No.1104970

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

西ゼムリア通商会議~インターバル・前篇~

2022-10-20 01:07:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1110   閲覧ユーザー数:940

同日、PM3:10―――――

 

休憩時間になるとアリサ達はエステル達とお互いの近況を報告し合う為にエステル達の所へ向かったティータやアガット達と一端別れた後客室で待機しているオリヴァルト皇子達の所に向かい、ベルフェゴールから聞いたミルディーヌ公女の思惑等について説明をした。

 

~エルベ離宮・客室~

 

「……そうか。幾らメンフィル帝国軍の災害派遣の件があるとはいえ、駐留軍付きの大使館をオルディスに設立される事は戦後バラッド侯やナーシェン卿とカイエン公爵家の当主争いをする彼女にとっては弱味にもなるのに、一切の反論をすることなく受け入れた点に違和感を感じていたが……まさか、”弱味を逆手に取って彼女にとっての強味”にするとは、さすがはミルディーヌ君。賠償金の件同様、転んでもただでは起きない所か、むしろ利益にしているね。」

「メンフィル帝国の大使館が設立されることで、メンフィル帝国側が異世界の商人達を大使館を設立した地域に誘致する事でその地域に”異世界の商品が集まるという新たな魅力”が付加される事は完全に盲点でした………申し訳ございません、両殿下。本来でしたら既に帝都にメンフィルとクロスベル以外の各国の大使館が設立されている関係で各国の商人達が帝都で商売をしている事実を把握している私が気づくべき事でしたのに……」

「いえ……それに例え気づいてシルヴァン陛下に大使館の設立場所の変更の交渉をしたとしても、シルヴァン陛下――――――メンフィル帝国は大使館の設立場所をオルディスから変更するつもりはなかったと思いますし。」

アリサ達から事情を聞き終えたオリヴァルト皇子は疲れた表情で呟いた後苦笑し、レーグニッツ知事は疲れた表情で呟いた後オリヴァルト皇子とセドリックに謝罪し、レーグニッツ知事の謝罪に対してセドリックは謙遜した様子で答えた。

「その……メンフィル帝国が要求した賠償の件はどうするおつもりなのでしょうか?」

「どうするもなにも、中立のレミフェリアですらも反論を封じられた事もそうだが、戦後のエレボニアの事を考えるとむしろ”エレボニアにとってもメリットにもなる”から、正直何の反論もする事なく受け入れた方がいいんじゃないかと思っているよ。」

「僕も兄上と同じ意見です。肝心の領土割譲が緩和されている件も考えると、ミルディーヌさんも仰っていたように今後の両帝国に対する関係回復の為にも、更なる緩和を望む事で両帝国の我が国との関係をこれ以上悪化させたくありませんし……」

「何の反論もすることなく受け入れたら、泣き寝入りした上エレボニアがメンフィルの食い物にされるって事もわかっているのに、本当にそれでいいのかよ!?」

「口を慎みなさい、アッシュ!あんたの気持ちもわかるけど、殿下達は”国や国民の未来”を考えての高度な政治判断をする事が求められているのよ!あんたみたいに、単にメンフィルの思惑が気に入らないみたいな感情的な判断をする訳にはいかないのよ!」

「………ッ!クソがっ!!」

複雑そうな表情で訊ねたエマの問いかけに疲れた表情で答えたオリヴァルト皇子の意見にセドリックも複雑そうな表情で同意し、二人の答えを聞いたアッシュは怒りの表情で反論したがサラに注意されると唇を噛み締めた後悪態をついた。

 

「父さんも殿下達と同じ意見なのか?」

「……ああ。特に内戦と今回の戦争で荒れ果て、国民達の信頼も地に堕ちたエレボニアをメンフィルが保護する件は正直な話、”地獄に仏”のようなもので戦後の復興に関する様々な問題が一挙に解決できるから新政府にとってもありがたい話だと思っているよ。」

「知事閣下がそこまでメンフィルの保護を受け入れるべきだと思われている一番の理由はやはり、メンフィルによる復興に関する利息無しの支援金の融資の件でしょうか?」

複雑そうな表情を浮かべたマキアスの疑問に静かな表情で答えたレーグニッツ知事の答えを聞いてレーグニッツ知事の考えを悟ったラウラはレーグニッツ知事に確認した。

「そうだね。かつてのオズボーン宰相閣下の盟友としてこんなことを言いたくないが、恐らく宰相閣下は今回の戦争で政府の資金もそうだが、国庫に溜めていた財産も使い尽くしている可能性が高いだろうから、今回の戦争でエレボニアが存続できたとしても、復興の為の資金の確保が私達新政府にとっての一番の難題だったんだ。ミルディーヌ公女殿下を始めとした帝国貴族達からの支援を募ったとしても、到底復興に必要な金額に届かない事はわかっていたからね。」

「そりゃ”国家総動員法”を発令してまで、政府の下に国民達の財産まで集めて戦争に活用しているくらいなんだから、オジサン達は政府の資金や国庫に溜め込んでいた財産なんてとっくに使い尽くしているだろうね~。」

「下手したら国庫どころか、皇家の財産にも手を出して、使い尽くしているんじゃないかしら?」

「さすがにそれはないと信じたい所ではあるが……」

「”焦土作戦”を含めて今回の戦争でなりふり構わないやり方をしているギリアスならやってもおかしくないからな。」

「もし、宰相殿達が皇家の財産まで使い尽くしていたら別の問題――――――賠償内容の第5条の一部であるシュバルツァー家に対する賠償が実行できなくなるかもしれないという大問題が発生するから、冗談抜きでそれだけは現実になって欲しくないよ……」

「……それらの行き先の大半はエレボニアの武器・兵器の量産を一手に担っていたラインフォルトグループなんでしょうね………」

「ラインフォルトグループがクロスベル帝国政府に掌握されている上戦後の所属はクロスベル帝国になるのですから、クロスベル帝国の許可がなければ、オズボーン宰相達が武器や兵器の量産の件で支払ったミラを返金する事も不可能でしょうし、クロスベル帝国もそのような許可は出さないでしょうね。」

レーグニッツ知事の話を聞いて呟いたミリアムの推測に続くように呟いたセリーヌの推測を聞いたアンゼリカは複雑そうな表情で、クロウは呆れた表情で、オリヴァルト皇子は疲れた表情でそれぞれ呟き、アリサは辛そうな表情で、シャロンは複雑そうな表情でそれぞれ呟いた。

 

「知事は帝国貴族達からの支援だけでは、復興に必要な金額に届かないと言っていたが……その理由はやはり帝国貴族達が復興金を出し渋るかもしれない事か?」

「いや、むしろその心配はしていないよ。ミルディーヌ公女殿下に帝国貴族達の説得の協力を要請すれば、大丈夫だろうだからね。―――――単純に復興に必要な金額があまりにも莫大な金額だという問題だよ。それこそ例え全ての帝国貴族達が協力的になろうとも、到底足りない程にね。」

「全ての貴族達が協力的になっても足りない程、戦後のエレボニアに必要な復興金の金額は何故そこまで莫大なのだろうか?」

「少なくても連合とエレボニアの戦争関連で都市や町が大きな被害を受けたような話は聞いていないから、多分内戦で被害を受けた都市や町の復興関連だと思うのだけど……何故、知事閣下がそこまで思う程莫大な金額に膨れ上がったのでしょうか?」

複雑そうな表情で訊ねたユーシスの疑問に答えたレーグニッツ知事の答えを聞いてある事が気になったガイウスは新たな質問をし、ガイウスの疑問を聞いたトワは考え込んだ後不思議そうな表情で訊ねた。

「その理由は復興には直接関わらないけど、それでも絶対に解決しなければ大問題で、それも大きく分けて二つあるのだが………一つは国家総動員法に協力させられた国民達への賠償――――――つまりは”国家総動員法によってそれぞれの財産を差し出さざるを得なかった国民達に対する返金”だよ。」

「あ………」

「確かに復興には直接関わらないけど、解決しなければならない大問題の一つだね。」

「はい。国民達はエレボニアの勝利の為に財産を政府に差し出したのに、その結果は”敗戦”で、しかも差し出した財産も返ってこないとなれば、間違いなくその件で政府や皇家に対する強い不満や反感を抱くでしょうし、その不満や反感が最悪は暴動に発展するかもしれませんし……」

レーグニッツ知事の答えを聞いたエリオットは呆けた声を出し、真剣な表情で呟いたフィーの言葉に頷いたセドリックは辛そうな表情を浮かべた。

 

「国家総動員法によって徴収された国民達の財産がミラ自体や単なる物資だけならまだいいんだ………徴収された同額のミラや同じ物資を用意して返還すればいいだけだからね。だが、その徴収された財産の中には”形見”等と言った”その個人にとっては決して何物にも代えがたい価値”がある物もあるから、そういった類の物資が徴収された国民達には最悪の場合、返還できなかったせめてもの謝罪金として大金を用意する必要があるんだよ。」

「さ、”最悪の場合”ってもしかして……」

「”徴収された物資の返還が不可能になってしまった状態”―――――戦争に必要な物資として、もしくはその物資の素材として”既に消費されてしまった事”かと。」

レーグニッツ知事の説明を聞いて察しがついたエリオットは不安そうな表情で呟き、シャロンは静かな表情で答えた。

「それとその徴収の件なのだが……君達には申し訳ないが、国家総動員法による徴収に協力した商会や商人達にも責任を取ってもらおうと考えている。」

「”国家総動員法による徴収に協力した商会や商人達”で、オレ達にも関わりがあるという事はまさか……」

「ヒューゴの実家――――――”クライスト商会”か。」

「ヒューゴ………政府の犬に成り下がった結果、大戦にも参加して斑鳩の猟兵達に”半殺し”にされたあの眼鏡野郎か。」

複雑そうな表情で呟いたレーグニッツ知事の話を聞いて察しがついたガイウスは複雑そうな表情を浮かべ、クロウとアッシュはヒューゴを思い浮かべながら静かな表情で呟いた。

 

「”責任を取ってもらう”って言ったけど……父さん、まさか徴収に協力した商会や商人達にも賠償金を出させたり、もしくはその商会や商人達を潰すつもりなのか……?」

「そこまではしないさ。彼らには国民達から徴収したミラや物資の調査に協力してもらうだけだよ。勿論”無償協力”にはなるが………」

「それは当然ではないかと。」

「徴収に協力したんだから、その徴収したミラや物資自体も記録に残したりしているはずだから、徴収に協力した商会や商人達なら誰から何を徴収したかも把握しているはずだもんね~。」

「だけど、ヒューゴ君達――――――徴収に協力した商会や商人達の”信用”は少なからず失う事になるだろうから、その”信用の回復”にヒューゴ君達は苦労する事になるだろうね……」

「ええ……”商売は信用が第一”ですから、その”信用”を失った商人や商会からは”客”が離れるでしょうし、取引先も取引を止めたりするかもしれませんでしょうし……」

不安そうな表情で訊ねたマキアスの疑問に苦笑しながら答えたレーグニッツ知事の答えを聞いたラウラは納得した様子で呟き、ミリアムは静かな表情で呟き、トワとアリサはそれぞれ複雑そうな表情でヒューゴの未来を推測した。

 

「……知事閣下。大問題は二つあると言っていたが、もう一つはどういった問題なんだい?」

「もう一つは今回の戦争で戦死した帝国正規軍に所属している軍人達の家族に支払わなければならない”見舞金”や”遺族年金”です。」

「あ…………」

「確かにそっちも大問題ですね。先日の大戦だけでも戦死した正規軍の軍人達は約30万人と莫大な戦死者数に膨れ上がっているのですから。」

「”遺族年金”は軍位によって金額も変わるけど、そもそも数が数だから遺族年金だけでも国家予算レベルの金額が必要になるかもしれないよね~。」

「戦争で家族を失ったにも関わらず、その失った家族に見舞金や遺族年金が支払われなければ、当然その件に反感を抱いた国民達が暴動を起こす可能性は十分に考えられるな……」

オリヴァルト皇子の質問に答えたレーグニッツ知事の答えを聞いたトワは呆けた声を出して辛そうな表情を浮かべ、サラは複雑そうな表情で呟き、ミリアムは静かな表情で呟き、ラウラは重々しい様子を纏って推測を口にした。

 

「知事閣下はその二つの大問題の対策の為の予算も含めて復興にはミラで換算するとどのくらいの金額が必要である事もそうですが、復興に必要な年数はどのくらいだと考えられているのですか?」

「そうだね………復興に必要な金額はミラで換算するとすれば毎年8兆――――――できれば、10兆ミラは確保したいし、完全復興には4,5年は必要だと考えているよ。」

「ええっ!?復興に必要な金額は毎年8~10兆ミラで、完全復興には4,5年は必要という事は……!」

「メンフィルによる支援金の限界額もそうだけど、メンフィルが予定している”保護期間”ともほぼ一致しているわね。」

「おいおいおい!まさかとは思うがメンフィルはそこまで計算して、あの賠償内容を考えたんじゃないだろうな……!?」

「……完全復興後のエレボニアの税収の推測までできているのだから、その可能性は十分に考えられるな。」

アンゼリカの質問に答えたレーグニッツ知事の答えを聞いてある事に気づいたその場にいる全員が血相を変えている中エマは信じられない表情で声を上げ、セリーヌは目を細めて呟き、疲れた表情で声を上げたクロウの推測にユーシスは複雑そうな表情で答えた。

 

「―――――両殿下、少しよろしいでしょうか。」

するとその時護衛の為に客室の扉の前でミュラーと共に待機していたアルゼイド子爵が部屋に入ってきてオリヴァルト皇子達に声をかけた。

「何だい、子爵閣下。」

「今ミルディーヌ公女殿下がこちらを訪れて両殿下達と知事閣下、そしてアンゼリカ嬢との”交渉”を行いたいとの事です。」

「え……ミルディーヌさんが僕達に”交渉”をですか?」

「しかも交渉する相手は殿下達だけでなく、私も含まれているとはね……」

「皇太子殿下達との”交渉”は多分今回の戦争でのヴァイスラントによる”エレボニアへの貢献”と引き換えに内戦での貴族連合軍の罪の相殺をする為だと思うけど……一体何の為にアンちゃんとの”交渉”を……」

オリヴァルト皇子の問いかけに答えたアルゼイド子爵の答えを聞いたその場にいる全員が血相を変えている中セドリックは呆け、アンゼリカは真剣な表情で考え込み、トワは戸惑いの表情で考え込んだ。

「―――――わかった。元々後半の会議が始まる前に彼女とも話し合いをしたいと考えていたんだ。すぐに通してくれ。」

「御意。」

その後護衛としてオーレリア将軍を同行させたミルディーヌ公女が部屋に入り、オリヴァルト皇子達と対峙した。

 

「まずは貴重な休憩時間を私の為に使って頂いた事、心より感謝致しますわ、両殿下。」

「お互いの休憩時間は貴重だし、早速本題に入らせてもらうが………ミルディーヌ君、君は私達との”交渉”の為に訪れたと言っていたが私達との交渉する目的は大方内戦での貴族連合軍が犯した罪の相殺の件だと考えているけど、何故アンゼリカ君との交渉まで求めたのだい?」

「殿下達との交渉をする目的は他にもありますが………先にアンゼリカお姉様―――――いえ、”現ログナー侯爵家当主”たる”アンゼリカ卿”との交渉をさせて頂いても構わないでしょうか?」

「私の事をわざわざ”現ログナー侯爵家当主”と言い直したという事は、”ログナー侯爵家に対する交渉”かい?」

オリヴァルト皇子の問いかけに答えたミルディーヌ公女はアンゼリカに視線を向け、視線を向けられたアンゼリカは真剣な表情で訊ね返した。

「はい。お互いの時間も惜しいので、遠回しな言い方はせず直截にアンゼリカ卿への交渉内容を言わせて頂きます。この戦争の”表の最後の戦い”になるであろう未だオズボーン宰相率いる”旧帝国政府”に従い続けている”帝国正規軍の極一部”が守り続けている帝都(ヘイムダル)を奪還する戦い――――――つまり、”帝都奪還戦”の”先鋒”をノルティア領邦軍に務めて頂きたいのですわ。」

「な――――――」

「へ、帝都(ヘイムダル)を奪還する戦いの”先鋒”をノルティア領邦軍が務めるって……!」

「それに帝都を守り続けている”帝国正規軍の極一部”というのは………」

「……”第四機甲師団”か。」

「……………………」

ミルディーヌ公女のアンゼリカに対する交渉内容を聞いたその場にいる全員が血相を変えている中オリヴァルト皇子は驚きのあまり絶句し、アリサは不安そうな表情で声を上げ、ガイウスは心配そうな表情でエリオットへと視線を向け、ユーシスは重々しい様子を纏って呟き、エリオットは辛そうな表情で黙り込んでいた。

 

「……何故今回の戦争で父上の爵位剥奪後は連合やヴァイスラントに対して従順な態度を取り続けたノルティア領邦軍を今になって君達の戦いに巻き込もうとしているのだい?」

「それは勿論、戦後のログナー侯爵家を始めとしたノルティア州の帝国貴族達の為ですわ。」

「帝都を奪還する戦いに、ノルティア領邦軍が先鋒を務める事に、何故”戦後のログナー侯爵家を始めとしたノルティア州の帝国貴族達の為”に繋がるのですか……!?」

真剣な表情を浮かべたアンゼリカの問いかけに答えたミルディーヌ公女の説明を聞いて新たな疑問を抱いたセドリックは戸惑いの表情で訊ねた。

「前半の会議でシルヴァン皇帝陛下は大公閣下達レミフェリアを”傍観者”とご指摘されていた事はここにいる皆様も既にご存じでしょうが………それは”今回の戦争でヴァイスラントや連合に対して何の貢献もしなかったノルティア貴族や領邦軍にも当てはまる”と思いませんか?」

「!!」

「待てやコラ!ノルティア領邦軍の連中はテメェらの侵略に対抗する為に戦った挙句”死者”まで出したんだから、”当事者”だろうが!?」

「ううん……ルーレの件を理由に反論するのは無理があるよ………」

意味あり気な笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の問いかけにアンゼリカは目を見開き、アッシュは怒りの表情で反論したが、すぐにその反論が意味のないものになると気づいていたトワが辛そうな表情で否定した。

 

「そ、それってどういう事なんですか……!?」

「ルーレでの戦いは連合との和解を望む殿下達の意志に逆らい、また内戦の件で既に”爵位剥奪”が内定していた父上の”暴走”――――――つまり、”ノルティア州統括領主であるログナー侯爵家による正式な命令によるものではない”から、ルーレの件を理由に”ノルティア貴族や領邦軍は今回の戦争の件に対して傍観者の立場ではないという反論”をするのは不可能なんだよ。実際あの後ノルティア領邦軍は一人もヴァイスラント新生軍に合流していない上、ログナー侯爵家を含めたノルティアの貴族達は連合やヴァイスラントに対して何の支援もしていないからね。」

「それは…………」

「ログナー侯爵を逮捕―――――”保護”する為の紅き翼(オレたち)の”大義名分”が裏目に出てしまったのか………」

「裏目に出たっつーか、その腹黒女が”悪用”しているようなものだろ。それよりもノルティア領邦軍を帝都奪還の”先鋒”にするって言っていたが、まさかとは思うがヴァイスラントや連合の消耗を抑えるかつ戦後テメェの対抗勢力になりかねないゼリカ達ノルティアの戦力を削ろうって腹なんじゃねぇのか?」

不安そうな表情で声を上げたマキアスの疑問に疲れた表情で答えたアンゼリカの説明を聞いたラウラは複雑そうな表情で答えを濁し、複雑そうな表情で呟いたガイウスの言葉に疲れた表情で答えたクロウは厳しい表情でミルディーヌ公女を睨んだ。

「ふふ、それこそそちらの被害妄想というものですわ。前半の会議でも宣言したように私は帝国貴族の筆頭として対立の果てに去年の内戦のような愚かな所業を起こす事は心から望んでいなく、むしろ、戦後芽生える可能性がある”対立の芽”を摘み取る為にもアンゼリカ卿に先の提案をさせて頂いたのですわ。」

「え……”戦後芽生える可能性がある対立の芽”とは一体どういう事なんですか……!?」

クロウの推測に対して苦笑しながら答えたミルディーヌ公女の説明のある部分が気になったセドリックは呆けた後困惑の表情で訊ねた。

 

「皇太子殿下もご存じかと思いますが今回の戦争に私を始めとしたラマールの貴族や領邦軍もそうですが、ハイアームズ侯爵閣下達サザ―ラントの貴族や領邦軍は”エレボニアの存続の為の貢献”をしました。対してノルティアの貴族や領邦軍は”今回の戦争に何の貢献もしていない事”によって戦後”エレボニアの存続”の為にそれぞれ負担をしたラマールやサザ―ラント―――――つまり帝国西部の貴族や領邦軍もそうですが、民達もノルティアの貴族や領邦軍、最悪は民達に対しての不満や反感が発生する可能性があるとは思いませんか?」

「そ、それは………」

「……………………」

「……まさかミルディーヌ公女殿下は帝国西部の貴族や領邦軍、それに民達による”ノルティア州に対する差別”が発生する可能性の想定をされ、その”差別”を発生させない為にノルティア領邦軍に今回の戦争の最後の戦いにして激戦になると思われる”帝都奪還戦”の”先鋒”を務めてもらう事で、”今回の戦争の各州による負担のバランスを取る事”を考えられているのでしょうか?」

ミルディーヌ公女の問いかけに反論できないトワが辛そうな表情で答えを濁している中アンゼリカは重々しい様子を纏って黙り込み、ミルディーヌ公女の考えを悟ったレーグニッツ知事は複雑そうな表情でミルディーヌ公女に確認した。

「さすがは聡明な知事閣下。まさにその通りですわ。」

「”今回の戦争の各州による負担のバランスを取る事”か。ハハ、中々痛い所を突いてきたね………」

「なるほどね………最後の戦いの先鋒――――――要するにまさに言葉通り”死に物狂い”で激しい抵抗をしてくる帝都の防衛部隊とぶつかり合って真っ先に被害を受ける役割をノルティア領邦軍にさせる事で、今までノルティア州がヴァイスラントに貢献しなかった件を相殺させる理由にしようと考えているのね。」

ミルディーヌ公女はレーグニッツ知事の推測に賞賛した後肯定し、オリヴァルト皇子は疲れた表情で呟き、セリーヌは呆れた表情で呟いた。

「はい。そこに付け加えさせて頂きますが、ノルティア領邦軍には”先鋒”を務めると共に”第四機甲師団から離反した部隊と共に帝都奪還の戦功”を挙げて頂く事が”最上の結果”と考えておりますわ。」

「え………だ、”第四機甲師団から離反した部隊”ってどういう事!?」

「そういえば”焦土作戦”の件で政府もそうですが政府のその命令に従った指揮官であるクレイグ将軍閣下にも反感を抱いた第四機甲師団の一部の軍人の方々が第四機甲師団から離反してヴァイスラント新生軍に合流したとの事ですが……まさか、その方々の事を仰っているのでしょうか?」

ミルディーヌ公女が口にした話で気になる部分があったエリオットは血相を変えて訊ね、心当たりがあるシャロンはミルディーヌ公女に訊ねた。

 

「いいえ。私が今言った”第四機甲師団から離反した部隊”とは、”前半の会議の最中にハーケン平原で合同で防衛陣を築いたメンフィル・クロスベル連合軍、ヴァイスラント新生軍、そして王国軍の前に姿を現し、自ら投降を申し出て来た部隊”の事ですわ。」

「な――――――」

「”前半の会議の最中にハーケン平原に合同で防衛陣を築いた連合軍の所に第四機甲師団から離反した部隊が投降してきた”ですって!?」

「ま、まさか前半の会議の最中にそんなことが起こっていたなんて……」

「ミルディーヌ公女殿下にその連絡が既に届いているという事は恐らくレミフェリア以外のVIP達――――――メンフィル、クロスベル、そしてリベールにもその連絡が届いているだろうな……」

ミルディーヌ公女が口にした驚愕の事実にその場にいる全員が血相を変えている中オリヴァルト皇子は驚きのあまり絶句し、サラは信じられない表情で声を上げ、エマは信じられない表情で呟き、ミュラーは重々しい様子を纏って呟いた。

「ああ、間違いなく届いているだろう。ちなみにだが、投降してきたのは帝都の防衛についている”第四”から離反した部隊だけでなく、サザ―ラントの侯都である”アルトリザス”にヴァンダイク元帥率いるリベール侵攻軍の後方支援とアルトリザスの防衛を担当していた部隊、そして帝都に残っていた情報局も含まれている。」

「学院長達――――――先日の”大戦”で大敗したリベール侵攻軍の後方支援として控えていた部隊まで投降を……」

「しかも”情報局”まで投降するなんて一体どうなっているの~!?」

「そ、それじゃあもしかして、その投降した第四機甲師団の部隊には父さんも……」

「それにもしかしたらナイトハルト教官もそうだけど、ベアトリス教官もその投降した部隊の中にいるかもしれないね。」

オーレリア将軍の説明を聞いたガイウスが驚いている中ミリアムは混乱し、エリオットは微かな希望に縋り、フィーは明るい表情である推測をした。

 

「残念ながら先程投降した第四機甲師団の部隊には”紅毛”はいないとの事だ。―――――が、投降した第四機甲師団の部隊の指揮官はナイトハルト中佐、アルトリザスの後方支援部隊の指揮官は”死人返し”ベアトリクス大佐との事だ。それと”第四”には”紅毛”の息女であるフィオナ嬢も同行していて、連合軍は”第四”からそのフィオナ嬢の”保護”を嘆願され、その嘆願に応じた連合軍はフィオナ嬢の身柄をヴァイスラントに委ねた為、フィオナ嬢は現在ヴァイスラントが保護している。」

「ちなみに投降してきた情報局の指揮官は局長であるサイモン局長で、更に情報局はサイモン局長の独断によってクルトさんとオリエさんの件で”反逆罪”の容疑をかけられて逮捕され、カレル離宮に幽閉されていたマテウス子爵閣下を救出して事情を説明してハーケン平原まで同行してもらった後、ヴァイスラントにマテウス子爵閣下を預けたとの事ですわ。」

「幽閉されていた父上は情報局に救出された上ヴァイスラントに預けられ、ナイトハルトも第四機甲師団から離反し、連合軍に投降する部隊の指揮官を………という事はナイトハルトも連合軍に投降したのですか。」

「それにベアトリクス教官も投降してくれた上、フィオナさんも無事でよかったわ………」

オーレリア将軍の話を聞いたミュラーは驚いた後僅かに安堵の表情を浮かべ、サラは安堵の表情で呟いた。

「姉さんがナイトハルト教官達に同行していて無事なのは安心しましたけど………やっぱり、父さんは帝都に残ったままなんですね……それなら、どうして父さんを慕っていたナイトハルト教官が父さんの下を離れて投降してきたんだろう……?」

「エリオット………」

「それにしてもこのタイミングで一部とはいえ、宰相閣下達現帝国政府の指揮下にいた”第四”どころか、宰相閣下に忠誠を誓っていた情報局まで現帝国政府から離反して連合軍に投降してきたのは、やはり先日の”大戦”の結果を知り、もはや現帝国政府に勝ち目はないと悟ったからなんでしょうか……?」

一方微かな希望が砕かれた事によって辛そうな表情で顔を俯かせているエリオットをガイウスが心配そうな表情で見つめている中、レーグニッツ知事は困惑の表情で疑問を口にした。

「私もそうだと考えているが……ただ、帝都から離れているアルトリザスの後方支援部隊はともかく、帝都の防衛についていたナイトハルト君達の離反もそうだが、宰相殿に忠誠を誓っていた情報局の離反を宰相殿やクレイグ将軍が許してしまった事には”違和感”を感じているんだよね……」

「しかも連中からしたら”反逆者”を出した”ヴァンダール”の当主もだけどエリオットの姉――――――軍の上層部の血縁者まで連れ出されたのに、それを許してしまうなんて幾ら何でもおかしいわよ。」

「その……ミルディーヌさん。兄上や知事閣下の疑問の件、実際はどうなんですか?」

レーグニッツ知事の推測に同意したオリヴァルト皇子が考え込んでいる中セリーヌは目を細めて自身の疑問を口にし、セドリックはミルディーヌ公女に訊ねた―――――

 

 

 


 
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