No.1085827

恋姫英雄譚 鎮魂の修羅41

Seigouさん

気鬱の修羅 弐

2022-02-26 19:09:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1333   閲覧ユーザー数:1143

星「どうした、鶸、動きに切れがないぞ!!」

 

鶸「うわっ!!! 」

 

龍牙が鶸の槍を弾き飛ばす

 

手がビリビリと痺れ、獲物を落としそうになる

 

星「幽州での稽古では、こんなものではなかったぞ!!?」

 

鶸「もう星さん、少しは加減してくださいよ!こんな戦いで本気なんか出せっこないじゃないですか!」

 

星「何を言う、帝の命が掛かっているのだぞ、そんな腑抜けた根性では帝を救うことなど夢のまた夢ぞ!!!」

 

鶸「くうっぅ!!!・・・・・分かりました、気合を入れていきます!!!」

 

星「そうでなくてはな♪」

 

 

 

 

 

 

 

蒼「それそれそれーーーーーー!!」

 

菖蒲「どうしました、腰が入っていませんよ!!!」

 

蒼「きゃああああ!!!」

 

鬼斬に槍を挟み込まれ、投げ飛ばされた蒼は地面に青天に倒れ伏す

 

蒼「いたたた・・・・・菖蒲さん、なんだか本気っぽくない?」

 

菖蒲「私は一刀様に生き残ると約束しましたから・・・・・蒼さんこそ、戦場でそのような気の抜けたことを言っていると、死に繋がりますよ」

 

蒼「・・・・・そうだよね、ありがとう菖蒲さん、目が覚めたよ」

 

菖蒲「では、もう一度」

 

蒼「はい・・・・・そりゃあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翠「くっ、鶸と蒼の言っていた通りか!!」

 

蒲公英「なんて素早い人なの!!?」

 

縮地で翠と蒲公英の槍をかいくぐる

 

掠りもしない一刀の動きに二人は翻弄されていた

 

一刀「取り合えず、これでいいんだよな・・・・・」

 

翠「おい、さっきから回避の一手じゃないか、その気になればいくらでも攻撃に転じることが出来るだろ!!」

 

蒲公英「うん、少しは攻撃してきてくれた方が蒲公英達もやり易いんだけど・・・・・」

 

一刀「馬鹿馬鹿しい、こんな茶番でマジになる方がどうかしている・・・・・」

 

蒲公英「・・・・・御遣いさんって、鶸ちゃんと蒼ちゃんの言っていた通りの人だね」

 

翠「ああ、あんたがどれだけ太平の為に、漢王朝の為に行動していたか、それがよく分かったよ・・・・・だけどな、そこを敢えて曲げちゃくれないか?」

 

蒲公英「うん、筋を通してくれるのは嬉しいけど、それだと蒲公英達が惨めになっちゃうよ・・・・・」

 

一刀「何が惨めだ、皆そんなんだからいつまで経ってもこの世は良くならないんだ・・・・・どうして皆、戦争をする理由を自ら作り出していることに気が付かないんだ、それで結果的に何もかもを無くすことにしかならないんだぞ、失ったものは元には戻らないんだ、失ってから気付くんじゃ何もかもが手遅れなんだぞ、なんでそれが分からないんだ・・・・・」

 

翠「・・・・・あんたの気持ちは痛いほどよく分かった、けどな・・・・・ふっ!!!」

 

一刀「っ!!??」

 

十文字槍、銀閃が一直線に向かってくる

 

それを縮地で紙一重で避けるも、戦闘装束の横腹部分が切れた

 

蒲公英「ちょっ、お姉様!!?」

 

今のは、明らかに殺意ある一撃であった

 

何もしなければ確実に串刺しであったため蒲公英も仰天した

 

翠「何でだろうな、今のあんたを見ているとむしゃくしゃしてくるんだ・・・・・」

 

一刀「おいっ!!どういうつもりだ!!?」

 

翠「あたしは頭がいい方じゃない、むしろ戦うことしか能のない馬鹿だという自覚はある・・・・・だからさ、細かい理屈は抜きにして、あんたの本気を見せちゃくれないか?」

 

蒲公英「・・・・・御遣い様、真剣になった方がいいよ、こうなったお姉様は言っても聞かないから」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

どうしてどいつもこいつも、こうも分からず屋なのか

 

これでは仮に王朝を復興させたとしても、その後も前途多難な状況が続きそうだ

 

人々の意識改革は、百年単位の大事業となるであろう

 

それを洗脳だという人間もいるだろうが、それを言い出したら教育や意識改革等は全て洗脳の部類であろうに

 

自分がこれまで受けてきた現代日本の教育も、教育という名の洗脳

 

かつてのGHQがもたらしたデモクラシーという名の教育改革も、ただの集団洗脳

 

ということは、この世のあらゆる主義主張は、全て洗脳ということになる

 

それなら人間は一切合切何もしない方がいい、教育や意識改革などというものはこの世には存在しないのだから、という結論に達しよう

 

一刀「(・・・・・ふざけるな!)」

 

今まで自分が受けてきた教育、今自分がやろうとしていることが全て洗脳?

 

そのようなもの認めるわけにはいかない

 

とこしえに渡る平和を作ることが洗脳だなんて、誰にも言わせない

 

でなければ、人類の歴史は今後永久に同じことを繰り返すだけの、醜い歴史となり果てる

 

それが人の歴史の悪い部分だというのであれば、悪い部分は是正しなければならないのだ

 

一刀「分かった、そこまで言うなら付き合ってやる」

 

翠「すまないな、恩人であるあんたにこんな仕打ちをしてしまって」

 

蒲公英「叔母様を治してもらっといてなんだけど、このお礼はいつか必ずするから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傾「そらそらどうした、余を捕虜にするのではなかったのか!!?」

 

沙和「きゃあああ!!??」

 

真桜「うおわっ!!?なんやこれ、話とちゃうで!!」

 

凪「くっ、なんて鋭く速い攻撃だ!!?」

 

鞭が織りなす連続攻撃に、三羽鳥は思いもよらない苦戦を強いられていた

 

その結界のような鞭の幕に、懐に飛び込む事すらできない

 

秋蘭「・・・・・姉者、何進の鞭が見えるか?」

 

春蘭「あれくらいなら見えるが、確かに速いな」

 

彩香「これは、とんでもない計算違いですね・・・・・」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

この過程に、華琳も驚きを隠せなかった

 

凪「くぅっ!・・・・・はあああああああああ、猛虎襲撃!!!」

 

懐に潜り込めないなら、外側からの氣弾で一気に沈める

 

生け捕りにせよとの命令だったが、無傷でとは聞いていない

 

怪我をさせたとて、生きていれば問題無いとし、全力で見舞う

 

傾「ふんっ!!」

 

凪「なっ!!??」

 

しかし、その氣弾は鞭によってあっさりかき消される

 

傾「なんだ、一人でも十分と言っていたが、さっそく前言撤回か、曹操よ♪」

 

華琳「っ!!楽進、于禁、李典、何をぐずぐずしているの!!?」

 

凪「も、申し訳ありません、曹操様!!」

 

沙和「でも、この人話に聞いていたよりずっと強いの~!」

 

真桜「せや、ウチ等三人だけじゃあかんかもしれへんで!」

 

桂花「言い訳は聞かないわよ、曹操様のお顔を汚すことは許されないわよ!!」

 

凪「っ!!沙和、真桜、あれをやるぞ!!」

 

沙和「分かったなのーー!!」

 

真桜「了解や・・・・・必殺、噴射暴風攻撃、いっくでーーーーー!!!!!」

 

螺旋槍が猛り、二刀が煌めき、氣が踊り狂う

 

三羽鳥の連携技が襲い掛かる

 

傾「甘いわ!!!」

 

真桜「なっ、もっと速くな・・・・・ぎゃっ!!!??」

 

小手に鞭が当たり、螺旋槍を落としてしまった

 

沙和「痛いなのおおおおおお!!!」

 

こちらは太ももに鞭が当たり、余りの痛さに蹲ってしまった

 

凪「沙和、真桜!!?くそっ!!!!!」

 

連携技をいともあっさり崩され、無防備となった真桜と沙和を凪が庇う

 

傾「未熟者共が!!!」

 

凪「ぐっ、ぐああああああ!!!!」

 

鞭の結界に凪が晒される

 

全身に氣を纏い、防御に転ずるも

 

沙和「な、凪ちゃん!!??」

 

真桜「あかん、止めいな凪!!」

 

凪「ぐうううううううう!!!」

 

隼の様な鋭い鞭のしなりは、氣の幕を次々と突破していく

 

かつて、一刀の五斗米道で重傷を治してもらった反動で昔の古傷も奇麗に消えた凪の肌に、再び傷が刻まれていく

 

しかし、二人を庇うことを止めない、その場を決して動かなかった

 

彩香「これはいけません、華琳!!」

 

華琳「分かっているわ、彩香、秋蘭、三人を援護しなさい!!」

 

彩香「はいっ!!」

 

秋蘭「はっ!!」

 

そして、二人の弓から傾に向かって正確に矢が放たれる

 

傾「舐めるな!!!」

 

秋蘭「なっ!!?」

 

彩香「なんですって!!?」

 

その矢も鞭の結界に阻まれる

 

凪「う、が、ぐうああああああああ!!!!!」

 

沙和「凪ちゃん、もう止めてなの!!!」

 

真桜「あかん、このままじゃ死んでまうで!!!」

 

全身傷だらけとなりながらも、二人を庇い続ける

 

春蘭「うおりゃああああああああああ!!!」

 

傾「ぬっ!!?」

 

剣閃により鞭の先端が切り落とされ、鞭の結界が止む

 

季衣「凪ちゃん、大丈夫!!?」

 

流琉「ひ、酷いです、これは・・・・・」

 

全身の所々の皮膚が剥がれ落ち、流血が止まらない

 

立っているだけでも奇跡といえる有様である

 

華琳「于禁、李典!!楽進を下げなさい!!」

 

沙和「凪ちゃん、しっかりするなのー!!!」

 

真桜「こん馬鹿、無茶しよってからに!!!」

 

凪「う、ぐ・・・・・うぅううぅぅぅ・・・・・」

 

そして、虫の息状態の凪に肩を貸し、三羽鳥は後方へと下がるのだった

 

傾「ふんっ・・・・・やはり、前言は撤回せざるを得んようだな♪」

 

華琳「そのようね・・・・・どうやら私は、大将軍の力量を見誤っていたようね・・・・・」

 

季衣「春蘭様、僕達も戦います」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

流琉「はい、凪さんをあんなにされて、黙ってなんていられません」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

春蘭「いいや駄目だ、お前達も下がれ」

 

流琉「そんな、春蘭様!!?」

 

季衣「僕達だって戦えますよ!!」

 

春蘭「いいから下がれ、お前達がいては足手まといだ」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

季衣「う・・・・・」

 

流琉「わ、分かりました・・・・・」

 

有無を言わせぬ春蘭の気迫に、二人は素直に従うしかなかった

 

それほどまでに目の前の大将軍は難敵ということである

 

春蘭「確かに速い鞭だ、これならあの三人が食われるのも頷けるというものだ」

 

傾「当たり前だ、余の鞭を掻い潜ることは、あの一刀でも出来なかったのだからな♪」

 

季衣「う、うそ・・・・・」

 

流琉「に、兄様も駄目だったなんて・・・・・」

 

それでは、あの三人では敵うはずもない

 

自分達が入ったところで、春蘭の足を引っ張るだけであろうことは簡単に想像が付く

 

春蘭「なるほど・・・・・だが、貴様の鞭は見切させてもらった、私に同じことが通じると思うなよ」

 

七星餓狼を構え、大将軍と向かい合うが

 

傾「はっ、曹操の懐刀もこの程度とは笑わせる♪」

 

春蘭「なにぃっ!!?」

 

傾「さきのが余の全力だとでも思ったか?・・・・・読みが甘かったな、まだ半分の力も出してなどおらんわ!!」

 

華琳「なんですって!!?」

 

傾「教えてやろう、大将軍が何たるかを!!」

 

春蘭「面白い、では見せてもらおうではないか、北郷でも見切れなかったというその腕とやらを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃香「先生、もう止めてください!!!」

 

風鈴「甘えるのもいい加減にしなさい、劉玄徳!!!」

 

混戦の中、師弟二人が舌戦を繰り広げていた

 

一喜一憂とはまさにこの事、せっかく一刀が主人になってくれるかもしれない時に、続け様にやって来た不幸

 

未来の幸福に、目の前の不条理が重なり、桃香の頭の中は滅茶滅茶だった

 

風鈴「あなたの理想とやらはその程度なの!!?師も殺せない者が世直しとは聞いて呆れるわね!!」

 

桃香「先生を殺すなんて出来ません!!そんなこと、私の理想じゃありません!!」

 

風鈴「何を甘いことを、師の屍も越えられなくて、何が理想ですか!!?」

 

桃香「先生を殺してまで作りたい理想なんてありません!!」

 

風鈴「・・・・・どうやら、私の見込み違いだったようね」

 

桃香「先生?・・・・・」

 

風鈴「劉玄徳、あなたはこの大陸を収める器を持ち合わせてなどいない、あなたは辺境の村娘のままでいた方が遥かに幸せでした」

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

愛紗「言わせておけば・・・・・どうしてあなたは、桃香様の気持ちが分からないのですか!!?」

 

鈴々「そうなのだ、先生の事を心配するのが、そんなに駄目な事なのか!!?」

 

風鈴「このような状況で何を言うのです、今の私達は敵味方と別れているのですよ、そこには立場の違いしかありません!!!」

 

楼杏「もはや問答無用です、いつまでもそのような腑抜けた物言いをしているなら、貴方達の主の首、貰い受けます!!」

 

愛紗「そのようなこと、させるかああああああああああ!!!」

 

鈴々「お姉ちゃんは討たせないのだああああああああ!!!」

 

雛里「はわわ、愛紗さん、鈴々さん、なんとか止めてください」

 

桃香「・・・・・どうすれば・・・・・どうすればいいの・・・・・分からない、分からないよ・・・・・」

 

朱里「・・・・・桃香様」

 

恩師と盟友が殺し合う様を見ながら、桃香はこれまでの自分が歩んできた道を疑問に思いつつ、これから先の未来が思い描けなくなってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎蓮「・・・・・・・・・・」

 

葵「・・・・・・・・・・」

 

そろそろ始める、俺が殺る、と言っておきながらこの二人は暫くお互い動かなかった

 

既に炎蓮は南海覇王を抜き、葵は戦皇刀姫を肩に担ぎ、お互いにいつ仕掛けるか牽制し合っている

 

かと思いきや

 

葵「・・・・・なぁ炎蓮よ、あの御遣いの事どう思う?」

 

炎蓮「どうと言われてもな、てめぇの思惑なんざ知るか」

 

その目線は、隣で翠と蒲公英とやりあっている一刀に向けられていた

 

葵「いんや、単純な話だ・・・・・あいつはなんで腰に獲物をぶら下げてるってのに、それを使わないんだ?」

 

炎蓮「なんだ、知らねぇのか・・・・・あいつは素手で誰も殺さず今までやって来た、んでもってこれからもそうしていくんだろうよ」

 

葵「それがどういうことか、分からない孫文台じゃあるまいよ」

 

炎蓮「まぁな、いくら実力差があろうが、んな曲芸いつまでも続くはずがねぇぜ」

 

葵「だな、相手と同じかそれ以上の武器を用意する、兵法の基本だからな」

 

ここに至るまでの歴史でも、多くの英雄達が人々の心に残る戦記や伝説を作り上げてきた

 

様々な武具を駆使し多くの屍を乗り越え、時代を切り開いていったのだ

 

しかし逆に言えば、それらの英雄達は武器無しでは何も出来なったと言える

 

武器を持つということは武力を持つということであり、武力を持つということは、即ち武器を手に取るということである

 

だからこそ、過去の英雄達は戦記や伝説という英雄譚を生み出すことが出来たのだ

 

葵「だが、あいつは何だ?・・・・・あいつは常に裸で戦っているに等しい、まるで俺達に何かを訴え掛けるかのように」

 

炎蓮「その通りだ、あいつはな英雄なんざこの世にはいない、いるのは頭のイカレタ殺戮者だけだと本気で思っていやがる・・・・・だから己もそうならないよう常に力を抑えていやがんだよ、人にんな説法説く以上、己が人殺しじゃ説得力皆無だからな」

 

葵「俺達は只の殺戮者か・・・・・言い得て妙だな」

 

炎蓮「ああ、俺も否定しねぇ、英雄と殺戮者の違いなんぞ無いと断言してもいいぜ」

 

葵「そいつは危険な物言いじゃないのか?」

 

炎蓮「ああ、ある面ではな・・・・・だが俺はそんなあいつが嫌いになれねぇんだよ、むしろ好きと言える、だからあいつには孫呉に婿に来てもらう予定だ、取るんじゃねぇぞ♪」

 

葵「・・・・・なんだか、無性に負けられない気持ちになって来たな」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

炎蓮「お、本性表しやがったな、やっぱりてめぇもあいつにゃ世話になったようだな♪」

 

葵「想像に任せる・・・・・いくぞっ!!!」

 

炎蓮「来やがれ死に損ないがあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「どりゃあああああああああああ!!!」

 

雅「はあああああああああああああ!!!」

 

巴「せやああああああああああああ!!!」

 

飛龍、金剛と朱雀の闘い

 

不思議なことに、二対一のはずのこの闘いは拮抗していた

 

霞「くぅっ、やるやないかい!」

 

雅「我らを相手に一人でここまでやるとは、驚きだ!」

 

巴「私も、伊達に修羅場は潜っていませんから」

 

二振りの三尖刀で、金剛爆斧と飛龍偃月刀をいなし、受け流す

 

霞と雅の武が剛なら、巴の武は完全な柔である

 

真正面から受けることはせず、相手の勢いを殺し利用する

 

朱雀は、東西南北を守護する四神の一つ、南を守護する炎の化身である

 

その体に実体はなく、あらゆる攻撃はその体をすり抜けるか、届く前に燃え尽きる

 

この様なスタイルの武芸と、持ち前の燃える様な紅の髪も相まって、朱雀公と周りから呼ばれるに至っている

 

霞「こないにやり難い相手は初めてやで・・・・・」

 

雅「ああ、この様な手応えはこれまで感じたことは無い・・・・・」

 

巴「私も、こんなにも重い攻撃を受けるのは久しぶりです、受け流すのも骨が折れます・・・・・」

 

霞「せやけど、あんたまだ本気出しとらんやろ」

 

雅「そうだな、お主からは余力を感じられる、出し惜しみか?」

 

巴「そう思いますか?だとしたらそうなのでしょうね・・・・・」

 

霞「なんつーか、掴み所がないな・・・・・」

 

雅「北郷ともまた違うやり辛い相手だ・・・・・」

 

巴「私に一刀と同じ評価をしてくださるのですか、それは身に余る光栄ですね」

 

霞「なんや、あんた一刀と知り合いなんか?」

 

巴「ええ、彼には真名を預けている身です」

 

雅「そうか、ならば我らも・・・・・と、言いたい所ではあるが・・・・・」

 

巴「そうですね、今はそのような身内びいきの様な事をしている状況ではありません」

 

霞「あんたとは、仲ようなれる気がするんやけどな・・・・・」

 

雅「そのような未来、来るのであろうかな?」

 

巴「では、その未来を目指して、お互いに精一杯戦いましょうか」

 

どうにも矛盾した物言いであるが、それと同時に歯車が噛み合うような感覚を覚える

 

やはり敵味方を分けているのは善悪ではなく、立場の違いからくる相互関係と言えよう

 

こんな一歩間違えれば命を落としかねない方法など、一刀は蛮行という一言で切って捨てるであろうが、それを言ってしまえば拳から芽生える友情もこの世には有るまい

 

そんな危険な過程を経ずとも仲良くなれるだろうと思えるであろうが、武人というのは、そんな七面倒臭く、不器用な生き物なのだ

 

霞「せやな・・・・・そんじゃ、第二回戦といくか!」

 

雅「お主の底、見極めさせてもらおう!」

 

巴「全力で、お相手仕ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楼杏「くぅぅ、強いわね貴方達・・・・・」

 

愛紗「当たり前だ、我は関羽!劉玄徳の第一の妹にして、姉を守る剣である!」

 

鈴々「我が名は張飛、燕人張飛!ここを通りたければ、鈴々を倒していくのだ!」

 

雛里「皆さん、敵の兵士を押し返して皇甫嵩さんを孤立させてください、一騎打ちに持ち込めれば私達の勝ちです」

 

大混戦から少しずつではあるが、劉備軍に有利な形が出来上がりつつあった

 

このままいけば、愛紗と鈴々が楼杏を倒し、風鈴を捕らえることが出来るであろう

 

しかし

 

桃香「・・・・・誰か、誰か教えて・・・・・どうすればいいの、一刀さん・・・・・ご主人様ぁ・・・・・」

 

当の桃香が、目の前の現実を受け止め切れずにいた

 

朱里「桃香様・・・・・いいえ、玄徳様、失礼します!!!」

 

桃香「っ!!!???・・・・・朱里、ちゃん?・・・・・」

 

頬に痛烈な痛みが走り、我に返る

 

どうやら、朱里が桃香に平手打ちをかましたようだ

 

朱里「しっかりしてください、いつまであの人に頼るつもりですか!!?」

 

桃香「だって、私・・・・・どうしたらいいか・・・・・」

 

朱里「これでは盧植さんが言っていた通りです、劉玄徳は、この大陸を収める器ではない、貴方は何も知らない村娘のままでいた方が良かったです!!」

 

桃香「それじゃあ・・・・・私はどうしたらいいの、どうしたら・・・・・」

 

朱里「簡単なことです、一言、私達に命じて下さればよいのです、盧植子幹を捕らえよと、さすれば私達は、どのような手段を用いても貴方様の命令を達成して見せましょう」

 

確かに、今の桃香は大陸を収める器ではない、恩師からも身内からも酷評を貰ってしまうのも致し方ない

 

しかし、それでも朱里達は桃香に大望を見出したのである

 

今は駄目でも、成長した桃香はきっとあの曹操や孫堅にも負けない器となりうる

 

実際、桃香がその領域に達するのは、十年も後の話なのだ

 

朱里も雛里も、そういった長い目でもって、桃香に仕えることを決めたのである

 

朱里「天下を取れと命じられれば、天下を取って見せましょう・・・・・しかし今は、目の前の問題を解決しなければなりません」

 

桃香「・・・・・うん、そうだね・・・・・ありがとう、朱里ちゃん」

 

朱里「はい・・・・・先ほどは、臣下にあるまじきことをしました、いかようにもご処罰ください」

 

桃香「ううん、私って駄目駄目だね、これじゃあお姉ちゃんなんて名乗れないよ・・・・・それじゃあ、私のお願い、聞いてくれる?」

 

朱里「お願いだなんて、桃香様は只命じて下さればよいのです」

 

桃香「分かったよ・・・・・先生を捕まえて、諸葛亮ちゃん!」

 

朱里「はい♪・・・・・雛里ちゃん、盧植さんを捕まえて!!」

 

雛里「うん、分かったよ・・・・・愛紗さん、鈴々さん」

 

愛紗「聞こえたぞ、いくぞ鈴々!!!」

 

鈴々「合点なのだ!!!」

 

楼杏「まずい!!全部隊に告ぐ、一命に賭して軍師を守りなさい、盧子幹を捕らえられること、まかりならず!!!」

 

そして、大混戦は、更なる混沌渦巻く大混戦へと発展していくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傾「そらああああああああああああああ!!!!!」

 

春蘭「ぬ、うおっっっとぉ!!!??」

 

蛇の様に不規則にしなる鞭の動きに、春蘭は翻弄されていた

 

盲夏侯を卒業し、両眼になった見切りをもってしても、躱すだけで精一杯であった

 

季衣「うそ、もっと速くなってない?・・・・・」

 

流琉「うん、そう見える、もう目で追うことも出来なくなってきたよ・・・・・」

 

華琳「なるほど、一刀でも掻い潜れなかったというあの言葉、嘘ではなさそうね」

 

一刀によって臓器の体調が整い、活性化された時から傾は変わった

 

洛陽から一刀が去って一か月の間、常に鍛錬に勤しみ鞭の腕を飛躍的に向上させたのだ

 

身体能力も総合的に強化され、タプタプだっただらしない体は引き締まり、かつて肉屋で働いていた時かそれ以上のプロポーションを取り戻していた

 

その中でも驚異的な伸びを見せたのが、スタミナである

 

鞭の結界を張る時間が数十倍に跳ね上がり、三羽鳥と春蘭を続け様に相手にしても息を乱していなかった

 

これは瑞姫のお陰とも言える、瑞姫に十常侍抹殺計画立案を一任したからこそ、ここまでの伸びを見せたのだ

 

この鍛錬があったからこそ、十常侍の先手から身を守ることが出来たと言えよう

 

因みに、相乗効果と言えるのか、この傾の血反吐を吐くかのような鍛錬を見て官軍も大将軍に習い自ら訓練をするようになった

 

今の官軍の練度は、曹操軍には劣るであろうが、劉備軍と同列と見ていいだろう

 

一刀からすれば、そんなことの為に氣を使ったのではないが、こうなってしまったからには一刻も早くこの茶番に終止符を打つのみである

 

春蘭「確かに速い、これなら北郷も手古摺るであろうな!」

 

傾「ふん、余の鞭を短くしたのは失敗であったな、お蔭で扱い易くなったわ!!!」

 

元々5メートルはあった鞭が、春蘭によって切り落とされ3メートル程に短くなった

 

リーチが短くなったが、その分速く、小回りが利くようになった

 

そのため、全力の速度が更に速くなる

 

春蘭「ならば、悉く切り落として無くしてくれる!!」

 

傾「甘いわ!!!」

 

春蘭「ぬっ、ぐっっっ!!!」

 

鞭の軌道を見切り、切り落とそうとしたが、途端に軌道が変化し剣を避ける様にして春蘭の足に叩き込まれた

 

焼け着く様な痛みに、春蘭は後退を余儀なくされる

 

秋蘭「まさか、あの姉者がここまで苦戦するか・・・・・」

 

彩香「これは、予想を上回ってきましたね、華琳・・・・・」

 

華琳「ええ・・・・・これは認めるしかないわね、私の目の節穴を・・・・・」

 

桂花「・・・・・・・・・・」

 

この過程に、華琳を含め桂花も開いた口が塞がらなかった

 

大将軍がたった一人で曹操軍の前に立ったのは、無謀でも自意識過剰でもなく、実力に裏付けされた自信だったのだ

 

春蘭「くぅっ!!まだ速くなるか!!?」

 

傾「どうしたどうした、曹孟徳が一の家臣の実力はこんなものか!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待て、下巻


 
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