No.109814

恋姫†無双 真・北郷√14 中編

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
嫌いな方はわざわざ応援メッセージで嫌味を
送ってこないようにお願いします。
そのためのお気に入り専用ですから。

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2009-11-30 21:25:47 投稿 / 全22ページ    総閲覧数:35214   閲覧ユーザー数:22739

恋姫†無双 真・北郷√14 中編

 

 

 

光で照らす優しき覇王、闇で苦しむ歪んだ仁王

 

 

 

蜀侵攻前夜 鄴城 調練場

 

/語り視点

 

――――っ!

 

 皆が準備を急ぐ中、夜の帳が落ちた調練場の中央で人知れず激しい気の嵐が唸りを上げて吹き荒ぶ。

 

「足を踏ん張り、腰を入れんか! そんな事では、か弱き漢女の儂一人倒せんぞ、このバカ弟子共がーッ!」

 

「はああぁぁーーーーッ!」

「ええぇぇぇーーーーぃ!」

 

 その嵐の中で両腕を組んで直立しているのは卑弥呼。闘気の風を巻き起こし、卑弥呼に向けて放っているのは猪々子と斗詩。二人は卑弥呼に新たな力が欲しいかと誘われ、特訓を受けていた。

 

……

 

 夜が明け、出発の時間が近付いた頃……。

 

「やった……卑弥呼、ありがとうっ!」

「できた……卑弥呼さん、ありがとうございました!」

 

 遂に新しい力を会得する猪々子と斗詩。

 

「ようし……! 今こそ、お主達は真の漢女……ラヴを極めし王者よ」

 

「はいっ! 師匠っ!」

「え、えっとぉ……技を教えてもらっただけですけど……」

 

 何かをやり遂げたように微笑む卑弥呼に、猪々子は熱い涙を流しながら感謝をし、斗詩は駄目だと知りながらも一応突っ込む。斗詩を置いたまま二人は頷き合い、昇りかけの朝日を指差して言葉を揃えて叫ぶ。

 

「「見よ! 北郷は赤く燃えている!!」」

 

 だが、その言葉を言い終えた瞬間、突然卑弥呼が倒れこむ。そして誰に支えられる事もなく、ゆっくりと地面に倒れ……。

 

「…………」

 

「師匠? ……師匠? 師匠……! 師ィィ匠ォォォォーッ!」

 

「文ちゃん……卑弥呼さんは寝てるだけだよぉ……」

 

「なんだか、やらなきゃいけないような気がしてさ~♪」

 

 二人は完全に熟睡した卑弥呼の両足を片方ずつ持ち、

 

「何度呼んでも起きねーし、しょうがねーなー。おらよっと」

 

「置いて行くわけにもいかないしねぇ。うんしょ」

 

 乗車予定の機関車まで地面を引きずっていく。

 

ズルズルズル

「……だぁりん♪(くねくね)」

 

「うわ! きも!」

 

「文ちゃん~それ、あんまりだよぉ……でも、気持ちは分かるかも」

 

 卑弥呼が甘い寝言をクネクネとくねりながら言うと、あまりの気持ち悪さにそのまま客車に放り込み、自分達は寝台車に向かうのだった。

 

「さー寝よ寝よ」

 

「うん♪」

 

 

時は戻り 白帝城東

 

/一刀視点

 

「これが孔明の罠……石像……石兵八陣」

 

 俺が思い至った諸葛亮の計略に考え込んでいると、石像の向こう側から誰かの声が聞こえた。

 

「お姉ちゃーん! おねえちゃーーーーん!」

 

「その声は、シャオ! どうしてここに?」

 

「お姉ちゃん! 無事だったんだね!」

 

 壁越しに聞こえた声に蓮華が答える。どうやら孫尚香のようだ。

 

「シャオなの? あなた、成都にいたんじゃ?」

 

「雪蓮姉様!? お姉様も一緒なの!? 良かった……うぅ~どうやったらココから出られるの? もうっ! 迷路みたいになってて……」

 

 続いて雪蓮が声をかけると、孫尚香の驚きの声の後、彼女が道に迷っている事が分かった。その呟きの中に俺はヒントを見つける。

 

「迷路? ……そうだ! 真桜、気球は持ってきてる?」

 

「はいな! 人が乗れる試作一号を持ってきとります! 凪! 沙和!」

 

「分かった!」

「了解なのー♪」

 

 俺が思いついた作戦を実行する為、真桜達は準備を始める。色々持って来ているようだ。

 

「その間に中を探ってみよう。すぐに戻れるよう縄を付けておくように。様子を見るだけで良いから」

 

「御意。今すぐに探索隊を編成します」

 

 素早く桂花が答え、二組の探索隊が編成される。今まで留守番が多かった為か、張り切っているようだ。

 

「いってくるじょ!」

「それでは行ってまいります」

 

 南蛮の森林で培った野生の方向感覚を持つ美以と、選択肢を与えればほぼ当たりを引く麗羽が一組目。

 

「風と稟ちゃんは長い間旅をしていたので、こうゆうのは得意なのです」

「このような迷宮は、左右どちらかの壁沿いに進めば、自然と出られるものも多いのですが」

 

 風と稟の頭脳派が二組目。それぞれ霞や翠等、数騎の護衛を連れて中に入っていく。

 

「明命、この壁の向こうに居る孫尚香をこっちに連れてこられるかな?」

 

「はいっ! お任せ下さいっ!」

 

 明命がその身のこなしで石像を軽々と乗り越え、向こう側に降りると縄を器用に使って孫尚香をこちらへ連れてくる。

 

 

「あれ……!? もしかして……一刀? 一刀だっ! 一刀~♪」

 

「シャオも思い出したようだな……」

 

「うんうん♪ シャオが一刀のお嫁さんになってあげる約束だったよね~♪」

 

 地面に降りた小蓮は俺の顔を見た途端、前外史の事を思い出したようで突進気味に抱きついてくる。やはり皆の記憶が戻るのは時間の問題のようだ。というか、普通……行方不明だった雪蓮や心配していた蓮華に抱きつかないか?

 

「シャオ~。一刀は私のものよ?」

「雪蓮?」

 

「じゃなかった……私と冥琳のものよ!」

 

 雪蓮が小蓮を引き離そうと、冥琳と共に俺の側に寄って来る。感動の再会は?

 

「いいえ、孫策様。蓮華様と私のものです」

 

「思春!? そ、そうです! 姉様にもシャオにも渡しません!」

 

 思春が真面目な顔で雪蓮の言葉を否定すると、蓮華も二人の姉妹に絡み始める。ええと……ものって、俺の事?

 

「馬鹿ね、ご主人様が十人、二十人で満足できる器の小さい男だと思っているのかしら? 全員の所有ぶ……夫に決まってるじゃない」

 

 しかし、華琳の仲裁が入ると、って……華琳さん、今一瞬、所有物って言ったよね?

 

「流石ね、華琳。ハニーには全員をきっちり平等に愛してもらわなくちゃね♪」

 

「私は別に……独占するつもりでは……「へ~♪」雪蓮!」

 

「シャオは一刀と一緒なら何でも良いよ~。シャオって健気な妻だもん♪」

 

「私達が争っても意味はありませんね。思春」

 

「御意」

 

 全員が矛を収める。何事も無くて良かった……。暫くすると中に入った麗羽達が戻って来た。

 

「うみゅみゅー御遣いしゃま~、中に入ると変な気配が一杯で方向が分からなくなるじょ」

 

「ご主人様、私はなんとなくですが、アタリがない気がしますわ」

 

 美以が目を回しながら両腕を上げ、麗羽が首を傾げて素直な感想を口にする。

 

「風も見て回りましたが、同じ構造が長く続く為、大軍勢で行軍するのは危険だと思うのです」

 

「風の言う通り、人数が多ければ多いほど、この迷宮は突破が困難になっているようです」

 

 風は紙に何かを書きこみながら思案し、稟は兵数や輜重車の行軍を想定して進言してくれる。

 

「迷宮とは長く続く細い通路のようなものです。出口が明確に分からず、策も無しに入ってしまえば、通路が行き止まりの時に後続が邪魔で引き返すのも困難になりますし、手分けをすれば、分散した者達がそのまま行方不明になる可能性が高いでしょう」

 

 桂花がそれぞれの情報から総括を俺に報告する。孔明の罠……他の進軍路の者達は大丈夫だろうか……。

 

 

「シャオみたいに、石像を乗り越えたら?」

 

「輜重車や馬を連れて行けないと意味が無いだろ?」

 

「あ~そっか」

 

 小蓮も意見を出してくれるが、人間だけ進めても仕方がない。

 

「じゃあ、ボクが壁を全部こわしちゃいますよ!」

 

「おお! 季衣、それは名案だ。私も手伝おう」

「私も手伝います!」

 

 北郷軍の力自慢が揃って名乗り出るが、

 

ビュンビュン……

「はあああぁぁぁーーっ!」ドガッ

 

「うおおおぉぉぉーーーっ!」ガキンッ

 

「えーーーいっ!」ガガガガッドカン

 

 季衣が武器を投げ付けても、春蘭が切り付けても、流琉が叩き付けても、

 

「はぁ、はぁ、ボク、岩でも砕けるのになー」

「むぅ、なんと固い石像だ。私の七星餓狼でも切れんとは」

「……壊せませんね。少し罅が入ったようですが」

 

 完全には壊れなかった。春蘭の攻撃で多少傷は入ったものの、これを壊し続けて進むのは時間的にも無理そうだ。

 

「大将! 気球の準備完了ですわ」

 

「真桜、凪、沙和、ご苦労様」

 

「はいな!」「はいっ!」「はいなの!」

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

「待って下さい! 御主人様に万が一があってはいけません。私が乗ります! それに迷路の構造を覚えるのならば私の方が適任です」

 

 真桜達が気球の準備を終え、早速俺が乗ろうとすると、桂花が自分が乗ると言いだす。真桜は仕方が無いとしても人が乗るのは初めてだし、女の子を危険な目に合わせるのもなぁと思っていると、

 

「大将はウチらの王や! どんと構えとってください」

 

「……わかった」

 

 真桜が真剣な顔で自分達を信じて欲しいと目で訴える。周りもじっと俺に『乗るな』と無言で圧力を送ってくる。自重しよう……。

 

「わ、私も乗ります! 地図を憶えるのは得意です!」

 

「儂も乗るぞ。目には自信がある」

 

 俺が諦めた後、雛里と祭が素早く立候補する。

 

「私も、その、乗りたいのですが」

 

「すんません。四人までやわ」

 

 稟も言葉を発するが真桜の告げる人数制限に肩を落とす。相当乗りたかったようだ。冥琳も祭を見ながら羨ましそうにしている。二人ともメガネかけてるし反論できないみたいだ。風は? こうゆうの好きそうだけど……さっきの紙に何か書きこんでいるようだ。

 

 

/語り視点

 

「大将、行ってきます!」

 

 真桜が風を巧みに計算して出発地点を決め、桂花、雛里、祭が乗り込むと、地上に戻るためのピアノ線を気球に括り付けてから気球は上がり始める。そのまま風に乗り、やがて全てを見渡せる迷宮の真上に到達する。

 

「わぁ……師匠、私達は大陸で一番最初に空を飛んだんですね!」

 

「雛里、私も同じように感動をしているけど、今は情報収集よ。この迷路を完全に記憶しなさい。私とあなたなら出来るはずよ」

 

「はい! 師匠! 白帝城の前にある門。あれが出口ですね……」

 

 雛里が感動して声を上げると桂花も興奮を隠せない様子で答える。だが自らの役目を思い出して迷路の形を目に焼き付け始める。雛里も脳細胞を加速させ頭の中に地図を描き始める。

 

「かっかっか。念願の空を飛んでおるわ。長生きはするもんじゃのう。儂は白帝城の様子でも……むっ! 二人とも、あまり頭を出しては危険じゃ! それっ!」

ビュ キン

「きゃっ!」

「あわわっ」

 

 弓が得意な祭が高い視力を活かして白帝城を眺めると、弓隊が気球を狙っているのが見えた。矢が数本届きそうになるものの、祭が神業ともいえる熟練の技で矢を射て、上手く撃ち落とす。

 

「ふむ、大いに騒いでおるわい。やはり見つかったか。腕の良いのが数人……どれ、今度はこちらから行くとするかのう」

 

 祭が多幻双弓を引き絞り同時に矢を二本番える。気球に当たりそうな矢を放つ弓兵に狙いをつけ、

 

ギリギリ

「空から放つ矢は何処まで届くのか……楽しみじゃっ!」ビュビュッ

 

 次々と矢を放つ。全てが寸分違わず弓兵に当たり、気球に届く矢も少なくなる……が、

 

「すまん、あまりに良く飛ぶので……調子に乗って撃ちすぎてしもうた……」

 

 調子に乗って二本ずつ射っていた為、祭の持ってきた矢筒が空になってしまう。飛んでくる矢の数は少ないものの、矢を防ぐ手立てが無くなった事になる。

 

「やばいで! 桂花、雛里、はようしてや!」

 

 気球の球皮に当たりはしないかと真桜が焦り、じっと動かない桂花と雛里を急かすが、

 

「だまりなさい!」

「…………」

 

 視線を迷路から逸らす事無く怒鳴る桂花と、顎に手を当て高速思考中の雛里。凄まじいまでの集中力で、飛んでくる矢を意にも介さない。

 

「よし……すぐに降りて」

「お待たせしました」

 

 漸く二人が顔を引っ込めて指示を出すと、祭がピアノ線を合図の為に引く。地上に居る流琉が気球に繋がるピアノ線を地面に固定されたウインチのような絡繰で巻きとり、真桜はガスの火を弱めて大地に気球を着陸させる。

 

「無事、到着や~」

 

 

/一刀視点

 

 桂花と雛里は気球から降りると、用意されていた紙にものすごい勢いで地図を描きこんでいく。やがて……。

 

「雛里、比べて見ましょう」

「はい、師匠」

 

 完成した二人の地図を比べると全く同じものだった。

 

「流石、雛里ね♪」

 

「ありがとうございます♪」

 

 二人の地図が同じという事は、完璧に順路を描いたという事だ。迷路は決して狭く無い。むしろ広い……その神懸った二人の記憶力には感動するしかない。

 

「では~みんなで出口までの順路を探しましょうー」

 

「二枚あるのでこちらにも」

 

 風と稟が地図を広げ、軍師達が揃って地図を覗きこむ……が、

 

「なによコレ! インチキじゃない!」

 

「師匠と全く同じでしたから、地図が間違いで無いとすると」

 

「出口から辿っても行き止まり……最初から出口までの道が無いようです」

 

「もしくは隠し通路があるのかも知れませんねー」

 

 桂花が怒り狂い、雛里が地図を再確認し、稟が結論を出すと、風が他の抜け道がある可能性を示唆する。演義でも陸遜ほどの軍師が出口を見つけられなかったのだから、出口まで繋がっていないと言うのも正解なのかも知れない。虚と実を使い分ける孔明ならやりかねない。迷宮には必ず出口があり繋がっている。と思わせるのが正に孔明の罠なのだろう。もし気球が無かったら、気付かず罠に嵌っていたところだ……。

 

 その時、じーっと地図を覗きこんでいた亞莎が素直な意見を口に出す。

 

「あれ? 小蓮様は出口から入って、ここにいらしたんですよね? ここを通れば……」

 

「は? そこは壁じゃない。ほら、ここ! 目の前に壁があるでしょ…………!? それよ!」

 

 だが亞莎は目が悪い為、壁を見落としている事に気付いた桂花が、何を馬鹿な事をと文句を言いつつ、目の前の壁を指差し動きを止めると短い沈黙の後、何かに気付く。

 

「この壁さえ壊せば、すぐに出口まで行けます!」

 

 雛里が桂花の考えに基づいて出口から小蓮の居た場所まで順路を辿ると、ほぼ真っ直ぐに繋がっている事が分かった。つまり壁一枚壊せば進めると。

 

「いや、それが先程試してみたのだが……」

 

 先程壊そうとしていた春蘭が無理だと伝えようとすると、

 

「こんなこともあろうかと、ちゃーんと用意しておきましたわ。真桜さん?」

 

 麗羽が石像に付いた無数にある罅のひとつに印を付けながら笑顔で真桜の名を呼ぶ。

 

「はいな♪ ジャッジャーン! 厳顔から鹵獲した豪天砲とウチの螺旋槍の構造を組み合わせた絡繰武器、断空砲と豪天剛や! まあ、失敗作やけど……とにかく説明に入るで! こいつは……」

 

 真桜の説明によると、麗羽に頼まれて、猪々子と斗詩の為に密かに作っていたとの事。

 

 断空砲は厳顔の武器、豪天砲に大剣を付けた感じの大掛かりな絡繰で遠近両方使える武器との事。特に接近戦では武器の内部で気の爆発力を増幅し先端に付いた剣の部分を瞬間的に撃ち出す事で貫通力を高めているらしい。ただ……大掛かり過ぎて実戦には使えないようだ。

 

 豪天剛は金光鉄槌にドリルを付けたような形状で真桜の螺旋槍を更に発展させたものらしく、鉄槌部分の破壊力に螺旋の貫通力を融合したものらしい。気の流れを螺旋の先端から包むように全体に伝え、その破壊力は抜群との事だが……重い上に気の消耗が激しく、これも破壊力だけの失敗作。

 

 二つとも武器としては未完成。だが、俺は真桜に武器を作らせてしまった……俺の力が足りないせいで。

 

「真桜……」

 

「大将に武器は作るなて言われてたのに、すんません……ウチ」

 

「ご主人様、頼んだのは私ですわ。それに、これは道を切り拓くための力です」

 

 俺が謝ろうとすると真桜が俯き、麗羽が真桜を庇って弁護する。それが俺には嬉しかった。常に仲間の為に考え行動する俺達の在り方のようで。

 

「いや、俺は人を殺す武器を作って欲しくないと言っただけだよ。麗羽と真桜が仲間の為にしてくれた事を怒る訳が無い。ただ、謝りたかったんだ」

 

「大将……ウチは大将のおかげで、ウチの才能が平和の為に役立てるって自信がもてるんや」

 

「ご主人様……(謝りたいのは私の方ですわ。私では扱いきれなかった力が大陸の平和の為に役立っている。あなたの心に深い傷をつけながら……申し訳ありません)」

 

 だから俺は笑顔で真桜の肩に両手を置き目を合わせて心から謝る。真桜は顔を上げて微笑んでくれた。麗羽も瞳を閉じてゆっくりと頷く。

 

 

「新しい武器か~。斗詩、卑弥呼に特訓してもらった、あの技でいってみよっか!」

 

 猪々子が嬉しそうに断空砲を構え、

 

「うん! 私達の絆の力だね! 相手は動かない石像の壁だし、いくよー文ちゃん!」

 

 斗詩が頷いて豪天剛を振りかぶる。

 

「「全力全開!」」

 

 二人が声を合わせると麗羽が琢刀を抜き、先程付けた印を指し示しながら凛々しく叫ぶ。

 

「文醜さん、顔良さん。雄雄しく、勇ましく、華麗に攻撃ですわ!」

 

ガキン ジャキン

「やってやるぜっ!」

 

ガガガ ギュイィィンン

「最終融合承認!」

 

 猪々子が断空砲を格闘戦形態に変形させ雄叫びを上げると、斗詩が絡繰の始動鍵を回し豪天剛に気を送り込みながら螺旋を回転させ猪々子の動きと同調する。

 

「「二人の武器が光って唸る!」」

 

 それぞれの武器が気を纏い淡い光を放ち始める。

 

「夢をつかめとっ!」

「輝き叫ぶ!」

 

 猪々子が右の掌を前に向かって握りこむと、斗詩が豪天剛を天高く振り上げる。

 

「「ばぁーくれつ! 五斗・賦因果ーっ!(ごっど・ふいんがーっ!)」」

 

 二人の周囲に凄まじい闘気が満ち、身に付けている鎧の色のように全身が金色(こんじき)に染まる。

 

「石っ!」

「破!」

 

 二人が全く同じタイミングで前方の石像の罅にむけて攻撃を繰り出すと、

 

「「らーぶらぶぅ袁紹けええええええんっ!!」」

 

 光り輝く気の奔流が溢れだし、気の塊が文字が見えるような幻覚を伴って、

 

ガキングワッ カッ ズゥゥゥゥゥン―――――――

<<爆裂・五斗・賦因果・石・破・袁・紹・剣>>

ドガガガガッ カッ ズゥゥゥゥゥン―――――――

 

 石像の壁を跡形も残さず吹き飛ばす……どこの必殺技ですか? だが、これで先に進む事が出来る。壁があった場所を通り抜けると……小蓮が乗ってきたと思われる馬が脇の通路で怯えていた。ちゃんと避けてくれたみたいだ。

 

「これがラヴ……愛を極めし王者の力だぜ! はぁ……はぁ……」

 

「うん。でもこの武器、もう使わない方が良いね。へとへとだよぉ」

 

 しかし、二人を見ると肩で息をしている。かなり消耗が激しいようだ。俺は二人を労って小休止を取った後、慎重に進軍を再開する。

 

 

 そのまま地図の通りに出口に向かって進軍すると途中で見覚えのある溝を発見する。これは……。

 

「これはご主人様が反董卓連合で使われた計略……孔明が早速応用したようですね」

 

「シャオは馬で通ったからわかんなかったけど、どうかしたの?」

 

 桂花が悔しそうに分析し、小蓮が首を傾げる。輜重車の車輪を狙った俺の策を反対に仕掛けられるとは……急な出発で何も考えていなかった。俺は頭を抱えて小さく唸る。

 

「むぅ……」

 

「はいはーい♪ 穏にお任せ下さ~い。北郷軍の計略に関する研究は亞莎ちゃんと一杯しましたよぅ。ですのでー、皆さんお願いしますぅ♪」

 

 すると自信ありげに穏が手を上げ、工兵達に合図をすると、溝に大盾を横にして敷き詰め始める……なるほど。溝の幅は三尺(約70cm)大盾の横幅は四尺弱(約90cm)鉄で出来た橋になるわけか。

 

「穏、助かったよ。ありがとう」

 

「はい~。後でちゃ~んと、ご褒美くださいね~♪ 亞莎ちゃんと一緒で構いませんから」

 

 俺が礼を言うと、穏は袖で口元を隠しながら報酬を要求する。ちゃっかりしてるな。

 

「ののの穏さま!?」

「一緒にお勉強ですぅ♪」

「へ!? あ、あはは、そうですよね! お勉強です!」

 

 亞莎が赤い顔で焦りまくっているけど、多分想像の通りの展開になると思う。そんな亞莎に色々な意味を込めて労いの言葉をかける。

 

「亞莎もご苦労様」

 

「は、はいっ! お役に立てて嬉ひいでふ!」

 

 袖で赤い顔を隠す亞莎に癒されながら順路を進む。やがて出口に近付くと、空の上からおぞましい気配が……。

 

ドズンッ

「……儂、参上♪」

 

「卑弥呼!? 恋に音々音も……どうして」

 

 卑弥呼が恋と音々音を抱えて大空から落ちてきた……貂蝉のように人間離れした跳躍で飛んできたんだろうか?

 

「この二人に頼まれたのだ。闘気のお陰ですぐに見つかったわ。だぁりんも今、こちらに向かっておる」

 

 だぁりんは……華佗の事だったな。闘気は猪々子と斗詩の技か。あれだけ大きな爆発じゃ目立つよなぁ。

 

「恋殿が目を覚まし、どうしても、ご主人様のお側に居たいと。ねねは恋殿の願いを叶えて差し上げたくて……」

 

「……ごしゅじんさまと、いっしょがいい」

 

「……恋、おいで」

 

 卑弥呼の体から降りた音々音が、恋を抱いて駆け寄り状況を説明してくれる。恋がわがままを言うという事は……最後の時が近付いたようだ……。俺は込み上げてくる涙を押し殺し、笑顔で恋に腕を差し出す。

 

「(コク)」

 

 恋は嬉しそうに微笑んで俺の肩の上に座る。その重みを噛み締めた後、音々音に向き直り礼を言う。

 

「音々音、ありがとう。恋に真名を許してもらえたんだね」

 

「はいなのです。ねねもこの戦いに参加して、ご主人様と恋殿のお役に立ちたいのです」

 

 恋と仲良くなった音々音が両袖を振り上げて闘志を燃やしている。陳宮は正史で呂布に心酔し数々の献策を捧げた名軍師。戦力が少しでも欲しい今、断る理由は無い。

 

「心強いよ。よろしくね」

 

「ねねは、ご主人様と恋殿に尽くしますぞ!」

 

 俺が手を差し出すと、音々音は嬉しそうに握手をしてくれた。

 

「丁度良かったわ。ねね、こっちに来なさい」

 

「詠殿? 分かったのです」

 

 音々音に気付いた詠が鋭い声で手招きする。その周囲を見ると軍師達がなにやら相談しているようだった。

 

 雛里、冥琳、風、詠が中心となり、地面に何かを描いて説明し、それを桂花、稟、穏、亞莎、七乃、音々音が真剣に聞いている。この出口を潜れば白帝城。俺達は後続が追いつくのを一時辰(2時間)程待って戦闘の準備をした。

 

 

 白帝城前に到着すると城の中には誰もおらず、門は全て開け放たれている……。

 

「……趙雲……開け放った門と空っぽの城……空城の計か」

 

 正史で趙雲が使ったとされる空城の計。これも多分俺達を惑わせる為のもの。不意打ちという奇襲に対する戦力が不足している為に星が考え付いた計略で、蜀の本隊はまだ到着していないと推測できる。様々な可能性について議論する軍師達を説得して俺の独断で号令をかける。迷っている時間は無い。

 

「すぐに城を占拠する。突撃っ!」

 

「オオオォォーーーーッ!」「オオオォォーーーーッ!」「オオオォォーーーーッ!」

 

 俺の読み通り、瞬く間に城を制圧できた。暫くすると近くの森から趙雲の軍勢、約五千ほどが現われる。

 

「流石は北郷様……慎重な貴方なら時間が稼げると思ったのですが、一瞬の迷いも無く城に入ってしまうとは。こうも簡単に破られては私が馬鹿のようですぞ……どうやらこの侵略は本気の御様子……出来れば戦いたくは無かったのですが、仕方がありませんな」

 

「やはりハッタリか……」

 

 星がニヤリと笑いながら、俺の前に進み出る。俺は表情を変えずに語りかける。今は敵同士だ。兵士達がいる前で武人である彼女の志を汚してはいけない。それが信じるという事だ。

 

「初めは篭城戦の準備をしておりましたが、先程迷宮の石壁を壊すほどの兵器を拝見致しました。あれでは城門はひとたまりも無いと判断して篭城を諦め、この計略を思いついたのですが……」

 

「俺が計略を恐れて逃げ帰ると思ったのか?」

 

「いえ、ですが、もしかしたら、と一縷の望みにかけました。我が計略が敗れた今、一騎打ちを申し込みます。私が勝てば大人しく退いて下され。そちらが勝てば望み通り矛を交えましょう」

 

 星はなるべく兵士達を巻き込まずに俺達を退かせたいようだ。その考えが痛いほど分かる。

 

「ご主人様! 私達は今のところ優勢ではありますが、成都より本隊が何時来るかもわからない状況です。すぐに攻撃して蜀軍の数を減らさなければ、白帝城を手中にしたとはいえ、絶対的な数で劣り援軍の望みも薄い私達は、いずれ不利になってしまいます。そして、この一騎打ちに勝っても我々には全く利がありません」

 

 桂花が言う事は尤もだ。俺達は二万、蜀軍は推定で五万以上。しかも蜀軍の領地で戦い、他の進軍路の援護は先程の罠から考えて、ほぼ期待出来無いだろう。俺に利が無い事も分かっている。でも俺は……。

 

 

「……わかった。その提案を受け入れよう」

 

「ありがとうございます」

 

 星の望み通りにすると答える。桔梗に蜀の様子を聞いた時、星と白蓮は俺達との戦いに反対していたと聞いた。蜀軍兵士達の中には星が裏切るかもしれないと思っている者も少なからずいるだろう。空城の計も見方によってはそう見えてしまう。この一騎打ちは、あくまで星が蜀の軍神として戦うと兵士達の前で示す為のものであり、被害を極力出さずに俺達を退かせようとする星の願いでもある……だから俺は星の為にこの勝負を受ける。

 

「御主人様……(御自分が不利になると知りながら、相手を気遣い信じるのですね……)」

 

 桂花が悲しそうに顔を伏せて下がると、愛紗が進み出る。

 

「その一騎打ち、私が受けて立とう!」

 

「……ほう、相手は愛紗か。面白い」

 

 星は愛紗を見ると、瞬時に武人の顔となり、龍牙を構える。

 

「星、言いたい事は山ほどあるが、今は武で語り合おう……」

 

 愛紗が青龍偃月刀を横薙ぎに一閃し星を睨み付ける。

 

 前外史で互いの背中を預け、敵陣の真っ只中でその武を認め合った二人が今、敵として対峙する。睨み合いが続く中、地平線の向こうから白馬の一群が近付いて来る。公孫の旗……白蓮のようだ。

 

「星! 大丈夫か!? 北郷っ! 何故、いきなり攻めてきたんだ!」

 

「白蓮殿。この勝負に手出しは無用。私が勝てば北郷様には国境まで退いて頂きます」

 

「私が勝てば、このまま進ませてもらおう」

 

 愛紗から視線を逸らさないまま星が気迫だけで白蓮を押し留める。愛紗も星を睨んだまま勝負の結果を待って欲しいと暗に告げる。

 

「……分かった。武人として勝負を見届けよう」  

 

 二人の言葉を受ける白蓮も異民族から白馬長史と恐れられた武人。白馬義従五千と共にその場で静観する事を誓う。

 

……

 

「愛紗よ、前外史で民を救おうと立ち上がったお主なら分かるはずだ。人の心が荒廃し力無き者が虐げられるこの戦乱の世で尚、諦めず理想を貫く事の尊さが」

 

「ああ……私はご主人様に出会い、自分の生きるべき道を見つけた」

 

 星が静かに語り始める。前外史での愛紗の戦う理由、北郷一刀との出会い。

 

「私はこの外史で桃香様の志に触れた。桃香様は平民出身。正に力無き民達と同じ生活を経験し、力のある人間の汚い部分を嫌と言うほど見せ付けられてきた。それでも尚、理想を貫こうとする御方。だからこそ私や鈴々も心を動かされ、契りを結び義姉妹となったのだ。桃香様は誰よりも力の無い民達の心を知っている」

 

「それはご主人様だって同じ事ではないか!」

 

 そして、この外史で『趙雲』が劉備と出会い平和を志した理由を。愛紗は星の最後の言葉、誰よりもという所に納得できず声を荒げる。だが星は眉ひとつ動かさず己の信念を語る。

 

「……そうだ。主と同じ。ならばこの趙雲が主君を変える理由が無い。私が桃香様の志を裏切る事は主の志を否定する事と同義。例えやり方が違うとしてもな。そして……我等三人は桃園で結盟した」

 

 

/星視点

 

 脳裏に浮かぶのは桃源郷のような素晴らしい景色。私はこの事を一生忘れない。この私に義姉妹が出来たこの瞬間を……。

 

星回想(この頃は前外史の記憶が無い)

 

「これが桃園かー……すごいねー♪」

 

「美しい……まさに桃園という名に相応しい美しさですな」

 

 もっともっと弱い人達を守りたい。そう桃香様は願い、義勇軍を立ち上げた。人の心が荒み切ったこの乱世で私は輝く光を見つけた。自分が仕えるべき主君を。

 

「雅だねぇ~」

 

「お姉ちゃん! 姉者! 早く早く! さぁ酒なのだー!」

 

 そして無邪気な鈴々。何処までも真っ直ぐな心を持ち、その天才的な武勇の才能は私以上、私を姉と慕う可愛い妹分。私達は杯を天に向かって高々と揚げる。

 

「我等三人っ!」

 

「姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!」

 

「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ」

 

 私、桃香様、鈴々の順で誓いの言葉を口にする。

 

「同年、同月、同日に生まれる事を得ずとも!」

 

「願わくば同年、同月、同日に死せん事を!」

 

 私はこの誓いを忘れない。何よりも尊いこの絆を……。

 

「「「……乾杯!」」」

 

 命よりも大切な姉妹と交わした、この杯を……。

 

回想 了

 

……

 

「我等姉妹は血よりも濃い絆で結ばれている……」

 

「…………」

 

/語り視点

 

 星が静かに語り終える。力無き人達を守るために戦う。それが劉備。誰よりも民の為に平和を願い、仲間を大切にする仁の王……。

 

「私は主君を裏切らぬ。例え愛する男を敵にするとしても……それこそが、ただひとつ、私が主に誇れるものだ。私は桃香様を裏切らぬ! そして主が信じる趙雲を裏切らぬ! それこそが我が誇り! 愛紗! 互いに主君が一の家臣……我が生き様を受けよっ!」

 

「星……見事だ。お主こそ真の武人。相手にとって不足は無い……本気で行こうぞ。我が忠義と貴様の忠義……どちらが先に折れるのか、勝負だ! 我が最高の強敵(とも)よっ!」 

 

 青龍と白龍が互いを飲み込もうと牙を剥き鋭い爪を振るう。どちらも外史を二つ駆けた生粋の武人。その勝負には誰も手を出せない。二人は微笑むさえ浮かべて熱き魂をぶつけ合う。

 

「愛紗ぁぁぁぁーーーーっ!」「せぇぇぇっいっーーーーっ!」

 

 

時間は少し戻り 成都城 玉座の間

 

/語り視点

 

「桃香様、出発の準備が整いました。あとは紫苑さんと桔梗さんだけです」

 

「ありがとう、朱里ちゃん。紫苑さん達はまだ部屋に居ると思うけど」

 

 諸葛亮が劉備を呼ぶ為、玉座の間に報告に現われる。そして周りを見回し、黄忠と桔梗がいない事を確認する。劉備はその事に気付き、二人の居場所を伝える。

 

「ありがとうございます。……本当に桜香様には知らせないのですか?」

 

「桜香ちゃんには言わないで……余計な心配をかけたくないから」

 

 劉協はまだ北郷軍が侵攻して来た事を知らず、少しでも劉備の役に立ちたいと部屋で勉強に励んでいる。

 

「分かりました……二人を呼んで来ます」

 

「うん。私は先に行ってるね」

 

 そんな劉協に差し迫った戦の事を聞かせたくない。そんな劉備の想いを酌んだ諸葛亮はそのまま黄忠と桔梗を部屋に呼びに行くと言い、返事をした劉備は君主の顔となり玉座の間を出て戦場へと向かうのだった。

 

……

 

黄忠の私室

 

「紫苑、北郷様は璃々の事を知っておったぞ」

 

「璃々を? 私は会ったこともないわよ」

 

 黄忠と二人だけで話がしたいと劉備に告げた桔梗は、黄忠の部屋で北郷一刀との会話の中で気になった事を親友に尋ねる。だが、黄忠は首を横に振る。

 

「璃々、紫苑はこう言っておるが、どうなのだ?」

 

「だれのこと?」

 

 そこで桔梗は璃々に同じ事を尋ねると、

 

「北郷一刀、天の御遣いのことだ」

 

「てんのみつかい? ……ごしゅじんさま? ごしゅじんさまがいるの?」

 

 急に何かを思い出したように笑顔を咲かせて北郷一刀を知っている反応を示す。

 

「ご主人様? どういうことなのだ。紫苑よ」

 

「どういうことって、私にもさっぱり……」

 

 璃々の素直な性格を知る桔梗は、親子で食い違う反応に逡巡し先程より強い調子で親友を問い質す。しかし、黄忠は困るというよりも理解できないという顔だった。

 

「むぅ、嘘では無いようだな。しかし璃々も嘘をついているわけでもなさそうだのう」

 

「お母さん、ごしゅじんさまのこと忘れちゃったの?」

 

 桔梗は黄忠も璃々も真実を言っていると確信するが、璃々がひとりで北郷一刀と会ったという可能性も今の璃々の言葉で消える。

 

「忘れた……?」

 

 黄忠が璃々の言葉になにかを思い出しそうになるが、扉の外から、

 

「紫苑さん、桔梗さん、皆さんがお待ちです。急いでください」

 

 諸葛亮が出陣の時を告げる。最早時間が無い。

 

「くっ……今からと言うときに……」

 

 桔梗は軍議の前に話しておけば良かったと臍を噛む。

 

「お母さん、ごしゅじんさまはどこなの?」

 

「璃々、大人しく待っていなさい」

 

 無邪気に北郷一刀の居場所を聞こうとする娘に、黄忠は帰ってきてから話しましょうと優しく諭す。そして二人は部屋を出て足早に劉備のもとに向かう。残された璃々は……。

 

「桃香さま~鈴々お姉ちゃん~朱里お姉ちゃん~……誰もいない」

 

 いつも優しく遊んでくれた北郷一刀が何処にいるのか聞こうと劉備達を探すが、既に全員出陣した後だった。

 

「そうだ! 桜香お姉ちゃんに聞いてみよっと♪」

 

 璃々は劉備の部屋で静かに勉強をしている劉協のもとへ駆け出して行くのだった。

 

 

時間は戻り 白帝城前

 

/語り視点

 

「愛紗ぁぁぁぁーーーーっ!」「せぇぇぇっいっーーーーっ!」

 

 星の突撃を受け止め、愛紗が吠える。

 

ガキンガガキンッガンガン

「はああぁぁーーっ!」「いやあぁぁーーっ!」

 

 何百合と刃をぶつけ合い、星は速度で、愛紗は力で、互いに相手をねじ伏せようと戦場を舞う。両者共に深手は無いものの、全身は無事な所の方が少ないほどに傷だらけ。戦闘時間は既に一時辰(2時間)程経過し、両軍の兵士達は息を呑んで壮絶に続く双龍の戦いを見守る。

 

ガキッガキッガキキンッ

「……何故、不意打ちなのだ」

 

ブォッ ガキンッ

「それは……大切な仲間の為だ」

 

 星の連続突きを愛紗は丁寧にいなし、その隙に豪撃を一閃するが、星の攻撃は隙が少ない為に間に合わず、軽々と受け止められる。そのまま武器を交叉させ、鍔迫り合いの形になる。

 

「仲間の為だと? 桃香様と北郷様が治める今の時期に誰が困ると言うのだ!」

ギリギリギリ

「我々には時間が無い。そして理由を話す事も出来ぬ」

 

 力比べでは愛紗が有利、星は愛紗の足元をすくい体勢を崩そうと足で払う。愛紗もそれを後ろに跳んで避け、互いに距離をとる。

 

「もう話し合う余地も無いと言う事か……桃香様が言う通り、北郷様は力で全てを押し通す。そう言う事なのだなっ! はぁっ!」ガキッ

 

 星が神速の突きを繰り出す。愛紗は反応して避けるが狙いは龍牙の先で青龍偃月刀の先端を挟みこみ、そのまま武器を捻り上げる事。目論見通り、その紅い牙で青龍の首に喰らい付く。

 

「なんだとっ!? ……ご主人様を見縊るなぁぁーーっ!」グォッ

「馬鹿な!?」

 

 しかし逆に愛紗が龍牙に喰い付かれたままの青龍偃月刀を力任せに持ち上げ、龍牙と星の身体を空に放り上げる。

 

ブンッ 

「!?」ドカッ「くぅ」

 

 その後、両手で着地をしようと腕を伸ばして頭から落ちてきた星の腕を、愛紗が掴み地面に叩き付けると、背中を強打して一瞬呼吸が出来なくなった星の鳩尾に、

 

「はあぁぁーーーっ!」ドガッ「かはっ……」

 

 愛紗が渾身の力で拳を叩きこむ。

 

「はぁ、はぁ……くっ」

 

 決着がついたものの両者共に披露困憊。勝利したはずの愛紗も膝をつく。

 

 

/一刀視点

 

「愛紗!」

 

「ご主人様……私は、大丈夫、です。星を……」

 

 俺が駆け寄ると愛紗は苦しそうではあるが優しく微笑み、側で倒れている星を心配する。

 

「……北郷様、申し訳ありませぬ。私は……こうするしか、なかったのです」

 

「星、お前、先程の言葉は、わざと……」

 

 もう腕を動かす力も無いのか、星は倒れたまま涙を流して俺に謝罪する。愛紗はその姿を見て先程の言葉が本心で無い事を理解する。

 

「……主は誰よりも心が優しい御方。仲間の為と言うのも嘘では無いのだろう。お主が迷っているようだったのでな……ふふっ、世話が焼ける。愛紗よ、まだまだ未熟……」

 

 星は薄く笑いながら、いつものように愛紗をからかうが、首を動かす力さえ無い。

 

「星……お前と言う奴は」

 

「主と袂を分かつと決めたのも私。桃香様を止められなかったのも私。愛紗よ、気にするな。私は捻くれ者故、こんな忠義しか貫けぬのだ」

 

 愛紗はゆっくりと星の側にしゃがみこむと、星の顔に付いた涙と血を優しく拭う。

 

「主……」

 

「星、今は何も言えない……」

 

 星が俺の瞳を覗きこむ。だが、恋の事は言えない……俺が迷っていると、

 

「主は私の事を信じて下さいました。私も主を信じておりますぞ……」

 

 そう言って安心したように目を閉じる星。そこに華佗が到着する。

 

「む、怪我人か?」

 

「華佗、彼女の治療をお願いできますか?」

 

「俺は医者だ。頼まれなくても治療させてもらう」

 

 恋の付き添いで来てくれた華佗だったが、嫌な顔ひとつせず星の容態を診てくれる。

 

……

 

「どうですか?」

 

「命に別状は無い。力を使い果たしているだけだな。ただ、衰弱が激しい。寝台は無いか?」

 

 とりあえず安心する。華佗が来てくれて本当に良かった。寝台か……。

 

「白帝城にあるはずです」

 

「分かった。そこで治療しよう。卑弥呼。すまないけど手伝ってくれ」

 

「うむ」

 

 俺が答えると、華佗と卑弥呼は星を運んで白帝城に向かう。その一部始終を見ていた白蓮が俺に話しかけてきた。

 

 

「……北郷、何一つ利が無いのに星の提案を受けるお前と、敵でありながらお前を信じて戦った星を見て漸く分かった。私も北郷を信じよう。そして、お前達と一緒に桃香の目を覚まさせる! 北郷と桃香の願いは同じ。あいつは勘違いをしているだけなんだ。あのバカの目を覚まさせてやらないとな」

 

「白蓮、ありがとう」

 

「いや、こんな事になってすまない。私が桃香についていながら……今までお前を信じ切れなかった」

 

 白蓮が悩み抜いた末に俺達に手を貸すと約束してくれる。そこに劉備率いる蜀軍、約五万が到着する。俺達の前に布陣した後、蜀王である劉備が今まで見た事も無いような厳しい顔で俺を問い詰める。

 

「北郷さん、あなたは無断で国境を越えました。完全な侵略行為です」

 

「俺はこの国境をなくしに来たんだ。だから問題ない」

 

 劉備が毅然と言い放つが、俺は首を振りながら答える。

 

「……少し待ってくださいと言ったはずです」

 

「俺にはもう時間が無い」

 

「時間が無い?」

 

「答える必要も義務も無い。あったとしても答えられないがな」

 

 これは既に決めた事だ。恋が消える前に大陸をひとつにすると。

 

「身勝手な! ……あなたは急ぎすぎます」

 

「俺には時間が無いと言ったはずだ」

 

「あなたのやり方は間違っています! そうやって、力で国を侵略して、人をたくさん殺して……それで本当の平和が来ると思っているんですか?」

 

「『本当の』平和……ね。俺はそんなものより、早く大陸をひとつにしたいんだ。俺が進む道が本物か偽物かなんて、どっちだっていい。皆が本物にしてくれると信じている」

 

 一刻も早くみんなを笑顔にしたい。戦争で苦しむ民達を救いたい……。そして肩の上の恋が消えてしまう前に平和な世界を見せてやりたい。俺ひとりでは出来なくても、本当の平和にしてくれると信じる事が出来る皆がいる。例え俺が悪と罵られようと……。

 

「……これでやっと分かりました。あなたは正義じゃない。自分の欲望のために人を平気で殺す……」

 

「だまりなさい! 劉備、言わせておけば……」

 

「桂花」

 

「嫌です! 私の御主人様を……絶対に許せません。どんな罰でも受けます。言わせてください!」

 

「…………」

「ありがとうございます」

 

 桂花が劉備に向き直る。瞳には涙を溜めたまま。俺は何も言えなかった。

 

 

「これまでの戦いで御主人様がどれだけ苦しんだか貴女は知っているの? あんたが言うように話し合いで解決できる事だってあるわ。だけど、それだけでは無理な場合もある。人の数だけ真実があり、其々にゆずれない信念があるからよ。御主人様は何度もあんたに使者を送っていたじゃない。何度断られてもそれでも諦めず、手を取り合う為にって……それなのに、あんたがしっかり返事しないのが悪いんじゃない!」

 

「それは……」

「ほら、答えられないじゃない……そんな悩み抜いた末に戦をする決断をされた御主人様を一体誰が責められるの! 全ての大陸の民を苦しみから救う為に、人の死を誰よりも悲しむ御主人様が、自らの意思で守るべき生命を失う事になるかも知れない戦の決断を下す事の苦悩……。より多くを救おうと、精一杯に広げるその掌から零れ落ちる命を見つめる御主人様の御心……。尊い犠牲を覚悟する事も出来ない、あんたなんかに分かるはずがない!」

 

「……そんなの」

 

「良く聞きなさい! 人は人間の善し悪しでは無く、力のある人間についてくる。だから身体を張って戦い、互いに命という代償を払い勝利して『力』を示すのよ! 悲しいけど、これが現実なの。劉備、現実を知らない、この大馬鹿者っ! 理想だけで世の中が変わるのなら……人々が救えるなら、誰が戦争などするもんですか! あんたが理想だけを夢見て自分の回りだけで楽しく暮らしている間、民を優しく見守る御主人様は、その救いの手を泣きながら血に染めていたのよ! あんたなんかに御主人様と対等に戦う王の資格などあるもんですかっ! 己の無知で正義を振りかざすな! この未熟者っ!」

 

……

 

 ……未熟者。

 

 桂花は今の劉備をそう思っている。でも俺はそうじゃない。彼女は曹操、華琳と並ぶほどの英傑だ。正史の曹操も外史の華琳もその力を認めていた。

 

 星が先程言っていた通り、劉備という人物は平民出身。正にこの時代の底辺クラスの生活を経験していた人物で、力のある人間の汚い部分を嫌と言うほど見せ付けられても、尚、理想を説く高潔な人物。だからこそ関羽や張飛も心を動かされて付き従い義兄弟になった。劉備は誰よりも力の無い人達の気持ちを知っている英傑。

 

 だから星が主君と仰ぎ、華琳が認めたこの外史の劉備も、仲間の心をひとつに纏め無限の力を引き出させる事が出来る英傑。周りの者が命を賭けて守ろうとする仁君。力無き民の夢と希望。

 

「……そんなの正義なんかじゃない! 北郷一刀……私が倒れてもあなただけは倒してみせる。私はあなたを認めない。あの子の為にも! そして無力な人達の居場所のためにも!」

 

 ……だから、劉備が『力で物事を進めて来た俺』を話し合いだけで許すはずが無い。

 

 

「桃香! 目を覚ませ! おまえは勘違いをしているだけだ!」

 

「白蓮ちゃん! どうして!?」

 

 白蓮が一歩前に出て、劉備を説得しようと力の限り叫ぶ。劉備は俺達と並んで立っている白蓮を見て驚く。

 

「北郷の願いもお前の願いも同じじゃないか! 何故戦うんだ!」

 

「私は北郷さんのように力で何でも思い通りにする人を許さない。弱い人にだって守りたいものはあるの!」

 

 白蓮が必死に訴えるが、劉備は己の信念を曲げない。俺を許さないと。

 

「違う! 北郷はお前と同じ志を……同じ!? うぅ、くぅぅ」

 

 その時、突如として白蓮が頭を抱えて苦しみだす……まさか記憶が!?

 

「白蓮ちゃん! 北郷さん、白蓮ちゃんに一体何を!」

 

「くっ、これは一体……頭にもうひとりの私が……麗羽と戦って? うぅ? ああぁぁーーっ!」

 

 白蓮が絶叫した後、気を失う。どうやら記憶が戻って麗羽に倒された事を思い出したようだ……気を失い倒れる程の衝撃。自分が死ぬという記憶……。

 

「白蓮さん……」

 

 麗羽が涙を流しながら白蓮を優しく抱き締める。

 

「白蓮ちゃんが裏切るなんておかしいと思った……何かしたんですね」

 

 劉備が更に敵意をむき出しにして俺を睨む。こんなタイミングで……。

 

「何もしていない」

 

「だったら何でいきなり気を失うんですか! 理由があるなら説明できるはずです」

 

 劉備は前外史にいなかった。記憶の事を説明したとしても分かってくれるはずが無い。

 

「白蓮ちゃんを返して下さい。それに星ちゃんは……星ちゃん!?」

 

「劉備様、報告します」

 

 劉備が周囲を見回すが趙旗は既に倒れた後だ。この流れは……不味い。正史で関羽が倒された時に酷似している。

 

「星ちゃんと白蓮ちゃんを取り戻します……全軍突撃!」

「うりゃりゃーーーっ!」

 

「オオオオォォーーーーッ!」「オオオオォォーーーーッ!」

 

 俺が星は無事だと伝えようとする前に、劉備達から怒声が巻き起こり、蜀全軍が突撃して来た……。

 

 

/劉備視点

 

「白蓮ちゃんを返して下さい。それに星ちゃんは……星ちゃん!?」

 

「劉備様、報告します」

 

 私が星ちゃんを探していると伝令さんが報告の為に走ってきた。

 

「白帝城の兵士達が先ほど合流し、趙雲将軍が一騎打ちで敗れたと!」

 

「星ちゃんが! 星ちゃんっ!?」

「姉者!? あああぁぁぁぁーーーーッ!」

「星さんが倒された!?(それに私の計略、石兵八陣がこんなにあっさり破られるなんて……)」

 

 私は血の気がサーッと引いていくのを感じた。鈴々ちゃんが真っ赤な顔で叫び声を上げ、朱里ちゃんも顔を青ざめて肩を落とす。すると怒りが込み上げて来る。愛し合っていたはずの星ちゃんを倒した北郷さんに、大切な義姉妹を倒した北郷軍に……。

 

「許さないっ! 私達は死ぬ時は一緒だって誓ったの!」

「姉者の仇は鈴々がとるのだっ!」

 

「と、桃香様、鈴々ちゃん、落ち着いてくださいっ」

 

 私は未熟者だと言われた。私の理想は夢物語だと笑われた……それでも私は目指す。私の理想を、力無き民達が夢見る優しい世界を! 私は諦めちゃいけない。私を送り出してくれたお母さん。邑の人達。みんなの希望を私は背負っている。私が失うものは私だけのものじゃない、みんなの希望なんだ。だからどんなに苦しくても上を向いて足を踏み出そう。私はひとりじゃ無い。みんなで掴みとる……夢をかなえる『心の強さ』を……。

 

「星ちゃんと白蓮ちゃんを取り戻します……全軍突撃!」

「うりゃりゃーーーっ!」

 

「オオオオォォーーーーッ!」「オオオオォォーーーーッ!」

 

 だから私は取り戻す。大切な星ちゃんと白蓮ちゃんを、北郷さんになんか渡さない!

 

「星ちゃん、白蓮ちゃん。待っててね……」

 

 たとえ僅かでも望みがあるなら、私は諦めない。大切な仲間を失うなんて絶対に許さない!

 

 

/一刀視点

 

 諸葛亮の制止も聞かず、まるで正史で関羽を失った劉備と張飛のように二人は怒り狂う。そしてその怒りは荒れ狂う津波の如く北郷軍に殺到する。

 

 しかし北郷軍の軍師達も、星と愛紗が一騎打ちをしている間に準備を終えていた。

 

「細い道に殺到する蜀軍……いまなのです!」

 

ジャーン ジャーン ジャーン

 

 白帝城に続く道に突撃してくる蜀軍に風の合図で伏兵が次々と襲いかかる。

 

「十面埋伏の計。これで一時的にではありますが、蜀軍の勢いを殺せたようですね」

 

 稟が解説をすると、手痛い反撃を受けた蜀軍が体勢を立て直す為、孔明の指揮によって陣形を整え始める。

 

「流石、諸葛孔明。見事な陣形だな」

 

「思ったよりも早かったわね。あのまま突撃してもらったほうが都合が良かったのに」

 

 冥琳が孔明の軍略を賞賛し、詠が悔しそうに不満を洩らす。

 

 十の伏兵にそれぞれ軍師がひとりずつ。桂花、雛里、風、稟、冥琳、七乃、穏、亞莎、詠、音々音。そのまま合図も無いのに生き物のように陣形を変え続ける。

 

「雛里! 貴女が全体を見るのよ」

 

 桂花が右翼前方で三羽烏を率いて兵士を纏めながら雛里に声をかける。

 

「はいっ! これが心をひとつにした私達の策。朱里ちゃん、勝負です!」

 

 雛里が雛羽扇を揮いながら本陣前で諸葛亮と対峙する。

 

「数と錬度で絶対的な不利の中、雛里、冥琳、風、詠の四人が考案したこの策」

 

 稟が、春蘭、秋蘭と共に最前列で敵の攻撃を受け止め、

 

「兵士の錬度の低さを細かい指揮で補い、数の多い敵に包囲されないように戦う陣形なのです」

 

 風がその左翼を季衣と流琉の力で押し上げる。

 

「孔明が一手進めるうちに我等は十手。個々が軍師の判断で動く変幻自在なこの計略」

 

 冥琳が右翼後方で蓮華と思春を連れて周りを支援すれば、

 

「胴である私達が首である皆の背後を守り」

 

 七乃が本陣の指揮をして、麗羽、猪々子、斗詩が先ほど合流した白馬義従と共に周りが分断されないように駆け回る。親衛隊は美羽、月、小蓮、天和達を守り、華琳と雪蓮も俺の周りを固める。

 

「私達、首が包囲しようとする敵を薙ぎ払い~」

 

 後方で穏が祭の弓隊と共に敵を牽制する。

 

「首と首は互いに連携し」

 

 左翼後方の亞莎が、明命、美以と息を合わせて兵を動かす。

 

「敵が隙を見せればそこを食い破るっ」

 

 遊撃隊を指揮する詠が、霞と華雄を意のままに動かし、

 

「これぞ、十の思考と九つの首を持つ龍。名付けて九頭龍陣なのです」

 

 同じく遊撃隊の音々音が翠と蒲公英を縦横無尽に駆け巡らせる。

 

 

「例え世界がご主人様を悪と言おうと私は認めぬ! 私と蓮華様のご主人様に手を出す奴は絶対に許さん!」

 

「思春……ありがとう。いつも私を支えてくれて」

 

 思春が蓮華を守りながら迫る敵を押し返す。蓮華は様々な面で支えてくれる思春に心から感謝をする。一刀を悪だといわれ落ち込んでいた自分を情けなく思いながら。

 

「私は華琳殿に諌められたのです。私が蓮華様とご主人様の仲を邪魔していると……」

 

「そんなことはないわ」

 

 しかし思春はむしろ邪魔をしていると答え、蓮華はハッキリとそれを否定する。

 

「いえ、蓮華様の御心は分かっております。ですが折角やり直せるのです。私は変わりたかった……この髪飾りと鈴は私が変わったと信じる為に華琳殿が用意してくれた物」

 

「思春、あなた、もしかして」

 

 やり直す。そう言った思春に違和感を覚え、聞きそびれた事を尋ねると、

 

「はい、華琳殿と戦い敗れた時に思い出しました。私も今までの分を取り戻すつもりでご主人様に甘えようと思います」

 

「二度目はありませんっていうのは?」

 

 納得できる答えが返ってきた……最後の言葉の意味も問えば、

 

「? 人生とは普通、やり直せませんという意味ですが?」

 

「……そう(あれは完全に私の夢だったのね……)」

 

 全ては自分の思い過ごし、蓮華は心のしこりが消えていくのを感じた。

 

……

 

「雪蓮」

 

「わかったわ♪」

 

「「さがれ! 下郎!」」

 

 二人の元覇王の発する覇気が辺りを覆い尽くし、蜀軍の兵士達は動けなくなる。

 

「私は江東の虎、今は噛み千切れ無いから、死なないように優しく噛み砕いてあげる♪ はぁっ!」

 

 雪蓮が青釭を抜き、舞うように急所を強打し敵の骨を粉砕する。

 

「絶があれば首を刎ねてあげられたのに……残念だわ♪ 楽に死なせてあげられなくて。生きて苦しみなさい」

 

 華琳が一天を差し、散歩するような気軽さで敵の体を刺し貫く。

 

「がああぁぁーーっ!」「ぐぅぅぅぅーーっ!」「助けてくれーーっ!」

 

 体中が縛られたように動かない兵士達は為す術もなく倒れていく。

 

「私達を倒したいなら……呂布か関羽でも連れてきなさい」

 

「どっちかひとりじゃキツイかも♪」

 

 微笑むように華琳が両目を光らせると、雪蓮もニヤリと歯を光らせる。

 

「春蘭達は大丈夫かしら……」

 

「華琳、仲間を信じましょう。私達はハニーを守る。絶対にね」

 

 

 雛里率いる北郷軍二万五千と孔明率いる蜀軍五万、北郷軍は倍以上の数に包囲されながらも一歩も退かず力は拮抗する。そして孔明も十人の軍師相手に一歩も退かず軍を纏める。愛紗が動けない今、春蘭が敵の猛攻を一手に引き受ける。

 

「私は華琳様が笑顔でいられる場所を守ると誓った……ご主人様の作り出す平和こそ華琳様の望み。ならば、この夏侯元譲。ここから一歩も引くわけにはいかぬ! 覚悟せよっ! 死地と知れぃ! この先は生きて通れぬ地獄と心得よっ!」

 

「うりゃーーーっ!」ガキン

「なにぃ!?」

 

 しかし蜀軍最強の武将が、前面で押し留めていた春蘭達に突撃して来た。

 

「姉者を倒したのは関羽のお姉ちゃんなのだなっ!」

 

「くっ……」

 

 怒りを顕にした張飛が愛紗を威嚇する。愛紗はまだ疲れ切っており武器を握る事も出来ない。悔しげに愛紗が相手をしようとするが、

 

「待てい! 愛紗と戦うのなら私を倒してからにしてもらおう!」

 

「にゃ? お前は誰なのだ」

 

「我が名は夏侯元譲。北郷の大剣、折れるものなら折ってみよ!」

 

 そこに春蘭が七星餓狼を抜き放って愛紗を後ろに下げる。

 

「愛紗、我が友よ。私を信じてくれ。この間に力を回復させるのだ」

 

「春蘭……ああ、信じている」

 

 春蘭が笑うと愛紗は頷き、力を回復させる事に専念する。

 

……

 

 春蘭の猛攻を張飛は難なく弾き返す。

 

ガキンガキンガキキン

「でたらめなっ!」「お前じゃ相手にならないのだ!」

 

 乱戦の中で戦う二人だが、張飛のほうが圧倒的に強い。このまま一方的に負けるかと思われたが……。

 

ビュッ

「……ぐ……っ!」

 

 春蘭の左目に矢が当たり、春蘭はその場に蹲る。

 

「姉者っ! 姉者ぁっ!」

 

「誰なのだ!? 勝負の邪魔は許さないのだ!」

 

 秋蘭が駆け寄り、張飛が周囲を睨む中、

 

「ふふふ……はーっはっはっは」

 

「姉者?」

 

 春蘭は突然大声で笑いながら立ち上がる。秋蘭は姉の不可解な行動に呆然とするが、ふと下を見ると矢はサングラスに弾き返され落ちていた。

 

「そうか、思い出したぞ……張飛! 私はあの時貴様に及ばなかった。私は弱い……私が弱かったから左目を失い華琳様や秋蘭、皆を悲しませた。私が弱かったから北郷が……消えた……! そうだ。全て私が弱かったからだっ! だが! 私はもう負けん! 今度こそ皆を! 華琳様を! 北郷を守ってみせるっ! うおおぉぉぉーーーーッ!」

 

 眼前まで迫った鏃をサングラスごしに見ていた春蘭は全てを思い出す。そして全ての力を出し尽くすように、今までとは比べ物にならない動きで張飛の武勇に肉薄する。

 

「鈴々だって負けない。本気で行くのだ! 姉者の仇は絶対に討つのだ! うりゃりゃぁぁーーーーッ!」

ガキン

「ぐぅ! はぁぁーーーーッ!」

 

 本気の張飛と互角に闘う春蘭。その身体から何かが千切れるような音が漏れ出す。

 

「力が溢れるぞ! 私は華琳様を守りご主人様を……愛する男と仲間を守る! ならば我が力は無限! 恐れるものなど無いっ!」

 

「姉者を想う鈴々の心は誰にも負けない! 突撃! 粉砕! 勝利なのだーーッ!」

 

 それでも構わず春蘭は戦い続ける。例え体が千切れ飛んでも守りたいものが守れるのなら悔いなど無いと、張飛も命より大切な姉の為に限界以上の力を振り絞る。

 

「恋の攻撃の方が何倍も痛かったぞ! お前はその程度か! ふんっ! ヌルイわっ!」ガッ

 

「鈴々はお姉ちゃんと姉者を守る! 絶対負けないのだ!」ビュォッ

 

 春蘭の力が更に上がる。徐々に張飛が押され始める。

 

「張飛よ お前があの時、強かった理由が分かったぞ。私もご主人様の為、仲間の為、ここで負けるわけにはいかん! 例え死んでも、ここから動かんぞ! それに……」

 

「うりゃりゃーーッ!」

ガキン

「愛紗と約束したのだっ! うおぉぉーーーーっ!」ガキーン「にゃ!?」

 

「……うぅ」

 

 張飛が放った必殺の一撃を武器ごと吹き飛ばす。後は走りこんで武器を振り下ろせば春蘭の勝利だったが……。

 

「…………」

 

「姉者? ……!?」

 

 秋蘭が問い掛けても答えは無い。全開以上の力を使い切った春蘭は立ったまま気絶していた。

 

「姉者……見事だった。今度は私が相手になろう……」

 

「秋蘭、春蘭を頼む。張飛、私が相手になろう」

 

 秋蘭が覚悟を決め、張飛に向き直ろうとするが、愛紗が武器を持って立ち上がり、春蘭を下げるように頼む。

 

「愛紗! そんなボロボロの身体で……」

 

「春蘭は私を信じて戦ったのだ。私が逃げるわけにはいかん」

 

……

 

 だが数の不利は次第に北郷軍を追い詰めて行く。兵士達は次第に疲れ、敵の包囲の中へ中へと押し込められる。武将達も長時間の不利な戦いで無理が出来無い状態に陥る。

 

「周りは完全に包囲しました。北郷さん、降伏してください」

 

 互いに消耗しきった張飛と愛紗が睨み合う中、諸葛亮が降伏勧告をするが俺は諦めない。諸葛亮は俺を生け捕りにして交渉に使う気なのだろう。だが、俺がここで負ければ、まだ小さな勢力である劉備に反旗を翻す者も少なく無い。そうすればまた戦乱の世に戻ってしまう。それに……周りも誰ひとり諦めていない。麗羽や華琳達は俺の顔を見て無言で頷き、兵士達は周りの蜀軍を睨み付ける。

 

「御遣い様を裏切ったらカカアにあわせる顔が無い。はははっ、息子にも嫌われちまう」

「俺だってあの世の親父に死ぬまで殴られる。だから怖くても戦うんだ!」

「俺は死ぬ前に相手を二人は倒すさ! 死んでも御遣い様を守る!」

 

 そんな兵士達を見た天地人☆姉妹は、恐怖で震える身体を奮い立たせて皆に勇気を届けようと、

 

「天(そら)への祈り」

「大地への誓い」

「私達の心はひとつ」

 

「「「我等詠うは兵の道標」」」

 

 俺達の想いを歌う。歌姫に合わせて声高らかに歌い叫ぶ北郷軍。斃れて逝く影は仲間、その後を継ぎ願いの盾となり立つのは己。平和が訪れるその日まで決して諦めないと、崩れかけた魂を震わせて揺るがない信念を示す。どんな屈辱に踏み躙られようとも、その向こうに煌く勝利を信じて。笑っている者、泣いている者、怒っている者、全ての兵が天(そら)へと謳う。我等の心はただひとつと……。その願いに俺の瞳から涙が溢れる。

 

「ごしゅじんさま、かなしい?」

 

「ああ……俺を信じてくれる人に答えたい。平和を信じる、この願いに……」

 

「ごしゅじんさま、れんにまかせる……んっ」

 

 背中に乗っていたちび恋が俺の顔前に回りこみ、この外史に来て初めての口付けを……恋の身体が眩い光に包まれる……。

 

――――っ!

 

 後編につづく

 

 

次回

 

 呂布。一『姫』当千、万『武』不当の武の化『神』。真実の姿が今……解き放たれる。

 

……

 

「……お前達は恋の敵。ご主人様を悲しませる奴は許さない」

 

……

 

「恋はご主人様の盾じゃない。ご主人様を勝たせる為の最強の武」

 

……

 

「ご主人様が居れば…………恋は絶対無敵」

 

……

 

 

 

 

 

「恋、ありがとう」

 


 
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