No.210962

真恋姫無双 おせっかいが行く 第二十四話

びっくりさん

お久しぶりです。
先月から大小さまざまな地震が起こっていますね。街も混乱してますし。いつになったら収束するのか、検討もつきません。

さて、余談はここまでにして。
おせっかいの物語を始めましょう。

2011-04-10 02:52:01 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:19083   閲覧ユーザー数:12712

 

 

 

 

「わかったわ・・・あなた達に従うわよ」

「ありがとう!じゃあ、早速着いてきて」

 

桃香の必死な説得により、ついに折れた詠。桃香は説得できた安堵と嬉しさで笑顔が浮かぶ。心配そうな顔を崩さず月は、詠の顔を見つめていた。

 

「大丈夫よ。月は絶対にボクが守るから」

「うん・・・」

 

親友の言葉に頷きながらも、表情は崩すことはなかった。

 

「そうそう、二人とも着替えてくれるかな?董卓さん達の服だと他の勢力に気付かれちゃうかもしれないから」

「そうですな。我々の普段着でも着てもらえればいいかと思いますぞ」

「だな。問題は寸法だが・・・」

 

桃香達の言葉に口を挟まなかった詠。彼女自身もそうする必要があると考えたからだ。今、彼女達の着ている服は相国という役職に相応しいように誂えた物であり、詠も相国の側近という立場から上質の生地を用いた服を纏っていたからだ。が、ここで問題になったのが彼女達に渡す服である。彼女達の部屋に戻ればいいが。その間に他勢力の者に見つかっては意味がない。その為、白蓮軍の間にいる人の服を貸さねばならない。服も兵に持ってきてもらうことも出来るから都合もいい。都合がいいのだが、詠と月に合うサイズの服があるかどうか。

 

「まず、桃香、愛紗は除外だな」

「「え?」」

「そうね・・・ったく、なんであんなに大きいのよ」

「へぅ・・・いいなぁ」

 

白蓮の言葉に名指しされた二人はキョトンとしていたが、詠と月は納得した様子だった。なにやら怒っているような、すねているような、とっても不機嫌な様子だった。

 

「私と白蓮殿も除外だろう?背丈的に」

「そういえば、そうだな」

「となれば残りは・・・・」

 

桃香、愛紗、趙雲、白蓮の目が残りの三人に向く。

 

「にゃ?」

「はわわ!」

「あわわ・・・」

 

そう、鈴々、諸葛亮、凰統の三人である。鈴々はよくわかっていない様子だったが、他の聡明な二人は理解したようであった。というわけで、三人の内誰かということになるのだが。そこで鈴々は除外されてしまった。その理由は。

 

「鈴々はちょっと、背丈が足りないか?」

「いや、かろうじて平気だろう。しかし、鈴々は活動しやすい服しか持っていないから、二人に着せるには不自然だろう?」

「それはそうだな」

 

つまり、月と詠をまぎれさすには侍女という方便を使うのが最善だが、鈴々の服ではそう見られないのだ。彼女の服は行動しやすいようにボーイッシュな服しか持っていなかった為である。そこで最後に残ったのが諸葛亮と凰統の二人であった。二人の服を持ってきて早速きてもらうことにする。

 

「どうだ?」

「あ、はい。私は大丈夫です。寸法もほぼ同じみたいですから」

「ボクは・・・胸のところが少しキツイだけよ」

「はわわ!!」

「あわわ!!」

 

詠の言葉は服を貸した二人の心に大ダメージを与えたようだ。

 

「それじゃ、私は総大将に報告に行ってこよう。あいつらのことは任せるぞ」

「うん。よろしくね。白蓮ちゃん」

 

一応、桃香は白蓮の客将扱いとなっているので、報告は上司である白蓮が行うことに。桃香は保護した二人のことを任されたのであった。

 

これは、そんな桃香達に負けず劣らずお人好しな『おせっかい』の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・」

「・・・・」

「こんなことって・・・」

「あらあら」

「ふむ、珍しいのぉ」

「全くだわ」

「へぇ~」

「嘘じゃないわよね?」

「(ぽか~ん)」

 

一刀達はあれから気を失っている女性と少女達、大勢の恋の家族達を引き連れて街へと戻った。まだ、目を覚まさない女の子達をベットに寝かせると、現場にいなかった皆に女の子達を保護した経緯を説明する。これには、聞いた皆が「まぁ、一刀(北郷)(様、さん)だし」で片付いたので割愛する。そこに、眠っていた女性が意識を取り戻した為、皆の視線が一斉に向いたのだが、彼女の一言目で困惑する雰囲気になってしまったのである。

 

「あ、あの・・・私のことを教えて頂けますか?」

 

彼女は記憶喪失になっていたのである。

 

「えっと・・・華佗、これはどういうことだ?」

「・・・俺もこういうことは専門外だから断定は出来んが、恐らく強い精神的負荷による記憶喪失だろう」

「精神的って、気絶する前の絶叫か?」

「ああ、彼女はその強い負荷に耐え切れず、自己防衛の為にその負荷の記憶を忘れることで精神崩壊を防いだのだろうな」

 

二人の視線の先では、自分のことと最近の出来事のみを忘れてしまい戸惑う女性が写っていた。

 

「名前も覚えてないですか?」

「はい・・・私の名前は(ズキッ)痛ッ!」

「無理に思い出さなくていいですよ」

「す、すいません」

 

仙花の質問に偉く恐縮して答える華雄。記憶を失くした彼女の性格は失くす前の自信溢れる態度が鳴りを潜め、内気で一歩引いた性格になっていた。これについて華佗曰く、精神的負荷の原因を無意識に禁忌し、その反動で正反対の性格になったとのこと。そう、今の彼女は質問を正座しながらおどおどと受け答えしている姿がそれを証明していたのである。。

 

「では、今の情勢は覚えていますか?」

「は、はい!霊帝様が死去したことにより、董卓様が相国となって・・・(ズキッ)痛ッ!!」

「なるほど。わかりました。もう考えなくていいですよ」

「す、すいません」

 

自分のこと以外の記憶については、反董卓連合の直前までは覚えているようである。やはり、忘れているのは自分のことと、先の戦のことだけであった。

 

 

 

 

 

 

「さしあたって、問題なのが彼女の名前かな?」

「ああ、本名を呼べば記憶が戻るかもしれない。しかし、そうなったら負荷に耐え切れず精神崩壊を起こす恐れがある。下手に刺激しないほうがいいだろう」

 

というわけである。名前の記憶を失くしているのでどう呼べばいいのか悩むのだ。本名で呼んでもいいが、精神的負荷からの逃避で現在の状況になっているので、下手に刺激すると精神が壊れかねない。自然に思い出すのを待つか、彼女自身が精神的に強くなり乗り越えるしかないのだ。一刀は華佗の言葉に深く頷くと華雄に話しかける。

 

「あ、あの・・・」

「無理に思い出さないでいいよ。俺達は君をどうこうするつもりはないから」

「は、はぁ・・・それでは、私はどうすれば」

「それは君が決めるんだ。君のやりたいようにすればいい。俺達は出来るだけ支援するつもりだよ」

 

一刀の思わぬ発言に彼女は一瞬、言葉を失い呆然とした。

 

「いいんですか?」

「ああ。じゃなきゃ、ここまで連れてこないって」

「ですが・・・何かあるのでは?お金は持っていませんが、私は女性ですし・・・」

「ああ、そういうことを要求するつもりもないよ」

 

要は女の体を要求するようなことを想像したらしいが、一刀はそんなことを要求する気は微塵も持っていないので、そのような反応も困ってしまうのであった。だが、困っているのは彼女も同じである。なんの見返りもなく助けてくれるなど絶対にありえないという思いがあるからだ。金、名誉、権力、体、求める者は多数あれど、求めないなどありはしない。それが、この時代の常識であり、真理でもあった。そんな彼女に見返りはいらないなど言っても信じることは出来ないのである。

一刀もこの時代で生活をしてそれなりに時間も経っているので、重々承知していることであったが、知っていてもその考えを実行するのとはまた別である。性格上、出来そうもなかったともいうが。よって、一刀は言葉で言っても信じれもらえないので態度で示し、見返りなどいらないと理解させようとしたのである。

 

「とりあえず、こっちは何にも要求するつもりはない。君は体を休めて怪我を治すことを第一に考えてくれ。それから、これから自分がどう生きていくのかを決めればいい。話は以上だよ。質問とか言いたいことはあるかい?」

 

一刀の言葉に彼女は少し考える仕草を見せると、徐に口を開いた。

 

「・・・でしたら、私をここで雇ってもらえませんか?」

「え?」

「私はどうしても自分を鍛えないといけない気がしてるんです。自分の名前も思い出せないのに変かもしれませんが・・・」

「(もしかして、今度こそ勝つって約束したからか?それだったら、俺も責任あるし・・・仕方ないよな)わかった。けど、いいのかい?別にここで働かなくてもいいんだよ?よかったら近隣の街に紹介状も書くし」

「ええ、記憶喪失のせいかもしれませんが、他にやりたいこともないですし。助けてもらったのに何もしないのは私の気がおさまりませんから」

 

一刀の問い返しにつっかえることなく即答した女性の様子を見て、彼女に迷いは見られなかった。ここでまだ迷っている様子なら、保留にして様子を見るつもりだったが、彼女の様子には迷っている様子は見られず、ただ真っ直ぐな視線があるだけである。一刀の答えは決まった。

 

「じゃ、君には兵としてここで働いてもらうよ」

「あ、ありがとうございます!!」

「でも、それは怪我を治してからね?」

「は、はい・・・」

 

こうして、華雄は一刀の街で兵として働くことになったのであった。そこで、一刀は考える。今の彼女は記憶喪失だ。名前を覚えていない。だが、ここで働く以上は名前がないと呼ぶとき不便である。早急に名前をなんとかしないといけなくなった。

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・それで、働くことになったからには名前がないと呼ぶときに不便だよね?」

「はい。ですが、私は・・・」

「うん、それはわかってる。だから、この際、新しく名前を考えてみないか?」

「え?」

「過去のことは思い出せないのは仕方ない。だから、この際、心機一転新しい名前で頑張ってみようよ。いきなりこんなこといって酷なことを言ってるのはわかってる。ましてや、自分が誰かわからないのはつらいことだと思うけど・・・」

「いえ、お気遣い嬉しいです。見ず知らずの私を雇ってくれるだけでもありがたいです。気にしないで下さい」

「ありがとう」

「いえ・・・ですが、名前をいきなり考えろといわれてもすぐには思いつきません」

「そうだよね。わかった。思いついたら教えてくれるでいいからじっくり考えてみてよ」

「それなのですが・・・あなたが考えてくれませんか?」

 

予想外の言葉が華雄から飛び出した。いきなりの大役指名である。

 

「え?俺が君の名前を?」

「はい。これからお世話になりますので、あなたから頂くのが相応しいかと思いまして」

「いいの?」

「ええ、私としては是非お願いします。正直に言いますと、自分ではいい名前が思いつける自信がないもので・・・」

「わかった。考えるから少し待ってくれ・・・」

「はい!お願いします」

 

一刀は考える。華雄の名前・・・自分の知識の中に一つだけ該当する名前があった。それは、三国志の中で書かれている名前である。その名は・・・。

 

「君は姓は葉、名は雄で葉雄でどうだい?」

「葉雄ですか・・・」

「うん。嫌だった?」

「いえ、気に入りました。ありがとうございます」

「いや、気に入ってもらえて何よりだよ。でも、今は姓名だけだね。さすがに真名はつけられないよ」

「そうですね。今はこれだけで十分です」

 

少し考えるそぶりを見せたが、一刀の名付けた(正確には覚えていた)名前は気に入ってもらえたようである。そして、話は未だに眠っている二人の少女に移った。

 

 

 

 

 

 

「のぅ、貂蝉よ。この者達はもしや・・・」

「あら?言われてみればそうじゃない。どうして気付かなかったのかしら?」

「やっぱりのぅ・・・」

「二人ともこの娘達のことを知ってるのか?」

「ええ、この娘たt「ああああああああああああああああ!!!!」」

 

後ろで意味深な会話をしていた貂蝉達に振り返る一刀。その問いに答えようと口を開いた貂蝉より先に絶叫を上げて遮ったのは華雄改め、新たに仲間になった葉雄であった。

 

「どうしたの?葉雄」

「こ、こ、こ・・・」

「「「「こ?」」」」

「皇帝陛下です!!なんで、ここに皇帝陛下がいらっしゃるのですか!!」

「「「「えっ!?」」」」

 

葉雄の言葉に一刀、仙花、蹴、符儒の四人は驚愕し固まった。彼女の言うことが本当なら、セキト達が連れてきた少女二人はこの時代に最も権力を持っていて、先の戦の元凶となった人物だからである。煌びやかな服を身に纏い眠っている少女、片方は綺麗な銀髪をストレートに肩甲骨くらいまで伸ばし、豪華な帽子の璃々より少し年上だと思われる少女。もう一人も同じく綺麗な服、肩くらいまでに伸びた銀髪のボブカットの少女。年は璃々と同い年か少し下だろう。

 

「ん・・・ん?」

「ここは?」

 

葉雄の絶叫を聞いたからか、眠っていた少女達が目を覚ました。目をこすりながら、ゆっくりと起き上がる少女達。

 

「あっ、起きた?」

「体に違和感とかありませんか?」

 

目を覚ました少女に皆を代表して一刀と仙花が話しかける。だが、帰ってきたのはこちらを警戒して睨みつける視線だった。年上だと思われる少女が咄嗟にもう一方の少女を庇うように己の背に隠し叫んだ。

 

「あなたたちはれんごうぐんのものですね!」

「え?連合軍?」

「とぼけないでください!わたしたちをどうするつもりですか!!」

「どうするって・・・・とりあえず、ここで保護するつもりだったのですが」

「わたしたちをくぐつにしてじっけんをにぎるつもりなんですね!!」

 

目を覚ましたばかりの彼女達は一刀達を連合軍の者と勘違いしていた。それも無理ないことだろう。セキト達に連れられてきた時点で氣を失っていた彼女らにここに連れてこられた経緯を知ることは出来なかったのだし、彼女達の今まで生活してきた環境も日々権力に溺れた者達のおべっか等を聞いてきたのだから。この反応は当然といえた。

 

「まいったな~」

「どうしましょうか?」

「私達は連合軍に参加してはいないのですがね」

「そんなことを言っても無駄だろう」

 

これには困った一刀達。連合軍に参加していない彼らだが、それを証明する物は何もない。どうやったら信じてもらえるのか検討もつかなかった。元来、子供の扱いがあまり得意でない蹴と符儒、二人よりはマシだが、経験が少ない仙花。経験豊富で得意と言えるものであるが、こうも警戒されているとどうやっていいやら困ってしまう一刀。そんな彼らに救世主が現れる。

 

「わんわん!!」

「セキト?」

「わん!」

「チョウチョウも!?」

「「わんわん!!」」

 

二匹の登場で警戒から驚きの表情に変わる二人。そんな二人を尻目に二匹は一刀の足元まで行くと頭を一刀の太ももあたりにこすり付けた。一刀が頭を撫でてあげると尻尾を振って喜ぶ。その行動はまるで、彼女達にこの人達は大丈夫と言っているようだった。

 

「あなたはセキトをしってるのですか?」

「セキトって、なかなかなつかないんだよ?わたしたちだって、なんかげつもかかったのに・・・」

「え?そうなの?俺は最初っからこんな感じだったんだけど・・・セキト、そうなの?」

「わんわん!!」

「張々も?」

「わん!」

「そっか~、嬉しいぞ~♪」

「「わふぅ~♪」」

 

人にはなかなか懐かないセキト達、それでも自分には最初っから懐いてくれたということに嬉しくなり、より一層撫でる一刀。それをセキト達も気持ちよさそうに受け入れていた。

 

「いいな~・・・」

「ちょっと、犬に嫉妬するなんて!?」

「姉さん・・・」

 

約一名、セキト達を羨ましがっている人がいるが・・・。

 

「私もして欲しいわん♪」

 

訂正、二人でした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セキトを知ってるってことは恋も知ってるの?」

 

そんな外野を他所に一刀は気になったことを問いかける。それは、セキトのことを知っていたことで恋とも知り合いになっている可能性についてだった。

 

「はい。セキトのかいぬしですし、いっきとうせんのしょうです。とうぜんしってます」

「まなでよんでるってことはれんおねえちゃんとなかがいいの?」

 

一刀の質問についてはあっさりと答える二人。が、次の瞬間には質問者と回答者が逆になる。少女は少女で真名で質問してきた一刀に疑問を思ったからである。

 

「そりゃ、それなりにはね。前は一緒に住んでたんだし。そのくらいは「「「「「「ええええ!!」」」」」」ど、どうしたんだよ?みんな」

 

一刀の爆弾発言に女性陣が絶叫した。叫ばなかった者達も叫ばなかっただけで驚いたのは一緒である。まさかの一緒に住んでいた発言。片や天下無双の将軍、片や小さな村の代表。住む場所も、育った環境も違う二人が一緒に暮らしていたのだ。

 

「一緒に住んでたの!?」

「ああ、な?セキト」

「わん♪」

「どういうこと?相手は将軍なのに・・・一刀がなんで一緒に住めるの?」

「ああ、それは・・・天和達と同じ理由「「「「納得・・・」」」」あれ?」

 

一刀の一言でヒートアップしていた女性陣、並びに傍観していた男性陣(医者と漢女除く)は納得した。天和達と同じ、つまりは【おせっかい】である。もう、これを言われては納得するしかない。ただ、一刀のことをあまりよくわかっていない人達は別である。

 

「あの~、なんでみなさんなっとくしちゃったんですか?」

「そうだよ。なんでおにいちゃんがおねえちゃんといっしょにすんでたの?」

 

皇帝姉妹が疑問を口にした。医者王とその恋人?には自称、踊り子が説明しているので省かせてもらう。そんな疑問を抱いている少女達に一刀は目線を合わせるように屈むと説明をするのであった。

 

 

 

 

 

 

「それはね。お姉ちゃんがとっても優しかったからだよ。まだ、お姉ちゃんが君達の街に赴任する前にね、俺ともう一人の女の子が怪我してるこの子を手当てすることになってね。一緒に手伝ってもらったんだよ」

 

そういって一刀は張々を抱き上げる。抱き上げられた張々は少女達に向かって嬉しそうに尻尾を振っている。

 

「おねえちゃん、どうぶつさんがだいすきだから」

「おねえちゃんらしいです」

「わかってくれたかな?」

「「はい!」」

 

少女達の返事を聞いて笑みを浮かべると、抱き上げていた張々を降ろす。セキト達のおかげで少女達の一刀達に対する警戒心が大分薄れてくれたようである。

が、一刀はここからさらに畳み掛ける。

 

「紫苑。璃々を呼んできてくれるかな?」

「璃々をですか?」

「うん。頼むよ」

「はぁ、わかりましたわ」

 

一刀の頼みにより、怪訝な表情を浮かべながらも紫苑は部屋を出る。それを見送ると、少女達に話かけた。

 

「さて、これからお兄ちゃん達とおでかけしないかい?」

「「おでかけですか?」」

「うん。今日から暮らす街と家を案内するためだよ。それとお願いがあるんだ」

「おねがい?」

「やっぱり、わたしたちをりようするつもりだったんですね!!」

 

お願いの言葉に激しく反応を示した少女達。薄れていた警戒心が再び強くなってしまい、一刀は己の失言を悟った。せっかくセキト達のおかげで警戒を解いてくれたというのに、自分の発言のせいで台無しにしてしまった。後悔すれどすでに遅し、一刀はまた彼女達を安心できるように危害を加える気はないと伝えるよう試みる。

 

「そんなことしないよ」

「「しんじられない(ません)」」

 

彼女達の反応は頑なだった。後ろで見守っていた皆もどう対応すればいいかわからず困惑するしかなかった。頭が回り軍師役を任されている符儒も、策略、戦略のことならいくらでも案を出すが、子供相手となるとその頭があれど案を出すことが出来ないでいるのであった。そんな彼らだったが、ここでようやくこの場を打破できる救世主が現れる。

 

 

 

 

 

 

「おと~さん。りりにようってな~に?」

 

その救世主は紫苑の娘、璃々のことである。

 

「いいとこに!!ちょっとこっちに来てくれるかな?」

「うん」

「さて、君達にお願いっていうのはね。この娘とお友達なって欲しいんだよ」

「「「おともだち?」」」

 

自分のところに璃々を招くと、紫苑に視線で礼をし少女達に向き直る。そして、璃々を少女達の前に出すように向き合わせると、そうのたまうのであった。これには、お願いされた少女二人だけではなく、璃々も疑問に首を傾けた。もちろん、ここにいる大人達も同様だ。

 

「そうだよ~。俺や紫苑は仕事で忙しくて、いつも璃々ちゃんに寂しい想いをさせちゃってるから。本当なら一緒にいてあげなきゃいけないのに・・・。で、いつも街の子と遊ぶっていっても、やっぱり遠慮しちゃうと思うんだ」

「一刀様・・・」

「それに君達も俺達よりも璃々ちゃんみたいな同年代の子のほうが話やすいし、居心地もいいと思うんだ」

 

両者が友達になれば、璃々は友達が増え寂しさを感じることが少なくなる。皇帝姉妹は大人達と相対する緊張感を抱かなくて済む。双方メリットの出る策であった。彼女達を保護すると決めてからずっと考えていた策。子供は子供同士いたほうがいい。それは、正史での経験によるものであった。喧嘩して、遊んで、話して、笑顔になる。大人達との会話では絶対に得られないものがあるのだ。

 

「そうだな・・・まずは、自己紹介から始めよう。やってみて?」

 

まずは、その第一歩。

 

「わたしは、せいはこう、なはじょっていうんだよ。よろしくね?」

 

一刀の言葉に最初に応えたのはやはり、璃々であった。ちゃんと、真名を抜かしているあたり、しっかりとしている。さすが紫苑の子供であった。しっかりと自己紹介できたのだから、褒めてあげねばなるまい。

 

「偉いぞ、璃々ちゃん。ちゃんと、自己紹介出来たね」

「えへへ~♪」

 

一刀に撫でられて嬉しそうに笑う璃々と、その娘の笑顔に悶える母がいたり。相変わらず羨ましそうに見つめる複数の視線があったりもしたが、割愛させていただく。さて、問題は自己紹介をされた少女達の反応であるが、こちらはどう反応していいのか困惑している様子だった。そんな彼女達に助言するのが『おせっかい』である。

 

「君達のお名前は?」

「わ、わたしはせいはりゅう、なはべんです。このこのあねです」

「わたしはいもうとの、せいはりゅう、なはきょう。あざなははくわだよ!」

 

一刀の言葉に慌てて答える劉弁と、自分のやるべきことがわかって張り切る劉協。どうやら劉協のほうが適応能力が高いようである。そんな二人を笑顔で見つめ自らも自己紹介をし始めた。

 

 

 

 

 

「俺は姓は白、名は士、字は北郷っていうんだ。一応、この周辺の街の県令をしてるから困ったことがあったら言ってね?これからよろしく」

「え!?あなたがはくしさんですか?」

「わわ!びっくりです!!」

「俺のこと知ってるの?」

 

自己紹介をして握手を求めたのだが、その手を握る前に少女達は驚きの声を上げたのである。何故、自分と面識がない彼女達が知っているのか疑問に思う一刀。思わず口に出してしまった。

 

「えっと、らくようにいたときに・・・れんおねえちゃんがよくはなしてくれました」

「うん。ねねおねえちゃんといっしょにね」

「音々まで知ってるの!!って、恋と一緒にいるなら当たり前か」

 

どうやら、自分のことは恋達から聞いていたらしい。どんなふうに聞かされていたか気になるところだが、自分をどうして知っているのかという疑問は解消されたのでおいておくことにした。

 

「だから、セキトもなついていたんですね。なっとくです」

「おねえちゃん。はくしさんならしんようできるんじゃないかな?」

「そうだね。たしか、れんごうぐんのなかにはくしさんのぐんのなまえははいってなかったし」

「でも・・・いいんですか?わたしたちをほごすると、ゆ・・・とうたくさんとおなじことがおこるかもしれませんよ?」

 

嬉しい誤算で、恋達の知り合いということでこちらを信用してくれたようである。とりあえず、一番問題だったことが解決してくれたことに内心で安堵するも、姉妹から問われた質問に、彼女達の聡明さを感じとり、璃々と同年代くらいなのによくそこまで気付いたと感心半分、そんな風に考えてしまうような生活をしていたのだろうと、悲しさ半分で聞いていた一刀。

 

「そんな心配する必要はないよ。それは俺達が考えることだ。君達は素直に甘えてればいいの。わかった?」

「「でも!!」」

「でもじゃないよ。俺からの要求は一つ。ここを自分の家みたいに思って、甘えてくれ。難しく考えずにね。それにここには、優秀な軍師様がいるからね。大丈夫だよ。な?」

「もちろんです。陛下を危険にさらすことなどさせません」

 

一刀は最後に後ろにいる符儒に言うと、心強い返事が返ってきた。大変頼りになる軍師である。だからこそ、少女達に言える。心配しないでと。

 

「これから、よろしくね?」

「「はい!おせわになります!!」」

 

姉妹の返事に笑顔を浮かべる一刀であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある村、そこに訪れたのはボロボロの鎧を身に纏い、大小様々な傷を負っている兵の集団であった。ロクに食べていないのであろう、兵の頬は見るからに痩せこけ、睡眠もとっていないのか目は充血し、隈まで作って不自然につりあがっている。こんな格好の集団が村にやってきたら?警戒して当然である。村人達が警戒する中、集団の中でただ一人文官の装束を纏った少女――音々が赤い髪の少女――恋に肩を貸しながら歩み寄ってきた。

 

「すみませぬ・・・食べ物をわけて頂けないでしょうか?お金なら払いますので・・・」

 

音々も食べ物を食べられずにいるのだろう。発せられた声は弱弱しく少し押しただけで倒れてしまうと思われるくらいに足元もおぼつかない様子である。そんな少女の頼みだ。思わず食糧を用意しようとした時、一人の男があることに気がついた。

 

「お、おい!あれって・・・真紅の旗じゃないか?」

「よくみたら・・・あれって、董卓軍の呂布じゃないか?」

「そうだ!間違いない!あれは呂布軍だ!!」

「うわああああああああ!出てけぇ!!!」

 

人から人へ、瞬く間に伝わった真実。村人達の心に恐怖と嫌悪を抱かせるのに十分だった。各々、身を守る為、あるものは武器になりそうなものを取り、あるものはそこらへんにあるものを投げ、あるものは罵倒する。本来なら、このような攻撃をされても軽く受け流すことが出来ただろう呂布軍。だが、疲労と飢え、寝不足による思考力の低下、最悪のコンディションの上、人々から罵りが精神を蝕む。投げられた物を防ぐことも出来ずにただ腕をかざしたり、体を丸めることで致命傷を避けるしか出来ないでいたのである。

 

「や、やめてくだされ!!」

「うるせぇ!!俺達の村からでてけぇ!!」

「そうだそうだ!!」

 

それでも諦めずに声を張り上げるも、音々の必死の言葉に耳を貸すことはなく、次々に投げられる物と罵声。次第に反撃できない呂布軍の様子を見ていた村人達に一つの考えが浮かぶ。『このままやつらを討ち取れるのでは?』村人達に浮かんだ欲。それを察知したのは音々であった。結局、彼女らは撤退するしかなかったのである。

 

「(兄上・・・)」

 

突きつけられた現実。やはり、世間は自分達に味方をしてくれないという事実。もしかしたら、優しい兄も自分達を受け入れてくれないのでは?希望が潰えるかもしれないという恐怖。様々な考えが浮かび、音々を絶望へと誘う。だが、それでも踏みとどまっているのは一重に隣の少女の存在があるからだろう。

 

「恋殿は絶対に守ってみせるのです!」

 

その想いが、潰れかけている彼女を支えていたのであった。音々の苦難はまだ続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さん、お久しぶりです。

やっと続編を投稿できました。

遅くなって申し訳ない。

 

 

 

先月に起こった関東・東北大震災。

私のところはそれほど被害があったわけではありませんでしたが。

プリンターが大破しただけで・・・。

様々なところで混乱が起きましたね。

 

 

さらに私の環境にも変化がありました。

私の勤務先が移転になりまして。

移転前に比べて約40分ほど早く家を出なければならなくなってしまいました。

これにより、執筆時間も減少。

 

 

上記した大震災の混乱と環境の変化からモチベーションというか、集中力、執筆意欲というのが沸かなくなってしまったのです。

ネタは考えていました。

頭の中でこうすれば~とシュミレートもしていたりしたのですが。

どうしても書く気分になれず・・・ここまで引っ張ってしまいました。

 

 

 

 

ようやく環境にも慣れ出し、気持ちも切り替えられてきて少しづつですが、執筆できるようになってきました。

まだまだ未熟者ではありますが、これからも私の作品をよろしくお願いします。

 


 
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