No.142599

真・恋姫†無双 あなたと共に 6(前編)

highstaさん

今回は個別の再会シーンです。

しかしですね、作者的に書きたいことが多すぎて、まさかの2分割・・・

ドタバタを期待していた方には申し訳ないです。

続きを表示

2010-05-12 11:22:19 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:26513   閲覧ユーザー数:16187

 

満月の下・・・

 

 

「こっちこそ、遅れてごめん・・・華琳。それと・・・・・・ただいま」

 

「えぇ、おかえりなさい・・・一刀」

 

抱きしめ合い・・・3年振りの再会で気持ちが昂ぶってしまった2人

 

「・・・華琳」

 

「・・・一刀」

 

2人の唇が交わされようかという直前・・・・・・

 

「「か、華琳様ッ!?」」

 

春蘭と秋蘭の妙に慌てた声が耳に入ってきた

 

 

「・・・あら、2人ともいったい何のつm・・・」

 

 

もちろんいい所で止められた華琳はご立腹

 

 

・・・しかし、振り返った華琳は気づく・・・

 

 

「よかったよぉ~」と義妹に泣きついている蜀王の姿に・・・

 

 

一刀と華琳のことを、まさにワクワクといったような表情で見つめる呉王の姿に・・・

 

 

そして、その後ろに各国の重鎮たちが泣いたり、顔を赤くしたりする姿に・・・

 

 

「なッ!?なななな!」

 

 

まったく予想していなかった事態に、華琳は珍しくうろたえた

 

 

「なんで、あなたたちまでここにいるのッ!!というか、いつからいたのよッ!?」

 

 

「いつからって・・・もちろん華琳が”御遣い君”に抱きついて、え~んって泣いてるところから♪」

 

先ほどまで爆笑していた陽気な呉の王が答える

 

「////////」

 

華琳は顔を真っ赤にして先ほどまでの自分を思い返していた・・・

 

「(・・・見られた?・・・何を?・・・私が泣いてるところを?・・・誰に?・・・ここにいる”全員”に?・・・)」

 

フルフルと華琳の肩が振るえ始める

 

「////ッ!?ちょっと、雪r・・「かりぃんしゃ~んッ!!」・・・えっ?」

 

あまりにも恥ずかしすぎて、雪蓮に何か言ってやろうと思った矢先に泣き顔の桃香が抱きついてきた

 

「桃香ッ!?ちょっと・・「よかったよぉ~」・・・えっ?」

 

桃香は華琳のことを抱きしめながら続ける

 

「だって・・だって・・華琳さん・・・戦争が終わってからも・・・元気なかったから・・・」

 

「・・・・・・」

 

「”天の御遣い”って人がいなくなったからって聞いてたから・・・私でも何かできないかなぁって、ずっと思ってたんだよぉ~!!」

 

「・・・・・・桃香・・」

 

「でも・・やっぱり・・・私は朱里ちゃんや雛里ちゃんたちみたいに頭良くないし・・・何もできないんじゃないかって・・「桃香・・」・・・えっ?」

 

華琳も桃香を抱きしめ返した

 

「・・・そんなことはないわ、桃香・・・・・・正直、一刀がいなくなってから”魏”という国そのものが落ち込んでいたわ。でも・・それを支えてくれたのがあなたたちの”蜀”と、雪蓮たちの”呉”だったのよ」

 

「華琳・・・さん」

 

「・・・華琳」

 

雪蓮もさっきまでのふざけた雰囲気ではなく、”王”の顔になっていた・・・

 

 

 

「3年前・・・確かに一刀は私のもとから消えたわ・・・。でも・・・かわりに桃香や雪蓮という”王”という対等な立場の”友人”を得ることが出来たわ」

 

華琳は微笑む

 

「それに・・・・・・一刀は今日帰ってきてくれたわ」

 

どこか安心したような表情でそう言って、桃香や雪蓮がこの3年の間に見たことのなかった綺麗な笑顔を見せた・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・一刀は3国の王のやりとりを黙って見ていた

 

「(俺がいない間にずいぶん仲良くなったんだなぁ)」

 

少しだけ羨ましく感じる一刀だったが、桃香や雪蓮と話している華琳をみると、自然に笑みが浮かんできた

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」」」

 

 

「・・・んっ?」

 

 

視線を感じた・・・

 

 

振り返ると・・・・

 

 

「(あぁ、そうか。あの娘たちとはまだろくに挨拶もしてなかったな)」

 

 

一刀と早く話したいものの、なかなかタイミングが掴めない”女の子たち”がいた

 

 

「華琳」

 

「えっ?あ、あぁ何かしら・・一刀?」

 

「俺、あの娘たちのところに行ってるよ」

そういって自分の後ろを指す

 

「・・・・・・えぇ、行ってあげなさい・・・あの娘たちも待っていたのだから」

 

「あぁ」

 

 

そう言って振り返り、彼女たちのもとへ向かった・・・

 

 

そこには3年前より少し大人になった”女の子”たちがいた

 

 

 

 

まず一刀を迎えたのは・・・・・・

 

 

「か~ずとぉ~」

 

霞だった

 

「霞ッ!!」

 

ゆっくりと近づき、抱きしめようとすると・・・

 

「このアホぉぉーーー!!!!(ドガッ)」

 

「ぐぇっ!!」

 

・・・いきなり殴られた

 

「いてててっ・・・いきなり何すr・・・」

 

いきなりのことに一刀は戸惑ったが、霞の表情を見て、何も言うことが出来なかった

 

 

・・・霞は・・・

 

 

「・・・このアホぉ・・・なんで・・・なんで黙って行ったんや・・・」

 

 

・・・泣いていた

 

 

 

 

「・・・・・・霞」

 

「なんで・・・3年前に・・・さっきみたいに言うてくれなかったんや・・・一緒にいたい・・って・・」

 

「・・・・・・ごめんな・・霞」

 

そう言って、一刀は肩を震わす霞を抱き寄せた

 

「・・・華琳の覇道がもう少しだったあの時に・・・みんなに余計な心配を掛けたくなかったんだ・・・」

 

「・・・それが・・アホや言うてんねん・・・・ウチら”仲間”やろが・・・」

 

いつも何があっても一人で抱え込む一刀のことだ・・・

 

ましてや、言えば自分のことで心配を掛けてしまうことが分かっていることを話すはずがない・・・

 

 

それでも・・・・・・

 

 

それでも言ってほしかった・・・・弱音を吐いてほしかった・・・・

 

 

“仲間”だからこそ・・・・・・”好きな人”だからこそ・・・・・・

 

 

一緒に悩んで・・・少しでも支えてあげたかった・・・

 

 

「・・そう・・・だよな・・。みんなのこと信じてるって言いながら・・・大切に思ってるって言いながら・・・結局みんなのこと悲しませちゃったな・・・」

 

 

自嘲するように呟く・・・

 

 

「・・・許してもらえるかは分からない・・・でも・・・”ごめんな”・・」

 

 

たった一言だったが、その一言に深い感情が込められていた

 

 

「・・もうえぇ・・許したる・・。こうやってまた会えたんや・・・帰ってきてくれたんや・・・」

 

 

そう言った霞に一刀は小さく”ありがとう”と言った

 

 

「それとな・・・もう一つ・・・言うことがあんねん・・・」

 

何だろう?と一刀は首を傾げる

 

霞は一刀の背中に腕を回して、胸に顔をうずめながら答えた・・・

 

「ごめんな・・・気づいてやれんで・・・一刀が苦しんどったのに・・・ウチ・・「霞」・・えっ?」

 

一刀は霞の後悔を制するように言った

 

「いいんだよ・・霞。霞もさっき言ってくれただろ?”帰ってきてくれた”って・・・。俺もさ・・・霞と・・みんなとまた会えて、本当に嬉しいんだ」

 

そう言う一刀の顔は笑っていた・・・

 

「だから・・・それだけでも十分なんだよ。・・・でも、もしそれでも謝るっていうんなら・・・俺は喜んで”許す”よ」

 

「かずとぉ・・・うぅ・・・うあぁぁ」

 

子供のように泣きじゃくる霞を一刀は泣き止むまで抱きしめ続けた・・・

 

 

・・・自分を”呪い”続け、3年・・・

 

 

 

------霞は自分に掛けた”呪い”からようやく解放された------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、泣き止んで照れくさくなったのか霞は顔を赤くして逃げていってしまった

 

 

一刀が微笑みながら、その姿を目で追っていると・・・

 

 

「に~ちゃ~ん!!!」

「にいさまぁ~!!!」

 

「えっ?(ドカッ!)ぐぇッ!!」

 

小柄な体が2つ、胸に飛び込んできた

 

「ふえぇぇ~ん、にいちゃ~ん」

「うぅ・・うぇ・・にい・・さま」

 

・・・それは・・・かつて自分のことを”兄”として慕ってくれた・・・”妹たち”だった・・・

 

「・・・季衣・・・流琉」

 

一刀は2人をやさしく抱きしめ、その小さな頭を慈しむように撫でた・・・

 

 

「「ッ!?」」

 

 

・・・兄ちゃんに抱きしめてもらえた・・・

 

・・・兄様に頭を撫でてもらえた・・・

 

 

・・・もう無理だと思っていたこと・・・

 

 

------それが今再び叶った------

 

 

 

「「うえぇぇ~~~~ん」」

 

 

 

2人は思いっ切り声をあげて泣いた・・・

 

 

------“兄”が今、”ここ”にいてくれることを感じて・・・------

 

 

 

---泣いている2人を抱きしめながら一刀は感じていた

 

・・・2人がどれだけ悲しんでくれていたかを・・・

 

・・・2人にどれだけ辛い思いをさせてしまったかを・・・

 

 

「(・・・ごめんな・・季衣・・流琉・・)」

 

 

今はただ、何も言わずに抱きしめ続けた・・・

 

 

 

 

 

 

2人は泣き止んでからも離れようとはしなかった・・・

 

季衣はまだ少し鼻をぐすぐすといわせながら・・・

 

流琉は少し恥ずかしそうにしながら・・・

 

 

3年ぶりの”兄”を体全体で感じていた

 

 

2人が落ち着くのを見計らって・・一刀は口を開いた・・・

 

「ごめんな・・季衣・・流琉・・。いっぱい傷つけちゃって・・・いっぱい寂しい思いさせちゃって・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

「・・・こんな俺でも・・・まだ”兄”と呼んでくれるかい?」

 

何を言われようが受け止める準備はできていた・・・

 

・・・自分はこの娘たちにそれだけのことをしてしまったのだから・・・

 

 

「・・・そんなの・・・当たり前だよ」

 

まず口を開いたのは季衣だった

 

「そう・・・ですよ」

 

流琉もそれに続く

 

「ずっと兄ちゃんのこと待ってたんだもん・・・絶対に嫌いになんかならないよ」

 

「私もです・・兄様・・。・・私たちにとっての”兄”は兄様だけです・・」

 

 

2人は答える・・・・・

 

自分たちは”北郷一刀”という”兄”を待っていたのだ、と・・・

 

そんな”兄”が大好きである、と・・・

 

 

「・・・そっ・・か。ありがとう・・季衣・・流琉」

 

一刀はそんな2人をさらに強く抱きしめようとしたが・・・

 

「あっ!?そうだ、流琉ッ!!”アレ”言わなきゃッ!!」

 

という季衣の声に阻まれてしまった・・・

 

「うん!!そうだね、季衣!!」

 

流琉も季衣が何を言いたいのか分かったらしく、元気良く頷いた

 

 

“アレ”って何だろう、と一刀が考えていると2人は一刀の腕をすり抜けて少し離れた位置に立った

 

一刀が不思議そうに見つめる中、2人は言った・・・3年越しの想いを込めて・・・

 

 

------「「兄ちゃん(様)!おかえりなさい!!」」------

 

 

「!?」

 

 

そこには一刀の大好きな笑顔があった・・・

 

おかえりなさい、と言ってくれた・・・

 

だから・・・一刀も・・・

 

 

「あぁ、ただいま」

 

 

と、いつもの笑顔で答えた

もう一度、2人の頭を撫でてから”また、あとで”といい、その場を後にした・・・

 

 

 

次に一刀を待っていたのは・・・

 

 

「「「隊長ッ!!!」」」

 

 

彼の部下である”3羽烏”であった・・・

 

 

「凪ッ!真桜ッ!沙和ッ!」

 

 

飛び込んできた3人を一刀はしっかりと受け止めた

 

「うぅ~隊長のアホぉ!」

 

「うえぇ~ん、本当なの~本物の隊長なのぉ」

 

「うあぁ・・あぁ・・たい・・ちょ・・・う・・」

 

 

・・・3年間・・・待ち続けた・・・

 

彼が帰ってくることを信じて・・・

 

彼の”居場所”をなくさないように・・・

 

 

その”想い”の全てをぶつけて泣いた・・・

 

 

「・・・凪・・真桜・・沙和・・」

 

 

一刀は思う・・・

 

この娘たちの元に帰ってこれて良かったと・・・

 

いつもはふざけていた真桜も・・・沙和も・・・

 

いつもは真面目な凪も・・・

 

自分のことで泣いてくれている・・・

 

「(不謹慎かもしれないけど・・・俺は幸せ者だなぁ)」

3人が泣き止むのを待って、一刀は伝えた

 

「・・・本当にごめんな・・・勝手にいなくなって・・・」

 

「「「・・・・・・」」」

 

優しく3人の体を包み込む・・・

 

ぬくもりを確かめるように・・・

 

辛い思いをさせてしまったことへの労いを込めて・・・

 

 

 

「・・・なぁ、隊長」

 

・・沈黙をやぶったのは真桜だった・・・

 

「ウチなぁ・・・今、隊長が教えてくれた”天”の技術を蜀や呉に教えに行っとるんよ・・・」

 

「・・・うん」

 

「・・・ウチなりにな、隊長が目指した”平和”について考えたんよ・・・。・・・これから言うんはウチが出した結論なんやけど・・・」

 

一刀の反応を確かめるように言葉を区切る

 

一刀は優しい笑みを浮かべ、目線で”聞かせて?”といってくる

 

「”魏”だけの技術だったらダメなんやって・・・。・・・いつかまた、そのことがきっかけで戦争が起こってまうかも分からんしな・・・。でもな・・正直不安やった・・・同盟結んだっていうても、この間まで戦争しとった相手や・・・下手に技術を与えて、悪用されたらどうなるんやろ・・・初めの頃はそう考えてばっかりやった・・・」

 

「「「・・・・・・」」」

 

真剣な面持ちで真桜以外の3人は聞いていた

 

「・・・でもな・・それじゃアカンって思ったんよ・・・。隊長は天に帰ってまう前にウチらに色んなもの残してくれた・・・。それはウチらでも、活用できるって信じてくれたからやろ?」

 

一刀は黙って頷いた・・・

 

「それで思ったんよ・・・。もし隊長やったらどうするかってな・・・」

 

真桜はそこまで言うと、顔を上げて堂々と言った

 

「答えは簡単や!隊長やったら、まず蜀のことも・・呉のことも”信じっとった”はずや!」

 

“そうやろ?”っといったような真桜の視線に一刀は頷く

 

「これから仲良くやっていきましょう、いうのに相手のことを信じられんっていうのは隊長の考えやない!・・・そう思えたからこそ・・・ウチは蜀と呉にも”天”の技術を教えることにした・・・。隊長から直接、技術を受け継いだウチが教えたら、そんなに危険もないって思ったしな!」

 

そこまで言って、真桜はニカッと笑った

 

「・・・でもな、それ以上に・・・」

 

真桜は続ける・・・

 

「隊長が”いた”ってことを・・・こんなに凄い人が”いた”ってことを・・・こんなにこの大陸を愛した人が”いた”ってことを、みんなには知ってほしかったんや・・・」

 

真桜は再び、静かに一刀に抱きつく・・・

 

「・・ほんまに・・・ほんまに・・・帰ってきてくれて・・・ありがとうな・・隊長」

 

「・・・うん、ありがとうな・・真桜」

 

一刀はゆっくりと真桜の頭を撫で続けた・・・

 

 

 

 

 

「・・・沙和はね・・・」

 

沙和も真桜に続くように声を出す・・・

 

「沙和は・・・今はね、ウジ虫共の訓練をしながら、服の意匠を考えたりしてるの。・・・でもね・・・隊長がいなくなった頃は・・・何をすればいいのか分からなかったの・・・」

 

「・・・沙和」

 

「だって沙和は・・・凪ちゃんみたいに武も強くないし・・・真桜ちゃんみたいにカラクリも作る技術はないし・・・」

 

「「「・・・・・・」」」

 

それは彼女がずっと抱えてきた問題だった・・・

 

“将軍”とはいっても、他国の将からすれば見劣りしてしまう・・・

 

自分が”将軍”でいいのだろうか、と・・・・・・

 

「・・・だからね・・・とりあえずは警備隊の仕事だけしてたの・・・」

 

“でも・・・”と沙和は続ける・・・

 

「・・・戦争が終わったはずなのに・・・洛陽の様子がおかしかったの・・・」

 

「・・・洛陽が?・・何で?」

 

そう言った一刀に3人からじとーっとした視線が向けられる・・・

 

「・・・隊長は本当に鈍感のくそやろーなの・・・」

 

「・・・せやな~さすがに・・・」

 

「・・・隊長・・・」

 

部下にボロクソに言われ一刀は苦笑いである

 

「・・・はぁ~、そんなくそやろーな隊長に教えてあげるの・・・」

 

「うぅ・・・お願いします」

 

「・・・洛陽がおかしかった原因は・・・隊長なの・・・」

 

「えっ!?俺ッ?」

 

コクリと頷く3人

 

「・・・隊長は町でも人気者だったの・・・。華琳様たちのことを真名で呼び捨てできるぐらい偉いのに、いつも町の人の立場になって考えてくれてたから・・・。・・・そんな隊長がいなくなっちゃったから、町の人から”笑顔”が消えちゃったの・・・」

 

「ッ!?」

 

 

一刀は改めて、自分の犯した”罪”の重さを感じていた・・・

 

 

大切な女の子たちだけではなく・・・

 

 

守るべき民の”笑顔”を奪ってしまった・・・

 

 

“はぁ~”と息を吐く・・

 

「(本当に俺って奴は・・・)」

 

 

落ち込んでいる一刀をよそに、沙和は話を続ける

 

「話を戻すの。沙和は・・・そんな人たちを見るのがいやだったの・・・。隊長がいたころは町の人みんなが笑ってて、警備隊は全員そのことを”誇り”に思ってたの・・・。だから・・・沙和は何とかしてあげたいって思ったの・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・でもね・・さっきも言ったように・・・沙和は武も智もからっきしなの・・・。・・・それで・・・沙和が得意なことって何だろうって考えたの・・・。そしたらね・・・あったの、”一つ”だけ」

 

それはとても”沙和”らしい考え・・・

 

「それはね・・・”お洒落”だったの」

 

沙和はそこで、えへへっ、と照れ笑いを浮かべた

 

「”お洒落”するとみんな幸せになれるんじゃないかって、沙和は思ったの・・・。沙和は馬鹿だから・・・難しいことはよく分からないけど・・・誰だって新しい服を手に入れたら嬉しいし、誰かに見せたくなるの!」

 

“うん”と頷く一刀・・・

 

「だからね・・・沙和は服の意匠を考えることにしたの。隊長が残してくれてた服の意匠も合わせて、みんなが着るたびに”笑顔”になるような服を作ろう!って思ったの」

 

 

 

この時代・・・決して服も安いものではない・・・

 

それでも・・・普通の人でも買えるように・・・

 

“買ってよかったな”って笑ってもらえるように・・・

 

沙和は懸命に考えた・・・

 

 

 

「今じゃね、3国じゃあ知らない人はいないっていうぐらいの人気なの!」

 

そういう沙和の顔は一刀からはとても誇らしく見えた・・・

 

「・・・沙和」

 

一刀は沙和を抱きしめ、囁く

「沙和は、一つ間違ってるよ?」

 

“えっ?”という困惑した表情を見せる

 

「いいかい、沙和?・・・沙和は馬鹿なんかじゃないよ。沙和は民のために自分ができることを一生懸命考えて実行したんだろ?」

 

そう、そしてこの娘は結果を残したのだ・・・

 

それも3国に響き渡るぐらいにでかい結果を・・・

 

「それは立派な”将”だよ。少なくとも俺は尊敬するし、何よりこんなに優しい娘を部下にもてたこと・・・俺は心の底から”誇り”に思うよ・・・」

 

「・・・たい・・ちょ・・・う・・・うぅ」

 

一刀の言葉を聞き、再び沙和は泣き出してしまった・・・

 

 

---自分のしたことは間違いじゃなかったんだ---

 

---”誇り”に思ってもらえるんだ---

 

 

そう考えると・・・溢れ出す涙を止めることはできなかった・・・

 

 

一刀は言う・・・

 

 

 

------「魏の・・・大陸の”笑顔”を支えてくれて・・・ありがとうな・・沙和」------

 

 

 

と・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙和が泣き止むと、一刀は残った一人、凪に視線を向けた

 

「・・・凪・・・君のことも聞かせてもらえるかな?・・・」

 

「・・・・・・はい、隊長」

 

意を決したように、凪は話し出す・・・3年間の苦悩を・・・

 

 

「・・・私は・・・今は警備隊長”代理”を拝命していますが・・・隊長がいなくなったと聞いたときのことを・・・正直あまり覚えてません」

 

「・・・覚えてない?」

 

「・・・はい・・・すみません・・・」

 

そういって律儀に頭を下げてくる

 

すごく“凪らしいなぁ”と思う

 

「あ、あぁ別にいいんだ・・・続きを聞かせてくれるかい?」

 

「・・・はい・・・どうやら華琳様からそう告げられた直後に・・・その・・・暴れだしてしまったみたいで・・・//////」

 

恥ずかしそうに凪は語る・・・

 

「気がついたときには・・・部屋に寝かされていました・・・頭に包帯をまいて・・・」

 

「包帯ッ!?」

 

一刀は凪に何があったのかと思い、驚きを隠せなかった・・・

 

「そこはウチが話したるわ」

 

今まで口を挟まなかった真桜が凪のかわりに何が起こったのかを語った・・・

 

「凪はなぁ・・・大将から隊長が消えたって聞いた瞬間は・・・ただ呆然としてたんや・・・。・・・でや、急に叫びだしてやな・・・額を地面にぶつけ初めたんや・・・」

 

「・・・地面に・・・」

 

「そや。まぁなんとか秋蘭様と3人がかりで止めれたんやけどな・・・」

 

「・・・・・・」

 

一刀は何もいえない・・・

 

「(そこまでこの娘を追い込んでしまったのか・・・)」

 

動揺する心を無理やり押さえ込む・・・

 

これ以上聞くことが”怖い”と思えた・・・

 

彼女が抱えた闇を知ることが・・・

 

 

 

 

 

「(ふっ、何を考えてるんだろうな・・・俺は・・・)」

 

そう考えた自分を鼻で笑う

 

「(俺は受け止めなきゃいけない・・・この娘たちの全てを・・・)」

 

他ならぬ自分が招いたことなのだから・・・

 

 

 

 

「・・・話・・・続けますね・・・」

 

一瞬の沈黙の後に、凪が再び口を開いた

 

 

「正直、起きたときも隊長がいなくなったんだって実感はありませんでした・・・」

 

“でも・・・”と凪は続ける

 

「心配して見舞いに来てくれた真桜や沙和の顔を見て・・・ようやく実感しました・・・」

 

 

------あの時の顔は忘れはしない

 

------笑っているのに”笑えていない”顔を

 

------何かを堪えるように噛み締める唇を

 

 

「・・・隊長は・・・いなくなったんだなぁ・・・・って・・・」

 

 

「「・・・凪(ちゃん)」」

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・一度考え付いてしまったら・・・泣くことしかできませんでした・・・」

 

3人で泣いた・・・

 

声が枯れるまで・・・

 

涙が枯れるまで・・・

 

 

「・・・それからの私は何をやるにも気力が湧いてこずに・・・無作為に日々を過ごしました・・・。・・洛陽に帰ってからも変わらずに・・・」

 

 

そこまで言って、凪はふっと笑った・・・

 

「それでも・・・ですね。そんな私を真桜と沙和が救ってくれました」

 

一刀が2人の方を見ると、2人とも照れ笑いを浮かべていた

 

「・・・沙和には・・・人生で初めてかもしれません・・・殴られました・・・。”一人で悲しみを抱え込むなんてバカだ”って言われて・・・。真桜には・・・優しく抱きしめてもらいました・・・。”3人で考えよう”って・・・」

 

「うぅ~なんや照れるな~」

 

「うぅ~恥ずかしいの~」

 

2人が恥ずかしがっているのを見て一刀は苦笑する

 

凪もそんな2人を見ながら、話を続ける

 

「2人に何もかもを話して、私は・・・少し楽になりました・・・。”隊長は絶対に帰ってくる”という2人の言葉に勇気をもらえました・・・」

 

「・・・凪」

 

 

一刀は思う・・・

 

------この3人はお互いを心から信じられる素晴らしい”親友”同士なのだと

 

------いつもはふざけている2人もちゃんと凪のことを見ているのだと

 

 

「・・・それから・・・2人からこれから何をするつもりなのかを聞きました・・・。・・・真桜も沙和もさっき言ったように、自分の”するべきこと”を考えていました・・・。聞かされた時にすぐに気づきましたよ・・・それが”隊長”のためだ、って・・・」

「「//////」」

 

この時点で沙和と真桜の顔はいいわけできないほど真っ赤になっていた

 

“だから・・・”と続ける

 

「だから私も・・・何かしたいと思いました・・・隊長が帰ってくるその日まで・・・」

 

 

「・・・それが警備隊の隊長”代理”?」

 

コクリ、と凪は頷く

 

「・・・私にとって・・・いえ、民を含めて私たちにとって”北郷一刀”隊長が率いていた警備隊は・・・特別なものでした・・・ですから・・・”北郷隊”の名前だけは守ろうと思いました・・・」

 

 

------北郷一刀の率いる警備隊はただの”警備隊”ではなかった・・・

 

------警備隊であると同時に、民と国との”絆”の証であった・・・

 

 

だからこそ・・・魏において、

 

 

------その名はとても”重い”・・・

 

 

「隊長に着任しなかったのは、隊長の”居場所”を奪いたくなかったから・・・。”いつか帰ってきてくれる”という自分の心を支えたかったんです・・・」

 

凪は一刀にギュッと抱きつく・・・

 

「・・・信じて・・・よかったです・・・諦めないで・・・よかった・・・」

 

そういって、涙を流し始めた・・・

 

 

 

 

「・・・凪」

 

一刀は感じていた・・・

 

3年分の”悲しみ”を・・・

 

3年振りの”嬉しさ”を・・・

「・・・ごめんな・・凪。それと・・ありがとう。俺のことを信じてくれて」

 

「たい・・・ちょ・・う・・」

 

少しだけ離れた位置にいた2人にも一刀は呼びかける・・

 

「・・2人もおいで」

 

呼ばれた2人は一瞬キョトンとした表情を見せたが、言葉の意味を理解して、すぐに笑顔で飛びついた

 

3人を慈しむように優しく抱きしめ・・・一刀は伝える・・・

 

 

3年分の感謝を・・・

 

 

「3人とも本当にありがとうな・・・俺の帰るべき場所を守ってくれて・・・。」

 

 

これからの決意を・・・

 

 

「もう・・こんなことで泣かせたりしない。絶対に消えたりなんかしない。どんなに惨めでも、この”世界”にいてやる!」

 

 

「たい・・・ちょ・・・う・・・うぅ・・うぁ」

「うぐ・・えぅ・・うぅああ」

「うぅ~うあぁああ」

 

「「「うあぁぁぁぁ~ん!!!!」」」

 

 

3羽の烏は”鳴いた”・・・

 

それは3年前のような悲しみの”鳴き声”ではなく・・・

 

3年ぶりに再会した親鳥に自分たちのしてきたことを”認めてもらえた”から・・・

 

自分たちは彼の”居場所”を守ることができたのだと思えたから・・・

 

 

------ただ、嬉しかったからこその”鳴き声”

 

 

 

------彼女たちを抱きしめた親鳥は・・・優しい笑みを浮かべていた------


 
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