ゲストさん

No.123080

2010-02-08 10:07:38 投稿

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かうちさん

ハッピーバレンタイン

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「アキラ君、君はどうして医学を志したのですか?」

「はァ?」

 

第一印象。

変なヤツ。

 

医者なのに長髪で、生徒の顔をイチイチ覚えてて、しかもファーストネームで呼んでくる。

オレの大学の教授は、そんなヤツだった。

名簿を見たりせず、しっかりとこちらに視線を向けて、イヤミなくらいの「イイ人スマイル」で聞かれた質問の中身は、実にチープなものだった。

 

「アキラ君、君はどうして医学を志したのですか?」

 

まるで、小学生に「君はどうしてお医者さんになりたいの?」と言っているみたいなモンだ。

血と内臓を見るのが好きだからだよ、と言おうとして、だけどオレの視線はこっちをしっかり見てるヤツの視線とぶつかった。

まっすぐだった。

とてもとても、まっすぐな視線だった。

コイツに「血が好きだ」なんて、言いたくなくなってしまう位に、まっすぐな視線だったんだ。

 

「・・・別に。特に意味なんてねぇーんじゃねぇの」

 

適当に口にした答えは、自分の声じゃないみたいに耳に届いた。

 

 

教室にはオレの他にも人がいて(一年の必修授業だから当たり前だ)、すぐにアイツは、何人かオレ以外の生徒にも同じ質問を繰り返した。

ヒトを救いたい、とか、親が医者だから、とか、そんな答えを返すヤツが多かった。

しばらく雑談をしてから始まった講義は、やっぱり面白くなかった。

 

 

 

 

「八神・・・、センセェ」

講義が終わってすぐに廊下に出た八神を追っかけたのは、自分でもよく分からない衝動。

「おや、アキラ君。私の講義は面白くなかったですか?」

やっぱりどこまでも変なヤツ。

ここでオレが「面白くなかった」って素直に言ったら、この「イイ人スマイル」は崩れるんだろうか。

って言うか、ファーストネームで気安く呼んでんじゃねぇよ。今日初めてあんたの講義受けたってのにいつ覚えたんだ。

「別に・・・あの、」

「あぁ、どうして私が君の名前を知っているか、ですか?」

「へ?」

いや、それもモチロン不思議だけど。そんな事わざわざ聞きに呼び止めたりしねぇよ。って言うか、何なんだよ、何かウラでもあんのかよ。

「私もリアールでアルバイトのようなモノをしているんですよ」

他の学生には秘密ですけどね、とニッコリ笑った八神は、とてもじゃないが大学の教授には見えなかった。せーんせーぇ、教授ってアルバイトしなけりゃいけない程、お金に困るモンなんですかー? ってなモンだ。

いや、だからそうじゃなくって!

「それと、君がいつも一人で座っているから」

「・・・はぁ?」

言われた意味がとっさに分からず、思わず間の抜けた声を出してしまった。・・・くそぅ、その「イイ人スマイル」やめろって。コイツといると、自分がどんどん小さな子どもみたいに思えてくる。

「じゃあ、またね。アキラ君」

 

結局、何でアイツを追いかけたのやら分からぬままに、八神は行ってしまった。

何だよ、オレがいつも一人で座ってるからって何だってんだ。

大学来てまでそこいらのヤツと仲好しごっこをする気みねぇし、何よりオレには誰も近寄ってこねぇ。だからって一人が淋しい訳でもないし、沈んだ顔をしてた訳でもない。

コミュニケーションに餓えるほど、何かを求めている訳じゃない。

 

 

第二印象。

ヤなヤツ。

 

 

 

次の週から、八神の講義はザボりっぱなしだ。行かなくても分かる内容だし、なるべくアイツの顔は見たくない。

胸の奥にモヤモヤが巣食ってるみたいに、アイツの顔を見て、声を聞いて、じっとホワイト・ボードを写しているのが、イヤだった。

だから、バイトで顔を出した先に八神がいたのも、オレにとっては当然、ありがたくない事だった訳で。

しかも気付かれない内に退散、なんて出来る筈もなく、例によってまっすぐな視線はオレの方をしっかりと向いていて。

 

「こんにちわ、アキラ君」

ニッコリ。

だからファーストネームで呼ぶなっての。

「・・・こんにちわ、八神センセェ」

もともと無愛想な顔が自然と仏頂面になるのは、オレのせいじゃない。オレが悪い訳じゃない。入り口すぐの所で悠長にタイムカード押してる八神のせいだ。

大学教授がバイトのタイムカード押す姿ってどうよ。

 

久しぶりに見た八神の顔は、やっぱりどこまでも「イイ人スマイル」が張り付いてて、久しぶりに聞いた八神の声は、やっぱり八神の声だった。

「私の講義はよっぽど面白くないみたいですね、あれ以来アキラ君が出席しているのを見た事がない」

「別に」

講義も面白くないけど、あんたの顔を見たくなくて、声を聞きたくないんだよ。

なんてのは、声に出さない呟き。

「嫌われてしまったみたいですね、残念です」

軽い溜息と一緒に、何故かオレの頭の上に八神の手が伸びる。

ポンポン、と子どもをあやすように優しく叩いて、まっすぐな視線でオレの目を見る。

めちゃめちゃ子ども扱いじゃねーか、オイ。

怒る気もどこかへ行くほど、子ども扱い。

やめてくれ、あんたの顔なんて見たくないんだ。ほら、体温上昇、脈拍上昇、動悸、息切れ、めまい。イライラしてモヤモヤして、どうしようもなくなるんだよ。

「オレ、子どもじゃねーんだから」

「あぁ、これはこれは失礼しました。では、また」

ニッコリ笑って手をふって、歩いていく八神の後姿。

オレの中をぐるぐるまわってたヤな感情も、一緒にどっかへバイバイ。

 

ありがたい。

 

八神に会う度に、身体をめぐるヤな感情。会ってないなら会ってないで、あの「イイ人スマイル」が目の前をチラチラするのに、会えば会ったで動悸、息切れ、果ては顔に体温集中。

耳元からは、「君がいつも一人で座ってるから、」って言った時の八神の声が放れちゃくれない。掠れた低音ボイスは耳に心地良い音域なのに、どうしてこんなにイライラモヤモヤしてるんだ、落ち着けオレの心臓。

 

 

とりあえず、大きな溜息を一つ、自分のタイムカードを押して、プログラミング用にあてがわれた部屋へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とぉーころで、秀樹くん! 物陰からこっそりさっくりバイター・黒岩をストーキングしていた訳なんだけどもね!」

「・・・総統、犯罪行為はやめて下さい・・・」

「やっぱり若いって良いね! ボクも昔が懐かしくなったよ!」

「何なんですか・・・あぁ、もう何なんですか。休日出社させてまで何でオレはこんな話聞かないかんのですか」

「恋の特効薬は何と言っても抱擁と接吻だね!」

「あぁ、もぅ、はいはい。ドクターに伝えときゃ良いんでしょ、まったく・・・何でこんな事」

「秀樹くん、何てこと言うんだい! 人の恋路を邪魔するヤツは総統に蹴られて死んじまえだよ!!」

 

 

END

 

 

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