No.224460

真・恋姫無双二次創作 ~盲目の御遣い~廿参話『龍虎』

投稿60作品目になりました。
遅くなってしまいましたが『盲目』最新話更新です。
いつものように一言だけでもコメント残してくれると嬉しいです。
では、どうぞ。

2011-06-24 01:39:41 投稿 / 全20ページ    総閲覧数:13154   閲覧ユーザー数:10472

冷暗な雨粒。

鈍重な黒雲。

悪質な泥濘。

視覚を、聴覚を、嗅覚を、触覚を、悉く麻痺させる。

阿鼻叫喚。

地獄絵図。

環境は劣悪極まりなかった。

 

 

 

―――――それが、人の身であればの話だが。

 

 

 

「邪魔やあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

黒き世界に、緋き飛沫。

重き肉の濁流の中、氾濫起こすは紫紺の顎。

薙ぎ払い、切り裂き、噛み千切る。

その様、正に龍。

如何なる力を身に付けようと、如何なる術を用いようと、人がどうして龍に敵おうか。

その一振りは千を切り、

その一振りは万を断つ。

あくまで比喩。

しかし、目の当たりにした者が容易に否定する事は決してない。

鎧袖一触。

抜山蓋世。

神速の異名は伊達ではない。

 

 

 

―――――しかし、龍と並び立つとされる獣が古来より暦と存在する。

 

 

 

「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「何っ!?」

 

それは、一つの剣閃。

それは、一つの剣戟。

鋭利なる飛龍の牙を阻ませたのは、

 

「ふふっ、ふふふふふっ、まさかこんなにも早く、あなたと剣を交えられるとはね」

 

「……何モンや、あんた」

 

「孫策伯符。……さぁ、存分に仕合いましょう」

 

強靭なる猛虎の爪であった。

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

この感情を表すとしたら、一体どのような言葉が適切なのだろうか。

 

「…………かゆう?」

 

「………………」

 

自然と、牙戟を引いていた。

捕まったと聞いていた。

死んだと思っていた。

それが今、生きて目の前に立っている。

これだけならば、ただ『歓喜』で済むのだろう。

しかし、ならば、

 

「…………どうして?」

 

『ここにいるのか』。

そして、『この男を守ったのか』。

続く言葉は、口にせずとも伝わる。

 

「………………」

 

口を噤み語らないものの、その心は揺れていた。

迷いや葛藤、そんな類で脳裏や胸中が満たされ、彼女を躊躇わせているのだろう。

やがて、

 

「―――んだ」

 

「…………?」

 

交わる刃の向こうから聞こえた声は、雨音に阻害される程に小さかった。

 

「―――んだ」

 

俯いていた顔が上がる。

 

「―――れないんだ」

 

そして、それは徐々に輪郭を帯びて、

 

 

 

―――――こいつは、違うかもしれないんだ、呂布。

 

 

 

「…………どういう、こと?」

 

それは、彼女の首を傾げさせるには十分だった。

 

「…………―――――」

 

「っ、白夜様!!」

 

緊張の意図が切れたのか、体力の底が尽きたのか、意識の途切れ地に伏した男に駆け寄る女が一人。

縋るように傍らへ、そして庇う様にこちらを睨む。

無論、少なからずの恐怖と共に。

 

「…………びゃくや?」

 

首を傾げた。

聞き慣れない名前だった。

女からの視線が一層強まった気がするが、この男の真名なのだろうか?

何にせよ、脳裏に積もるは容量を越えんばかりの疑問。

そして、

 

「呂布様、呂布様っ!!」

 

突如、背後より走り来る伝令。

息は荒く、表情も優れない事から良くはない報せだと解った。

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

「孫策伯符。……さぁ、存分に仕合いましょう」

 

目の前、自分を留めて見せた女は、猛禽の目でそう名乗った。

 

(江東の、麒麟児やと?)

 

嚥下する固唾。

高揚する動悸。

それが何故かは、言うまでもない。

 

「……アカンなぁ」

 

槍を握り締める手が強まる。

真一文字に結ぶ唇の端が攣り上がる。

 

「アカンて、ホンマ」

 

真の武将が真に望むは、真に強き敵との勝負。

それは当然、彼女とて例外ではない。

しかし、

 

「……何で、よりにもよって今やねん」

 

彼女の顔は苦渋に染まる。

それは、他ならぬ惜しみと悔しさ。

 

(戦いたい……無茶苦茶戦いたいねんけど、)

 

今の自分には、将として果たさなければならない使命がある。

湧き上がる衝動を必死に堪え、抑え込もうとして、

 

 

 

―――――何を迷ってるのか知らないけど、私を倒さなきゃここは通れないわよ?

 

 

 

「………………」

 

それは、一本の導火線。

それは、一種の起爆剤。

切って落とされた火蓋。

どちらにせよ、確かにその一言は心に火種を灯した。

 

「……へへっ」

 

正に、心が躍る。

 

「どうなっても、知らへんで」

 

「上等、そう来なくちゃ」

 

「ははっ!!」

 

笑う。

否、嗤う。

そして、

 

「張文遠、いざ尋常に、」

 

「勝負!!」

 

龍虎は、激突した。

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――曹操に虎牢関を攻められ苦戦。至急戻れ。

 

 

 

兵士からの報告に背後を振り返った先、関の上には蒼の牙門旗が徐々に増えつつあった。

 

「呂布様、急ぎ戻られて下さい!!」

 

焦燥に駆られる兵士は、伝達内容のみを告げるや否や、すぐさま関へと戻っていった。

状況を理解し、自分もまた関へ戻ろうとして、

 

「―――かゆう」

 

「…………何だ?」

 

差し伸べる手。

その意図、実に単純。

 

「いっしょに」

 

「………………」

 

雨音。

剣戟。

鼓膜を震わす全てが引き立たせる沈黙。

しかし、

 

「………………」

 

「…………かゆう?」

 

その手は未だ握られない。

手を差し出す事すらしない。

ただただ立ち尽くすその姿に、呂布は首を傾げる。

そして、

 

「呂布」

 

「…………なに?」

 

 

 

―――――「私は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

「せぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

爪牙と裂帛の激突。

幾度となく繰り返す。

全てが決死。

全てが必殺。

故に気力、体力共に、その消耗は甚だしい。

それに拍車をかけるのが、この悪天候。

そして、

 

(やっぱ、小覇王言われるだけあんな……ウチの槍に追いついてきとる)

 

身体的な速度で言えば利はこちらにあると自負している。

しかし、目の前の彼女は、そんな自分と真っ向から打ち合ってみせていた。

『神速』の二つ名を賜った自分の速さに追いついてみせていた。

その理由、至極単純。

雪蓮もまた、別の『はやさ』を以ってこの戦いに臨んでいるという事。

 

 

つまり、『速さ』ではなく『早さ』。

 

 

攻撃を予測し、防御し、回避し、反撃する。

この一連の流れを、彼女は脅威的な速度で行っているのだ。

そして、張遼を素直に感嘆させているのは、彼女にそれを可能とさせているもの。

純粋な身体能力か。

否、一因ではあるが全てではない。

緻密に組まれた計算か。

否、そんな理知的なものでは決してない。

積み重ねられた経験か。

否、類似してはいるが非なるものだ。

 

 

―――――そう、本能。

 

 

ただ『戦う』。

ただ『倒す』。

全身全霊をもってその衝動を具現化しているような、そんな気さえしてしまう。

荒々しく、猛々しく、しかし何処か華々しい。

成程。その背中に、その剣に、多くの者が命を懸けるのも頷けた。

 

「―――へへっ」

 

堪らない。

実に堪らない。

欣喜雀躍。

手舞足踏。

 

(せやけど、ウチかて負けられへん!!)

 

一人の武将として、己が誇りの為。

一人の武人として、己が矜持の為。

今再び、二つの刃が激突しようとして、

 

「張遼様、至急関へとお戻りください!!」

 

それはやはり、彼女の血気をこれ以上なく削ぎ落とした。

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

(不味い……非常に不味いです)

 

脳内を諦観と絶望が埋め尽くす。

目前には手を差し伸べる敵将と捕虜。

背後には意識を失った主。

そして自分は、腕に覚えなど全く以って皆無な一介の文官。

力関係は、火を見るよりも明らかだった。

そして、

 

(彼女が助けを拒む理由がない……)

 

そう、いくら便宜を尽くそうと、こちらの策はあくまで可能性の延長線上でしかない。

そもそもが、会って間もない敵将を信じろという方が無理難題なのだ。

過剰な期待は軍師ないし文官にとって禁物以外の何物でもない。

とはいえ、

 

(あんな光景を目の当たりにしてしまうと、信じてみたくもなって

 

しまいますよね……)

 

捕虜が敵将を庇う。

有り得てはならない、有り得る筈のない行動。

意図こそ読めないものの、その行動を彼女にとらせたのは間違いなく、

 

「……白夜様。貴方に出会えて、本当によかったです」

 

この人の存在は、今後の孫呉において必要不可欠になる。

この人の力は、今後の孫呉に大きな利益を齎す。

胸を張って、確信を持って、そう言える。

だからこそ。

こんな自分でも、壁程度にはなれる。

こんな自分でも、数秒程度なら稼げる。

その隙に周囲の兵士達に白夜様を預け下がらせれば。

懐に忍ばせていた、申し訳程度でしかない短剣を握り締め、再び前へと視線を戻して、

 

 

 

「―――――え?」

 

 

 

徐に、何故か呂布のみが踵を返し関へと去っていった。

その表情を複雑な、しかし苦渋や惜別を連想させる色に染めて。

そして、

 

 

ゆっくりと振り返る華雄。

 

 

微かに俯く顔色は読めない。

 

 

泥濘の粘着質な足音が近寄ってくる。

 

 

枷の嵌められた腕には一振りの剣。

 

 

振るわれれば一溜まりもないだろう。

 

 

白夜を庇うようにじりじりと距離をとりつつ短剣を握る手を強め、

 

 

その距離は一撃を間合いへと縮まって、

 

 

 

 

華雄は、その腕を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!?何やねん、ええ時に―――――って、なぁっ!?」

 

いい所でお預けを喰らい、苛立ち混じりに振り返った先、虎牢関は

 

蒼の牙門旗で埋め尽くされつつあった。

前方は呂布の担当。

どうやら想定の範疇外が起こっているらしい。

ならば直ぐにでも駆けつけなければ、だが、

 

(あぁもう、最悪やんか!!どのみち戦わなアカンのかい!!)

 

先程までは、一人の武人としての最高の舞台だった。

しかし今は、一人の武将としての最悪の事態でしかない。

一刻でも、一瞬でも、刹那ですら早く。

それだけを肝に銘じ、再び相対しようとして、

 

 

 

「―――――ったく、いい所だったのに」

 

「……は?」

 

 

 

孫策は不満げに頬を膨らませていた。

まるで玩具を取り上げられた子供のようにすら見える程に。

そして、

 

「ほら、行きなさい。急いでるんでしょう?」

 

気だるげな指示と同時、包囲網に大きな穴が開く。

 

「見逃してあげるって言ってるのよ。私達は元々、貴女達と争う気はないの」

 

あっけらかんと言い放つ姿に、虚偽は感じられなかった。

が、当然ながら信じろという方が難しい。

 

「……どういう積もりや?」

 

「すぐに解るわよ。いいから早く行きなさい。私の気が変わらない内に、ね」

 

何らかの罠か。

背後から強襲するのではないか。

そう思い至ろうとして、

 

「……ホンマに、ええんやな?」

 

「えぇ。我が剣と、孫呉の誇りに誓って」

 

意図も、意志も読めない。

しかし、これだけははっきりと解る。

 

(せやな。こんなつまらん策で勝って、喜ぶようなやつとちゃうわ)

 

剣を交えたからこその答え。

武に生き、戦に生きる者同士、通じる何か確かにあった。

互いに思う。

何処か似ている、と。

ならば、

 

 

 

―――――生きている限り、いつかまた交わる日が来る。

 

 

 

互いの道が。

互いの剣が。

互いの言葉が。

互いの意志が。

何の因果か、誰の采配か知らないが、世間とは得てしてそういうものだ。

そして、だからこそ、

 

「ほな、通らしてもらうで」

 

「えぇ、どうぞ」

 

擦れ違う龍虎。

唇の端を吊り上げて。

聞こえない誓いは高らかに。

 

 

 

『また、いつか』

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

どちゃっ

 

 

 

「―――え?」

 

それは泥濘の飛沫が弾けた音。

重い『何か』が地面を叩いた音。

藍里はゆっくりと、その原因へ視線を向けた。

自分の足元。

見下ろせば直ぐに解る場所。

なのに、身体はひどく緩慢に動いた。

それは『自分が斬られなかった』事に対する安堵からなのか。

それとも『目の前で起きている事実』へ対する驚愕からなのか。

そう、目の当たりにした光景に嘘偽りがないとしたら、

 

 

 

華雄は手にしていた剣を自分へと振り下ろす事もなく、自らの喉に

 

突き立てる事もなく、地面へと放り捨てたのだ。

 

 

 

「おい、女」

 

そして、

 

 

 

「もう一度、私を拘束しろ。今度はもっと念入りに、だ」

 

差し出された両腕と共に告げたその表情は、至って真剣そのものだった。

 

 

 

「…………」

 

呆然。

愕然。

他に言葉が思いつかない。

が、言葉を失わせるには十分だった。

 

「何を呆けている?」

 

「……どういう、積もりですか?」

 

それは当然の疑問。

しかし、華雄は眉を顰め、

 

「何を言う、お前が言ったんだろう」

 

何を、だろうか。

彼女への発言を脳内で検索しようとして、

 

 

 

 

 

 

―――――この男の信頼を裏切ったら赦さん、と。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

続く沈黙。

止まぬ剣戟。

絶えぬ雨音。

そして、

 

「…………ふ、ふふ」

 

「……どうした?」

 

「いえ、別に。……本当に、宜しいんですね?」

 

「くどい。何度も言わせるな」

 

込み上げる笑みと共に放つ指示。

あっという間に華雄は両手足を拘束され、衛生兵の下へと運ばれていく白夜へ同行しようとして、

 

「おい、女」

 

「はい?」

 

「もう一度、その男と一対一で話をさせろ」

 

告げると同時、去っていく背中を見送って、改めて思う。

 

「……白夜様。貴方に出会えて、本当によかったです」

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――私は、行けない。

 

 

……どうして?

 

 

―――――……董卓様を、救ってくれるかもしれない奴がいる。

 

 

 

 

……ゆえの、ため?

 

 

 

―――――あぁ。そいつに、協力を頼まれている。

 

 

 

……ひょっとして、あのうしろのひと?

 

 

 

―――――そうだ。

 

 

 

……だいじょうぶ?

 

 

 

―――――……正直、解らん。だからこそ、確かめてみたい。

 

 

 

……たしかめる?

 

 

 

 

 

 

―――――あの男が、信用に足るかどうかを。

 

 

 

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

『盲目』久々の更新、お待たせ致しました。

 

中間試験やレポート、夜勤のバイトにサークルの原稿と、最近非常に目まぐるしい日々でして……いつも忙しい言ってますが、本当にスイマセン。

 

次話のプロットもほぼ完成しているので、早ければ1週間で投稿出来ると思います。

 

 

 

で、

 

 

 

いよいよ華雄決断の時。

 

果たして、彼女の選ぶ道は?その先に待つものは?

 

そして次回、垣間見える白夜の傷とは?

 

『あなたは、私達を信じられないのかしら?』

 

次回『岐路』、お楽しみに。

 

……実は、あの人の真名も決めてあったりします。

 

 

 

ところで、

 

 

 

北の大地も一気に暑くなりましたよ……

 

夏至も過ぎ、いよいよ本格的に夏到来です。

 

夏と言えば涼しげな服―――――そう、アロハ!!俺の季節!!

 

早速新作のアロハを購入して来ました!!しめて5着だけですが!!

 

まだまだ購入予定あり……HAHAHA、コレクションが増えていくZE!!

 

もし、北の大地でアロハを着たゴリラを見たら、それは俺かもしれません。

 

 

 

……そういや、魂の兄弟から報告を受けましたが、特撮のラウンジがオープンしたんですよね。

 

是非、多くの方と語らいたいもんです。

 

 

 

では、次の更新でお会いしましょう。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

…………俺の持論『サラダ味は大体美味い』


 
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