No.145554

魔法少女☆きゅぴるん! 2

篇待さん

戦闘はつまらないですね。
なので今回はつまらないです。

2010-05-26 00:45:45 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:826   閲覧ユーザー数:795

 

「さぁ、死にたくなかったら五分であいつを倒すがいい」

 それは脅迫だった。こんな腐った根性の幼女がいていいんだろうか。

 しかし、ボクはまだ死にたくない。

 頬を引きつらせながら、ボクはそのシートに座った。

 汗ばむ手で、操縦桿を握る。

 モニターに映るのは、狂ったように涎を垂らす犬人間。

 ボクは目を閉じて、天を仰いだ。

 そして、戦いが始まったのだった。

 

 

魔法少女☆きゅぴるん!

 第2夜 『死闘、犬人間!!』

 

 

 

 

 前回のボクはあえて描写を避けていたのだが、どうにもその描写を避けては通れない場面らしい。本当に残念だ。見たくないものからは、永遠に目を逸らして生きていきたいというのに。

 首から上は犬。犬種は柴犬だろうか。とても厳つい顔である。問題は首から下であった。黒のビキニなのである。ムキムキの筋肉ダルマが黒のビキニを着ているのだ。しかもそれは、18禁ギリギリの極小サイズ。視界にアレが映るたびに吐き気がする。恐ろしいほどの精神攻撃だった。効果はバツグンである。

 正直、あんな化物に勝てる気がしない。

「ぶ、武器はないのか? お前は素手で殴りあう魔女っ子なのか……?」

(安心しろ、ちゃんと魔女っ子に相応しい武器が標準装備されておる)

 紺の声がコクピット内に響くと、カメラが勝手にきゅぴるんの右手へとフォーカスされた。メインモニターに木刀を握った右手が映し出される。

「これ? これがお前の武器?」

(魔女っ子といったらコレだろう。常識じゃ)

 紺の言う魔女っ子とは、どうも田舎のヤンキー(絶滅種)のことを指す隠語のようだった。きっと魔界とやらで広く用いられている隠語なのだろう。

 そんなくだらないやり取りをしている間に、犬人間が目前に迫ってきていた。そして、無抵抗に顔面を殴られる。

 よく考えたら、こんな魔法少女ロボットの操縦方法なんてさっぱりわからないので、当然の結果だった。回避どころか、歩くことさえできないのである。これはもう死亡確定だな。

(痛い痛い痛い痛い、これは死ぬ。お前少しは避けるとかしろよボケ!)

 ひどい暴言だった。しかしこれは半分くらいはボクのせいなので、甘んじて受けるしかない。いや、半分もボクのせいなのか? 八割くらい紺のせいじゃないか? やっぱり理不尽な暴言だった。

「これどうやって動かすんだよ!? 操縦桿動かしてもどこも動かないぞ!」

(気合と根性で動かせ。その操縦桿は飾りだ。雰囲気が大事なのだ)

「うわあああ! やっぱりボクは溶けて死ぬんだあああああああ!!」

 絶望した!

 しかし、その絶望もまた、気合と根性の一種だったらしい。ボクの絶叫に反応して、きゅぴるんの木刀が犬人間に対して振るわれた。まさに奇跡が起きた瞬間だった。

 首を狙って振られた凶悪な奇跡を、犬人間は左腕でガードした。ボギャ、と耳障りな音を発して、その腕が折れる。

 しかし、犬人間はまったく怯まなかった。目を血走らせて、その鋭い犬歯をきゅぴるんに向けてくる。コイツに痛覚はないのか?

 瞬間、木刀が爆発した。

(こんなこともあろうかと杖にTNTを仕込んでおいて正解だったわ!!)

 はしゃぐ紺に、頬を引きつらせるボク。木刀にTNTを仕込む? どうやって? まるで意味がわからない。

 爆発を顔面付近で受けた犬人間は、哀れなほどに瀕死だった。モニターにモザイクが掛かっているのでどれほど悲惨なことになっているのかはわからないが、直視できないほどグロテスクなことになっているのは間違いなかった。

(キタロウの意見を取り入れて、新機能をついかしたのだ)

「ほう」

(敵の局部かグロ描写のうちどちらかを選択してモザイクをかけるマスキング機能じゃ)

「それは助かるな。出来ることならあの黒ビキニにもモザイクがほしいんだが……」

(それはできん。この機能はランダムじゃ)

 実に使えない機能だった。モザイク機能があるなら、最初の黒ビキニの時点で使っていてほしかった。もう手遅れだが。ボクの精神はもうすでに汚されてしまったのである。

 こうしてボクは、碌に操縦も出来ないままに初戦を白星で飾ったのだった。

 時計を見る。消化開始まで残り二分。気づかなかったが、それなりにギリギリの状況ではあったらしい。

 と。

 犬人間の体が、赤く輝きだした。

(やばい! 自爆じゃ!!)

「自爆!? なにそれこわい」

(魔界の住人がこの世界で瀕死のダメージを負うと、なぜか爆発して木っ端微塵になってしまうのじゃ!)

 まさに恐怖の設定だった。魔界の住人とやらもいろいろと大変らしい。

 そして犬人間は美しく爆炎を上げて吹き飛んだ。ドクロを形作ったキノコ雲が、彼の死を演出する。まさに敵怪獣に相応しい最後だった。

 

 

「戦いって……むなしいな」

(諸行無常じゃのう)

 そこには巨大なクレーターがあった。ビルが立ち並んだオフィス街は、見るも無残に吹き飛んでいた。訴えられたら、まず間違いなく敗訴である。きっと一生を奴隷のように働いても返せないような額を請求されるに違いない。生き残っても人生終わるとか、酷すぎだろ。

「なぁ、紺。このコクピットはお前の胃にあるんだろ? どうやってでればいいんだ?」

 あと一分で消化が始まる。あれ、勝っても死ぬの? 話が違う! 訴えてやる!

(上から出るのと下から出るの、どっちがいい?)

 恐ろしいことを言われた。しかし、下から出るのだけは何としても避けなければならない。人間としての最後の尊厳を守るために。

「上からでお願いします! 何でもしますからどうかお願いします!」

 泣いていた。ボクは泣いて懇願していた。

 

 

 なんとか無事にきゅぴるんから出ることが出来たボク。その過程は割愛させていただく。尊厳のために。上から出た、とだけは言っておこう。

「しかしこの惨状……ボク達は歴史的なテロリストになってしまったな」

「うむ。さすがにこれはまずいな」

 どうやらこの幼女にもその辺の常識はあったらしい。

「よし、妾がなんとかしよう」

 そう言って木刀を天にかざす紺。

「暗殺! 滅殺! 大☆喝☆采!! 記憶よ、都合良く改竄されろ~~~!」

 ひどい呪文だった。荒みきった大地をなんとかしようとしないあたりにも悪意を感じる。

 

 

 こうしてボクらの最初の戦いが終わった。

 しかし、第二、第三の犬人間はきっと現れることだろう。

 戦え、きゅぴるん!

 負けるな、きゅぴるん!

 僕らの街の平和を守るんだ!!

 

 

たぶんつづく!

 


 
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