No.198555

真・恋姫†無双 黄巾√ 第十五話

アボリアさん

黄巾党√第十五話です
早いようで(?)とうとう物語も佳境になって参りました
駄文ではありますが、どうかお付き合い頂けたら幸いで御座います
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると有り難いです

2011-01-29 19:50:59 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:6698   閲覧ユーザー数:5432

 

月達と別れた後について、少し語ろうと思う。

 

戦場を発った俺達はお言葉に甘える形で天水を訪れ、そこで歓待を受けることになった。

歓待といっても俺達は二万近くからなる軍を連れての訪問だった為、殆どは城外での野営になったわけだが、それでも俺達にとっては十分すぎるもてなしをしてもらった。

その間に詠(真名を許してもらった)や華雄とも打ち解け、暫くした後……月達の洛陽に向かう為の、引継ぎなどの準備が始まった頃に俺達は天水を発つ事にしたのだった。

そうして、再び旅を続けるつもりだったのだが、もう大陸で回っていないところは益州や交州、涼州の端位だった事もあり、これ以上は今回った地域での地盤固めや士気の向上に努めた方が効率的だという事で、荊州新野郡を仮の拠点として準備に費やす事にしたのだった。

天和達は貂蝉、卑弥呼の助力で大陸中を回っての公演。俺や先生は各地との情報のやりとりに兵糧や物資の手配。その間、洛陽に潜って貰っている馬元義さんとの連絡も密に行った。

 

 

一ヶ月経った頃は、何事も無く時が進んだ。

黄巾党員が更に増え士気も高まったという報告と、洛陽での権力争いに十常時が勝利。新帝に劉協が即位したという報告。そして月達が洛陽に入ったという話が伝わってきた。

 

 

二ヶ月経った頃も、平穏だった。

俺達はこの大陸では漢方以外に使われていなかった梅干やごぼうなどの食用化導入など、兵糧確保に没頭し、そして月達が洛陽での警備を担当。治安が今までより遥かによくなったという話が入ってきていた

 

 

三ヶ月経った頃にも、大きな出来事は無かった。

貂蝉、卑弥呼の二人から党員達の鍛錬の水準が上がったという報告。巷では洛陽で月が出世、治安警備だけでなく軍事についての権限と政治の一部に参加するようになったらしい。

 

 

半年経った頃……各地からの報告に今までと違う空気を感じながらも、それでも何事も無かった。

華佗の医術指南のお陰で各地に医療部隊が結成され……洛陽から入ってくる報告と裏腹に、他の地域からは洛陽の噂を全く聞かなくなる。

 

 

それから半年……つまり、一年の時が流れた時だった。

 

 

大陸各地に、『董卓誅すべし』の、檄文が発せられたのは。

 

 

「『……以上をもちて、董卓が権勢を思いのままにしている事は明白であり、これを討つ事こそ大義である。つまり……田舎太守の分際で調子に乗っている董卓さんを皆でけちょんけちょんにしてやりますわ!!お~っほっほっほ』……だそうだ」

 

「……何それ?ふざけてんの?」

 

呆れた声で地和が聞いてくる。

今、俺達は会議用の天幕に俺、天和、地和、人和、水鏡先生といった面子で集まり、話し合いをしていた。

 

「ええ、全くもってふざけているとしか言えない文言です。が、事実、この文言は大陸中の諸侯へと届けられた檄文の内容なのです」

 

これまた呆れ声で先生。

 

「え~?でもでも、それっておかしいよ。都からの情報では、月さん達は悪い事なんてしてないんでしょ?」

 

確かに天和の言う通りだった。事実、洛陽にも黄巾の構成員はいるし、情報収集を専門にしている馬元義さんからの話でも暴政の話なんて微塵も無かった。けれど……

 

「そうですね。張角ちゃんの認識は間違っていません。ですが問題は」

 

「事実とは全く違う噂が流れて、それが正しい……もしくは、正しいとしたほうが都合が良いと思われていること。ですよね?」

 

人和が言葉を継ぎ、先生はそれに首肯。

 

「でも、何でそんな出鱈目がまかり通ってるのよ!現地では何も起こってないならそんな話になるはずが無いでしょ!?」

 

納得いかない地和は激昂する。が、

 

「それがそうでもないんだ。半年前ぐらいだったかな。その位から地方で聞く噂と、洛陽の情報が食い違うようになって、それで調べたんだ。そしたら洛陽から地方への行商や、逆に役人の都への出仕……つまり、都と地方の往来が制限されていた。それも相当な規模らしい」

 

「私達は初めからして都の役人にも気付かれる事が無いよう、情報をやりとりする情報網を構築していた為に事実を知る事ができました。ですが逆に、そうでもしなければ洛陽の様子は分からないようになるぐらいには規制がされているのですよ」

 

無論、俺達だって何もしなかった訳ではない。各地との情報のやりとりでそれとなく噂を否定する噂……洛陽では暴政などではなく善政が敷かれているという実情を流したり対抗策は取っていた。

 

けれどもその噂を流す事で俺達の存在が明るみに出てしまうのは不味い。なのでそれほどにおおっぴらに活動する事はできず……結果は、この有様だった。

「まあ、今更それを言っても始まらないでしょう。今はこれからの事を決めないといけません。……それにあたり、一刀君達に訊かないといけない事があります」

 

言って、先生は真剣な眼差しで俺達を見据える。

 

「単刀直入に訊きますね。貴方達は、これからどうすべきだと思いますか?」

 

「もちろん、月ちゃん達を助けなきゃ!!」

 

天和が大声で即答すると、それに先生は苦笑。

 

「ふふっ……まあ、そういうとは思っていましたが」

 

そこまで言って真顔になる。

 

「ただ、それには問題が幾つかあります」

 

問題?と訊くと、先生が頷きながら続ける。

 

「まず一つ。事態がここまで進んでいる以上、真実を幾ら唱えたとしても諸侯の挙兵を止める事は出来ないでしょう。なので……」

 

「……それならば、私達の計画。予定通りに黄巾党の蜂起を起こせば」

 

人和の言葉に頷き、

 

「ええ、それしかないでしょう。当初の予定通り、一点に集まった諸侯を一斉に抑える事ができれば董卓ちゃんを助ける事は可能かもしれません。ですが、ここで問題がもう一つ」

 

先生が指を立て数えながら続ける。

 

「それというのも今回の諸侯連合の結成につき、朝廷から何も音沙汰がないことです」

 

「どうゆう事?」

 

地和が疑問の声を上げる。

 

「疑問に思いませんか?事実、善政を行い、朝廷でもかなりの高官である董卓ちゃんが悪し様に批判されその討伐軍まで結成されるというのに反論どころか釈明すらないのですよ?」

 

そう言われ、考えてみれば確かにおかしい話ではある。仮にも太師――皇帝の教育係であり軍部及び、政を司る最高クラスの地位にいるはずの月が批判され、黙っているなんて考え辛い。

最悪でも何らかのアクションを起こすのが普通であるはず、それに最悪皇帝からの勅でもあれば連合軍の方が逆賊扱いに――と、そこまで考え、ある結論が思い浮かぶ。

 

「……もしかして。朝廷は内部分裂していて、皇帝陛下も月達の味方をする事ができない状況?」

 

ポツリと漏らす。すると先生が「その可能性が高いです」と頷く。

 

「新帝である劉協様は聡明な方と聞きます。なので善政を敷く董卓ちゃんを疎ましく思うとは思えませんが、何分幼帝である事に変わりはありません。董卓ちゃんを快く思わない誰か……恐らく陛下の側近でしょうが、その者達が唆すか、もしくは陛下が発言できないように押さえている可能性は多大に有るでしょう。……そこで先程の問題です」

「我々の、黄巾蜂起の目的は乱世を起こさず世を安んじる事であり、その為には皇帝陛下を抱きこむ……といっては語弊があるでしょうが、味方になって頂く必要があります。そして計画では、権力に群がる諸侯と暴政を敷く者の手から陛下を助け出す事によりそれを成し遂げる筈でした。が、董卓ちゃんは暴政を敷く者ではなく、しかし皇帝の権力を頼る事ができない。つまり、董卓ちゃんを助ける事は皇帝陛下の助けを得られなくなるかもしれないという事であり、それは計画の失敗ともなる可能性を孕みます」

 

そこまで言って、先生は真剣な顔で、

 

「貴方達は黄巾に拠る民達を導くものです。その失敗は黄巾の民達を窮地に追い込む事にもなりかねません。貴方達はそれでも、董卓ちゃんを助けたいと?」

 

一瞬の沈黙が場を包む。

 

確かに、先生の言う事は正論だ。俺達の気持ちに黄巾の皆を巻き込む、というのは間違っているのかもしれない。逆に月達の事を無視する事ができれば、最初の計画通りに行くのかもしれないが……

 

――でも、だ。

 

「俺は、月達を助けたいと思う」

 

はっきりと口にした。

 

「うん、私もそう思うよ」

 

天和も笑顔で俺に追随する。

 

「……何故、ですか?」

 

短く、けれども重みをもった声で先生が聞く。すると天和はしっかりとした口調で続けた。

 

「だって、私達が黄巾を作ったのは……誰かが、どうしようもない事で悲しむのを、もう見たくないと思ったから。それなのに、悪くない月さんが傷つくのを黙って見ているなんて、嫌だからだよ」

 

「貴方達を信じてついて来た民達はどうなのですか?最悪、国賊を助けた国賊として追われるかも知れないのですよ?」

 

「そんなの決まってるわ」

その問いに答えたのは地和と人和だった。

 

「良い事をしてただけの、無実な女の子を助けて、その娘を助ける事も出来ない国や皇帝に悪者扱いなんてされるなら、そんな国こっちから願い下げよ!!」

 

「少なくとも、私達について来てくれた人達なら解ってくれると思うし……そうね。もし黄巾の皆が漢を追われたなら、助けた恩で月さん達の所に転がり込めばいいわ。天水の様子からして、あの地域の人達が月さんを拒むとは思えないし。その土地と黄巾の皆でもって新しい国を興すというのも手ね」

 

「あ、それもいいかも~!!」

 

和気藹々、とばかりに盛り上がる天和達に先生は嘆息。

 

「……はぁ、ずいぶんと簡単に言ってくれるものですね。……でも、少し安心しました」

 

「安心?」

 

俺が訊くと先生は先程までの厳しい顔から一転、笑顔になり、

 

「ええ。貴方達が目的の為、民の為といった理由をつけて一人の犠牲を良しとすることを選ばなかった事が、です。参謀役としては全くもって度し難い話ですが、私個人としては喜ばしいことですから。……ふふっ、新しい国、ですか。それは確かに良い案かも知れません。……と、それならば今回の作戦についても、涼州で大々的に参加を呼び込むのも好々、ですね」

 

「あ、それも良いですね」

 

言って盛り上りながら、一頻り話した後……俺達は立ち上がる。

 

「よし。そうと決まったら、早速準備を始めよう!!」

 

『「うん!!」「わかってるわよ!!」「ええ」「はい」』

 

そうして俺達は作戦の……黄巾蜂起の準備へと取り掛かったのだった。

 

「――それで、例の件はどうなった?」

 

「上手くいったわよ。ぜひとも協力させて欲しい、だって」

 

俺の問いかけに地和が答える。今は、黄巾党首脳陣が全員集合しての会議の真っ最中だった。

ちなみに例の件というのは、今回の作戦に天水……月達のいた地域の人達にも協力してもらうという話だ。

 

「人員だけでなく、糧食とかの支援までしてくれるって。……月さん、領民にも慕われてるんだね」

 

天和がどこか嬉しそうに呟く。

 

「ええ。ともかく、これで補給の面も余裕が出来るでしょう。……ところで一刀君。訊きたいのですが」

 

「はい?」

 

「予定としては、諸侯と董卓ちゃん達の戦場へと向かう本隊と、各地でそれを支援する分隊に分かれる事になっていますが……これはどうします?」

 

「ああ、それなんですが……」

 

俺は先生の問いに少し間を空けて……ある、考えを話す。

 

「各地のほうは、それこそ足止め程度にして……残りは全員、本隊に」

 

「全員、ですか?」

 

「全員、です」

 

驚く先生にはっきりと答えると、先生も俺の考えを察したのか含みのある笑顔になり、

 

「つまり一刀君は……真正面から戦う気は無い、と」

 

「はい。戦いは兵を持つ相手の専門分野ですから」

 

「だったらこちらは民の戦いをしよう、というわけですか。なるほど、それは好々です。では私はそちらの指示に取り掛かりましょう」

先生が満足げに頷き、周りに居るほかの司令官の人達へ説明を始める。

 

「それで、連合に参加をしている諸侯はわかりますか?」

 

「そうですな。今わかっているのは袁家の紹と術、それに術の客将として孫。さらに曹、馬。主だったところではないものの大小さまざまな領主、豪族に……あと、馬鹿な教え子二人、と言ったところですかな」

 

俺の問いに答えたのは妙齢の女性、盧植さんだ。最後の教え子、というのは多分劉備と公孫瓚だろう。

 

「付け加えると、私の教え子達もその劉備さんの陣営に居るようです。……立派にやっているのを喜ぶべきか、敵対するのを悲しむべきかはわかりませんが」

 

苦笑しながら水鏡先生。確か諸葛亮や龐統が劉備に仕えるのはもっと後になってからの話なはずだが……まあ、それはいいとして。

 

「つまり月達が居た天水付近や、益州みたいな洛陽と離れた地域以外はほぼ参加、といった事ですね」

 

総勢は十数万になるという話だ。だが、大陸中の諸侯たちが集まるというのだから妥当でもあるし、ある意味想定の範囲内である。

 

「華佗と貂蝉、卑弥呼はどうする?」

 

三人へ話を振ると、

 

「ああ。俺は後方支援に徹するよ。……五斗米道を戦いに使うのは矜持に反するし、怪我人の手当てもあるしな」

 

華佗が答える。

 

「私達は……そうねぇん。詳しくは言えないんだけど、あまり堂々と表舞台に出るわけにはいかないのよねぇん」

 

「うぬぅ。……だが、だぁりん達が頑張っている時に何もせんのは漢女としてのプライドがあるしのぅ」

 

くねくねと悶えながら答える貂蝉、卑弥呼。……うん、気持ち悪い事この上ないが、俺は気持ちを奮い立たせて先を続ける。

 

「出来たら二人には本隊の方の別働隊を率いて欲しいんだ。そっちなら多分殆ど目立たないと思うし……二人の実力を見込んでなんだ」

 

精一杯の気力を振り絞って笑顔を作る。すると二人は更にくねくね度を増して、

 

「どぅふふふふ、ご主人様にそこまで言われたら断れないわねぇん♪いいわ。この貂蝉。その役目引き受けてあ・げ・る♥」

 

「うむ!!良きおのこである一刀たっての頼みであるならやぶさかではない。しかしだぁりんほどではないが、ここまで私の心を揺さぶるとは……罪なお・の・こ♥」

 

バチコーンッ!!とウィンク付きの二つ返事で了承してくれた。

 

……ちなみに俺は、それを見て普通に吐いた。

その後も補給線や、実際の戦場になると思われる汜水関、虎牢関の話、戦法などの話を詳しく詰め……話が終わったタイミングで、俺が切り出す。

 

「それじゃあ最後に、天和。地和。人和。俺達に……黄巾党に、天の時、地の利、人の和は備わっているか?」

 

「うん。世の中を変える為に立ち上がるのは諸侯が集まっている今が絶好の期で、皆でよってたかって月さんを虐めるような諸侯をやっつけるのは、天の大義に沿うもの!!だよね」

 

天和が元気良く答え、

 

「地元の人、それに元は軍で働いていた人達の話で汜水関、虎牢関及びその周辺の地形は知り尽くしてる。だから諸侯の軍なんかよりも私達に地の利がある!!ね」

 

地和が精一杯に胸を張り、

 

「黄巾党には数え切れない農民、商人、士人に土豪が参加してる。そしてそれらは憂国の士であり、結束した事により人の和が備わっているのは疑いようも無いわね」

 

人和がいつも通りの淡々とした口調で答えた。

 

「うん。それじゃあ……」

 

そこで区切り、俺達は他の皆の方へと向き直る。

 

「天、地、人。それらを兼ね備えた今こそ、黄巾が起つべき時!!皆、太平の世の中の為に、頑張ろう!!」

 

 

『応っ!!太平世為、黃天當立!!』

 

 

こうして俺達は……黄巾党は、行動を開始したのだった。

 


 
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