No.211402

境界のIS~第五話 サタディ・アフタヌーン~

夢追人さん

予想より若干長く。これも原作設定の説明のせいだ……

「詳しくは原作を見てくれ!」

全てはこの一文を入れたくなかったがために……!

2011-04-12 22:50:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1571   閲覧ユーザー数:1482

 「さて、織斑、向井、デュノア。お前たちの部屋割だが、織斑はこれまで通り一人部屋。デュノアは向井の部屋に入れ。元々二人用の部屋だ。問題ないだろう」

 

 「織斑先生、どうして僕とシャルルが……」

 

 「織斑の部屋を二人にすることについて、なぜだか知らんが特定の生徒たちから猛抗議があってな。加えて『生徒会長』からも直々に申請が来ている。諦めるんだな」

 

 「はぁ……」

 

 

 

 

 

 「そういう訳で、よろしく頼む」

 

 「うん。よろしく、カナタ」

 

 夕食を終え、部屋に戻ってきた僕とシャルル。食堂では相変わらずの質問攻めに合っていたシャルルだが、適当にタイミングを見て連れ帰ることに成功した。

 

 「何か飲むか?水道水から本格コーヒーまで一通り揃っているが、どうする?」

 

 「それなら、ダージリンはある?」

 

 「緑茶だな?解った」

 

 「え?」

 

 「緑茶だな?」

 

 「……うん」

 

 玄米茶の素を急須に入れ、ポットのお湯を注ぐ。少し経ったら出来上がったお茶をマグカップに入れ、シャルルに手渡した。日本茶独特の、あの香ばしくて落ち着く芳りが部屋を満たす。

 

 「はい、お待ち」

 

 「ありがと――あ、おいしい。紅茶とはまた違うんだね。ちょっと苦いんだけど苦くない。不思議な感じがするな」

 

 「その香りや苦み、お茶を飲む仕草や雰囲気。『ワビ・サビ』なんて言うらしいけど、そんなの全てを楽しむのがジャパニーズ・ティースタイルなんだってさ」

 

 「そうなんだ。カナタって物知りなんだね」

 

 「そうでもないさ。こんなの、少し調べればいくらでも出てくる」

 

 「ふふっ、そうかもね」

 

 ぽわっとした笑みを浮かべるシャルルに、また胸の奥がザワつき始める。コイツは男だと頭は理解しているけれど、思わずぐっと引き寄せられてしまうんだ。

 マグカップを両手で持って、ふーふーやってるシャルル。なんだか、むず痒いな。

 

 「ねぇ、カナタ――って、どしたの?」

 

 「ん、ん?いや、何でもない」

 

 キミに見惚れていたんだ、なんて口が裂けても言える訳がないだろ。

 

 「うん、それでね、古京さんのことなんだけど」

 

 「世界の?」

 

 「ほら、カナタって古京さんのこと今みたいに名前で呼ぶでしょ?朝のHRのときもあんな感じだったし、昔から仲が良かったのかな、なんて思って」

 

 言われてみれば、確かに。

 

 「ん、何でだろうな」

 

 「え?」

 

 名前で呼び合うのが当然。そんな気がしたのだ。

 僕と世界が会ったのは今日が初めて。けれど彼女と視線を交わしたとき、とても初対面とは思えなかった。

 ちょこん、と黒板の前に立った小さな少女。

 真っ直ぐで、どこまでもキレイな、空みたいな瞳。

 

 『やっと、見つけた』

 

 その瞳に吸い込まれたのかもしれない。

 

 ずっと前から互いを知っているような感覚。

 

 互いに互いを探していたような感覚。

 

 自分の心の穴に、ぴたりとピースがはまり込むように自然な感覚。

 

 だから名前で呼んだ。

 

 「幼なじみ、とか?」

 

 「そういう訳でも、ないな」

 

 「ふぅん、そっか……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 ギスッとした空気が部屋に流れる。少し、気まずいな。当たり障りのない話題だっただけに、白けてしまった反動が大きい。

 

 「えと、そ、そういえば一夏がいつも放課後にISの特訓してるって聞いたけど、そうなの?」

 

 「やってるにはやってる。あれが特訓と言えるかどうかは微妙なトコだけどね」

 

 「カナタも手伝ってるんでしょ?ボクも専用機持ちだから、力になれると思うんだ」

 

 「そうか……それなら今度、一緒に行ってみるか?」

 

 「うんっ!」

 

 シャルルは再び、ぽわっとした微笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 シャルルが転校してきてから五日後の土曜日。第三アリーナ。

 

 「ええとね、一夏がオルコットさんや鳳さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

 「そ、そうなのか?一応わかっているつもりだったんだが」

 

 IS学園は土曜日の午前は座学、午後は自由時間になっており、授業後はアリーナが生徒に全開放される。そのため生徒のほとんどが土曜の午後はISの実習に使うのだ。

 

 「うーん、知識としては知っているだけって感じかな。さっきボクと戦ったときもほとんど間合いを詰められなかったよね?」

 

 「うっ……確かに。『瞬時加速』も読まれていたしな」

 

 僕も実習のためにアリーナに来てはいるのだが、ほとんどが一夏の付き添いだ。それに今日からはシャルルが加わったため、彼見たさの女子がこの第三アリーナに殺到。いつもの倍近い人数で、所狭しと実習に励んでいる。

 

 「一夏のISは格闘オンリーなんだから、余計ね。それに一夏の瞬時加速は直線的だから、軌道予測がしやすいんだよ」

 

 「直線的かぁ……」

 

 「あ、でも瞬時加速中はあんまり無理に軌道を変えたりしない方がいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

 

 「なるほどなぁ。でもカナタの機体って瞬時加速中でもギュイギュイ動いてるよな。大丈夫なのか?」

 

 「オレのISはそれが売りなんだ。仕方ないだろ」

 

 IS展開。瞬き一つの間で、僕の身体は青に包まれた。

 所々を白のラインが走る空色のフレーム。

 背後に浮くウイングスラスターと、ブロックのように張り出した肩アーマー。

 額のプロテクターからは角のように一本のセンサーが伸び、両腰には近接戦闘用の実体剣を装備している。

 

 僕の専用機、試作第三世代IS『蒼雷』。

 

 「ねぇ、カナ」

 

 「ん?」

 

 隣でリヴァイヴを展開した世界が、ちょんちょんと腕部装甲をつついてきた。

 

 「カナはいつも“僕”って言ってるのに今“オレ”って言った。どうして?」

 

 「あ、それボクも訊いてみたいかな」

 

 世界に続き、わくわくといった様子でこちらを覗き込んでくるシャルル。この二人の前でISを展開するのは初めてだったっけ。

 

 「どうしても何も、ISに乗るときは“オレ”の方がしっくりくるからだよ」

 

 “僕”より“オレ”の方が、なんとなくISを上手く動かせる容ような気がする。たったそれだけで、深い意味はない……と思う。

 

 それからシャルルが射撃武器の扱い方をレクチャーし、僕が細かい動きや姿勢を修正する。世界はというと、こちらを見ていたらと思えばリヴァイヴで上に上がり、ふらっと飛んで飽きたらまた戻ってくる。まるで猫みたいに気ままヤツだ。

 

 「一夏の『白式』って後付武装がないんだよね?」

 

 「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域(パススロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理だって言われた」

 

 「多分だけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」

 

 「ワンオフ・アビリティーっていうと……なんだっけ?」

 

 「ISと操縦者の相性が最高状態になったときに発現する、固有の特殊能力のことだ」

 

 横からフォローを入れてやる。お前の機体は唯一仕様(ワンオフ)しかないようなものなんだから、それくらい覚えておけよ。一夏。

 

 「でも普通は第二形態から発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型IS。オルコットさんのブルー・ティアーズと鳳さんの衝撃砲。それから――」

 

 「オレの『ソードバレル』なんかがそうだな」

 

 僕の腰部から『尾』のように伸びるテールスタビライザーと、そこを基部としたアルファベットの“H”型の特殊装備『ソードバレル』。

 

 「なるほど……それで、白式の唯一仕様ってやっぱり『零落白夜』なのか?」

 

 「だろうな。シールドエネルギーをコストにしてエネルギー性質のモノなら問答無用で無効化・消滅させる。そんな切り札(ジョーカー)が常時オープンしてある訳ないだろ」

 

 ソードバレルはエネルギー武装のため相性は最悪。まぁ、本人が使いこなせていないのが唯一の救いか。

 

 「白式は第一形態なのにアビリティーがあるってだけでものすごい異常事態だよ。前例が全くないからね。それに――」

 

 「それは違う」

 

 

 

 

 

 

 「世界……」

 

 「この子たちは生きてる。私たちのことも、ちゃんと解ってる」

 

 空中散歩から帰ってきた彼女は、ふわりと僕の隣に降り立った。

 

 「で、でもISは機械だよ?いくらなんでも、それは――」

 

 「ううん」

 

 世界はふるふると首を振った。

 

 「この子たちは、いつも話しかけてくれる。あなたたちは、聞こうとしないだけ。声を聞いてあげれば、必ず応えてくれる」

 

 彼女は一夏に視線を向けた。強い瞳だ。

 

 「キミのその子、キミと一緒に飛べてすごく喜んでる。キミも、その子のことをもっと知りたいと思ってる。だからその子はキミに応えた」

 

 そこで一端言葉を切ると、彼女はシャルル、そして僕を順に見つめた。

 

 「その子を、信じてあげて」

 

 気押された。

 

 普段のぽややんとした世界とは、別人みたいにしっかりとした言葉を紡ぐ。

 形態等は二の次だ。人間と道具。偏見を捨てろ。必要なのは『個』と『個』としての認識。

 

 歩み寄れ。

 

 「……」

 

 「……?」

 

 さっきまでの凛とした彼女はどこへやら。「何かヘンなこと言った?」とばかりにきょとんと首を傾ける世界。

 その変わり身の早さと、小首を傾げる仕草が余りにも可愛らしくて。

 

 「あっ――」

 

 僕はついつい手を出してしまう。

 世界の青い髪に手を伸ばし、わしゃわしゃとなでてみる。サラサラというよりも、ふんわりした柔らかさを手のひらに感じた。

 

 「ん……」

 

 気持ちよさそうに目を細め、もっとして、と甘えてくる世界。ゴロゴロと喉を鳴らしそうなその様子は、本当に子猫みたいだ。

 僕らを中心に、ぽかぽかした雰囲気が周りに伝播していく。

 そのときだった。

 

 「おい」

 

 冷たい、明確な『敵意』をこの身に感じたのは。

 


 
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