No.186341

青空のような人・空と海の物語1

あんみつさん

別所で発表したオリキャラのまた違う世界のお話です(意味わからん)一応長編。楽しんでいただけたら幸いです。追記タグよりもタイトルの方が分かりやすそうなんで、いじりました。

2010-11-24 14:10:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:604   閲覧ユーザー数:601

トパゾス大陸の西に位置する王国、カメリア。

農業の盛んなこの国は、国土のほとんどが耕地となっておりそれら農産物は国外へと輸出されていく。

そのため、南方には港町が点在していて各国の船が集まる。

この話の最初の舞台は、その中の一つの、ある港町。

少女の嘆く声が、港に響く。

きちんと整備されていない地面の上で、栗色の髪の娘が泣き崩れている。

穏やかな波の音と憎らしいほどに清々しい青空が彼女の心を更に揺さぶる。

若葉を思わせるような色の瞳から流れる血のような涙は質素な服を濡らし目元は酷く腫れあがる。

絶叫したせいで喉も痛い。

やがて彼女は鼻をすすりぐちゃぐちゃになった顔を上げた。

父親の乗った船が海賊に襲われたと聞いたのは本当についさっきのことだった。

そして、死んだ、という。

父親は商人で、主に麦を扱っていた。

母親のいない少女にいつか多く人を使う大商人になると自慢げに話していた。

その父が、死んだ。

若干15歳の彼女にこの現実は重くのしかかり、自分の力のみで生きることをも強要した。

幸いにして親戚の口利きにより職はすぐに見つけることはできたが、父との思い出が溢れる港町を出て行くことになった。

ミア=メーヴ、15の秋である。

 

第一話 青空のような人

 

ミアの故郷から東に位置する街、ジルウェット。

新興国家アダマントとの国境が近いこの街と、故郷とは港町であることは同じなのだが規模は比較にならないほど大きい。

少女は高い屋根屋根を声もなく見上げた。

同じ港町でもここまで違うのだろうか、人ごみに酔いそうになりながらミアは不安げに周りを見回した。

いつもは質素なワンピースを着ているのだが職場に始めて行く今日は余所行きの一張羅だ。

しかしここにいるとまるで自分は場違いな場所に来ているのではないかという錯覚が起きる。

知人はいない。

親戚は口利きをしてくれただけで直接これから彼女が働く職場を詳しく知っている訳ではないようだった。

職場はこの街を治める貴族の屋敷で小間使いとして使えるのだ。

ちょうどその貴族には同年代の娘がいてその年頃の小間使いを探していた所を親戚が口利きしたのである。

主人は優しいだろうか、どんな娘なのだろうか、仲良くできるだろうか。

そんな取り留めない不安が胸の中で渦巻いた。

しかも父の喪もまだ明けていないのだ。

頼れる相手がそこにいないという事実が彼女の足を竦ませる。

「お嬢ちゃん、荷物荷物」

「……あ、はい!すみません」

初老の男の声に、急いで彼女は荷馬車に駆け寄った。

荷馬車、と言っても曳いているのは馬ではない。

モルニスと呼ばれるロバよりも少し大きいくらいの鳥である。

飛ぶことをとうの昔に放棄しており、決して速くはないが力が強いので荷を運ぶのに重宝されている生物である。

「ここまで乗せてくれてありがとうございます」

「おぉ、お嬢ちゃんも頑張れよ」

互いに手を振って別れる。

一期一会であろうがこういう出会いは大切にしたい。

これは父の教えだ。

完全に荷馬車が見えなくなってから地図をカバンから取り出す。

金目の物はほとんど売り払ってしまったので荷物はこれ一つだ。

「えーっと……ここから……」

約束の時間よりも少し早い。

これからここが自分の暮らす街になるのだからと、気持ちを落ち着かせるためにもほんの少し遠回りすることにした。

街の入り口からでも見える教会の鐘楼を視界の端に入れて新たな一歩を踏み出す。

「おっと、ごめんよ」

「きゃっ」

いきなり街の人間とぶつかりミアは尻もちをついた。

ぶつかって来た少年はすでに人混みの中だ。

お尻を擦りながら彼女は立ちあがり、ふと懐に違和感を覚えた。

慌てて自分の手で探ってみる。

「……ない」

もう一度荷物を漁ってみる。

しかし何度探してもないのだ、財布が。

ミアは荷物を引っ掴むと少年が消えた方向へ駆けだした。

こちらに土地勘がないから圧倒的に分が悪い上、恐らく見つけられたとしても取り戻せないだろう。

しかし彼女は走らねばならなかった。

 

純朴そうな田舎娘がぽけっとしているのでつい掏ってしまった。

わざわざ返してやる義理はないので有難く頂戴して今日のメシ代にさせていただこうと、財布を軽く振ってみる。

……悪くない釣果だ。

久し振りに美味い物でも食べようかと路地に入りかけた所で、少年は後ろから声をかけられた。

「財布を、返して下さい」

「まったく、もう追いついたのか」

肩で息をするミアの頭はすでにぼさぼさになっており、せっかくの一張羅も乱れっぱなしだ。

走り回って真っ赤にさせている顔も、とてもじゃないが見られるものではない。

「財布返せってなんだよ、これオレのだし」

「うそ、吐かないで、ください」

苦しそうな呼吸を少しだけ落ちつけて今度は一息に叫んだ。

「それは私のものです!」

そうだ、取り戻さなければ。

ミアはもう一度声を張り上げた。

「返してください!!」

「なんだよ証拠とかあんのかよ」

「またお前なんかやったのか」

急に飛び込んできた声は、路地の向こうから。

ミアがその方向に視線を動かすと、青い髪に青い目の青年がこちらへと歩いて来る。

どこかの良い家の人間なのか着ている服の生地がとても良さそうだった。

スリの少年は青年を知っているのか微妙に引いていた。

「お、お坊ちゃん?」

「お坊ちゃんじゃない!お前また掏ったのか」

若干の怒気を感じ、少年は視線をそらす。

青年は厳しかった顔を緩めるとしょうがないというように息を吐いた。

「お前に悪い知らせともっと悪い知らせがある。

 どっちからがいい」

「……悪い知らせから」

「役人をさっき呼んだからもうすぐ来る。

 もっと悪い知らせは」

その時、上の方から何か軽そうな音がした。

「今日は妹も一緒にいるんだ」

そう言うと同時に、少年の頭の上に青い何かが降って来た。

青年と同じく青い目と青い髪、ツインテールにされているそれは立ち上がるとともに背中に流れ落ちた。

「ふっふっふっ……もっと厳しい教育が必要なようねぇ?ねぇ?ジャックくん?」

怖いくらいの笑顔を前にして、ジャック少年は既に意識を手放していた。

そしてまるで青空が落ちてきたような衝撃は、ミアに新たな生活の始まりを印象付けていた。

 

それから、ジャック少年が目を覚まし役人に連れて行かれるまで、ミアは茫然と空から降って来た少女を見ていた。

恐らく年もそれほど違わないと思われるのだが

「……あ、もうこんな時間じゃん。

 ヒュメル兄今何時よ」

散々正義の鉄拳、熱血指導を行っていた少女が役人が言ってから急に口を開いた。

「さっき鐘が鳴ってたから3時くらいじゃないか?」

3時、という単語にミアがピクリと反応した。

頭の中でチャキチャキチャキとフル回転する音が聞こえた。

「…あのっ!どうもありがとうございました!

 私はもう急ぐのでこれで失礼しますっ!」

地面に頭を叩きつけるのではないかと思われるほどの勢いででミアは頭を振りかぶると、街の奥にあるという貴族の屋敷へ走った。

「え?!あ、おいっ!」

当然、直後に叫んだ青年の声と彼の手にある財布に気付くことはなかった。

 

屋敷は、思ったよりも小さかった。

と、言ってもごく普通の民家と比べれば十分大きいのではあるが貴族の家、というよりもどちらかと言えば砦のようだ。

外から見た限り、壮麗なイメージは一切なくあまり無駄な部屋もなさそうな感じである。

そして、そこに到着してからミアは後悔していた。

今しがた重大な事実に気付いてしまったからだ。

財布を、回収し忘れている。

恐らく、あの助けてくれた人たちがもっているだろうから出てこないことはないだろうが

この広い街、どこを探せばいいのだろう。

そして、もしかしたら向こうも自分を探しているかもしれない。

そう思うと、とてつもなく、申し訳ない。

肩落として彼女は深く溜息をした。

自分の迂闊さと粗忽さにほとほと嫌気がさしてしまうが、ここは立ち去る訳にはいかない。

何せこれからの自分の生活がかかっているのだ、そう遅れる訳にもいかない。

この場はあの親切な青空のような人たちを信じて、屋敷の主との面接に向かおう。

――アレがないことが、どうしようもなく不安だけれど。

重いドアノッカーに手を躊躇いがちに手をかけ、鳴らす。

やがて、見るからに厳しそうな女性が出て来てミアはほんの少し身を引いた。

「……貴女は?」

「あ、はい!本日からお世話になるミア=メーヴです!

 叔母の……デーテの紹介でこちらに参りました」

深くお辞儀をするミアに、ああと言う女性の合点がいったような声が降ってきた。

「随分遅かったのね……道草でも食べてたの?

 まあ、いいわ。私はリンダ。

 これから旦那様の所に連れてくからその埃だらけの服を外で叩きなさい。

 いったい何処を歩いて来たの、もう」

「あ、すみません……多分、荷馬車に乗せてもらって来たのでそこで」

言いながら服を叩くとモウモウ埃が立ち、リンダはあからさまに眉を顰めた。

しかし、次にはふと苦笑しながらミアを中へと引き入れた。

「まったく、気を付けなさい。

 ……でも、あんたならきっとお嬢様にもついて行けるでしょう。

 ま、頑張んなさい」

「はぁ」

なんとも不思議な言葉だと思いながら彼女は屋敷への最初の一歩を踏み出した。

これから自分の新たな生活が始まるのだ――!

 

「あ、さっきのおねぇさんだ。

 おねぇさんー忘れ物ー」

 

ミアは動きを止めた。

「なんだ、急ぐってうちに用があったのかぁ」

青空のような髪と目。

「お嬢様、おぼっちゃま。

 お戻りでしたか」

「それやめてくれ。マジで」

青年が顔を引き攣らせながら言う。

そういえばさっきもそんなこと言っていたな、とミアは頭の片隅で思った。

茫然自失とした彼女の目の前で、少女が手を振る。

「おーい、大丈夫?

 はい、忘れ物」

手に覚えのある重みがかかり少し視線を落とすと、財布。

「中身見てないから後で確認してね。

 もう、いきなし走り出すからあたしびっくりしたよー。

 あ、あたし先に父さん母さんのとこ行ってるから!じゃ!」

ニコニコと少女はすぐそこにある扉へとノックもせず入って行く。

それでも相変わらずフリーズするミアの肩に、リンダがそっと手を添えキリッと言葉を紡いだ。

「大丈夫。すぐに慣れるわ」

「いや、そういう問題じゃないんじゃないか?」

軽く突っ込んで青年は困ったように笑って、視線をミアに合わせて口を開いた。

「びっくりさせて悪かったな。

 俺はヒュメル=ウィング。

 台風みたいな奴だけど、妹と仲良くしてやってくれ」

「あ、あの」

「ん?」

行こうとした所をミアに慌てて呼び止められ、ヒュメルが怪訝な顔をして振り返ると彼女は困ったような顔をしてそこに立ち竦んでいた。

「えっと……つまり、お二人は私が今日からお世話になるこの屋敷の方、だと?」

「まあ、そうだな」

ここでまた、ミアが考え込みややしてすっ、とヒュメルを指差しこう言った。

「ぼっちゃま」

「………………名前で呼んでくれ」

彼は項垂れ、力なくやっと耳に届くかと言う声で呟いた。

 

 

 

 

良い子の皆は人のことを指差さないように!


 
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