No.1023192

三章二節:マミ☆マギカ WoO ~Witch of Outsider~

トキさん

2020-03-16 04:24:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:399   閲覧ユーザー数:399

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――では、次のニュースです。商品が大量に消失、しかし理由は不明。各所では注意を呼びかけています』

 保育所に移動動物園が来たというテレビから流れる微笑ましいニュースから一転、アナウンサーは顔を引き締め強調した声で内容を読み上げた。

 映像は切り替わり街中へ。大きく映し出されたのは道路に面した大型店舗だった。

「ここ知ってる」

 軽く驚いた口調で指摘したのは鹿目まどかだった。

 傍にいて同じ放送を眺める暁美ほむらも紅茶を飲む手を休めて相槌を打つ。ほむらにも見覚えがある景色は見滝原市の中心街だと思われる。誰もが足を運ぶとは言い難いが、それでも店名や場所は宣伝でかなり広く知られている方だ。

 とはいえ表示されている見出しの文句からしても問題はこの場所だけではないらしい。

『県警や見滝原署によりますと、被害にあったのは見滝原市内の家電製品販売店二店舗と専門玩具店一件で、二十九日早朝モデルガンとその関連商品が大量に店内から消えていることに出勤した従業員が気付きました』

 二日ほど前からニュースでもっぱら話題となっていたのは、遡ること十数日前に近辺で行方不明となった女の子についてである。がそれ以外は長々と取り扱われる近日中の事件性がある話は無くおだやかな内容が多かった。

 この場にいる少女たちはその失踪事件を他で耳にした程度にしか知らないが――目にしている平日の夕方からやっているこのローカル放送も、当然の如く他の番組とほとんど似た構成である。

 あたかもそれだけが世界中で起こった唯一の大きな事件のようであったが、あくまで色々な思惑が重なりそうなっただけなのだろう。三日以上前の事件が堂々とこうして放送されているのがその証拠だった。

「まぁ、怖い」

 口にしたのは巴マミであった。清潔感の漂う室内でマフィンやチョコ菓子が置かれたテーブルを囲んでいるのはまどか、ほむら、そしてマミ――最近では常であるマミの部屋で行われる魔法少女二人による作戦会議に、まどかが参加した形である。

 ただいつもの放課後の集いと同じではあるが、休日前という点がほむらとマミには違う意味をもたらしていた。とはいえ実際は話し合い自体はすでに終わっているため、ほむらからすれば最終確認のために来たようなものだ。

 "定刻"までは雑談でも問題はなく……そんな中でちょっとした話題作り以外には特に理由はなく電源が付けられていたテレビ。そこから流れる珍妙なニュースが、皆の注目を集めた。

『被害は合わせて百十数点に及び、店頭品だけでなく店内の倉庫にあった在庫品もほぼ全て消えていたとのことです。被害にあった店舗は――』

「それにしてもこんなにおもちゃの銃を扱う場所が傍にあったなんて知らなかったわ」

 参考に表示されているモデルガンと関連品の写真を見つめながらマミは呟く。続いて画面に次々と映されたのは各店の周辺状況だった。大型店はともかく専門店については観る限り入居地の綺麗さからして近年の開発を機会として捉え新設された場所なのかもしれない。

 そこまでならばまだ人間の手による被害の大きな窃盗事件を思わせる内容であった。

『しかしいずれの店舗も入口となる場所にこじ開けた痕跡はなく警報装置も反応せず』

 ほむらの目に映る再び切り替わった四分割の動画は――おそらく全て専門店の監視カメラが撮影したそれぞれの映像だろうか。消灯した店内には壁面やショーケース内に飾られたモノを始め多くの種類のモデルガンが陳列してある。

 が、数秒後の映像にはまるで最初から何もなかったかのように綺麗にモデルガンの数々は"無くなっていた"。それはまさに"消失"という言葉が当てはまるに相応しく、棚に積まれて置かれていたはずの銃が描かれた箱数十個に関しても例外ではない。

 壁にかけられていたポスターや迷彩服の類などなんら変化のない商品も幾つか見受けられるが……寧ろそういった残ったモノの変化の無さがこの一瞬の消失に何らかの意図があると感じさせ不気味により際立たせていた。

 さらに続く家電製品販売店の監視カメラの補正映像も、隅の方で少々分かり難いが、最初にはあった大きい箱の幾つかが脈絡も無く消えているようである。映像には早送り等の処理も無かった。

『さらに公開された防犯カメラの映像には窃盗犯と思しき姿は確認できませんでしたが、編集した後でないにも拘らずまるで整理前と整理後だけをつなぎ合わせたかのような奇妙な映像が記録されていました。これに関しましては――』

 単なる窃盗事件とするには普段のニュースでは耳にすることは無いであろう単語を交えながらアナウンサーは読み上げる。今度は編集によって矢印が追加されコマ送りがされる先ほどの映像は、その聞き取りやすい口調を除けば超常現象を扱うバラエティ番組のそれと大差はない。

「不思議なこともあるんですね……あ! これって魔女の仕業だったりするのかなぁ?」

 思い付きを口にするまどか。確かに結界内にいる状態なら特に魔女は大多数の人間には知覚出来ない。時々街中の影に表れるその異空間への入り口も、近代の如何なる技術をもってしても撮影は不可能である。

 さらに魔女は人間に単純で直接的な危害を与えるばかりではない。なんらかの執着がある場合は多く、それが人さらいや賊害(ぞくがい)とは異なる事件を発生させることもある。結界ごと移動出来るとなればまどかの推察は間違ってはいなかった。

「えぇ……そういうことも考えられるかもしれないわね。気を付けないと」

 やんわりと応じるマミ。戦ってきた相手の共通しやすい性質は、当然(わきま)えている。今回の騒動に魔女が関与していることを魔法少女が疑ってもなんらおかしくはなかった。ほむらも相槌を打つ。

 まどかはさらに考えが浮かんだらしい。

「もしかして、これ前にほむらちゃんたちが言ってたワルプ……なんとかと関係あるんじゃないの?」

「ワルプルギスの夜、ね」

 軽い語調で訂正を入れたほむらは、そのまま改めてまどかの疑問に答えた。

「大きく報道されてるけどこういった事態とは無関係と思うわ」

「私たちの予想からすれば、今テレビで話していることは些細だものね」

 ほむらの言葉を継いでマミが補足を入れる。意味とは反するその柔和な話振りのせいか、まどかの表情に曇りが出るのには数秒の間があった。

「じゃ、じゃあ……そのワルプルギスの夜っていうのはもっともっと凄いんですか?」

「えぇ。実体化すればこの街全体を数時間で壊してしまえるほどの力を持つと私と暁美さんは思っているわ。当然ちょっとやそっと力があるくらいの魔法少女なら何も考えないとすぐにやられるでしょうね」

 言及するマミ。まどかが一気に不安な顔となったのも自然であった。

「そ、そんな! そんな相手だったなんて……えっと……その……」

 言い淀むまどか。この街にいずれ到来するモノが強大なのは以前この部屋でまどかも耳にしている。だが深く話されることは無かった。被害の想像はほむらたちの予測よりずっと規模の小さなものだったようだ。

「大丈夫」

 巴マミの返答は晴れやかだった。

「私一人じゃ無理だったでしょうけど、暁美さんがいてくれたおかげで計画も順調よ。ね?」

 同意を求める呼びかけにほむらは頷きで応じ、視線を右往左往させるまどかに微笑みながら向き直った。

「撃退できる準備はもう少しで整うわ。今日はその最後の打ち合わせに来たの」

「それにそれほど強大な魔女が現出するとなれば相応の時間もかかるだろうし、雨風とか揺れとかが徐々に強まっていくのが観測所でも分かるだろうから、魔女が見えない普通の人はそこからの避難警報とかで危険は察知できると思うわ。ここの市民が郊外や避難所に逃げ込めるだけの時間もあるはず」

 今日までの数日、強い風が見滝原市には吹いていた。気配は未だないが……これも一つの"前兆"であるのかもしれない。だがまだ穏やかな方だとほむらたちは考えていた。(こずえ)を絶えず(わめ)き立てる風ではあるが、出現日には周囲に及ぼす影響の濃さから現在の数倍の激しさになるだろうと予想していたからだ。

 とはいえその呼称の元となったと思しき――"同じ名のかの宴"が初めてそう名付けられた時代ならばともかく、迅速な移動手段の豊富さと頑強な建築がもはや当たり前となった現代では、出現までの時間は強大であるほどに魔女側に不利に働き、また避難場所を破壊するにしても相応の時間を要求されるはずである。

 己が生きる時代の長所は、マミが僅かに助言するだけで、残りは口にせずともまどかに伝わったようだ。

「それにさっき危ないって言ってたそこに置いてあるのも、その作戦で使うものよ」

 マミが指差すのは部屋の隅でありそこを占拠している積み上げられた二十個はあろう段ボール箱が作る山である。まどかが部屋に上がった時に真っ先に注意するよう言っておいたソレ等は、大半が飲料水の缶が一ダース入るかどうかという程度の小包ではあるが――荷造りでもないのにその数の多さは少々異様であった。

 箱自体には真新しくはあるもラベルが剥がされたらしき痕跡があり……そもそもどれもガムテープで軽く封がされているため内にあるものを容易に窺い知ることは出来ない。が、まどかには注意時の説明ついでに炸裂の魔法がかけられた危険物だということは伝えてあった。嘘はなく深入りしない者ならば概ね理解はそれで間違いはない。

「な、なぁんだ」

 明確に何かは分からなくとも、目に見えて切り札の一つだと指摘され少なくともまどかは納得したようだった。重要な場面で冗談を口にしそうにない二人の内一人に、最初に真顔で迂闊に触ればこの部屋があるマンションごと木端微塵に吹き飛ぶと言われていたことも、今や心強い裏付けとして機能したのかもしれない。

「びっくりさせちゃったかしら?」

「そうですよマミさん! あ、分かってて暗い雰囲気だしてましたね」

「バレちゃった? ごめんなさいね」

 和やかさを取り戻した場に傍で見ていたほむらの微笑が響き、思わず誘われた小さな笑声がそれぞれ重なる。

 ほむらからしてみれば鹿目まどかがワルプルギスの夜の強大さに必要以上の関心を寄せる前に早々に話を切り上げたかった為、話題を引き継いだマミに対し内心が思わず表情に出そうになった。だがそうならないように努めたのは正解だったらしい。

 偶然か必然か。誰のための言い回しなのかすら分からないが、ほむらにとって都合が良かったことは確かだ。これまでの傾向からして黙って様子を見てみる価値はあった。

『また何者かが侵入したとしても大量の商品を運び出した形跡やその後の逃走手段も提供された資料からは確認されず。県警では、あらゆる可能性を考慮し事件としても捜査をしているが消失した商品の発見に著しく影響が出ている――としています。今後は防犯カメラの映像の解析を行うとともに、被害店舗から指紋等を採取することで調査を進めるとしています』

 笑いに一息ついたところで、マミは忘れていたことに気付いたように時計を見た。

「暁美さんはもう少しよね。この街の存亡にかかわるんだから、時間が来たら遠慮せずに行きなさい」

 マミの言葉に返事するほむら。視界に入ったのは小首を傾げたまどかだ。

「あれ? ほむらちゃんはどこかに行くの? 今から?」

「えぇ。さっき言ってた魔女の相手をするのに必要なものをこの週末を利用して取りに行くの。国内だけど遠いところにあるから」

「な、なんだかスゴイね。よくお話にあるような悪魔を祓う宝石とかそういうの?」

 まどかは明らかに冗談交じりと分かる口調で問う。マミが含みのある小さな笑い声をたてた。

「そうね。そんなところよ」

 ほむらもマミの反応を真似て微笑を浮かべながら頷く。

 実際はそのような夢物語めいた煌びやかなモノではない。とはいえ形はどうあれやはり魔を祓うためには必要となるものなのだ。変に興味を持たれてはいけないと思うなら……なによりまどかの方も安易に首を突っ込むのを躊躇っている様子なら、この生返事で適切だった。

『消失したモデルガンは本体価格数千円のものから数十万円のものまでと様々で、サバイバルゲームなどに使用されるような内部に発射機構を備えたものが主となり、高額になれば重量また発射されるプラスチックの弾の威力も大きくなるものがいくつかあるとのことです』

 長々と引き伸ばされた謎の消失事件のニュースもいよいよ終盤に差し掛かっていた。画面にはモデルガンによって撃たれた空き缶が衝撃で宙に舞う様がスローモーションで映され、テロップはありきたりな語句で危険性を訴え出す。

 新たな事件へと発展する可能性まで話を広げた報道。全国放送ではまずありえない――地方の番組だからこそこの摩訶不思議な事件の紹介に時間が割かれたのであろうが、手元に取り分けていた菓子の最後の一口と紅茶の残りを"処理"しながら他の二人と同じく眺めるほむらにしてみれば、今や舌先の感覚よりも気にかける映像では徐々になくなっていた。

 だがあくまで内容が耳に入れるほどの価値がないと思えただけだ。もっと根本的な部分――関心を寄せたこと、それ自体が問題視すべきことだとほむらは感じ始めていた。

 たまたま自覚出来るほど気付いたのがこの報道だったというだけで、あるいは己でも気付かない内に必要以上に目を向け過ぎるようになっているのではないか。

 順調に物事は進んでいる。当然終着駅を目指すためだ。不意にゴールとなるのも有り得そうならこの場でも削れるだけ身を削ることに変わりない。

 だとしても"此処"で会得しようとした最低限はすでに巴マミから教わっている。そのことを今一度吟味すべきだろう。

 幸いこれから行くのはその"過度な期待"をもたらすかもしれない場所だ。まだ心意の見えない巴マミの傍に鹿目まどかを残すオマケまで付く。少しの期間とはいえ保身(『暁美ほむら』)の粗を捜し苛める材料を得られそうな条件ではないか。

『犯行と断定されたわけではありませんが、使い方を誤れば危険なものであるということから、各所では付近の住民や同商品の取扱店などに注意を呼びかけ安全対策を強化しています』

 どうにせよ。決戦の日にしくじれば街は壊滅を免れない。この玩具消失事件の捜査が続けられる環境が残るかどうかはほむら達の肩に掛かっているのだ。

 そういうあたかも皮肉めいたものが、いつしかほむらが信じる他なくなった"運命"というが如何にも好んで用意しそうな話のようでいて……虫唾が走ると同時にほんの少しだけ、安心もしていた。

『次です。美国久臣県知事が対談。開発地区の今後の予算案について――』

 


 
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