせる。

嫌な空気。

 

「またココにいた!」

やっぱり菜三だ。

「なんだよ。菜三。」

「あのさぁ、けい君…」

今朝オレに怒鳴られたのなんかちっとも気にしてねーな。コイツ。

その笑顔がムカツクっつーの。

「いっつも私が浮気してるみたいに言うけど…、」

してんじゃん。

っつーか浮気でもねーか。アレは。

 

最初は菜三に男が寄って来てるんだと思ってた。

実際オレも菜三の見た目に騙されたワケだが、

ほんと騙されてた。

いろんな男とモメてはオレとケンカさせて。

わざとだったんだ。

悲劇のヒロインやりたかっただけなんだよ。コイツ。

気付かせてくれたのは、Q。

そのQを巻き込んで…。

 

「私、知ってるのよ。」

何を知ってるっつーの、お姫様。

「けい君、他に好きな人いるんでしょ?」

 

かろうじて落とさなかったタバコを口に持っていき、答える。

「なんのハナシだよ。」

「ほら!その癖! ウソつく時とかごまかす時に口をふさぐ癖!」

「うるせーな!だったらなんだよ!」

「あんな人、やめなよ!けい君のコト好きじゃないって言ってたよ!」

 

!?

 

「…お前、誰のコト言ってんの?」

イヤな胸騒ぎに思わず菜三の顔を見てしまう。

「私、知ってるんだから!いつも公園で会う人でしょ!?」

 

脳天に雷が落ちた。

 

何で彼女のこと知ってるんだよコイツ。

 

なんで…。

 

「いいじゃん、もう別れたんだろ。お前ら。」

空に煙を吐きながらQが言う。

「別れてないわよ!」

いい加減にしてくれ…。

「オレは別れたつもりだけど?」

軽く言ってみせる。

「けい君!」

すがりつこうとする菜三にタバコを向ける。

「何度でも言うぞ!オレは…」

言い終わる前にあわてて菜三は走って行った。

 

ダ イ キ ラ イ ダ 。

 

「聞かなくても同じなのにな。」

さっきと同じ体勢のままQが言った。

「何でアイツ知ってたのかな…。彼女のこと…。」

あの公園のことは知られてないと思ってた。

「後をつけられてたのかもな。」

Qはため息を吐くように煙を吐いた。

「彼女…、菜三と会ったんだな。」

「…。」

「菜三からお前のこと…聞いたんだろうな。だから公園に来なくなったんだ。」

 

…聖域を侵された気がした。

 

最悪だ。

 

いったい何を彼女に言ったんだ…。

 

考えたくなかった。

「やっぱ、あそこ受けンの、やめようかな…。」

「え!今更希望校を変えるンのかよ!?」

「だって…。」

だってもうやる気なんか出ねーよぉ…。

もともとオレなんかじゃ入れるかどうかも分からない進学校。

彼女が行くって言ったから…。

「もう菜三が行かないトコならドコでもいいや~。」

帰り道、重い足どり。

なんかもうどうでもいい。

ため息をつくオレにQが意外な言葉を言った。

「ガチ、公園行こう!」

「はぁ!?ヤだよ!もし彼女いたらど~すんだよ!」

「どうもしねーよ。だってこないだ彼女、何も言わなかったじゃん。」

…確かに。

久しぶり!って笑顔もくれた。

笑顔。

かわいい。

「彼女の顔、見たくなっただろ?」

ニヤニヤしながら人の顔を覗き込んでくる。

「な、なんだよ!」

慌ててQから顔をそらす。

なんか彼女のコト考えると顔が変になる。

Qはその事に気付いてる。

「お前は分かりやすいなー!」

 

公園に彼女は来てなかった。

 

ちょっとほっとした。

やっぱ今は顔見れないかも…。

「でもさ…」

Qがゆっくりオレを見て言った。

「もう ずっと彼女の顔、見れなくていいの?」

 

もう二度と見れないかも?

もう二度と会えないかも?

もう ずっと…?

 

「…イヤかも。」

 

ちょっと笑ってQが言った

「だと思った!」

それからは勉強付けの日々が続いた。

Qのスパルタについていけなくなりそうになったけど

その度に「公園の君!」と呪文のように言われ、

もうそれだけのために頑張った。

 

春。

オレは彼女と同じ学校に入学していた。

菜三はしばらくうるさかったけど、また他に男でも見付けたんだろう。

別の高校に入ったら静かになった。

良かった。もうアイツの顔は見たくない。

 

そして今日やっと見つけた!彼女だ!

名前が分からないから探すのに苦労した。

久しぶりに見る彼女の顔。

なんか懐かしい…。

 

一瞬だけどオレを見て彼女の動きが止まった。

そして彼女は言った。

「誰?」

 

 

 

 

「ねぇ、Q~、オレ避けられてる?」

「知らないふり、されちゃったな。」

今までとは違う景色の屋上で空を見上げる。

「それとも、ホントに忘れられちゃったのかな…。」

自然とため息が出る。

「や、やっぱいいや。」

差し出されたタバコをQに返す。

「禁煙すんの?」

「彼女、タバコ嫌いなんだよね~。」

寝転がるオレを見てQが笑ってる。

「なによ。」

「や~、なんか今のガチ、笑える。」

なにおう! 言いかけたら、

 

ガッチャン!

 

屋上のトビラが開いた。

Qと顔を見合わせる。

嫌な空気。

 

「あ、先客がいた。」

今までとは全く違う声がした。

彼女だ。

「君達もテニス部に入ったんだって?」

意外にも彼女の方から話し掛けて来てくれた。

「バスケ部じゃなかったの~?」

なんだ、やっぱ忘れてなかったんじゃん!

嬉しかった。

笑顔で彼女に返事を返す。

 

「だって、君のことが好きだから~。」

あれ、オレなんか今、スゲぇこと言わなかった?

彼女は目が点になって固まってる。

横を見たら「突然すぎだろ!」そんな顔でQも固まってる。

…だよね。

どうしようもない空気の中、

最初に口を開いたのは彼女だった。

彼女はQを見てオレを指差し言った。

「コイツ…バカ?」

 

その日からオレはバカの称号をいただき、

毎日のように彼女にアプローチを試みる。

バカだからしょうがない。

そんな感じで彼女も適当に相手をしてくれる。

とりあえず、避けられてはいないようだ。

だいぶ見慣れた新しい景色の屋上。

寝転ぶオレにQが話しかける。

「ガチ、本気すぎて本気になれねーんだろ?」

相変わらず、するどいなQめ。

いまいち押し切れてないのに気付いてる。

「つかさ、ホントのところ、彼女はオレのことどう思ってンのかな…?」

「ど~なんだろうね。分からんな。アイツは。」

どう思ってるの?

なぜ相手してくれるの?

聞きたいことはいっぱいあった。

でも…。

 

「あんな人、やめなよ!けい君のコト好きじゃないって言ってたよ!」

 

ムカツク声が脳裏をよぎる。

 

聞けない。

ホントのところなんて

聞けない。

 

オレの顔色に気付いたのかQが話し出す。

「気にし過ぎかもよ?彼女はお前のコトそんなに深く考えてないよ。」

「…それ、なぐさめになってねーよぉ。」

「情けない顔すんなって!」

笑いながら慰めてくれる。

 

「なに笑ってんの~?」

屋上に彼女が上がってきた。

いつもの笑顔だ。

避けられて無いってことは可能性はあるよな。多分。

「一条、お前のことだよ。」

いじわるっぽく笑ってみせる。

「え~、あたしをネタに笑ってンの~?」

風に長い髪をなびかせて、笑う。

笑顔。

かわいい。

 

 

 

 

ねぇ、一条オレの彼女になってよ。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択