No.184425

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第54話

第54話です

朝起きたら一番最初に枕を探します
寝相の悪さがなんとも…

2010-11-14 02:04:30 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:5313   閲覧ユーザー数:4775

はじめに

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどき名作品です

原作重視、歴史改変反対な方

ご注意ください

 

「おかしい…そう、おかしいと思っていました」

 

目の前に現れた男の姿に彼女の心拍が上がっていく

 

笑っている

 

そう

 

確かに口元が歪み笑っているにもかかわらず

 

無防備にも近づいてくる男の目が

 

彼女の中で警告の音が絶えず鳴り響いている

 

田豊元皓

 

世に名を知らしめる名家、袁紹が参謀にして袁家の実質的な頭脳(ブレーン)

 

先の戦においても連合という立場にありながら各諸侯に警戒されていた唯一の男

 

「何故貴女が…と言うより」

 

真直ぐに此方を見据える男の瞳の奥に言い知れぬ「何か」を感じ取り、彼女は息を呑む

 

「貴女が此処に『居る』ことこそが答えなのでしょうな」

 

手を伸ばせば触れるほどに

 

吐いた自身が息が相手に届くほどに

 

交差する視線が交わせぬほどに

 

文字通り目の前に男が立っているにも拘らず

 

拒絶も

 

抵抗も出来ぬままに

 

彼女は立ち尽くす

 

「貴女方はそうやって地盤を固めに動きますか」

 

にっこりと微笑む男の視線は凍りついたように冷たく

 

再び音を鳴らして飲み込んだ息に喉の奥がちりちりと痛んだ

 

益州平定

 

度重なる人材、軍、民の増長に大徳の二大軍師が弾き出した新領の平定案

 

曹操陣営と国境を境とする荊州ではなく

 

かの手が届かず、かつ国の基盤作りに安定が見込める益州に目をつけるとはさすがは世に名を知ら

れる水鏡学院が主席

 

しかし

 

事はそう簡単なものではない

 

曹孟徳がそれを指を咥えて見逃すはずがない

 

大徳と評される貴女方の主が人徳が此処に来て足枷となる

 

ノロノロと大荷物を抱えて逃げられるはずがない

 

俺が彼女の立場でもそうでしょう

 

鴨が葱を背負って鍋に出し汁を煮やしていようものならば

 

いただきますのその一言で終わる

 

故に

 

 

最初から

 

 

かの天才二人はそれを知って『動かずにいた』

 

 

「私が殿を務めます…桃香様はどうかこのままお進みください」

 

遠く上がる土煙と風にはためく魏の旗を睨み

 

低く

 

彼女の決意が言の葉となり主の耳に届いた

 

それでも

 

一体彼女は何を言っているのだろう

 

まるで理解出来ない異国の言葉のように

 

反芻するかのように今しがたに聞こえた言葉のその意味を繰り返し繰り返し自身の内で考え抜いた後に彼女の口から出てきたのは真っ向からの否定だった

 

「でもっ!?」

 

果たして

 

自分はそんなに悲壮な表情を浮かべたのだろうか

 

自身を見つめる瞳には既に溢れんばかりに雫が浮かんでいる

 

目の前に立っているのは己が半身だ

 

己が理想を共に抱き

 

己と共に生き、死せんとする者

 

たとえこの身が塵芥に変わろうとも

 

我がこの半身がある限り

 

我が魂は消えてなくなることはないと

 

故に

 

貴女をこんな所で躓かせる訳にはいかないと

 

「なに、直ぐに追いつきます故、鈴々…桃香様を頼んだぞ」

 

隣に立つ義妹の頭をクシャクシャと撫上げる

姉と慕う愛沙に頭を撫でられた稀代の豪傑が一瞬ふにゃぁと目を細める…が直後に彼女の手を押し上げるように顔を上げる

 

「愛沙、鈴々も残るのだ!」

「ならん!」

「っ!?」

 

義姉の声に小さな体が強張る

 

「直ぐに追いつくと言っただろう?」

「だって!?」

「私が嘘をついた事があったか?」

「…ないのだ、でも」

「大丈夫…大丈夫だから」

 

だから

 

「そんな泣きそうな顔をするな」

「わかっ…わかったのだ」

 

服の裾を握り尚も顔を押し付けてくる義妹の頭をやさしく撫でる

 

「ふふっ相変わらず言う事を聞かん奴だ、泣くなというのに」

 

まあ

声を上げないところは誉めてやるさ

 

 

「…あいしゃ」

 

珍しい事もある…お前から私に声を掛けて来るなど

 

「どうした?」

「せきとも…残ってくれるって」

 

恋の後ろについてきていた赤毛の馬がブルルと嘶き首を振る

およそ戦場に似つかわしくない優しい瞳が彼女を見つめていた

 

「これは…ありがとう、恋…皆を頼んだぞ」

 

コクコクと頷く恋の姿に強張りつつあった表情が緩む

 

「ならば誓え」

 

声に振り返った愛沙の目の前に龍牙の切先がピタリと寄せられた

 

「…星?」

 

繭を顰める愛沙に尚も一歩前に出る星

 

その意味を汲み取った彼女は

 

青龍偃月刀を重ねるように突き出した

 

そして

 

何時しかそれが輪になり

 

互いの顔を見渡し

 

頷きあう

 

「我等!姓は違えども姉妹の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、願わくば同年、同月、同日に死せん事を」

 

「誓え」

 

悪戯気な瞳が彼女を捉え、首を縦に振った

 

「誓おう」

「絶対なのだ」

「絶対に」

「私は…貴女が一人と生る事を許しません…絶対に」

「たとえ貴女と…この身がどれだけ離れ離れとなろうとも…この空の下、心は常に貴女のお傍に…

そして…辿り着きましょう、貴女の下に」

 

何時か…必ず

 

「その場にいた諸葛亮はさぞほくそ笑んでいたことでしょうね」

 

 

尻もちをつきそうな感覚に地を踏みなおした瞬間

 

かの人物との距離が開いた事に彼女は眼を見開いて驚いていた

 

(退がった!?この私が?)

 

それだけに在らず

 

青龍偃月刀を握る右手がべっとりと汗ばみ

 

慣れ親しんだ右手のそれが

 

男が一歩踏み出す毎に重さを増していく

 

(なんだコイツは?)

 

視線はただ真っ直ぐに

 

間違いなく

 

(私を見ている…だというのに)

 

自分じゃない

 

私じゃない何かを

 

コイツハミテイル

 

蛇が肌の上を這いずるような感覚に

 

締め上げるような幻惑に

 

彼女の体が硬直する

 

視線だけが目の前の男から

 

 

目を逸らす事を拒否するかのように

 

男の姿だけを追っていく

 

手を伸ばせば触れる距離を

 

その男は通り過ぎ

 

「大丈夫ですか?」

「だ…旦那?なんでっ」

 

今しがたに自身が武にて地に這いつくばらした猪々子を背負うと再び目の前を通り過ぎて行く

まるでそこには何もないかのように

 

「まったく、人様の馬を欲しがるなんて子供ですか貴女は」

「だってあの馬!兄貴のっ…」

「言い訳するんじゃありません」

 

ピシャリと妨げられた猪々子が恨めしそうに赤兎を睨んでぶうたれる

 

「貴女に渡した竹巻に何て書いてありましたか?」

「『超逃げて』って…」

 

ばつが悪そうに悠の背中で語尾を濁す猪々子…と

 

「待ていっ!」

 

声に振り向けば憤怒の形相で詰めてくる愛沙の姿

 

しかし心なしかその姿には此方を追い詰めていたはずの余裕は無く

 

たった数歩の距離を詰めるのにも肩で息を切らしていた

 

「ああ…そう言えば貴女いたんでしたね」

 

肩を竦めて笑うその姿は本気そのものだ

 

悠は本気で

 

彼女の存在を忘れていた

 

ほんの数分前に声を交わした人物はすでに

 

彼にとっては意味のない『物』に成り下がっていた

 

「貴様っ!?」

 

ギリリと噛んだ歯の音に悠の首に回された猪々子の腕にギュウっと力が入る

 

にもかかわらず

 

悠は尚も笑っていた

 

 

「斬るならどうぞ御好きに」

 

そういって背を向けスタスタと歩きだす悠

 

背中の猪々子が「あたいが先に斬られちゃうじゃん!」と非難の声を上げるもそれまた無視し

 

鼻歌を歌いながら彼女から遠ざかっていく

 

斬れるものなら斬ってみろと

 

斬れるわけがない

 

無抵抗の

 

怪我人を背負った

 

兵でもないものを

 

まして背中からなどと

 

義を重んじるが故に

 

「…何て奴だ」

 

戦場だ

 

戦場なのだぞ此処は

 

だというのに

 

かの男の周りだけが

 

色を変えて彼女の目に映っていた

 

「馬鹿な」

 

『何』をするでもなく

 

その男はただ通り過ぎていく

 

それすらが策略

 

彼女は斬れない

 

追えない

 

簡単なこと

 

敗者として背を向ければいい

 

無抵抗であればいい

 

たったそれだけのことで

 

彼女は動くことすらできなくる

 

 

ようやく追い付いてきた魏の軍勢が彼女に押し留められ引いていく中

 

後ろの光景など歯牙にもかけず

 

悠は考えに更けていた

 

数度に渡って使者を出していたというのに片っ端から無視

 

何を持ってしても劣るというのにノロノロと覇王の目の前を進んだ

 

置き土産は覇王が喉から手が欲しがるほどの豪傑にて眉目秀麗の武人

 

密約を交わしていたか

 

(気に入らないな)

 

つまりのところ

 

端からこの戦は仕向けられたものだった

 

大徳を称する者の軍師によって

 

新領平定の時間稼ぎ

 

関雲長を持ってして形だけの増援

 

それでも

 

魏は動かずにはいられない

 

彼女は

 

関羽は結果見事に劉備の移動の時間を稼いで見せたのだろう

 

故に

 

魏はそれ以上追えずにいた

 

益州に攻められずにいた

 

袁家を背にして劉備に向かえずにいた

 

益州に攻め入ればたちどころに袁家に背後を襲われる事になる

 

それは劉備も同じ

 

新領に入って魏に対して動けずにいる

 

ならば

 

この時をもってして他に

 

袁家を潰す機会はない

 

(気に入らないな)

 

つまりのところ

 

餌にされたのだ

 

我々は

 

そして

 

覇を競う二大大国の潰し合い

 

諸葛亮は魏に有に動くと見たか

 

南はすでに孫呉が平定を成し遂げている

 

(天下三分の計…といったところですか)

 

覇権取りにいまだ動かぬ西涼を除けば

 

曹操、孫策、劉備

 

かの陣営が互いに睨みを利かせた構図が大陸に出来上がる

 

(せっかく迎え入れる準備をしていたというのに…それを良しとしませんか諸葛亮)

 

これで決まった

 

(潰してあげますよ…貴女方の目論見を)

 

国ごと…ね

 

 

ふと

 

悠の歩みが止まる

 

「旦那?」

 

不思議そうに悠の顔を覗き込むとそこには蒼白になり虚空を見つめる悠

 

(つぎ?…次か)

 

自身の身体の事を一番に知るが故に

 

込み上げてくるは自虐の笑み

 

(此処にきて尚も生を忘れますか…お前にはもう次など無いというのに)

 

自分自身をして

 

勿体無いと思う

 

これからだというのに

 

全ては

 

まだ始まってもないというのに

 

自分だけが

 

此処から先に進むことを許されずにいる

 

半場諦めかけていたそれが

 

急に彼の中にあふれ出して止まない

 

 

「まだ死にたくないなぁ…畜生」

 

 

 

ひとりごちた瞬間

 

目の前が真っ暗になり

 

悠は嘆息と共に首を回して猪々子に非難の声を浴びせる

 

「近すぎて見えません…何ですかコレ?」

 

ジト目で見据えると彼女はにゃははと笑い

 

「この戦が終わったらさぁ…ここ行きたいんだよね♪」

 

いつの間に…というかどこから取り出したのか一冊の冊子を悠の顔の前に広げる猪々子

 

「麻符流(まっぷる)…まだ買ってたんですか」

「秋の食べつくし特別号!此処のさぁ…」

 

そういってパラパラとページを捲る

 

「へえ…鹿鍋ですか」

「そそっ!最近干物ばっかじゃん?たまには肉が食べたいなあって」

 

遠征にあたって日持ちの良い物しか口にしていないこともあり、殊更肉など暫くに食べていない事を思い出す

 

「宴会受付六人からなんだよねえ…あたいに斗詩に姫…旦那に兄貴に…うーん」

「高覧がたまには誘ってほしいと言ってましたよ」

「えーっだってあいつ酒飲めないじゃん!」

「酒に弱いのは俺も一緒ですが…」

「旦那は良いの!無理やり飲ませる所が面白いんじゃん」

 

なんですかそれという悠の呟きに白い歯を見せる猪々子

 

「だからさっ…さっさとこの戦終わらせて帰ろうよ、兄貴も帰って来てるかもよ?」

 

止め処ない明るい声に悠の表情も和らぐ

 

「この隣の猪鍋とかどうです?こっちの方が美味しそうですが…」

「猪はちょっと…なんてゆうか同族意識が」

「あっはっは」

「笑うなよぉ」

 

頬を膨らませる猪々子を他所に再び歩き始める悠

 

救いにきた者と救われた者

 

果たしてそれはどちらだったか

 

 

あとがき

 

此処までお読みいただき有難う御座います

 

ねこじゃらしです

 

秋の色合いが深まる今日この頃

 

皆さん如何お過ごしでしょうか

 

まだちょいと早いですが冬のボーナス&年末調整が待ち遠しいですな

 

今年はボードのビンディングを新調したいなあとか

 

てゆうかあるのかボーナス?

 

うーん

 

厳しいかなあ

 

休みはあれど使う金がないというのも寂しいですな

 

まあ、いいか

 

それでは次の講釈で

 

 

 


 
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