No.1037675

ヘキサギアSS 最強の名

vivitaさん

アグニレイジ、オールインジアース、レイブレ―ドグライフ。
3体の規格外ヘキサギアの戦いは、アグニレイジの勝利に終わった。
竜王の背で笑うノーチェのもとに、ルシアたちが駆けつける。

人に仇なす者よ震えて眠れ。我こそは人類の守護者、最強の名を冠する者。

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2020-08-07 16:24:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:903   閲覧ユーザー数:903

 アグニレイジが空をとぶ。スラスターをふかせて、変則的な軌道をみせる。

 ジアースからはなたれる、対アグニレイジ用の追加武装。大量のミサイルと長距離砲がアグニレイジを追いつづけていた。

 高空という安全地帯をうしなったアグニレイジは、射撃を避けやすい中空へと降下した。

 ノーチェは防戦一方を強いられた。SANATによって直接操作されたジアースの射撃精度はすさまじく、攻撃をさしかえす隙がない。

 

『武器商人ノーチェ、あなたの勝利はありえません。』

 

「…ビートルもあなたも、語る言葉はつまらない真実ばかり。

AIは遊び心がなくてダメね。人を惑わす夢幻、その魔力を知らない。」

 

『理解はしています。しかし、夢幻の先には何もありません。

ノーチェ、あなたのはたらく外道には何の益もない。

投降し生き方を変えるというのならば、命だけは助けますが…?』

 

 空を切り裂く轟音が響く。アグニレイジをゆうに超える爆発的な速さで、戦場にせまる者がいる。

 ジアースの四つの眼が、巨大な翼をもった4脚獣型の姿をとらえた。

 レイブレード・グライフ。LAの有する最強の規格外ヘキサギア。

 

「熱砂の暴君、あの時の再現というわけだ。記録にあるこの台詞をまたおくろう。

最終ラウンドだ。」

 

 グライフの前脚―プラズマタロンが、ジアースの背部装甲を削りとる。

 ジアースの射撃が止まった。

 自由を得たアグニレイジもまたプラズマタロンを起動し、ジアースを傷つけていく。

 

『あの時の再現?不正確ですね。

たかが2機で、この私―SANATが駆るジアースを落とせると?』

 

 ジアースの大口がひらく。インペリアルロアー、すべてのゾアテックスを機能停止させる音響兵器。

 しかし、そこまでだった。

 駆けつけたLAレイブレードインパルス部隊。ビークルモードへと変形したそれらは、インペリアルロアーの影響をうけずにジアースを切り裂いた。

 

 ジアースの巨躯が揺れる。大きな衝撃をたてて、熱砂の暴君は大地へと崩れ落ちた。

 

「はい、おつかれさま。」

 

 一瞬はやくインペリアルロアーから復帰したアグニレイジが赤く光る。

 インペリアルフレイムがグライフごとレイブレード部隊を焼き尽くし、沈黙させた。

 

 ジアースとグライフ。規格外ヘキサギアたちの骸を、天上からアグニレイジが見下ろす。

 

「…っふふ。あはははははっ。

VFとLA。二大勢力が誇る守護神が、私に頭をたれている。

真実はいま、夢幻のまえに敗れ去った!

 

最強のヘキサギアは、このアグニレイジだッ!!!!」

 

 ジアースの骸の中から、なにかがはいでてきた。

 鶏の騎士コケコ卿、虫混じりの獅子ミルコレオ、ロードインパルス・ロボ、そして小型犬ヘキサギア・シース。

 

「グライフをうしなう…やはり相当な痛手だ。

ジアースとの交換、ほんとうに五分の取引か?VFとの損害比率を考えると、導き出される計算式は…。」

 

「どうでもいいだろ。BMI遠隔操作で人死にはなし。俺としては文句ねぇな。」

 

「気を抜くな、まだ終わっていないのだぞ。トロスは計算をやめろ、ブランカは酒をしまえ。」

 

 ヘキサギアたちのうえで、3人のガバナーが語らう。和やかな雰囲気だった。

 最強のアグニレイジをまえに、気負いも絶望もない。

 すべて、SANATとの計画通りだった。

 

「なっ、ルシア!?どうしてジアースの、SANATの中から!?」

 

「ノーチェ。貴公がワームとの密約を結んだあと、LAとVFは手を組んだのだ。

これまでの戦いは、貴公を…アグニレイジを止めるための狂言にすぎない。」

 

「…そういうこと。

SANATはレイブレードを壊したい、LAはジアースが怖い。

だから互いに、そのすべてを破棄すると約束した。」

 

「その通り。規格外兵装という強すぎる力、軍としてはもてあましていたのでな。

取引はおどろくほど円滑だったぞ。」

 

 ノーチェは苛立ったような表情をみせたが、一瞬だけだった。すぐに余裕をとりもどす。

 

「へえ、それで?あなたたち3人でアグニレイジを攻略すると?

たったいま、2つの規格外ヘキサギアを葬ったこの機体を!」

 

 アグニレイジが動く。はなたれる二連レーザー砲とプラズマキャノン。つづけざまに脚のプラズマトロンがコケコ卿たちを襲った。

 コケコ卿たちは散開すると、立体軌道で難なくそれをかわす。

 

「アグニレイジが、遅くなっている…!?」

 

 アグニレイジをはじめとする規格外ヘキサギアは、その異常な出力ゆえに短時間しか行動できない。

 連戦につぐ連戦。アグニレイジはすでに、活動限界をむかえていたのだった。

 不利をさとったノーチェは、射撃兵装をすべてパージした。残ったエネルギーを一極集中する。

 アグニレイジがスピードをとりもどし、急上昇した。攻撃の届かない高空へと逃げていく。

 

 ミルコレオがグラップルブレードを掌のように広げた。大岩をつかみ、もちあげる。

 グラビティコントローラーをつかって、ロボが器用に岩に乗った。

 投擲された岩が、すさまじい速度でアグニレイジへとむかっていく。

 

「舐めるな!」

 

 アグニレイジのプラズマ防御フィールドが全開した。広がっていくプラズマが、ロボへと襲いかかる。

 しかし、それは美しい賛美歌によって引き裂かれ、霧散した。

 元VFのガバナー、オルフェ。鈴虫型ヘキサギア―アンプァーによって増幅された旋律が、アグニレイジを包み壊していく。

 

「やめなさい、オルフェ!

もうあなたはSANATから見捨てられた。私と戦っても何の意味もない!!」

 

「たしかに私は主を裏切った。愚かな欲のために、SANATに見捨てられた。

だが、いくど道を踏み外してもおなじこと!我が心、我が歌は、まだSANATを讃えている!!」

 

 ロボとブランカが、2振りの大剣を引き抜いた。

 サムライマスターソード、高出力のレーザーと鋭い刀身をあわせもつ名刀。

 

 アグニレイジの翼が折れる。

 速度をうしなったアグニレイジへと、コケコ卿がせまる。2つの光がつばぜりあった。

 からんだ2機の身体を、ルシアとシースが駆けのぼる。剣がノーチェへと突きつけられた。

 

「安らかな死か、囚われの生か。えらべ、魔女ノーチェ。貴様にもそれだけの権利はある。」

 

「…私を止めたければ、殺すしかない。どうぞ騎士様、私をつらぬいて?

あなたにいままで与えた苦しみを想いながら、安らかに眠る。あなたに殺されるなら、満足よ。」

 

「わかった。それが最後の望みならば、かなえよう。」

 

 ルシアが剣をふるおうとしたそのとき、アグニレイジがぐらりと揺れた。

 無理な旋回に、ルシアとノーチェがほうりだされる。

 

『武器商人ノーチェ。1つだけ、訂正をしておきましょう。

あなたは最強はアグニレイジとうたいましたが、それはちがいます。』

 

 SANATの声がひびく。

 いつの間にか、アグニレイジとシースが接続端子によってつながっていた。アグニレイジにほどこされた数多のセキュリティが一瞬で突破され、プログラムが書き換えられる。

 

『それはオールインジアースでも、レイブレードグライフでもない。

この世界で、最強の名に値するものはただ1つ。この私、人工知能SANATだけです。』

 

 展開されたプラズマフィールドは、ノーチェのものとは比べ物にならないほど強力で、緻密だった。

 ルシアをすりぬけて、ノーチェだけを塵にかえす。

 

 竜王アグニレイジはルシアを大地へおろすと、はるか彼方―結晶炉へとむかって飛び去っていった。

 

***

 

 LA基地。

 ルシアの表情は暗かった。塵にかえる瞬間、ノーチェの姿が思いだされる。

 自分にむけて、助けを求めて伸ばされた手。

 

「またか、ルシア。あの魔女のどこに同情する要素がある?」

 

「同情などしていていない。ノーチェ殿は悪辣非道だった、しかたのない最後だったろう。

だが、あの者の悪事は私を傷つけるためにあった。

もし私がいなければ、あそこまで道を踏み外すことはなかったのかもしれない。」

 

「たまたまルシアが狙われただけだろ?もしルシアがいなくても、あいつは悪辣非道だったさ。

それにあいつのことだ、しぶとく生きてるかもしれねえ。暗くなるだけ損だ。」

 

「私のせいで、また罪なき命が危険にさらされるのか…。」

 

 ブランカの言葉を悪くうけて、ルシアがさらに落ちこむ。

 うわ、こいつめんどくせぇ…。ブランカは周囲に助けをもとめたが、兵士たちはみな目をそらした。

 休憩室がどんよりとした空気になる。

 

「だいじょうぶですよ、そのときはまた、みんなで助ければいいじゃないですか。

ルシアさんの剣は、たしかに人を助けてますよ。すくなくとも、僕は助けられました。」

 

 リトルがやさしく言った。自分でつくったらしい茶菓子が、みなにふるまわれる。

 上等そうな菓子に、みな我先へとむらがった。どんよりとした空気が消え、休憩室が一気に騒がしくなる。

 

「いいじゃねえか、ルシア。たしかに俺たち兵士がやっていることはよくわかんねえ。

だが、テメーがこの時間をつくったことは事実だ。難しいことはおいておいて、いまは楽しもうぜ。」

 

 ブランカが酒を片手に菓子へと突撃する。

 ルシアは一呼吸おくと、その輪の中へと入っていった。

 

 

                                     <騎士と魔女 おしまい.>


 
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