No.1091918

鬼滅の恋姫 参話

『さようなら……、愛していたよ……』

本来の歴史をねじ曲げてまで愛する人を守った"天の御遣い"は最愛の人の前で消滅する……。

はずだった。

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2022-05-17 07:54:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:418   閲覧ユーザー数:404

 

 

アオイと真菰の"異様な隊服"を支給されてから数日後、今度はちゃんとした隊服が支給された。しかし、真菰の隊服の下はスカートのままだった。しかも真菰の要望だったことが判明した。

 

 

けど、長さは太ももを隠すような長さだったので、一刀は文句を言わなかった。アオイは一刀と同じズボンで、胸元もしっかりと止められる服だった。

 

 

それから数日後、真菰は全快し鍛練もできるようになっていた。そして彼女は育手がいる狭霧山《さぎりやま》へと帰って行った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

真菰が帰ってから数日後、この日は半年に一度の柱合会議が開かれる日であった。そして柱であるカナエは産屋敷邸に向かうのだが、この日は何故か一刀も産屋敷邸に呼ばれたのだ。

 

 

その理由はあまねの旦那である耀哉がカナエに一刀も連れてくるように言っていたからだった。

 

 

一刀は蝶屋敷の前で隠の人に目隠しをされ、おんぶで産屋敷邸へ連れて行かれた。

 

 

産屋敷邸に到着し目隠しを外された一刀はカナエ案内の下、中庭に到着した。そこには既に数人の柱がいた。

 

 

「おい胡蝶、何で此処に柱でも無ぇ一般隊員がいんだよォ」

 

 

身体中に傷がある『風柱・不死川実弥』がカナエに声を掛けた。

 

 

「彼は本日の会議にお館様が直々に呼ばれたのです」

 

 

カナエが実弥の質問に答える。

 

 

「よもやそれは誠か!?」

 

 

「南無…。それが事実なら、実に異様なことだ…」

 

 

炎を模した羽織をマントのように着用している『炎柱・煉獄杏寿郎』と盲目で数珠をジャリジャリしている『岩柱・悲鳴嶼行冥』が声をあげる。

 

 

「私が言ったことは事実です。それとも、私が嘘を言ってるとでも?」

 

 

カナエは溝尾を殴るジェスチャーをしながら顔に青筋を浮かべた。

 

 

「胡蝶地味に落ち着け。誰も派手に嘘つき呼ばわりはしていない」

 

 

「それにお館様が来られれば自ずと分かる。先ずは深呼吸をしろ」

 

 

隊服の上部をタンクトップ状にし、派手な装飾を着けている『音柱・宇随天元』と、左右の柄が違う羽織を着ている『水柱・冨岡義勇』がカナエを落ち着かせようとする。

 

 

「宇随さん、冨岡さん、ありがとうございます。貴方たちのお陰でだいぶ落ち着きました」

 

 

カナエは義勇に言われた通り深呼吸をして、落ち着きを取り戻した。そこに

 

 

「「お館様のお成りです」」

 

 

凛とした声が聞こえた。

 

 

「一刀君、私たちと同じ格好をして頭を下げて下さい」

 

 

カナエが一刀に声をかける。一刀が振り向くと柱一行が膝を付き頭を下げていた。一刀も慌てて同じポーズを取る。

 

 

「おはよう、私の可愛い剣士《こども》たち。今日はいい天気だね。空は青いのかな?半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

 

 

「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」

 

 

「ありがとうカナエ」

 

 

屋敷の奥から現れた耀哉が挨拶をすると、それにカナエが答えた。

 

 

「今日は皆に紹介したい剣士がいてね。カナエ、"彼"は来ているかい?」

 

 

「御意、私の隣におります。さぁ一刀君、お館様にご挨拶を」

 

 

カナエに促された一刀は、耀哉の前まで来ると、正座し平伏した。

 

 

「お初にお目に掛かります。階級・癸、北郷一刀と申します。この度はこのような席にお招きいただき、誠にありがとうございます」

 

 

「君があまねが言っていた一刀だね。私は鬼殺隊当主にして、"九十七代目"産屋敷家当主、産屋敷耀哉。鬼殺隊の剣士たちからはお館様と呼ばれているよ」

 

 

一刀と耀哉は互いに自己紹介をする。

 

 

「あまねから聞いたのだけど、君は"未来から"来たんだってね?」

 

 

耀哉の質問にカナエ以外の柱が動揺した。

 

 

「正確には、この世界とは"違う世界"の未来からとなります。私は今から約百数年後の未来から、約千八百年前の時代へと時を遡り、当時の人々と共に暮らし、戦いました。そしてその時代の大戦《おおいくさ》が終わると同時に私は"消滅"しました」

 

 

「私が消滅した理由…、それは『歴史を変えてはいけない』と言う"禁忌"でした」

 

 

「私は本来死ぬはずだった仲間を助けたり、負けるはずだった戦を勝たせたり、と何度も歴史をねじ曲げました」

 

 

「歴史をねじ曲げた代償…、それは『身の消滅』。私は最愛の女性の前で消滅しました。そして気が付いた時には、最終選別が始まった藤襲山にいました」

 

 

一刀は自分に起きた出来事を包み隠さず伝えた。

 

 

「南無…。そのような悲しいことを経験していたとは…」

 

 

行冥は盲目から涙を大量に流していた。

 

 

「………」

 

 

杏寿郎は喧しい位の声量が鳴りを潜めていた。

 

 

「一刀君…」

 

 

カナエは事前に聞いていたのだが、改めて聞いて行冥ほどでは無かったが、涙を流していた。

 

 

「こんな地味な奴があんな派手派手な経験をしていたなんてな…」

 

 

天元は一刀が経験したことに驚き、思考が回らなかった。

 

 

「…ケッ」

 

 

実弥は唾を吐き出すような息をして、そのまま黙り込んだ。

 

 

「一刀」

 

 

一刀の横に移動した義勇が声をかける。

 

 

「俺はお前の言ってることを信じる。お前は俺の姉弟子の真菰を助けてくれた。人を助ける奴が嘘を言うはずが無い」

 

 

義勇は一刀の肩に手を置いて一刀の話を信じると言った。

 

 

「私も一刀の言うことを信じるよ」

 

 

耀哉も一刀の言うことを信じると言った。

 

 

「皆、これからは彼のことを気に掛けて欲しい。『自分は一人では無い』。それを教えてあげてくれないかい?」

 

 

『御意!』

 

 

「お館様、見ず知らずの私のことを気に掛けてくださり、ありがとうございます」

 

 

耀哉の言葉に柱は頷き、一刀は礼を言った。

 

 

「こちらこそ辛い話をさせてしまい、申し訳ない。カナエ共々、頑張ってくれることを願うよ」

 

 

「御意!」

 

 

一刀は耀哉に礼を言った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

柱合会議から数日後、一刀は蝶屋敷の道場にいた。そこには音柱の天元と水柱の義勇もいた。

 

 

普段は一刀に頼まれ、それぞれの呼吸の型を見せ合った。

 

 

「どうだ俺の"音の呼吸"は?俺にぴったりの派手派手な呼吸だろ?こいつは"雷の呼吸"の派生なんだぜ」

 

 

「一刀、参考になる型は在ったか?」

 

 

天元と義勇は交互に質問をする。

 

 

「えぇ幾つかありました。見て頂けますか?」

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃《はやぶさいっせん》』

 

 

『全集中 空の呼吸 肆ノ型 雀ノ涙《すずめのなみだ》』

 

 

一刀は二人の前で考えた型を披露する。

 

 

「成る程、参ノ型は雷の呼吸の壱ノ型を元にしたのか。速さが派手だったぜ」

 

 

「肆ノ型は水の呼吸の伍ノ型か。良く似ている」

 

 

二人は型の感想をそれぞれ言った。

 

 

「ありがとうございます。宇随さん、冨岡さん、稽古に付き合ってくれてありがとうございました」

 

 

一刀は二人に頭を下げる。

 

 

「そんな地味な言い方すんな。お前の力に派手になったんならそれで良いんだよ。それと俺のことは"天元"でいい」

 

 

「宇随の言う通りだ。お前の力になって嬉しく無いはずが無い。俺のことは"義勇"で構わない」

 

 

「…ありがとうございます。"天元"さん、"義勇"さん」

 

 

一刀は改めて二人に礼を言った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「一刀、起きろ」

 

 

天元と義勇の稽古から二日後の夜、一刀は"誰か"に呼ばれ目が覚めた。

 

 

「一刀、緊急指令だ」

 

 

「"イーグル"、どうした?」

 

 

一刀を起こしたのは彼の『鎹鷲《かすがいわし》』の"イーグル"だった。イーグルは一刀が柱合会議に参加した後、耀哉から送られた連絡要員である。

 

 

「花柱胡蝶カナエが鬼殺に苦戦している。大至急身支度を整えて急行せよ。これが初任務だ、気を引き締めて掛かれ」

 

 

「分かった!」

 

 

一刀は"一緒に寝ていたカナヲ"を起こさないよう細心の注意をしながら隊服を身に纏い、腰に自分の刀を差し、蝶屋敷を出た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀が到着し辺りを見回すと、眼前に『蹲るカナエ』と、『鉄扇を振りかぶる男』がいた。

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

「あれ?」

 

 

鉄扇を振りかぶっていた男は目の前にいたカナエが"忽然と消えた"ことと、腕の"違和感"に頚を傾げた。

 

 

「カナエさん、大丈夫ですか?」

 

 

「か…、一刀…くん」

 

 

一刀は男から離れた所に抱えていたカナエをそっと降ろした。

 

 

「貴様か、カナエさんをこんな格好にしたのは」

 

 

一刀は刀を男に向け、殺気を出す。

 

 

「君は男かい?僕は男には興味は無いよ。僕はその子を救わないといけないんだ」

 

 

男は一刀に見向きもせず、"再生させた"腕で落とした鉄扇を拾った。

 

 

「"救う"?鬼が人を救うなんて聞いたことが無い。大方、救うと称して喰っていたんじゃ無いのか?」

 

 

一刀は溢れている殺気を更に放出する。

 

 

「怖い怖い。殺気が駄々漏れだよ?そんなんじゃ女の子にモテないよ?」

 

 

男はケラケラと笑い出す。

 

 

「貴様に言われたくは無い」

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

一刀は先程使った型を使い、男の頚を狙い、斬る。しかし男は鉄扇を閉じ、一刀の居合いを受け止めた。

 

 

「駄目だよ。僕に二度も同じ手は通用しないよ」

 

 

「ならこれならどうだ?」

 

 

『全集中 空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

一刀は二連続の斬撃を男に振るう。斬撃は男の"片腕"を斬り落とし"腹"を少し斬った。

 

 

「凄い凄い!瞬時に刀の軌道を変えるなんて!お陰で僕の腕がまた斬られちゃったよ!…でも、直ぐに再生できるけどね」

 

 

男は腕が再生し、斬られた腹の傷も塞がった。

 

 

「今度はこっちから行くよ」

 

 

『血鬼術 粉凍《こなごお》り』

 

 

男は鉄扇を広げ、無造作に振るう。

 

 

「気をつけて!ソイツは扇から霧状の氷を撒き散らすわ!吸ったら肺胞が壊死して…ゴホッゴホッ!」

 

 

「!? カナエさん!」

 

 

一刀はその場から飛び退き、カナエの下まで下がる。そして自分の隊服の上着をカナエに渡す。

 

 

「これを口に当てて下さい。多少はマシになるはずです」

 

 

「でも…、貴方が…」

 

 

カナエは一刀の心配をする。

 

 

「大丈夫です。必ず『生きて帰って来ます』」

 

 

一刀はカナエと約束すると、男の前に立った。

 

 

「君、中々カッコいいね。僕は童磨《どうま》って言うんだ。十二鬼月の『上弦の弐』。君の名前は?」

 

 

「俺は鬼殺隊、階級・癸、北郷一刀」

 

 

童磨と一刀は互いに自己紹介をする。

 

 

「北郷一刀…か、良い名前だね!決めた、君も僕が救ってあげよう!」

 

 

「要らぬお節介だ!」

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉《しっこくがらす》』

 

 

一刀は刀を十字に振るう。すると童磨の体に"十字の傷"が付いた。

 

 

「凄い!離れているのに僕に傷を付けるなんて!それじゃいくよ!」

 

 

『血鬼術 冬ざれ氷柱』

 

 

童磨は傷を再生させながら一刀の頭上に大量の氷柱を作り出す。

 

 

「甘い!」

 

 

『全集中 空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞《はくちょうのまい》』

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲《あらわし》』

 

 

一刀は落ちてくる氷柱を器用に避け、当たりそうな氷柱だけ砕いた。

 

 

「粘るねぇ~。なら、これはどうかな?」

 

 

『血鬼術 蔓蓮華《つるれんげ》』

 

 

童磨は鉄扇から氷の蓮華を作り出し、一刀に向かわせる。

 

 

『全集中 空の呼吸 弐ノ型 鷹爪』

 

 

しかし一刀は鷹爪で迎撃する。

 

 

「一刀! 夜明けまで後少しだ! 気張れ!」

 

 

イーグルからの情報で一刀は気を引き締める。

 

 

『血鬼術 散り蓮華』

 

 

童磨は一刀を追い詰めるように氷の蓮華の花弁を撒き散らす。しかし一刀は白鳥ノ舞で避ける。

 

 

すると地平線から朝日が昇って来た。

 

 

「時間切れか。今日はここまでだね、楽しかったよ!鳴女《なきめ》殿!」

 

 

ベベンッ

 

 

琵琶の音がしたと思うと、童磨の足下に障子が現れ、勝手に開いた。そして童磨はその障子の向こうへ消えた。

 

 

「逃げた…か…」ガクッ

 

 

「!? 一刀君!」

 

 

倒れそうになった一刀をカナエが慌てて抱き止めた。

 

 

「スウ…スウ…スウ…」

 

 

「ありがとう。こんなになるまで私を守ってくれて…」

 

 

寝ている一刀をカナエは優しく抱き締めた。

 

 

「姉さん!」

 

 

そこにしのぶが到着する。

 

 

「しのぶ、ここよ。私は肺をやられたけど大丈夫。一刀君も怪我を負っているけど無事よ」

 

 

カナエはしのぶに状況を説明した。

 

 

「良かった…。二人とも無事で…」

 

 

しのぶは安心したのか、その場にへたり込んだ。

 

 

「でも、私はこれ以上の鬼殺は無理ね。肺胞が壊死しているから常中はもちろん、全集中の呼吸も使えなくなったもの。柱も引退ね」

 

 

カナエはこれ以上の鬼殺は無理と言い、柱も引退することをしのぶに伝えた。

 

 

「しのぶ、これからは貴女が柱として頑張りなさい」

 

 

カナエはしのぶに柱になることを薦めた。

 

 

「本当は貴女には鬼殺隊を辞めて家庭を持って欲しかったけどね~」

 

 

「姉さん、こんな時にふざけた事言わないで」

 

 

「あら~、私は本気なんだけとな~」

 

 

「姉さん!」

 

 

カナエとしのぶの二人は隠が来るまで言い争っていた。

 

 

「(頼むから…、少し…、寝かせて…、くれ…)」

 

 

その二人の様子を一刀は聞いていた。実は倒れた後、二人の声が煩くて目覚めてしまったのだった。

 

 

その後、緊急柱合会議が開かれ、カナエの柱引退、並びにしのぶの柱就任が行われた。しのぶは『蟲柱』の称号を与えられ、より一層悪鬼滅殺を誓った。

 

 

 


 
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