No.22255

かえりたい場所のはなし。

ふ、と。
かえりたくなったときに。

小説というか、文章。

2008-07-29 14:47:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:538   閲覧ユーザー数:518

晴れた春の日が最適。

窓は開けたままで、居間の床の毛布を敷いて寝そべる。

 

風が入ってきては髪を細く揺らすのが少し寒くて。

敷いた毛布を頭から被った。

 

床の上には絨毯が敷いてあるから、なんとか平気。

 

風の入る窓を閉めに行くのは億劫で。

頭から被った毛布のなかで、手足を丸めて胎児ごっこ。

 

座布団を二つに折った枕に頭を乗せて。

眼を閉じても、まぶしい外の光は目蓋を通して感じられる。

 

 

ふいに。

本当に不意に。

 

かえりたいな

 

と、思ってしまった。

泣きそうになるくらいに、思ってしまった。

 

 

実家から出てもいない私の、かえる場所はここ以外にあるわけなくて。

家族の足音を聞きながら、毛布に包まれる。

この場所が、私のかえる場所のはずで。

 

足を抱えて、身体を小さく丸めて。

毛布の中で胎児ごっこをしたまま、考える。

 

 

前世の記憶だとか。

おかあさんの胎内の記憶だとか。

あったかい手を繋いであるいた路とか。

自転車を並べたこととか。

手紙のやりとり。

私の部屋。

はじめてのキス。

 

 

 

閉めない窓からは、肌寒い風が絶え間なく入ってきて。

頭の悪い私は、自分の家の居間で。

愛用の毛布を頭から被って。

ひっきりなしにかえる場所を探している。


 
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