No.113576

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #17 帝国草創期|皇太子誕生

四方多撲さん

第17話を投稿です。
ただいま & お待たせ致しました! お待ち頂いた期間に見合う内容になっていればよいのですが^^;
タグに「魏オールキャスト」とありますが、張三姉妹はその他勢ということで、また暫くお休みです……申し訳ありませんm(x x)m
今回は建国直前のエピソードからのスタートとなります。少々堅苦しい説明が多めですが、どうぞのんびりとお楽しみ下さい。
ハーレムルート完結の為に! TIMAMIよ、私は帰って来た! 蜀END分岐アフター、再開です!

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2009-12-22 00:21:20 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:48157   閲覧ユーザー数:32384

三国の国主と呉先主・雪蓮の四人は劉協に謁見し、統一国家建国、即ち禅譲の願いを上奏した。

 

劉協は一刀と触れ合い、彼の人柄・器に感服し。

北郷一刀へ禅譲することを決心し、その想いを託す。

一刀もまた劉協の想いを継ぎ、平和な国を創ることを約束した。

 

かくして漢王朝は滅び、三国は統一され、新たな王朝が建立(けんりつ)されることとなったのだった。

/???

 

「……というような趣向はどうかしら?」

「ええっ!? 華琳さぁん、それはちょっと恥ずかしいよぉ////」

「そう? 私は面白いと思うな♪ それに、態度をはっきりさせてない娘に覚悟を決めさせるには丁度いいんじゃない?」

「今後、改めて“誓約”したっていいのだから。慌てさせることはないけれどね」

「そっか。……それに、それなら確かにみんな“平等”だし。うん、わかったよ」

 

 

 

/洛陽 謁見の間

 

本格的な夏が訪れ、暑い日が続いている。

 

洛陽の宮廷は、ここ一年以上“主”のいない居城だった。

本来、その玉座に在るべき『漢』の皇帝は、曹魏の庇護を受ける為、その首都・許昌に移住しており、宮廷は残された一部の官吏が管理していたのだ。

 

しかし、今。洛陽の宮廷は久々に人の気配に溢れている。

新たなる帝国の主とその臣下たちが、ここ洛陽を帝都とする為に、政務の準備や物資の運び入れなど、新王朝の建立の準備の為、様々な職務に忙殺されているのだ。

 

『天の御遣い』北郷一刀も劉協からの禅譲の手順を全て済ませ、いよいよ新王朝建立と皇帝即位を大陸全土へ告示するのみとなった。

 

禅譲した先帝というのは、無理な理屈を付けられて幽閉されたり、場合によっては殺されたりしたものだが、一刀へ禅譲した前王朝の皇帝である劉協は、山陽郡の公(王に次ぐ諸侯の称号・爵位)に任じられており、一人称『朕』の使用許可など、非常に厚遇されている。

 

 

そんなある日。

彼は洛陽の宮殿にある謁見の間の玉座で一人、だらーーんと弛緩しきっていた。

 

(……はぁー……華琳め、無茶振りしやがって……)

 

三時間程前、一刀は突然元三国の王に呼び出された時から、ついさっきまでの怒涛の如き時間を思い出していた。

 

 

……

 

…………

 

 

玉座に、新たな主が座っていた。

謁見の間に呼び出された北郷一刀である。

彼の側には、元三国の国主たち――桃香、華琳、蓮華――が囲むように立っていた。

 

まず口を開いたのは華琳である。

 

「北郷一刀。あなたはこれから私達全員の主――皇帝となる訳だけれど」

「……ま、形式上はね」

「好きに言ってなさい。形式上かどうかは個人に任せるとして。とにかく……一度、元三国の重鎮全員があなたに仕えることを“誓約”する儀式を行うわ」

「えぇ~? わざわざそんな畏まらなくてもいいんじゃない?」

「馬鹿言わないで。仮にも禅譲を受けて新たな国を建てるのだから、家臣には相応の忠誠心が必要よ。もし、あなたに忠誠を誓えないというなら、更迭されることも覚悟してもらわなくてはならないわ」

「ふぅ……帝国ともなるとお堅い部分も必要か……」

「あははっ! ご主人様、そういうの苦手だもんね♪」

「一刀はこれから謁見“される”側の立場になるのだから。慣れなくては駄目よ」

「華琳に加えて蓮華にまで言われちゃ仕方ない……頑張ります」

「ふふん、初めからそう言えばいいのよ」

 

目を細めてニヤリと笑う華琳。

 

「……その怪しい笑みは何なんだ、華琳」

「あら、何のことかしら?」

「……////」

「??」

 

一刀の突っ込みにも笑みの表情を崩さない華琳。何故か顔を赤らめて目線を逸らす桃香。一刀と同じく何故華琳が笑みを浮かべるのか分からない蓮華。

 

(……只では終わらない気が……)

 

何かが仕組まれているのを確信しつつも。具体性のない予感では、それをどうにも出来ない以上、最早諦めざるを得ないというこの状況に、一刀は僅かな戦慄を覚えていた。

 

(……はぁー……改まって、しかもこんな畏まらなくてもいいと思うんだけどなぁ……)

 

数段高い位置にある玉座に座る一刀の眼下。

謁見の間には、三国で名を上げた数々の武将、軍師らが集合していた。

 

(うーむ、こうして見ると壮観なのは確かだけど……)

 

正直、自分より下に華琳や雪蓮、蓮華がいることに違和感が拭えない一刀である。

戸惑う一刀を余所に、いつの間にか桃香・華琳・雪蓮が玉座のすぐ下に跪いた。

 

(っと、儀式の開始か……)

 

 

「劉玄徳」

「はい」

 

一刀の言葉に桃香が立ち上がり。

 

「汝の大徳を以って我を輔(たす)けよ――我が名の下に上公『太傅(たいふ)』に任ず!」

「はい!」

 

返答して礼を取り、再び跪く。

 

 

「曹孟徳。汝の辣腕を以って大陸に遍く泰平をもたらすべし――我が名の下に上公『丞相』に任ず!」

「御意」

 

 

「孫伯符。汝の苛烈なるを以って世を乱す諸事悉くを平らげよ――我が名の下に上公『大司馬』に任ず!」

「はっ!」

 

 

まず一刀は元三国の王たちへ最高位の官吏である上公を任じた。

皇帝の訓導を司どる『太傅』を桃香へ。

政権最高責任者、現在でいう総理大臣である『丞相』を華琳へ。

文官として軍事の全てを司る、国防長官に当たる『大司馬』を雪蓮へ。

 

三人へ上公を任じると、一刀は一旦玉座へと座り直した。

 

続いて、上公三人が立ち上がり振り向いた。

そして、華琳が一歩前に出る。

かつては自他共に認める覇王であった彼女は、些かも衰えぬその覇気を纏い、下座にて跪いていた全ての家臣へと声高らかに問うた。

 

「我、曹孟徳が丞相の名の下に汝等に問う!――『大和帝国』皇帝、北郷一刀様に忠誠を誓うか! 否がありし者には、此処より退出することを許す!」

 

華琳の言葉に動く者はなかった。

普段ならば何かと突っかかる詠や音々音、焔耶に春蘭、思春も、臣下の礼を取り跪いたまま。

 

そんな中、唯一立ち上がったのは袁紹――麗羽だった。

 

「「ひ、姫!?」」

 

周囲はざわつき、麗羽の側近である猪々子と斗詩が慌てて主を押えようとするが。

 

「……お二人は、そのままでいなさい」

 

いつになく静かな迫力に満ちた主の言葉に、二人は改めて跪き、周囲も沈黙する。

 

「……曹孟徳殿。発言のご許可を戴きたく存じます」

「許す」

 

礼に則った麗羽の請いに、華琳も即座に許可を出す。

 

「わたくし、袁本初は……官としては北郷一刀様にお仕え致しませぬ。願わくは……召し上げて下さいますよう」

 

麗羽の言葉に誰もが己が耳を疑うようだった。

特に猪々子と斗詩、そして親類である美羽は、酸欠の魚のように口を開閉し、目を白黒させていた。

 

麗羽は官としての地位は要らぬと。ただ女としてのみ一刀に侍ると言い切ったのだ。

 

確かに皇后となればその身分は折り紙つきではある。

だが、彼女が欲しがっていたモノはそういった、誰かに寄りかかる“チカラ”ではなく、自身が他者を支配する“チカラ”の筈だった。

況(ま)してや、北郷一刀に侍る女の数は、蜀という国に限ってさえ二十を数えようかという程であり、皇帝となることでその数は更に増えることになるのは確実。つまり、多数の中の一にならざるを得ないということである。

故に、かつての麗羽ならばこのような言葉を言う筈がなかったのだ。

 

結局、彼女の言葉に動揺を見せなかったのは桃香だけだった。

 

「……そうか。分かった」

 

一刀も、変わったとは言え、あれ程に家名に拘っていた麗羽がこう言うとは思っていなかったが。

彼女には彼女の考えと生き方がある、とその言葉を受け取り、そう答えた。

 

((ふぅ……あ~吃驚した……))

(女の子としてだけご主人様に侍る、かぁ……。凄いなぁ、麗羽さん……ちょっと羨ましいかも♪)

 

一刀の返答に、猪々子と斗詩は胸を撫で下ろし、桃香は今にも麗羽へ飛び付きそうな程に喜んでいた。

 

(全く……“あの”麗羽がね。一刀の影響というのは、本当に恐ろしいものだわ。――いつか、私も“変わって”しまうのかしら?)

 

幼少の頃からの知己である麗羽が、一刀と出会い触れ合うようになってからのこの短い時間で、これ程にまで変わった事に、華琳もまた驚愕し、僅かに目を見開いていた。

そして思う。その影響が自分に及んだ時、果たして自分はどうなるのか。

 

(不思議な……感じだわ)

 

困惑、恐怖、歓喜。渦の如く入り混じる感情。

しかし僅かに洩れた内心の感情をすぐさま隠し、華琳は退出しようとする麗羽に声を掛けた。

 

「袁本初。ならば……退室ではなく、下座へと下がっていなさい」

「まだ、何かありますの?」

「そうよ」

「……そう。ならば従いましょう」

 

麗羽は謁見の間の出口近辺の最下座に下がり、跪いた。

それを確認し、華琳は更に家臣達へ語り出す。

 

「では――忠実なる諸君に問おう!……ふふっ♪」

 

が、すぐにその相好を崩し、いたずらっぽく笑った。

 

『??』

 

誰もが、その笑みの意味を掴みかねていた。

 

華琳の言葉を切っ掛けに、彼女を含む上公の三人――華琳、桃香、雪蓮――は玉座へと振り返る。

楽しげに笑う雪蓮と、はにかみ少々顔を赤らめて微笑む桃香。そして、不敵な笑みを深める華琳。

 

三人は玉座への階段を登り、一刀の前に立つ。

 

(???)

 

何が起こるのか、全く想像出来ていない一刀に。

 

「ん♪」

「んむぅ!?」

 

桃香が熱烈な接吻。

 

 

『!”#$%&’=~|¥^-@‘+*?』

 

 

騒然となる臣下達をさて置いて。

 

「ぷぁ……えへへ~♪ これで私、本当の意味でご主人様のモノなんだね……////」

 

さも嬉しげに一刀へそう呟く桃香。

一刀は驚きの余り、ほぼ思考がストップしていたが。

この幸せそうな桃香の表情を、一生忘れられないだろうと。そんな思いだけが脳裏に浮かんでいた。

 

のだが。

 

「しっかりなさい。……私を、ちゃんと見なさい、一刀」

「あ、ああ……。え? か、華琳もか!?」

「この私の唇に触れることが出来る“男”は……天上天下唯一あなただけ。三国、いえ大陸に誇りなさい――んぅ」

「ん……んぐぅ!!?」

 

次は華琳がその小さな唇を、一刀のそれに合わせた。ついでに舌まで入れてきた。

 

 

『!”#$%&’=~|¥^-@‘+*?』

「「華琳さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」

 

 

更に混迷を深める謁見の間に、春蘭と桂花の叫び声がなお大きく響いた。

 

「ふふ……私を“支配”したいなら。精々精進なさい、皇帝陛下?////」

「――はぁい。……顔、赤いぞ」

「ふん!(ぷいっ)////」

 

どっちが上だか分からない二人。

これもまた、二人が別たれるまで続く関係なのだろうと。そして別つのはきっと……“死”のみだと一刀は漠然と感じた。

 

然(しか)して、ここまでくれば当然。

 

「んふふふ♪(舌なめずり)」

「……お、お手柔ら――」

「ん~っ♪」

「ん、むぐぅ~~!!?」

 

一刀が言葉を言い終える前に、雪蓮も唇を合わせた。華琳に負けじと、一刀の頭を抱え込んで、それはもう熱烈に。

 

 

『………(ぽかーーん)』

「ね、姉様!?」

「雪蓮姉様、ずるーーーーい!!」

 

 

とうとう皆が沈黙してしまった謁見の間に、孫家の妹二人の悲鳴が響いた。

 

「ぷはぁ♪……ご馳走様☆」

「ぜぃぜぃ……」

「なーによ~、しっかりしてよね。だ・ん・な・さ・ま?」

「――ははっ! じゃあ覚悟しとけよ、雪蓮?」

「わぉ。言ってくれるじゃない♪」

 

心の内に“修羅”を潜ませるこの女性の全てを受け止めることも。自分が大陸に落ちてきた――『天命』というもののひとつなのだろうと、一刀は直感した。

 

 

上を下へと騒ぎ、ついには沈黙してしまっていた臣下達へ、華琳が更なる爆弾を放り込む。

 

 

「これで私達三人は、臣としてだけでなく、一刀に自らを“女”としても捧げることを宣誓したわ。さあ――ここからがあなた達への“問い”よ」

「あぅー、やっぱり恥ずかしい~~////」

「くすくす……若いわね~♪」

 

「え? ちょ、ちょっと?」

 

玉座では、一刀が混乱している。

 

「お膳立てはしてあげたわ。一刀に臣としてだけでなく、“女”として侍ることを宣誓するならば。この玉座まで登り、一刀へ唇を捧げなさい」

 

 

『ええぇぇぇーーーーーーーっ!?』

 

 

数十人もの(一刀含む)叫び声が謁見の間に重なって木霊した。

 

「まずは蜀からだよ~!」

 

「難しいことは分かんないけど、お兄ちゃんが好きなら“ちゅー”すればいいのだなー? にゃははは~♪」

「うぅ……こんな人前でなんて……」

「お姉様、後ろが閊(つか)えてるんだから。早くしてよ~」

「ん~、ちゅ♪」

「うわっ!? り、鈴々……お前、躊躇無いな……」

「にゃ? 当たり前なのだ。鈴々はお兄ちゃんが大好きなのだ! だから迷うことなんて、な~~んにもないのだ♪」

「そ、そっか……そうだよな……。よ、よぉし! すー、はー、すー、はー。……う~~~!(ちゅっ)」

「もう、お姉様遅ーーい! 次はたんぽぽね! 愛してるからね、ご主人様~♪」

 

「はっはっは! 全く恐れ入りましたぞ、桃香様」

「えへへ……♪ 私もちょっと恥ずかしかったけど、これならみんな平等だしね♪」

「はわわ……」「あわわ……」

「おや、軍師殿らには刺激が強すぎましたかな? ふふ……。では、主。我が愛と忠誠を貴方様に――」

「せ、星さん……。こ、ここは勇気出さなきゃだよ、雛里ちゃん!」

「あぅ~……恥ずかしいよぅ……。で、でも、うん。頑張る!」

「あ、愛しています、ご主人様……」

「わ、私も……お慕いしています……」

 

「ご主人様。どうか、末永く可愛がって下さいね……////」

「ゆ、月~~~……」

「えへへ……。はい、次は詠ちゃんだよ」

「ええっ!? えっとぉ~~……」

「詠ちゃん。戦争でご主人様が行方不明になったって聞いて、私と一緒に泣いてくれたでしょう? ……もう、詠ちゃんはご主人様から離れるなんて出来ないんだよ」

「あ、あれは!」

「(じぃ~~~~)」

「(そんな目で見ないでぇ~~~!)わ、わかったよぅ……くぅ~~~~……んっ」

 

「……ご主人様、好き(ちゅっ)」

「恋殿がしたから、仕方なくですぞ!?……ちゅっ」

「ねねも、ご主人様、好き」

「れ、恋殿ぉ~~!?」

 

「うふふ♪ いつか、璃々に弟か妹をお授け下さいな♪」

「唇だけでは少々物足りなくもありますかな? くっくっく……」

「き、桔梗様まで……」

「なんじゃ、焔耶。さっさとせんか」

「うう……うううう……」

「はぁ~~、情けない……。ほれ、彼方を見てみよ」

「は?……うぅっ!?(と、桃香様が見てる……)――ええい、ままよ!」

 

「(ったく華琳めぇ……こんな恥ずかしいこと強制させるなよなぁ……)こほん。……一刀、好き、だよ……」

「全く、華琳さんの掌で踊るようで癪に障りますわね。……一刀さん。これからは皇帝としてしっかりとお励みなさい」

「あたいは麗羽様と斗詩のついでってことで……。でも斗詩を泣かせたら承知しねーからな、アニキ!」

「……ご主人様、どうか(いろんな意味で)見捨てないで下さいね……」

 

次々に一刀へ唇を捧げる旧蜀勢の娘たちだったが。

一人だけ、間誤(まご)つく娘がいた。

 

「もう!……愛紗ちゃん?」

「あ、あぅ。と、桃香様~……」

「こういうのは、覚悟を決めてさっとしちゃわないと余計に恥ずかしいんだよ。多分」

「……たった今、それを実感しています……」

「ぷくく♪ 愛紗は相変わらず臆病なのだ!」

「くっ、鈴々……覚えておけよ……」

「翠だってもうしたのだ~。あとは愛紗だけなのだ~~♪」

「うぅっ、確かに……」

「そこであたしを引き合いに出すなよ!?」

「さあ、頑張って! 誰かに手伝って貰うことじゃないからね♪」

「は、はい!」

 

愛紗は深呼吸し、ようやっと一刀の前に立つ。

 

「ご、ご主人様。ずっと――この身果てる迄、お側に。お慕い申しております――」

 

 

 

「次は魏よ。私に遠慮は無用。自分の心に正直になりなさい」

 

「私は絶対にしません! 私の全ては華琳様だけのモノです!」

「はいはい」

 

先鋒をきって拒否したのは桂花。

 

「う~~、う~~、う~~、う~~……」

「何を唸っているのだ、姉者。行かぬなら、私が先に行くぞ?」

「な、なに!?」

「ふふ……まさか、この私が華琳様以外の者に唇を許す時が来るとはな……」

 

「ほら、流琉。何してんのさ。先行っちゃうよ?」

「ええ!? で、でもぉ……////」

「もー! 好きなんでしょ、兄ちゃんのこと。なら悩むことなんかないじゃん!」

「そ、そう……かも?」

「そうだよ! じゃ、ボクからね! ……。…………。………………」

「……どうしたの、季衣?」

「な、なんか……すっごい恥ずかしいよぉ、これ~!////」

「今更何言ってるのよーー!?」

「う、うん。じゃあ……ちゅっ」

「に、兄様……不束者ですが、よろしくお願いします……んっ」

 

「稟ちゃんはどうするのですかー?」

「え!? わ、私は……。私は、華琳様に全てを捧げるのですから……」

「そうですかー。では、風は行ってきますねー」

「ええ!? い、いつの間にそんな……」

「風は元々、軍師として“日輪”たる華琳様を支えることが願いであって、“そういう意味”で捧げる気はありませんでしたからねー」

「それとこれは話が違うでしょう!?」

「風個人としてはお兄さんをとても気に入ってますよ? 風と真っ当に会話をしてくれるだけでも、十分に稀有な殿方ですから。ここで他の人に水をあけられたくはないのですよー」

「う、うう……」

「悩むくらいなら、この場では止めておけば良いのではないですか? ではお先にー」

「(はぁ……本当に、あなたは“風”のよう……)」

「という訳で。……何やら茫然自失ですね、お兄さん。ふふ、こういう顔も可愛いですねー……ちゅっ」

 

「……うっし! 女は度胸!」

「おおっ、姐さんが気合いれとる!?」

「茶々いれんな! ……一刀。ウチの心をオンナにした責任取ってぇな……」

「凪ちゃん、霞様に先に行かれちゃったの~」

「そ、そんなこと言われても……////」

「ほれ、ウチらも行くでー」

「そうそう! もう皆、凪ちゃんの本心は分かってるの!」

「……そうだな。霞様の言う通りなのかもしれないな……」

「「女は度胸?」」

「ああ……私は、あの方を――愛しているのだから」

「きゃー♪」「おおー!」

「どうか……末永く、お側に……んっ」

「えへへ~、私も。三人一緒に、お側において欲しいの~……ちゅっ♪」

「ん!……あー、やっぱこういうんは照れくさいわ~、へへへっ////」

 

「う~~、う~~、う~~、う~~」

「……春蘭」

「か、華琳様ぁ……」

「あなたが私を愛していることは十分に分かっているわ。素直におなりなさい」

「…………」

「悩んでいる時点で、気持ちは表れているのよ。天秤になどかける必要はないの。私と同じように。“両方”を取ってみせなさい」

「華琳様……はい!」

 

華琳の言わんとすることを悟り、春蘭は玉座まで駆け上がる。

 

「北郷一刀。華琳様を泣かせるような真似だけはするな。常に私が見ているからな!」

 

 

 

「ようやく呉の番よ。代わりに、悩む時間は十分あったでしょう? さあ、いらっしゃい」

 

「「(じとーーー)」」

「……はいはい、内緒にしててごめんなさい。蓮華、小蓮」

「もう、どれだけ驚いたか……発案はどうせ華琳でしょうけれど」

「かーずと! どれだけ側女がいようと、シャオが一番なんだからね! ん、ちゅ~♪」

「しゃ、小蓮!?」

「ほら、説教なんてしてるから先を越されるのよ」

「(ギロッ)」

「……涙目になるくらいなら、さっさと行きなさい(嘆息)」

「…………はい」

「えっへっへ~、おっ先~♪」

「……#」

「小蓮も挑発しないの」

「はぁーい」

「ふぅ……私のことも、忘れないでね。一刀、愛しているわ……////」

 

「(ニヤニヤ)」

「……笑うな」

「だってぇ~」

「だってではない。全く……」

「ほらほら、後が閊えてるんだから」

「情緒も何もあったものではないな……。さて、いつぞやの謝儀のこともある。これからも宜しく頼むぞ、北郷……」

 

「んちゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

「……穏。後が閊えてるから、そのくらいにしておきなさい……」

「はぁい。ちぇっ」

 

「はぅあ~~~~////」

「ど、どうしよう……////」

「ええい、小童共! うだうだ悩むくらいなら行動せい!」

「「そんな事を言われても~……」」

「ならば……今までの、奴との触れ合いを思い出せ! そして、自身の想いを信じてみせい!」

(思い出……)

(私の……想い)

「「……往きます!」」

「くっくっく。おぬしの“英雄”っぷりに期待させて貰おう、北郷――」

 

「…………」

「思春。後はあなただけよ?」

「……いつぞやも申し上げましたが。私は奴に輿入れする気は毛頭ございません。そうしなければならない事情でもない限り、私は蓮華様のお側に」

「そ、そう? 思春がそう言うなら、私は構わないけれど……」

「んふふー? ねえ、思春」

「な、なんでしょう? 雪蓮様(嫌な笑みを……)」

「あなたは基本的には武官として一刀に仕えることになるでしょう。でも、そのままだとあなたは日常的には後宮に入ることが出来ないわ」

「!?」

「一刀に輿入れすれば、蓮華は後宮で日常を過ごすことになる。その間の護衛は、誰かに引き継ぐのかしらね?」

「うっ!?」

「まあ、後宮はこの国でも特別安全な場所だけどね。どうするの? あ、あなたも後宮に入れば。くくっ、蓮華と共に、い、いられるのよ? ……ぷぷっ、あはははは!」

「……笑いながら言われても困ります!」

「だ、だってぇ……あー、可笑しい! でも、言ってることは本当よ? 呉国内ならともかく。天子の後宮ともなれば、如何にあなただって許可なしには入れなくなる。まして武装したままではね」

「……私にも、奴の、側女になれ、と?#」

「ソウネー、ソレガイイトオモウノー」

「雪蓮姉様、棒読み過ぎます……」

「ふふ。たとえ後宮に、一刀に輿入れしたとしても。思春、あなたが拒否する限り、一刀は絶対に手を出さないわ」

「……そうね。それは私もそう思う。……ううん、絶対そうよ」

「……っ!! ……! …………。……。わ、かり、ました。そのような事情であれば、是非もありません……」

「そう♪」

「……(やっぱり思春も、一刀を憎からず想っているのかしら?)」

「…………いいか、北郷。これは全て蓮華様の為。勘違いするなよ! ……ぅん」

 

「お嬢様は行かれないんですか?」

「な、何を言うか!? あんな胡散臭い男に、名家袁一門の血を……」

「でも、袁紹さんが側女になってる時点で、袁家の血はもう継がれてますよ?」

「……そ、そうじゃな。まさか麗羽姉様が、男に心を許すなんて驚いたのじゃ……はっ!?」

「どうしたんです、お嬢様?」

「な、七乃! もしや、七乃も……あ奴に輿入れしたいのか!?」

「はぁ。私はどうでもいいというか。お嬢様がそうなさるなら、ご一緒しようかなー、くらいで。そうしないと後宮に一緒に入れませんからねぇ。まあ北郷さんはいい人だと思いますけど……私にはお嬢様がいますもの♪」

「そ、そうか。ふ、ふふん。あ奴から“是非、正妻として迎えたい”と言うて来るならば、考えんでもないがの!」

(んもぅ! 強がっちゃって~~♪ ……でも、そこはかとなく苛々するような……?)

 

三国の乙女達による接吻ラッシュが終わり、一刀は茫然自失中。

そんな皇帝を放っておいて、上公三人が集まって何事か話している。

 

「結局、輿入れを拒否したのは……桂花と稟の軍師二人と、袁術・張勲の主従だけね」

「くすくす……私は時間の問題だと思うわ♪」

「あ。あと、美以ちゃんも輿入れします。正式には後宮に入る訳じゃないけど」

「ああ、『南蛮大王』ね。……あなた達にくっついて来ているけど、南蛮の統治は大丈夫なの?」

「うん。ちらほら帰ってるみたい。元々南蛮の人達って、部族単位の集まりだから。常に王様は必要ないんだって」

「それはそれでどうなのかしらね……。それでは蛮族扱いされるのも仕方がないわよ」

「でも、いきなり私達の文化を押し付けたくないし。ちょっとずつ、こっちのやり方を見て、覚えて貰いたいの」

「……そうね。詳細はまたそのうちに詰めましょう。あとは……」

「そういえば、張三姉妹ってどうなったの? 確か、張角が結構引っ付いてた感じだったけど」

「……あれらは、身分的には庶人なのよ。今は少し難しいわね……」

「ええ!? 身分で駄目だなんて、そんなのよくないです!」

「……恋敵が増えるというのに、本当にあなたは躊躇ないわね……。なら、此方から接触を取るようにしないとならないわ。対外的には、何かしらの功績も必要よ。……正直、旧魏領での人気から考えると、皇帝が召し上げても問題ないという気もするけれど。一応、私から訓告をしておいてあるわ」

「対応策があるなら、いいんです。道を閉ざすようなことはしたくないから」

「「はいはい……」」

 

支配者層という立場から考えると、妙なところで急に強情になる桃香に、華琳も雪蓮も少々呆れつつ。

華琳は、謁見の間の壁沿いにある(床に直に座る用の)机につき、身体を休める月――と、その膨らんだ腹部――を見ていた。

 

「……そうね。それもこの場で言っておかなくてはね……」

「どうしたんですか、華琳さん?」

「もうひとつ、重要なことがあるでしょう?」

 

華琳は、謁見の間に集まった者達へ確認として問いかけた。

 

「皆、聞きなさい。皇帝、北郷一刀の“正室”は……皇太子たる第一子の母、董仲穎――月でいいわね?」

 

暫しの沈黙。誰もがその背に緊張を走らせた。

そんな状況の中、最初に口を開いたのは、桃香だった。

 

「――うん、そうだね。華琳さんの言う通りでいいと思う」

「へ、へぅ!? と、桃香様!?」

 

彼女の一言に、場に一瞬満ちた緊張は一気に解れ。

その言葉に驚きを示したのは、月のみだった。

 

「え、詠ちゃ~ん! わ、私なんかが正室でいいのかなぁ……?」

「何言ってるの、月! かつて漢王朝の司空(土木行政の最高文官)と太尉(軍事最高武官)を兼任し、一時は相国(現代における総理大臣職)まで上り詰めたあなたなら、身分的にも全く見劣りないわ! 寧ろ、あんな奴には勿体無いくらいよ!」

「へ、へぅぅ~~……」

 

詠は力説するが、月は困ったような顔で、思わず周りの皆を見回していた。

 

「こればっかりは運次第だし、しょうがないよなぁ」

「あれぇ? お姉様、羨ましいんだ?」

「う、うるさい!」

 

照れ隠しに大声を上げた翠に、雪蓮が突っ込む。

 

「蜀の誰か、なのは確定していたようなものなんだから。翠は文句言える立場じゃないでしょ?」

「う。そ、そう言われちゃうとなぁ……」

 

そのやり取りを見て、亞莎が冥琳に確認するように尋ねた。

 

「残りは皆、側室となるのですね?」

「そういうことだな。翠の言葉ではないが、仕方ない。側室の順列付けは……そのうち、となるだろうな」

「…………恋はご主人様の家族になれるなら、なんでもいい」

 

相も変わらず、マイペースな恋だったが……。

彼女の言葉に、官位などに詳しい者達が苦い顔をした。

 

「むぅ……」

「……あ、あら。こ、困っちゃったわね……」

「……愛紗。言ってやってくれ……」

「わ、私か!? ……れ、恋? とても言い辛いのだが……。側室は女官――“使用人”であって、正確には家族ではないのだ……」

 

「――!!?(ふら~、ぱったり)」

「恋殿~!? お気を確かに~~!!」

 

愛紗の言葉を聞いた『万夫不当』と謳われた武人は、衝撃の余りその場で仰向けに倒れてしまった。

 

そう。この時代において、めかけ・側女であるところの側室は、使用人扱いなのである。

勿論、寵姫として皇帝に深く寵愛を受ける場合も多々あるが、身分としては正室――つまり皇后こそが天子(皇帝)の家族であり、それ以下の妃嬪である側室たちは高位の女官であったのだ。

また、後宮において側室が女官として扱われる以上、そこには明確なランク付けがあり、低位の者はそれこそ単純に宮中内の職務に携わる使用人でしかなかった。

史実において、魏の明帝こと曹叡は十二ないし十三からなる側室の等級を制定したという。

 

しかし、それに激しく反応した者がもう一人。

 

「――異議あり! みんなが使用人扱いなんて、我慢出来るか!」

 

今の今まで、余りの事態に呆然としていた皇帝――北郷一刀である。

 

 

「側室が使用人だというなら、全員を“正室”にする! これだけは……何が何でも譲らない!!」

 

 

……

 

…………

 

 

「――言ったからには責任取らなきゃ、な」

 

玉座に座ったまま弛緩しきっていた身体に力を入れ直し、一刀はそう独り言(ご)つ。

 

最初は規則がどうの、後々の影響がどうのと一刀を説得しようとした華琳や蓮華だったが。

一刀はこの時代の側室に関する説明を受けて、側室には序列が付くと聞くや、尚更に態度を硬化させてしまった。

逆に説得していた彼女らも、自身が正室……真の意味で一刀の家族になれるという誘惑には抗い難く。

 

結局、新皇帝の鶴の一声(単なる我儘とも言う)によって、見事皇室・後宮制度について法改正が為された。

これにより、『大和帝国』には、四十名近い“正室”が存在することとなったのだった。

 

大陸全土へ衝撃的な告示・御布令が為された。

 

曰く。

劉協の禅譲による漢の滅亡。

新王朝『和』――大和帝国の建立。

そして……その頂点たる皇帝は、『天の御遣い』と名高き、北郷一刀――。

 

 

『和』は、それまで維持されてきた三国同盟から、魏・呉・蜀という国の枠を外す形でスタートした。

 

まずは首都、即ち帝都(京師)を洛陽と定め、新たな年号を『黄平』と制定した。

 

また、一刀が「分かり難い!」と我儘を言い出し、『天の知識』によって、暦を陰暦から太陽暦に改めた。

同時に太陰暦による季節のズレを正し、季節を春夏秋冬の4等区分にするために考案された区分手法である『二十四節気』は従来通り使用することとされた。

その為、現在は暦の上では“立秋”も近い八月初頭。季節の上では、真夏である。

 

皇帝たる北郷一刀を中心に、三国の首脳陣がそのまま帝国の中核を構成することで、元三国領地への強力な支配力を維持した。

 

官としては、以下のように配された。

最上位の官である上公のうち、皇帝の訓導を司どる『太傅』には桃香。政権最高責任者『丞相』には華琳。国防長官『大司馬』には雪蓮。

軍事の最高責任者であり、最上位の武官である『大将軍』には愛紗。

政権中枢たる三公、民事を司る丞相のサポーター『司徒』には朱里。土地・人民・土木工事を司る『司空』には桂花。武事・軍事を司り、大司馬のサポーターである『太尉』には冥琳。

行政の実務機関である尚書の長である『尚書令』には雛里。その補佐である左右の『尚書僕射』には稟と亞莎。実務を行う上級官吏である尚書(因みに定員は六名)には秋蘭と七乃。

皇帝の公的秘書である中書の長、『中書監』には桃香(兼任)。その副官『中書令』には蓮華。

皇帝の諮問に備える側近である『侍中』には、詠・穏・風・音々音。

その他の武官たちは、それぞれ五営の校尉や、皇帝の身辺警護を司る『九卿』光禄勲、将軍などに就任し、中央軍の兵を掌握していた。『和』はその基盤となった三国が全て軍閥であり、周辺諸国への示威もあり、軍縮は行っていなかった為、有能な将軍はまだまだ必要であった。

 

なお、桃香は当初『中書監』のみの就任を望んだのだが、そうなると三公である朱里よりも官品が下となってしまう。元主君より上位になることを嫌がった朱里に泣き付かれ、上公『太傅』も兼任することとなったのだった。

蓮華も同様に冥琳より官品が下になるのだが、此方は冥琳よりも若輩であることを理由に説き伏せたらしい。実際のところは、皇帝の秘書官であり、また詔令を起草し、臣下からの上奏について答の草案をつくることを担当する中書は、今後重要な役職となることを見越した冥琳が折れた形である。

 

 

元々の有力者などの不満を軽減する為、上級官吏である『九卿』には基本的に彼らを配した。

同時に、未だ『漢』の官位にしがみ付き、建設的な行動を取れない者は、その大半が更迭、放逐された。

 

官位や立憲については、稀代の天才である曹操を中心に作られていた魏のものを踏襲(一部改変)。

 

経済に関しては、三国という枠を無くすことで、より流通を自由化させて発展させる方針を打ち出した。

 

法治については、蜀の厳しい法定『蜀科』を元とし、信賞必罰を厳守する方向で定められた。

従来のように法を支配階層の統治手段とするのではなく、罪悪には飽く迄も法の規定の下に刑罰を科する――即ち『大和帝国』は法治主義を目指すものとした。

 

一方、諸外国(五胡、高句麗、西域諸国、南西異民族)に対しては、『大和帝国』皇帝の名の下に、各地の王として冊封する形式を採ったが、略奪の如き重税や大きな関税の徴収、大規模な徴兵などのような強権を行使することはなく、寧ろ逆に“半対等な貿易相手”として扱った(戦勝国と戦敗国であり、冊封によって臣君の関係であるが友好性を保っている状態――戦後のアメリカと日本の関係に近しい部分がある)。

 

『三国志』の時代、漢王朝がまだ健在であった時期に比して特にその権力を減衰させたのは、宦官であった。

漢王朝では一部の宦官が中常侍(所謂『十常侍』)として皇帝に侍ることで強大な権力を我が物としていたが、反董卓連合軍によって官軍の主力であった董卓率いる元涼州軍が敗北。その後、漢皇帝・劉協が曹操・華琳によって擁立されることで実質の権力を失うと、同様にその権力を失った。

 

王朝が『和』となり、再び皇帝が権力を取り戻したが……中常侍の役目が、“皇帝の傍に侍り、その身の回りを司ること”であると知った小蓮が、基本的には宦官がなる官職だというのに無理矢理就任してしまった。

元々三国の一である孫呉の姫君であった小蓮は、そのバックボーンを生かし見事中常侍の筆頭に収まった。その為、宦官が大きな権力を取り戻すことはなかったのだった(寧ろ、『和』の中常侍らは小蓮のパシリと化したと言ってもいいのかも知れない……)。

 

但し、皇帝である一刀の後宮(宮廷内で皇帝が家庭生活を営む場所)には現在四十名近い正室がいる訳だが、彼女達は皇帝の身の回りの世話を“女官”にやらせること――つまり一刀に日常的に女性を近づけること――をとても強く忌避した為、此処においては宦官は重用されており、そういう意味では三国鼎立時代よりは多少の権勢を取り戻したとも言える。

 

しかし、正室となるのは戦国乱世を乗り越えた英傑ばかり。『和』王朝の中枢は正室で“も”ある彼女たちで占められているが、その殆どが皇帝たる北郷一刀に心酔していると言っていい。媚びたところで、それがどうしたとあしらわれるのが関の山。結局のところ、取り戻したと言ってもその権力――つまり政治に関与する力は微々たるものだった。

 

 

ともあれ、中常侍筆頭に就任して数日。小蓮は、早速ではあるが大問題を抱え、頭を悩ませていた。

 

「うぅ~~ん……うぅ~~~~ん…………うぅ~~~~~~ん」

 

小蓮の机には、大量の小さな木札が散乱していた。彼女はその木札をグループ分けしては悩み、また木札をばらばらに崩すということを繰り返していた。

木札には一枚につき一人の名前が書かれており、その名前は全てが皇后……一刀の正室(になる予定)のものだった。

 

「う~~……あーもう!」

 

とうとう癇癪を起こした小蓮は両手を振り回し、机から木札をばら撒いてしまった。

 

「三十八人もいるんだもん、そもそも無理があるよぉ~~~!」

 

彼女を今悩ませているのは、『一刀の婚礼&夜伽スケジュール』なのである。

 

この時代の婚礼に披露宴という概念はない。婚礼は花婿が花嫁の家(中国ではひとつの大きな家に一族郎党が全員住んでいる)へと訪れ、持参品を渡し、花嫁を自分の家へと連れて帰るのが一般的とされている。そして花嫁は三日後に一度だけ実家へ戻るが、それ以後は決して実家に帰ることは出来ないのだ。

そして相応の身分のものが正妻を迎えるとなると、結婚とは個人と個人の関わりではなく、“家と家の結びつき”が重視されるのが当然だった。

 

さて、ここで北郷一刀という男性について、現在(古代中国)における結婚対象として鑑みてみよう。

彼は『天の御遣い』であり、天界からやって来たということになっている。実際、この大陸で“北郷”の姓を持つのは彼一人であるのは確かであろう(明らかに千数百年後の日本にしかない姓であるからして)。

よって古代中国での結婚における最大の禁忌『同姓結婚(同じ姓同士の結婚)』の心配は不要である。

また家柄という観点では、彼は異世界からの来訪者であり天涯孤独であるが故に、現状の身分のみが焦点となる。となれば、彼はこの帝国の皇帝陛下であるのだから、彼以上の家柄を持つ者は存在しないことになる。

 

結論を言えば、彼からの求婚を断るような女性は、この『大和帝国』のみならず周辺諸国含め、まずいないと言っていいということである。可能性があるとすれば、庶人の出身で余程心に決めた相手がいる場合くらいだろう(一定以上の身分のものは、たとえ本人が拒否しても家人が無理矢理にでも嫁がせるだろう。尤も一刀がそれを知れば大いに怒り、婚約破棄なり離婚なりしてでも身を引くだろうが)。

 

そして、一刀が后として迎えたのは、大陸に勇名馳せる武将と軍師らである。異を唱えるものなど在り得なかった。

『九卿』のひとつである『少府』の人間は、皇室の財政を司るという役目上、その正室の多さから遣り繰りなどに頭を悩ませることになると覚悟したが、それも時間が経つにつれ、寧ろ一刀や皇后たちの質素さに、逆に驚くことになるだろう。

……エンゲル係数の高さにも驚くだろうが。

 

何にしたところで、一刀の結婚に関して問題は然程無いと言って良いだろう。

では小蓮は何に頭を悩ませているのかと言うと……

 

「婚礼の順番は、基本的に官位順……一刀の元々の配下だった旧蜀勢を優先して、日毎に出身国を変えればいいのよ。一刀は順番とか嫌うけど、これは仕方ないもん」

 

婚礼の形式は、人数が多いこともあり、従来通りでは時間が掛かり過ぎるということで、独自に制定することになった。

后は自室で『婚礼衣装』に着替えて待機。一刀が后を迎えに来て、一刀の閨房まで連れて行く。そこで『結婚指輪』を后の指に嵌めて、先日の臣下の儀礼とは逆に一刀から后へ接吻して終わる。それ以降どうするかは一刀と后に任せる、という形を想定している。

『婚礼衣装』は、ウェディングドレスか白無垢かを后が選ぶことになっており、また『結婚指輪』は、全員共通で純金製のものが贈られることになった(花嫁の真名が刻まれている)。

小蓮と一刀が相談し、天界の形式を(中途半端に)取り入れた婚礼の手順は、ここまでは決定している。

 

「でも、これだと全員の婚礼が最短でも来月中旬まで掛かっちゃうのが問題なんだよね……」

 

まず第一の問題がこれである。一日一人ずつ婚礼を行うとすると、計三十八日間。一ヶ月強も掛かってしまう。

何かしらのイベントなどが挟まる可能性も否定出来ず、最悪九月いっぱいまで掛かるかもしれないのだった。

小蓮は順序的には早い方になるだろうが。彼女自身が待たされるのが嫌いな性質であるが故に、順序が遅い娘のことを思えば、なるべく早く婚礼を行ってあげたいと考えていた。

 

「となると……集団での婚礼形式にするか、或いは一日を区切って数人ずつとか……」

 

この時代の婚礼は通例、夜に行われていた(故に「婚」の字の旁は「昏」と書くという説がある)。

夜に限って婚礼を行うとして期間を短縮しようと思えば、集団での婚礼形式にするしかない。しかし、これは女性側から見れば、生涯一度の婚礼において、新郎である一刀に自分のみを見て貰えないという弊害がある。

 

「……うん。集団婚礼はみんなだって嫌だよね。となると、一日に何人かずつ、時間で分割したらどうかな……?」

 

小蓮は考えてみる。

当然、婚礼の儀礼が終わった後、彼女は一刀に自らの全て――処女を捧げる積もりでいる。これは他の娘にしても大概がそうだろう。まして既に肉体関係を持つ旧蜀勢なら、それこそ当然の成り行きとなる筈だ。

婚礼自体はさして時間が掛かるものではない。となると時間的制約は単純に“行為”の時間となる。

 

「一人につき何刻(一刻=二時間)くらい必要かなぁ……」

 

『和』では太陽暦と共に、一日を二十四分割する時刻制が導入されたが、まだまだ全くと言っていい程浸透していない。この時代では十二分割と四十八分割が基本であった。

 

「朝餉が卯の三刻(午前七時頃)として……辰の刻(午前八時頃)から始めて……昼餉から少し休憩……未の刻(午後二時頃)から次の娘で……同じように夕餉を挟んで、酉の三刻(午後七時)くらいから最後の一人……。うん、なんとかなりそうじゃない! あ……でも夜の分担の娘は、そのまま一刀と一緒に寝られるから、ちょっと優遇されてる感じかなぁ……」

 

それ以前に、真昼間から行為に及ぶことにも問題がありそうだったが、小蓮はその辺りには全く頓着していなかった。

また、確かにこの方法ならば約二週間で全員の婚礼が終わるが……その代わり、一刀はその二週間、皇帝として何も出来ないことになるのだが。

しかし小蓮には第二の問題もあり、そこまで頭が回っていないようだった。第二の問題、即ち婚礼後の夜伽に関してである。これについてはまた別の機会とする。

 

「そもそも、蜀でどういう生活してたとか。そうよ、まず必要なのは情報……。よし! 誰かある!」

「は、ははっ!」

 

小蓮の呼び出しに、執務室のすぐ外で控えていた中常侍の一人である若い(小蓮と同世代くらいの)宦官が入室して来た。彼女の癇癪に巻き込まれまいと、わざと部屋の外で待機していたのである。この数日で彼女との付き合い方を弁えている辺り、相応に有能なのだろう。

 

彼以外の中常侍は、はるかに年下の上司である小蓮の我儘に近しい命令に辟易し、それこそたった数日で既にこの小蓮専用(つまり中常侍筆頭用)の執務室に近寄らなくなっていた。

かと言って皇帝である一刀に侍ろうと思うと直属の上司である中常侍筆頭の小蓮から激しい叱責が待っている。

 

『シャオを差し置いて、一刀に侍ろうなんていい度胸じゃない!!』といった感である。

 

故に彼らはすぐ隣の中常侍の執務室で渋々書類仕事などの雑務をするしかなかった。下手に反論などしようものなら、彼女の一言で免職すら有り得るだから。

結局、最後まで残ったのがこの若い彼だけだったが、彼にしても歳が近いことを利用して小蓮に媚びることで、何とか利権を得ようとしているに過ぎなかった。

 

対して小蓮は、仮にも一国の姫君として戦乱の世を生き、『孫尚香親衛隊』を率いる武将でもある。

まして歳若い姫君を上手く利用してやろうと近寄ってくる馬鹿者共を幼少の頃から相手してきた小蓮である。皇帝復権に託(かこつ)けて私腹を肥やさんとする宦官たちの軽薄な欲望など完全に見切っており、生かさず殺さず彼らを良い様に操ってみせていた。

小蓮にしてみれば、一刀の理想に邪魔な欲望しか持たない彼らなど眼中にないのである。煩わしい雑務を押し付け、彼女自身が出来る限り愛しい一刀に侍る為に利用する気満々であった。

 

「旧蜀勢の后たちに伝言して。今晩、後宮の中庭の東屋に集合よ!」

 

「という訳だから、きりきり答えてね♪」

 

そう“お願い”する小蓮の周囲に集められたのは、旧蜀勢の正室たちである。

 

「しゃ、小蓮……いきなりそう言われても、何が何やら分からんのだが?」

「もー、だからぁ! シャオは中常侍として、一刀の後宮での生活を管理しなきゃならないのよ? そこには当然、婚礼や夜伽の予定も含まれるんだから!」

「な、なに!?」

「う、うえぇ!?」

「何を驚いておるのだ。愛紗、翠。小蓮は中常侍として至極真っ当なことを言っておるだけではないか」

「后がこんなにいるんですもの。大変よねぇ、小蓮ちゃん」

「とは言え、下手な予定を組めば、不満が出るどころか最悪血を見ることになるからのう」

「シャオお姉ちゃん、大変なの?」

「そうなのよ、璃々。みんなが満足出来るようにしなきゃいけないからシャオは大変なの。だから、一刀が蜀ではどんな生活をしてたのか。それをみんなに聞きたいんだけど」

「おー、それをちゃんと聞きに来るなんて、小蓮は偉いのだな!」

「なーんか鈴々に褒められても嬉しくないんだけど……」

「シャオお姉ちゃん、偉い!」

「うんうん、璃々に言われると素直に嬉しい♪」

「にゃにおー! 鈴々だって素直に褒めてるのだ!」

「そう? ならいいけど……。とにかく、質問に正直に答えてね」

 

小蓮はそう前置きして質問を口にした。

 

「一刀って、一晩で何人くらい相手にしてた?」

 

「「「「ぶぅぅぅぅぅぅぅ!?」」」」

「はわわっ!?」

「あわ……////」

「へぅぅ……////」

 

愛紗・翠・焔耶・白蓮が噴き出し。朱里・雛里・月は大慌て。

 

「いきなり何言い出すのよ!?」

「ま、全くなのです!」

 

詠と音々音は文句を返し。

 

「「「??」」」

 

そんな反応を返す面々を不思議そうに見ている鈴々と恋、そして璃々。

 

「いやいや、夜伽の予定を決めようというのだ。重要なことではないか」

「全くだ。実に的確な質問であろう」

「そうねぇ。小蓮ちゃんは中常侍に向いているのかも知れないわね、うふふ♪」

「わたくしも紫苑さんらとある程度は同意見ですわね」

 

さも当然と、冷静な星・桔梗・紫苑・麗羽。

 

「ご主人様が一度に何人か相手にしてるのは、魏や呉の娘だって知ってることだし。今更って感じ?」

「そうだなぁ。つーか、あたいと斗詩含めて、初めてのときから誰かと一緒な奴も多いんじゃね?」

「も、もう! わざわざそんなこと言わなくてもぉ……文ちゃぁ~ん////」

 

素直に答える蒲公英と猪々子。そして、そんな相棒の発言に赤面している斗詩。

 

「そうにゃ! みぃもこの間の“発情期”の時は、部下共と一緒に兄に鎮めて貰ったにゃ♪」

「そうだにょ!」「だいおーの言う通りにゃ!」「にい様、優しかったにゃ~……」

「そうなんだぁ。優しくしてくれて良かったね、みぃちゃん達♪」

 

『(発情期……?)』

 

羞恥心の薄い美以と南蛮兵たちの暴露に、どこか見当ハズレな受け答えをする桃香。

その他の面々は、南蛮民の不可思議な生態に首を捻っていたが。

 

「……二人から四人くらいは普通ってことでいいの?」

 

少々話がずれ始めた為、改めて小蓮が問うた。

 

「そうだね。私の場合、一人の時と、愛紗ちゃんや焔耶ちゃんと一緒だった時で、半々くらいかな~?」

「「と、桃香様ぁ!?////」」

「なんだ愛紗。おぬしは私と共に主に抱かれたこともあろうに」

「せ、星! 余計なことを~~!?」

「あはは♪」

 

「たんぽぽは専らお姉様と一緒だったな~。二人相手ならご主人様も全然余裕だったよ♪」

「たんぽぽぉ~~! うぅぅ……////」

「いちおー、焔耶と一緒だったこともあるけど……あれは勝負だったしぃ~、数えるべき?」

「う、うるさいぞ、小娘! 恥じらいというものがないのか、お前は!?////」

「シャオは正直に答えてって言ってるんだから、恥ずかしがってちゃ駄目でしょーが! この脳筋!!」

 

「ふむ、そうよな。わしと紫苑を纏めて相手に出来る男など、大陸広しと言えどお館様唯お一人であろうよ」

「うふふ、そうね♪ 寧ろ、私達の方が押されてたものねぇ」

「うむうむ。全く恐ろしいお方よ♪」

 

「鈴々は誰かと一緒だったことないのだ。朱里と雛里も一緒だったの?」

「鈴々ちゃぁ~~ん!////」

「あぅぅ~~////」

「よーし! 今度、お姉ちゃんか愛紗と一緒にお兄ちゃんのとこ行ってみるのだ!」

「何を言い出すのだ、鈴々!?」

「うん、いいよ~♪」

「桃香様までそのような!?」

「……鈴々ちゃんって、相変わらず凄いね、朱里ちゃん////」

「うん、そうだね……////」

 

「…………月は、詠と一緒?」

「恋!?」

「恋殿!?」

「は、はい……////」

「ゆ、月~~!?」

「…………私も、ねねと一緒」

「あ、あれは! 恋殿をへぼ太守の毒牙から守ろうと!////」

「……?」

 

「……こうして聞いてると、一刀の奴……」

「……そうですね、白蓮様……」

「何悟った振りしてんだよ、二人とも。あたいらだって四人纏めて相手して貰ってんじゃん」

「うっ……た、確かにそうだけどさぁ」

「文ちゃん……もうちょっと恥じらいを理解してよぉ……」

 

 

「……むぅ~……#」

 

何やら惚気を聞いている気分になりつつあり、怒りがこみ上げてきていた小蓮だったが。

 

「小蓮さん。まず考えるべきは婚礼の順序でしょう? 何故、一刀さんの夜伽の人数などを尋ねられたの?」

 

そこへ質問を返したのは麗羽であった。

他の者も、麗羽の質問は道理だと考えたようで、小蓮に注目が集まる。

 

「うん。実は――」

 

小蓮は、一日一人ずつの婚礼では期間が掛かり過ぎること。集団婚礼は出来れば避けたいこと。その上で期間短縮の為には、一日に複数人ずつ婚礼をこなすしかないことを伝えた。

 

「成る程……納得ですわね。正室の大半が朝廷の中枢である以上、婚礼だからと言って時間を掛けるのは宜しくありませんものね」

「……そうですね、麗羽さんの仰る通りだと思います。確かに女の子としては婚礼を大事にしたいですが、建立したての国としては今こそが重要な時期です。政務を疎かにする訳にはいきません」

 

小蓮の意見を聞き、同意した麗羽の言に、内政の達人である『伏龍』こと朱里もまた頷いた。

 

「小蓮ちゃんの方策だと、ご主人様は約半月、政務に携わることが出来ませんが……そこは上公のお三方と、私を含む三公、そして尚書を司る雛里ちゃんで何とか出来ると判断します。軍部に関しては愛紗さんもいらっしゃいますし」

「(こくこく)」

「うむ、そういうことなら任せておけ。星や紫苑、桔梗も手伝ってくれるだろうしな」

 

「話を聞いた限りだと、毎日三人ずつくらいなら一刀も問題ないみたいだし。よぉ~し、これでいくよ♪」

 

小蓮は元気一杯に宣言したが。

話が纏まりそうだったところで、蒲公英が口を挟んだ。

 

「……ねえねえ、一日に三人ずつなのはいいんだけど。どう考えても、夜の担当の娘が優遇されてる気がしない?」

「あ~……言われてみると、そうかもな」

「ふむ、蒲公英の言うことも尤もな話だ。何せ夜明けまで主と共にいられる訳だからな」

 

蒲公英の言葉に、翠・星が同意し、他の者達もその意見に頷いていた。

 

「う~~ん、やっぱそう思うよね~……。シャオもそこで悩んでたんだけど……」

 

悩ましげに眉を顰める小蓮。

それを見て、旧蜀勢全員へ声を掛けたのは、元蜀国国主である桃香だった。

 

「ねえ、みんな。私達は――蜀の娘は他の娘より早くご主人様に出会えて、そして結ばれた。これって、優遇って訳じゃないけど……恵まれてるよね?」

『…………』

「だから……夜の婚礼は魏と呉の娘に譲ろう? ご主人様と一緒に夜を明かす、あの幸せを……魏や呉のみんなにも感じて欲しいの」

 

桃香の提案に、否を唱える者は無かった。誰もが、笑みを以ってその申し出を受け入れた。

 

「……勿論です。彼女等は我等が友。『仲間』にも同じように幸せを。否などある筈がありません」

 

そう答えたのは、誰あろう愛紗であった。

その言葉に、星は笑みを深め。年長二人を初め、他の者たちも笑顔だった。

 

「ありがとう、みんな! 小蓮ちゃん、後はお願いね?」

「……うん。桃香、みんな。ありがとう……」

 

小蓮は感涙に瞳を潤ませていたが、袖で涙を拭い、手提げから例の木札を取り出し、東屋の机に並べる。

 

「えへへ、早速組み合わせ、考えなきゃね♪」

「頑張って、小蓮ちゃん。……あれ?」

「どうしたの、雛里ちゃん?」

「う、うん。ねえ朱里ちゃん。蜀で正室になるのって、十九人……だよね?」

「えっと……うん、そうだね」

「ふむ。とりあえず美以は正室にならないからな」

「みぃは大王なのにゃ! だからショクやギやゴの全員と友達にゃ!」

「あ~もう、可愛いなぁ……(なでなで)」

「ごろにゃぁ~~ん♪」

 

どうも美以には『結婚』という概念はまだ理解出来ないらしい。ということで、一先ずは南蛮を友好国のひとつとして、その王と部下である美以たちを賓客として扱うこととなっていた。

 

「正室は全員で三十八人……ということは」

「あ、そっか! 蜀の人数と、魏呉を合わせた人数が丁度一緒なんだ!」

「あら、それは気付かなかったわね」

「ならば話は早い。元々の小蓮の計画よりは多少期間が長くなるが」

「うん! 一日二人ずつの婚礼で、十九日……これならぎりぎり今月中に婚礼を済ませられるよ!」

「よかったね、小蓮ちゃん!」

「ちょっと姉様や華琳。朱里、雛里には負担掛けちゃうけど」

「あ、あのー……私は?」

「桃香はあのバカが仕事しないなら、そんなにやることないでしょう? それに、負担に関して心配は要らないわ。皇帝が婚礼で政務に関わらないなら、桃香と同じく侍中は暇だもの。この賈文和と……」

「ねねに任せておくのです!」

「そっか。詠ちゃん、ねねちゃん。ご主人様の為にも、頑張って!」

「「あいつの為じゃないわよ(のです)!?////」」

 

「――みんな。みんな、ありがとう! これなら全員が納得出来る婚礼が出来るよ♪」

 

小蓮は笑顔で旧蜀勢の皆へ謝礼を述べたのだった。

 

 

 

一日二人ずつという小蓮からの婚礼予定の提案に、一刀も大いに賛成した。

彼も最悪集団婚礼からの大人数乱交コンボになるのではと戦々恐々としていたが。何よりも忌避していたのは、婚礼だと言うのに余りに人数を纏めすぎて、一人一人をちゃんと見て会話することが出来ないような状況だったのだ。

 

こうして北郷一刀と三国の乙女たちの婚礼は滞りなく済まされ、ようやっと彼女等は北郷一刀と結ばれたのである。

 

余談であるが、正室となった旧魏・呉勢で唯一思春のみは唇こそ捧げたものの、一刀との行為には及ばなかったそうな。

ついでに言えば……夜伽による一刀の受難は、正にこれからであるということに、彼は気が付いていなかった……

 

新国家建立の草創期、ある意味婚礼よりも内外に関心深く、かつ影響も大きいであろうイベントは。

『和』王朝の建立から約一ヶ月が過ぎようかという頃に起きた。

 

三国同盟時期より妊娠していた月の出産である。

 

 

「あう~あう~あう~」

「「……#」」

「あう~あう~あう~」

「「落ち着きなさい!」」

「……はい」

「あはは……」

 

お産の為、特別にあつらえた個室の前。

自室で待つことに耐えられなかった一刀に付き合って、桃香、華琳、雪蓮が廊下にいた。

最初は、正室の殆どが様子を窺っていたのだが、余りの混雑振りに華琳が一喝。上公のみが残ったのだった。

 

一刀は、その廊下をうろうろと徘徊しながら、口から無意味な音を垂れ流す。

華琳と雪蓮から同時に叱責され、奇声というか奇行を止めた一刀だが。

明らかに落ち着きがなかった。

 

「はぁ~……。“待つ”だけって辛い! こんなことなら、やっぱり立ち会うんだった……」

「あのねぇ。出産に立ち会う男なんて聞いたことがないわよ」

「俺のいた世界じゃ、それなりにあったんだよ!」

「へぇ~、そうなんだ。やっぱり天界って別世界なんだねぇ」

 

素直に感心する桃香であったが。

この時代、庶民なら手伝いという形で立ち会う者もあったろうが(それにしても極少数であろう)、一刀は仮にも皇帝。最上流階級である。

当然、お産には専任の産婆とその助手が立ち会うわけで、男なんぞに出番はない。

 

「あああああ……」

「――ッ#」

 

ゴスッ!

 

「……げふぁ(ばたり)」

 

猫よろしく壁をがりがりと爪で削り始めた一刀を、流石にウザったくなったか、華琳が回し蹴りでK.O.した。

 

「大人しくしてなさい#」

「か、華琳さん……そこまでしなくても……」

「だって、煩いんですもの!#」

「私も華琳に同意~」

 

暫くは慌しい室内の気配と、苦しげな月の声だけが響いていた。

 

だが、突如聞こえてきた、大きな泣き喚くような声。

まるで自身の存在を誇示するかのような大きな泣き声――赤子の産声が廊下まで響いた。

 

「……月ーーーー!!」

 

気絶していた筈の一刀は、がばりと起き上がり。

そのまま、お産の部屋へと飛び込んでいく。

 

「はぁ……子煩悩な父親になりそうね……」

「あははは! そうねぇ♪」

「それでこそご主人様だよ♪」

 

 

こうして無事生まれた御子は『白(はく)』と名付けられた。

 

本来ならば『北郷白』となるのだが。

正室が皆、一刀の子を身籠る可能性があることで、予測される皇子・皇女の人数の多さ。

何より、正室は皆品位は同じとされてはいるものの、やはり元国主や現在の官職によって立場に差が有ることから、皇子・皇女は母方の姓を名乗ることとなった(なお、中国では夫婦別姓が常識である)。

 

また、この世界の『儒教』は男女平等の、現実のものとは違うパラレル的教義であり――元三国の王は皆女性であったように――女性も王となることが出来る為、董白は女子であるが『皇太子』と呼ばれることになる。

 

月の出産の数日後。

一刀は九月の『頂議』にて、全ての議題が終わった後、こう切り出した。

 

「今、この国……いや、この大陸に足らないモノがある!」

 

なお、『頂議』とは『和』朝廷の首脳たる上公、大将軍、三公、尚書のトップスリー、侍中、中書のトップツー(のちに御史中丞も参議することになる)が、皇帝を交えて月初めに執り行う小会議を指している。

 

「へえ。言って御覧なさいな」

 

一刀の突然の言葉に即座に返したのは丞相の華琳。

一刀は頷き、続きを語り出した。

 

「ああ。とにかく、全く、完全に、徹底的に、圧倒的に――“医者”が足りてない!」

「……成る程。確かに数は少ないわ。でも、そんなに重要な案件かしら?」

 

一刀が口にした案件に疑問を提示する華琳。

何せ今は新しい国家の礎を築く重要な時期。この時期にどれだけ基盤を固められるかで、その王朝がどれだけ支配力を保つことが出来るのかを決定すると言ってもいいだろう。

 

その大切な時期に、“医者が足らない”と言う一刀。

 

「華琳ですらこの程度の認識なのか!?」

 

頂議の参加者は、ほぼ全員が華琳の意見に賛成のようだった。唯一医者にその命を救われた経験のある、太尉(軍事を司る三公)の冥琳のみが、困ったように苦笑いをしていた。

 

かつて華佗を探し出そうとした時。また、今回の月の出産後の母子の健康維持においても。

一刀が驚愕し思い知ったのは、医者という職業に対するこの世界の人々の認識だった。

 

古代中国において、医者という職業は卑賤の職とされ、志願者すら寡少だったのである。

何故なら、まだ消毒などの防備が確立していないこの時代、医者というのは病原に直接触れなくてはならない為に、常に“汚い”イメージが付き纏う。故に、病気でないときには遠ざけておきたいものであったからだ。

また、この時代の医療は道教などの宗教・呪術と入り混じってもいたこと(病気になるのは、自身の罪の報い・先祖を供養しない・呪いや崇りなどという迷信が広く浸透していた)も大きいだろう。

何しろ“子曰く”のフレーズで有名な孔子すら『人として余程の事がない限り、祈祷師や医者になるものではない』と自書に書き残したくらいなのだ。

加えて、薬を用いる医者はその分高額な医療費を要求した為、庶民が気軽にかかることは出来なかったのだ。

 

しかし……

 

 

「そんなことを言ってたら子供達の健康も守れない! それに、人口増加の妨げにもなる! 早い段階で優秀な医者を育てなくちゃいけない!」

 

 

いつにない――というか助平心で突き動かされている時のような――激しい一刀の主張に、誰もが押され気味。最終的には頂議に参加していた官僚全員が折れることとなった。

一刀は現代人であるが故に、消毒・抗疫の技術レベルが出産率(死産を含めた出生率)や出産後の母体の生存率の向上に極めて重要であることを認識していた。だからこそ、その言葉には強い説得力が籠められていた。なにより、彼が示した計画が有用であると判断されたのだ。

 

見事、帝国官僚の英傑らを説き伏せた、一刀の医者増員計画は以下のようなものであった。

 

 

まず第一に必要なのが、医者に対する忌避感の除去である。

一刀はかつて華佗が冥琳を救った際の事実を、噂話や詩人の歌、雅楽、芸人の歌曲、果ては劇団の演劇によって大陸全土へと広めることにした。

ここで活躍したのが張三姉妹である。

旧魏領(三国が統治していた領地のほぼ北半分)に多くの熱狂的ファンを持つ彼女らの歌曲に、この華佗による美談を混ぜ込み大々的に喧伝したのだ。

これにより帝都・洛陽を中心に大陸の北半分には、あっという間に『神医、美周郎を救う』の美談が広まった(ついでに、冥琳の病魔を“予知”した形となった一刀も、『天の御遣い』として更なる声望を得た)。

また、医者という職そのものに官位を与え、相応の地位と名誉を用意した。帝室御殿医ともなれば三品クラス(三公と同等)という好待遇である。

 

……ただ、華佗に無許可で詩歌・歌曲・演劇化した為、シャイな彼から後々まで愚痴られることになった一刀である。

 

 

第二に医者の教育・増員である。

この為に医者を育成する学校、つまり『医術学校』を設立。大陸を放浪する『神医』華佗を探し出し、医術学校の教諭として招聘した。

招聘の際には、現場を重視していた華佗が中々首を縦に振らなかったのだが。皇帝自らが(何故かここで)三顧の礼を以って誘致に成功したのだ。

 

「華佗先生! 先生の治療の技術と精神は、次代に伝えてこそ意味があるんです!

 先生がどれだけ優秀な医者でも、たった一人では救えない命が星の数ほどにある!

 先生の技術と理念を受け継いだ弟子達が、多くなればなるほど、救える命の数は増えていくんです!」

 

実際には、一刀のこの台詞によって、熱血医者王こと『神医』華佗は自らの使命を見出し、医術学校教諭としての招聘に応じたのだった。

 

また、一刀は『傷寒雑病論』なる、伝染病及び、雑病・方剤・婦人病の対処法を取り纏めた書物を編纂した人物がいることを情報収集済みであった。またもや自身が足を運び、件の人物である張機――『医聖』張仲景――を教諭として招聘した(結局、華佗より張機の方が先に招聘に応じた)。

因みに、傷寒雑病論が分割された『傷寒論』は、現代でも漢方医学の重要な古典として扱われている程の書である。

 

加えて、一刀は持てる限りの医療知識をこの二人に伝え、時代に適応出来るレベルで医療現場に取り入れさせた。特に消毒方法や細菌の概念による“医療現場の清潔さ”の重要性は、医師自身の健康にも大きく関与した。

 

 

第三に、薬の大量生産である。

既に招聘していた漢方の知恵者・張仲景のアドバイスの下、漢方薬の原料となる薬草などを大量栽培。場合によっては開墾も行った。公的事業として大規模に栽培することで、単純に各地の備蓄量を増やすだけでなく、原料および漢方薬の安価化も図る。

また、流通経路を用意(後述)したことで、一般の商人にも協力を仰ぎ、商人達の先行投資も引き出した。官の事業を商売の好機と見た商人に対し、助成金等の補助を行うことで、民間にも薬品製造・流通の基盤を作ろうというものである。

 

 

第四に、医者の地方配置、無医村地域の改善である。

医者が個人経営であると、どうしても“ヒトとカネ”が集まる都市部にしか医者がいないことになる。また、漢方薬の原料である薬草の栽培が不十分であると、薬の入手が容易である都市部に医者が多くなるのもまた道理である。

しかし、それでは人口の大半を占める農村部に医者がいないことになり、人口増加の為の方策として働かない。

 

そこで、最初期の医術学校卒業者を、積極的に官が雇う形式を作り出した。

つまり、まずは州治・郡治・県治の公的機関に順々に『公的診療所』の設置を義務付けた。そうすることで、育った医者たちを全国に配置していく下準備を行ったのだ。大本の医者の人数が増えれば、段々と小さい公的機関――つまり地方の役所レベルの機関にもお抱えの医者が存在するようになる。

しかも、こうして地方にも医者が増えれば、それがそのまま薬草・漢方薬の流通経路となるのだ。

また、地方都市でも薬の入手が可能になれば、各地を巡回する流れの医者にとっても大きな助けとなる。

 

 

 

以上が、一刀がこれから生まれてくるであろう子供達の健康を守る為に考案した、経済効果すら視野に入れた長期的大計画と、その実績の一部である。

四つの計画が互いを補助・増強し、時間と共にその効果は強くなっていくのだ。

 

この計画を一刀から聞いたとき、帝国首脳たる官僚達は皆こう思ったという。

 

 

(子煩悩、恐るべし……!!)

 

 

 

続。

 

諸葛瞻「しょかっちょ!」

曹丕「そうっぺ!」

周循「しゅうっちの!」

 

三人「「「真・恋姫†無双『乙女繚乱☆あとがき演義』~~~☆彡」」」

 

諸葛瞻「お読み戴き多謝でしゅ。諸葛亮こと朱里の娘にして北郷一刀の第23子、しょかっちょでしゅ!」

曹丕「乱文乱筆なれど楽しんで戴けたかしら。曹操こと華琳の娘にして北郷一刀の第9子、そうっぺよ♪」

周循「少しでも面白いと思って下されば重畳。周瑜こと冥琳の娘にして北郷一刀の第25子、しゅうっちで~す☆」

 

 

曹丕「お久し振りね、みなさん。『真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~』、ようやくの再開よ」

 

諸葛瞻「再開に当たり、筆者よりレギュレーションの再確認などを次作品として投稿するそうでしゅので、宜しければ読んでやって下しゃい。残念ながら、容量オーバーでこの話に入りきらないというトラブルが……。細かい話でしゅので、ノリだけを楽しんで戴けている方は、特に読まなくても大丈夫でしゅよ」

 

周循「今回のお話は、建国直前からひと月の間に起きたあれこれとなってますね。とうとう皇太子であられる第一子、董白様がお生まれになりました!」

 

曹丕「婚礼も無事終わったけれど、その様子を細かく描写していないのは、全員分をちまちまやっても、そう大差がある訳でもなく、冗長になるだけ、との判断からだそうよ。なにはともあれ、お父様が大変なのはこれからなのよね、くすくす……。さあ、久々に議題へいきましょう」

 

 

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○議題:華琳・雪蓮の役職について

 

曹丕「まずは今回の話で任官された役職についてね。本作第01話と役職の違うお母様がいらっしゃるわね?」

 

周循「はい。本文にある通り、建国当初はまだ内外への示威もあり、軍事力は維持する方策が採択されていました。その為、巨大な軍を取り纏める責任者として、武官としての最高責任者『大将軍』、文官としての最高責任者『大司馬』とその補助役『太尉』の三役が任じられた、としています」

 

諸葛瞻「多少ネタバレでしゅけど、国力が安定した頃に軍組織の整理が行われ、その際に『大司馬』を『右丞相』と改名して、軍事担当から副総理大臣職へと変更しゃれたのでしゅ。しょれに合わせ『丞相』を『左丞相』と改名しました。これが第01話における役職でしゅね」

 

曹丕「一応、その後も桃香様は『太傅』であり続けられているわね。ほぼ加官の名誉職扱いで、御本人も本職は『中書監』と言って憚らないけれどね」

 

周循「コメントに戴いたこともありますので、もうひとつ補足を。丞相の“左右”ですが、中国では時代によって左右の優劣が変わっていたようです」

 

曹丕「そうね。基本的には老子や道教の影響で『吉事尚左、凶事右』と謂われ、主に左が尊ばれたらしいわ」

 

諸葛瞻「実例でしゅと、右が上位だったのが“戦国・秦・漢・元”、左が上位だったのが“六朝・隋・唐・宋・明・清”と資料にありました。右を尊んだ時代は荒れ乱れた世が多いことから、『君子、居れば則ち左を貴び、兵を用うれば則ち右を貴ぶ』という老子の言葉通りだという説があるそうでしゅ」

 

周循「本作の『和』では軍縮こそしていませんが、泰平を成したことから左を上位としております」

 

 

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○議題:皇帝の秘書、『中書監・中書令』と『中常侍』について

 

諸葛瞻「続いては、皇帝の秘書官とされる『中書監・中書令』と『中常侍』の区別なんでしゅけど……」

 

周循「うむ、資料によって説が様々でコレと決定し難い。時代によってかなり扱いが変わるからな。基本的に、皇帝が外威や宦官から権力を取り戻そうとしてとある役職を側に置いたり、逆に皇帝から権力を奪う為に皇帝と配下の仲立ち的役職となったり……というのが繰り返される為だが」

 

曹丕「基本的には本文中に述べられている通りなのだけれど、纏めてみたわ。本作の『和』においては以下のように区別することにしているそうよ」

 

 

・中書

 官庁としては“詔令を起草し、臣下からの上奏について回答の草案をつくること”を担当。そのトップツーである『中書監・中書令』は、皇帝の公的秘書として仕事のスケジュール管理などを担当し、皇帝が勅令や上奏への回答などの文書を作成する際にはその補助を行う。なお、作成された文書は一旦『丞相』を初めとした政務担当の監査を通ってから実効力を持つ。

 

・中常侍

 皇帝の後宮での一切を管理するプライベート部分が管轄の私的秘書(漢代の中書令の役割)。私事での謁見などの場合の取次ぎなど、後宮の諸事を取り仕切り、顧問・応対・給仕にあたる。

 

 

曹丕「因みに……今回出てきた、唯一まだ小蓮様に媚びていた若い中常侍だけれど。実は名前があるのよ。ただ、名前を出すほど話に絡む訳でもないから、オリキャラとしても扱われてないわ」

 

周循「ああ、彼ですか。黄平12年の時点でも、相も変わらず小蓮様に振り回されてますが……。率直に言って、単なる俗物なので、同情どころか皇女たちからも舐められているというか、相手にされてませんね」

 

諸葛瞻「一応、名前を書いておきましゅと……彼は『黄皓(こうこう)』なる人物でしゅ。史実においては蜀漢滅亡の一因とされ、また実際“奸臣”と呼ぶに相応しい振る舞いをしたとしゃれる宦官で、『三国志演義』においても相当に悪辣な人物として描かれてましゅね」

 

曹丕「筆者が有名な中常侍を探していたら見つけたらしいわね。もし本作でまた出番があったとしても、セコい小悪党か、小蓮様のパシリがせいぜいでしょう。史実では劉禅の寵臣であった彼だけど、本作ではそのあたりも設定から削られてしまっているから、彼の復権は有り得ないでしょうね」

 

 

------------------------------------------------------------

 

周循「ではゲストコーナーへ参りましょう! ではお二方、自己紹介をお願いします!」

 

 

賈訪「お邪魔致します。賈駆こと詠の娘にして北郷一刀の第14子、賈訪(ほう)と申します。以後お見知りおき下さいませ。因みに諱は史実の賈駆の息子のうちの一人から、とのことです」

 

荀惲「くっくっく……」

 

曹丕「怪しい笑いはいいから自己紹介なさい、荀惲……」

 

荀惲「これは失礼しました。荀彧こと桂花の娘であり、北郷一刀の第22子。荀惲(うん)です。諱は史実の荀彧の実子の一人から。“惲”以外の子は、皆漢字が難しくて読み難い為にこの諱を採用したらしいですね」

 

 

諸葛瞻「賈訪お姉しゃまは年長下級(小5クラス)で、そうっぺと同じ。荀惲ちゃんは、しょかっちょ・しゅうっちと同じ年少上級(小4クラス)でしゅね。……荀惲ちゃん、大人しくしてて下しゃいね?」

 

荀惲「……にやり」

 

三人「(不安だ……)」

 

 

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○質問:特技・特徴は何ですか?

 

賈訪「ではボクからで宜しいですか?」

 

周循「ああ、では失礼してその前にひとつ。賈訪姉さんと言えば、姉妹でも指折りの『お嬢様』然とされた方……皇女らしい皇女であるというのが、大半の洛陽学園生や国民の感想でしょう」

 

諸葛瞻「そうでしゅね。長い髪、小柄な体格、柔らかい物腰、丁寧な言葉遣い。あと、好んで着られているワンピースに鍔広の帽子が尚更『深窓のお嬢様』っぽいでしゅからね。ついでに言うと遺伝で近眼なので、眼鏡っ娘でしゅね」

 

曹丕「なのに、実母であられる詠様を真似て、一人称が『ボク』だから、妙な違和感があるのよねぇ」

 

賈訪「ふふっ、そうですか? 元々単なる物真似だけれど、これはもう身に染み付いてしまっているし。お母様とお揃いにしたくて始めたものだから、出来れば直したくはないの。ごめんなさいね」

 

周循「謝って戴く程のことでもありませんよ。では特技・特徴をお願いします」

 

賈訪「はい。ボクの特徴と言えば……やっぱり、母譲りの『不幸体質』が第一に挙がるでしょうね……」

 

諸葛瞻「あー……詠しゃまのドジっ娘も、“想定外のついてない事象”による所が大きいというお話でしたね。賈訪お姉しゃまも同じ感じでしゅか?」

 

賈訪「そうね。ただ、お母様がそそっかしいのも事実なの。だから、常に慎重に動くことを心掛けていれば、それなりに対処は出来るのよ。本当にお母様ったら可愛いんだから♪」

 

曹丕「マザコンっ気があるのも特徴かしらね。そう言えば『隠れファザコン疑惑』を掛けられていたと思ったけれど、実際のところどうなの?」

 

賈訪「勿論お父様のことは尊敬していますし、愛していますが。飽く迄家族として、ですよ。ふふっ、ふふふっ♪」

 

三人「「「(怪しい……)」」」

 

荀惲「ところで此処にお父さまが詠さまと一緒にご入浴されている写真があるのですが(ぴらぴら)」

 

賈訪「荀惲ちゃん、是非譲って! 何でも言うこと聞くから!!」

 

荀惲「嘘ですよ。これは徒(ただ)の紙っぺらです。くっくっく」

 

賈訪「え!? や、やだもう! 思いっきり引っ掛かっちゃったよぅ……ふえぇぇぇぇん(泣)////」

 

周循「流石は荀惲……。というかその悪人笑い、本当に桂花様そっくりだな……」

 

曹丕「ああ、あと意外と賈訪って『泣き虫』なのよね……。まあ『不幸体質』のせいで、泣きたくなる機会が多いからということもあるのでしょうけど。(ついでにファザコン疑惑も深まったわね……)」

 

賈訪「ぐすぐす……。次、荀惲ちゃん、どうぞ……」

 

荀惲「はい。おっと、その前に。賈訪姉さま、此方を差し上げます。お父さまの着替え隠し撮り写真です」

 

賈訪「ふぇ? きゃっ! す、すごぉい……♪ ありがとう、荀惲ちゃん!」

 

曹丕「……荀惲と言えば、姉妹随一の策士にして悪戯者。その癖、こうやってフォローを忘れないから、苦手意識を持つ姉妹は多くても、嫌っている者はいないのよ。桂花様の教育もあって、儒教の道徳観念が身に付いているから、意外にも年長者に対してはとても礼儀正しいし。……別に年下には暴虐だと言う意味ではないわよ」

 

荀惲「にやり」

 

諸葛瞻「口癖は『くっくっく』と『にやり』でしゅかね……。“にやり”って、実際にそう喋ってるんでしゅよ、これ。何の意味があるのやら……。あと、外見的特徴でしゅが、所謂『鬼太郎ヘア』で、常に片目を前髪で隠してましゅね。髪自体は桂花様と同じくらいのショートボブなんでしゅけど」

 

荀惲「髪型の元ネタは分かる人だけ分かって下さい。くっくっく……。さておき、わたしの特徴ですが。まず誰もが思っているのは『超激辛料理好き』であることでしょうか」

 

周循「そうだな。凪様や楽鎮姉さん【凪】と同じく、超が付くレベルの激辛料理が食べられるのはお前くらいだろうな。張苞姉さん【鈴々】も相当に辛い物好きだが、やはりトップスリーは凪様・楽鎮姉さん【凪】と荀惲だろうな」

 

賈訪「ボクは辛いのは駄目なんです……」

 

荀惲「それは良いことを聞きました。くっくっく」

 

賈訪「ひゃあん!?」

 

曹丕「余り賈訪を苛めないの。というか、そんなこととっくに知ってたんでしょう? 今のは単に賈訪をからかう為のブラフと見たわ」

 

荀惲「流石は曹丕さま、見事な推理。その通りですよ。ですから賈訪姉さまも、どうかご心配ならず」

 

賈訪「知られてるという事実は変わらないのですね……(めそめそ)」

 

曹丕「荀惲は姉妹随一の情報通でもあるわ。私も含めて、姉妹の弱みは全部握られていると思った方がいいわよ?」

 

周循「あな恐ろしや……」

 

荀惲「それから、わたしも『猫々党』の一員です。曹丕さまと同じく、犬も同様に可愛がるので少々異端ですし、“お猫様”とは呼称もしませんが」

 

曹丕「猫も犬も可愛いのは正義よね! なんだかんだと私とは馬が合うから、半分側近みたいになってるのよ。まぁ、いつ裏切るか分からないところが荀惲の面白いところだけれど」

 

荀惲「くっくっく、それでこそ我が姉、曹丕さまです。では最後に。わたしは怪談好きなもので、その手の本や竹簡を蒐集しています。愛紗さまを泣かせるくらい凄いのが好みですね。……愛紗さまでは苦手過ぎてちょっと例になりませんか」

 

諸葛瞻「はぁ~、怪談でしゅか。この時代の怪談ってどんなものなんでしょうね?」

 

荀惲「『中の人ネタ』ですので。必要になったら筆者が調べるでしょう。にやり……」

 

三人「「「(……ぶっちゃけ過ぎだ……)」」」

 

 

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○質問:特に仲の良い姉妹は?

 

賈訪「ボクが一番仲が良いのは、董白様【月】です。ボクは特別に“白ちゃん”と呼ぶことを許可されています」

 

諸葛瞻「詠しゃまと月しゃまとの関係とは真逆なんでしゅよね。董白様【月】が突っ走って、賈訪お姉しゃまが抑え役という」

 

賈訪「白ちゃんも、大人しくして黙っていれば凄い美人なのに……。勿体無いって何度も言っているのだけど。ちっとも聞いてくれないの」

 

曹丕「大人しく黙っている董白様【月】というのも、ちょっと想像し難いわね……。お母様方だと、完全に詠様の手綱は月様が握っている感じだけれど。賈訪はそこまでは出来てないわね」

 

賈訪「運動能力に差があり過ぎて、ボクではとても付いていけないから……。余りやりたくはないけれど、『泣き落とし』が最終手段になってしまってるの」

 

周循「それ以外では?」

 

賈訪「そうね、程姫ちゃん【風】とはとても仲良しよ。一緒に食材を買いに出かけたり、料理することも良くあるの。創作料理の味見は……回避出来そうならするけれどね(苦笑)」

 

曹丕「それはそうでしょうね……。アレは成功率五分五分の化学兵器ですもの……」

 

賈訪「それから、特に慕ってくれているのが張刻ちゃん【天和】かしら?」

 

諸葛瞻「ああ、『綺麗なお姉さん』になる為のモデルにしてるという話でしゅね。……きっと、多分無理だと思いましゅけど……」

 

賈訪「ボクなんかをそう言ってくれるのは嬉しいけれど。目標にするなら璃々お義姉さまの方がいいと思うのだけどね」

 

周循「歳の差もあるのでしょう。賈訪姉さんは全般的に、年少下級の妹達には人気がありますね」

 

曹丕「続いては荀惲よ」

 

荀惲「そうですね、よく一緒にいるのは孫登さま【蓮華】と夏侯充姉さま【春蘭】ですね。毎日という訳ではありませんが、いきつけの店や後宮で、三人の茶会を開いています」

 

曹丕「夏侯充【春蘭】も言っていたわね」

 

荀惲「お二人とも非常に弄り甲斐のある方々なので、とても仲良しです」

 

周循「……言葉の前半と後半が繋がってない気がするのだが……」

 

荀惲「気にしては負けですよ、しゅうっち。くっくっく……。それから、黄越【紫苑】とも仲良くなりましたね。元々は璃々お義姉さまと“お父さま篭絡計略会議”している際に、黄越【紫苑】も交じるようになって。それから段々と、ですね」

 

曹丕「一体何を話しているのやら……」

 

荀惲「まぁこんなところですか。……おっと、そう言えば差し入れを持って来ていたのを忘れていました。(がさごそ)わたしのいきつけの店で買った団子です。みなさん、おひとつずつどうぞ」

 

※四人の前に、白い団子が三つ、真っ赤な団子が二つ差し出された。

 

四人「「「「…………」」」」

 

荀惲「どうしました? 遠慮なさらず。わたしもひとつ戴きますよ。(真っ赤な団子をひとつ食べる)むぐむぐ……うん、やはりあの店の団子は一味違いますね。――さあ、みなさんもどうぞ。くっくっく」

 

※残るのは、白い団子が三つ、真っ赤な団子がひとつ。

 

四人「「「「…………」」」」

 

荀惲「(しゅうっち。ボケるならば、ここは身体を張って“赤”を選ぶところなのでは?)」

 

周循「(うっ……た、確かに。これはそう言う意味で“おいしい”かも!?)で、ではみなさん、同時に食べましょう! 赤い団子はしゅうっちが戴きます!」

 

曹丕「(何を耳打ちされたのやら……)そうね……じゃあ」

 

四人「(ぱくっ)」

 

周循「……あれ?」

 

曹丕・諸葛瞻・賈訪「「「か、辛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」」

 

周循「は、謀ったな、荀惲!?」

 

荀惲「やったったですよ、くっくっく。……さ、冷たいお茶も用意してますので、どうぞ」

 

 

------------------------------------------------------------

 

○アンケート:次回、読んでみたい姉妹は?

 

周循「今回もゲストのリクエストを募集させて戴きます。以下の二つからお好きな方をお答え下さい。コメントの端に、ちょろっと追記戴ければ幸いです。リクエストのみでも全然OKです! 

なお、前回B(七乃の娘達)と答えて戴いた方には申し訳ないのですが、『どうせなら美羽の娘も一緒に!』というご意見があり、それは尤もな話だということで、一旦彼女等を除外しました。美羽様の御子は少々ネタバレがありますので、もう数話保留させて頂きます。カウントは保持してますので、ご安心下さい。

ということで、改めまして皆様のご回答をお待ちしております(ぺこり)」

 

A:月・亞莎の娘達

B:霞・葉雄の娘達

 

 

 

賈訪「ぐすぐす……。ボク、辛いの苦手だって言ってるのにぃ……」

 

曹丕「ひぃ、はぁ……後で覚えてなさいよ、荀惲……」

 

諸葛瞻「あ~あ~あ~……」

 

周循「え、ええっと。ようやっと再開しました『真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~』。これからも応援の程、宜しくお願い致します! ……みなさん、大丈夫ですか? いきますよ。せーのっ」

 

 

四人「「「「バ、バイバイ真(ま)~~~(泣)」」」」

 

荀惲「にやり」

 


 
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