No.1027349

取り残された者達……。後編

※注意 同じ文章をPIXIV及び自作ホームページ、暁等でも掲載しています。

どうも、どうも、白石442です。

今回は先週の続き&第2章の第1話のラストとなります。

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2020-04-25 15:04:37 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:775   閲覧ユーザー数:775

<ジャックSide>

海岸線に展開した陸戦ウィッチ隊が、悲惨な状況になっている事を知らない俺……もとい、コマンド部隊の面々は必死の戦闘を繰り広げていた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

『GIIIIIIIIIII!!!』

「撃て!撃て!!撃ちまくれ!!!」

俺が声を張り上げて、ネウロイをクレイモアで切り倒す側では、部下達が一斉に己の銃を撃ちまくりネウロイを打ち倒していく。

その様子を見ながら、俺は手りゅう弾をポーチから取り出しつつ、部下達に次なる指示を飛ばす。

「ジョン、ピート、マイケル!あそこに俺の合図で一緒に手りゅう弾を投げ込むんだ!!」

「「「了解っ!!!」」」

俺の指示を聞き、3人の部下が手りゅう弾を取り出すのを見ながら、俺が手りゅう弾の安全ピンを外すと部下達も同様にピンを外していく。

その様子を見ながら、俺は一回息を吸うと、大声でこう言い放つ。

「行くぞ……1、2、3!!」

そう言って、手りゅう弾を投げる俺に続く様に3人の部下も手りゅう弾を投げ、投げ込まれた手りゅう弾は轟音と共に炸裂する。

『GYAAAAAA!!』

この手りゅう弾による攻撃で隠れていたネウロイが悲鳴の様な金属音を上げて出てきたの見て、俺はクレイモアを手に叫ぶ。

「お前ら、援護しろ!」

「中佐っ!!」

そう言って部下が言葉を言うよりも先に走り出した俺を目掛け、イぶりだされたネウロイがビームを次々と撃ってくる中、俺はそのビームを回避しつつ、一気にネウロイに接近していく。

同時に俺の部下達は一斉に俺を狙うネウロイに向け、リー・エンフィールドライフルやステン短機関銃、ブレンガン、トンプソンサブマシンガン等を撃ちまくる。

「うおおっ!!」

『!?』

それらの銃の銃声をバックに一気にネウロイに接近した俺は一気に地面を蹴り上げ、高くジャンプすると空中で一気にクレイモアを振り下ろす!

瞬間、ネウロイの体をクレイモアが一気に切り裂き、ネウロイは耳障りな金属音を上げつつ、砕け散っていく。

その様子を見ながら、俺が荒ぶる息を整えていると部下にして、副官の大尉……”アレクソン大尉”がステン短機関銃を手にやってくる。

「相変わらず無茶しますね、中佐は……。見ているこっちの方が心臓に悪いですよ」

「あー?それだったら、俺の副官止めても良いんだぞ?」

「結構です。中佐の副官を辞めたら、自分には行く宛が無いので……」

「あぁ、そうかい」

具現化した使い魔の耳をポリポリと掻きながら、そう呟くアレクソンに対し、俺も使い魔である鳩の羽と尻尾を掻きつつ、答える。

 

あ、此処だけの話、一般的にウィザードは使い魔の耳しか具現化しないんだが、俺は比較的、生まれつき魔力が強い為か、ウィザードにしては珍しく使い魔の耳だけではなく尻尾まで具現化する数少ない存在だったりする。

 

んでもって、そんな俺とアレクソンは共に荒ぶる息をと殿ながら、こう言葉を続ける。

「これで合流地点の確保は完了ですね……」

「あぁ……だが、当の|姫様《陸戦ウィッチ》達が居ないぞ……」

「どうやら、まだ海岸線で足止めされているみたいです……。それに沖合の艦隊からの支援砲撃も無かったです……」

「あぁ……クソっ!」

アレクソンの言葉と海岸線方面から聞こえる砲声を聞き、俺は思わず悪態を吐き捨てながら、こう続ける。

「アレクソン、通信兵を呼べ!陸戦ウィッチ隊と艦隊に無線を入れて、状況を確認するぞ!!」

そう飛ばす俺の指示を受け、アレクソンは「了解」と呟きつつ、直ぐに通信兵を呼びだす。

 

こうして呼び出された通信兵から、無線機を受け取った俺は、まず最初に陸戦ウィッチ隊に連絡を入れる。

「ナイトから、チャリオットへ。繰り返す、ナイトから、チャリオットへ。誰でも良い、応答せよ!!」

そう荒々しく呼びかける俺の言葉に対し、暫しの沈黙の後、無線機からは凄まじい砲声と共に一人のウィッチの声が聞こえてくる。

『チャリオットから、ナイトへ!チャリオットから、ナイトへ!!こちらはレオ准尉です!!!指揮官、副指揮官が戦死した為、私が指揮を引き継ぎました。どうぞ!!!』

「了解した、准尉。単調直入に聞く、そちらの状況はどうなっている?」

そう俺の問いかけに対し、レオ准尉の悲鳴に等しい返事が無線機から聞こえてくる。

『もう最悪です!先に述べたように指揮官、副指揮官は共に戦死してますし、そもそも地形の関係上、ストライカーユニットがまともに機能しません!!!もう生き残っているウィッチ達は全てストライカーユニットを放棄して、徒歩で戦っています!!!!支援可能なら、直ぐに支援をお願いします!!!!!このままでは全滅します!!!!!!早くお願いします!!!!!!!』

「分かった、准尉。こちらも何とかして、そちらの支援に向かう!それまで持ちこたえてくれ!!」

『了解!お願いします!!』

「アレクソン!直ぐに戦えるコマンドを集めて、陸戦ウィッチ隊の支援に向かう戦力を編成しろ!!俺はこのまま、艦隊と連絡を取る!!!」

「了解!」

そう言ってアレクソンが部下達の再編成を急いで進める中、俺は続けざまに艦隊の方との連絡を取る。

「ナイトから、ロイヤルへ!ナイトから、ロイヤル!!艦砲射撃による支援はどうした!?陸戦ウィッチ隊との合流地点を確保したが、損害が激しい!陸戦ウィッチ隊に至っては、全滅寸前だ!!艦砲射撃による支援がないと一人残らず全滅だ!!!直ぐに砲撃支援を頼む!!!!」

『………』

俺が無線機越しに怒鳴りつける様に艦隊との無線連絡を入れるが、艦隊側からは何の返事も帰ってこない。

 

 

そんな艦隊に対し、俺は怒鳴りつける様に続けて連絡を入れる。

「おい、どうした!?誰でも良い、応答しろ!!」

『……プリンスから、ナイトへ』

「おい、ダイジョブか!?何があった!?」

暫しの沈黙の後、艦隊側から帰ってきた返事の声は、今にでも死にそうな弱弱しい海軍兵の声だ。

そんな声に驚きながら、俺が問い詰めると、その海軍兵は振り絞るような声で報告してくる。

『新型……航空機型ネウロイの……、攻撃を受け……、艦長を含め……、乗員は……、殆どが戦死……、他の艦隊……及び、ドラゴンライダーは……全滅しました……、もう全てお終いです……』

「何っ!?全滅だと!?」

海軍兵のそんな報告に俺が驚くと共に、ドサッ!と言う人間の崩れ落ちる音が無線機越しに聞こえ、艦隊はもうどんなに呼び掛けても応答しなくなっていた。

「おい!大丈夫か!!しっかりしろ!?」

「中佐、艦隊の方は?」

そんな中で必死に艦隊に呼び掛けるに対し、再編成を行ったアレクソンが駆け付け様に問い掛けてきた瞬間だった。

突如として、先程の照明弾とは違う明かりがピカッ!と辺りが包まれる。

「「!?」」

この突然の出来事に俺とアレクソン、他の部下達も何が起きたのか分からないまま、光った方に視線を向けた瞬間……凄まじい爆音と衝撃波が俺達に襲い掛かってきたのだ!

「総員、地面に伏せて、耳を塞ぐんだ!!」

咄嗟にそう叫びつつ、地面にジャンプする様にして伏せつつ、耳を抑えた次の瞬間には、『BUH-KOOOM!!』と言った感じの、もう言葉では表しきれない火山の噴火を間近で見たかの様な轟音が辺り一面に鳴り響いた。

「うおお゛おあぁっ!?」

「ぐあああっ!!」

「あ゛あああ゛っ!?」

耳をふさいでも聞こえてくる、この轟音と衝撃波を前に全コマンが悶絶する中、何かとそれを乗り切った俺とアレクソンがゆっくりと立ち上がり、爆発音のした方に視線を向けた先にあったのは……。

 

夜の闇を真っ赤に照らしつつ、海へ沈んでいくプリンス・オブ・ウェールズと、その炎に照れされつつ、周りで同じ様に沈んでいくアークロイヤルを始めとする艦隊の全滅した光景だった……。

 

この信じらない光景を前にし、アレクソンがゆっくりと口を開く。

「そんな……、バカな……」

「……糞が」

アレクソンの言葉を前に思わず悪態が漏れる俺。

そりゃそうだ……俺達を支援する艦隊が支援する前に全滅……それと同時に俺達はブリタニアに帰る足を失ってしまった……。

 

つまり、|ここ《ディエップ》に取り残されたって事だ!

 

余りにも最悪の事態を前に『怒り』なんて言葉では、表しきれない、絶望にも近いドス黒い感情が湧いてくる中、俺はアレクソンに話しかける。

「とりあえずアレクソン!さっき頼んだ、再編成はどうなっている!?」

「あっ、あぁ……はい!とりあえず戦闘可能なウィザードをかき集め、4個小隊を編成しました!!」

「4個小隊か……よし、地図を出せ!」

そう言ってアレクソンに地図を出せた俺は、地図を手に状況を確認する。

 

兎にも角にも、脱出の脚を失った俺達はディエップに取り残されている。

そうなった以上、少なからず此処で籠城しつつ、救援を待つのがベストな方法になる。

そうなると……相手の攻撃をしのぎつつ、何とか生き残れる場所を探すのが最優先だ!

 

そう状況を再確認した俺は血眼になって、地図を見つめていく……そうするうちに1つの場所が目に留まる。

「フロンティア・ドック?なんだ此処は?アレクソン、何か知ってるか?」

「あぁ……ディエップでも2番目に大きい漁船の修理工場です。町からも、そう遠くありません。此処からも距離は約2キロ程度です」

そう質問に返すアレクソンの言葉を聞き、俺は決心した。此処から生きて帰る為の決断を。

「よし……ここを確保して、立て籠ろるぞ!アレクソンは1個小隊を指揮して、速やかにドックを確保!もう1個小隊は負傷兵の警護及び搬送、残る2個小隊は俺と共に陸戦ウィッチ隊の救援に向かう!!直ぐに実行しろ!!!」

俺の出した、この指示を聞きアレクソンは「了解!」と復唱しつつ、再編成した小隊達に俺の命令を伝えていく。

そして、それが終わるや否や、アレクソンはステン短機関銃を手にこう言い放つ。

「では、自分はドックの確保に向かいます!」

「頼むぞ」

「了解、中佐もご無事で。よし……いくぞ!!」

そう言って1個小隊を率いて、ドックを確保しに向かうアレクソンを見ながら、俺は水筒を手に取り、水を一口飲む。

「……ぷはぁ!」

喉の渇きが少しマシになったのを感じると、俺はアレクソンの集めた小隊に対し、こう告げる。

「アポリー中尉!お前は負傷したウィザードの治療と此処の防衛に当たれ!!アレクソン大尉がドックを制圧次第、直ぐに負傷者を移送し、合流しろ!!!合流次第、戦闘可能な隊員と共にドックの防衛及び周辺の封鎖に掛かれ!!!!」

「了解!」

「残りは俺と一緒に海岸戦にいる陸戦ウィッチ隊の救援に向かう……行くぞ!!」

「「「了解っ!!」」」

そう言って俺達は各々の任務を遂行するべく走り出すのだった……。

 

 

<?Side>

その頃、海岸線では私……”レタ准尉”の指揮の元、生き残った陸戦ウィッチ達が決死の戦いを繰り広げていた。

私達最大の武器であるストライカーユニットが使えないという最悪の状況の中、もはや気合と”生還への執念”だけで必死の戦いを繰り広げる私達だったけど、ストライカーユニットが使い物にならないと言う余りにも絶望的なコンディションを前にして、ネウロイは”赤子の手を捻る”が如きの猛攻を私達に掛けてくる。

そして、その猛攻を前にまた一人の仲間のウィッチがやられ、吹き飛ばされた左腕から、壊れた水道管の様に真っ赤な血を吹き出しつつ、地面へと崩れ落ちる。

「きゃああぁっ!腕が!!私の腕が無い!!!あああああああっ!!!!」

「エリー!しっかりして、エリー!!」

「落ち着きなさい!まずは止血しなさい!!訓練は受けてるでしょ、訓練通りにやりなさい!!!」

「は……、はいっ!」

腕をやられ、切断された個所から真っ赤な血を吹き出しているウィッチに対し、親友のウィッチが駆け寄って彼女を心配する。

そんなウィッチに対し、私は75㎜砲をネウロイに向けて撃ちまくりながら、彼女に対して応急手当の指示を飛ばし、その檄を受けたウィッチはアタフタしながらも、救急キットを手に親友の切断された腕の止血を行っていく。

この間にも、ネウロイの猛攻は止む事が無く次々と私達を仕留めんとばかりにネウロイの猛攻が次々と降り注ぎ、懸命に指揮を執っていた私の近くにも至近弾が着弾する。

「うっ!」

その着弾に伴って、辺りに飛び散る破片や煙に対し、思わず私が目をふさいだ瞬間、この隙をついて、急接近してきた戦車型ネウロイが大きくジャンプしつつ、私に襲い掛かろうとしていたのだ。

「准尉!!」

「っ!!」

直ぐ側にいて、ネウロイの接近に気付いた仲間のウィッチの指摘を受け、私自身に接近しているネウロイの存在に気付き、咄嗟に75㎜砲を向けるが、もう既にネウロイは私の懐へと入り込み、その首を狙って足を振り上げているのが見えた。

 

(あ……、これ……、死んだ……)

 

その光景を前に死を覚悟した瞬間だった。

 

突然、『ドスウゥッ!』と言う凄まじい音と共に私に襲い掛かろうとしていたネウロイが横に吹っ飛んでいったのだ。

「っ!?」

余りにも突然の出来事ゆえに、何が起きた分からず思わず呆然とした様子で、飛んで行ったネウロイに視線を向けると、そこには矢が突き刺さり悶絶するネウロイの姿が。

そのネウロイは悶絶しながらも、何とか立ち上がり、攻撃し直そうとするが、それよりも先に飛んできた別の矢によって、コアごと撃ち抜かれ、バラバラに砕け散っていく。

 

この光景を前に私は確信した……”彼らが来た事”を……。

 

それと同時に別の場所で応戦していたウィッチが気付いた様だ。

「来た!コマンド部隊よ!!」

歓喜の声を上げる彼女の指さす方向に視線を向けると、そこには確かにジャック中佐率いるブリティッシュ・コマンドスの隊員達の姿があった。

「如何やら、間に合ったみたいだな……よし!予定通り、陸戦ウィッチ達と合流する!!行くぞ、コマンドー!!!」

「「「コマンドー!!」」」

そう勝鬨を上げ、ジャック中佐先頭の元、私達の元へネウロイを次々に撃破しつつ、やってくるコマンドの隊員達の姿を見て、私は”何とか第1関門を突破した”事を悟り、思わず力がドッと抜けそうになる。

だが、そんな感覚もほんの一瞬。また私の近くに着弾したネウロイの放った攻撃の至近弾によって、私は目の前の過酷な現実へと引き戻される。

「つっ!!」

至近弾の放つ凄まじい衝撃波を感じつつ、咄嗟にタコつぼの中に身を潜めるのと同時に、ジャック中佐率いるコマンドの隊員達が飛び込んでくる。

そうして飛び込んできたジャック中佐は、直ぐに自身の部下であるコマンドの隊員達に対して指示を飛ばす。

「全員、直ぐに全方位警戒態勢を取れ!衛生要員は直ぐに負傷した奴の治療を始めろ!!」

ジャック中佐のこの指示にコマンドの隊員達が一斉に「「「了解っ!!」」」と復唱を返すのを聞きつつ、ジャック中佐は続けざまにこう言い放つ。

「この中にレタ准尉はいるか!?」

「はい、私です!」

「お前だな!?」

そう手を上げた私に対し、ジャック中佐はボーガンを片手にやってくるなり、こう言葉を続けた。

「ブリティッシュ・コマンドス隊長のジャック・ネヴィル中佐だ!准尉、さっそくだが陸戦ウィッチ隊の今の状況を報告してくれ!!」

「はい!先に無線で伝えた様に指揮官、副指揮官のエオナ中尉とフルータ少尉は戦死、それ以外にも部隊のウィッチの約6割が戦死!それ以外の2割が負傷、その内の半分が手足を失う重症であり、もう1割が戦争恐怖症に陥っており、戦えるのは私を含めて1割……約12人程度です!!」

このジャック中佐は「……よし」と呟く様に言い放つと、地図を手に取りつつ、こう言葉をつづける。

「全体の状況を伝える!今現在、沖合の艦隊及び艦載ウィッチ隊が新型航空機型ネウロイの攻撃を受けて全滅し、俺達はココに取り残された!だから、救援が来るまで籠城する事になる!!その為、俺の部下がココに在るフロンティア・ドックを確保している!その確保が完了次第、速やかにフロンティア・ドックに移動し、此処に籠城する!!いいな!?」

「わ、分かりました!」

そう私がジャック中佐の計画に対し、返した瞬間、ジャック中佐の部下の通信兵が無線機の受話器を手に走ってくる。

「中佐、アレクソン大尉からです!」

「代われ!」

通信兵に対し、ジャック中佐はそう言って無線機を手に取ると早速、連絡を取り合い始める。

「アレクソン、ドックは確保したのか!?」

『はいっ!ドック及び周辺につながる道路を確保しました!!アポリー中尉の小隊も、既に半分が移動及び負傷者の移送を開始し、残る半分が中佐たちを援護する為に当初の合流ポイントで待機しています!!』

「わかった!直ぐに俺達も其方に合流する!!それまで、頼むぞ!!!」

無線機越しに部下に対し、そう指示を飛ばした中佐は無線機を通信兵に渡しつつ、こう言ってくる。

「今の聞いたな!?」

「はっ、はいっ!!」

「よし……負傷した奴の応急手当がある程度終わったら、此処を離脱し、ドックまで向かうぞ!長い道のりになるぞ!!否が応でも、覚悟を決めろ、准尉!!!」

「了解っ!!」

そんなジャック中佐の声を聞き、私は勢いよく復唱と共に敬礼をジャック中佐に返す。

 

そう……中佐の言う様に、否が応でも、覚悟を決めるしかないのだ。

ここから生きて故郷に帰るには、それしかない。

所属も、生まれも、育ちも、性別も、何もかも違う者たちだらけだけど、此処にいる皆は全て「生への執念」だけは共通して持っている。

その執念を果たす為、覚悟を決めないといけない……そして私は覚悟を決めたのだ!!

 

胸の内で湧き上がる熱い物を感じつつ、覚悟を決めた私は直ぐにやるべきことに取り掛かる。

「では、私は負傷した仲間達の応急手当の手伝いに回ります!中佐達は此処の防衛をお願い致します!!」

「任せろ!ここから生きて帰るぞ!!」

「はいっ!」

私はそう言って、救急キットを手に負傷した仲間の元へと走っていく。

そんな私の様子を見ながら、ジャック中佐は部下のコマンド隊員たちを率いて、必死の追撃を仕掛けてくるネウロイ達を迎撃し、此処の防衛に当たっていく。

 

こうして、激しいネウロイの猛追の仲、此処から生きて帰る為に必死に各々の任務を遂行していく……。

別の所では、猛攻を掛けてくるネウロイとの激しい銃撃戦を繰り広げ、また別の所では負傷した仲間達に懸命の応急処置を行う。

まさに絶望が支配するこの場において、僅かばかりあるか、無いのかの希望を掴む為、皆が決死の覚悟を持って、必死になっていた。

そんな決死の覚悟の元で必死になった為か、本当に僅かばかりだが、ネウロイにも疲労の色が見えてきたらしく、ほんの少しばかり攻撃の手が休まってきた。

 

それは、この地獄と化した海岸から”脱出するタイミングが来た事を私達に示していた”。

 

ジャック中佐は、そのタイミングを決して見逃すことなく叫んだ。

「総員、移動可能か!?」

この中佐の指示に対し、あちこちで「はいっ!」や「移動可能です!!」と言う返事が返ってくる。

その返事を聞き、ジャック中佐は「……よし」と呟きながら、腰の鞘からクレイモアを引き抜きつつ、息を軽く吸うと大声で叫んだ。

「これより、この海岸を脱出!ドックまで移動する!!」

「「「「了解!!!!」」」」

「よし……行くぞ、総員付いてこい!!」

そう言ったかと思った次の瞬間には、もうジャック中佐が勢いよくクレイモアを片手にタコつぼから飛び出すと、間髪入れずに他のコマンド隊員やウィッチ達も一斉に続く様に飛び出していく。

 

ある物は銃を手に撃ちまくりながら、またある物は負傷した仲間を背負いながら、またある物は傷ついた体に鞭を打ちながら……。

 

各々がそれぞれのスタイルで飛び出していく中、一人、また一人と自然と大声を上げつつ、ネウロイと対峙する。

そうして、自然と海岸線は私達の……人類の叫びで埋め尽くされていく。

「う゛わ゛あああああああああああーッ!!」

「うぉおおおおーっ!!!」

「ああああ゛あああああああっ!!!!」

まるで生への執念が言葉にならない叫びとなって、体の奥底から飛び出してるかの様な叫び声を上げつつ、海岸からの脱出を図る私達。

無論、ネウロイだってそれをただ見ているだけではなく、脱出を阻止するべく次々と猛攻を加えていく。

「ぐっ!」

「ぎゃあっ!!」

「ぬおぁあっ!!」

猛攻によって脱出する前に、海岸の砂利を赤く染めつつ、故郷へ帰る事無く散っていく者達。

そんな散っていった者達の無念と怒りを代弁するかのように、私達はまるで”原始人のマンモス狩り”の様に次々とネウロイを嬲り殺しながら、ひたすら前だけを見て走っていく。

 

もう1秒でも早く、この地獄から抜け出したい……!!

抜け出して、ただ故郷に帰りたい!故郷の土を踏みたい!!

生きて帰って家族に、友人に、恋人に会いたい!!

 

此処で戦っているウィッチやウィザード達は、全てこの思いだけを胸にもはや理性をかなぐり捨てて、まるで野生にでも帰ったかの様な戦いを繰り広げ、かく言う私も……。

「うあ゛あぁあああ゛あああっ!!!」

と、10代の少女が決して上げない野太い叫びと共に、ひたすら目の前に現れるネウロイを次々に打ち倒していた……。

 

 

そうして、私達がまるで何か悪魔か、破壊神にでも憑依されたかの様な鬼神の戦いぶりを繰り返す内に、いつの間にか私達は海岸線を脱出していた。

 

だが、それに気づいたのは当初の合流地点を確保・防衛していたジャック中佐の部下、アポリー中尉の呼びかけを受けてからだ。

「おい、お前。大丈夫か?」

「えっ……?」

「相当必死だったんだな……まずはこれでも飲んで、落ち着きな」

そう言って私に水筒を渡してくるアポリー中尉から、水筒を受け取ると私は直ぐに蓋を開けて、水を喉へと流し込む。

上陸して以降、ずっと叫びっぱなしで酷使し、乾ききっていた喉が潤うのと同時にオーバーヒートしていた頭が覚めていくのを手に取るように感じた。

そうして、冷えた頭で周りを見渡すと、周りでは先程の脱出で負傷したウィザードやウィッチ達が衛生要員から、応急手当を受けていたり、全ての体力を使い果たしたかの如く地面に大の字になり、体力を回復させている。

他にも、別の所では、先の上陸時の惨劇を真に辺りにしたショックから完全に放心状態となり、真顔が戻らなくなったウィッチが置物の様に座り込んでいたり、それを心配し話しかけているウィザードが居れば、更に別の場所では、同じ様に先の上陸時に恐怖の余り粗相をしでかしたウィッチ達が赤ん坊の様にぐずり泣きしつつ、他のウィッチ達の陰に隠れて、敗戦処理に当たっていたりと、様々な光景が広がっていた。

「あ、あの此処は?」

「当初の合流予定ポイントだ。よく此処まで無事で居れたな、大した嬢ちゃんだ!」

そんな光景の数々を冷えた頭で見ながら、問い掛ける私にそう言ってアポリー中尉は、軽く笑いながら私の肩をポン!と叩く。

その感覚を感じながら、私はアポリー中尉に問いかける。

「あの……ジャック中佐は?」

「ん?あぁ、そこでちょっと応急手当を受けているよ。脱出の際に少なからず負傷したみたいで」

「そう……ですか……。あ、水筒、ありがとうございます」

私はそう言ってアポリー中尉に水筒を返しながら、ジャック中佐の元へと向かう。

 

向かった先にいたジャック中佐はアポリー中尉の言う通り、先程の脱出戦で負傷したのか、衛生兵による治療を受けていた。

「あい゛だああ゛あっ!」

「中佐、動かないでください!!」

「んなこと言ったって、消毒液が染みて痛いんだよ!」

「子供じゃないんですよ、ちょっとぐらい痛いのは我慢してください!!」

「痛いもんは痛いんだよ!!」

「中佐は十二分に軽傷なんですから、我慢してください!手足を失った者も大勢いるんですからね!!」

「ヘイヘイ……」

そうやって衛生兵と軽く痴話げんかみたいな物をしながら、衛生兵から治療を受けたジャック中佐は治療が終わり次第、ボーガンを手にゆっくりと立ち上がる。

「これで終わりか?」

「はい!」

「よし……そろそろ移動するから、お前は他の負傷兵の容態を確認してきてくれ。特に問題がないなら、他の衛生兵に移送準備に入る様に伝えろ。あとアポリーにもだ」

ジャック中佐から、そう指示を受け、中佐の治療に当たっていた衛生兵は「了解です!」と言いつつ、負傷兵たちの集められた場所へと走っていく。

その様子を見ていたジャック中佐は今度は私の存在に気付いたのか、「お!」と短く呟きながら、私の元へとやってくる。

「よー、准尉。無事に此処まで来れたか」

「えっ、えぇ……なんとか」

「運が良いと言うか、悪運強いと言うかねぇ……」

「この時代に銃じゃなくて、剣と弓矢で戦うジャック中佐の方が、私よりよっぽど悪運強いと思いますよ」

「ハハッ、言うね」

そう言って私の悪態とも、ジョークとも、ブラックジョークとも付かない言葉に軽く乾いた笑い越えを上げる中佐。

 

剣と言い、弓矢と言い、持ってはいないけどバグパイプと言い、噂ではチラホラ聞いていたけど、此処まで型破りな人物とは思いもしなかったなぁ……。

だけど、そんな型破りな人だからこそ、こんな状況においてでも、折れることなくリーダーシップを発揮し、部下達も安心して付いていけるんだろう。

 

そんな奇妙な物を見るような妙な気分と、不思議な安心感を同時に感じつつ、頭をポリポリと掻いている中佐を見ている時だった。

「中佐、よろしいですか?」

と、言葉みじかに話すアポリー中尉に中佐が「おう」と、此方も言葉みじかに返すと、アポリー中尉はこう続けた。

「移動準備の程、完了しました」

「よし……アレクソンの方は何か言ってるか?」

「はい、少し前に少数の偵察班らしきネウロイと交戦したそうで、撃破及び撃退に成功したそうですが、ドックの方に戦力が手中するのも時間の問題だと。既に周辺の橋や道路、建物に爆薬をセットしており、我々の合流次第、速やかに爆破・封鎖するとの事です」

「分かった、急ごう!直ぐに出発だ!!他にも伝えろ!!!」

アポリー中尉は、そうジャック中佐から指示を受けて「了解っ!!」と復唱するなり、走りながら、大声で「移動準備!」と他の隊員達に移動の指示を飛ばしていく。

私がそんなアポリー中尉を見ていると、ジャック中佐が私に向け、こう言ってくる。

「准尉、今の聞いたな?」

「はい!」

「ここからが本当の正念場だぞ、准尉!覚悟は良いな!?」

「覚悟はできています、中佐!!」

この私の言葉を聞いたジャック中佐は「よし……」と一言言って、軽く息を吸った後、「いくぞ!付いてこい!!」と指示を飛ばしつつ、数人の部下と共に先行していく。

その様子を見ながら、私も75㎜砲を手に中佐と共にドックへと向かう……これから始まる”長く苦しい戦いの場”へ……。

 

正直に言って、かなり絶望的な状況に私達はいる……。

 

誰一人として、ブリタニアに帰る事ができずに、肉体がこの地の土に還る事もありえるだろう……。

 

だけど、私は確信していた……”ここから誰一人として取り残すことなく生還する”と……。

 

そんな熱く強い思いを胸に私はドックへと向かうのだった……。

 

 

<ウィーラーSide>

朝6時、501の基地全体に一日の始まりを告げる起床ラッパが鳴り響く。

「んがあっっ!!」

否が応でも、脳みそに突き刺さる大音量のラッパを聞いた瞬間、それ並みに長い軍隊&コマンド生活のおかげか一瞬で飛び起きる俺。

飛び起きたのは良いが、如何せん、頭がどうも取っ散らかってうまく回転しない……あぁ、今日もこんな目覚めか……。

|あれ以来《303高地》、ほぼ常に”良い眠り”とは程遠い眠りしか出来ない俺だが、ここ最近は特に程遠くなっている……。

その為に昨晩も睡眠薬代わりのウィスキーをストレートで3杯連続で煽って寝ているんだが……寝酒ってのは、ろくな睡眠じゃねぇな……。

おかげで寝てるんだか、寝てないのかすらどうか分からなくなってきてやがるぜ……、畜生……。

「……あぁ、クソが」

と、誰に付いているかも分からない悪態を付けるレベルにまで回ってきた頭でそう思いながら、俺はベッド横に置いてあったウィスキーを仕舞いつつ、そのウィスキーを飲むために使ったコマンド時代からのアーミーマグを手に取り、部屋の中にある洗面台へと向かう。

そこでマグを軽く濯ぎ洗いすると、そのままマグに水を注ぎ、続け様に口を濯ぎながら、歯磨き&歯磨き粉を手に取り、歯を磨いていく。

んでもって、数分程、ガシッガシッ!と歯を磨き、再び口を濯いだ後、俺は続け様にカミソリとシェービングフォーム、シェービングブラシを手に取り、|シェービング《髭剃り》を始める。

まず手始めにカミソリに刃をセットすると、顔を軽く洗顔し、濡れたままの状態でシェービングブラシでシェービングフォームを泡立てる。

本来なら、此処で蒸しタオルなんか当てると肌に良いのだが、そんな最前線の軍事基地でどこぞの床屋みたいな物が出来るわけもなく、俺はシェービングブラシで泡立てた泡を顔面に塗っていく。

んでもって、準備OKと言う事で、カミソリで髭を剃ろうとしたときだった。

「ウィーラー、ちょっと入るぞ!」

と、ノックも無しにドアを開けて坂本少佐が入ってくる。

 

ぶっちゃけ内心、タイミング悪いなぁ~……オイ!

 

と思いつつも、俺は顔面を泡まみれにしたまま、入ってきた少佐の方に顔を向けつつ、問いかける。

「はい、なんでしょうか?」

「ん?あぁ……髭剃りの途中だったのか、すまんな。髭を剃りながらで良いから、聞いてくれ」

「あぁ……はい」

と言う訳で、少佐のお言葉に甘えて髭剃りを剃りながら、俺が耳を傾けると少佐はこう言葉を続けた。

「ちょっと朝飯前に緊急のブリーフィングをやるから、7時までには作戦室へと来てくれ。7時までにはだぞ」

「はい、了解です!」

そう言って返事を返す俺に対して、少佐は「じゃあ後でな」と言いつつ、部屋を出ていく。

 

緊急ブリーフィングだって……?

そんな事をやるって以上は、何かしらあったんだろうけど……まさかディエップに関して、動きが?

 

何処ともなく胸の内で湧いてくるその様な考えを抑えつつ、俺は手早く髭を剃ると続けざまに身支度を整えつつ、部屋を出て、作戦室へと足早に向かうのだった……。

 

 

 

 

……

 

………

 

 

 

そうして、やってきた作戦室。

俺は空いた窓から外の方を向いて、タバコ(※軍支給の物)を加えて朝の一服をしていた……。

「……ふぅ」

そうやって煙を吐き出しつつ、喉を走る煙の喉越しやら、ニコチンのキック感を感じていると怪訝な様な表情を浮かべたバルクホルンがやってくる。

「タバコとは、感心しないな……」

「別にお前さんに薦めようって訳じゃないさ……、あくまで俺の嗜好よ……っていうか、俺もタバコの何処が良いのか分からんよ」

怪訝な表情を浮かべながら、喫煙を咎めてくるバルクホルンに対し、俺はタバコを片手にそうボヤキ返す。

 

っていうかな……姉御型が結構なヘビースモーカーなんだけど、姉御型が言う様なタバコの喉越しとか、キック感って言うのが、俺には良く分からん。

なんか一応、ニコチンやらタールとかを吸っていると言う感覚はあるんだけど、体の中の肺の近く辺りでなんか茶こしで濾しているかの様な感覚があるんだよね……。

まぁ~……恐らく確実にモニスの野郎が、絶対に”毒ガス散布下でも作戦可能な様に肺にフィルター出も付けている”んだろうな……。うん、絶対にそうだ!!

 

そんな己の体に知らぬ間に施された人体改造を感じつつ、タバコの火を左手のグローブでもみ消していると、バルクホルンが「はぁ~……」と呆れた様な溜息を付きつつ、こう言ってくる。

「どこが良いのか分からないんだったら、早いとこ禁煙しろ!そもそもタバコなんて百害あって一利なし物を……!!」

「お、バルクホルン。ウィーラー相手に保健の授業かい?」

と、軽くカチン!と来た様子のバルクホルンが保健体育の授業みたいなことを言いだそうとした瞬間、それを遮る様に話しかけてくる声が……。

 

まぁ、こんな事を言ってくるのは、言わずもがな、シャーリーなんだけどな……。

 

シャーリーは軽く不敵な笑みを浮かべつつ、俺とバルクホルンの元にやってくるなり、こう言葉を続ける。

「私としては、タバコ吸ってるウィーラーよりも、事ある度にガミガミ言ってくる|お前さん《バルクホルン》の方がストレス溜まってぶっ倒れそうな気がするけどな」

「余計なお世話だ、リベリオン!!」

そう言ってシャーリーの茶化しに対し、面倒くさくなってきたのかバルクホルンはそう言いながら、俺とシャーリーの元を離れていく。

なぉ、離れる序に俺に対して、「兎にも角にも、コマンド!私は絶対に禁煙するべきだと言っておくぞ!!」と言いつつ、ハルトマン達の座る席へと向かっていくのだった。

まぁ、別に俺はタバコに興味ないっていうから、別に禁煙するぐらいはなんて事も無いんだけどさ……。

 

そう思いつつ、タバコの箱を胸ポッケにしまっているとシャーリーが不敵な笑みを浮かべたまま、こう言葉を続けてくる。

「お前も朝から、アイツに絡まれて大変だなぁ~!同情するよ!!」

「アイツじゃなくても、お前でも、十二分に大変だよ……」

「えー、そんなこと言うなよー。つれないなー!」

といった感じで、バルクホルンとは別の面倒くささを醸し出すシャーリーを前に「もう1本吸うかな……」なんて、考えが湧いてくる。

だが、それよりも先に宮藤とリーネを引き連れた坂本少佐が作戦室へと入ってくる。

「おーし、全員いるな?とりあえず皆、コーヒーでも飲んで頭をハッキリさせてくれ。重要な話をするからな、しっかり眠気を覚ますんだ」

少佐がそう言うのと同時に宮藤とリーネが二人して、食堂で入れてきたコーヒーの入ったポットを傾け、一人一人にコーヒーを注ぎながら、配っていく。

「おはようございます、ウィーラーさん。コーヒーをどうぞ」

「……おぅ」

そう言って宮藤から受け取ったコーヒーをブラックで飲んでいると、傍にいたシャーリーが「うえぇ~……」とか言いながら、こう続けてくる。

「ブラックかよ……砂糖とミルクは無いの?」

「黙って飲め」

「おぉ、コーヒーだけにブラックな対応」

「るせー」

とまぁ、会話ともギャグとも付かない言葉を交わしつつ、俺とシャーリーが隣同士でコーヒーを飲んでいると、少し遅れてミーナ中佐が入ってくる。

 

 

作戦室へと入ってきたミーナ中佐は、俺達と同じ様に宮藤達からコーヒーを「ありがとう」と言いつつ、受け取り、一口飲むと俺達の方に向けて、ゆっくりと口を開いていく。

「皆、朝早くから集まってもらって悪いわね。でも、重要な話なの。だから、よく聞いてね」

と言うミーナ中佐の言葉に、俺達は机の上にコーヒーの入ったカップを置きつつ耳を傾けていく。

「皆、前にガリアはディエップで行われた上陸作戦が失敗に終わったのは知っているわね?」

「………」

予想はしていたけど、やっぱりこの種の話か……。思わず苦虫を嚙み潰した様な表情になる俺。

そんな表情を見られないように、少しうつむきながら、俺はミーナ中佐の言葉に更に耳を傾けていく。

「作戦に参加した艦隊及びウィッチが全滅した所から、上陸部隊も全滅したと思われていたわ……だけど、昨日”動きがあった”の」

(……え?)

ミーナ中佐の言葉に思わず、心の中でそう呟きながら、俯いた顔を上げ、俺は更に話に耳を傾けていく。

「昨日の深夜2時30分頃、ブリタニア陸軍の通信所がディエップからの通信をキャッチしたの」

「っ!!」

この話を聞いた瞬間、俺は思わず立ち上がりそうになった。

 

だってそうだろ?全滅したと思われる部隊にいるはずの戦友が生きているかもしれないんだから。

 

そんな闇の中で一筋の光を見つけたかの様な感覚と興奮をグッと堪えつつ、俺は三度、ミーナ中佐の言葉に耳を傾けていく。

「その通信は僅か一瞬だったらしいけど、ディエップに上陸した上陸部隊が生存している事を告げる物だったそうよ……この通信以降、連絡は取れてないみたいだけど、この通信を根拠に連合軍司令部は”上陸部隊に生存者がいる”と判断。これを受け、連合軍司令部は本日、ディエップ上陸部隊の救助作戦を正式に発令……もう此処まで言えば、皆分かるわよね?」

「……そう、我々、第501統合航空団もこの作戦に正式に参加する事になった!」

ミーナ中佐の言葉に続く様に、そう言い放つ坂本少佐の言葉を受けて、この場にいたメンバー全員が「おぉ……」と感嘆する中、俺は一人、机の下で拳を握りしめていた。

 

そりゃそうだ……|戦友《ジャック》が生きている可能性が出てきたんだ!否が応でも、心が弾むってもんだ!!

 

そんな久々に冷え切った胸の内がカーッと熱くなるのを感じつつ、握りしめた拳に更にギュッ!と力を入れていると、坂本少佐がこう告げるのだった。

「総員、朝飯を食ったら速やかに自室に戻って移動準備に入れ!午前9時にポーツマス海軍基地へと移動する!!」

「「「了解っ!!」」」

この坂本少佐の指示を受け、まるで弾き出されたパチンコのパチンコ玉の様に動き出す俺達。

その第1段階である腹ごしらえ……朝食の為、食堂に向かう中、シャーリーが俺の肩をポン!と叩きながら、こう告げる。

「良かったな、ウィーラー!」

「るせー!」

そう言って悪い笑顔を向けてくるシャーリーに対し、俺も自然と悪い笑顔を返すのだった……。

 

 

<?Side>

ディエップ上陸部隊救助作戦が発令され、ウィーラー達の所属する第501統合航空団を始めとする連合軍部隊の多くが動員される中、ブリタニアにある、とある演習場では、新設されたブリタニア陸軍の機甲陸戦ウィッチ師団……”第79機甲師団”、通称、”ホバーツ・ファニーズ”のウィッチ達が猛訓練に励んでいた。

「総員展開!突撃!!」

指揮官のウィッチの合図に合わせ、リベリオン製の水陸両用トラクターの”LVT”の後部ドアから、一斉に展開していくウィッチ達。

彼女の達の”脚”にして、”最高の相棒”となるストライカーユニットは、一見すると普通の陸戦用ストライカーユニットのチャーチルやM4シャーマンに見える。

だが、その彼女達の付ける多くには、普通のストライカーユニットにはない特殊アタッチメント装着用のパーツが取り付けられている。

その種類も多種多様で、火炎放射器を装備した物に始まり、軟弱地盤に敷き、移動しやすくする為の巻き上げ式の敷設路を装着した物もあれば、背中に折り畳み式の突撃橋を積んだ物、地雷処理用のマインフレイルを装着した物、ストライカーユニットを付けたままで、負傷したウィッチを移動可能な大型ウィンチ等を装備した物など、他の陸戦ウィッチ隊では見ない様な物ばかり。

またチャーチル型ストライカーユニットを使用しているウィッチ達の中には、障害物等の破壊に威力を発揮する290mmペタード臼砲を装備したウィッチの姿も多数。

同時にそれらのウィッチ達以外にも、先に”彼女達の脚”として活躍した水陸両用トラクターのLVTの他にも、同じく水陸両用車両の”DUKW”や、装甲を施し、戦闘下でも作業可能な様にリベリオン製のブルドーザーに装甲を施した”D9装甲ブルドーザー”と言った特殊車両が、所狭しと演習場を走り回っている。

 

これらの特徴的かつ、普通の陸戦ウィッチ隊では見られないような特徴的な装備が多用されているのは、この第79機甲師団、通称、ホバーツ・ファニーズが”特殊機甲戦闘工兵”と言う他の陸戦ウィッチ隊と一線を画す目的で編成されたからだ。

 

この部隊が編成されたのは、この戦争が始まった初期及びアフリカ前線で、普通の陸戦ストライカーユニットを装備したウィッチでは、対応できないネウロイの防衛陣地等があり、それらの攻略に多数の陸戦ウィッチ及び兵士、戦車に多数の損害が出た反省からだ……しかし、正直に言って、そんな状況に滅多に出くわすわけも無い為、長らくこの第79機甲師団は変わり種のウィッチ隊と思われていた。

 

しかし、今回のディエップ上陸作戦の失敗及び惨劇を受け、その失敗時の状況から、現時点で編成された陸戦ウィッチ隊で唯一対応可能と連合軍司令部は判断し、この度、白羽の矢が立った訳だ。

 

変わり者から一転、今や救助作戦の要と化した彼女達の士気は高く、正式に救助作戦が発令される前から、彼女達は実戦を想定した、まさに”実戦そのもの”と言った猛訓練を繰り返していた。

 

そんな彼女達が演習場で所狭しと繰り広げる猛訓練の様子を少し離れた場所から、部隊の指揮官・連絡用車両として配備されているリベリオン製の装甲車”M20装甲車”の上から、双眼鏡を手に除いているのは、第79機甲師団の指揮官を務めるウィッチの”クリスティーナ・ベッカム少佐”……通称、”クリス”だ。

 

彼女は陸軍入隊以降、持ち前の優れた陸戦ウィッチとしての実力を買われ、激戦真っただ中のアフリカ前線に当時最新鋭の陸戦ストライカーのチャーチルを使用し、数々の戦績を上げた優秀な陸戦ウィッチであったが、とある防衛線にて負傷、本国送還となる。

 

その後、入院を過ごした後、アフリカ時代の優秀な陸戦ウィッチとしての戦績及び能力が評価される形にて、今回、新設された第79機甲師団の指揮官を任命されると同時に、陸戦ストライカー・チャーチルのバリュエーション型である”火炎放射器搭載モデル”の”チャーチル・クロコダイル”を支給され、現在に至る。

 

因みに余談だが、彼女がかつて戦っていたアフリカ前線で今も活躍するブリタニア陸軍の陸戦ウィッチとして知られる”セシリア・グリーンダ・マイルズ少佐”とは、同じ陸戦ウィッチ訓練所の出身であり、同期にして、親友である。その為、アフリカ時代には、よく二人して休みが合ったら、事ある度に共に過ごしていたと言う。

 

 

そんなクリスが双眼鏡で覗き込む先には、クリスと同じ様にアフリカ帰りの実戦経験があるウィッチ達によって課される猛訓練を必死になってこなす、未だに実戦を経験した事のない新人ウィッチ達の姿が。

『ほら!こんな所でへばったりしないの!!アナタ達、ディエップで私達を待っている仲間達を失望させる気!?』

『『『いいえ!!!』』』

『じゃあ、気合入れなさい!このまま15キロ走行訓練、行くわよ!!』

『『『Yes,ma'am』』』

双眼鏡越しに来るべきディエップでの救助作戦に備え、必死になってる部下達の懸命の頑張りを見ながら、クリスはこう呟く。

「新人の娘達、皆、頑張っているわね……。でも、本当の実戦はこんなものじゃないのよ……」

「失礼します。クリスティーナ少佐、ちょっと宜しいですか?」

部下達が懸命に行っている猛訓練の様子を見ながら、そう呟く彼女に対して、M20装甲車の車内にある無線機を担当していた部下のウィッチが車内から顔を出しつつ、メモ書きされたメモを手に報告してくる。

「どうしたの?」

「司令部からの連絡です」

それに報告に対し、クリスが顔を向け、何の様か問うと部下は続け様に司令部からの指示を書き留めたメモをクリスに渡す。

「……そういう事ね。無線を頂戴」

クリスは直ぐに渡されたメモに目を通すと、何回か静かに頷きつつ、M20装甲車の無線マイクを手に取り、演習中の部下達に告げた。

「総員、訓練は此処で中止にします。たった今、連合軍司令部の方より、私達、第79機甲師団に対し、正式にディエップ上陸部隊救助作戦への参加命令が出ました。総員、速やかに基地へ帰還し、作戦参加の準備に当たる様に!」

クリスが無線機越しにそう告げるや否や、部下のウィッチ達はすぐさま訓練を切り上げ、作戦に参加する準備の為、基地へと帰還する準備に入っていく。

 

その様子を見ながら、クリスは更にメモに目を通していき、その中で”ある事”に気が付く。

 

「あら……、作戦参加部隊に第501統合航空団も居るのね……。此処にいるウィーラー君、私が”初めての人”なのよねぇ~……。フフッ、懐かしいわ」

 

そう書かれたメモを見て、クリスは微笑み、昔を懐かしみながら、一人そう呟くのだった……。


 
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