No.172571

その瞳に映りし者 第28話

madokaさん

小説「その瞳に映りし者」第28話です。
この物語も、いよいよ最終回です。
今まで読んでくださった皆様に、感謝します。
本当に、長い間有難うございました♪

2010-09-15 06:11:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:676   閲覧ユーザー数:661

                         その瞳に映りし者

                         ~第28話 永遠~

 

 空高く白い翼を広げ、飛び立っていった鳥たちを、ジュリアンはずっと眺めていた。

「あれは、きっとノエルだ…」

ジュリアンは、静かにそうつぶやいた。

ジュリアンの無事を確認するかのように、すぐにリリアが飛びついてきた。

「ジュリアン!怪我はない?大丈夫なの」

不安そうな顔で訊ねるリリアに、ジュリアンは笑顔で応えた。

「大丈夫…どこも怪我してないよ」

「よかった…本当に心配したんだから…もしものことがあったらと…」

リリアは、涙ぐみながらそう言った。

そんな二人を、ヴィトーは静かに見つめていた。

そして、何も言わず背を向けて去っていこうとした。

「兄さん…待ってくれ…」

そんな彼を、ジュリアンはひき止めた。

「「何だ…もう全て終わったんだ…何も話すことなどない」

ヴィトーは、冷たくそうつぶやいた。

「今の…見ただろう…あれはノエルの化身だよ、きっと…やっぱり僕たちは、こんなことしちゃいけないんだ…少しでも、ほんのわずかでもいいから、歩み寄ることは出来ないだろうか…」

「……」

立ち止まったまま、しばらくヴィトーは何も応えようとしなかった。

「わたしは…ずっとおまえという存在が嫌いだった…おまえは、わたしから大切なものを全て奪っていく疫病神だと思っていたよ…」

「兄さん……」

「だが…それは間違っていたのかもしれない…」

ヴィトーは、背を向けたままそう言うと、その場を去っていった。

どこか寂しい様子のヴィトーの後ろ姿を見送りながら、ジュリアンは考えた。

(彼もきっと、僕と同じで、周りに理解されず…ひとり孤独に、心の中で葛藤を続けていたのかもしれない…結局、僕たち兄弟は似た者同志だったのかもしれないな…)

 

 シュテインヴァッハ家の兄弟ヴィトーとジュリアンの決闘が、両者怪我をすることもなく無事に終わったことを見届け…安堵してソユーズ家に戻ったリリアは…

屋敷に残っていたジュディに、そのことをすべて報告した。

「ジュディ…ジュリアンとヴィトーさまの決闘、何事もなく無事に済んだわ…本当に心配したけれど、これでひと安心よ」

「そう、それは良かったわね…」

ジュディは嬉しそうに話すリリアをみつめ、穏やかに微笑んだ。

「二人が、お互い銃をかまえた時…本当に一瞬どうなるかと思ったけど…その時にね、奇跡が起きたの…それまで静かだったのに、突然鳥が一斉に飛び立ってね…その勢いで、二人とも驚いて弾をはずしたの…」

リリアは、身振り手振りで、丁寧にジュディに説明してみせた。

「あれは、きっとノエルだったのよ…彼の思いが二人を守ったんだわ…」

その時の光景を思い出しながら語るリリアを、ジュディはずっと見つめていた。

「それで…二人は、この先少しは仲良くなれそうなの?」

「そのことなんだけど…私にも、まだよくわからないの…でも、今回のことでヴィトーさまが、ジュリアンのことを少しだけ理解してくれたような気もする…」

「何事も、1日にして成らずよ…まずは、一歩一歩お互いが努力して、歩み寄らなければ…お姉さまは、まだまだこの先大変だろうけど…」

「ええ、そうね…いつか、みんなが幸せになれる日がやってくればいいわね」

「きっと…大丈夫…いつか必ずそういう日が来るわよ」

「ジュディが、そういうのなら間違いないわね…とっても心強いわ」

「そうでしょうとも…」

二人は、お互い顔を見合わせて笑った。

そして、ふとジュディはこう言った。

「お姉さま…今まで本当に有難う…色々迷惑かけたけど…お姉さまが、いてくれて本当に心強かったし、幸せだったわ…わたし、一人っ子じゃなくて本当によかった」

突然のジュディの言葉に、リリアは驚いた。

「やだ…急になに言うのよ…私だってジュディには感謝しているわ…私も色々自分のことで迷惑かけたこともあったし…お互いさまでしょ…これからも姉妹仲良くやっていきましょうね」

「ええ…お姉さま…」

夕焼けの紅い空が、心通わすソユーズ家の姉妹の姿を温かく包んだ。

 

 次の日…

ソユーズ家に、突然の訪問者がやってきた。

「まあ、リオンさま…ごきげんよう…こんな朝早くからどうされたのですか」

リリアは、リオンの思わぬ訪問に驚いてそう訊ねた。

「突然、申し訳ありません…実は、ジュディのことでお話が…」

深刻そうなリオンの表情を見て、リリアは何か感じるものがあった。

「ジュディと何かあったのですか…」

リオンは、少し話しずらそうにしながらも、こう応えた。

「実は…先日彼女から、突然の呼び出しを受けて…急に、婚約を取り消したいと告げられました…」

「え…婚約を?!…」

「ええ…あまりに突然のことだったので、どう応えていいか解らず…その時は、うやむやにしたのですが…」

沈み込むリオンを見て、リリアは、ことの深刻さを感じ取った。

「何と言っていいのか…私も、全然彼女から、そのことを聞いていなかったので…」

「リリア…ジュディには、誰か他に好きな人がいるのですか?…婚約破棄の理由が、僕には、どうしてもそれ以外に考えられないのですが…」

「ジュディに好きな人が…」

リリアは、色々と考えてみたが…ヴィトーのことは既に諦めてる様子だったので、他に心当たりがなく、これといってすぐには思い浮かばなかった。

そんな時、ナディアが突然入ってきた。

「お話中、申し訳ございません…」

そして、リリアの傍に寄ると、そっと耳打ちした。

「リリアさま…実は、朝からカイルさまの姿を見かけません…どうも、荷物をまとめて出ていったようなのです…」

「カイルが…?」

リリアの頭に、ふとあることがよぎった。

「まさか…そんなことあるはずが…」

それを打ち消すかのように、急にリオンにこう告げた。

「リオンさま…あの少しこのままお待ちになってくださいますか…失礼します」

リリアは、ナディアと一緒にそれを確かめるためジュディの部屋へと急いだ。

 

リリアは心を落ち着かせると、ジュディの部屋のドアをノックした。

「ジュディ…おはよう…もう起きてるかしら」

返事は返ってこなかった。

鍵はかかっていなかったので、そのまま二人は部屋に入った。

ジュディの部屋は、いつもと変わらず綺麗に整理整頓されていた。

だが、そこにジュディの姿はなかった。

「ジュディ…どこなの…」

リリアは、呆然とした。

 

 その後、屋敷中を探しまわったが、結局ジュディはみつからなかった。

リオンは、心配そうにリリアに訊ねた。

「リリア…これは、一体どういうことなんですか!ジュディは、一体何処に行ったんです」

リリアは、こう静かに応えた。

「私にもわかりません…彼女はきっと…自分探しの旅に出たのですわ…」

「え…それはどういう…」

「本当に大切なものは何なのかを探す旅に出たのだと思います…私には、それ以上答えられません…本当に御免なさい…こんなことになってしまって…」

リリアは、深々とリオンに頭を下げた。

「そんな……」

リオンはショックのあまり、その場に佇んだ。

 

 結局、そのあともジュディとカイルはみつからなかった。

ローズ・マリーは、心労がたたって寝込んでしまった。

叔母のベアトリスは、連日屋敷を訪れ、いつものように嫌味を言い続けた。

「まったく、信じられないことをしてくれるわね…リリアならともかく、あのジュディがこんなことをするなんて…前代未聞だわ」

「……」

「あなたはどう思っているの…姉妹が二人とも道ならぬ恋に走ってしまって…ソユーズ家の人間として、恥ずかしいとは思わないのかしら」

「まったくそうは思ってないわ…あの子たちは、私の誇りですもの…」

ローズ・マリーは静かにそう応えた。

「でも、ジュディはその期待を裏切って、執事とこの屋敷を出ていったじゃない…それでも、まだ誇りだと言えるの」

「確かに最初は驚いたけど…ジュディが考えに考え抜いて出した答えですもの…もう母親の私が首を挟むことではないわ…リリアのことだってそうよ…二人が選んだ道ですもの…私に出来ることは、ただ黙って静かに二人の行く末を見守るだけよ」

「呆れた…とんだ母親だわね…」

ベアトリスは、ため息をつきながらそうつぶやいた。

 

 秋の訪れを感じるような爽やかな風が吹く中…

ジュリアンとリリアは、ノエルの墓前にいた。

白いユリの花を手向けたあと、目を閉じて祈りを捧げた。

「ノエル…どうか安らかに…そして、天国からそっと僕たちを見守っててくれ」

ジュリアンは、隣にいるリリアを見つめた。

「その後、ジュディから何か連絡は…」

「何も…」

「そうか…でも、きっと二人は、何処かで幸せに暮らしているよ…心配ないさ」

「ええ、そうね…私もそう思ってる…だってしっかり者のカイルが付いてるんですもの」

リリアは、笑顔でそう応えた。

「不思議だな…色々あったけど…まだ問題も山積みだけど…今は、なんだかすごく心穏やかだ…きっと、リリアが傍にいてくれるからなんだろうな」

「ジュリアン…」

ジュリアンは、リリアの瞳をじっと見つめた。

輝くリリアの大きな瞳の中には、自分の姿だけが映っていた。

 

ジュリアンは、思いを巡らせた。

二人が出会ってから、色々なことがあった。

クロディーヌから、「大切な者を失う」という予言を受けて、その言葉に怯えた時もあったが…

今はそれを乗り越えて、ここにこうしていられるのは、それも運命だったのだろうか…。

これからも、きっと様々な困難が二人を襲うだろうが、それに屈しない覚悟はできていた…。

そう、今の二人ならば、きっと全て乗り越えられる。

「リリア…こんな僕だけど、これからも付いてきてくれるかい」

「ええ、信じて付いていくわ…ずっと…永遠に…」

二人は強く抱き締めあった。

 

この街にも、やがて長くて寒い冬がやってくる…。

だが今の二人にとっては、それも春が来る前の準備期間にしか過ぎないのだ。

きっと、雪解けはやってくる…

全てのことにおいて、必ず…。

空には、二人を見守るように一羽の白い鳥が舞っていた。

 

                     THE END

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択