No.158665

「無関心の災厄」 ワレモコウ (15)

早村友裕さん

 オレにはちょっと変わった同級生がいる。
 ソイツは、ちょっとぼーっとしている、一見無邪気な17歳男。
――きっとソイツはオレを非日常と災厄に導く張本人。

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2010-07-18 14:04:58 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:700   閲覧ユーザー数:685

            「無関心の災厄」 -- 第二章 ワレモコウ

 

 

 

第15話 言葉の魔法と口先道化師

 

 

 

 沈黙が部屋に降りた。

 もしこの目の前の保育士、早瀬《はやせ》さんが見た目通りの人で、もしオレが邪推したように盗難の事を知っていたとしたら、この言葉には耐えられないはずだ。

 

「……まさか、そのためにここへ?」

 

「まあ、そういう感じです」

 

「さっき夙夜くんは警察と関係ないって言わはった。すると、たった3人でここを突き止めて……?」

 

「確かにオレは警察が嫌いです。でも、警察の方はそうじゃない。だから流れてくる情報もあるし、何よりこっちには夙夜がいる。夙夜は……まあ、情報収集機みたいなものですから」

 

「そうなんや」

 

 視線をおとし、大きく息を吐いた早瀬さんは、それでもすぐに顔を上げた。

 その表情には、決意があった。

 

「申し訳ないんやけど、それはうちにはできひん」

 

 まあ、予想していた答えが返ってきた。

 夙夜がウサギ少年を見つけ、幼稚園で暮らしていると分かった瞬間からなんとなく予測していたことだった。

 しかし、このままはいそうですかと帰れるわけもない。

 

「理由をお聞かせいただけますか」

 

「……」

 

 押し黙る早瀬さん。

 しかたない、もうひと押し。

 

「もちろん、さっき言ったようにオレたちは警察にどうこうしようとか、そんなんじゃない。ただ、明日には京都を発つ身なんで、その前に返してほしいだけです。この場でオレたちに渡すのが嫌なら、宿の大広間にでも全部放り込んでおいてくれたらいい。どうして盗ったのか、なんて聞く気もありません。もちろん、これから窃盗をやめろなんて説教していわけじゃない」

 

 動機についてはすでに先ほどたてた仮説があるのだけれど、それはまた別問題。

 窃盗なんてやめとけと言うのも簡単だが、この状況では無意味だろう。

 

「いずれにせよ、昼に京都御苑で警察に見つかったのはほとんどオレたちのせいみたいなものなんで……借りって言うとおかしいですけど、今回の事はオレたちだけの胸に秘めて東京に帰りますから」

 

 ほんの少し、隠し事が増えるだけだ。

 すでに幾つもの秘め事を抱えたオレにとって、それは瑣末な事だった。

 夙夜はきっと、喋らない。白根が話す事もないだろう――もしかすると、警察ではなく組織の方がヒナタを狙ってくるかもしれないが。

 と、その可能性に思いいたって、はっとする

 

「白根、まさか組織に連絡したりは――」

 

「私からは未連絡です」

 

「他のルートでヒナタの所在がバレる可能性は?」

 

「昼間の騒ぎがあった後ですから、組織が『ヒナタ』という個体識別称を持つ珪素生命体《シリカ》の捕獲に乗り出すのは時間の問題と思われます。最も、それは組織に限らず警察にも言える事です。今回、柊護さんが短時間でこの場にたどり着くという結果が得られたのは、貴方が非常に強い適合者《コンフィ》であった事とケモノの能力との重ね合わせによる、偶然の産物です」

 

 思ったより長い台詞で応答した白根に、オレはさらに質問する。

 

「もし組織がヒナタを拘束した場合、盗難に遭った物品ってのはどうなるんだ?」

 

「珪素生命体《シリカ》を捕獲した時点で、ソレは組織所属の物品となります」

 

「それじゃオレたちの手元に返ってこねえだろうが。白根、取り返すまで絶対に組織と連絡をとるな」

 

「……」

 

 一瞬、白根は迷ったようだった。

 が、優先すべき第一命題が『ケモノの監視』だという事に至ったのか、そのまま口を閉ざした。

 沈黙は承諾《イエス》。

 オレはもう一度早瀬さんに向き直った。

 

「少し話はずれましたが、オレの言い分は変わりません。誰の指示で何のために盗ったのか、今どこにあるのか、所有権は誰にあるのか、そんな事は問いません」

 

 2度目の、呪文。

 

「『返してください』」

 

 沈黙が流れる。

 目を逸らさない。

 その沈黙を破ったのは、扉が蹴破られる凄まじい破壊音だった。

 

 

 

 

 

 

「ナユタぁ!」

 

 扉を踏みつけにしながら飛び込んできたのは、先ほどの金髪ヤロウだった。腕も足も、額にまで包帯が巻かれていて、左腕は吊っている。傷の深さは分からないが、かなりの範囲に怪我を負ったらしい。

 その後ろから、まるで亡霊のように音も立てない珪素生命体《シリカ》がついてきた。白い肌と銀色の髪、真紅の目は全く生命感がない、創りモノのようなウサギ少年。

 

「うっ、あんた……」

 

 先ほど、光喜《コウキ》と呼ばれていた金髪ヤロウは、夙夜の姿を目にして一瞬ためらったようだ。

 そりゃそうだ、つい先ほどこれだけの怪我を負わされて、ソイツを目の前にすればひくのも当たり前だ。が、怪我のせいでうまく動けなかったらしい。踏みつけた扉の上でよろけた挙句、壁に背中をぶつけて止まった。

 

「光喜、扉は後で直しといてや」

 

 早瀬さんは、金髪ヤロウに向かってにっこりと笑う――それは、笑顔と言うにはほど遠い、ものすごく恐ろしい笑みだった。

 あれ、早瀬さん、オレの印象とは全く別人ですか? まさか、そっち系のキャラですか?

 

「申し訳ないけど、交渉は直接、光喜にしてくれへん?」

 

「な、なんやねん、コイツら!」

 

 壁際に寄って、夙夜と早瀬さんに脅えながら、それでも、金髪ヤロウは眼の光を失わず、真っ直ぐにオレを睨みつけた。目つき悪い。

 しかも、額に巻いた包帯には新しい血が滲んでいる。

 

「オマエに名乗る名はねえー……なんて、古風にいきたいとこだが、一応名乗っとくよ」

 

 ひょいと肩を竦めて、オレは順に名を列挙した。

 

「オレは柊護《ひいらぎまもる》、こっちが香城夙夜《こうじょうしゅくや》、こっちの無表情が白根葵《しらねあおい》。ちょっとばかし珪素生命体《シリカ》に詳しいだけの、研修旅行中の高校生」

 

「光喜、お客様に挨拶しぃ」

 

「客って、ナユタ……っ」

 

「挨拶」

 

 にっこり。

 やべえ、早瀬さん、意外と怖い。

 

「かっ、風峰光喜《かざみねこうき》、デス」

 

「よく出来ました」

 

 にこりと笑って、早瀬さんは立ち上がった。

 

「うち一人だけ逃げるみたいになるけど、堪忍してな」

 

 優しい関西弁と柔らかい笑顔は、やっぱりオレの保育士さんのイメージそのものだった――多少、何かが見え隠れして怖かったけれど。

 

「3人とも宿に戻らなんといけんのなら、あんま遅くならんよう気いつけてな」

 

「……」

 

 苦々しい顔で俯いた金髪ヤロウは、再びオレを睨みつけた。

 あー、最悪。

 でもいい選択だ。夙夜はアレだし、白根も女子高生にあり得ない異常な強さだし、オレが一番喧嘩弱いからな。

 

 

 

 

 沈黙。

 壁に寄り掛かる夙夜、その前にオレがあぐらで白根が正座。

 向かいあうのは、ウサギの珪素生命体《シリカ》と風峰光喜《かざみねこうき》とかいう金髪ヤロウ。いったい何から始めたらいいのか、多人数のお見合いじゃあるまいし。

 このメンバーじゃあ、オレが一番に口を開くしかない。

 ものすごく話しかけたくないが、そうしないと先に進めないのでしぶしぶ金髪ヤロウに声をかける。

 

「えーと、風峰、だったか?」

 

「……」

 

 返答なし。

 間違っていたら確実に言い返すだろうから、おそらく正解。

 

「単刀直入に言う。昨日の夜にヒナタが盗った携帯端末とその他もろもろ全部返しやがれ」

 

 その瞬間、金髪ヤロウの手がオレの胸倉を掴んでいた。

 カラコンでも入れているのか、日本人らしからぬ灰色の瞳が至近距離からオレを貫いていた。すっきりと切れ長の目はますます吊り上がって凶悪なツラになってしまっている。

 

「貴様……何処でそれを……!」

 

「顔が近ぇよ、風峰《カザミネ》サン。ホモは夙夜一人で十分だ」

 

「俺ホモじゃないよ」

 

 冷静な突っ込みはいらん。後ろで黙っとけ、夙夜。

 喧嘩では勝てないだろうが、口八丁ならこんな金髪ヤロウに負けねえ。

 

「誰がヒナタに命令して、何を目的にして持ってったのかは知らねえし、興味がないから知るつもりもねえ。まあだいたい予想はつくが……でも、オレたちが盗られたもんは取り返すぜ?」

 

「お前ら、やっぱ警察」

 

「違う」

 

 風峰の台詞が最後まで到達する前に、ばっさりと分断する。

 

「オレは警察が嫌いだ。それに、強いて言うならばそこの白根は別組織だしな」

 

「何やて……?!」

 

「犯罪を隠してるって点なら、オマエたちと同類だよ」

 

 こういうタイプは、親近感をわかせてやるのがもっとも近道。

 拳の何発かくらいは覚悟していたが、夙夜のせいで先ほど左肩を脱臼したのでそれほど警戒せずともいいだろう。

 オレの台詞で、風峰はオレの胸倉を掴んでいた手を放した。

 凶悪なツラが少々遠ざかる。

 放された反動で布団の上に尻もちをついたが、それでも視線はヤツから外さなかった。

 

「は、なんや、軟弱なツラしよって、同じ穴のムジナっちゅーことかい」

 

 軟弱なツラは余計だ。

 

「せやな、考えてみれば警察にチクるきなら、ここへ来た時点で通報しとるわな。当たり前や」

 

「オマエこそ、初対面でいきなり棒振り回してきやがって、相手が夙夜じゃなかったら傷害事件モノだぜ?」

 

「単純に脅かしてヒナタの事を誤魔化したら口止めして返すつもりやったさかい、酷い怪我させるつもりはなかったんや」

 

「夙夜は腕、怪我したぜ?」

 

「……それ、わいの包帯をちゃんと見てから言《ユ》っとんのか?」

 

 ああ、そうだったな。どう見ても夙夜の方がやりすぎだ。あとで釘を刺しておくから許せ、風峰。

 と、まるで亡霊のようにその場に佇んでいた真紅の瞳のヒナタが横から口を挟む。

 

「コウキを怪我させた分を我が返してもよいが?」

 

「いらんわ」

 

 ちくしょ、忘れていた後頭部の痛みが戻ってきやがった。

 このままじゃ話がずれる。

 

「まあ、とにかくだ」

 

 はあ、と一つため息をついて、オレは話を本筋に戻す。

 

 

「オレたちは、事情を聞くつもりもねえし、警察に言うつもりもさらさらねえ。ただ、明日には東京に帰るんで、その前に返せ」

 

 

 


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