No.115729

晴嵐さん
続・恋姫無双第二部第五話「囮」
一刀が兵士達を必死に説得しているころ、司馬懿たち五胡の軍団は馬に跨り一刀達に迫っていた。
前線から離れているところには司馬懿たち四人の姿がある。
「五胡のやつら・・・ちゃんと足止めの役目果たしているのだろうな・・・」
「はい。連中の使っていた妖術も使っていますし、問題はないかと・・・」
「・・・ならよいのだが・・・一刀殿をなんとしても捕らえなければ・・・此度の遠征は無意味になる・・・」
「・・・はい。」
司馬懿の中で一刀という男がさらに大きい存在になっている。話で聞いて今日始めて彼と話したばかりだというのに・・・
曹仁はそんな司馬懿の横顔を見ながら
「(なんとしても北郷殿を捕らえてみせるぞ・・・)」
静かに闘志を燃やしていた。
だが、そんなとき
馬の雄たけびが聞こえてくる。
しかもかなりの数であると思われるほど
はっきりと司馬懿たちの耳に伝わってくる。
「な!?」
前方をみた司馬懿たちは驚いた。
前方にかなりの砂塵が上がっていたのだ。
そして司馬懿たちもその場に到着する。
その場には今まで先行していた五胡の兵士と多くの馬が地面に横たわっている。
そしてその中央には彼の姿があった。
北郷一刀その人である。彼は倒れている馬や五胡の兵士達の真ん中に立っており
右手で刀を持ち、司馬懿たちに背中をみせ、右肩に刀を乗せている。
曹仁の喉がゴクリと音を鳴らすと彼はそのまま振り返り司馬懿たちと対峙する。
彼の顔は真剣であり、その瞳の奥には強い信念を感じていた。
「・・・あなたお一人ですか?」
司馬懿が一刀に声をかけた。
その声色は優しく、普段の司馬懿からはまったく聞かないほど優しい声色だった。
「・・・あぁ」
一刀は軽く頷きながら返事をする。その声も真剣でその一言だけでもかなりの迫力を司馬懿たちに
感じさせている。
「・・・仲間を逃がすために自分を囮に?」
「あぁ。あいつらを死なせるわけにはいかないからな。」
「・・・その想い・・・やはりあなたは輝いておられる。大事なもののためならば死地にも赴くのですね。」
「そんな大げさな話じゃないさ。大事な人を守りたいだけだ。」
「・・・やはり貴方は私の主にふさわしいお方だ。」
「・・・」
一刀は少し戸惑っていた。初めて会い、そして自分の敵であるというのに。
今自分の目の前にいる人物が敵に見えなくなりそうになってしまいかねないほどに・・・
「・・・どうしても主にはなっていただけないのでしょうか?」
「・・・あぁ、申し訳ないけど。俺にとって皆はもうすでに大事な人達だからな。」
「・・・」
司馬懿は目を閉じて沈黙している。
曹仁たちもそんな司馬懿の横顔を伺いながら北郷一刀をみていた。
そして司馬懿の目が開く。
そして何かを決心したかのように一刀の目を見据える。
「・・・なら力ずくでも貴方をこちらに引き込むのみ!!」
そして彼女は最初会ったときには持っていなかった自分の得物を背中から取り出し、一刀に向けた。
「(・・・なんて大きな鎌なんだ・・・華琳の絶より二回りは大きいぞ・・・)」
司馬懿の右手に握られているその鎌はかなりの大きさで司馬懿のその細腕で持てているのが不思議なほどだった。
一刀が司馬懿の武器に目を奪われていると
「全軍!!進め!!!!」
曹仁の号令があたりにこだました。
それを合図に司馬懿たちの後ろにいた。五胡の兵士達が騎馬に乗ったまま突撃を開始した。
今、まさに一刀にとっての死地にはいったのである。
自分が生き残るか死ぬかのそれを決める戦場に・・・
「うお!?」
一刀は一度後ろに飛びのくとそのまま縮地法で一気に後ろへと走り始める。
だが、相手は騎馬。振り切れるはずもない。あっというまに自分の左右に騎馬が並ぶ。
そして自分の後ろにも・・・
「・・・(やっぱ騎馬に勝てるわけないよな・・・それが当然なんだけどな・・・)」
一刀は走りながらまわりを確認する。いつの間にか左右と後ろだけでなく
前方と前方の両斜め以外にはもう敵の騎馬が駆けている。
そして徐々に自分のほうへと近づいてくる。
彼らの武器は槍。騎馬の上からでも一刀に十分届く距離に迫ったとき。
彼らは無言のまま左右から槍を突きだした。
「(・・・チャンス到来!)っと!」
一刀は槍の突きを軽く飛んでかわす。
そしてそのまま、
「うおおーーー!!!」
後ろで槍を構えていた兵士の顔面に後ろを軽く振り向きながら後ろ蹴りを炸裂させた。
五胡の兵士もさすがに想定していなかったのかその蹴りをまともにくらい、地面に落ちる。
そして一刀はそのまま落ちた兵士が乗っていた馬にまたがった。蹴ったのは五胡の兵士だったので馬にはなんのダメージもない。
そのままの勢いで駆けてきた馬に一刀はまたがったのだ。
「はっ!!」
一刀は馬のたずなを握ると馬を更に速く走らせた。
そして前の斜めを走っていた五胡の兵士を斬りつけ、前方にはもう一刀以外にいない。
彼は馬を走らせる。更に速く、敵を引きつけるため、彼女達の無事を願いながら・・・
この光景をみていた司馬懿は傍に居た龐徳に指示を出した。
「龐徳、・・・わかっているな?」
「・・・御意」
目を閉じたまま軽く頭を下げ、龐徳は一刀とは別方向へと馬を走らせた。
そして司馬懿、曹仁、張郃の三人は五胡の兵士達の後を追っていった。
そしてこちらは凪達を担いだ兵士達。
彼らは森の中を抜けて必死になって橋を目指していた。一刀との約束を果たすため、ひたすら橋を目指す。
そしてやっとの思いで、橋の目前まで迫っていた。
だが、
「・・・くそ!やはり待ち伏せか!」
凪を担いでいた兵士が前方をみて声を上げる。
そこには30人ほどの五胡の兵士が武器を持ち、橋の前を陣取っていた。
そして一人の兵士が魏の兵士達に気がつくとゆっくりとこちらに歩いてくる。
彼らの仮面の目には赤い光が灯っている。やはり妖術をかけられているのか
その足取りはまさに一刀の世界でいう「ゾンビ」の歩き方だ。
ゆったりとこちらを見据え、フラフラとこちらに歩いてくる。
「くそ!楽進様たちを担いでいるもの!全員密集隊形!それ以外のものは前に出ろ!!」
「「「おおー!」」」
凪を担いでいる兵士の号令を聞いたほかの兵士達がすぐさま行動に移る。
この機敏さも日頃の訓練の成果だろう。凪、霞、真桜、沙和を担いでいる兵士はすぐに密集隊形をとり
それ以外のものは担いでいる兵士たちの前に立ち、武器を取る。
槍を持っている者は迎撃の態勢にはいる。
だが、そんなことはお構いなしにこちらに近づいてくる。
「(・・・絶対に一刀様との約束は果たす!)」
「(担いでいる奴は絶対に逃がす・・・俺の命にかえても!!!)」
それぞれの兵士の思いはひとつ。一刀との約束を守ること。
この信念のこもった眼差しはとても輝いている。
「(来い!!!)」
兵士の一人がそう考えていたその時、
ヒヒーーーン!
突然魏の兵士達の後ろから馬が彼らの頭上を飛び越えて五胡の兵士と魏の兵士達の間に着地する。
その少しあとに馬にのっていた龐徳が馬のすぐ横に軽くしゃがみこむように着地した。
そしてそのまま立ち上がると一度魏の兵士達のほうへと顔だけを動かしてチラリと見る。
その目線に魏の兵士達は体に剣を突きつけられたような錯覚を覚えた。
彼女の殺気はそれほどまでに強いものだった。
だが、それも一時的なものでしかなかった。
彼女はすぐに五胡の兵士たちに近寄りなにやら話しかけている。
その光景をみていた魏の兵士達だったが緊張は解かずにいつでも戦える体制だった。
そしてしばらくすると龐徳の左右を通り抜けて五胡の兵士がこちらへとまた歩いてくる。
だが、少し変わったことがあった。
全員、武器をしまっていたのである。
魏の兵士達が唖然としているというのに五胡の兵士たちはおかまいなしに魏の兵士達の左右を通り過ぎていく。
それを振り返りながら魏の兵士達は何が起こったのかまったくわからなかった。
そして我にかえった兵士達は龐徳を見つめる。
彼女も五胡の兵士が見えなくなると馬にまたがろうとしていた。
「ま、待て!!」
「・・・」
彼女は馬に触りながら無言で魏の兵士達のほうへと顔を向ける。
「ど、どういうことだ?」
「・・・」
「なぜ攻撃してこない!?」
一人の兵士は彼女を問いただす。自分たちを殺しにきたのではと思っていた兵士は彼女の行動がまったくわからなかった。
そして龐徳が軽くため息をつきながら静かに話し始めた。
「・・・あまりしゃべるのは好きではないが・・・司馬懿様の命令・・・我らの目的はあくまで北郷一刀だ。そして彼の悲しむことはできるだけしたくないのだ」
「「「・・・」」」
「天下を取るという目的は変わらない。だが今お前達が担いでいるやつらなどいずれは戦うのだ。今ここで殺す必要はない。それだけだ。」
彼女はそれだけ言うと素早くうまに跨り、五胡の兵士たちの後を追っていった。
魏の兵士など眼中にはいっていないかのように・・・
その姿を魏の兵士達は彼女の姿が見えなくなるまで見ていた。
「はっ!こんなことしてる場合うじゃない!一刀様が危ない!」
一人の兵士が慌てて元来た道を戻ろうとしたがそれを凪を担いでいた兵士が彼の肩に手を当て無言のまま首をふる。
凪を担いでいる兵士は誰も犠牲を出すことなく魏に戻ることを一刀が望んでいることをわかっている。
いや、ここにいる兵士全員がそれをわかっている。それに自分達がいったところで足手まといにしかならないことも
皆わかっていたのだ。妖術で力が更に上がっている五胡の兵士、そしてさきほどの龐徳の殺気。
それだけでもう十分に自分たちの実力は彼女達とはあまりに離れすぎていることを。
一人駆け出そうとした兵士は地面に顔を落としてた。言葉がなくとも肩に手を置いている兵士の気持ちがわかったからだろう。
彼らは武器をしまうと再び走り始めた。
「(・・・一刀様・・・どうかご無事で・・・)」
皆の思いはただひとつだった。
そしてその頃一刀は馬を走らせたまま山道へと入っていった。そしてチラリと後ろを見ながら自分に五胡の兵士達がついてくるのを確認し
少し安堵した表情で再び前方へと視線を移した。
山道になっていて少し足場が悪いがなんとか馬でも駆けていける道のりだったのが不幸中の幸いだろう。
「(あんま詳しく調べてなかったけどなんとか馬でも走れる道でよかった。・・・でもたしかこの先は分かれ道・・・確か更に山頂に向かって行く道と山頂じゃなくてそのまま降りていく道と二つあったな・・・山頂の道ははあんまり人が通らないはずだから・・・馬はそこまでかな・・・できるだけひきつけたいし、山頂の道をいけば五胡の連中も馬を下りることになるし・・・あいつらが逃げる時間稼ぎにもなるしな)」
一刀は考えた結論を出すと決心したように軽く頷いた。そして分かれ道に差し掛かると下山するための道へと馬を少し走らせてそのまま素早く馬から下りた。
馬はそのまま下山する道を走っていく。そして一刀は少し戻り山頂に向かう道を縮地法で駆けていった。
「(縮地法はまだ完璧じゃないから・・・もう少ししたら普通に走らないと最後に逃げるための体力が落ちてスピードもさがるからな)」
一刀は再び思考を回転させこの囮作戦の結末を考え始める。
彼もまた魏の兵士達との約束を果たそうとしていた。
無事に華琳と皆のところに戻る約束を。
そして彼は、途中から縮地法をやめ、普通に走り始める。
先程よりはペースは落ちているが五胡の面々も同じように馬を下りているので差はそれほど縮んではいない。
ちょうど一刀の姿を確認できる程度の距離だ。
「(ちょうどいいくらいの距離だな。よし!山頂着いたら一気に縮地法で引き離す!山頂には多分伏兵がいるだろうけど抜けちゃえば問題ないし)」
一刀は更に先のことを考えながら山頂を目指した。
そして山頂についた一刀は考えていない状況に追い込まれていた。
山頂に伏兵がいる。そう読んでいた一刀。数もそれなりに多いだろうが抜ければすむ問題と考えていた。
だが彼の考えていた状況とはまったく違っていた。
そこには伏兵などほんの数えるほどにしかいなかった。だがそれならむしろ好都合だったのだが
状況はまったくの最悪の展開だった。
山頂から下山するための道が岩で完全に封鎖されていたのである。
しかもその上には五胡の兵士が弓を構えていた。
一刀は走るのをやめ、回りを見渡す。岩にはまったくの隙間もなく、岩にのっている五胡の兵士の距離がバラバラなことから岩はひとつではなく
多くの岩があることを連想させた。
そして狙い済ました矢がこちらに向かって飛んできた。
「おっと!?」
今の自分の状況に少し動揺していたのか、飛んでくる矢に少し気づくのが遅れる。
本来の彼なら防御術の「山彦」でなんなく防げるであろうが、今回は刀を抜くそんな時間はなく
彼はそれを寸前のところでかわしていく。そして気がつくと彼は山頂の崖の方に追い込まれていた。
そしていつのまにか崖を背に完全に五胡の兵士に囲まれてしまった。
「(・・・完全に読み違えた・・・たしかに少しは封鎖のことはかんがえていたけど・・・あそこまで完璧に防がれているとは・・・)」
一刀はチラリと後ろを見る。
完全な崖。下が見えないほどに。
一刀は自分が完全に追い込まれ、絶対絶命の危機に直面していることを今再度思い知った。
「(さすが天下の司馬懿仲達・・・俺なんかが太刀打ちできるわけないか・・・)」
「追い詰めましたよ。一刀様」
「!?」
崖をのぞいていた顔を声のした方へと向きかえる
そこには五胡の兵士たちの横を通り抜けて先頭に出てきた司馬懿が立っている。その両脇には曹仁と張郃が控えていた。
一刀は司馬懿に向きかえり、頭を掻きながら司馬懿に声をかけた。
「・・・さすが天下の司馬仲達だな・・・完全に俺の行動が読まれてた。」
「お褒めの言葉として受け取っておきましょう。」
司馬懿は少し嬉しそうに顎に軽く拳をあてて一刀に答えた。
その表情を見ていると本当にこの目の前にいる人物が敵なのか一刀は迷うほどだった。
「司馬懿。かり、・・・曹操に力を貸してはもらえないかな?」
「・・・」
「たしかに華琳の方法は甘いのかもしれない。昔に比べてたしかに軍の力も落ちてる。だけど司馬懿達の協力があればそれも----」
「無理ですね」
「!?」
一刀の言葉をさえぎるかのように司馬懿はきっぱりと言い放った。
「・・・その理由、聞いてもいいかな?」
「・・・一刀様といえどこれはお話はできません。信じられないでしょうから」
「(信じられない?どういう意味だ)」
「さー。おしゃべりはここまでにしましょう。」
司馬懿は背中に背負っていた鎌を取り出し一刀に向けて突きつける。
一刀はなにもせずそのまま動かずにいる。
「もう一度お聞きします。一刀様。私たちとともに来ていただけませんか?」
「・・・何度聞かれても俺の気持ちはかわらないよ。」
「・・・残念です。本当に・・・」
司馬懿は突きつけていた鎌をゆっくりと下ろすと一刀に背を向けて歩き出すその隣を曹仁、張郃がおなじように歩き出す。
曹仁はこの時司馬懿の瞳から一滴の涙がこぼれているのを見逃さなかった。
司馬懿はできれば一刀には自分の意思で自分の主になってもらおうと思っていた。
だが、彼にも譲れないものがあった。そして司馬懿の主にはなれないという。
その曲がらない気持ちと自分の隣に彼が来てくれないことが混同して一瞬司馬懿の気をゆるめたのかもしれない。
「・・・いけ」
曹仁はしずかに号令を下す。
それを合図に五胡の兵士たちが一斉に武器を構えた。
一刀は目を閉じてゆっくりと深呼吸する。
覚悟はできている。
だが、死ぬ覚悟ではない。約束を果たすための覚悟だ。
「(俺は・・・約束を果たす!)それじゃ・・・いくぜ!!!」
一刀は背中の「天魏・一文字」を抜くと五胡の兵士達へと突っ込んでいった。
今、一刀の死闘が始まった。
続・恋姫無双第五話「囮」 終
あとがき
え~ものすごく遅れてのUPになります。
年末にUPしたかったのですが、オリキャラである司馬懿、曹仁、張郃、龐徳の武器の構成や
このあとの展開などでどうしても執筆が遅れてしまいました。
今後の展開のほうもまだ完全に構成しきれていませんが頑張って書いていきますので
ご意見やご感想などありましたら何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
さて、今回の物語ですが、少し司馬懿達のほうにも視点を合わせて物語を書きました。
曹操の元にいけないときっぱりと言い放った司馬懿ですが、これにはどんな理由があるのか
我々の歴史とは対照的になぜ曹操の従兄弟に当たる曹仁や曹操に絶対の忠義を誓っていたはずの龐徳が
司馬懿の元にいるのか。この辺の謎を残したままこの物語を完成させました。
この謎ももう少し先のお話で解き明かしていこうとおもいます。
それからもう年が明けて2010年となりました。
去年から書き始めてもうそろそろ一年が経とうとしています
自分がここまで書けたのも皆さんのコメントやご支援などのたくさんの元気をいただいたおかげです
本当にありがとうございます。表現や誤字などあるとはおもいますが
何卒これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
では、第六話でお会いしましょう。最後に読んでくださった方本当にありがとうございました。
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え~元日にUPです
遅れてしまいました。楽しみにしてくださっていた方々
誠に申し訳ありませんでした。
誤字やご意見や感想などありましたら何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
2010-01-01 10:46:32 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:6908 閲覧ユーザー数:4955