No.1157690

Kaikaeshi and Automata 10「怪の願い」

Nobuさん

花子の願いを聞くために、叶えるために、主人公達は戦います。

2024-12-07 09:00:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:180   閲覧ユーザー数:180

(まさか、彼女がいたなんて)

 琴葉達は、隣の地区の小学校の近くにやってきた。

 先日、花子が隠れていた旧校舎がある学校だ。

 隣の地区は、琴葉達の小学校とは、駅を挟んだ反対側に位置している。

 まずは、花子がよくいた場所から捜そうと思ったのだ。

 しかし、琴葉はペンダントを捜しながら、ずっと光一郎の事を考えていた。

 光一郎ぐらいカッコいいなら付き合っている相手もいるだろう。

 そもそも自分が付き合えるとは思っていない。

(だけど、なんだか凄くショックかも)

「……?」

 琴葉は落ち込み、ペンダント捜しに身が入らなくなった。

 ユズはそれが恋人の写真だとは思わず首を傾げた。

 その時、前から小学生の女の子達が歩いてきた。

「綾ちゃん達、大丈夫かな?」

「急に熱が出ちゃうなんてね」

「旧校舎で変なもの見たってうわさだよ」

「えっ?」

 どうやら、隣の小学校の生徒達のようだ。

 綾というのは、花子と遭遇して高熱を出している女の子の一人だろう。

「綾ちゃん達、いつも元気だったのにね」

「早く良くなってほしいよぉ」

「私、心配で夜眠れないもん」

 女の子達は不安げな表情で、琴葉の前を通り過ぎて行った。

(……そうだ、悩んでる場合じゃないよね)

 光一郎の事は気になるが、今はペンダント捜しに集中しなければならない。

 花子が元の世界に戻れば騒動もなかった事になる。

 高熱を出している女の子達も元に戻るのだ。

「早くペンダントをさがそう!」

「ああ、そのつもりだよ」

「……花子が願ってる。気合いを入れる」

「え、あ、うん」

 戸惑う光一郎をよそに、琴葉とユズは隅々まで探し始めた。

 三人は、町のあちこちを見て回った。

 隣の地区だけではなく、自分達の地区や、さらに他の地区まで探した。

 しかし、ペンダントは見つからなかった。

 花子によると、ペンダントにはヒマワリの絵が描かれているのだという。

 大きさは五百円玉ぐらいで、銀色の細いチェーンについているらしい。

「……そう簡単には見つからない」

 ユズは気合いが入っているものの、どこをどう捜せばいいのか困惑していた。

 ペンダントを落とした日、花子は町中を散歩していた。

 そのため、どこで落としたのか分からないのだ。

 三人は、落とし物として届けられていないか交番に行って聞いてみたが、そのような落とし物はなかった。

 町のどこかにまだ落ちているはず。

 琴葉達は必死に捜し続けるが、手がかりは全くなかった。

「残念だけど、今日はここまでにしよう」

「……」

 

 夕方。

 自分達の地区に戻ってきた光一郎は、琴葉に言った。

 日が暮れ、辺りは薄暗くなっている。

 これ以上捜すのは困難だ。

「明日はもっと遠くまで捜してみましょ」

「そうだね。きっと見つかるはずだ」

「……わたしが代わりに探す。わたしはレプリカントだから疲れない」

 ユズが代わりに探すと言うが、彼女に暗視能力はなかった。

 

「お~、三人で何してるの?」

 ふいに、声がした。

 顔を上げると、クラスメイトの和也が立っていた。

 和也は、大きなシベリアンハスキーを連れている。

「誰?」

「私のクラスメイトの和也くん。あ、ワンちゃん飼ってたんだ」

「あ~、いつも散歩はお父さんが行ってるけどね」

 父親は運動のため、仕事から帰ってくると、夜、犬の散歩に行くという。

 だが、今日は出張に行っているため、和也が散歩させていたのだ。

「シベっていうんだ」

「わ、名前そのまんまだね」

「大きい」

「シベは人懐っこいんだよ。お腹を撫でられると喜ぶよ」

「へえ~」

 琴葉がお腹をさすると、シベは嬉しそうに身体を動かし、尻尾を振った。

「ところで、琴葉ちゃんと光一郎君て、仲が良かったんだね。ユズちゃんもなかなか可愛いね」

 和也は三人を見ながら言った。

「学校じゃ、あんまり喋ってないよね?」

「あ、ええっと、それはそうなんだけど、仲がいいというか」

 琴葉はどう説明すればいいのか困る。

 怪帰師と通役と護衛だと言っても理解してもらえないだろう。

「……わたし達は、異変解決をしている。あなたは何もしなくていい」

 和也は意味が分からなかったものの、淡々と答えたユズに何と言葉を返せばいいのか分からず、ただ頷いた。

 その時、和也が声を上げた。

「シベ、ダメだってば!」

 見ると、シベは近くに落ちていた空き缶を咥えていた。

「また持って帰ろうと思ってるんだな。ほら、口から離して」

 和也は、空き缶を取り上げると、近くのゴミ箱に捨てた。

「よくある」

「シベは空き缶が好きなのかい?」

 光一郎が尋ねると、和也は頷いた。

「散歩中、落ちてる物をよく咥えるんだ。空き缶だけじゃなくて、落ちてるボールとか枝とかね。それを持って帰って小屋の中に貯め込んじゃうんだよ」

「そうなんだ」

「お父さん、シベを全然叱らないから、小屋の中で溢れているよ」

 和也は笑いながらそう言った。

「それじゃあ、また学校でね」

 やがて、和也は三人に別れの挨拶をすると、シベを連れて去って行った。

 

「……でも、待って。ペンダント……シベが、盗んだかもしれない」

 ユズは、ぽつりとそう呟いた。

 

 翌日、翌々日と琴葉達はペンダントを捜し続けた。

 しかし、相変わらず見つからない。

「もしかして、誰かがゴミと思って捨てちゃったのかも」

 夕方。

 家へと帰りながら、琴葉は弱気になっていた。

 もし、捨てられてしまっていたら見つけるのは不可能だ。

 いつまで経っても、花子を元の世界に帰す事はできなくなってしまう。

「このまま、光一郎君のお家に住んでくれればいいけど」

 そうすれば、花子と遭遇して高熱を出す人間もいなくなる。

 だが、横を歩いていた光一郎は、首を横に振った。

「昨日のあの様子じゃ、いつまでも僕の家にはいないような気がするよ」

 昨日、琴葉達はペンダントが見つからなかった事を子に話した。

 すると、花子は泣き出し、家から出ようとしたのだ。

 どうやら自分でペンダントを見つけにいこうと思ったらしい。

 琴葉達は花子を何とか落ち着かせ、家のトイレに戻ってもらったが、光一郎の言う通り、いつまでも家にいてくれるとは思えなかった。

「……早く見つけないと」

 そもそも、花子がずっとこの世界にいたら、今、高熱を出している人達が元に戻らない。

 琴葉はどうすればいいのか考えるが、アイデアは全く思いつかなかった。

「ペンダントさえあれば……」

 光一郎も顎に手を当てて、「うーん」と唸る。

「ん、ペンダント……」

「見つかる?」

 ふと、光一郎は明るい表情になった。

 

「そうか、その手があった!」

「何?」

「何か思いついたの?」

「ああ! これで彼女も喜んでくれるはずだよ!」

 琴葉達は、家に戻ると、トイレの中にいた花子を呼び出した。

 

「花子さん、いいアイデアがあるんだ!」

 光一郎はそう言うと、自信満々な様子でそのアイデアを話した。

「僕が君に新しいペンダントをプレゼントするよ!」

「……光一郎、どういう事?」

「どういう事って、そのままの意味だよ」

 花子の落としたペンダントを見つけるのは不可能かもしれない。

 しかし、同じようなペンダントを店で見つけるのは、決して不可能ではないのだ。

「さあ、花子さん、お店に行こう。それを買えば、元の世界に帰ってくれるよね」

 光一郎は、早速出かけようとした。

「クウゥ! ウウウウウ!!」

 突然、花子が大声を出した。

「花子さん!!」

「クゥゥウ! ウウウゥ! ウゥウウウ!」

 花子はそのまま家を飛び出す。

 すれ違ったその目には、涙が溢れていた。

 

「……怒らせたみたい。あれは思い出の品だから」

「光一郎君、何考えてるのよ!」

 琴葉は光一郎に思わず怒鳴り、ユズは無表情で呆れていた。

「何って、花子さんに喜んでもらおうと思って」

「喜ぶわけないでしょ! 花子さん、『そんなの絶対嫌』って言ってたんだよ!」

「えっ?」

「『ペンダントは、少しだけ人間界に来た時、仲良くなった男の子からもらったもの』って言ってた」

「花子さん、昔人間界に来た事があったんだ」

「重要なのはそこじゃないよ。大切な物って、似てるからいいとか、新しい物を買えばいいっていうものじゃないんだよ」

「……それが一番、彼女には大切だから」

 花子にとって、落としたペンダントには思い出が詰まっている。

 だからこそ、捜してほしいと頼んだのだ。

「そっか、確かにそうだよね……」

「……そういう時もある」

 光一郎は、自分のアイデアが間違っていたと気づいた。

「僕は、どうしていつもこう失敗ばかりするんだ」

 そう言って、大きく肩を落とす。

 そんな光一郎を、琴葉とユズは励ました。

「今は落ち込んでる場合じゃないよ!」

「わたし達が何とかする。花子のペンダントは、必ず見つける」

 花子と遭遇しただけで、普通の人は高熱を出してしまう。

 今はまだ夕方で、町には大勢の人達がいる。

 このままでは大変な事になる。

「花子ちゃんを早くさがさなきゃ!」

 琴葉の言葉に光一郎は戸惑いながらも大きく頷く。

「そ、そうだよね。このままじゃみんなが」

「……体調不良になる」

 三人は、慌てて外に飛び出した。


 
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