No.118366

~薫る空~57話(拠点:華雄、月&詠、薫)

拠点part2

言っていた通り、薫の拠点はこれで最後になります。
後の言うべきことはあとがきにて(

2010-01-13 18:33:39 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:4624   閲覧ユーザー数:3809

 

               今回、あとがきにて壮大なネタバレがあります。

                    ご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『拠点:華雄ルート』

 

 

 【一刀】「あぁ……さむ……!」

 

 いくら寒くても警邏は続けなくてはいけない仕事だが、こんな寒い時に悪さなんてする奴もいないと思う今日この頃。

 隙間風が甲高い音を鳴らして、寒さをこれ以上ないほど引き立てる。

 

 【一刀】「ん、あれって……」

 

 辺りを見回していると、見つけたのは犯罪とかではなくて、この寒い時期にありえない格好をした新入りさん。

 

 【一刀】「華雄、寒くないの?」

 【華雄】「北郷一刀……貴様よく私に話しかけられたものだな」

 

 近寄って話しかけてみれば、態度は相変わらず険悪だった。元敵という事を考えれば、それは当然なのだが。

 

 【華雄】「まぁいい……。それより北郷、董卓様の話、本当なのだろうな」

 

 華雄には、董卓が無事であることは伝えてある。というか、風が何か方便で喋ったみたいだったが、それが当たりだったわけだ。

 ただ、さすがにこの街に来ていることまでは伝えていない。華雄の性格を考えると、真っ先に飛び込んでいって、騒ぎを起こしかねないと思ったからだ。

 念には念をと考えれば、あの二人をこの街に置くこと事体が間違っているんだろうけど、もうあの邑にはさすがに戻れないだろうしな。

 そういうこともあって、華雄が知っているのは董卓が実は生きているという事実だけ。

 

 【一刀】「あぁ、けど、あんまり大声でいうなよ。もうその名前は禁句に近いんだから」

 【華雄】「分かっている……!……だが、それも貴様らのせいだということを覚えておけ」

 【一刀】「……はぁ、わかったよ」

 

 投降したとはいえ、華雄はやはり曹操に仕えるつもりはない。

 現に、董卓の事を知らせなければ、自殺しようとしたほどだ。

 そういうところは嫌いじゃないけど、さすがに死ぬとかはやめて欲しい。

 あの戦以来、頭で整理をつけたつもりでも、体が人の死に過敏に反応するようになった。

 

 【一刀】「ところで、華雄は何してたんだ?」

 【華雄】「なんでもいいだろう、貴様には関係ない」

 【一刀】「まぁ、そうなんだけど、気になるよ」

 【華雄】「…………邪魔だといっているんだ」

 

 振り向いた顔は、一般人なら腰抜かしそうな眼力を持っていた。ざくっと音がしたと思ったら、後ろについてきていた部下が後ずさったようだ。まぁ、逃げ出したいだろうな。

 俺はと言えば、華琳とか春蘭でなれているのか、そこまでの反応はなかった。

 というか今の華雄ならば、ぶち切れた春蘭に比べれば、それほどでもなかった。

 イコールそれだけ、俺が春蘭に追い回されているということになるんだけど。

 

 【一刀】「まぁ、そういわず――」

 

 と、俺が粘ろうとした時。

 

 ――どろぼうーー!!

 

 と、叫び声が聞こえた。

 

 【一刀】「えらく古典的だな……って突っ込んでる場合じゃないな」

 

 声のほうを見れば、こちらへと走ってくる男がいる。

 手には包みのようなものを持っている。一目であいつが犯人で、あれがぬすんだ物だとわかった。

 

 【一刀】「よし、逃がさないように周囲を――」

 

 普段どおり、指示を与えようとして、華雄の声にそれが断ち切られた。

 

 【華雄】「面倒だ」

 

 どこから取り出したのか、そういうと、右手にはあの時俺が折ったはずの大斧が担がれていて――

 

 【華雄】「――はっ!」

 

 思い切り振り切ったと思えば、華雄の足元の地面が少しえぐれていて、そこにあったはずの土が、走ってくる男へと飛び掛る。

 

 ――うわぁっ!!

 

 情けない声をあげながら、男は土をよけるようにして体を捻るが、普段鍛錬もしてないような者が、そんな事を容易に出来るはずもなく、バランスを崩してそのまま転んでしまう。当然土もその身に受けながら。

 

 【華雄】「死ね、愚民がっ」

 【一刀】「まてぇっ!!ころしてどうすんだ!!泥棒だぞ、ただの!」

 

 もう一度振り上げられようとする腕を押さえながら、俺は華雄にしがみついて、必死に止める。

 泥棒なんかで殺しを行えば、華琳に何を言われるか分かったものじゃない。

 

 【華雄】「な――っ!」

 【一刀】「な、落ち着け華雄!」

 【華雄】「貴様、何処を触って!!くぅっ!」

 

 華雄の反応が少し弱まった気がした。

 

 【華雄】「離せ北郷ッ!こんな街中で――……っ!」

 【一刀】「へ?街中?」

 

 確かに街中。

 しかし、こんな場所でというなら、華雄が持っている斧のほうがよほどこんな街中で振り回していいものじゃないだろう。

 だが、その華雄の言葉は、俺がそう思ったすぐ後に理解できるものになった。

 

 ――ふに

 

 【一刀】「ふに……?」

 

 ふにってなんだ。

 確かめるように、もう一度――

 

 ――ふにふに。

 

 【華雄】「ふあ……」

 【一刀】「あ――」

 【華雄】「……やはり貴様は」

 

 わなわなと華雄の腕が震えている。

 だが、それに気づくよりも早く、俺はおそらく禁句を言ったかもしれない。

 

 【一刀】「ちっさ――うぉぉぉっっ!!」

 【華雄】「でえええい!!!」

 

 泥棒に落とされるはずだった斧は、俺へと目標を変更していた。

 あわてて体を離すが、既に遅いことは、赤くなっている華雄の顔が物語っている。

 

 【華雄】「貴様はやはりあの時殺しておくべきだったのだ!!!」

 【一刀】「ご、ごめんっ!まさか胸だとは思わなくて!」

 【華雄】「気づかないほど無いとでも言いたいのか貴様ぁっ!」

 【一刀】「なんでそうなるんだぁぁっ!!!」

 

 どどどどど、と轟音が鳴り響きながら、町中に砂塵が撒き荒れる。

 あぁ、この華雄があの時俺の相手になっていたら勝てなかっただろうなぁ……

 

 結局華雄があそこで何をしていたのか聞けないまま、その日一日追い回されてしまった。

 当然ながらきっちり報告はされていて、帰った後にはちゃんと華琳がお仕置きモードで待っていた。

 

 

 ――『拠点:華雄ルート』

 

 

 

 

 

 

 

 『拠点:月&詠ルート』

 

 

 あれだけの騒ぎを起こしておいて、二人があの邑に戻れるはずも無く、しばらくこの許昌で身を隠すことになった。

 考えてみれば、董卓自身は死んだことになっている上に、今ではかつての都ほどにまで多くなりつつあるこの街にいるのだから、月が董卓だとばれた上で尚且つ見つかる可能性なんて、ほとんど無いんじゃないだろうか。

 だって――

 

 【月】「へぅ……」

 【一刀】「よしよし、ありがとな、月」

 

 この頭をなでられたくらいで、こんなに可愛くなる女の子を誰がかの暴君だと想像できるだろうか。

 

 【詠】「あんたね、いつまで月をこんなくだらないことに付き合わせるつもりよ」

 【一刀】「そうは言ってもな」

 

 見つかる可能性が無いとはいえ、完全に放置というのはさすがにまずい。

 かといって、天和の時とは違って、今の月と詠を華琳に紹介したところで、華琳には何の得も無い以上、どうなるかわかったものではない。

 このまま隠し通すしかないんだが、問題は俺が関わっていく上で、みんなにこのことがばれないかどうか、だった。

 まず華雄に見つかれば、その時点でアウトだ。あの性格からして散々騒ぎ散らした後で、俺に矛先が向いて、最悪華琳にも知られる。

 あとは噂好きの沙和とか、おそらく沙和が一番注意だろうな。部下なだけに接点が多い。

 で、最も危険なのが、華琳に直接みつかった場合。これはもう言い訳のしようが無い。華琳のことだから、月達の事を聞きだそうとするに決まっている。

 

 【一刀】「結構危ないな……今考えると」

 【詠】「何を考えているかしらないけど、月の事なら僕に任せておいて。あんたは僕たちが曹操に関わらないように気をつけてくれればいいだけ」

 【一刀】「ふむ……そうか、詠を経由すればまだ危険は薄くなるな」

 

 詠も確実に潔白というわけではないが、董卓の名を持つ月ほどではない。それに最悪詠が賈駆だとばれたとしても、董卓が死んだという噂がある限りは、それで通る。

 

 【一刀】「それじゃ、これからはそれでいこうか。ってわけで、今日もありがとな、月」

 【月】「いえ……北郷様の御用でしたら、いつでも」

 

 ええ子や……

 買出しに付き合ってもらっていたんだが、おもわず一緒にお持ち帰りしたくなるほどだ。 

 

 【一刀】「って、それはありがたいんだけど、その北郷様って、せめて”さん”とかにならないかな」

 【月】「そんな……」

 【詠】「こんな奴、お前とかで十分よ、月」

 【月】「詠ちゃん、だめ」

 【詠】「うぅ……」

 

 時々思うが、月は詠に対してとなると強気になるんだな。

 

 【一刀】「ん~……」

 

 散々御遣い様なんて呼ばれてきて、いい加減なれそうなものだが、月に北郷様なんていわれると照れくさくてしょうがない

 

 【月】「えっと……その……」

 

 考えていると、月が何か言いたいのか、もじもじし始めた。

 少し眺めていたくなるほど絵になっているが、となりの詠が睨み始めてきたので、そろそろ話をすすめよう。

 

 【一刀】「月?」

 【月】「では……あの……」

 【一刀】「うん?」

 

 普通ならさっさと話せよと掴み掛かりたくなるところだが、月が開いてだと不思議と待っていられる。

 

 【月】「へぅ……」

 【一刀】「お、おお、おいおい……」

 

 ずっこけそうになるところを踏みとどまる。

 照れているのか、顔を赤らめながら、月は困っている。

 

 【月】「……その、ご主人……様」

 

 …………。

 

 【詠】「…………」

 

 たぶん、今この声が聞こえた人間は皆( ゚д゚)←こうなっているだろう。

 

 【詠】「あ、あ、あんた、月になんてこと言わせてんのよ!!」

 【一刀】「なんで俺が怒られるんだよ!」

 【詠】「あんたが呼び方なんて変なものにこだわらなかったら、こうならなかったでしょう!?」

 【一刀】「お前だって、月に賈駆様なんて呼ばれたくないだろうが!」

 【詠】「僕と月の関係をあんたのそれと一緒にするんじゃないわよっ!」

 【月】「ぁ……あぅあぅ……」

 

 正直、こうして詠と言い合いでもしていないと気がどうにかなりそうだった。

 予想の斜め上なんてものじゃなくて、カテゴリそのものがぶっとんだ感じだ。

 なにしろ、名前呼び方変えようよと言って、普通「じゃあご主人様って呼ぶねっ」とはならないだろう。どんな環境に住んでるんだよ。

 

 【一刀】「え、えーと、月はほんとにそれがいいのか?それならまだ一刀様とか、この際もう様はこだわらないからさ」

 【月】「その……お父様が……」

 【一刀】「お父様?」

 

 お父様?え、いきなりご家族にご挨拶ですか?

 

 【月】「昔……侍女さん達にそうよばれていたので……」

 【一刀】「あ、なるほど……そうだな、ご挨拶はさすがに早いな」

 【詠】「何考えてたわけ……?」

 

 要は父親がそう呼ばれていたから、自分も俺の事をそう呼びたいと。なるほど。

 ……あれ?

 

 【一刀】「ちょ、ちょっとまて、お父様が呼ばれていたから?」

 【月】「はい……私は……そう呼ばれる方だった……でしたが、そうお呼びできる方が……いつか」

 【一刀】「あ、あぁっ!わかった!わかったから!」

 

 月は、立場上侍女よりも上に立つ身分だったが、自分としては誰かに仕えているほうがよかったと考えているわけだ。で、現時点でその仕えられる位置にいるのが、俺な訳で、お父様がご主人様と呼ばれていたから、俺もそう呼ぶと。

 これは……照れる。

 

 【一刀】「あぁ……うん、わかった。それでいい。なぜかそれでも北郷様よりはいい気がする」

 

 距離は近づいた……よな?

 

 【詠】「僕は絶対呼ばないわよ!そんなの!」

 【一刀】「なんだ、呼んでくれないのか」

 【詠】「あたりまえでしょ!?なんでそんな呼び方しないといけないのよ」

 

 こうなると詠の存在はかなりありがたい。

 

 【一刀】「ま、いいよ。それじゃ、あらためてよろしくな。月」

 【月】「はい、ご主人様……」

 【一刀】「うっ……」

 

 これは……よすぎた。

 

 

 

 

 

 ――『拠点:月&詠ルート』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『拠点:薫ルート』

 

 

 

 

 

 ――がばっ

 

 【薫】「……っはぁ……っはぁ」

 

 朝。飛び上がるようにして、あたしは起き上がった。

 胸がどくどくいってて、寝汗もひどい。

 

 【薫】「はぁ……はぁ……なんて夢みてんのよ……あたし」

 

 顔を抑えながら、自分を責める。

 悪夢といえば、悪夢。そんな夢を見て、よくある最後の盛り上がりで、半ば強制的に起こされた瞬間だった。

 とりあえず、寝台から降りて、服を着る。

 そのまま扉をあけて、顔でも洗いに行こうかと部屋を出ると。

 

 【一刀】「お、薫か」

 【薫】「うん?」

 

 不意に聞こえた声は、一刀のものだった。

 そっちを向いて、あぁ、なんて声をだす。

 

 【一刀】「だ、大丈夫か?ひどい顔だぞ」 

 【薫】「へ?」

 【一刀】「くまとかすごいよ」

 

 目の下を触ってみるが、感触でわかるようなものでもなかった。

 

 【薫】「あぁ、昨日寝づらかったから……」

 【一刀】「ふむ……悩みでもあるのか?」

 【薫】「あんたが聞くなっての……」

 【一刀】「え?あ、おい」

 

 寝起きのせいか、随分体がだるい。

 一刀の話も、半分聞けばいいほうで、そのまま呼びとめも無視して、あたしは調理場へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 【一刀】「なんだろ、俺何かしたかな……」

 

 ひどい顔といったのがまずかったのだろうか。でも、さすがにあれだけはっきりと目の下に浮かび上がっていれば、誰でも言いたくなると思うんだ。

 

 【一刀】「まぁ、いいか」

 

 機嫌の悪い時は誰にだってある。薫にもそういうものがあるというだけだ。

 特に気にするまでも無く、俺はそのまま、手に持っていた書類を自室まで運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 昼になって、俺の休憩時間がやってた。基本外へ出て行くタイプの俺だから、当然今日も街へ出るんだが、その日の街はどうもいつもと様子が違っていた。

 民衆が一箇所に集まって何かを見ている。

 

 【一刀】「……なんだ?」

 

 気になって近づいてみると、遠めに見るより人だかりは多かったようで、なかなか中心で何が起きているのか見えるところまでいけなかった。

 強引に体を前へと押しやって、ようやく視界が開けると、そこには――

 

 

 【薫】「…………これで、あたしの勝ちね」

 【民】「くぅ……」

 

 薫がいた。

 知らない人と、盤をはさんで何かをやっている。

 それは、よくみれば、以前桂花と薫が勝負していたあのゲームだった。

 既に何人抜きなのか、周囲の人達は薫が勝つたびに沸いている。

 耳を傾けると、丁度その人達の声が聞こえてくる。

 

 『もう俺が見ているところからだけで十五人だぜ……どうなってんだ、あれ』

 『いや、俺最初からみてたけど、今ので二十三人目だよ』

 

 まぁ、それも当然といえば当然だろう。

 何しろ薫は実際の戦を経験してる曹操軍の軍師であって、一般の民衆相手に戦略系の遊びで負けるはずが無い。

 

 そう思って眺めていると、どうやらお開きになったみたいで、薫がみんなに礼を言いながら、こちらへと歩いてくる。

 

 【一刀】「あれ、なんだ、気づいてたのか」

 【薫】「そりゃ、あれだけ強引に前にくればね」

 【一刀】「はは、それもそうだな」

 

 そんなに騒がせただろうかと、少し心配ににはなったが、別にそれが原因で騒ぎになったりはしていないので、問題はないだろう。

 

 【一刀】「ん、そういえば薫は今日は非番?」

 【薫】「うん、じゃないとこんなところで遊んでいられないよ」

 

 苦笑しながら、薫はそういう。まぁ、当たり前か。

 

 【一刀】「そっか。俺今から休憩なんだけど、飯一緒に食べないか?」

 【薫】「ご飯?ん~……あ、そうだ。その後ちょっと付き合ってくれるなら、いいよ」

 【一刀】「ん、別にかまわないけど、用事でもあるのか?」

 【薫】「ううん、ちょっと買物したいだけ」

 【一刀】「か、買物……」

 

 まさかうちわじゃないだろうな、とはとても言えず、ただトラウマになりかけている前回の買物を思い出すだけだった。

 

 【薫】「あはは♪うちわじゃないよ、今日はね」

 

 しっかり読まれていました。はい。

 

 【薫】「ていうか、たぶん、うちわはもういいかな。これあるし」

 

 と、薫が示したのは、真桜からもらった黒い扇だった。

 

 【一刀】「そんなに気に入ったのか?」

 【薫】「うーん、なんていうか、まぁ、そうだね。気に入ったのかな」

 

 ずいぶんはっきりしないが、そういうこともあるだろうと、特に追求はしなかった。

 【一刀】「ま、それじゃ、さっさと飯いこうぜ」

 【薫】「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【一刀】「ふぅ……」

 【薫】「よく入ったね……」

 【一刀】「お前が間違えて注文したんだろ」

 【薫】「あはは……。ま、まぁ、そうなんだけどね」

 

 店に入って、席を取ったまでは良かったものの、薫が注文したものがすべて二人文プラス俺の注文したものが運ばれてきて、実質俺が二人分の料理を食べたことに。

 しかも俺のおごりと来たから最悪だ。

 しかし、いつまでもぐちぐち行ってもしょうがないわけで、俺達はそのまま、薫のいう店までたどり着いた。

 

 【一刀】「本屋……?」

 

 そこはいわゆる老舗というやつで、内装はかなりぼろぼろだった。

 夜に来れば何か出そうな雰囲気の中、薫はさっさと中に入っていく。

 付いていくように、俺も中にはいって、適当に何かないかと探していく。

 見た目とは裏腹に、そろえている商品は結構充実しているようで、所狭しと本が押し詰められていた。

 

 【一刀】「ん、おぉ?へぇ……ちょっ!」

 【薫】「一刀、うるさい!」

 【一刀】「すいません」

 

 だって、めずらしく俺にもわかる本がおいてるんだもん……

 

 怒られてしまってからは、おとなしく外で待つことにした。

 俺が店から出て数分後に、薫が包みを持って店の中から出てくる。

 

 【一刀】「お、もういいのか」

 【薫】「うん、ほしかったのはすぐ見つかったからね」

 

 なら何を悩んでいたのかと突っ込みたくなってしまう。

 

 【一刀】「ま、俺もそろそろ休憩終るし、帰ろうか」

 【薫】「うん」

 

 とことこ、と歩くこと数分。街はさっきまでの騒ぎは嘘みたいに治まっていた。

 それでも活気は残っていて、それを見るたび、安心する自分がいる。

 

 【薫】「ねえ、一刀」

 【一刀】「うん?」

 【薫】「今日、夜時間ないかな」

 【一刀】「夜?まぁ、大丈夫だけど、どうしたんだ?」

 【薫】「うん、ちょっと話したいことあるから」

 

 あれ……?フラグ?告白? 

 いいのか?そんな突然。

 

 【一刀】「ふむ。おっけ、わかった。部屋に行けばいいか?」

 【薫】「あ、ううん、あたしから行くよ。こっちの用事だし」

 【一刀】「そっか、わかった」

 【薫】「うん」

 

 まさかな、なんて思いながら、俺は薫の顔を少し眺めた。

 赤くなっているように見えるのは寒さのせいだろうか。

 そんな風に、少しどきどきしながら、俺は午後の仕事に取り掛かるために、城にもどった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、夜。

 いつもより早く仕事が片付いたのはきのせいだろう。

 

 ――こんこん。

 

 扉が二回叩かれた。

 俺が教えた作法だが、実際にコレをしてくれるのは、ここでは華琳か秋蘭、そして薫くらいのものだ。

 ほかの方たちは、しないか蹴破る、もしくは部屋にすらこない、というものだ。

 

 【一刀】「どうぞ~」

 

 呼ぶと、かちゃりと扉が開いて、隙間から薫の姿が見えた。

 

 【薫】「こ、こんばんわ……」

 

 あきらかに緊張してる様子に、思わず噴出しそうになってしまった。

 

 【一刀】「お、おう」

 

 っと、どうやら緊張しているのは俺も一緒らしい。

 

 薫は、そのまま真ん中に置かれた椅子に座る。

 

 【一刀】「え、えと、話……だっけ」

 【薫】「あ、うん。えっとね」

 

 言葉に詰まって、薫は突然深呼吸を始める。

 なんだか雰囲気がどんどん俺の妄想に近づいていっている気がする。

 

 【薫】「すぅ……はぁ……。一刀ってさ」

 【一刀】「う、うん」

 

 「好きな人いるの?」とかくればもうフラグと思っていいよね?

 

 【薫】「華琳と何処までやったの!?」

 【一刀】「…………」

 

 …………。

 

 ……。

 

 【一刀】「は?」

 

 なんだと?

 

 【薫】「だからッ!華琳とはどこまでやったのかってきいてんの!?最後まで?口どまり!?中!?」

 【一刀】「お、おおい!?ちょっとまて、お前なに口走ってんだ!?」

 【薫】「う、うるさいなっ!ここまできといて、いまさら恥ずかしいもないのよ!」

 

 こ、ここまでってどこまでだよ。

 

 【一刀】「べ、別に……まだ……」

 【薫】「まだ!?」

 

 いちいち何なんだ。

 

 【一刀】「ちょ、お前なかおかしいぞ、そのテンション」

 【薫】「て、てんしょん……?」

 【一刀】「あぁ、えっと、なんだ、妙に張り切りすぎだってことだよ」

 

 そういうと少しおちついたのか、薫は興奮して立ち上がっていた腰を下ろした。

 

 【薫】「ごめん……」

 【一刀】「いや、いいけど、どうしたんだよ」

 

 すると、今度は落ち込みすぎだろといいたくなるほど、沈んでいた。

 

 【薫】「あぁ、えっと――」

 

 と思えば、今度は赤くなった。

 

 【薫】「一刀は、華琳の事好き?」

 【一刀】「妙に華琳で引っ張るな……」

 【薫】「え、だって、じゃないとあたしが…………」

 

 ごにょごにょと、後半はまるっきり聞こえなかった。

 

 【薫】「そんなことより!」

 【一刀】「あ、はい」

 【薫】「…………どうな、の?」

 

 もう、強気なのか弱気なのかはっきりしてくれ。

 

 【一刀】「あ、あぁ~……そうだな……。そりゃ、好きだとおもうよ」

 【薫】「よし、そかそか」

 

 なにがよしなんだろう。

 今日の薫は、考えるのが面倒に思えるほどわけがわからなかった。

 

 【一刀】「で、お前どうなんだ?」

 【薫】「え?」

 

 なんであたし?とでも言いたげに薫は首をかしげた。

 

 【一刀】「まさか俺だけ好きだのどうの言わせとくつもりじゃないよな?」

 【薫】「え、え、え、なんで!?」

 【一刀】「こっちが言いたいくらいだよ。ほら、お前どうなんだよ、好きな奴いるのか?」

 

 なんかもう、同姓のノリだった。

 告白がどうとか思っていた俺はすっかりご臨終なされたようです。

 

 【薫】「す、好きなって……そんなの……」

 

 少し後ずさりながら、薫はどんどん顔を赤くしている。

 

 【一刀】「うん?どうした?いないならいないでいいぞ?」

 【薫】「そんなの……」

 

 いいながら、薫は自分の座っていた椅子の背もたれをぎゅっと握って。

 

 【薫】「いるかぁぁっ!!馬鹿ぁぁっ!!」

 

 上に浮かせたと思えば、回し蹴り?のような動きで――

 

 【一刀】「なぁぁっ!!?おまっなにすん――」

 【薫】「う、うるさいっ!ふんっ……あんたは華琳のこと見てればいんだよ!それじゃね!」

 

 ばたんとおもいきり扉をしめて、薫は出ていった。

 

 【一刀】「……あれ?」

 

 結局、薫の話ってなんだったんだろう。

 

 【一刀】「あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――side薫

 

 

 【薫】「はぁっ……はぁっ……」

 

 慌てて一刀の部屋からでた後、全力で走って自分の部屋まで逃げてきた。

 この際、怒られるとかもうどうでもよかった。

 あぁ、思い出すだけで顔から火が出そう。

 何を口走っているのか、今になって自分を罵ってやりたい。

 聞きたかったのは、華琳をどう思っているかと、もう一つ。

 

 【薫】「あたしの事は……」

 

 …………。

 

 【薫】「うわぁぁぁぁ」

 

 ごろごろと、寝台の上を転がっても、恥ずかしさは変わらない。

 

 【薫】「…………でも、いいや、あれだけ聞ければ……それで」

 

 うん、それ以外はもうどうだっていいんだ。

 あたしが、一刀を想ったところで仕方が無いんだから。

 

 【薫】「ん、何よ、今更出てきて」

 

 なんて、考えてる間に、まためんどくさいのが出てきた。

 今日は一日あたしの自由だって約束したくせに。

 

 ――うわっ、ってなんであんたにそんな事言われなくちゃいけないのよ……。

 はぁっ!?後悔ってあんた、今更何言ってんのよ。そんなのもう随分前に覚悟してるって。

 そりゃ、あたしだって、そうだけど。

 違うって言ってるでしょ!?

 はぁ……もういいよ。きめたんだから。

 うるさいな。本当は本当はって、分かってるくせに聞かないでよ。

 ~~~~~っ!!

 

 【薫】「あたしだって一刀の事好きだよ!!でも仕方ないでしょうが!」

 

 気づけば叫んでいて、急に恥ずかしくなって、布団を頭から被る。

 

 ――そう、仕方ない。

 ここの一刀は、あんたの先生じゃない。

 だから、”私”は好きになれない。だったら、”あたし”が好きになっても仕方が無い。

 役目、星詠、外史。

 おおよそ見当違いなようで、実際にぶっ飛んでる話だけど、その中心にあたしがいる。”私”から聞いた、あたしの役目。役目の意味。全部が言っている。

 

 【薫】「あぁ~あ、なんで望んじゃうかな」

 

 願いがあるから、外史が生まれる。

 外史があるから、役目が生まれる。

 役目があるから、あたしがいる。

 

 ――ほんと、死ねばいいよ、”私”なんて。

 

 ほら、否定しない。

 

 【薫】「…………認めないでよ……喧嘩……売ってるんだから」

 

 私は、あたしを否定しない。それだけの負い目を感じてる。

 あたしは、私を否定する。それだけの事をされたから。

 でも、あたしは…………

 

 

 私と、話がしたかった。

 

 彼と、もっと過ごしたかった。

 

 彼女と……もっと……

 

 

 

 【薫】「………………」

 

 

 …………もう、寝たかな。一刀

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――『拠点:薫ルート・END』

 

 

 

 

 

 

・あとがき

 

 こんばんはです。

 えーと、とりあえず、華雄第1弾、月&詠第1弾、薫ラストを投降しましたが。

 華雄が難しすぎたΣ(ノ∀`*)

 原作でも日常的な表現めっちゃすくなかったですよね?たしか。

 月と詠、んで、薫の話はどっちも30分~1時間くらいで終ったんですが、華雄のみ3時間くらいかかったw

 それで、こんだけの量?とかいわないでくださいまし・・・w

 

 

 薫の拠点がこれで最後というのは、次章のシナリオで明らかになります。

 えぇ~と思われる方もいると思うので、壮大なネタバレをすると実は薫はヤンデレです。

 ただ、恋姫の作風からいって、ヤンデレってなかなか出しにくいですよね。

 一刀は基本がハーレムですから、ヤンデレの病の部分が出しにくいといえば、出しにくい。

 おかげで前作の薫はただのいい子で終ってしまいました つД`)・゚・。・゚゚・*:.。

 まぁ、後半、ここから薫が拠点なしでヒロインとして巻き返せるか・・・ですね。

 ちなみに、この薫る空ですが、エンディングは現在、琥珀ENDと薫ENDとトゥルーENDと3パターン考えてます。

 まぁ、そんな感じで、これからやっていこうとおもうので、次章もよろしくおねがいします。

 

 ではでは(`・ω・´)ノ


 
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