No.120205

~真・恋姫✝無双 孫呉の外史 拠点その弐

kanadeさん

遅くなりました拠点です。
今回は氷花・燕と香蓮です。
それではどうぞ!

2010-01-23 23:45:16 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:16871   閲覧ユーザー数:11621

孫呉の外史(拠点)

 

 

 

1/氷花・燕

 

 「さて、今日は折角の天気だし・・・河原でお昼にしようかな?」

 天気に恵まれたある日、ふとそんな事を思った。

 ――諸葛瑾 子瑜――氷花の手に抱えた袋には、ほのかに湯気が立つ饅頭が袋一杯に入っている。

 「・・・ボクは、どうしてこんなに買ったんだろう」

 蒸かしたての肉まんやあんまんは確かに美味しい。が、袋の中身は明らかに自分の胃の許容量を超えている。

 匂いにつられ衝動的に買ってしまった事をひどく後悔した。

 「ひばな・・・美味しそうな匂い」

 俯かせていた顔を上げれば、そこには指を咥えながら袋の中身を凝視する少女がいた。

 ――賀斉 公苗――燕だ。

 キラキラと瞳を輝かせる彼女を見て氷花はくすりと笑う。

 「よかったら燕ちゃんも一緒に食べよ?流石にこの量をボク一人で食べるのは無理だから」

 「いいの!?」

 そんなに驚く事なのだろうかとも思ったが、そんな些細な事を口にするのは実に馬鹿馬鹿しい。喜んでもらえているのだから、それで良いではないかと思う。

 「じゃあ森の方に行こ?良い場所があるの」

 両手で抱えていた袋を片手に持ち換え、空いた手で燕の手をぎゅっと握りそのまま郊外へと足を運ばせるのだった。

 (一様も誘いたかったな・・・)

 今現在、書類整理に励んでいる。尊敬する上司の事を考えて、頭を振るう。

 (流石に、その我儘は言えない。・・・戻ってくる時にお土産でも買っていこう)

 うん。と、心の中で結論を付け、氷花は燕と共に歩を進めるのだった。

 「かずとが仕事なのが残念・・・むむ、ひばな・・・無理?」

 「!うん。それは・・・ね。だから、帰りにお土産を買っていこ?」

 まさか同じことを考えていたとは思わなかったせいか、氷花は少しだけ驚いてしまった。

 だが、それは失礼だと反省する。彼女もまた、一刀の事を思う女の子の一人なのだから当然だ、と。

 「ん、そうしよー」

 氷花の提案に、頷く燕。氷花はくすりと笑って、そして立ち止まっていた二人はまた歩きだすのだった。

 

 

 ――郊外の森に出た二人は、氷花の先導のもとサクサクと進む。

 そして、とある場所に辿り着いた。

 「ふお~・・・」

 景色を見て感嘆の声を上げる燕。これだけ驚いてもらえたなら連れてきた甲斐があったと安心する氷花。

 「?あれは・・・・・・」

 すると何かを発見したらしく、燕がとある一本の木の許へと小走りで向かう。そんな友人の後ろ姿に、氷花はどことなく子犬みたいだなとほんの少し思ってしまう。

 やがて、目的の場所に辿り着いた燕はピタリと立ち止まり、視線を下に向けたまま動かない。何事かと氷花が彼女の傍まで行くと燕と同じようにピタリと立ち止まってしまう。

 「・・・・すぅ・・・ん・・・」

 そこで眠っていたのは二人がよく見知った人物だった。

 

 ――光を受けて時折輝く真っ白の服。その服を身につける彼は、その手には鞘におさめられた細身の剣がある。

 自分達の上司であり、〝天の御遣い〟と呼ばれる青年。

 そして二人が――。

 

 すると二人の気配に本能的に気づいたのか、彼は身じろいて目を開けた。

 

 「んん~・・・・・よく寝た。って・・・あれ、氷花に燕?」

 二人がいる事に不思議そうな声を出したのは、北郷一刀だった。

 「かずと、おはよー」

 「おはようございます。一様」

 「え、と・・・おはよう」

 今ひとつ状況が飲めていない一刀は、それでも挨拶を返すのだった。

 

 挨拶をしてから少しして、ある程度寝ぼけていた意識がハッキリとしところに氷花が尋ねてくる

 「あの、一様はどうしてここに?」

 「その前に・・・もしかして、今はもう昼過ぎ?」

 「うん。そしてつばめはお腹が減ってる。ひばな」

 氷花が、すっと差し出された燕の手に肉まんを一個置くと、燕はニコニコと笑ってそれを口いっぱいに頬張った。どことなくリスやハムスターを彷彿される実に愛くるしい光景である。

 燕の愛くるしさに癒されていると、氷花は一刀にも肉まんを差し出した。

 「どうぞ、たくさんありますから食べてください」

 「さんきゅ。ありがたく貰うよ」

 差し出された肉まんを受け取った一刀だったが、訝しがった顔をした。何かまずかっただろうかと思ったが、彼の疑問はすぐさま氷花の口から出た。

 「一様。〝さんきゅ〟とはどう意味なのです?色んな書物を読んできましたが、ボクが初めて耳にする言葉です」

 なるほど。確かにその疑問は御尤もであった。〝向こう〟ではこういった時にはごく自然に使っていたせいで気がつかなかったが、こちらではそんな言葉がある筈もない。

 であれば、疑問を持つのは当然だ。

 「〝さんきゅ〟ってのはね。正しくは〝サンキュー〟って発音するんだ、意味は〝ありがと う〟。ま、あんまり気にしなくていいよ。次からはできるだけ気をつけるからさ」

 「いいえ。気をつけなくていいです。こんな何気ない会話の中でも、一様と話していると新しい 発見があるから・・・とても楽しいです」

 「むむむ・・・ひばな、つばめに、もわかりやすく」

 「一様と一緒にいると退屈しないってこと」

 苦笑して答える氷花に対して、燕は合点がいったと言わんばかりにポンっと手を叩いた。

 そしておかわりを要求し昼食再開。それを見て氷花がほほ笑む。

 見ていて微笑ましい二人の光景を見て一刀はふと考えた。

 

 ――二人は、友人だが血の繋がりはない。だというのに今自分が見ている光景は、どうだろう。

 口元についた具をふきとってあげたりする姿、ほんの少し痛かったのか小さく唸る姿。

 

 ――まるで、本当の姉妹ではないか、と。

 

 氷花が持ってきた袋の中身が空になり、一息ついてから一刀は自分がここにいるわけを話し始めた。

 

 

 今朝方、朝食を終え。いざ仕事を始めると豪快な音で部屋の扉がぶち破られ、香蓮、雪蓮、冥琳が入ってきた。

 「あの・・・何事?」

 「一刀、貴方が今してる仕事って急ぎの仕事なの?」

 雪蓮が唐突にそんなことを聞いてきた。訳が分からなかったが、違うという意思表示を首を振ってこたえる。

 「ならば今日は休め。定期報告ならば今回は別に構わん。街の様子は聞いているからな。本来は そういうわけにもいかないが、まぁ・・・たまにはいいさ」

 「聞いた通りだ。いいな?お前、今日は休め」

 「あの、全く話が見えないんですけど・・・」

 ありのままを口にした途端、香蓮に首根っこを掴まれて部屋の外に放り出された。

 遅れて自分の愛刀を放り渡される。

 「問答無用。以前教えた森でゆっくり休んでこい。ソレは・・・ま、万が一のための護身用だ」

 扉をがっちりと抑えつけられているため、開けようがなくなっていた。

 結局、納得できないものもあったが渋々自分の部屋から離れていく一刀だった。

 

 一刀の気配が遠ざかっていくの感じてから、香蓮は扉に背を預け。雪蓮は寝台に腰かけ。冥琳は椅子に腰を下ろした。

 「さて、良い気分転換になってくれるといいのだが。なぁ?馬鹿娘」

 「も~。いい加減、馬鹿馬鹿言うの止めてよね。子供じゃないんだから」

 「ぬかせ。あたしからすれば祭以外の奴などどいつもこいつも儒子さ」

 「・・・・・・」

 娘の抗議に鼻で笑う香蓮。冥琳としては微笑ましいと思いもしたのだが、自分までもがこの問題児と同列視されているという事にささやかな不満を覚えた。

 「冥琳!今失礼な事、考えたでしょ!?」

 こういう時に無駄に勘がいい雪蓮を軽くあしらいながら今回の本題に入る冥琳。

 「伯符。今回の件、ここまで急ぐ必要はなかったのではないのか?」

 「急ぐ必要ならあったわよ。一刀は私達と同じになっちゃいけないの・・・。そう、私達と同じ獣には、ね」

 「・・・」

 ――〝獣〟――雪蓮は自分達をその一言で表した。

 そして、その表現を否定する気など冥琳にはなかった。

 奪われたものを取り戻すために戦っている自分達は、立ちふさがる全てを食い荒らす獣だ。通った後には屍しか残らない。

 「北郷は・・・既に己が手を血で染めている。だが、心まで血に染める必要はない・・・というわけか」

 「そういうこと♪ついでに言うと、蓮華もね」

 「一刀は不思議な男だ。血路しか知らないあたしたちに別の道を歩かせようとしている」

 「本人にその自覚はないけどね~♪」

 それが面白くて仕方ないと雪蓮は笑う。香蓮もそれに同意するように軽く笑った。

 「伯符。変わったわね・・・貴女」

 「どうかしら?でも・・・一刀の見せてくれる〝道〟は、見てみたいわね」

 「だとすれば・・・さて、何度衝突する事になるかな?」

 目を細めて未来を思い香蓮は笑う。心底楽しみだと。是非とも見てみたいと。彼女は笑った。

冥琳も小さな笑みを湛え、雪蓮もそれに倣った。

 

 ここにいない一刀は、自分が去った後にあったこの会話を知らない。けれども、彼は気がついていた。彼女達が自分に気を使ってくれた事に。

 だから彼は去る間際に、聞こえないほどの小さな声で一言。

 「ありがとう」

 そう言った。そして、扉の向う側にいた彼女達は、一刀が彼女達の会話を知らないように、この事を知ることはなかった。

 

 

 「――というわけで一日暇になった俺は特にやる事もなく、こうしてここで昼寝していたんだ」

 「あの方達らしいですね。冥琳様もご一緒だったというのが少々意外です」

 「・・・・・・かずと。ひょっとしてつばめ達、邪魔だった?」

 不安そうに聞いてくる燕と心配そうな顔をしている氷花。少々呆気にとられた様子で、ポカンとしていた一刀は、すぐに声を出して笑い。氷花と燕の頭をぐりぐりと撫でた。

 「そんなはずないだろ?二人とも俺の大事な仲間なのに邪魔だなんてことはないよ」

 撫でていた手を降ろして一刀は笑顔を見せた。

 『・・・・・』

 ぽーっと見慣れた筈の一刀の笑顔に見惚れていると、折角の雰囲気を壊すように一刀は大きく欠伸をした。

 「食べたらまた眠くなっちゃった。折角の陽気だし・・・ごめん。ちょっと寝かせて」

 木の幹に寄りかかり、二度目の欠伸をしてそのまま瞼を閉じ、すぐに寝息を立て始めた。

 「燕ちゃん」

 「ん?」

 「一様の事・・・好き?」

 「うん」

 一瞬の迷いもなく、燕は氷花の問いかけを肯定した。そして、燕はその問いかけをしてきた氷花に視線だけで問いかける。

 すなわち、〝ひばなは?〟と。燕の視線の意味を汲んだ氷花は笑う。

 「勿論、ボクも一様が大好き」

 だよねと燕は笑った。初めから二人にはこの質問が無意味だった。

 もっとも、一刀が寝ていたからこそ彼の目の前で出来たやり取りだが、本人がもし起きていたらと思い二人は頬を赤らめた。

 そんな自分達が面白くてお互いにくすりと笑う。

 そしてお互いに頷き、木の幹に寄りかかって眠っている一刀の太腿にぽすんと頭を乗せて二人もそっと目を閉じる。

 木漏れ日の中で、一刀は暖かな陽気に。氷花と燕は一刀の温もりに触れながら、三人は眠った。

 

 日が沈み始めた頃、三人の傍に一人の女性が姿があった。

 「さて、帰りが遅いから来てみれば・・・三人ともいい寝顔だ」

 香蓮だ。一刀の帰りの遅さに、ほんの少しだけ心配になった香蓮は様子を見に来たのだ。

 「一刀一人なら叩き起こそうかとも思ったが、この二人がいるなら止めておこう」

 くるりと身を翻し、香蓮は来た道を引き返す。

 「良い寝顔だ。刹那とはいえ、優しい夢を見てくれ」

 そのまま香蓮は置き土産を残し、立ち去った。

 三人が目を覚ましたのは、それから暫くしてのことだった。

 

 

 「すっかり星が顔を出し始めてるね?」

 「ですね」

 「綺麗・・・」

 『・・・』

 見上げて同感だと思った。三人が見上げた空は青天とはいかなかったが、雲の隙間に見える月と星の輝きは本当に美しかった。

 「ところで、俺の膝枕なんかで眠れたのかい?」

 視線を下ろすと自分の膝を枕にする部下が二名。言うまでもなく氷花と燕だ。

 二人は起きあがり。一刀を見つめ、そんな事はないと言った。

 「とてもよく眠れました。一様の膝枕は気持ち良かったです」

 「全然平気で無問題。かずと、あったかかったよ?」

 「そっか・・・ん?・・・酒?」

 一刀は腰元にある瓶を拾い上げた。栓を抜き、匂いをかぐとそこからは何度か嗅いだ事のある匂いがした。

 「これ、香蓮さんのお気に入りのお酒だ」

 「は?では香蓮様がここに来たという事ですか」

 「・・・多分、ひばなの言ってる事・・・は正しい。ほんの少し・・・香蓮様の〝氣〟を感じ、る」

 「一様。でしたらお月見といきましょう。・・・ですが杯が足りないですね」

 「・・・・・・少し待ってて」

 駆けだして森の中に入っていく燕。何事かと思った二人だが、程なくして彼女は二つの杯を持って戻ってきた。

 木の杯だったが、どこから持ってきたのかと聞いたら。

 「作った」

 そう言って次に一刀の〝徒桜〟を差し出した。いつの間に持ち出したのだろう、と疑問にこそ持ったがそれよりも驚く事が一つ。

 「刀、使えたの?」

 「ちょっと使いにくかった。だから少し無骨・・・〝焔澪〟持ってくればよかった。あれならもっと綺麗に作れた」

 

 ――焔澪は、燕の使っている紅と蒼の剣のことで、柄同士をつなぎ合わせ両剣として使う事のできる特殊な剣である。

 専ら、二刀流として戦う事がほとんどといえる彼女の両剣を使う姿は、一刀を含め呉の将たちしか知らない。

 

 「充分綺麗だと思うけど・・・な?」

 「うん。燕ちゃん、これじゃ駄目なの?」

 氷花の問いかけに燕はそうだと答えた。

 「仕方ないから、妥協」

 やれやれと溜息を吐く燕。思わず顔を見合わせて苦笑し合う一刀と氷花だった。

 「それじゃ、乾杯しようか?燕、よかったらこっちの使ってもいいけど」

 「それはかずとの。こっちのはひばなとつばめで使う」

 やんわりと断りを入れて一刀の杯に酒を注ぎ、氷花に自作の杯を渡し、同じように注ぐ。

 「それじゃあ・・・なんて言って乾杯しようか?」

 「はぁ。かずとは・・・馬鹿?そんなの、これからもよろしくで・・・充分」

 「同感。変なとこにこだわらなくていいんですよ?一様」

 氷花はともかく、燕の相変わらずの心に響く言葉に軽くへこむ一刀。頭を振るって咳払いして気を取り直す。

 「御尤も・・・じゃあ、これからもよろしくという事で乾杯!」

 『乾杯!』

 杯を掲げて声を上げる。

 それではといざ飲もうとした瞬間。

 「乾杯の音頭に、ひねりがきいてない・・・残念」

 やれやれまったくと言わんばかりの思いが込められた燕の一言に、一刀は軽く笑みを引きつかせた。

 それから景気を取り戻すように三人は、景色と談笑を肴に酒瓶が空になるまで酒を飲んだ。

 

 ――翌日。

 「頭・・・痛い。頭の中で音がする。うぇ・・・気持ち悪い」

 「燕ちゃん、頑張って。・・・あう・・・これは、堪える」

 「あはは・・・さ、頑張って警羅をしよう・・・」

 三人揃って、時折こめかみを押さえながらふらふらと仕事をしていた。完全無欠に二日酔いのようだ。

 

 そんな三人を見守る人影が二つ。食事処の外のテーブルに腰かけていた。

 「阿呆が三人、か。まさか全部飲むとは思わなかった。慣れん奴はすぐにああなるというのことぐらいわかりそうだがな。今日一日はあのままだろう」

 「はっはっは。堅殿が好むのはとりわけ強い酒じゃからの。三人で飲むなら大丈夫と、北郷も楽観しておったのじゃろう」

 香蓮と祭だ。二人は各々の頼んだ品を食べながら、三人を見ていた。

 「少々気の毒だが・・・ま、仕事が出来んというわけでもなさそうだからな。心配は無用だろう」

 「これも経験という事じゃの。せいぜい頑張るがよい。儒子ども」

 かっかっかと祭は笑い。香蓮は口元をほんの少しつり上げただ笑みを浮かべた。

 

 「かずと・・・も、駄目・・・きゅ~・・・」

 「わわ、燕ちゃん、しっかり!・・・あう、声を張ったら頭に響く」

 「駄目だ。完全に伸びてる・・・今日はもう仕事無理だな、こりゃ」

 へなへなと崩れ落ちる燕を氷花が慌てて支える。一刀が顔を覗き込むと、燕は目を回して気絶していた。

 「仕方ない。暫く背負って歩くとしよう。というわけで、氷花」

 「はい。燕ちゃんをよろしくお願いします」

 よっこらせと背に預けられた燕の体制を整え、立ち上がる。

 「さ、警羅の続きといこう。行くよ氷花、燕も」

 「はい。一様」

 「う~・・・」

 しっかりと答える氷花と目を覚ましたのか、のろのろと力なく手を挙げる燕。それがついつい可笑しくて、一刀は気分が悪いのもそっちのけで苦笑してしまう。

 

 ところが、そんな穏やかな時もつかの間。一刀の背に揺られていた燕に限界が訪れる。

 「揺れる・・・うぇ・・・限、界」

 「え!?ちょっ!燕!まっ・・・ああああああああああああああああああああああーーっ!!」

 

 ――どうなったかについては表現を割愛させていただく。何故なら、彼の悲鳴が全てを語っているからだ。

 

 結局、仕事どころでなくなった燕を自室に寝かせ、氷花に看病を頼み、一刀は着替えてから仕事に励むのであった。

 

 

2/香蓮

 

 「・・・」

 川に垂れる釣り糸を、気配を殺しじっと見つめる。

 孫文台――香蓮だ。

 「グルル・・・」

 「・・・・・・」

 獣の唸り声がすぐ後ろから聞こえるが彼女は気にも留めない。その横にはもう一頭の獣がいるが、それは先程から笹の葉をもしゃもしゃと食べている。

 「周々、腹が減っているのは分かるがもうしばらく静かにしていろ。善々、お前は食べすぎだ。少し控えろ」

 溜息一つついて二頭を一瞥すると二頭は大人しくなった。

 「シャオに会いたいだろうが・・・もう少し待っていてくれ。必ず逢わせてやる」

 「ガオッ」

 「グルッ」

 「良い子だ」

 フッと笑う。すると寝そべっていた周々と呼ばれた虎が身を起こす。善々と呼ばれた大熊猫(パンダ)も顔だけをそちらに向ける。

 「呼ばれたから来たけど。香蓮ってどわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 「良い反応だ。黙ってたかいがあったな」

 心底楽しそうに笑いながら香蓮は持っていた釣竿をクンと振りあげる。

 糸の先にある釣針には一匹の魚がちゃんとかかっていた。

 

 「あ~吃驚した」

 「お前は本当に期待を裏切らない男だな♪」

 未だに口元を押さえて笑う香蓮、見ている一刀はあまりい心境とは言えない。更に付け加えて香蓮と一緒に釣り糸を垂らしているわけだが、状況が心臓に非常によくない。

 「心配しなくとも襲いかかってきたりはせん。何せ呉の〝家族〟の一員だからな。周々、善々。その男が一刀だ。よろしくしてやってくれ」

 香蓮がそう言うとパンダの方が億劫そうに頭を差し出してきた。どうやら撫でろと言ってるらしい。

 「撫でてやれ」

 おずおずと善々の頭を撫でると満足そうに唸った。ほっと胸を撫で下ろそうかと思ったら竿を握っていた手を白虎の周々がガブッと噛みついた。

 「いぎゃっ・・・って痛くない?」

 「ただの甘噛みだろう。『自分の頭も撫でろ』と言いたいのだろうさ」

 そう言われて撫でると周々と撫でると周々は満足そうに眼を細めた。

 

 

 「改めて紹介する。周々と善々だ」

 「ガオッ」

 「・・・(もしゃもしゃ)」

 香蓮の声に応える周々。善々は一瞥だけしてすぐに笹を食べ始めた。

 「そんな顔をせんでも善々とてお前の事を気に入ってる。でなければこの場に留まっていたりしないさ」

 「そっか。にしても釣りかぁ・・・そういえば久しぶりな気がするなっと」

 竿を振り上げればそこには魚がついていた。

 先程から一刀の調子は良いの一言で、中々の釣果を出している。そんな一刀に香蓮はごく自然に感心した。

 「ふむ、思ったよりもいい腕をしているじゃないか。釣りは得意なのか?」

 「やるのは久しぶりなんだけどね。爺ちゃんの所に遊びに行った時は結構やったかな」

 「・・・・・・」

 一刀が少し懐かしむような顔をする。失くしたモノ、二度と還りはしない過去の煌きへと想いを馳せるような、そんな顔を。

 すぐにその表情は失せたが、香蓮の心にはその表情の残滓が残っていた。

 「一刀、そろそろ飯にしようか。これだけ釣れば周々の分も足りるだろうからな。善々、自分が食べる笹を集めておいで。周々は一刀と薪を・・・ついでに山の幸を集めて来い。なに、周々がいれば間違っても毒キノコなど拾う事はないさ」

 「ガウっ」

 のっしのっしと善々は笹林の中に入っていき、一刀と周々は森の中に入っていった。

 「さて、あたしは魚の下ごしらえでもするかな」

 持ってきた短剣で器用に魚を捌き、適当な木の枝で作った串を刺し、広げた大きな葉っぱの上に乗せていく。

 

 「・・・」

 気がつけば全部の魚の処理が終わっていた。どうにも集中し過ぎていたようで、あっという間に終えてしまったようだ。

 「おかしな話だ・・・この〝江東の虎〟が、な」

 誰にも聞かれる筈のない独り言は、はたして独り言では終わらなかった。

 「・・・管輅か。久しいな」

 「ええ。貴女も壮健なご様子でなによりです」

 「ぬかせ、竪琴弾き」

 殺気すら伴った香蓮の視線に、管輅と呼ばれた女性は肩を竦めた。

 「相変わらず、私には辛辣でいらっしゃる。まぁ構いませんがね」

 「エセ占い師が何の用だ?」

 「世間話ですよ?いえね。街での貴女方の話を聞くと、随分と物腰が柔らかくなったようなので・・・気になりまして」

 管路は笑みを絶やすことなく言葉を続ける。

 「・・・〝赤帝〟がないのが口惜しいな」

 「流石にそれはご勘弁を・・・ここを朱に染めるのは無粋でしょうに」

 「・・・確かに、な」

 一刀が去った方向に思いを込めて顔を向ける香蓮。彼女の様子を見て、管路は意外そうな顔をした後で声をあげて笑った。

 「・・・はぁ。さては貴女、あの青年に惚れましたね?」

 「・・・多分な」

 「おや?否定すると思っていたのですが・・・まだ貴女も〝乙女〟だったようで。ならば、邪魔者は早々に去るとしましょう。ではまたいずれ・・・遠い日々でお会いしましょう」

 管路は、そのままどこかへと去っていった。

 

 

 残された香蓮の脳裏には、先程の管路の言葉が張り付いて離れてはくれなかった。

 〝あの青年に惚れましたね?〟

 「ああ。あたしは一刀に惚れている・・・アイツと初めて手合わせをして手傷を負わされたあの瞬間からな」

 言葉を紡ぎながら一刀に負わされた傷があった頬を撫でる。傷跡は当然だが既に完治し、跡形もない。

 だが、この指が触れた場所から、赤い雫がこぼれたのだ。自分に遠く及ばない筈のあの青年の手によって。

 「あたしは・・・一刀にここにいてほしいのだろうな」

 まったく、これではまるで恋する乙女ではないかと苦笑がこぼれる。

 自分は血塗れだ。そんな女があの笑顔に愛されたいなど、出来の悪い喜劇としか思えない。

 ましてや、この身は既に人を愛し、愛され、その愛を形にしている。

 「故に、あたしは一歩引いた位置にいよう・・・そう、思っていたのだがな」

 自分に呆れてしまう。

 「暇だ・・・?どうやら戻ってきたみたいだな」

 近づいてくる気配たちが彼らである事を教えてくれる。なによりも、あの穏やかな〝氣〟の持ち主は、香蓮の知る限り一人しかいない。

 

 「ただいま~。いやはや、周々は凄いね。きのことかは拾わせようとしないんだ。服をぐいぐい引っ張って果物が生っている場所に連れて行ってくれたりとお手柄だったよ」

 「ガウッ♪」

 抱えていた果物を置き、周々の頭を撫でると、嬉しそうに声を出した。

 このわずかな時間で随分と仲が良くなったようだ。この事には驚きを禁じ得なかった。

 「一刀、果物はいいが・・・肝心の薪はどうした?」

 「あ!完全に忘れてた。ゴメン、集めてく、ぐえっ」

 「待たんか阿呆。どうせそうなるだろうと思っていたからな。あたしが集めておいた」

 「面目次第もありません」

 気にするなとだけ言って香蓮は集めた薪を適当に組み、持ち合わせた火打石で手早く火を付ける。随分と手慣れた光景だ。

 「一々驚く事でもあるまい。さて、天ではどのような方法で火をつけるのだ?」

 「どうって・・・こう、カチッと」

 ガスコンロを捻る動作をして見せるが、首を傾げられた。それも当然で、香蓮がそんなものを知っている筈がない。どう説明したも中と考えあぐねた結果、天には捻ったりするだけで火が点く絡繰があると一刀は説明した。

 「それはまた、便利な物があるのだな。が、些かつまらない。それでは火が熾った時の喜びなどあるまい」

 「・・・」

 言われてそれに思い至る。確かに、と。

 かつて自分が過ごしたあの場所では、あまりにも当たり前な事で、感動などはなかった。

 だが、ここにきてその感動を思い知った。今までに幾度と経験している事だが、やはりその感動は色あせていない。

 「さて、魚を並べるとしよう。味付けは塩だけだがな。こういう場所での食事では、これだけで事足りる」

 「それに関しては全くもって同感」

 「だろう。さて、焼けるまでしばらくかかる・・・それまで」

 どこから取り出したのか香蓮は酒を用意した。

 「これは食前酒だ」

 軽く頬をひきつらせる一刀に対して、香蓮はとってつけたような理由を話す。

 「何も聞いてないけど・・・」

 そう言う一刀に、香蓮は得意気にふふん、と笑う。

 「何か言いたそうだったからな。聞かれる前に答えただけだ」

 「いや、まあいいんだけど・・・・・・」

 (やっぱり綺麗だな)

 くいっと杯を呷る。一刀からすれば、これまでに何度も見てきた光景ではあるのだが、やはり色気を感じてどうにも見惚れてしまう。

 「なんだ?」

 「いやあ・・・綺麗だなぁって」

 「へ?」

 自分でも驚くくらいに素っ頓狂な声が出てしまった。彼が何を言ったのか、一瞬理解が及ばなかったが、すぐに理解が全身に広がり、既に酒によって赤みを帯びている顔がより朱に染まった。

 

 

 それから香蓮は一言も喋る事もなく黙々と魚を食べ、酒を飲んだ。

 突然無言になってしまった香蓮に一刀はどう声を掛けていいかもわからず、結果として一刀も黙り込むしかなかった。

 (・・・さて、あたしはどうしたらいいものかな?自業自得とはいえ、話を切り出せん)

 空を仰ぎ見てまた酒を呷る。

 「あの、こうれ・・・」

 「黙ってろ」

 「・・・」

 そう言われては黙らざるを得ない。沈痛な顔で一刀は再び口を閉ざす。

 そんな彼の顔を見て、辛さが心の中に広がる。

 (・・・〝江東の虎〟と呼ばれたこのあたしが、まさかこんな事に恐怖心を抱くとはな。・・・)

 全くもって滑稽で仕方がない、と。このまま悩んでいるなどハッキリ言って性に合わないと腹を括って香蓮は立ち上がる。

 そして、一刀の正面から一刀の隣に腰を下ろす。

 

 「・・・」

 「・・・」

 一刀の隣に腰を下ろしたはいいが、何を話したものかを両者が揃って悩み、結局沈黙。

 意を決して最初に口を開いたのは一刀だった。

 「俺・・・香蓮さんを怒らせた・・・の、かな?」

 「違う。そういうわけではない。ただ・・・そう、照れ隠しだと思う」

 「照れ隠し?」

 一刀が考えていたものよりもずっと意外な理由。故に、香蓮の使った言葉を鸚鵡返しに聞き返してしまった。

 「あたしは、己が〝女〟であることなぞついぞ忘れていた。かつては〝王〟として・・・そして今は〝将〟として振る舞い生きてきたんだ。そこに、〝女〟である必要などなかった。だが、お前と出会って・・・言葉を交わしていくうちに」

 そっと一刀へと顔を向ける。そこには困ったような表情があった。

 「あたしは、己が〝女〟である事を思い出してしまった」

 それは、どうしていいかわからない状況に出くわしてしまった子供のような戸惑いの色が浮かんでいる。そんな表情のまま、香蓮は言葉を続けた。

 「あたしは、〝将〟だ。〝女〟ではない」

 一刀はそこで香蓮の言いたいことを理解する。

 

 ――つまり、自分を〝女〟として扱うなと。〝武人〟であると、〝将〟であるのだから、そのような扱いをするな。

 

 あたしを困らせないでくれ――と。

 

 「それは違う」

 香蓮の言葉を真っ向から一刀は否定した。貴女の言ってる事は間違っている、と。

 「他の誰がどう言おうと、俺は自分の考えを変えない。香蓮さんは確かに〝将〟だ。けど、それは後から付いたものだ。最初からそうだったわけじゃない」

 「――――」

 唖然とする彼女を無視して、一刀は更に続ける。その真摯な眼差しを向けたまま。

 「香蓮さんは女性だ。それも、とびっきり美人の。こればっかりは、香蓮さんが困っても否定なんかさせない。どれだけ強く言われても。剣を突き付けられても訂正なんかしてやらない」

 トクン、と小さいが確かな鼓動の音が聞こえる。目の前にいる青年から、香蓮は顔を逸らす事が出来ない。しようと思う事を、彼女は忘れてしまっていた。

 「もう一度言うよ。香蓮さんは女性だ。俺が憧れるほど強くて・・・綺麗で・・・素敵な女性だ。この考えだけは絶対に変え・・・・・・っ!?」

 言葉は、最後まで続かなかった。

 (え、は?俺、香蓮さんと・・・キスして・・・)

 一刀の口が、香蓮の唇でふさがれていた。

 

 

 「阿呆を通り越して、お前は馬鹿だ」

 一刀の口をふさいでいた自分の唇を放し、香蓮はそう言った。

 「あたしを女扱いしたところで何にも得などないだろうに」

 「香蓮さん・・・どうしてキスを・・・」

 「キス?ああ、接吻の事か。どうしてか・・・など、くだらない事を聞いてくれるな。惚れているからに決まっているだろうが」

 「・・・・・・――は?」

 香蓮の言っている事が全く理解できなかった。この人は一体今、何を言ったのだと頭の中で思考がグルグルと渦巻く。

 「一刀」

 ぺちん、と優しく頬を叩かれた。痛みなどは全くない、優しい平手打ち。

 だが、それでもグルグルとしていた自我は、確かに戻ってきた。

 「香蓮さん・・・」

 「やれやれ、困った儒子だ。何も疑問に持つような事ではあるまい。・・・夫が逝って久しく、あたしを女として見た男は一人としていなかった。誰もがあたしを〝将〟として・・・先代の呉の〝王〟として。そして、〝江東の虎〟とでしかあたしを見なかったし、評価しなかったのだが、その事に対しては不満も何もなかった」

 一刀の頬にそっと手を添え香蓮は、困ったように優しく微笑み、言葉を続ける。

 「一刀、あたしは血塗れだ。それでもお前は、あたしの事を〝女〟だと思うのか?」

 「ああ。香蓮さんは素敵な女性だ」

 「雪蓮達よりも、か?」

 「それは、その」

 「こういうときは嘘でも頷け、この馬鹿」

 「わぁ・・・可愛い・・・だ!?」

 拗ねたような顔をした彼女に向かって、可愛いと言った次の瞬間、顔を真っ赤にした香蓮に頭突きをお見舞いされた。

 「この儒子は・・・そういう事を気軽に言うな!」

 「本当にそう思ったのに・・・」

 頬を紅潮させたまま、コホンと咳払いをして、未だに頭を抱える一刀を見る。

 「一刀。可愛いというのが本当なら・・・その」

 もごもごと口ごもる香蓮を何事かと持ち直した一刀が見ると。香蓮は深呼吸をしてしっかりとその両の眼で一刀を見つめる。

 「お前の方から接吻を・・・いや、キスとやらをしてくれないだろうか」

 一切の理屈抜きで完全に思考がフリーズしてしまった。頬を赤らめ自分の精一杯の気持ちを伝える香蓮に、完全に頭がやられてしまったようだ。

 だが、機能を復旧させた頭が香蓮の言葉をしっかりと理解する。そして、ゴクリと喉を鳴らし腹を決めた一刀は、香蓮の両肩を掴む。

 一瞬、ビクリと肩が震えたが、すぐにそれは治まり、香蓮はそっとその瞳を閉じた。

 そしてそのまま、彼女の体を引き寄せ、一刀は香蓮の唇に自分のソレを重ねた。

 強張っていた香蓮の肩からそっと力が抜け、重なっていた唇は離れた――筈だった。

 「これでいいか・・・な!?」

 香蓮は一刀の首に腕を回し、自ら一刀にキスをした。

 「ふむ・・・ん、ちゅ。あむ・・・一刀・・・れろ」

 香蓮が最初にしてきたキスと。一刀からした二回目のキスとは違う、艶を帯びた熱いキス。頭の中が沸騰して、一刀はされるがままだった。

 離れる時には、唾液の糸ができてすぐにプツンと切れた。

 「呆けている場合じゃないぞ儒子。あたしをその気にさせた責任は重いからな。安心しろ。周々と善々ならとうに自分達の寝床に帰っている。故に、誰の邪魔も入らん」

 そこで一刀は悟った。ここで彼女からは逃げるなど、ここまで踏み出してくれたこの女性を侮辱すること以外の何物でもないと。

 ましてや、自分自身も彼女に対してそんな気持ちがなかったかといえば、全くの嘘だ。

 だから、答は既に出ていた。

 「カッコ悪いんだけど・・・俺、初めてなんでお手柔らかに」

 「くくっ、ああ・・・任せておけ。この物好きめ」

 今一度、香蓮は一刀と唇を重ねた。今度のキスは、一刀も決して戸惑ったりはしなかった。

 

 

 ――翌朝。

 「あれ?冥琳。一刀は?まだ来てないみたいだけど」

 全員が揃う朝議の場に、一刀だけがいなかった。気になった雪蓮が冥琳に問いかけたが、自分も知らぬと首を横に振る。それは他の面子も同じだったようだが、一人だけ違う表情をしているのを雪蓮は見つけた。

 「母様、何か知ってそうね?」

 明らかに今まで以上に血色がよくなっている己が母親だ。

 「さて、な?思い当たる節がなくもないが・・・ん、どうやら来たみたいだぞ」

 くいっと親指で入口の方を指さすと、走ってきたのか、少し息を切らせる一刀がそこに立っていた。

 「ごめん。完全に寝坊した」

 慌てて自分の席に腰かける。

 すると誰よりも先に香蓮が一刀に声を掛ける。

 「おはよう。一刀」

 「ん、おはよう香蓮」

 『!!!!!!!!!!!』

 二人以外の時が一瞬にして静止した。何事かとか慌てる一刀だが、すぐにその理由に思い至る。

 それはつまり、自分が香蓮に対し、彼女を〝香蓮さん〟ではなく〝香蓮〟と呼んだことだ。

 静止した時の中で初めに帰ってきたのは香蓮の親友、祭だった。彼女はすぐに二人の間に何があったのかを悟り、かっかっかと豪快に笑う。

 「堅殿。どうやら今一度、女に戻られたようじゃの」

 「ああ♪いや、女に戻るのも悪くはない。祭もどうだ?」

 「ふむ。ま、儂なりに北郷を見てからにするよ。焦らんでもよかろう」

 「尤もだ。で?お前達はいつまで呆けているつもりだ?」

 

 ――結局、朝議の場は大いに荒れた。

 事の経緯を洗いざらい香蓮が話してしまい、その上でそれぞれがそれぞれの反応を見せる。

 ある者は、いずれは自分も。と決意を新たにし。

 ある者は二人の話にただ感嘆し。

 ある者は一刀の肩をバシバシと叩き、一刀を褒め称え。

 ある者は衝撃の事実にどう対応したものかとおろおろし。

 ある者は混乱する主を落ち着かせようとし。

 ある者は、はわわと顔を真っ赤にし。

 ある者は完全に意識が飛んでしまい。

 ある者は意識が飛んでしまった彼女の肩を揺らし、懸命に呼び掛けた。

 

 「一刀、お前は本当にあたし達を退屈させないな」

 どきりとしてしまうほどの素敵な笑顔を浮かべて、香蓮はそう言った。

 この日は、一刀を中心に一日中賑やかだった。

 

 

~あとがき~

 

 

 遅くなりましたが、拠点第一弾。

 氷花/燕と香蓮の二名の話をお届けさせていただきました。

 いかがでしたか?

 氷花たち二人に関しましては、最初の拠点ですので、賑やかさ重視で。

 香蓮さんに関して結果としては賑やかさ終わりましたが、香蓮の一刀に対する想いが主軸となっております。なお、〝ある者〟についてはみんなさんでご自由に御想像してください。まあ、まるわかりと思いますけど。

 『少し早くはないか?』と思われた方もいらっしゃるでしょうが、香蓮に関しては最初から早い段階でこういう展開にしようと考えていましたので、問題はないのです。

 ちなみに、管輅に関しましてはネタばれにはなりますが、基本傍観者。ちょくちょく出てきて言葉を投げかけ、相手と言葉を交わし去っていく。彼女にとって詠み切れぬ物語、つまり〝未知〟であるこの外史で、彼女の口からは大局に関わるような事は基本的にはでてきません。

 これからも彼女はちょくちょく現れては誰かをからかって去っていくのです。

 さて、拠点は次まで続きます。

 雪蓮と冥琳です。

 またしばしお待ちいただく事になりますが、楽しみにしていただけると幸いです。

 それではまた――。

 Kanadeでした。

 


 
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