No.192361

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(10.Lion)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。

2010-12-28 21:16:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1570   閲覧ユーザー数:1544

 

「く――!」

 

 ステージの周りにバジュラたちが集まってきていた。

 爆撃と爆風に体が吹き飛ばされそうになる。

 

(さすがにこれが限界か――)

 

 歌うどころか立ってることさえままならない。

 ――悔しいが、これが俺の限界なのか。

 

「?!」

 

 突然、視界が大きな影に遮られる。

 ステージとバジュラの一団の間にバルキリーが現われた。

 

『シェリオ、ここは任せて。思う存分、歌いなさい』

 

 黄色とグレーでペインティングされた機体。

 スピーカーから聞こえてきたのはライブの前に会ったオズマ隊長の声だった。

 

「OK! 言われるまでもない!」

 

 心強い台詞ににやりと笑って見せる。 

 

 マイクもカメラもまだ生きている。

 とことんまで俺は俺の戦いをしてみせる!

 

 

 

 

 

「あ……シェリオさんだ」

 

 ランタが呟く。

 ウォーターフロントに浮かぶ巨大戦艦――シェリオのステージに戻ってきた。

 

(シェリオも無事だったんだ)

 

 ステージの上に人影を確認して、安堵する。

 その傍らでは隊長の機体がステージを守っていた。

 ステージ脇に機体を着水させてコックピットからランタをステージに下ろす。

 

「ランタ、アルト、無事戻ってきたな」

『約束、守ったわよ』

「ああ――」

 

 安心したような表情でシェリオが頷く。 

 

「シェリオさん」

「さあ、俺たちのステージだ。思う存分、歌うぞ」

「はい!」

 

 シェリオとランタがステージの真ん中に立った。

 スポットライトが二人を照らし出す。

 

「二人のステージの邪魔はさせない!」

 

 オズマ隊長機の横に機体を付けてステージの周りを飛び回るバジュラたちに砲撃を浴びせる。

 絶対にバジュラたちはここから先に行かせない。

 

『――こちら、アンタレス1。貴君を援護する』

「!」

 

 さっき援護してくれた赤い機体が再び目の前に現われた。

 機体をステージ前につけて、近づくバジュラたちを攻撃する。

 ――必ずステージを守りきってみせる。

 

 

 

 

 

 頭上では巡洋艦クラスのバジュラとマクロス・クオーターの戦闘が続いていた。

 数倍の大きさである巡洋艦バジュラに対してマクロス・クオーターは善戦をしているものの決定的な一撃を与えるには至っていない。 

 

「こうなりゃ、必殺技! どりゃぁーっ!」

「ちょ……左舷前方にピンポイントバリア集中! ――無茶し過ぎだ!」

 

 マルゴの無茶な操鑑にクリストファー・グラスが避難の声を上げた。

 巨大バジュラの横腹に直接左舷を叩き込んで、内部に搭載機による一斉射撃を行う。

 

「よっしゃーっ!!」

 

 マルゴのガッツポーズと同時に巡洋艦内部で爆破が起き、炎上する。

 

「敵艦、フォールドバリア消失!」

 

 主要艦を失ったことで、バジュラたちを守っていたバリアが消えさっていた。

 

『マクロス・キャノン、発射!』

 

 満を持して、バトル・フロンティアから主砲発射の命令が下る。

 

『着弾を確認!』

 

 暗闇の宇宙に着弾の火の手が上がる。

 身を守る手立てを失ったバジュラ軍が一掃された。

 

 

 

 

 

『バジュラ軍、フォールド。――撤退していきます!』

 

 マクロス・クオーターの管制官からの通信が聞こえてきた。

 今まで攻撃をしてきていたバジュラたちの攻撃が一斉に止んだ。

 

「終わった――」

 

 撤退していくバジュラたちの姿に安堵のため息が漏れる。

 何とかステージを守りきることが出来たんだ。

 

 コックピットのハッチを開いて、ヘルメットを取る。

 隣の赤い機体のパイロットに向かって敬礼する。

 

「スカル4より、アンタレス1のパイロットへ。貴官の援護に感謝します」

「――当然のことをしたまでです」

 

 金の髪をしたパイロットは薄い笑みを浮かべて応えた。

 

「ランタ!」

「お姉ちゃん! ――あっ!」

 

 そんなやり取りが聞こえてきて、ステージに視線が向く。

 心配げなオズマ隊長の視線の先で慌てて走ってこようとしたランタがこけるところだった。

 

「ああ、もう……」

 

 いつもと同じ光景に思わず苦笑する。

 

「ランタ、よく頑張ったね」

「うん!」

 

 ステージに降りて、座り込んでいたランタの手を取って立たせる。

 元気よく応えるランタに笑みが浮かぶ。

 ――戦いは終わったんだと改めて実感する。

 

「シェリオ、ランタ。――二人の歌、よかった」

 

 戦いの間、二人の歌が勇気付けてくれた。

 私には出来ない戦いの形を見せてもらった気がする。

 

「シェリオ、これ、ありがとう。お陰で無事帰って来られた」

「ああ――」

 

 預かっていたシェリオのイヤリングを差し出す。

 でも、シェリオはそれを受け取ってくれなかった。

 

「シェリオ?」

「それは俺たちを守ってくれた報酬だ」

 

 シェリオはそう言って、淡く笑みを浮かべた。

 

「そんな……守りきれなかったのに……」

 

 戦いは終わったけれど、結果としてギャラクシー難民船10隻の内、7隻しか守りきることが出来なかった。

 目の前で3隻がバジュラに攻撃されてしまった……。

 改めてその現実に唇を噛み締める。

 

「アルトは出来る限りのことをしただろう? 俺も俺のできることをしただけ。それでいいさ」

「でも、大事なものなんでしょう?」

 

 譲らないでいるとシェリオは困ったような表情を浮かべてため息をついた。

 いい加減察してくれといわんばかりに。

 

「――お前に持ってて欲しいんだよ。こんなサービス滅多にしないんだからな」

「………」

 

 思わず、ぽかんとして言葉を失う。

 らしいような、らしくないような……珍しいものを見たような気がする。

 

「なんだよ?」

「……ううん、わかった。受け取っておく」

「ああ」

 

 そっぽを向いた顔は真っ赤になってた。

 ――なんでだろう。私まで恥ずかしくて顔が赤くなる。

 

「……アルト、ランタ、ありがとう。俺は一人じゃないんだな」

 

 空を見上げてぽつりとシェリオが呟いた。

 どこか嬉しそうなほっとしたようなその言葉に笑みが浮かぶ。

 

「シェリオさん――」

「一人じゃない、か」

 

 イヤリングが教えてくれたシェリオの心。

 それが少しでも癒されてくれたのなら、嬉しい。

 

「あ……雪……」

 

 ランタが空に手を伸ばし、白い結晶を捕まえる。

 はらはらと空から白い雪が舞い落ちてきていた。

 

「弔いの雪、か……」

 

 オズマ隊長が小さく呟いた。

 何かを噛み締めるような台詞に空を見上げる。

 

 一先ず戦いは終わった。

 守りきることが出来たものもあるけれど、失われたものも多い。

 ――どれほどの人の命が失われてしまっただろう。

 この小さな白い結晶たちが失われたと尊い命を静かに弔ってくれているように思えた。

 

 そして、これからも続く戦いに向けて改めて気を引き締める。

 守りたいもの守らなくてはならないもののために絶対に負けるわけには行かないんだ――。

 

 
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