No.151550

~真・恋姫✝無双 魏after to after preludeⅠ(凪)

kanadeさん

はい、孫呉の外史2-5を楽しみにしてた皆様にはすいません。今回は本編でなければ外伝でも何でもない〝魏 エンドアフター〟のおはなしです。
孫呉の外史の合間にちょいちょい書いていた作品の一つが描き終わったのでアップした次第です。
私の初期作品・・・〝魏シリーズ〟の・・・タイトル通り〝prelude〟となっております
凪視点のお話です
読んで気にいってもらえたら作者として嬉しい限りです

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2010-06-18 23:25:51 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:14424   閲覧ユーザー数:10588

~真・恋姫✝無双 魏エンドアフター ~prelude~

 

 

 

 ――北郷一刀は天に帰った。

 

 告げられた一言は許容できない現実。

 浮かんだのは疑念だ。

 

――コノヒトハナニヲイッテイルンダロウ。

 

 私の疑念は私個人の物ではないと確信を持っていた。だが、そんな事は私にはどうでもよかったのだ。

 自分一人だけが世界に取り残された感覚。周りの全てが真っ白に染まり何も見えない、何も考えられない。

 主君が告げた言葉だけが、無情に容赦なく響き続けている。

 真桜や沙和、霞様たちが何か叫んでいる。どうやら抗議言葉を上げているらしかった。

 

 「いい加減、受け入れなさい!一刀はもういないの!!」

 

 ――イナイ?ソンナバカナコトガアルモノカ、アノカタガワタシタチヲオイテイクナンテ・・・。

 

なおも華琳様は何かを言い続けている。

 

 ――ダマレ、ソレイジョウクチヲヒラクナ!ミミザワリダ!モウ、シャベルナ!!

 

 「黙れ!」

 もう、私は感情を抑える気などなかった。これ以上言葉を聞きたいなんて思わない。華琳様は、黙って私を見ている。

 「隊長が・・・私たちを置いていくなどと、そのような事信じるものか!」

 「いいえ・・・事実よ凪。一刀は我が覇道を成就させる為に天が遣わした男。ならば、我が覇道がなった以上元いた世界に帰るのは必然なのよ」

 華琳様は静かな瞳のまま淡々と言葉を並べる。それが私の神経を逆撫でし、完全に我慢の限界を迎えさせた。

 「っ!!!!」

――ダマラナイノナラバ、チカラヅクデダマラセテヤル!!

 

 怒りにまかせたまま、私は華琳様に躍りかかる。

 「すまん、凪。それを許すわけにはいかぬのだ」

 聞こえたのは秋蘭様の声、同時に腹に感じる鈍い痛み。

私が覚えているのは・・・そこまでだった。

 

 

 

 目が覚めた時、窓から覗く空は夕焼け色に染まっていた。

 なぜ、私はこんなところで眠っていたのだろうと思ったが、すぐに思いだした。

 「ああ、そうか私は・・・?・・・真桜、沙和」

 「ようやっと目ぇ覚ましよった。随分とぐっすりとねむっとったやないか。ここまで運んだウチらになんか礼の一言でもあってええんとちゃう?」

 「凪ちゃん、完全にのびてたから私たち二人で運んであげたの~」

 そう言われて私は何の心もこもってない礼の言葉を口にした。

 正直、そんな事よりも頭に上っていた血が抜け、自分のしたことの重大さの方が気になっていた。

 ハッキリ言って死罪に問われたとしても文句は言えない。何故なら、あの時私は〝本気で華琳様を殺す〟つもりだったからだ。

 「心配せんでも、お咎めなんてないで。大将がそう言うたんやって姐さんが伝えに来たんよ」

 「なの」

 自分の耳を疑った。主君に牙をむいて咎めがないなどなんの冗談かと思ったが、真桜と沙和の眼は至って真剣で、それが冗談の類ではないと告げている。

 当然それで納得など出来るはずもなく、頭の中で何故という疑問が巡る

 

 ――「みんな同じやったんや。・・・みんな凪と同じ気持ちやった。隊長がおらんようになったなんて信じられるわけないやろ?せやけど、大将の手前、何も出来なかっただけや」

 ――「でもでも、凪ちゃんがみんなの代わりになってくれたの―」

 

 二人は少し辛そうな笑顔を浮かべてみせた。

 「真桜・・・沙和・・・」

 私は、自分がどんな顔をしているか判断できない。二人の言った事は自分の考えていた者とはまるで違っていたがために、頭の中で整理できずにいた。

 「華琳様も同じ気持ちだったの~・・・だから凪ちゃんの事責めなかったの~」

 沙和がそう言うと、真桜が二カッと笑う。何かと聞けば少し声を殺して真桜は笑い、答えた。

 「せやけど、あん時はマジでビビったで。まさか、あの凪が大将に殴りかかろうとするなんて誰も思わんかったやろかな」

 「沙和もびっくりしたのー」

 そう言って笑う二人。私はどこか恥ずかしくなって俯いてしまう。

 それから暫くして他の将たち、華琳様も揃って私のもとを訪れ感謝と謝罪の言葉を贈ってもらった。

 どう対応していいかわからなかった私はとうとう困り果ててしまうのだった。

 

 

 それから暫くして、洛陽に戻った私たち魏の者たちは皆が揃って抜け殻のようになっていた。

 真桜も沙和も全く仕事をサボる事が無くなる。本来であればよい事である筈なのだが、私はそれを良い事とは思えなかった。

 もっとも、その当時の私にはそれ以上どうこうする余裕など皆無に等しかった。

 数日の内は平気だった。とにかく無心で警羅に勤めていたが、それが一週間。半月と過ぎていくうちに、次第に私の心を痛みが苛み始める。

 どこを歩いても隊長の思い出が横切り、その度にあの方がいないという現実を突き付けられることが耐え難い痛みとなって私を襲う。

 

 ――苦しい・・・隊長・・・苦しいです。お願いします・・・私を抱きしめてください。でないと、私は壊れてしまいます・・・隊長

 

 「凪~、仕事にいくで~」

 「今日は武器の点検なの」

 残酷な現実を迎えてから幾ばくかの時が過ぎたある日、いつものように真桜と沙和が私を迎えにきた。私はそれをどこか遠くから聞こえた事かの様に聞く。

 のろのろと支度を終え、最早苦痛となっている仕事へと向かった。

 

 その日の仕事は警備隊に支給されている武器の点検。必要最低限の言葉だけを交わし仕事を淡々とこなす。

 そうしてその日の仕事を終え、私が武器庫に点検済みの武器を戻しに行った。

 「・・・・・・」

 ただ黙々と武器を所定の場所にしまっている最中、気付かない内に落としていたのか、床に落ちている短剣が目に留まった。

 

 ――隊長がいない世界で私はどうして生きているのだろう。苦痛でしかないのに、どうして私はこんな事を繰り返しているのだろう。

 

 そんな事をふと考えてしまう。そう、こんな苦痛しかない事を繰り返して一体何の意味があると言うのだろうか。

 

 ――ワタシガイキテイルヒツヨウガアルノカ

 

 そうだ、泰平の世を迎えた今、武官である自分がいる必要などないのではないか。私がいなくなったって何の問題もないのではないか。

 そんな考えを巡らせながら、私は自然と落ちた短剣に手を伸ばしていた。

 

 ――隊長、この命果てたなら・・・貴方に会えますか?・・・私は、貴方のいない現実を生きる事など、もう耐える事が出来ません。

 会いたいです。

 貴方と会って抱きしめていただいて、貴方の温もりを感じたい。

 

 

 だから――。

 

 貴方に会いに行ってもいいですか。

 

 そんな事を考えながら、私は握った短剣を自身の身体に突きたてた。

 

 「なーぎー、武器しまうだけにいつまでかか・・・おまっ、何しとるんや!?沙和、急いで華陀の兄さん呼んできてや。大至急や!!」

 「わ、わかったの!!」

 自分の傍から慌てふためく真桜沙和の声が聞こえたが、もうどうでもよかった。

 薄れゆく意識に身を任せた私はそっと笑い。

 

 「隊長・・・凪が今、お傍に参ります・・・」

 

 そこで私の意識は完全に闇に沈んだ。

 

 

 ぼんやりとした頭に声が聞こえた

 『つまり、打つ手無しというわけね』

 『ああ。こればかりは心の問題だからな・・オレにはどうしようもない。オレが治せるのはあくまでも体に巣食う病魔にすぎない・・・心の方までは』

 『そう・・・』

 ぼんやりとしたままの私の意識は、その声の主が華琳様であると判断した。もう一つの声の主は、いつか私を診た華陀殿だろう。

 『楽進殿にとって曹操殿・・・貴女は仕える主君ではあるが、命を捧げる相手ではなくなっている。彼女を救えるのはいなくなったという北郷殿だけだ』

 隊長?隊長がいらっしゃるのか?なら、いつまでも寝ているわけにはいかない。起きあがって挨拶をしないと・・・。

 『この子が目を覚ましたらまた命を断ちかねないのね』

 『残酷なようだが、まず間違いないだろう。解決の糸口が見つからない限り何度命を救ったところで結果は同じだろう』

 命を救う?どういうことだと疑問に思ってから次第に頭が冴え始める。

 

 「・・・生きてる」

 目を開けて映ったのは、見覚えのある天井だった。

 それが意味する事は即ち我が身がまだ命を繋いでいるという事だ。

 「目が覚めたのね、凪」

 もう、自分と華琳様との立場の違いなど完全に頭の中に無かった。ただ自分が未だに生きている事に腹が立って、それを当たり散らすように華琳様の襟元を掴み、泣きながら怒鳴った。

 「なぜ、私を助けた!!なぜあのまま死なせてくれなかった!!もう、生きている事すら辛いのに・・・な・・・ぜ」

 冴えた頭が急激に霞みがかり始める。

 次第に瞼が下がってゆき私は再びの眠りについた。

 「すまない。眠らさせてもらった」

 「いいえ、構わないわ・・・手間をかけたわね」

 意識が完全に眠りに落ちる前に、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 次に目を覚ました時、私は手足に枷をはめられ轡を身に着けさせられていた。

 「気分はどう?貴女には悪いけど、勝手に死ぬことなんて許さないわ。頭が冷えるまでそのままでいてもらうからそのつもりでいなさい」

 私は怒気と殺気を籠めた瞳で睨みつけるが、華琳様は冷たい眼で見下したまま牢を去っていった。

 怒りの矛先がいなくなれば、一気に私は失意のどん底に落ちる。

 未だに存命している我が身が心の底から憎み、舌を噛み切ろうにも轡がそれを阻む。どうにか動こうにも手足の自由が聞かず何も出来ない。

 それが歯痒くて仕方が無かった。

 それからも、私は態度を一切変えずにいたために牢生活が続く。当然手足の拘束は解いてもらえず、轡も外してもらえなかった。

 絶食を試みても、数人がかりで押さえつけられ無理やり押し込まれる。それ以外の時でも基本的に武官・文官の見張りが常にあった。

 

 私が牢に放り込まれてから暫くが過ぎたある日の事。

 「凪、華琳様はお前の事を罪には問わぬと仰っている。そして、我らの中に、その事に対して異を唱える者などいない。だからな・・・・・・聞く耳持たぬ、か」

 その日の私の見張りは秋蘭様だった。もう聞き飽きている言葉に、私は睨み返す事で返礼すると、秋蘭様は困ったように溜息を吐く。

 いっそのことそのまま愛想を尽かしてくれるとありがたい。

 だが、周りは飽きもせずに私の説得を続けた。

 

 

 そんな風に無理やり生かされ続ける日々が続き、あらゆる気力が殺がれた私は最早廃人に等しいものになる。

 そうなってから数日が経ったある日、私に課せられていた全ての戒めが解かれる。

 そして、フラフラと立ち上がった私に真桜がなんの躊躇いもない拳を顔面に放った。

 「もう、ええわ。死にたいんやったら勝手に死ね・・・その代わり、ウチらの眼の届かんところで死ねや」

 「真桜ちゃん・・・」

 「自分だけが辛いと思うとる阿呆なんて死んだらええんや。好きにしたらええ。悪いけど、お前に構っとる暇なんてないんや」

 「あのね・・・五胡さんが攻めてくるらしいの。だから、明朝にも沙和たちは出陣しなくちゃいけないの」

 

 ――五胡が攻めてくる?この泰平の世に?

 壊れかけの心に聞こえてくる言葉は、確かな重さを以って私の心に残った。

 

 「どこぞの死にたがりと違ってな、ウチらは守らなあかんねん。隊長がその身と引き換えにして泰平にしてくれたこの国を五胡なんぞに無茶苦茶にされてたまるかい・・・ってなわけでお前に構っとる暇が無くなったちゅうわけや」

 ひらひらと手を振って真桜は去り、沙和もそれに続いた。どれくらいその場に立ち尽くしていたのか、ようやく私は一歩を踏み出した。

 外に出た私は真桜と沙和が言った事が真実であることを悟る。城内全体ならば慌ただしいと言えるが、他の施設から離れた所にあるこの牢の周りにほとんど人の気配を感じなかったからだ。

 牢から出る際に監視を務める兵士から挨拶されたがその兵以外に誰も見かけなかったからである。

 「・・・・・・」

 フラフラと歩きながら、私は真桜の言葉を何度も頭の中で反芻していた。

 

 ――ウチらは守らなあかんねん。隊長がその身と引き換えにして泰平にしてくれたこの国を五胡なんぞに無茶苦茶にされてたまるかい。

 

 守る・・・隊長が全てを掛けて築いたこの国を、この時代を。

 次第に私の心に灯がともり始めた。

 「勝手に死んだらいい・・・か。ああ、真桜・・・お前の言う通りにさせてもらうよ」

 蘇った心。

 私は確かな足取りで自分の部屋へと向かう。

 「閻王・・・再び私の力となってくれ」

 ずっとほったらかしになっていた筈なのに、しっかりと手入れがされている。恐らくは真桜だろう。私が立ち直った時のために手入れをしていてくれたのだろう。

 「ありがとう真桜・・・すまなかった沙和・・・・お前たちだって辛かったのに私などに気を使わせて・・・この借りは返す・・・私の命で」

 

 我が武器、〝閻王〟を身に纏い、そのまま私は部屋を去る。

 

 ――ありがとう。

 

 その一言を綴った手紙を部屋に残し、私は洛陽を後にした。

 

 

 なんの許可も無く、単身で洛陽を出た私は、洛陽から数里離れた所で体を休めていた。近くの河原で体を洗い、自分に積もっていたモノを洗い流し、気を引き締め直した私は再び走り出す。

 「兵を何人か見かけたな。五胡軍が駐留している村というのはそろそろらしい」

 五胡に向かって歩を進め続けた私は翌日になって五胡軍が駐留している村に辿り着いた。

 そこで私が見た光景は悲惨の一言だ。

 まず、五胡兵以外の生きた人間が一人もいない。辺りには老若男女問わずに、その村で暮らしていたであろう人々の亡骸が無造作に討ち捨てられていた。

 「ぐっ・・・なんということを」

 知らず知らず唇を噛み切っていたらしく、口の中に血の味が広がる。

 「許さない・・・」

 もう、殺気を隠す気など微塵もなかった。

 「!」

 その殺気に気がついたのだろう近くを警戒していた五胡兵の一人が私の近くにやってきた。その兵を私は問答無用で殴りつける。

 勢いそのまま、気の幹にそのまま叩きつけ相手の頭を潰した。

 まるで熟れた果実のようになった五胡兵の頭。絶命した兵はそのままずるずると崩れ落ちる。

 当然その騒動は一気に周囲に伝染し、私に向かってあまりにも圧倒的な数の敵兵がやってきた。

 「悪鬼羅刹となろうと・・・修羅道に堕ちようとも構わない。隊長が導いたこの泰平を乱す貴様らを生かしておく気など毛頭ない・・・我が黄泉路への道連れとしてくれる」

 殺気と氣を研ぎ澄ませた私は戦力の差など度外視し、そのまま敵に突っ込んだ。

 

 

 ――隊長、私はやはり他の皆さまのように懸命に生きる事など出来ません。不出来な部下をお許しください。

 この身は貴方にお会いする事はきっと叶わないでしょう。

 ですが、私はもう生きている事に耐えられないのです。貴方のいない世界に生きるなど今の私には何物にも変え難い苦痛でしかありません。

 私は、弱い女です。

 こんな私は、華琳様たちにとって重荷でしょう。ですから、私は自分の意志で皆さまが差し出してくれた手を払いのけました。

 きっと・・・私の命はここで尽きる事でしょう。

 このような暴挙、自害以外の何物でもありませんから。

 それでも、今の私にはこんな事しか思いつきませんし、今成していることも大火の中の一滴の水なのでしょう。

 そうであっても構いません。

 前進あるのみ。

 この身は休むことなく果てまで進み続けます。

 一人でも多くの敵を粉砕して――!

 

 一体どのくらい私は戦っているのだろう。この身は未だ朽ちずに動いている。

 時間の感覚などとうに忘れた。ただ戦う事に没頭している私には最早どうでもいい概念だ。

 倒した敵の数も把握していない。

 だが、やはり我が身はどうやら人でしかないようだ。

 幾らか矢を貰ったのだろう、あちらこちらから痛みを感じる。

 体が鉛のように重い。

 「!しまっ・・・」

 背後の敵に反応が一手遅れてしまった私は、ここまでかと眼前に迫る〝死〟を受け入れた。

 

 

 「ぐおおっ!」

 五胡兵のくぐもった声が聞こえ、そのまま崩れ落ちた。

 何が起きたのか把握できずにいた私に、聞き慣れた声が響く。

 

 ――「間に合うたみたいやな!」

 

 それは、三国に〝神速〟と謳われる魏でも指折りの将。

 酒をこよなく愛し、戦いを好む、さながら風のように自由な人。

 「おうおう・・・これまた随分と派手に暴れたなぁ。残念やけどあんたを死なせたりせんで凪」

 張遼文遠――霞様だった。

 それでけじゃない、それから遅れて真桜と沙和もやってき、真桜は私を見るなり問答無用で殴った。

 「お前、死ぬならウチらの眼の届かんとこで死ね言うたやろ!何こんな目立ちまくりの所で死のうとしてんねん!!」

 鼻息荒くする真桜の拳は五胡兵に受けた傷などよりもずっと痛い。心の奥にまで響く痛みだった。

 「なにが〝ありがとう〟や!紙使うてまでこないにくだらん事書くなや!!・・・決めたで、こないに周りに迷惑しかかけへんボケは絶対に死なせへん!嫌がらせの限りを尽くして無理やり生かし続けたる!!せやから・・・・せやから」

 真桜にそっと手を添える沙和。真桜は目尻に涙を一杯に溜めこんでいた

 「凪ちゃん・・・辛かったら甘えちゃってもいいの、沙和たちも皆も一緒に泣いてあげるの・・・だから、死んじゃだめ。凪ちゃんが死んじゃったら、隊長が帰ってきたらきっと哀しむの・・・泣いちゃうの」

 

 ――隊長が帰ってきたら哀しむ。

 それは嫌だ。あの方の哀しんでる顔なんて、どんな形であっても見たくはない。

 なら、私は死ねない。だけど、この痛みに耐え続けるのはもう出来ない。

 「な~ぎ~。辛なったら別に暴れたってええねんで。ウチも春蘭も相手になったる。その場凌ぎでも溜めこむよか何ぼかマシや」

 「霞様・・・私は弱い女です。こんな私がこれ以上、皆様に迷惑をかけていいのですか?」

 「それは、ウチだけが答える事とちゃうわ。真桜、沙和・・・凪はこういうとるけどどうなんや?ウチは別に構へんけど」

 「ウチも構へん。長い付き合いやし、今更迷惑の一つ掛けられたかて気にしませんて」

 「それにー私たちも一杯迷惑かけちゃってるから、おあいこなの」

 

 霞様に真桜、沙和が笑って見せた。周りでは戦いが続いているから当然応戦しながらではあったが。

 そんな状況とは関係なしに、私は肩の力がスッと抜けた気がした。

 今まで重くて仕方がなかった心と体が一気に軽くなった。

 

 その後、呉・蜀の援軍もあって五胡を大敗させるに至り、私はというと華琳様たちの目の前に放り出されて華琳様を含む魏の皆様からありがたいお叱りと手痛い制裁を味わう事となったが、私は甘んじてそれを受け入れた。

 

 

 ――隊長、私・・・生きてみようと思います。死んで貴方に会えないのなら、生きて貴方に会えるかもしれない可能性にこの命を掛けてみようと。

 きっとこれからも私は周りに多くの迷惑をかけてしまうのでしょう。

 それもこれも・・・隊長のせいです。

 帰ってこない限り絶対に許しません。

 

 ――だから、隊長・・・ずっとお待ちしてますね。

 

 

~あとがき~

 

 

 この作品は気分転換も兼ねてちょいちょい書いていたものです。

 初投稿作品となった〝真・恋姫✝無双 魏ENDアフター 凪編〟の前のお話、一刀が帰ってくるまでの間のお話となっています。

 なお、完全に凪の視点となっておりますので、そのとき誰がどうしていたのかと気になる方を多いと思いますが、御容赦ください。

 今更な作品ではありますが、楽しんでいただけたら幸いです。

 次の更新こそは孫呉の外史の本編をお届けしようと思いますので、今しばしお待ちください。

 それではまた――。

 Kanadeでした。

 


 
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