No.1106534

百年前の轍を踏みしめて その参 この絆をよりどころに

融志舫清さん

【鬼滅23巻までとFBのネタバレあり】大正軸タイムトリップもの、その参で本編完結です。7,897文字(16分) 。続き後日談1話あります。
閲覧ありがとうございます。オリキャラが二人出ます。後輩警察官の名前捏造、他多数、捏造ありです。

ヒロはあの出来事があった年を思い出せるのか?
「桃色の三つ編み髪の女性」と実弥さんが以前助けた女性との関係は?

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2022-11-10 12:29:32 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:266   閲覧ユーザー数:266

人の目に姿が見えなくなる愈史郎の札をつけて、メガネをかけた成金を蹴飛ばしたあとすぐ、実弥はその場を後にしていた。まだ太陽の光はある。愈史郎の札は外している。いつのまにか駆け出していた。

 

悔しかった。友の大事な人。友と命を捨てて戦ったのに。甘露寺のことをあんな風に言った成金ゲス野郎が許せなかった。

 

風屋敷に着いたらすぐ、庭で木刀で風の呼吸の技を順次、繰り出していく。

 

「玖(く)ノ型 韋駄天(いだてん)台風。」跳躍し頭上高くから地面に向かって斬りつける。

 

 

メガネ成金を尻目に、実弥に扮した不死川実弘とシズエの二人が歩き出した時は夕暮れ時だった。東京府の下町を歩く。

 

シズエはメガネ成金が話していた「桃色の三つ編み髪の娘」を知っていた。

 

「とてもよく食べて力持ち…たぶん私の幼馴染です。ひどい。あんな言い方するなんて…。」

 

「そうだなァ。」実弘のこたえかたはまるで台詞の某読みだった。

 

「蜜璃ちゃんって言うんですけど、そういえば一年以上前に偶然、会ったきりだわ。」

 

「…。」実弘は返事しようがなかった。

 

「最後に会った時、蜜璃ちゃんのそばに髪が少し長めの男の人がいたわ。蜜璃ちゃん、幸せそうだった。お似合いだった。さっきの人とお見合いで結婚が成立しなくてそのほうが本当に良かったと思うの。」

 

「さっきの奴はいけ好かねェ。すまねえが俺は、帰る道こっちだァ。」実弘は二つにわかれた右先の道を指差す。

 

「あら、いやだ、私ったら。気がつかなくて。今日はありがとうございます。不死川さん。助かりました。」とシズエは深々と頭を下げ、名残り惜しそうに実弘を目で追いつつ左方向に進んだ。

 

 

実弘は周囲を見渡し、人がいないことを確かめて愈史郎の札をつけた。札をつけた実弥がいるかどうか確かめるために。

 

いない…。

 

 

産屋敷輝利哉、くいな、かなたは実弘から聞いてしまった関東大震災の事態の重さに、対策方法を見出せずにいた。

 

大正が終わるまでに自分たちも生きているのか、つまり一族の呪いも解けているのか、それすらも不明だ。

 

だが、聞いた以上、何もせずにいることはできない。

 

「お館様。まずは正確な年を実弘さんに確実に思い出していただくことではありませんか。」くいなが言葉を発した。

 

「そうだな。正確な年がわからなければ、毎年9月1日に避難をしなくてはならない。」輝利哉が同意する。

 

「実弘さんは思い出せるでしょうか。」かなたが疑問に思う。

 

「そうだね。僕の『先読み』には表れないから、少なくともここ1,2年ではない。それ以上は…。」

 

「ああ~。」三人は途方に暮れた。

 

「お館様、肝心なことを忘れてました。実弘さんはその、いつまで大正に?」かなたが聞く。

 

「はっきりした時期はわからないんだ。その直前の『先読み』しか。今しばらくはないはずだ。」輝利哉がこたえる。

 

 

シズエと別れてからの帰り道、実弘は警察官の後輩、玄斗を思った。

 

俺がこんなことしてる間に玄斗、大変だろうな…。すまねェ。

 

主犯を捕らえることの難しい特殊詐欺捜査のもどかしさ。やりすぎると違法捜査になってしまうおそれもある。

 

そんな中、警察による安心・安全キャンペーンの数字操作。実は2002年の犯罪件数ピーク時以降、治安は向上したとの社会的な認知だがその成果は一部が統計のごまかしによって水増しコントロールされたものだった。

 

上層部による裏金の問題もある。そもそもそれは捜査に有力な情報を得るための資金だった。

 

現場はいつもいつも翻弄される。

 

そして同期のあいつは…。前年の大地震で住民避難誘導中に津波に巻き込まれて殉職。幸せになる直前だった。報われない。

 

俺らの仕事って…。

 

そうだ、玄斗。あいつもそそっかしくて見えてられねェ。ついててやらねえと。

 

 

茶会の翌日。実弘は産屋敷家に呼ばれ、頭巾をつけて出かけた。

 

その後、シズエが風屋敷にやってきた。

 

「不死川さん。私、知らなかった。」息せききっている。

 

「どうしたァ?」実弥が応対する。

 

「蜜璃ちゃんが、あの私の幼馴染の甘露寺さんが亡くなってたなんて。それも甘露寺さんだけでなくお相手も不死川さんと同じ鬼殺隊にいたって。」とシズエが一気に話した。

 

「幼馴染?」

 

「そう、お茶会の帰りに不死川さんにそう言ったわ、私。」とシズエがややいぶかしむ。

 

ヒロよ。俺は聞いてなかったぞォ…!

 

「…。誰から聞いたァ?」実弥はシズエにたずねた。

 

「甘露寺さんのお家の人よ。」

 

「そうじゃなくて俺が元鬼殺隊だってのは…?」実弥はシズエに言っていないはずだ。

 

「だって婚約者のふりをお願いしに来た時、気を失ってた髪の毛がつやつやの人が起きた時に不死川さんを見て言ってたわ。『鬼殺隊がなくなっても元柱はすごい。』って。」

 

村田ァー。でもあん時はしゃーないかァ。実弥は頭を抱えた。

 

「うちの家は、鬼殺隊士に家族が救われたことがあったの。だから尊敬こそすれ、悪く思うなんて。」シズエが微笑んだ。

 

「で、用件は何だァ。」

 

「月命日にお墓参りにいくんですけど、蜜璃ちゃんのお相手のかたについてお聞きしたくて。言える範囲でいいんです。」ちらっと上目遣いにシズエは実弥を見た。

 

「まあ、あがれ。」実弥は顔をそっぽ向けてほんのり頬を染めて居間へと促した。

 

ヒロは今、産屋敷家に行っている。おそらく時間がかかるだろう…。

「ごめん、思い出せねェ…。」

 

産屋敷家で頭巾をとった実弘は目をつぶり、両手の拳で頭をたたいていたが、記憶には浮かんでこなかった。

 

「無理をいってすみません。思い出せなくても、我々は避難準備をして対策を練ります。」輝利哉は申し訳なさそうに言った。

 

「あんたら、小さいのに凄いなァ。お父さん、お母さんは?」となにげに実弘は聞く。

 

輝利哉とくいな、かなたは顔を見合わせた。

 

あちゃ、聞いちゃいけないことを聞いたな、俺。と実弘はバツの悪そうな顔をした。

 

「父母と姉たちは一族の希望のために殉じました。」と輝利哉が伝えた。

 

「希望?」と実弘は言ってる意味がわからなかった。

 

「はい。我々一族の千年の希望を叶える礎のために。」輝利哉は力をこめて言った。

 

「それはサネミさんの言ってた戦と関係あんのか。詳しくは知らないけど。」と実弘は聞いた。

 

「父母と姉たちの死は実弥たち柱という隊の最強戦士、その他の隊士の士気をあげることにもなりました。」輝利哉は平然とこたえる。

 

嘘だろ、この子らまだ小学生くらいだろ。言ってることが大人すぎて…。

 

「ちょっと本気出して思い出す。お兄ちゃん、頑張るから待っててなァ。」実弘はそう言って思いっきり目を閉じた。

 

輝利哉とくいな、かなたは実弘の仕草に笑った。

 

逆じゃね?このシチュエーション。子どもの仕草を大人が笑うんじゃなくてさァ…。実弘は思った。

 

「あ、そうそう。」実弘は輝利哉にある願いを伝える。

 

 

風屋敷の縁側に近い部屋でシズエは実弥に聞いた。

 

「あの、甘露寺さんのお相手のかたの好みの食べ物とか飲み物は何だったのでしょう。」

 

「それを聞いて、どうするんだァ。」縁側にいる実弥はシズエに顔を合わせずにややギクシャクして聞く。

 

「お供えにしようと…。」シズエはきょとんとして返事した。

 

お墓参りにいくからもちろんお供えのことを聞いてるのに…。と思いつつ。

 

「ああ、とろろ昆布だったはずだ。」実弥は記憶をたどるように答えた。

 

「甘露寺さんは桜餅だから、まあ、おふたりとも好みの食べ物も本人みたいね。お相手のかたは私、一回しかお見かけしてませんけど。とろろ昆布がお似合い。」とシズエは言った。

 

月命日…。玄弥の墓にも行かねェと。もちろん他の家族の墓でもあるが…と実弥は思った。お館様や悲鳴嶼さんや胡蝶や時透の墓も…。

 

「お相手のかたは…。」とシズエが口を開いた。

 

「その、甘露寺さんと子どもの時、約束してました。お互い好きな人ができたらどんな人か教えるって。もう、そんな子どもの口約束なんですけど…。」

 

「頭脳派で技巧派だった。隊の最強剣士の一人として主戦力だった。甘露寺とよく文通していた。よく食事に行っていた。甘露寺の露出が多すぎる隊服に対して靴下を贈っていた。最期の時には甘露寺に自分の羽織をかけてあげていた。」

 

「そう…、強くて優しい人で良かった。ありがとうございます。不死川さん。」シズエは涙ぐんでいた。

 

シズエのことを実弥は詳しく訊かないようにしていた。知れば執着してしまう気がした。

 

今の実弥には、友の気持ちの片鱗がわかる気がした。

 

一緒にいたいけど、自分には相手を幸せにできない。

 

決戦では守りたかったろうな、甘露寺を…。伊黒。

 

守りたい…。

 

そうだ。確か大地震がくるっていってたな…。ヒロが。

 

いつだ?

 

 

実弘が風屋敷に戻った夕刻。実弘は結局思い出せなかったと実弥に伝えた。

 

「シズエが『桃色の三つ編みの女』の幼馴染と聞いててなんで俺に黙ってたんだァ!!」という実弥の声が風屋敷の一室に響いた。

 

「悪い…。忘れてた。けどよォ。そんな怒ることかよォ。あんたの代わりに茶会行って調子狂うことしてボロ出ねえようにしてたんだぜェ。」と実弘は言い返した。

 

「悪い、ヒロ。調子狂ってるのは俺のほうだァ。」実弥は我に返った。

 

「シズエさんが来てたのかァ。」実弘はピンときた。

 

「あんたは所帯持って、女房や子どもと幸せに暮らすんだ…。その時間は短いかもしれないが、痣のほんとのことわかんねェだろう。」と実弘は言った。

 

どこかで聞いた。最初のほうは俺が玄弥に言った言葉だ…。

 

「うるせェ!!!わかったような口をきくなァ!」と実弥は再度、怒号をはなった。

 

実弘は笑顔で手鏡を持ち出して実弥に見せる。恐ろしい形相の実弥が映っていた。

 

「サネミさん、あんた。怒った時の自分の顔、見たほうがいいぞォ。」実弘は笑顔から真顔に戻って言った。

 

「マジで半端なく怖いからなァ。同じ顔の俺だから言うんだァ。俺もあんたの顔見て自分のこと反省したぞォ。」諭すように実弘が言ってポンポンと実弥の肩をたたく。

 

クソがァ!調子狂う!!

 

 

シズエは墓花と桜餅ととろろ昆布を持参して、甘露寺家墓と隣に建てられた小さめの墓に来ていた。故人の月命日だった。

 

伊黒さん、蜜璃ちゃんを最期までありがとうございます。

 

蜜璃ちゃん、知らなくてごめんなさい。あなたの大事な人のこと聞いたわ。生きてほしかった。ご冥福を祈ります。

 

蜜璃ちゃん、約束覚えてる?皆さんが命に代えて世の中を守ってくれたその土台の上で私、ぬくぬくとしてるのかもしれない。でも私だけ蜜璃ちゃんの好きな人を知って、蜜璃ちゃんに教えないというのはちょっと…。

 

私も、好きな人ができたの。お二人のよく知ってる人よ。

 

「シズエ…。」

 

実弥がシズエの背後に立っていた。不死川家からはじまり、お館様や悲鳴嶼や胡蝶や時透の墓参りを終えていた。

 

そういやシズエは月命日に来るといってたな…。

 

「し、不死川さん!び、吃驚したわ。」シズエは真っ赤になってたじろいでいた。

 

少し離れたところで宇随は二人の雰囲気を感じ、そばに近づかなかった。気にせずに二人に近づこうとした冨岡を宇髄は制止して停めた。「いい加減、気づけ冨岡。」と小声で言いながら。

その晩、実弥が実弘に訊く。

 

「ヒロ、お前言ってたな。大地震の津波で仲間が流されたとか。」

 

「ああ、任務で住民を避難させていた。幸せになる直前だった…。」実弘はこたえる。

 

 

「お前の仕事も、命懸けだなァ…。ヒロ。」実弥が遠くを見るような表情をした。

 

 

なんだァ。サネミさんの一言で警察のあれやこれやが吹っ飛んだぞォ!この人、一体…。

 

 

「心配なのは、後輩の玄斗だァ。」玄斗のことをふと漏らす実弘。

 

「お前は信じきれねェかも知れないが、後輩はお前のこと信じてるぜェ。」と実弥は笑った。

 

「なんで玄斗のこと信じきれてないってわかるんだァ?」実弘は驚いた。

 

「わかるぞォ。お前のことだァ。ひやひやしてみてんだろォ。玄弥にそっくりな奴のことを。」くすっと笑って実弥は言う。

 

「あんた、わかったような口をきくなァ!!」と実弘は怖い形相になった。

 

「お前さあ、人の顔のこと言えねえだろうがァ!」実弥は思いっきり笑った。

 

 

翌日、冨岡は村田と茶屋にいた。冨岡のおごりである。

 

「炭治郎からの手紙に返事したか、村田?俺はもちろん出席だ。」

 

「ああ、したよ。金欠の俺でも出席していいそうだ。それもだけど、冨岡自身は、その、どうするの?」村田は冨岡に聞く。

 

「痣があるからな…。痣の寿命が(正しければ)あと三年(あるかどうかだ)。そんな余裕ないだろう…。」冨岡は抑揚なくこたえる。

 

「炭治郎も9年か…。でもさ、誰も今、確認した人は誰もいないんだろう?」村田は疑問に思う。

 

「あ、あんた達…。」

 

冨岡と村田が振り返ると、村田に二円を返した元忍の段蔵だった。

 

「お前か。」冨岡が表情を変えずに言う。

 

「あ、あん時はどうも…。あのさぁ、ひょっとして今あんた達が言ってたことって…。あ、悪いな、聞こえてしまった。」と段蔵は口を開いた。

 

しばらく経って。

 

「え!」

 

「まさか。」

 

冨岡と村田は同時に驚いた。

 

 

「ほ、本当か?」その後、風屋敷に訪ねてきた冨岡に実弥は驚愕を隠せないでいた。

 

「ああ、炭治郎にも知らせる。まさかあの段蔵がこんなこと知ってるとは。そして詐欺ではなかった。」冨岡は今日は淀みなく伝えた。

 

痣の寿命を克服する方法。元忍の段蔵は知っていた。そもそも忍者は比較的長寿である。そして忍者の系統によっては修験道なども修行し常人の窺い知れぬ知恵や知識があった。戦国時代に痣の出た元鬼殺隊士の1人が段蔵の系統の忍びと出会い、見い出したのだという。

 

「俺は…。」

 

「生きろ、不死川。」冨岡は珍しく強く言った。

 

「俺たちが先に示して炭治郎にも伝えないといけない。」冨岡は続けて言った。

 

「…。」実弥は言葉にできないでいた。

 

その時、カァーという鴉の声が庭のほうで聞こえた。

 

 

冨岡は鱗滝のところに帰ろうとしたが、ふとあることに気づき実弥に尋ねる。

 

「不死川、炭治郎からの手紙のことだが…。」

 

「あ!読んでねェ。」実弥は、実弘が現れる直前に受け取った炭治郎からの手紙の存在をすっかり忘れていた。

 

「…。(読んでないのか…。)不死川、急ぐので失礼する。」と冨岡は去った。

 

実弥は冨岡が去ってしまってから、あわてて引っ張り出して読んだ。

 

「はァ?」実弥は嬉しさと驚きとが混じった声を出した。

 

「善逸と禰豆子の祝言かよォ!」早く返事を…。

 

「ヒロ、悪いが返事を書いて…。」居間の扉を開けて実弥は声をかける。

 

いない…。

少し前、産屋敷家の鎹鴉が実弘のところに来た。

 

「あと少しで未来に戻ります。庭木のところに行くと地面が少し揺れます。持ち物を携帯してください。」と告げた。人語そのままである。

 

 

「俺自身、失う辛さを何回も何回も感じている。痣の寿命のある俺じゃ、相手にそんな思いさせてしまう。そんな思いさせるのが痛いほどわかるんだァ。幸せにしてやれねェ…。」

 

そう実弥から聞いて、実弘には実弥の優しさが身に染みた。と同時に、何度も何度も失ってきた辛さを想像した。自分が未来に帰る瞬間は実弥に内緒にしたいと輝利哉に願い出ていた。

 

 

実弘は荷物を持って風屋敷の庭木の下に来た。

 

まあ、俺が居なくなってもあんまり辛さ感じねェだろうけどなァ。

 

サネミさんにとって親戚の子孫ってだけだァ。銭形平次の子孫の銭形警部でもない。

 

え。

 

銭形警部→インターポール所属→できた年にたしか震災があった…。あ、あれ?

 

「銭形警部が所属してるインターポールのできた年に関東大震災があった。」そうだ、確かルパン三世好きの先生が授業でそう言っていた。

 

「思い出した。関東大地震はインターポールのできた年だ。」地面が揺れ始めた。

 

「ああ、もう時間がない!」

 

実弘は手帳を破って字を書く。

 

 

「ヒロ?」「ヒロォー!!!」実弥は地面が少し揺れている間も風屋敷中を、叫んで探した。

 

いない。

 

もう帰っちまったのかァ。ふと庭の木の下を見ると紙が落ちていた。殴り書きが書いてある。ヒロの字、ヒロの手帳の紙。

 

 

ー ぢしんは インターポールの できた年 ー

 

 

「インターポール?なんじゃそりゃァ?」実弥は産屋敷家に行き、輝利哉にヒロが紙に書いた殴り書きを見せた。

 

その後、輝利哉から返事があった。

 

「調べたら、外国にできる予定の国際刑事警察機構のようです。産屋敷家の情報網なら外国の情報もなんとか。」輝利哉が実弥に伝える。

 

「ヒロ…。お前、ほんとに仕事熱心だなァ。」実弥は実弘が仕事熱心だから思い出したと誤解し、空を見上げる。

 

輝利哉が口を開く。

 

「実弥、痣の寿命を克服する方法を義勇から聞きました。義勇とともに我々を助けてほしい。震災の被害を出来るだけ抑えたいのです。」

 

「…ぎょ、御意。」実弥は了解した。

 

「御意はやめてください。あ、そういえば、実弘さんは実弥に、自分がいなくなる瞬間を見せたくないと言っていましたよ。何回も失ってきた実弥さんに自分ができる最後のことだって。」

 

 

失う辛さではなかった。実弘の優しさが身に染みる。居なくなっても実弘は元の未来に戻ったのだ。実弥達に希望を残して。

 

ヒロ、これで守れる。大事な奴らをよォ。

 

ありがとうよ、ヒロ、俺の…。

 

 

平成に戻った実弘。片田舎の土手にいる。

 

「あ、あれ?」ここは…。

 

「不死川さん、しばらく探しましたよ。大丈夫ですかァ?」玄斗の声だ。

 

「ここはどこだ。」

 

「特殊詐欺の現場に向かってるところでしょうが。」

 

「ああ。」そうだった。

 

「ちょっと待って。なんで着物着てるんですか?その風呂敷何ですか?制服?」

 

 

車に乗って、実弘はようやく事態を把握した。

 

サネミさんよォ。どうやら俺は居なくなった時点そのままの平成に戻ったようだァ。

 

大正に居てた何日か分、寿命が減ったようだな。その位、この長寿の時代には屁でもないけどよォ。

 

 

後輩の玄斗や仲間や上司。俺の仲間。俺のいつもの日常…。

 

「正義なんてよりどころにすんなァ、玄斗。正義なんていつも間違えるかわかんねェ。」

 

「何をよりどころにするんですか?」

 

「警察官はまず法律だァ。でも法も間違ってるとしたら、俺なら百年前の人達の生き様かなァ…。」

 

「はァ?あの時頭打ったんですか。」

 

「打ってねェ。」

 

 

母に聞くと曾祖父の下の名前は「実弥」だった。

 

あのやろう、やっぱり先祖じゃねえかァ。

 

不死川家の墓参りをすると、実弥の命日は崩れてて見えない。だがその名前の隣には昭和半ばまで生きたある女性の名前があった。シズエと。良かった。結婚したんだな。シズエさんが俺の曾祖母さん。

 

「曾祖父(サネミ)さん、好きだったろ。」とおはぎを供える。

 

 

「おかげで大事なもんを守れた。ありがとうよォ。後輩を大事にな、ヒロ。」と実弥の声がして、一陣の風が吹き抜けた。

 

 

え?と実弘が振り返ると、鴉がカァーと鳴き、飛んでいった。

 

 

 

 

 

(本編  了)

お読みいただきありがとうございました。後日談あります。

 

 

 

 


 
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