No.216734

鳳凰一双舞い上がるまで -1話

TAPEtさん

今作は、真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。

2011-05-14 21:51:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6728   閲覧ユーザー数:5121

タタっ!

 

タ、タッ!

 

朝、ここ、北郷流剣道道場では、中々見れない場面が広げられていた。

 

「たあぁああっ!!」

「…はぁあっ!」

 

ターッ!

 

それは、現北郷流道場の師範である、北郷直刀(なおと)と、師範代理、もとい次期師範と言われている、直刀の孫、北郷一刀の対練であった。

 

対練と言えど、その勝負の格の違いというものは、少しでも剣を握ったものであればわかるというものであった。両方とも一歩も譲ることなく剣を交わっていた。剣と行っても竹刀であったが、それでも二人の動きはまるで真剣で戦っているように熱かった。竹刀のはずの剣を避ける二人の目はまるで真剣を避けてるように的確にその軌道を見切り、紙一枚差でそれを避け、反撃を刺していた。あんな竹刀に防具無しに当たると皮膚が切れそうだ、と観戦している人の誰もが思っていた。戦っている祖父も、孫もどっちも剣に限っては達人の境地に上がっている人たちであった。

 

北郷一刀のご両親は、一刀が幼いうちに先にこの世を去った。一刀の父上は遺伝的に身体が弱かった。彼が一刀の母親と結婚した頃には、彼の両親とも病で世を去っていた。

 

直刀は最初自分の娘が愛する男を見たとき、断固結婚を反対した。一人娘で大事に育たれた娘をあげるには足りない男だった。それに、娘の息子が生まれたら自分の代わりに北郷流を継がせようとした彼としては、あんな虚弱な男に娘をやりたくもなかった。結局直刀の反対にぶつかった一刀のご両親は愛の逃避を敢行し、結婚した。そして生まれたのが一刀であった。

 

直刀が心配していた通りに、一刀の父親は一刀が六歳になる頃に病で妻と息子とお別れして、それに続くように母親も夫を失った衝撃で病を得て一刀の側を去った。一刀の両親が死んだ後、なんだかんだして連絡が届いた親戚が一刀の祖父であった直刀であった。一刀の父親の側には近い親戚がなく、母も一人娘だったため、直刀が一刀を引き取ったのは当然のことであった。

 

驚くことにも直刀は一刀を実家に連れて帰る代わりに、自分が一刀が住んでいた東京に引越ししてくる方を選んだ。実家を整理した直刀はそこから出たお金で一刀と一緒に住む家を得た。そして残った金で近くの敷地を買ってそこに新しく北郷流道場を建てた。

 

幼い時に両親を失った一刀は凄く落ち着いて、静かな子に育った。直刀の望み通り一刀は祖父の修行を受けたせいか、幼い時から剣のこと以外には興味を持たなかった。当然学校の授業にも興味がなく、成績も悪かった。そんな問題に直刀が気がついたのはいつか小学校で一刀のクラスの授業参観に行った時であった。授業でどんな子も親たちの前でいいところを見せようと手をあげて騒いでいる中、一刀だけが机に頭を俯いて眠っていた。その後直刀は問題を直感し、一刀に学問にも励むことになった。

 

幸い身体のことばかりは父親の弱い身体を受け継いでいなかったのか、一刀は祖父の修行にもよく付いて行き、勉強にもそこそこ頭角を見せるようになっていた。高校一年生になる今になっては、剣では師範代理の名を得るほどになり、一刀と本気の対練を出来るものは、祖父の直刀ぐらいとなっていた。

 

スッ

 

「!」

「隙ありじゃ!」

 

ターッ!!

 

直刀の竹刀が一刀の頭を真っ二つにするかのような勢いで通った。一瞬、地面に落ちた二人の汗に足を滑った一刀の隙を直刀が容赦なく突いたのである。

 

「…今のはまぐれだ。やり直そう」

「馬鹿もん!戦場でも手滑って剣落としたら敵にちょっとまったって言うつもりか?負けは負けじゃ!今日の食事当番はお前じゃ」

 

道場の皆が見ていた真剣勝負は、祖父と孫の家の食事当番を決める賭けであった。

 

「しかも汗で足が滑るなど、精神が散っている証拠じゃ。儂を見ろ!一度も足など滑っておらんわ!」

「お祖父さんが足など滑ったら困る。その年でそんな事故にあったら腰が折れる」

「ぬぁんじゃとー!」

「事実を言ったまでだ」

 

口ではそう言うも、剣を正位置に戻して、互いに礼をした。

 

 

 

 

「なぁー、なぁー、かずぴー」

「……」

 

朝祖父との食事当番の勝負に負けて低気圧の一刀の姿にも関わらず、中学校からの旧友である及川がやってきた。

 

「今日さ、暇?」

「……負けた」

「えー、そっか…そんじゃ無理かな……」

 

なんだかんだ言って、負けたの三文字で一刀の状態を理解する様子を見ると、長い付き合いなのだけは確かであった。

 

「…何の用事だったんだ?」

「うん?興味あるんか?」

「………」

 

にしても、やはり今日の勝負の結果が少し気に入らなかった一刀は一応及川の話を聞いてみることにした。及川がこんな風に朝から構ってくるような用事は、大体放課後の何かイベントに一刀を巻き込むためのものであった。

 

祖父の話通り学問には励んだものの、奥手な性格や口が少ないことによって学園内のコミュニティーには中々入っていなかった一刀であったが、及川にいつも振り回されてあっちこっち一緒に行っていた。及川でもなければ一刀は完全に学園で孤立していただろう。それでも一刀本人は別に構わなかったが。

 

一方及川にもいつも一刀と一緒にどっかに行くには訳があった。一刀は性格こそあまり外形的ではなかったが、一目で見ると中々モテるのであった。要するに、一刀と一緒に出かけると自然に一刀に興味を持った女たちの中で自分も構うことができたのである。

そして、今日及川の用事というものはまさにそういう用事ストレートであった。

 

「なー、実はなー、今日隣の北高校の女三人とこっちの男三人と合コンしよって話したんやけどよ」

「今日の夕食はカレーにするとしよう」

「最後まで聞けよ!」

 

残念ながら一刀は直ぐに興味を無くしたようだ。

 

「なー、頼むよ。行くって行ったやつが急にパーにしてこのままだと人合わないって」

「お前のそのやり方は散々やられている。どうせ俺を座らせて、後は俺はほったらかしにしてお前だけ遊ぶ気に決まっている」

「いや、ありゃ俺のせいちゃうしー、かずぴーがちゃんと混ざらないせいだろ?」

「気に食わない」

「そういわないでよー」

「………」

「頼むよ、今回だけ!後で昼奢るから!かずぴーが好きな特製メロンパン一ヶ月分!」

「!」

 

特製メロンパンという言葉に一刀は少し反応した。

特製メロンパンというのはこの聖フランチェス学園にある売店にある一日五個判定で出る、100%メロンの原液を使った普通のメロンパンより倍はでかいメロンパンのことであった。値段は高かったものの狙う人が多かったため、毎日鍛錬している一刀の足で、昼休みを知らせる鐘が鳴る途端走って行っても、手に入れることは週に一回ぐらいだった。

 

らしくないと思うかもしれないが、他の食べ物には適当で食えるならどうでもいいと思っている一刀だったが、それがお菓子となったら話は別だった。スイーツやパン、お菓子などに限っては一刀の口はかなり厳しかった。この学園のメロンパンは、そんな一刀の口から合格のサインが出た上々のスイーツだった。

 

 

「……ほんとだろうな」

「ふふーん、そんなのかずぴーみたいな良い子にはわからん裏口があるってー」

「……」

「で、どうするん?ええやろ?一日ぐらいへーきやろ」

「……」

 

一刀は迷った。

あの特製メロンパン一ヶ月分……お爺さんの夕食……

 

 

 

「行こう」

 

その結論が出るには一秒もかからなかった。

 

 

 

放課後、一刀は仕方なく(メロンパンに釣られて)及川と一緒に合コンの集合場所に向かった。

 

「かずぴは座ってるだけでええ。後は俺に任せときな」

「俺は別に良い。約束だけは守っとけ」

「わあっとる、わあっとる」

「で、もう一人男が居るという話じゃなかったか」

「あぁー、それが……実はなー……」

「……」

 

こいつ、また俺を騙した、と一刀は思った。

 

「契約は決裂だ」

「って、ちょっと待てーい!」

 

帰ろうとする一刀の手首を掴む及川だったが、一度気を決めた一刀を止めることは中々難しかった。

 

「頼むでーかずぴー、通算99回目振られた親友を考えて今回だけ…!」

「友として通算百回目にさせるわけにはいかない」

「かーずーぴーー」

 

それにしてもこの及川、必死である。

 

 

 

 

「ちょっと、放しなさい!!」

「?」

「あ」

 

ふと帰ろうとする一刀と、それを全力で食い止める及川の耳に鋭い声が聞こえた。声がする方を向くと、街の中の噴水の前で男女の群れが喧嘩をしていた。

 

「あ、あの二人って…」

「……北高の制服だな」

「そう、俺が言ってたのってあの二人だって。どや?」

「そういう話をしてる場合じゃないようだ」

 

一刀はその道噴水の方に向かった。騒ぎの中心では及川と待ち合わせることになっていた北高の制服を来ている女の子二人と、その二人に絡まっている質をの悪そうな男三人であった。

 

「いいじゃん、一緒に遊ぼうぜ」

「だから、待ち合わせがいるって何度いえばわかるんだよ」

「おい、おい、こんなかわいい顔の女の子を待たせているなんてありえんだろ、なぁ?」

「ありえないんだな」

「いいから、そんな奴らほっといて俺たちと遊ぼうよ。そんな幼稚な連中より俺たちと大人の遊びしようぜ」

 

一刀は別にその絡み合いに関わる理由なんてなかった。気が変わって帰るところだったし。だけど、女が嫌っているところをしつこくしている男の群れが何故か気に入らなかった。

 

「やめたらどうだ?」

「あぁん?」

「……」

「聖フランチェス学園の制服……」

「よー、俺もいるぜ」

「及川!遅いわよ、あんた!」

「わりぃーわりー、ちょっとそこの子来ないって口聞かなくて……」

 

そんなことを言ってるうちに、ナンパをしていた男たちと一刀は厳しい目つきでお互いを睨み合っていた。

 

「遅れてきて何を言おうと思ったら……おい、悪いけどこの娘たちは俺たちと遊ぶと話がついているんだ」

「誰もそんなこと言ってないわ!」

 

後ろで及川と知り合いのような北高の女子高生が言い返した。

 

「と、言っている。今引いたら見逃してあげよう」

「へー、こわいこと言うじゃねえか」

 

三人のリーダ級のような男が前に出て一刀と鼻と鼻がぶつかりそうなほど近くまで顔を出してにらみ合った。

 

「女の前でかっこいいとこ見せようとしてるのかはよく分からんけどよ…俺はそんなあまくねーんだよ!」

「!」

 

その一瞬、リーダ級の男に眼を取られていた一刀は、後ろのもう一人―背の低いチビ―が自分の足を引っ張ることに気づくのが遅かった。

身体の重心を失った一刀の身体は、続いてくる目の前のチンピラの拳を避けられず、そのまま後ろの噴水へと倒れた。

 

バシャー

 

「ぷはははははー!いい様だ!よくやったぞ、チビ」

「へへ、見ろよアイツ、まるで濡れ鼠だぜ!」

「俺たちに刃向かうとこうなるんだな」

 

三人組はそう水に落ちてびしょぬれになった一刀を見ながら笑っていたが、それを見ていた及川は顔を真っ青にした。

 

「おい、かずぴー!大丈夫か!」

「………」

「!」

 

及川が顔を青くしたのは、一刀があの三人にやられたからではなかった。寧ろこの状況、無言のまま何も喋らず水に濡れた髪を直すこの男がどうか自分が思っているような事をしませんようにと祈っていただけだった。

 

「……及川」

「あ、あぁ……」

「悪いが、メロンパンはお預けだ。他の用事ができた」

「お、おい…落ち着きなって。あー、ったく、今日はこんな騒ぎ起こそうに来たんじゃないってのに」

「何、どうしたのよ。あの子大丈夫なの?」

「な、何かこわいしー……」

 

後ろに居た北高の二人は半分他人事に思いながら話していた。

 

「お、おい!お前ら早く、かずぴに謝れよ!でないとまずいって!」

「はぁー?貴様も水浴びしてーのか?何馬鹿な事……<<こぎっ!>>…うぎゃーーー!!」

「兄貴ー!」

「大丈夫なんだな?!」

「う、腕が、腕が!!」

「あぁ…もうおせー…俺は知らんぞ……」

 

及川がそう頭をおとしてため息をついてる間も、無表情の顔をした、まるで仮面をかぶってるような顔をした一刀は、何の心の動揺も見当たらないその顔で三人組のリーダ級の男の脱骨された腕をさらに後ろにひっくり返していた。

 

「や、やめろ!折れる!おれるって!」

「てめぇー!」

 

チビが腕を掴んで両手がない一刀に向かって懐のナイフを取り出し掛かってきた。

 

「って、ちょっと!何を…!」

 

刃物まで出てきて驚く及川の友たちであったが

 

「……」

 

スッ!

 

「ぐえっ!」

 

そんなチビの横顔に一刀の蹴りが入った。

軽いチビはそのままさっきの一刀みたいに噴水に落ちた。

 

バシャーっ

 

そうしてるうちにも一刀は腕をへし折りつついた。

 

「うぎゃぎゃがぎゃぎゃーー!!」

「ねー、あれ、止めた方がいいんじゃない?」

「おい、お前早く謝れや!じゃねぇとアイツその腕ちぎり取られるまでやってるぜ!」

「わ、悪かった。悪かったからもう許してくれー!」

 

腕が折られる痛みが我慢できなかったのか涙に鼻水までだしながら兄貴は言った。

 

「………ならばよし」

 

くぎっ!

 

「うぎゃーっ!」

 

謝ったとほぼ同時に、一刀はへし折っていた腕を一気に反対側に折って元のところに腕の関節を戻した。

 

「あ、兄貴ー…」

「大丈夫?」

 

後ろで何もできないまま経っていたデブと噴水から上がってきたチビ―その姿こそまさに濡れ鼠だった―が腕の痛みで広場の床を転んでる兄貴を起こした。

 

「うぅ…き、貴様……」

「…謝ろう」

「はー!?」

「頭に来ると、つい理性が吹っ飛んでしまうのでな。だが、お前らの行動にも原因はある」

 

淡々とそう述べる一刀はまるで凡人のようだった。

さっきまで兄貴の腕を千切る勢いでへし折っていた男と同一人物とはとても思えない。

 

「ぐぬぬ……」

「こっちの話は同じだ。このまま去ってくれ」

「あ、兄貴。行こうぜ。相手が悪すぎるぜ」

「ちっ……お前ら、覚えてろよ!」

 

そんなくだらない言葉を垂れ流しながら、三人組は周りで騒ぎを見に来た人たちの群れを押しのけながら逃げていった。

 

「………はぁ…」

 

彼らが行くところを見ながら一刀はまたやっちゃったな、と思いながらため息をついた。

 

「おい、かずぴー、大丈夫なん?」

「あ…すまんな。せっかくの申し出が始める前からパーになっちまった」

「い、いや…別に、ていうかこっちは感謝したいところなんだけど…」

 

及川の友たちはそう言いながらも、びしょ濡れになっている一刀を見て少し引いていた。

 

「あーあ、なんなのよもう。みよっちがいい男だと言って付いてきたのに、これじゃあ遊ぶ気にもならないわ」

「って、ちょっと、姫路…」

その後ろに居たもう一人の女子高生はさっきまでの出来事が何もかも呆れたかのような顔でそう呟いた。

 

「ああ、もうやめやめっ!あたしは帰るよ。みよっちもこんなんじゃ遊べないでしょ?」

「それは…」

「いや、まぁ、気にすんなって。こっちが派手にやっちゃんだんだからさ。また後で会おうぜ。な?」

「はあ?あんたばかじゃないの?冗談もほどほどに言いなさい。こんなこと起してまたここに来る気なの?」

「姫路…!」

「何よ!みよっちも実はそう思ってるでしょ?あー、もう最悪!変なちんぴらたちにナンパされるかと思ったら、今度は良い子ぶった正義の味方さんが皆やっつけましたって?特撮物じゃあるまいしーだっさいってーの」

 

そう言いながらその女子高生は先にその場を離れた。

 

「ちょっと!姫路!ごめんね、及川。後で連絡するから……ちょっと!待っててば!」

 

もう一人の及川の友たちもその娘に付いてその場から離れて、残ったのは及川と一刀……

 

「あーあ…しゃあねえな。俺たちもかえろう…ってかずぴー!」

 

一刀はもうその場に居なかった。

 

 

 

「……」

 

一刀は一人で濡れた身体を風に乾かしながら道場に戻っていた。直刀の道場は夜遅くまであるので、夕食当番にされたときは、家で料理を作って道場に持っていくのが普通だったが、今回はそんなにしている暇もなかった。そんな一刀の手にはパンがたくさんがビニール袋があった。

 

「またやらかした」

 

頭に来ることがあるとついつい一般人には抑えていた力が溢れてくる。

冷静な判断と動きを基本にする北郷流にとって感情の制御ができぬということは実践でつまり死を意味する、との直刀の教えにより、いつも感情を抑えている一刀だったが、このような小さい事でもその蓋を開けてしまうほどでは、まだまだ修行が足りない、と自分でも思ってきていた。

 

今日は祖父さんにも負けたし、色々と自分の弱さに呆れてため息をつきながら一刀は道場に上がってきた。

 

「うん?」

 

上がってきた一刀はふとおかしいと思った。道場が静かだった。いつもならまだ祖父さんが門下生たちが残っていて、人たちの掛け声が上がってるところなのに…

おかしいと思いながら一刀は道場の中に入った。

 

「祖父さん?」

「…息が荒いの」

 

祖父、直刀は道場の一番奥側で座禅をしていた。

 

「また己の感情を制御せず勝手に力を使ったのか」

「……」

「仕方のない奴め、何とか言い訳でもしてみろい」

「どうしたんだ?他の人たちは」

 

直刀の叱咤に答えず、一刀は自分の疑問だけ聞いた。言い訳などするつもりはないという意味だ。

 

「……今日は先に帰らせたわい。それより座れい。話がおる」

「……?」

 

いつもの豪快さ見当たらない祖父の姿に一刀はおかしいと思いながら濡れた制服のまま直刀の前に座った。

 

「一刀、お前に、この道場を継がせようと思っておる」

「……突然何を言い出すのかと思えば……」

 

直刀の突然の言い出しに、一刀はあまり驚かない顔で返した。

 

「俺はまだ未熟だ。それは祖父さんが誰よりも良く知っている」

「お前は十分成長した。もう、儂が老いた身体で師範などしとらんでも、お前に道場を任せることができる」

「俺はまだそんな資格がない。今日だって祖父さんに負けた」

「…それはまぐれじゃった」

「それがまぐれならどうして俺がこのパンを買ってきている」

「ところでそのパンは夕食のつもりかい。儂は食わんぞ」

「祖父さんの分なんて最初からない」

「老いた人を飢えさせるつもりかい」

「空腹の方が座禅にはいい」

「座禅はもう終わりじゃ。お前のその腐った根性をたたき直してやる」

「老いて飢えた身で無理をすると死ぬ」

「な・ん・じゃ・と・お!」

 

話がどんどん親子喧嘩に移ってる。

 

「と、今はそういう話ではおらんかったの」

「そうだね……他のはいい。ただメロンパンとアンパンは譲らない」

「違うわい!お前に道場を継がせるという話を……くふっ!!」

「!…祖父さん?」

「くふっ!うぐっ!」

 

咳を始めた直刀はその咳がどんどん激しくなって、直刀は座禅していた姿勢を崩して一刀の方へ倒れた。

 

「祖父さん!」

「……くふん!……ったく、最後まで隠そうとしたのが…お前がくだらないことを言うからじゃ」

「……どういうことだ?」

「どうもこうもおらんわ。まったく、こんな病にやられているぐらいじゃ、先に言ったお前の父に一喝することもできんわ」

「病…どういうことだ……いつからそんな…」

「老病じゃよ。見つかった時はもう遅いとか言っておった」

「そんな……」

 

突然の話に一刀は金槌で叩かれたように呆気無い顔で直刀の顔を見た。こんな顔だっただろうか。こんなに老いて、力を失った老人の顔をしているこの人が、本当に自分の祖父なのか?

 

「……祖父さん」

「そんな顔で見るでない。…それより、お主に見せたいものがおる」

 

そう言いながら後ろにおいてあった布に包まれた長い物体を持ってきた。

 

「それは……?」

「北郷家に伝わる家宝…のようなものじゃ」

「家宝?」

 

布を解いたら、中にある者は剣であった。

鞘には赤い染料で鳳凰一双が、剣の下から先っちょの方に舞い上がる絵が華麗に描かれてあった。

 

「この剣が…家宝?」

「そうじゃ。いや。正確にはこの鞘だけが家宝じゃな」

「…剣の鞘だけ?じゃあその剣は?」

「まぁ、見りゃわかる」

 

そう言って直刀は剣の鞘を掴んで、一瞬それを少し外して剣身を見せた。

 

「!!」

 

その剣の刃を見た瞬間、一刀は身体が凍ったようにその場で固まった。

 

「……ぁ……ぁぁ…」

 

冷たい、冷たい気がその剣から流れてきて、一刀の身体を鎖のように縛ってきた。

 

「ぁ……うぅ……」

 

一刀はなんとか身体を動かそうとしたけど、身体が言うことを聞かなかった。

 

「分かったかの」

 

直刀が剣を鞘に抑えた途端、一刀の身体も開放された。

 

「はぁ……今のは…一体…」

「この剣は、元々鞘がない剣だったという。それが戦国時代である男の手に落ちた。その男はこの剣で、数々の敵を切り捨て、この剣に流された血だけでも何万人分で至ったという。その後剣の主は死んで、戦は終わったものの、まだ血の味を忘れなかった剣は自分を握った剣士を操る妖剣となったという。そしてこの剣の力を恐れた我らの先祖が、その時代有名であったある匠に、この剣の妖を抑えられる鞘を作るように申し込んだ。そして作られたのが、鳳凰の火の力を潜めたこの鞘じゃ」

「それで…その妖剣を封じている鞘だけが家宝だって?」

「そうじゃ。じゃが、我ら北郷家がこの剣をこの鞘に封印して何百年が経った今でもこの剣はまだ血迷っておる」

 

そう言いながら直刀は、その剣を一刀に渡した。

 

「その剣の鞘を外してみろ」

「……だけど」

「やってみろ」

「…わかった」

 

一刀はその剣をもらって、なんとか鞘を外そうとした。けど、どんなに力を使っても鞘は剣に食い込んだように外れなかった。

 

「どうなってんだ?」

「鞘はその剣を握ったものの度量を図る。剣の妖の力を押さえて剣を使えるものでなければ、その鞘はその剣を離さない」

「………」

「その鞘の名前は鳳雛。鳳のひよ子という意味じゃ。鳳凰の熱い力が、剣の冷えそうに冷たい妖気を押さえておる。そして、いつかその役目を果たせば、鳳雛はその役名を果たしてやがて本当の鳳凰になって天に舞い上がると伝わる」

「鳳…?」

「一刀、その剣を持ったものは、北郷家を、そして北郷流を継がなければならない。そして、いつかその剣を使いこなせるようになった時、お前は本当の意味で北郷流の継承者となるじゃろう」

「………」

 

一刀は祖父の顔を見た。

その顔は、まるで明日にでも死ぬ人が、自分が死んだ後を準備するような顔であった。朝までは自分と互角に戦った人どうしてこんなに急にこんなことを言うのだろう。

 

「祖父さん…俺は…まだ、この剣をもらう準備が出来ていない。まだ俺は未熟だし、祖父さんの言ったとおりまだ自分の感情も制御できてない。こういう話は早過ぎる」

「そんなことは分かっておる。じゃが、もう時間がおらんのじゃ」

「どういうこと?」

「……儂はもう、お主が成長するのを待ってあげられないのじゃ」

「そんな…そんなこと言わないでよ」

 

嫌だった。

 

「祖父さんはまだ健在だろ?まだ現役だ…こんな話をするのは、まだ早い」

 

認めたくなかった。

 

「武人には分かるんじゃ。その時が来ると、自分が死ぬ時が分かる。儂の残った時間はもうそうない」

「祖父さん……」

 

ご両親は早くも死んでしまった。

今まで頼れる肉親は祖父さんだけだった。

なのに、その人が今また自分からはなれるという。

呪われた家宝一つ渡しながら……

 

「祖父さん…俺は……」

「儂の話はどうでも良い。それよりだ」

「どうでも良くてたまるか!祖父さんは……俺はどうすればいいんだよ…祖父さんまで居なくなったら、俺は一体どうすればいいんだよ……」

 

やっと乾いてきた一刀の服にまた水玉が落ちる。

 

「皆勝手すぎる……皆そんなに急に行ってしまう…俺は…残る俺の気持ちは誰も考えやしない……」

「一刀……」

 

直刀は静かに剣を持った一刀の手に自分の手を重ねた。

 

「すまぬの、一刀…桃季(とうき)の分まで、お前を見守ってやるつもりじゃったが……まさかこんな風になるとは……」

「……祖父さん……」

「お前を一人を置いて行く儂を許せ」

「………ぁぁ………あぁぁ……」

 

一刀の目からは涙が止まらず流れて声にならない唸りが漏れていた。

それに比べて直刀の目からは一粒の涙も出ていなかった。

哀しくなかったのではない。一刀が来る前に、泣くだけ散々泣いてしまったのだ。一刀の分け合う涙なんて、もう直刀の目にはのこってなかっのだ。

 

 

 

 

そして、その翌日の日が昇る前に、北郷直刀は静かにこの世を去った。

 

 

 

 

というわけでやりやがりました。

 

雛里√です。

 

今回は出ていませんが、次回から出ます。

 

次回はこの最後の物語から二年進んだ時になります。

 

随分と長い文章を進みここまで来てくださったみなさん。

 

これからも大体こんな長さになると思いますので、お覚悟をお願いします(汗)

 

前の作品を見ていた方なら自分があまり細かく書かない主義だって分かると思いますが、今作は説明とかも細かくやろうと思っていたらこんな風になっていました。すみません。今これ含めて五話ぐらい貯めてますが、全部30kb前後です。

後々は短くなるかもしれませんが、取り敢えずこうです。

 

北郷一刀の設定は大体中に書いた通りです。

剣の鞘に名を付けたのはこれからの話に結構重要な話に…なる予定であります。

 

多分、雛里√とか書いた人なんて今までなかったと思いますよ。自分が前に挑戦していた雛から鳳までを除けば……

今作も反応なかったら雛里√は諦めようと思います。ってかもう外史書くのやめます。

外国人の駄作ですが、今作は念を入れて書いてます。反応がよかったら、これを逆翻訳(日ー>韓)して韓国のサイトにも上げる予定もありますが、多分韓国の三国志好きな人たちがこれ見ると自分ネット上で埋蔵されるかもしれません(汗)

 

というわけで、話長くなりましたが、次回から雛里ちゃんでます。

黒くありません。

黒くありません。

 


 
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