No.187080

真・恋姫†無双~恋と共に~ #3

一郎太さん

#3

2010-11-29 18:42:47 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:19956   閲覧ユーザー数:14009

 

#3

 

 

 

俺が恋の家で世話になり始めてから半月が過ぎた。この時代に、あれだけ食事をしてよく生活ができるなとは思っていたが、それも、恋の生活を見ているうちに納得した。

 

 

 

 

 

早朝

 

 

「恋、北郷さん、起きなさい。朝ですよ」

「ん…ふぁあ………おはようございます。呂奉さん。ほら恋、朝だよ、起きて」

「はい、おはようございます」

 

声は掛けられるが、朝食までは決して恋が起きないことはすでに経験済みである。俺は貯め置きの水で布を濡らして顔を拭くと、軽く伸びをしてから、裏の畑へと足を向ける。ちなみに、服装は他の村人のそれと同じである。さすがに学園の制服は目立つし、今はまだ天の御遣いを全面に出すのは憚られると思い、呂奉さんに用意をお願いしたのだ。

畑を鍬で耕したり、収穫時の野菜などを採ったりして、それを呂奉さんの元へ届ける。二刻ほどすると、朝食の匂いが漂ってくる。

 

「はい、できましたよ」

 

その声を合図にするかのように、寝室の扉が開き、恋が顔を出す。ぴょこぴょこと触角のような髪の毛を揺らして、おぼつかない足取りで俺の元に来ると、隣にぴたりと寄り添ってくる。ちなみに目はまだ開いていない。

呂奉さんが鍋から恋の分を取り分けて初めて半眼が開き、むにゃむにゃと食事をするのが、恋の朝食スタイルである。意外と小食である。

 

 

 

 

 

午前中

 

 

今度は恋と共に呂奉さんの畑の仕事を軽く手伝うと、今度は村の中心へと向かう。何をするともなしにぼーっとしている恋だが、これには歴とした理由がある。

 

「よう、奉先ちゃん。うちの母ちゃんが腰痛めちまってよぉ。俺は、木を切りに行かなきゃいけないし、ちょっと畑仕事を手伝ってくれないかな」

「おう、呂奉さんとこの嬢ちゃん、これから薪用の木を切りに行くんだが、手伝いに来てくんねえかい?」

「嬢ちゃん、これから猪の狩りに行くんだが、一緒に来るかい?報酬はいつも通りだ」

「呂布ちゃん、これからあたい達は山菜採りに行くんだけど、一緒に行かない?いっぱいとれたら昼に何か作ってあげるからさ」

 

とまぁ、このようにいろいろと仕事を依頼されるからである。

しかしながら、恋が真に役に立つのは主に力仕事であり、女性陣はどうやら、癒しとしての恋を求めているようである。

 

 

 

事例その1 畑仕事の場合

 

 

「あら、奉先ちゃん、よく来たね。あ、お団子出来てるんだけど食べるかい?」

「…食べる」

「あれ、恋、畑仕事の手伝いは?」

 

俺が鍬を担いで恋とおばちゃんのところに向かうと、恋がもきゅもきゅと団子を食べてる最中だった。

 

「ほら、今日はお手伝いする、って来たんだろ?終わってからならともかく、いまはまず手伝わないと」

「………一刀が」

「俺が…?」

「一刀が、手伝えば問題ない………」

 

コラ、明後日の方向を向くんじゃない。ちゃんと俺の目を見て話しなさい。って、やっぱり向かなくていい。そんな悲しそうな顔で見ないでくれ。

 

「………はぁ、わかったよ、恋。俺がやっておくから、恋はおばちゃんの話し相手をちゃんとやるんだぞ?」

「ん…頑張る」

 

………まぁ無理だろうな。俺は苦笑すると、おばちゃんの笑い声を背に、畑へと向かうのであった。

 

 

 

事例その2 薪集めの場合

 

 

「さて、それじゃぁ木を切りに行きますかね」

「「おうっ」」「……おぅ」

 

村から少し離れた森に、俺と恋、そして村の若い男達が数人やってきていた。薪にするための木を切り、村で分配するのだが、俺や他の男たちと違い、恋は斧や鉈ではなくその手に自分の武器『方天画戟』を抱えている。「2、3刻後にここに集合だな」という声を合図に俺達は三々五々散っていく。俺はというと、まだあまり土地勘もないため、恋と行動を共にしている。

 

「さて、恋、どこに行く?」

「…こっち」

 

恋にはすでに目的地があるのだろうか。スタスタとやや薄暗い森の道を進んでいく。と、目の前に他の木より太く大きい木が目に入った。他の木はだいたい大人1~2人が腕を使えば余裕で囲えるくらいの太さなのに対し、その巨木は、その倍は必要ではないかというほどのものであった。

 

「ねぇ、恋……もしかして、これ?」

「(コク)」

「こんな大木を切るのか?」

「いっぱいあれば、皆に配れる」

「………」

「その薪で、ご飯……」

 

いや、確かにそうなんだけど………。俺が、「呂奉さん家に置いてある野太刀でも持ってきていればなぁ」などと考えていると、恋がスタスタと前に進み、右手に方天画戟を構えた。

左が前の半身で、身体の後方に戟を持つ。

 

「………………………」

 

さすがあの呂布だけある。構えからは凄まじい気迫が伝わってくる。そして数秒の後―――

 

「ふっ」

 

恋がその手を右から左に振りぬいたかと思うと、大木の手前半分がパックリと裂けていた。

 

「あと半分」

 

恋はそう呟き、大木の向こう側へとまわる。先ほどと同じように構えると、ふたたび戟を振りぬいた。

 

 

 

ズ…ズズ………ズズズズ、ズゥウウゥゥン………

 

 

 

見事な大木が俺たちの目の前に倒れていた。

俺は、恋が倒した大木を、斧を使って短く切ってゆき、手ごろな大きさになったところで、持ってきていた縄でしばり、持ち運びしやすいようにまとめていく。こうして同じくらいの大きさ木材(?)の塊が二つできたところで、そろそろ時間だと、森の入り口へと戻ることに。

 

集合場所に戻ると、他の男たちもすでに戻ってきており、1本の木を3等分、ないし4等分したものをそれぞれ担いでいる。いるのだが………

 

「あれ、どうかしたんですか?」

「い、いや、なんでもねぇ………。じ、じゃぁ、村に帰るか」

 

疲れたのだろうか。リーダーのおじさんも他の仲間たちも、帰り道はなぜか静かだった。

 

 

 

「なぁ…」

「なんだ?」

「なんで、北郷の兄ちゃんが奉先嬢ちゃんと同じくらいの木を担げているんだ?軽くみても俺たちの分の4~5倍はありそうだぞ?」

「聞くな。北郷さんが呂布ちゃんと同じくらいすげぇ、ってことだろ」

「………恐ろしいな」

「………まったくだ」

 

 

 

 

 

 

事例その3 狩りの場合

 

 

「じゃぁ、これから俺たちは猪狩りに行くわけだが………北郷さん」

「ん、どうしたんですか?」

「今日は自分の武器で?」

 

そう。前回は恋一人で熊を捕らえたのだが、いかに呂布とは言え、わずかだが、悔しいのも事実だ。そのため、今回は俺も活躍させてもらおうと思い、呂奉さんの家から俺の二本の刀を持ってきたのだ。ちなみにこの刀、(自分の記憶にはないが)腰のベルトに差さっていたらしい。そんなことは気にせず恋は俺を運んでくれたのだが、呂奉さんが寝苦しいだろうと、ベルトから外して保管しておいてくれたのだ。

そして、猪や熊の狩りに関しては、修行と称して、木刀だが爺ちゃんの裏山で経験済み。免許?そんなものは持ってない。私有地だからいいんだよ………たぶん。 閑話休題。

 

「あぁ、前回は恋に遅れをとったからね。こう見えても負けず嫌いなんですよ」

「そ、そうか……気をつけてな」

「というわけで、恋、負けないよ」

「ん(コク)…恋も、負けない」

 

こうして今回は、俺と恋は別々の班に分かれての狩猟となった。

 

 

 

「なぁ、兄貴、どうするよ………?」

「そうさなぁ………今日は村の皆で牡丹鍋でもやるかぁ………」

「今回は引き分けだな」

「ん…一刀もすごい」

 

 

 

俺たちの目の前には、二頭の巨大な猪が倒れていた。

 

 

 

事例その4 山菜採りの場合

 

 

俺と恋は、村のおばちゃんやお姉さんたちと一緒に山へ来ている、のだが―――。

 

「さて、今日は山に山菜を採りに行くわけだが、ただ集めるだけじゃつまらない。そこで、皆で楽しい話でもしながら行こうじゃないかと思うんけど………」

「………え、何?」

「今日の話題の主役は北郷ちゃんに決定ね」

「「さんせー!」」

「んなっ!?」

 

こうして俺は、おばちゃんたちのいい玩具にされるのだった。

 

「ねぇねぇ、呂布ちゃんのことどう思ってる?」

「それとも呂奉さんの方がいい?」

「あ、もしかしてまさかの『ピー(自主規制)』狙い?」

「「きゃーーーっ!」」

「………もう辞めてくれ」

 

俺が山菜を集めるまでもなくフラフラになっていると、ちょいちょい、と袖を引く手が。こんな引っ張り方は恋しかいない。俺は振り返った。

 

 

 

「………親子丼って、何?」

「勘弁してくれ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは再び帰宅し、呂奉さんの手料理で腹を満たす。といっても、恋の腹が満たされるか心配だが、恋は、昼食も昨日の夜と比べてあまり食べることはない。しかし、これももう慣れた光景である。

 

 

 

 

 

午後

 

 

少し畑仕事を手伝ったあと、再び村の中心へと向かう俺たち。すると、午前中の手伝いのお礼にと、老若男女問わず、次々と恋に食べ物を渡していく。

 

「みんなが作ってくれた。残すの、失礼」

 

そう、恋はこのことをわかっているために、あらかじめ昼食を少なくしておいたのである。視点を変えればそれはある種のずる賢さにも見えるかもしれないが、恋を見ていればわかる。恋は純粋に、皆の好意を思い切り受け取ろうとしているだけだ。村人から食べ物をもらってホクホク顔の恋。それを見て和む人々。この時代には珍しく、この村には笑顔が溢れていた。

 

 

 

少し遅めの昼食を終えたあと、俺と恋は、今度は子どもたちに声をかけられる。

 

「呂布ねーちゃん遊ぼー」

「一刀のお兄ちゃんもほらー」

 

親たちは畑仕事や狩りで忙しいためなかなか相手をしてもらえず、仕事はしているがたまに暇な大人ということで、俺たちに白羽の矢が立つわけだ。まぁ子どもは好きだからいいんだけどね。

 

「何やるー?」

「あたしかくれんぼがいい!」

「えぇ、鬼ごっこにしようぜ!」

 

 

 

―――ワイワイガヤガヤ―――

 

 

 

「あぁ、もうわかったわかった!じゃあこうしよう!今日は皆に、俺の故郷の遊びを教えてやる!その名も………『だるまさんがころんだ』だ!!!」

 

 

 

 

 

 

夜 

 

 

夕食は初日のように、相変わらず大量の料理。山で採った山菜のお裾分けだったり、森で狩った熊や猪の分配だったり、畑で取った野菜だったりといろいろあるが―――

 

「(モキュモキュ………)」

 

恋が幸せそうならなんでもいいか。

 

食事が終わると、いつものように恋は俺の膝を枕代わりにすやすやと寝息をたて、俺と呂奉さんは白湯を飲みながら話に花を咲かせる。

 

「この娘の名前は私がつけたんです。字は私の『奉』の文字を使って―――」

「私の父は、かつて役人をしておりました。その頃に文字も習いまして―――」

「この娘は昔、盗賊の一味にいたそうです。善悪の区別もつかず、命令されるままに戦っておりましたが、その強さを一味は次第に恐れるようになり―――」

 

会話の内容は恋のこと、呂奉さんのこと、(いわゆる)天の国のこと、今日あった出来事など、俺たちの会話が尽きることはなかった。

 

 

 

 

 

この一週間はだいたいがこのサイクルだった。子どもと遊ぶ、の代わりに昼寝が入ったりもするが、基本的に、俺は恋と行動を共にした。気がつけば、村の人も俺を受け入れてくれて、よく声をかけてくれるし、子どもたちはその順応性の高さから、初日にはほとんどすべての子どもたちと仲良くなることができた。

 

また、俺は、たまにではあるが恋と行動を別にし、呂奉さんに師事して、勉強をみてもらうこと時間もとるようにした。これから何をするにせよ、ある程度文字は読めたほうがいい。俺がそういうと、一通り文字の読み書きができるとのことで、畑仕事の合間に教えてもらうこともあった。

 

そうして気がつけばふた月が過ぎ、俺はすっかり村の一員となっていた。

そんなある日――――――

 

 

 

 

 

「大変だ!賊が来たぞーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

俺の周囲は変わり始めた。

 

 

 

 

 

 

「賊が来たぞぉぉっ!」

 

村人がそう叫ぶ声が聞こえてきた。ちょうどその時子どもたちと遊んでいた恋は、「いってくる」そう一言残して村の入り口へと走っていってしまった。

突然のことに呆気にとられていた俺だったが、すぐに我に帰り、恋が走り去った方へと向かう。村の入り口には男たちがその手に鍬や斧など武器になりそうなものを抱えて集まっていたのだが―――

 

「今回は300人くらいらしいぜ」

「そのくらいか…だったら奉先の嬢ちゃんに任せておけば安心だろう」

 

男たちは妙に落ち着いている。

 

「あの…賊が来たんですよね?」

「あぁ、そうだよ」

「その割にはみんな落ち着いて見えるんですけど………」

「あぁ、そのことか。大丈夫だよ、北郷さん。この村には呂布ちゃんがいるからな。300人程度なら数刻もせずに無事に帰ってくるだろうさ」

「で、でも、いくら強いからって、やっぱ恋一人に任せるのは危険じゃないんですか!?」

「………そうか、北郷さんが村に来てから初めての賊だから知らないんだな。いやな、昔は俺たちも一緒になって戦ってたんだが、一度呂布ちゃんの攻撃に巻き込まれて怪我をしたことがあってな………。その時の呂布ちゃんは見れたもんじゃなかった。ずっと悲しそうな顔をして『ごめんなさい』ってな。………それ以来、賊は呂布ちゃんに任せてるんだ、情けないけどな。その代わり、帰ってきたら精一杯労ってやることにしてるんだよ」

「そうですか………」

 

確かに呂布の強さがあれば、賊の数百人くらい相手にならないだろう。逆に、呂布が勝てないような相手がもしいたら、村人が何人いようと勝てはしまい。だが、これでいいのだろうか?少女一人にこんなことを背負わせてしまって………。

 

 

 

 

 

その時の俺は、本当に最低な人間だった。

 

 

 

 

 

無意識のうちに……恋を理由にして、自分が動き、そして傷つくことから逃げていたのだから………。

 

 

 

 

 

 

ほどなくして恋が村へ帰ってきた。荒野の先から歩いてくる恋を村の入り口で見ていた俺は、真っ先に駆け出した。

 

「恋!………その、怪我とかないか?」

「ん、元気」

「………あ、ほら、血が付いちゃってるぞ?」

 

ふと見ると、恋の頬や腕に、賊の返り血であろうものが幾筋か跡を残していた。俺はそれを手ぬぐいで拭いてやると、恋はくすぐったそうに目を瞑った。

 

村に戻ると、皆恋に労いの声を掛けている。中には、何かの料理を差し出すおばちゃんもいる。どこかほっとした雰囲気を出す村人を見て、やはり心配しているのだなと分かり、嬉しくなる俺がいた。

 

と、恋が村人の輪の中から抜け出して、トテトテと俺のところにやってきた。

 

「ん、どうした、恋?」

「……いっぱい運動して、いっぱい食べた。寝る」

「そっか、でも今日は村の中で昼寝しような。外はまだ賊がいるかもしれないしな」

「…ん」

 

そう言って俺の手を引く恋。はいはい、わかってますよ。俺は呂奉さんの家へと帰り、恋と共に夢の中へと旅立つのであった。

 

 

 

 

 

 

数週間後、俺はあることを思いついていた。

いつものように呂奉さんに起こされて畑仕事をした後の朝食の席でのことだった。

前日思いついた策を実行するべく、俺の懐にはあるものが入れてあった。

 

「…いただきます」

 

そう言って幸せそうにモキュモキュと朝ごはんを食べる恋の横でそれを取り出し、スイッチを押した。

 

 

 

カシャッ

 

 

 

この世界ではまず聞かない電子音に、恋と呂奉さんはビクっと身体を震わせ、こちらを向いた。

 

「………なんです、それは?」

「これは天の国のカラクリです。こうやって、人や風景を残すことができるんです」

 

俺は簡単に説明して、画面を呂奉さんに見せた。

そこには幸せそうにご飯を頬張る恋の姿が。

 

「あらあら、可愛いわね、恋?」

「?」

 

呂奉さんにはなかなか好評のようだ。俺は首を傾げる恋にも見せてあげた。

 

「………美味しそう」

 

そっちかよ…。

 

その後、朝食を食べ終えた俺たちは、呂奉さんの「3人でも使えますか?」という一言に、セルフタイマーで写真を撮影した。

 

画面右に優しく微笑む呂奉さん、左に馬鹿みたいな笑顔の俺、そして俺たちに挟まれるようにして、どこか照れながらも微笑む恋の姿が写っていた。

 

 

 

 

 

これは俺の宝物だな。

 

 

 

 

 

そして、俺たちの幸せな時間は終わりを告げた。

 

 

 


 
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