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真・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 蒼華繚乱の章 第十二話

茶々さん

茶々です。
二週間ぶりの投稿です茶々ですお久しぶりです。

先にいいます。今回は短いです。
短いですが私的にはかなーり重要なターニングポイント……のつもりですハイ。

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2010-05-14 22:56:43 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2110   閲覧ユーザー数:1872

新・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 蒼華綾乱の章

 

 

 

*一刀君は登場しますが、メインは基本的にオリキャラです。

 

*口調や言い回しなどが若干(?)変です(茶々がヘボなのが原因です)。

 

 

第十二話 彼の隣

 

 

 

 

 

「掛けなさい、仲達」

 

 

河北を制して間もなく、巷に妙な噂が流れ始めた。

 

曰く、『曹孟徳は漢王朝を滅ぼし、自らが新たな帝になろうとしている』との事。

 

 

街で小耳に挟んだ折は何の冗談かと失笑したが、いざ城に帰ってみれば噂の当人から呼び出される始末。

さて、先日の独断を咎められるのか、それとも巷の噂について問われるのかと身構えていた司馬懿だったが、待っていたのは庭先に設けられた酒席で杯を傾ける主・曹操。

 

 

「掛けなさいと言っているのよ?仲達」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 

鬼が出るか蛇が出るか……構えていた分、一瞬肩透かしを喰らった様な気持ちになった司馬懿だったが、華琳の眼光を受けすぐさまその認識を改めた。

 

 

「ふぅ…………」

 

 

杯から口を離し、虚空に息を洩らす華琳を司馬懿は盗み見た。

 

 

月明かりに照らされるその姿はいっそ妖艶とでも言うべきか。司馬懿は思わず、背筋がゾッとするのを覚えた。

 

 

「失策ね」

 

 

凍てつく様な声音は、鋭い刃となって司馬懿の喉元に当てられる。

 

 

「結果的に、劉備の益州への逃亡を許した……そこにどんな障害があったとしても、それを凌駕する事が出来なければ別働隊の意味はないわ」

「……一つの州より、一人の女に重きを置きますか」

 

 

言外に関羽を得られなかった事を責める口ぶりの華琳を皮肉る様に司馬懿が口を開くと、クスリと華琳は冷たい笑みを零した。

 

 

「徐州程度にそれ程の価値はないわ。大事なのは、我が覇道を支えるに足る将星」

「それが、あの関雲長だと仰るのですか?」

「ええ」

 

 

短く呟いて、華琳は再び杯に酒を満たした。

以前一刀が教えていた『清酒』だろう。澄んだ水面に月を映し、それを華琳が持つと何とも雅な一枚の絵となった。

 

 

「……何故、そこまで拘るのですか?」

 

 

つい、感じたままを司馬懿は口にした。

 

 

「確かに個の武勇には目を見張るものがありますが、それだけならばあの呂布にとて言える事。ましてや、春蘭とて早々引けは取りますまい」

「抜きん出て輝く光を人は畏れ、敬い―――そして欲する」

 

 

司馬懿が言い終わるのを見計らった様に華琳が言った。

その瞳に司馬懿の姿はなく、ただ夜空に浮かぶ月を映して。

 

 

「欲するが故に人は争い、戦い、殺し合い……それでも、人はその光を求める」

「乱世の縮図ですか」

「けれど、その光も数多の輝きの中にあればどう?」

 

 

口をつけかけた杯を止め、司馬懿は華琳の横顔を見た。

 

そこに居たのは、紛れもなく王の姿をした一人の人物。

覇道を往く、超世の傑物その人だった。

 

 

「……故に、華琳様は関羽を求めると」

「ええ。故に私は人材を求め―――」

 

 

一拍置いて、華琳は口を開く。

 

 

「『天』を求める」

 

           

 

 

「…………『天』、ですか」

 

 

長い、永い静寂の後、司馬懿は呟いた。

 

 

「巷の噂も、存外当てになる様ですな」

「噂?」

「『曹丞相は漢王朝を滅し、自らが新たな帝となる』……巷にて、専らの噂ですが?」

「へぇ……」

 

 

さも愉快そうに口元を歪ませながら、華琳は笑みを浮かべた。

それを見て何かを感じたらしく、司馬懿は怪訝そうに眉を顰めた。

 

 

「……どうかなさったのですか?」

「司馬懿、貴様にこの天下はどう映る?」

 

 

スッと、華琳の目つきが鋭くなった。

 

 

「どう、とは……?」

 

 

言っている意味がよく分からないのか、司馬懿は若干困惑の色を含んだまま問い返す。

だが次に華琳が口を開いた瞬間、司馬懿の表情は一変した。

 

 

 

「この天下に、真に『帝』がいる意味があると。本気でそう思うかと聞いているのよ」

 

 

「なっ……はぁ!?」

 

 

 

驚き以外の何者でもない素っ頓狂な声を上げる司馬懿。

しかし華琳の表情は、どこまでも真剣そのものだった。

 

 

「で、では華琳様は、帝を戴かずして天下が形を成しうると、そう仰るのですか!?」

「……智に長けた貴方でも、やはり旧来の形に囚われている様ね」

 

 

杯に満ちた酒を一呑みして、華琳は再び口を開いた。

 

 

「長い歴史の中で、帝の元に天下が一つであった時間などごく僅か。その必要性など、天下万民が抱く幻想に過ぎないのよ」

 

 

唖然とする司馬懿を尻目に華琳は続ける。

 

 

「指針たる道理さえ示せば、人は自ずから進む事が出来る。新たな天下の形がそこに生まれるの」

 

 

フッと、華琳は薄い笑みを浮かべて呟く。

 

 

「そう、そこには帝も……きっと、統治者すら不要なのかもしれないわね」

 

 

華琳はそこで区切ると、傍らに置いてあった酒を再び杯に注いだ。

 

杯が満たされる音だけが月下の下に響き、司馬懿の鼓膜を揺らす。

ただただ呆然とする司馬懿は――普段、努めて冷静を装っている彼の気性からは想像もつかない程に――呆けた顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司馬懿仲達」

 

 

不意に、華琳が口を開いた。

 

 

「私が進む道、そして私達が指し示す次代。……共に作ってみてはどう?」

 

 

試す様な薄笑いを前にして、彼の胸中を占めたのは畏怖か敬服か。

いずれにしても、司馬懿は言葉を発する事すら叶わなかった。

 

     

 

 

月に照らされた廊下を闊歩する音が響く。

 

実にゆったりとした歩調の主は、しかしその顔に内心を幾ばくも見せぬ様にして――それこそ平時の様に――冷淡な面持ちで歩を進めていた。

 

 

(帝も、統治者も必要としない次代……)

 

 

司馬懿は脳裏に、華琳の言葉を反芻した。

 

 

自身が望んだ主ではあった。

それだけの器量があると、野心があるとも踏んでいた。

 

 

新たな世の統治者になると。

この乱世に打ち勝つ器であると。

 

 

確信にも似た思いは、仕える歳月を経て確かなものになっていった。

 

 

 

だが―――

 

 

「……目から鱗が落ちるとは、正にこの事か」

 

 

己が予想の遥か先を往く器。

 

望外の明主に出会えた事に、司馬懿の身体は歓喜に打ち震えた。

 

 

その歓喜の矛先は、やがて彼の脳裏を過った一人の青年の姿にも向かった。

 

 

(北郷、一刀か……)

 

 

 

 

 

 

 

一刀が華琳と枕を交わした、という話を司馬懿が耳にしたのはつい先日の事。

それが直接、という訳ではないだろうが、しかし彼の存在は確かに『曹孟徳』という人物を変えつつあった。

それも、良い方向にである。

 

 

傍目から見ても薄々そう思える程なのだから、当人は無論――顔にこそ出さないが――気づいているだろう。

 

 

何故かは分からない。

しかし司馬懿には、それがとても喜ばしい事に思えてならなかったのである。

 

 

日を追う毎にしっかりと根付き、より強く深く、色濃くなっていく彼の存在に、若干ではあるが魏の将校にも変化がある。

主と同じく、良い意味合いでである。

 

 

だが司馬懿は、自身もその内の一人だという事に気づきすらしない。

 

 

気づかぬうちに、彼もまた一刀という『人柄』に心を許しつつあった。

 

 

 

 

 

嘗て恩師を、友を裏切る様にして飛び出した自分。

その凍てついた、暗く閉ざした筈の心の岩戸の、ほんの僅かな隙間から差し込んだ光の様にして、一刀は彼の胸中に温かさを齎そうとしている。

 

 

それが許されざる事だという事も、十二分に承知した上で、である。

 

 

 

(―――フッ。昔の僕が見たら、何というだろうな?)

 

 

他者を、ましてや自分より下だと認識していた人物に何時の間にか抜かされたというのに、不思議と司馬懿の心に蔭はなかった。

 

 

あるのは、緩やかな温もり。

 

過去に捨て去った筈の。

嘗て、愛したたった一人の存在と共に、自ら望んで捨てた筈の。

 

『情』という、温もりだった。

 

            

 

それから直ぐ、司馬懿はとある人物の部屋に向かった。

軽く戸を叩き、中から返事が返ってくる時間すら煩わしそうにして戸を開く。

 

 

「こんな夜更けに何の御用ですか~?」

 

 

案の定、そこには不満を露わにした少女―――風がいた。

 

 

「夜這いのつもりでしたら、今日はご遠慮願いたいのですよ~」

「違う。何の話だ一体」

「むぅ……?」

 

 

バッサリと切り捨てる司馬懿に文句の一つでも言ってやろうかと思った風だったが、彼の表情を見てニヤリとした笑みを浮かべる。

 

 

明らかに『弄べる玩具を見つけた子供』の笑顔である。

 

 

「それで、一体何の御用なのですか~?」

「―――風。恥を忍んで、貴様に聞きたい事がある」

 

 

司馬懿のその言葉に、風は「おや?」と目を軽く見開いた。

何処か言い苦しそうにして、それでも話さなければならない事とは何か。

 

 

先程とは違った方向で興味を惹かれた風は、寝台に腰かけて司馬懿の方に向き直り―――

 

 

 

 

 

「…………どうやったら、北郷と友人になれる?」

 

 

 

 

 

思わずずり落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程。つまり仲達さんは、お兄さんと私的にもヨロシクしたいという事なのですね~」

「一部解釈が違うが、大まかにはそうだ」

 

 

風は、自身の体躯と共にずり落ちた布団を直しながら司馬懿の話に相槌を打った。

 

 

「でも、それならどうして風に聞くのですか~?他にもお兄さんを知っている人はたくさんいらっしゃる筈ですよ~?」

 

 

指折り数えただけでも両の手は直ぐに埋まった。あと手がもう一本あれば全員数えられるのだが、生憎風には手が二本しかなかった。

 

 

「当たり前だ」

「…………ぐぅ」

「寝るな」

「おぉっ!心を読んだツッコミに思わず逃避したくなったのですよ~」

 

 

 

冗談はさておき。

 

 

 

「それで?どうして仲達さんは態々風に聞くのですか~?」

「……………………」

 

 

沈黙。

剣呑とした鋭い空気を発しながらの沈黙はかなり痛い。

 

 

司馬懿が腰かけている椅子から自身の寝台まではそれなりに距離がある筈なのに何故こんなに空気が痛いのか。

触れたらまずかったのだろうか、と風は思った。

 

 

最も、まずいと知っていても普通に触れただろうが。

 

 

 

「…………ない」

「ふぇ?」

「……相談できる人が、他にいないんだ」

 

 

 

 

 

 

―――嗚呼、空気以上に痛い人が此処にいた。

 

         

 

 

「し、仕方ないだろう!?仕事で顔を合わせる事はあっても、私的な付き合いをしている程僕も他の者も暇じゃないんだ!!それこそ何処ぞの猪武者じゃあるまいし、僕には片づけなければならない政務が山とあるんだぞ!?」

「一斉に捲し立てないで下さいよ仲達さん。痛い空気が尚更居た堪れなくなるじゃないですか~」

「だ、誰が痛い子だ!!誰が!!」

 

 

いや、そこまで言ってない。

風の心のツッコミが司馬懿に届く事はきっとない。

 

 

「まぁまぁ。まずは落ち着いて、時分を考えて下さいよ~」

「なっ!?……ッ、す、済まない」

 

 

バツが悪そうな面持ちを浮かべて、司馬懿は椅子に座りなおした。

まるで悪戯を叱られた子供の様である。

 

 

風の心の感想が司馬懿に届く事は多分ない。

届いたらマズイ気もするが。

 

 

 

それにしても、と風は思う。

ここまで感情を露わにする司馬懿の姿を『この目で』見るのは、風としては二度目だった。

噂に聞く程度でも三度だからそれ程多くはないが。

 

 

 

 

 

 

『―――君が程昱か?』

 

 

初めて会った時の彼を一言で表すなら『鉄面皮』。

取ってつけた様な分厚い『表情』という仮面を被った、難儀な人だと思った。

 

 

『―――交渉の席において、相手に付け入る隙を与える気はないからね。僕は』

 

 

喉の奥を鳴らす様な嘲笑。

それを見て、風は一つの確信を抱いた。

 

嗚呼、この人は自分から周囲を隔絶する性質だと。

 

 

『此処から飛び下りれば、僕は死ぬか?』

 

 

何処か、罪悪感を抱いている様な背。

その言葉が、瞳が何を映していたのか。風の知る所ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やれやれ~、難儀な人とは思っていましたが、まさかお友達が一人もいらっしゃらないとは思いませんでしたよ~)

 

 

その気性故に。

その性情故に。

 

彼は一見すると気難しく、近寄りがたい印象を受ける。

大方そのせいで、幼少期から友と呼べる存在も少なかったのだろうと風は当たりをつけた。

 

 

「……何か言いたそうだな」

「いえいえ~、風は別に仲達さんが友人を一人も持っていない様な寂しい人だとは知らず、驚愕の事実にこっそり嘲笑しているなんて事はありませんよ~?」

「……………………」

 

 

あ、凹んだ。

背中に重苦しい黒い空気が見えるくらいの凹み具合である。

 

 

ちょっと司馬懿が可哀そうに見えてきた風である。

無論、止めるつもりは毛ほどもないが。

 

             

 

 

「…………馬鹿にでも何でもしてくれて構わない。ともかく、質問に答えてくれ」

 

 

ややあって、司馬懿が口を開いた。

 

 

その表情は垂れた髪に隠れて窺い知れないが、もしかしたらかなりしょげているのかもしれない。

ちょっと楽しくなってきた風だったが、流石に睡魔が徐々に浸食を始めてきたので話を進める事にした。

 

 

「つまり、仲達さんは初めて親友になれそうな人とどの様に付き合えばよいか、というのを聞きたいのですよね~?」

「……そうだ」

 

 

羞恥に顔が赤くなっているだろうか。

苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべているだろうか。

 

 

想像するだけで緩みそうになる口元を風は必死に自制し、話を進める。

 

 

「でしたら、まずは名前を呼ぶ所から始める。というのはどうでしょう?」

「名前……?」

「はい~。やはり親しい間柄であれば堅苦しい言葉づかいはやめて、自然体で接するのが一番よろしいかと風は思いますよ~?」

 

 

むしろ、どうしてそこに行きつかないのだろうかと風は内心首を傾げた。

しかしそんな風の変化に気づく筈もなく、司馬懿は一人で何かブツブツと呟きながら席を立つ。

 

 

「……名前………自然体……言葉づかい……」

 

 

顎に手を当て、何時になく真剣な表情を浮かべる司馬懿の横顔を盗み見た風は、暫しそれを見つめてからふぅと息を吐いた。

 

 

(やれやれ~……本当に不器用な人ですね~)

 

 

 

やがて、何かしらの答えに達したのか司馬懿は顔を上げた。

 

 

「風」

「はい~?」

「夜分に突然押し掛けて済まなかった。それと、有難う」

 

 

言うだけ言って、司馬懿はさっさと部屋を後にした。

 

 

後に残された風はキョトンとしていたが、やがて何を思ったのか頭の上に乗せていた宝慧を手に取った。

 

 

「……やれやれ、ですね~」

 

 

この半刻程で既に三度目となるそれを呟いた風の顔は、何処か楽しそうだ。

その事を知るのは、彼女の目の前にいる宝慧ただ一人。

 

      

 

「おはよう、司馬懿」

 

 

朝方、向かいから歩いてきた一刀と視線を合わせた司馬懿は口を開きかけ―――何かを思い出した様に一瞬躊躇う様にして口を噤んだ。

 

 

「ああ、今朝はまた随分と早いな。ほん―――いや……違うな」

 

 

最後の方はかなり小さく呟いた為に一刀には聞き取れなかった様で、不思議そうな表情を浮かべてコテンと首を傾げた。

 

 

 

 

 

「…………おはよう、『一刀』」

 

 

 

すれ違いざまに、彼にだけ聞こえる様にして言った司馬懿は、途端気恥ずかしくなったのか、珍しく慌てた様子でかなり早い歩調で進んでいった。

後ろに控えていた文官は暫し間をおいて、ハッとなって慌ててその後を追った。

 

 

一刀の脳内処理はそこで漸く追いつき、驚いた様に後ろを振り向いた。

しかし既に司馬懿は廊下の角を曲がっておりその姿は見えない。

 

 

 

それでも一刀は笑みを湛え、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

「……おはよう、『仲達』」

 

          

 

茶々です。

最近忙しすぎというか多ジャンルの下らない話が多々浮かぶ茶々ですどうもです。

 

どうも戦続きだと、こう……間の話が欲しくなって、つい。

 

次回からはまた戦、しかも荊州(100%敗北しかないあの戦い)です。

そしてとうとう分岐点……というか茶々的には『晋√』的な展開に入るつもりです。

 

多分(というか絶対)、各方面の方から非難轟々な話になると思います。

正直茶々本人にしても思わず「正気か?」と思いたくなるような展開です。

 

けど書きます。ええ書きますとも!

もう二度と土下座なんて真似をしないために!!(ヲイ)

 

 

 

どうぞこれからもお付き合いの程、宜しくお願い致します。

 

それでは、また。


 
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