No.1042434

紫閃の軌跡

kelvinさん

外伝~重心と剣の奪還~

2020-10-03 07:16:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1994   閲覧ユーザー数:1722

~エレボニア帝国 サザーラント州 エリンの里~

 

 キーアとレンの助け、そしてアスベルの持つ力によって大幅な解析時間の短縮に成功した。急ぎたい気持ちもあるが、敵側の一大拠点に突入することも含めて里での準備時間を取ることにした。

 その準備時間でサングラール迷宮にてしごかれる羽目となった新Ⅶ組……彼らとリィンが再会した時、どんな反応を示すのか少しばかり興味がある。

 

 <黒の工房>があるのはグレイボーン連峰の地下1000アージュ。かなり大深度の地下に拠点を構え、移動方法は転位術のみという徹底ぶり。元々1200年前の時点で高度な技術を持っている一旦はリベールに出現した空中都市で知っているため、左程驚きはしなかった。

 ローゼリアの説明では、リィンの騎神であるヴァリマールと霊的なリンクを持つユウナ達の機甲兵を“道標”として“精霊の道”を開く。里の人たちも協力してくれるとのことだが、この世界には本来存在しえない騎神―――アクエリオス、シルヴァーレ、ヴェスペリオンの持つ動力供給で繋がりをブーストする形。

 ここまで整った状況だが、残るは新旧Ⅶ組のリィンに対する想いがこの大転位術の成否を左右する。とはいえ、そんな決意は彼らにとって野暮というほかない。今回は新旧Ⅶ組に加えてアスベル、シルフィア、レイア……更にはこの二人も同行する形となった。

 

「ふふ……ここまで想われているリィン君は果報者ですね」

「そうだな。ある意味エステル達といい勝負かもしれないな」

 

 レーヴェとカリン・アストレイ・ブライト―――実力に関しては一線級の彼らが同行する運びとなった。大転位術で霊脈に干渉し、2つの門を掴んでヴァリマールとのパスを接続した段階で流れ込んでくるイメージ。

 それは、リィンが鬼の力を発動させて枷を外し、セリーヌの言葉には耳を貸さずに歩いていく映像。それは転位陣の中にいる全員が情報として共有した。

 

「2つの『門』を掴んだ! 手勢を二つに分けるか!?」

「―――お願いする!」

 

 編成は、新Ⅶ組は男性陣と女性陣で分け、男性陣にはアスベル、レーヴェとサラがフォローに入り、女性陣にはシルフィアとレイア、カリンがフォローに入る形で大転位術を発動。“精霊の道”で一路<黒の工房>を目指す。

 工房内には防衛システムとして人形兵器が立ち塞がってくるが、本気のローゼリアと互角に戦えるだけの実力を持つ新旧Ⅶ組からすれば“準備運動”のレベルにほかならず、フォロー役である面々は苦笑を滲ませていた。

 

「あはは……」

「この分では当分出番もないかもしれないが……まあ、いいだろう」

「変に力を消耗するよりはマシでしょうし、本番は彼を取り戻してからでしょう」

 

 そして、男性陣はジョルジュ・ノーム―――銅のゲオルグと、女性陣はアンゼリカ・ログナー―――紅(あか)のロスヴァイセと相対する。フォロー役の実力も考えて人形兵器も数体配置されている。しかも、次々と増援の兵器も来ている始末だ。

 更に、何かに飲み込まれかけているリィン……一刻の猶予もないと判断し、新Ⅶ組を先行させる形となった。そして、更にレーヴェはアスベルに声を掛けた。

 

「アスベル。彼らだけでも問題はないだろうが、もしもの時の対処が出来るお前が一番の適任者だ。ここは俺とバレスタインで抑えて見せよう」

「アンタが言うとなまじ誇張にも聞こえないわね……頼むわよ、アスベル」

「……分かった。ここは任せた」

 

 先に向かったクルトやアッシュを追いかける形で向かったアスベル。新Ⅶ組は無事に合流できたようで、アルティナは<黒の工房>での記憶がやや朧気ながらも思い出していたようだ。

 

「アスベルさんも来たのですか」

「送り出される形となったのは否定しないがな。というか、アイツらが本気を出したら<黒の工房>の兵器が全滅すると思うんだが……敵さんは本気で分かってるのかね」

「あー……」

「否定できる材料がねえというのは同感だな」

 

 アスベルの言葉にユウナはどこか遠い目をし、アッシュも同意するように述べた。いくら最先端の技術を持つとはいえ、それをほぼ無尽蔵に繰り返し続けるのは悪手でしかない。ゲームで言うところの“無限湧き”状態で、普通なら体力が尽きるのでお勧めはしないが。

 

「それはともかくとして、やるべきことをやらなければな」

 

 アスベルらが視線を向けた先には、この場所に来た目的の人物―――リィン・シュバルツァーがいた。だが、明らかに様子がおかしく、ユウナ達の言葉にも耳を貸さないような状況だった。“黄昏”に蝕まれた状態である“贄”―――しかも、“鬼の力”を発動させたことでその拍車が掛かっている状態。

 リィンは力でヴァリマールと剣を支配しようとしたが、それにストップを掛けたのはユウナの叫びであった。

 

「いいかげんにしてください、リィン教官!」

「……ジャヤマヲ、スルノカ?」

 

 リィンはユウナ達に対して敵意を垣間見せているが、今の新Ⅶ組がそれに怯むことはない。

 

「ハッ、あったりまえだろう。どんなヤバい状況かは知らねえが、アンタはそうじゃねえだろ。似合ってねえんだよ、どこまでもな!」

「ですが、それが教官の背負ったものであるならば……どうか、少しずつでも私たちにもその肩代わりをさせてください」

「ヴァンダールの剣は破邪顕正の剣。貴方から教わった全てをこの剣に込めてお返しします!」

「リィン教官、私はやっとここまで来れました。造られただけの私がミリアムさんや教官と出会って、ここにいるみんなや先輩方……私はここで誓います。この昏い地の底からあなたを連れ戻すと。そして、みんなを護るといった“お姉ちゃん”の遺志を継ぐと」

 

 ユウナを皮切りにアッシュ、ミュゼ、クルト、そしてアルティナの言葉を聞きつつ、アスベルはリィンの姿を見ていた。<百日事変>でシルフィアを喪っていたら成っていたかもしれない自分の姿を見ているようだと。ならばこそ、とアスベルは大剣を空間の繋ぎ目に放り込むと、その繋ぎ目に自らの手を入れて一本の太刀を手にした。

 

「アスベルさん、それってリィン教官と同じ…」

「まあ、似たようで違うかもしれんが……今のリィンは、もしかしたら有り得たかもしれない自分のようにも見えてな。それに、世界は違えど俺だってⅦ組の人間だからな。いくぞ、総員戦闘準備!」

 

 本質は“八葉一刀流”の剣士である以上、剣士として刃を交えてみたい……こういえばバトルジャンキーみたく聞こえるかもしれないが、少なくとも自分の父親のレベルほどではない、と思う。

 そうして始まるリィンとの戦闘。普通ならば苦戦する相手かもしれないが、本気のローゼリアと渡り合う新Ⅶ組に加えて彼らを鍛えているアスベルまでいる。“黄昏”の影響を鑑みてアスベルがオーダーを発動させると同時に前に出た。

 

「グウッ……」

「ホント、“黄昏”のおかげか膂力はデタラメだな!」

 

 彼らからすれば普通に剣を交えているだけ。気が付けばリィンとアスベルが一騎打ちの状態になっているのだが、その理由はユウナ達の言葉が如実に示していた。

 

「えっと、辛うじて見えてるけど…あたしたちに手を出せるかな?」

「流石に難しいだろうな」

「アーツなどでフォローは出来ますし、サポートに徹しましょう」

「今のシュバルツァーも強いが、それに一人でついていけてるフォストレイトはヤバすぎんだろ」

「アスベルさんを見ていると、常識が悉く壊れていきますね」

 

 どうやら、アスベル本人も気付かないうちに超高速戦闘へと到達していたようだ。とはいえ、相手の加減が利かない以上はどうにもならないが。そして、リィンは終の太刀を放とうと構えた。ここがターニングポイントなのだろう。

 

「ホロビヨ……!」

 

 リィンの放った終の太刀・黒葉。だが、それをアスベルは完全にいなし切った。それによって生じた一瞬の隙を、アスベルは見逃さずに技を放った。似て異なる“八葉一刀流”の奥義。

 

 

 明鏡止水の一閃、その身に受けよ―――八葉一刀流、五の型・斬月が極式、天神絢爛

 

 

 一瞬の攻防。リィンに対して有効な一撃を与えることで彼を黙らせることに成功した。だが、リィンは己のした罪と後悔で“黄昏”を制御しきれていない。すると、ここで各々のARCUSⅡが光りだした。恐らくだが、ヴァリマールにおける“準起動者”によるものなのだろうが、アスベル自身もその対象に含まれているのは納得しかねるが。

 その繋がりでリィンに対して願えという人間形態のセリーヌの言葉に、願った。そして―――願いは届いた。

 

「……髪は、もう戻らないか。でも、もう大丈夫だ」

「本当か? ちゃんと目を覚ましているか一発叩くか?」

「いや、そこまでは必要ないから……アスベルといったか。事情は視ていたから知っている。本当に済まない」

「リィンが謝る問題じゃないよ。俺がここにいるのは自分の意志で決めたことだ…いくらお前でも助けを呼ぶなんて発想をするより自己犠牲に走るだろうからな。ま、俺よりも彼らが一番感動している形だが」

 

 すると、アルティナが駆け寄ってリィンに抱き着いていた。多かれ少なかれリィンに対して感謝の念はあるのだろう。すると、足止めしていた他のメンバーも合流し、更にはリィンやセリーヌと共闘したクロウ・アームブラストとデュバリィも姿を見せた。

 

「何とか取り戻したかよ」

「全く世話が焼ける……って、<剣帝>!? 貴方は死んだはずではなかったのですか!?」

 

 予想通りの反応に、周囲の殆どのメンバーは苦笑を滲ませていた。確かにこの世界のレーヴェは亡くなり、現在はアスベルの騎神であるアクエリオスの核となっている。そして、その反応はクロウ達と相対していた敵―――執行者No.Ⅰ<劫炎>ことマクバーン、鉄機隊であるアイネスとエンネアも同様であった。

 

「追いついたか。灰の小僧も自我を取り戻したが……成程な。奇妙な縁とはいえ、てめえと会えるとはな<剣帝>」

「<火閻魔人>マクバーンか。生憎とお前を喜ばせる気にはならんが」

「クク、その物言いをされると……こっちも燃えてくるってもんだ」

「あらあら、いつにもなく燃えているわね」

「<劫炎>殿が互角に立ち合える強者は数えるぐらいだから仕方なかろう」

 

 レーヴェとしては別に焚き付けるつもりなどなかったが、マクバーンは目の前にいる彼が別の世界の人物だと勘付いた上で魔剣アングバールを手にした。なお、ゲオルグとロスヴァイセに関しては気絶させて挟み撃ちの危険性を減らしたようだ。

 

 そして、更に3名ほどこの場に姿を見せた。

 <黒の工房>の統括者である黒のアルベリヒ、<鋼の聖女>アリアンロード、そして<鉄血宰相>ギリアス・オズボーン。そのどれもが余裕そうな表情を向けている……すると、アリアンロードがレーヴェに視線を向けた。

 

「おや……成程、不死者として蘇ったわけではないようですね」

「アリアンロードか。少なくとも、この世界における<剣帝>は死んでいる認識で間違いないだろう」

「って、マスターを呼び捨てにするんじゃありませんわ!」

 

 黒のアルベリヒはその依り代がアリサの実父であるフランツ・ラインフォルト。アリアンロードはデュバリィと言葉を交わしつつ、それを聞いたオズボーン宰相はリィンに対して親子の語らいでもしようかという冗談交じりの提案を持ち掛けた。

 

「それも悪くはないと思うが、この場は断らせてもらう。この間にも他の実力者たちが戻ってきている最中なんだろう?」

 

 悠長に話していれば増援で退路を断たれる。リィンらだけなら確かに厳しいだろうが……アスベルは息を吐いてリィンの前に出た。それに続くように、シルフィアはアルベリヒと、レイアはアリアンロードと、レーヴェとカリンがマクバーンと鉄機隊に相対する。

 

「ほう……心なしか、以前会った事のある御仁の面影を感じるな。私の勘だとカシウス・ブライト中将あたりが一番近そうだ」

「かの英雄に似ているとは光栄と思うべきなんでしょうが……リィン、こちらで時間を稼ぐから騎神と剣を“取り戻してこい”」

 

 アスベルは“聖痕”を発動させ、自身を起点として戦闘メンバー全員にブレイブオーダーの効果を上乗せする。その上で外の理の太刀“雪姫桜”を引き抜いて“終末の剣”を持つギリアス・オズボーンと相対する。

 

「どうせ気付かれてるのなら、改めて名乗らせてもらおう。限りなく近く、限りなく遠いゼムリアの来訪者。守護騎士(ドミニオン)第三位“京紫の瞬光”アスベル・フォストレイト・ブライト。いざ、参る」

 

 本来の筋ならリィン達でも苦戦を余儀なくされる相手。だが、過去に神クラスとの戦闘をこなしてきたアスベルらからすれば、この程度の相手であっても本気を出すべくもないレベルに収まっている。

 結果として、敵全員に片膝をつかせることになり、これには応援に来たアガット・クロスナーやオーレリア・ルグィン、ランディ・オルランドにヴィータ・クロチルダも驚きを隠せなかった。

 

「へっ、いいタイミングと言いたいところだが……正直驚きだな」

「フフ、予測はしていたが流石だな」

「リィン、無事みてえだな! てか、アスベルらもいる以上予想はしてたが……」

「あの<鋼>や<魔人>に片膝をつかせるだなんて……あら、<剣帝>とは面白いこともあったものね」

 

 その間にリィンはヴァリマールを取り戻し、剣となってしまったミリアムも奪還した。人の身では限界だと悟ったのか、オズボーン宰相とアリアンロードは各々騎神を召喚した。アルベリヒは魔煌機兵を呼び寄せて戦力のを五分の状態に戻そうと試みている。

 

『中々に楽しめた。いずれ其方の操る騎神とも相見えてみたいものだが』

「……ひとつ言っておきますが、騎神に乗ること自体俺にとっては『手加減』のようなもの。その意味をはき違えたら―――その対価は安くないと知れ」

 

 この場の目的が達せられた以上、これ以上の長居は無用の産物。ヴィータとエマらによる転位術を皮切りに、外界とを繋ぐ門を通過―――丁度明け方で、太陽の光が降り注いでいた。

 


 
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