No.136189

遊戯王デュエルモンスターズ フリーダムヒーローズ 第6話

スーサンさん

霊使い再登場です。この話の中枢を担う予定なので、ちょくちょく出ます。今回は水霊使いエリアが主役です。かなり内容は重いですけど、楽しんでいただければ幸いです。

2010-04-13 15:50:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1289   閲覧ユーザー数:1235

 るんるん気分で錬太郎の部屋の前に立つとエリアはムフフと気持ちの悪い笑顔を浮かべた。

「今日は私がマスターの朝起こし当番! 毎回クジで失敗してるけど、今回は久しぶりにマスターの寝顔が拝見できるぞ!」

 それではと、一回深呼吸し、部屋のドアを開けるとエリアは元気な声を上げ叫んだ。

「マスター、朝だよ! 学校に遅刻しないうちに早く起きて、一緒に朝ごはん、食べよ!?」

 ガチャンッと大きな音を立てて部屋に入るとエリアは、あれっと首をかしげた。

「マスター?」

 大声を上げても起きない錬太郎にエリアはチョコチョコと可愛い足音を立てて近づき、そっと顔を覗き込んだ。

「マスター?」

「う……うぅ……」

「マスター!?」

 脂汗をかいてうなされている錬太郎にエリアは慌てて肩を掴み強く揺さぶった。

「マスター、起きて!?」

「うぅ……あ?」

 パチッと目を開けると錬太郎はエリアの目からもハッキリ見えるくらい、疲れた息遣いで起き上がった。

「ふぅ……なんだ、朝か?」

 まるで雨に打たれたようにビッショリ塗れたパジャマを見て、錬太郎はエリアの頭を撫でた。

「ありがとう……おかげで目が覚めたよ?」

「……」

 撫でられた手をそっと離し、優しく包むとエリアは心配そうに聞いた。

「もしかして、悪い夢を見てたの?」

「お前が気にすることじゃない……」

 ベッドから出ようとする錬太郎を押さえ、出れないようにするとエリアは覆いかぶさるように錬太郎の目元の下をペロリと舐めた。

「エ、エリア……?」

 顔を真っ赤にする錬太郎にエリアは慈愛に満ちた顔で舐めた舌を出した。

「涙……出てたよ?」

 錬太郎の涙の味をかみ締め、エリアは初めて錬太郎に心を開いた日のことを思い出した。

 

 

 錬太郎の家にやってきたとき、エリアは錬太郎のことが大嫌いであった。

 ムダに優しく、頼んでもいないのに誰もいない部屋を貸して、居座らせてくれる錬太郎にエリアは下心がありそうで嫌いであった。

 きっと、六体も精霊のカードを持つ自分を周りに自慢したい家持の金持ちのボンボンだろうとエリアは予測し、錬太郎のことを徹底的に嫌っていた。

 今日も部屋の一室で少女マンガを読みふけながら外から聞こえる楽しそうな声に耳をふさいだ。

「みんな、バカだ……あんな奴、信頼する価値なんかない」

 耳をふさぎ、ウィン達の楽しそうな声にエリアはイライラを募らせながら、ベッドに倒れこんだ。

「なんだよ、みんなだって最初はあいつのこと警戒してたくせに!?」

 人間に捨てられて、みんな、人間を信頼しない顔してたくせに、ちょっと優しくされたくらいであいつに心を開いて。

 私は絶対に騙されない。絶対にあんな奴に騙されないぞ。人間なんて、みんな薄汚れたエゴの塊だ。

 トントン……

「ッ……だ、誰!?」

 顔を真っ赤にして怒鳴り込むエリアにドアの外から優しい声が響いてきた。

「俺だ……錬太郎だ。ちょっと、中に入っていいか? ホットケーキが出来たんだ。一緒に食べよ?」

「いらない! どぅせ、それで仲良くなろうなんって考えてるんでしょう!? 私は他のみんなみたいに騙されないぞ!?」

 ガッと怒鳴られて落ち込んだのか、沈黙が訪れ、エリアは少し言い過ぎたかとドアに近づこうとした。

「じゃあ……仲良くならなくっていいから、勝手に入るな?」

「ギクッ……!?」

 慌てて部屋の奥に引っ込むとエリアはベッドの枕を持ち、投げつけた。

「入ってくな! このバカ!」

 バシッと枕が顔面に直撃し、ホットケーキが床に落ちるとエリアはビクッとなったように身体を固めた。

 怒られる。

 嫌っている人間だが、怒られるのは自然と怖かった。だが……

「悪い……ホットケーキ、落としちまったな? 新しいの作り直すから、一緒に食べよ?」

「……」

 床に落ち、汚れたホットケーキを拾う錬太郎に、なぜか心が痛くなった。

 そんな自分を認めたくなかったのか、エリアは癇癪を起こしたように怒り出す。

「ホットケーキなんて大嫌いだ! お前の顔なんか見たくもない! 二度とこの部屋に来るな!?」

「……」

 ほんの少しだけ辛い顔をすると、錬太郎は泣き出しそうな笑顔でいった。

「嫌われてるようだな……でも、この部屋はお前の部屋だから、好きに使っていいからな?」

「……?」

 言ってる意味がわからず、顔をしかめるエリアに拾い終わったホットケーキを持ち、部屋から出て行く錬太郎にエリアはどこか負けた気分を味わい、唇をふるふる震わせ泣き出した。

「あんな、なよなよした奴、絶対に信じない! 人間なんって、みんな一緒だ! 能力や価値観でものを決めて、意味をなくしたら捨てる。そんな奴らだ……あいつだって」

 大粒の涙を流し、エリアは自分を捨てた人間のことを思い出し、怒りを露にして、暴れだした。

「みんな一緒だ! みんな嫌いだ! あんな奴と仲良くしてるほかの奴らも大嫌いだ!」

「なら、なんだっていうんだ?」

「え……?」

 部屋のドアを開け、腕を組む少年にエリアは涙を拭いて叫んだ。

「ダルク。なにかよう!? 勝手に私の部屋に入らないで!?」

「……だいぶ、汚れたな?」

 エリアが散々好きに使ったのか、まくらの綿やマンガが散らばる部屋で、エリアは声を荒げ、叫んだ。

「あいつが好きに使えっていったから使ってるのよ!? どぅ使おうか、私の勝手でしょう!?」

「……当て付けのつもりか?」

 哀れんだように目を細めるダルクにエリアはイライラを募らせ怒鳴った。

「さっきからなによ!? お説教なら聞かないわよ! あんな自己保有欲の塊の人間の部屋なんって、いくら汚れても、私の知るところじゃ……」

「もぅいっぺん言ってみろ?」

 グイッと胸倉を掴まれ、ダルクは泣き出しそうな顔でエリアを睨んだ。

「いいか。この部屋はな、俺達のようなよそ者が入っていい部屋じゃないんだ……」

「……?」

 不思議そうに目をパチパチさせるエリアにダルクは乱暴に胸倉を放すと背を向けた。

「いいか。これ以上、マスターの悪口を言ってみろ。兄妹同然のお前でも、容赦しないからな?」

「……」

 なんだっていうのよ。なんで、私が怒られなきゃいけないのよ……

 

 

 この家は嫌いだ。

 人間は嫌いだ。

 そして、そんな嫌いな人間に心を開きかけている自分はもっと嫌いだ。

 エリアはベッドの中で死んだような目で何度も天井を眺め、目を瞬かせた。

「みんな、どぅせ、私のことなんか好きじゃないんだ」

 ポツリと出た、覇気のない言葉に、エリアの目からス~~と涙が流れた。

 みんな、私のことを好きじゃないから、みんな、私のことを捨てたんだ。

 だから、ダルクだって私を怒ったのよ。

 みんな私を嫌ってるから、私は一人なんだ。

 あいつだって、心の中じゃ、自分になびかない私を鬱陶しいと思ってるはず……

「……」

 ベッドから起き上がり、ここ数日間で綺麗にした部屋を眺めた。

「私が入っていい部屋じゃないなら出て行ってやるよ! それでみんな満足でしょう!? 私みたいな奴いないほうがいいんでしょう!?」

 怒鳴るように独り言をを呟くと、エリアは部屋のドアを開け、出て行こうとした。

「どこに行くつもりだ?」

「キャッ!?」

 尻餅をつくように倒れ、部屋の前に立っていたダルクにエリアは声を荒げ叫んだ。

「あんた、いつからそこにいたのよ!?」

 質問に答えず、ダルクは一人呆れたようにため息を吐いた。

「まだ、肩肘張ってるようだな?」

「だからなによ……?」

 この前、胸倉を掴まれたせいか、声を震わせるエリアに、ダルクはついて来いと合図した。

「来いよ……その部屋が俺達が入っちゃいけない理由を教えてやる」

「……?」

 ダルクに連れられるまま、廊下を歩くとエリアは意外そうに口を開いた。

「なによ、あいつの部屋じゃない?」

 可愛い字で「錬太郎」と書かれたドアをそっと開き、ダルクは覗くようジェスチャーした。

「……」

 本当は覗きたくなかったが、ダルクを怒らせるのも怖かったので、仕方なく部屋の中を覗くとエリアの顔が不思議そうに染まった。

「なにあれ……女の子の写真を持って、泣いてるじゃない?」

 バカにしたように微笑み、ダルクにいった。

「もしかして、フラれたとか? まぁ、あんな冴えない奴じゃ当然ね?」

 ケラケラ笑うエリアにダルクは静かにいった。

「亡くなった妹さんの写真だよ……あれは」

「え……?」

 エリアの笑いがピタリと止まった。

「詳しくは話してくれなかったが、マスターのお父上は暴漢に襲われて亡くなり、お母上はマスターと妹さんを養うため、過労で倒れてお亡くなりになり、妹さんは親御さんを亡くしたストレスでシンナーに手を出して、錯乱状態で投身自殺したらしい。お前が使ってる部屋は妹さんが使ってた部屋で、本当は汚されたくない大切な場所だと思ってるに違いない」

 冷たく説明を続けるダルクにエリアは震える声でいった。

「じゃ、じゃあ、なんで、あの部屋を私に……」

「お前がいち早く、あの部屋に入ったからだ。余計な気遣いをさせたくなかったんだろう。お前が冷たくするたびに、マスターは折れそうな心を必死に支えながら、お前と接しようと努力してるんだ。それに比べてお前はどぅだ?」

「え……?」

 目を見開くエリアにダルクは怒りをぶつけるようにいった。

「マスターと正面からぶつかる勇気もなく、マスターを跳ね除けるだけ。その行動が、どれだけマスターを傷つけてるか、考えたことあるか?」

「……」

 言葉を失うエリアに、ダルクは静かにいった。

「たぶん、俺達はマスターが失った家族の代わりなのかもしれない。でも、マスターの愛情は本物だと俺は保障できる。いい加減、意地を張ってないで正直になったらどぅだ?」

「正直に……?」

 驚くエリアにダルクはそっとドアを指差した。

「そのドアを開けて、思いっきりマスターに自分の感情をぶつけて来い。マスターは全部受け止める覚悟はある。お前だって、本当はマスターをマスターと呼びたいんだろう?」

「……う、うるさい!」

 気付いたら怒鳴り声が響いていた。エリアは大粒の涙を流し叫んだ。

「うるさいうるさいうるさい! それこそ、いい迷惑よ!? 私はあいつの妹の代わりなんかじゃない! 私は私だ! 水霊使いエリアだ! 決してあんな……マ、マスターの妹の代わりなんかじゃない……」

「エリア……」

「え……?」

 背後から聞こえる錬太郎の声に振り返るとエリアは顔を真っ青にして走った。

「うわぁぁぁぁぁ……」

「エリア!?」

 慌てて後を追いかけようとする錬太郎の手を掴み、ダルクも泣き出しそうな弱々しい顔でいった。

「頼むよ、マスター……あいつを救ってくれよ? 嫌だよ。誰か一人でも欠けるのは……みんなで家族になりたいんだよ、俺は……」

「……」

 優しくダルクの頭を撫でると錬太郎は目線を合わせるようにしゃがみ、抱きついた。

「大丈夫だ……よぅやく、エリアの心の声が聞けた気がした。あいつが俺に求めているものがよぅやくわかった。だから今度は俺があいつに答えなきゃいけない番だ」

 そっと離れ、ドアに向かって歩き出すとダルクは元の力強い目でいった。

「マスター……信じてるよ。俺も……きっと、エリアもマスターを待ってる。帰ったら、一緒になにか食べに行こうよ?」

 振り向きもせず、親指をだけを立てる錬太郎にダルクはキザだなと苦笑した。

 

 

 嫌いだ。

 みんな大嫌いだ。

 私も嫌いだ。あいつも……マスターも大嫌いだ。

 もぅ、私なんって……

「どぅなってもいいんだ!?」

 バンッと凄まじい衝撃が走り、雷雲が木霊した。

「もぅいい……目に映るもの全部が私の敵だ! こんな敵だらけの世界、私は入らない! 全部、壊してやる!」

 ポツポツと雨が降り、その雨が寄り集まるとエリアの頭上に塊ができ、一体のモンスターが現れた。

 エリアは涙でクシャクシャにゆがんだ顔で叫んだ。

「みんな壊れちゃえ~~~~~!?」

「壊すな! 壊したら、元に戻れないぞ!?」

「ッ……!?」

 頭上で作られかけていた水のモンスターの形が崩れ、雨に濡れた錬太郎が歩いてきた。

「……エリア。迎えに来たよ?」

「く、来るな!?」

 ゆっくり近づいてくる錬太郎にエリアは声を荒げ、形の定まらない頭上の水のモンスターに叫んだ。

「〝スパイラルドラゴン〟! マスターを倒せ!」

「キァァァァァァ!」

 頭上に浮かんだスパイラルドラゴンの口から放たれた水の衝撃波に錬太郎は目を見開いた。

 ドッ……

「ガハッ……!?」

「あ……」

 スパイラルドラゴンの一撃に吹き飛ばされた錬太郎を見てエリアの顔が真っ青になった。

「……この程度か?」

「え……?」

 口から血を吐きながらも立ち上がり、エリアに向かって足を進めると錬太郎は凛々しい眼差しで叫んだ。

「お前が俺に対する怒りを全部ぶつけて来い! 全部、受け止めてやる! お前の悔しさも。お前が俺に感じてる理不尽さも、俺は全部受け止める!」

「う……うわぁぁぁぁ!?」

 スパイラルドラゴンの口からいくつもの水流が撃ち出され、また吹き飛ばされる錬太郎にエリアは錯乱したように首を左右に振った。

「なんだよなんだよ!? マスターは私じゃなくって、妹を見てたんだろう!? 別に私がいなくたって、ウィンやライナがいるじゃないか!? 私なんか、いなくたって誰も困らな……」

 パチンッ……

「え……?」

 いつの間にか自分の頬を叩く錬太郎にエリアは目を見開いた。

「困らないわけないだろう……」

 ギュッと身体を抱きしめ、錬太郎は泣きながらいった。

「ごめんな……お前の気持ち、気付いてやれなくって……確かに、俺はどこかで、お前達に妹や家族を重ねてた。それがお前に一番傷つく要因だって気付いてやれなかった……考えれば、誰が一番傷つきやすいのかわかってたのに?」

「マ……スター?」

「でもな……それでも、自暴自棄になるな。俺が嫌いなら、嫌いでいい。いくらでも嫌え……でも、何度でも言う。自暴自棄になるな。お前がいなくなって、悲しむのは俺だけじゃないんだぞ? ダルクだって、ウィンだって、もちろん、他のみんなだって、悲しむんだ」

 そっと、エリアから離れ、優しく微笑んだ。

「それに気付いてるか? さっきから、お前、俺のことを〝あいつ〟とか、〝お前〟じゃなく〝マスター〟って呼んでくれてるんだよ?」

「え……?」

 自分に驚くエリアに錬太郎はまた抱きしめ、優しくささやいた。

「少しは認めてくれたんだよな? 大好きだよ、エリア?」

「……」

 エリアの目から自然と涙があふれてきた。

「マ、マスター。わ、私……」

 ポロポロとさっきとは違う涙が溢れてきて、声を上げた。

「私……マスターを信じたかった。でも……また、捨てられるのが怖くって……」

 錬太郎の背中に腕を回し、胸に顔をうずめるとエリアは大声を上げて泣き出した。

「ごめんなさい! マスター、ごめんなさい! 私、マスターを信じたい! 本当はマスターが大好き! エリア、いい子になるから、嫌いにならないで!?」

「ああ。嫌いになるわけないだろう? それにエリアは悪い子じゃないよ。ちょっと、傷つきやすいだけの俺の可愛い家族だ」

 そっと頭を撫でる錬太郎にエリアは解放された顔で泣き続けた。

 降り注ぐ雨の中、エリアが作った擬似モンスターのスパイラルドラゴンが霧となって消え、二人は抱き合ったまま泣き続けた。

 大きく隔てた壁が音をたてて壊れる音を感じて……

 

 

 昔を思い出すと、エリアはそっと、錬太郎の顔を見て、悲しそうに心を痛めた。

「……マスターの中の雨はまだ、止んでないんだね?」

「エリア……?」

 考えるように天井を見上げるエリアに錬太郎は不思議そうに首をかしげた。

 あの後からだった。

 エリアが自分に正直に生きるようになったのは……

 周りが呆れるくらい、錬太郎に甘えるようになり、社交的になり、そして、明るくなった。

 確かに、自分を捨てた人間は許せないが、今はそんなのどぅでもよく感じた。

 錬太郎が近くにいる。

 それがエリアにとって、一番の幸せだった。

 だから、錬太郎にも早く解放されてほしかった。

 いまだに夢を見て苦しむ家族の亡霊に縛られ開放されない錬太郎に、本当の意味で全員が家族になれる日を、エリアは心から願った。

「マスター……」

「ん……」

「大好き!」

 ニコッと微笑み、エリアは錬太郎の悲しみを早く自分たちに打ち明けてほしいと願った。

 

 


 
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