No.1018866

九番目の熾天使・外伝 蒼の章 蒼崎篇 

Blazさん

久方ぶりの蒼崎さん篇。
リハビリも兼ねて頑張ります。

イメージソング「Bright Burning Shout」 (Fate/Extra Last Encoreより)

2020-02-04 23:26:49 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:188   閲覧ユーザー数:183

 二小節 「雨の日」

 

 

 

 

 

 楽園に存在する転送装置から次元転移を行った蒼崎に最初に襲い掛かってきたのは、これでもかというほどに降りかかる冷たい雨のシャワーだった。

 

「うわっ!?」

 

 降り注ぐ雨を転移して直後に受けてしまった蒼崎は慌てて手で顔の上に雨よけを作るが、雨の量がかなり多く激しいためにとてもではないが防ぐことができず、どうにかして雨宿りできる場所を探そうと辺りを見回す。

 幸い、周囲には多くの木々が生えている森に転移したことから蒼崎は急いで適当な近くの木に駆け込み雨をしのいだ。

 

「くそっ……転移していきなり雨かよ!」

 

 木の下に避難し雨を服から払い落とすが、既に多くの雨水を吸った服が肩から胸にかけてが濡れており肌に雨の冷たさが伝わり始めていた。薄着でもないのだが、と言いたくなるほどの雨の激しさは彼にとって完全な不意打ちで雨具の類を持っていないので動くにも動けなくなってしまう。

 無論、雨の中を強引にというのも無いわけではないが、それはそれで果たして無事にということになる。なので蒼崎はいきなりおいそれと動くこともできず、森の中で立ち往生するこことなってしまった。

 

「最悪だな……いきなり足止めを食らうなんて……」

 

 まさか来ていきなりということに驚き呆れるしかない蒼崎は木に背を預けて小さくため息をつく。彼の悪態を聞くものなど誰もいないので思う存分に天気についての文句を吐き散らし、目では濃く分厚い雨雲を見上げて天気の変わり目が無いかとみていたが、その気配もなければ雨が弱まる様子もない。

 

「ダメだこりゃ。当分止みそうにないな……」

 

 止まらない雨の音に止むのを待つということを諦めた蒼崎は、仕方ないと見切りをつけて次の行動と対策を考える。雨だから動けないのは分かるが、だからと言って仕事をすっぽかしたりだらける理由にはならない。一つ目の方法、作戦がダメなら次の策を。経験からくるこの思考は蒼崎にすぐ次の行動を起こさせた。

 

「そういやこの世界に調査員がいるって言ってたな」

 

 団長のクライシスから現地に調査員がいることを思い出した蒼崎は携帯端末を取り出して連絡を試みる。取り出した端末は周波数と回線の暗号方式を設定することで最大20キロ圏内の相手と誰でも、何人とでも話せる優れもので使用される暗号も旅団で開発されたものを使っているので特定されにくいものだ。

 その端末を操作し、教えられた調査員との連絡用の回線を開いた蒼崎は先に聞こえてきた声に応じる。

 

『──―こちら旅団調査班。コードネーム「スミス」。そちらはNo.8か』

「……こちらナイン。ああ、そうだ。俺が蒼崎だ」

 

 No.8は蒼崎の旅団でのナンバーで、参加した、もしくは加わった順でナンバーがつけられる。後期ナンバーからは序列が強さに直結するわけではなくあくまでも加わった順として割り振られている。これは初期メンバーであるオリジナルメンバーもそうなのだが今回は割愛する。

 開口一番にナンバーを聞いた調査員は、その後旅団内で決められた合言葉を交わすと、警戒していた声から鋭さが抜け、親し気な声で話しかけてくる。

 

『確認しました。任務ご苦労様です、蒼崎さん』

「ああ。だがすまねぇこの雨で足止め食らった。移動しようにもどこへ行けばいいか全然わからない」

『……のようですね。こちらでも蒼崎さんの転移地点のズレを観測しています』

「やっぱズレてるよな」

『はい。よろしければ私がナビしてひとまず人気のありそうな方面に案内しますが』

「……頼む。あ、あとできれば──―」

 

 雨具ですね、と気の利いたことを言ってくれる調査員──―ここではスミスと──―に感謝を述べて蒼崎は端末を片手に森の中を移動し始める。

 足取りは軽く、幸いにも雨のせいと言って地面がぬかるんでたが大したものではなかったので進むことには雨以外の問題もなく、その後アクシデントもなかった蒼崎はその後一時間とかからずに人の手で整備されたコンクリートの道路がある場所に出ることに成功する。ひとまず人気のある場所である街も見えて安心した蒼崎は足を進めるが、その後雨宿りどころか雨をしのげる場所がなかったせいでさらにずぶ濡れになってしまった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 近未来の世界。今よりも少しだけ技術の発達したその世界は未だかつて戦乱の中にあった。世界各地で発生する戦争、紛争は多くの被害を及ぼし、人々の活力は徐々に奪われていく。見えない戦いの終わりに蝕まれていく。

 それは戦争とも無縁な日本にも言えたことで、影響は良くも悪くも国を動かしていた。

 が。そんな日本には他の国にはない、ある問題を抱えていた。

 認定特異災害「ノイズ」と呼ばれる存在が出現しておりその被害は各地に及んでいたのだ。当初謎の災害として認知されていたノイズは人に触れることで炭素分解を起こすという恐るべき能力を保有しており、それにより自らの身と引き換えに人間を炭素の塊にしてしまう。

 このあまりにも恐ろしいノイズの能力ともう一つある能力からノイズの脅威たらしめるのだがそれはいま語るべきことではない。

 斯くしてそのノイズに対抗するべき力として使われているのが

 

 

 

「──―シンフォギア。というわけだ」

 

 注文したコーヒーを口にするBlazに座っている彼のサポートメンバーは唸り、彼の話に聞き入るが、ふと何かに気づいた彼が突っ込みを入れる。

 

「って、鈴羽。俺、前に話したよな」

「うん。でも忘れた……っていうか覚えられないって」

 

 前に来たことのあった鈴羽に突っ込みを入れるBlazは言い出しっぺながら彼女の言葉に共感しており小声で「まぁしゃあないわな」とつぶやく。彼もシンフォギアのことを聞いた時最初は何のことやらと首をかしげて、それを知るにも時間を要した。それを鈴羽も今実感しているのだと思うと彼もなにも言えず、溜息を最後に話を区切る。

 その彼の次に話題を切り出したのは一味の参謀役でもあるミィナだ。

 

「で。話を戻すと、今回はそんなトンデモ世界に逃げたレリウスをとっ捕まえるってわけ」

「あの変人オヤジめ……とんでもないとこに逃げ込んだ……いや、来たもんだな」

「まったくそうね。過去に一体どれだけの世界を渡ってるのやら、あの博士は……」

 

 頭を抱えて答えるミィナは頭痛治しの良薬ではないがミルクティーを口につけてカフェインを摂取するが、当然それでどうにかなるわけでもないので彼女もまた小さな溜息をつく。

 

「竜神丸の話も合わせると並行世界にも手ぇだしてたみたいだからな……」

「……まさか、並行事象同時並列思考……なんて」

 

 というが、最後にはもう一度盛大な溜息で締めくくられる。

 あることない事を言って茶を濁すが、彼らにそんな余裕は実のところない。今回の任務であるレリウス捜索は過去に数度行われたことがあり、そのすべてにおいて旅団は捜索は成功するも捕獲も排除も失敗している。

 これで数度目の正直ということもあり、旅団にとっては失敗の許せない任務で任務に駆り出されるナンバーズ及びサポートメンバーは神経をとがらせている。

 

「話は大体わかりました。で、そんな危ない世界に今回レリウス博士が来た理由って、なんです?」

「それがわかれば苦労はしないのよ、アチャ子……」

「どの世界もロクなもんでもないしな……」

 

 とはいえ、確かにアーチャーの言う通りレリウスの目的と言うのは毎度のことながら判明できてないのもまた事実で、それを知るのは竜神丸だけ。その当人も「確証がない」の一点張りで答えようともしない。結局、アテにできないということで他のナンバーズが駆り出されているのだ。

 

「ってわけでだ。俺らはレリウスが来た目的を探ることが主な任務だ。蒼崎にゃあ悪いが俺らは俺らでウサギからの仕事を片付けるぞ。あの仮面オヤジの目的、さっさと見つけねぇとな」

 

 今回Blazたちは旅団の依頼ではなく、レイチェル=アルカードという吸血鬼の姫からの依頼で、この世界に訪れていた。これは団長クライシスも承知の上で、蒼崎の任務とは同時かつ別で行われるというもので、それだけでこの任務がどれだけ重要視されているか、今回の任務は失敗が許されないものであり、レリウスが持つ情報、目的が危険であるかもわかるだろう。あまりわからないという実状でも、それだけの恐ろしい何かを企んでいる。それがレリウスという男だ。

 

「うっし。んじゃ話すべきことも話したし、行動開始と行くか」

 

 席から立ち上がり、肩を回して筋肉をほぐすBlazに面々がそれぞれの返事で答える。

 

「班分けで行くぞ。まず俺は鈴羽ともう一度あの塔の跡地に行く」

「はいはーい。あそこの機材はまだ生きてると思うから、任せといて」

 

 目の前のドクターペッパーの缶を飲み干した鈴羽が立ち上がり腕を交差させて準備運動を始める。

 

「ミィナはニューと指定された場所に行っててくれ。あとでそこで全員合流だ」

「オッケー。ニュー、ほら起きて。いくよ」

「ん……みゅぅ……」

 

 Blazの右側に陣取っていたミィナがその隣で熟睡していたニューをゆすり起こそうとするが、すっかりと夢の世界に旅立っていたニューの顔にまたも溜息をつく。

 

「ってことは私はアルトさんとですね」

「そういうこった。アルトと一緒についてって情報集めてきてほしい。頼めるよな」

「任された。……っていうが殆どアタシの情報だよりだろ?」

 

 それぞれジュースとコーラを飲み干したアーチャーとアルトが立ち上がりBlazに目を向ける。アルトは何か考え事をしていたようだが、自分に話がふられると気が付き、つけたサングラスの奥から瞳をのぞかせて言葉を返す。

 今回はアルトの言う通り彼女の持ち帰る情報も必要になるため、彼女頼りでもある。

 

「そうでもあるわな。ま、一概にってわけでもないけどよ」

「なんだよ、負け惜しみか?」

「負けてねぇっての」

「昨日のクロガネでの賭け金……」

「よーし、さっさと行くぞー」

 

 ……逃げたな。

 そそくさと捨て台詞吐いてその場から離れるBlazの後ろ姿に一味全員が同じことを考えるが、それとは別にアルトの言葉で昨日のことを思い出した数名も目を合わせずに流れ解散の流れに乗って逃げだした。

 結局その場に最後まで居たアルトとアーチャーは敗走する三人の後ろ姿ににやけ、苦笑いをしていた。

 

 

 

 

 

 ここで今回の彼らの任務を軽く説明しておく。

 内容は先述通りのものだが、今回はそれだけではない。

 レリウス=クローバー。彼が関わった研究の一つに危険なものがあると旅団の調査で判明したのだ。

 その研究とは境界に投下しマスターユニット【アマテラス】に接触した素体である第一素体。その素体の一部を搭載した次元境界接触用素体。旅団では彼女を【1.5(アイズ)】のコードで呼び、確保に乗り出した。

 次元素体ということもあるが、それ以上に彼女の能力が危険であるということが大きな理由で、この案件はレイチェルからもたらされた情報でもあり依頼でもあるが、同時に旅団でもこの情報を耳にしており、その任務を承諾したことから旅団の任務でもあった。

 それを今回、Blazらが請け負い、行っているが同時にレリウスの確保も重要であるということから蒼崎らが駆り出された。その為、今回の任務だけでナンバーズが複数名、動員という物々しさとなった。

 

 

「しっかし雨たぁ幸先わりぃな、オイ」

 

 全員が集合していた場所から離れようとしていたBlazと鈴羽。しかし彼らの頭上には曇天の空と、そこから流れ落ちる雨が降っており、動こうにも雨音と肌につく湿気でやる気どころか出ようとする意欲すら失せてしまう。

 雨模様の天気にBlazは頭を掻いてどうするかと考えるが、その隣では……

 

「これは当分止みそうにないか。傘持ってきといて正解だったね」

「……おい。俺、傘持ってないんですけど」

 

 鈴羽が何の気もなく携帯式の傘を取り出し、当たり前のように開かせるが、それをBlazが持っているかというとそうではない。現地が雨であるとは思ってもなかった──―というよりも、持ってくるのが面倒だった──―彼は傘を携行してなかった。

 それを告白するBlazに傘を広げた鈴羽は

 

「……あ。そう、んじゃあとは頑張れ」

「まさかの戦力外通告!?」

 

 と、冷たく返すそのセリフにBlazは反発。

 その後、なんとかコンビニを見つけた二人はそこで小休止を入れた後に目的の場所に向かった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 時を同じくして、蒼崎はようやく雨の世界から脱出して市内にある大きなショッピングモールに訪れていた。

 買い物にでも来たというわけではなく、彼と最初に通信した調査班のスミスはここにあるフードコートで合流しようと提案してきたので、ほかに行く当てもない蒼崎はそれに素直に乗ったというだけ。少なくとも寒く雨降る外よりはマシというだけでの単純なもので特に言い返すこともしなかった彼は急ぎ足でモールに駆け込んだ。

 

「はぁ……ったく酷い雨だな」

「ご苦労様です。コーヒー買っておいたので、どうぞ飲んでください」

「どうも。……で、アンタが今回派遣された隊員か」

 

 モールの一角に存在する広々としたフードコート。そこは軽食や休憩に訪れた客でにぎわっており、平日のしかも雨で客足が遠のくはずがむしろここに集まっており、これまた多く存在するファストフード店に列を作っていた。

 しかし蒼崎はそんな店の列に加わることもなく、スミスのいる小さなボックス席に座り自分が座るだろう席に置かれていたコーヒーを口にする。

 苦味のある普通のコーヒーに特に感想もない蒼崎は一口つける前にスミスに問いを投げた。

 

「現地調査担当、コードネームはシーカーといいます」

「”シーカー”……探索か。なるほど、現地調査には持ってこいだな」

 

 スミス、改めシーカーはそういって軽く会釈を行い意気込みのある顔を見せる。年齢は二十代半ば。顔つきはアジア系で黒い髪と茶色系の瞳をしている典型的なアジアン系だ。

 本人曰くいわゆる日本系の家系の生まれらしい。

 

「んじゃまずどこから話す?」

「そうですね……ひとまず……このタオル使ってください」

 

 

 

 蒼崎が渡されたタオルで頭をふいている間、シーカーはタブレットをテーブルに置き指を一本、端にあるくぼみに押し込んで起動させる。今の携帯にある指紋認証型の起動方法で旅団のタブレットはそのほとんどがこの方式を採用している。

 そのタブレットを起動させたシーカーは蒼崎の返事も待たずに話を切りだす。

 

「状況は依然変わらず、対象がこの世界に転移したこと以外詳細は不明です。調査班総出で捜索していますが向こうは異空間に隠れているのか、それとも何か別の方法で身を隠しているのか……ともかく足取りはこの世界に入ったという時点で消えています」

「……でもこの世界に来たってことは少なくともこの街……いやこの国に用があるということだ。他の国に比べて、この国は事件だらけだからな」

「そうですね……で、その後の足取りは不明ですが、この世界に来る前にこちらで入手した情報が一つあるんです」

「情報? なんの情報だ」

 

 タオルで水気をとった蒼崎の言葉にシーカーはわずかだが戸惑いを見せて間を置くが、すぐに決断できたのかその情報を蒼崎に教えた。

 

「……次元素体、および人体をベースにした術式礼装。厳密に言うなら次元素体とは異なるコンセプトで研究されていた高次元干渉礼装のデータです」

 

 シーカーの言葉に蒼崎はタオルの奥から細くなった目をのぞかせ沈黙する。しかし、それは話を進めてくれという意味であることは彼も変わっていたので報告を続ける。

 

「次元素体が境界への干渉を目的としたのに対し、この干渉礼装は文字通りこの世界よりも数段階上の次元に干渉できるためのもの。私たち三次元のさらに上の次元に干渉するためのものと思われます」

「高次元……ね。あのオッサン、なに考えてんだか」

「レリウス=クローバーの目的が判明しない以上、どうとも。ですがこれが研究の一環であるということは確かです。何かしら目的がなければこんな研究はしないと思います」

「……そうだな。ほかにわかっていることは?」

 

 頭を掻いて僅かに残った雨水を髪からはじき出す蒼崎に、シーカーは「そうですね……」とつぶやいて集まった情報を話し続ける。

 

「そうですね……事件とはあまり関係ないのですが、実はこの世界で何度か次元転移を行った形跡があるんです」

「次元転移を?」

 

 次元転移は世界から世界に移動するための技術で、その技術力は極めて高いものを要する。本来、出れるはずのない世界から別の世界へと移るということを行うのだから並大抵の技術では、世界から出ることすら叶わないだろう。

 そしてそれはこの世界も同じ。だが、次元転移の技術がいまだ空想のおとぎ話である世界で転移ができているのだから、それはあまりにおかしなことだ。

 

「確かなのか?」

「ええ。ですがその転移も同一世界線の転移ではなく並行世界への次元転移ばかりで、こちらへの移動は見られません。そういうシステムなのでしょうかね?」

「俺に聞かれてもな。とはいえ、そんな力がある世界だ。確実になんかあるだろうし、あのオッサンが来た理由につながってるかもな」

 

 確かに今回の任務には直接は関係のない話だろう。それでも貴重な情報であるというのには間違いなく、今回の一件に関わるか繋がるかあるだろうと考え蒼崎は素直にシーカーに感謝する。

 

「とすると、やはりこの世界の力に関係はあるんでしょうか」

「かもな。でなけりゃ……」

 

 次の言葉を口にしようとした瞬間、蒼崎は何を思ったのか口を止めてしゃべらなくなりそこから先を話すことをやめてしまう。唐突に止められた言葉にシーカーは訝しみ、何を言いたかったのかと聞こうとするが、それよりも先に蒼崎が再び口を動かしだす。

 

「……? なにかあるんですか?」

「…………いや。なんでもない」

 

 なにを言いたかったのか聞きたくなるシーカーだが、その好奇心は蒼崎の話したくないという意思表示の顔で言えなくなり、聞くに聞けなくなった状況にそれ以上聞くことをやめる。そこから先を聞けばどうなるかを、先に聞かされているかのように。

 

「……わかりました。ではどこから手を付けます?」

「情報はここまでか……なら……」

 

 少ない情報に蒼崎は考えるが、既にある程度はめぼしをつけていたのかシーカーが表示させたタブレットのマップに指をさす。

 

「まずはここだな、次はこっちに行ってみようと思う」

「ここに……ですか?」

「ああ。ここなら何かわかると思ってな」

 

 蒼崎が指を置いた場所にあったのは古い神社で、表示されたマップ情報にシーカーは不思議そうにそのデータを見つめる。

 データには神社は何年も前に跡継ぎの神主が居なくなったことで神社が廃れていったということで、今では無人となっているという場と記されており、シーカーは「隠れ家ですか?」と尋ねるが

 

「……なんとなくな」

 

 とだけ答えた。

 その言い方になにかあるとは分かっていたが、シーカーはあえて聞かずにその提案を承諾した。

 

「……わかりました。では蒼崎さんの意見を取り入れた形での捜索と行きましょう」

「すまんな」

 

 手がかりがほぼ皆無な今、頼れるのは足で見つけることだけ。蒼崎がなにを思いそこを示したかは分からないが頼りは彼だけということでシーカーは黙々と予定と計画を説明していった。

 

 

 

 

 

 シーカーとの打ち合わせで蒼崎は神社を始めとした祭祀施設を巡りつつ情報を集めることにしたが、これには訳があった。

 レリウスのことについてあまり知らない彼にとっては今回の任務は情報がほぼないと言っていいほどに少なく、そして思い当たる場所のない。完全にゼロからのスタートという状況で、手がありを探すところから始めなければならない。

 思い当たる場所のあるBlazと違いノーヒント同然だ。なので蒼崎は自分なりに推理し、考えられる場所へ行って手がかりを集めるしかない。

 

『……とは言いますが、神社を選んだのはなぜなんですか?』

「理由はシンプルさ。神社は神をまつる他に様々な役割を持っている。その土地の霊的守護、信仰心の維持と収集。そして霊脈……俗にいう龍脈の管理や守護とかな」

 

 神社が建立される理由はそのほとんどが信仰する神をまつることやたたえるのが主だ。その地に根付く付喪神、神話などで言い伝えられる日本特有の神など種は様々。ゆえにそういった神をまつる場所として建てられるが、その建立場所については諸説ある他に語られない理由というものがある。

 その理由の一つが神社による龍脈の管理だ。龍脈はいわばその土地の血管のようなもので、そこから生命の源が流れていく。龍脈のエネルギーはその土地の豊かさにも比例し、大きかったり近ければそれだけ恩恵を受けられる。

 

『龍脈の管理を神社で……ですがそういったものは……』

「そう。普通なら自然に封印されてたり隠されてるの以外なら大体は陰陽関係の連中や魔術師、魔導師の関係者が守ってるさ。龍脈……霊脈の類はそいつらにとっちゃ絶好の立地だからな」

 

 しかし。魔術師や魔導師などが居なかったり、その数が少ないとおのずとそういった好条件の立地は手付かずになったり、他の人間、それこそ無関係な神社の人間に使われることになる。無論理由なしでというわけではなく、その地に神が根差したり所縁のある場であるならそこに神社が建てられるのも道理。その結果、龍脈の上に神社がというケースができるのだ。

 

「……俺の知ってる限りじゃこの世界の日本にそういった連中が居たって話はほとんど聞かない。ってことは、大体が神社になってるかもしれないってワケだ」

『なるほど。龍脈に関係なく歴史的、信仰的な意味で建立されたものが多いと』

「だから、まずは神社に行こうっていうことだ」

 

 しかし、今回の任務の場所には複数の神社が存在し、その距離はバラバラに離れている。間が近いこともあれば遠いこともあり、ひとりで探すとなれば一苦労だ。シーカーは今回作戦の現地支援ということで実際に現地に赴くということはせず、場所を転々と移動しつつ情報を収集、解析に徹する。

 つまり今は蒼崎の足だけが頼りなのだ。

 

「しっかし、この雨どうにかならんのかなぁ……」

『降水確率は午前午後ともに80%。今日一日は諦めてください』

「そうですか……」

 

 斯くして始まった蒼崎の神社巡り。とはいえ本当に神社をめぐるのではなく龍脈を調べるのが目的なので、お参りにというわけにはいかないが、今の天気に蒼崎は本気で頼んでみようかと思いたくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、三方に分かれて行動を始めたBlazたち。その中でBlazは鈴羽とともにある場所に向かっていた。

 

「ったく、こういうとこに雨の日に降りるのは勘弁したいんだよなぁ……」

「そうだねぇ……なんせ、ほぼ垂直に下まであるからね……」

 

 目の前に広がるのは底なしの大穴。そこは自然にできたものではなく、人工的に建造されたものが崩壊して形成されたもので、元からできていた大穴がさらけ出された状態となってそこに広がっていた。

 周囲には人工物。それも大穴の周りと穴の壁には不思議な模様が描かれている。ところどころ壊れているが保存状態はまずまずだ。崩壊しているという状態から一見して古い遺跡のようにも思えるが、これが壊されたのは百年千年の話ではない。それよりも古いのではなく、最近破壊されたものだ。

 

「降下方法は?」

「前はアンカーで降りたけど雨だからな……地道にってのもむしろ落ちる危険性があるからな別の方法でなんとか降りてぇが、どうすっかな」

 

 降下方法を考え、穴の淵で座り込んだBlaz。

 だが、その直後に彼の視線は深淵の穴からあらぬ方の空へと動かされ、聞こえたというよりは感じたと言った方が正しく、顔を向けたときは何もなかったその風景は次の瞬間、わずかに遅れて聞こえてきた爆発音にBlazと鈴羽は音と煙の方角を凝視する。

 さっきまでは無かったもの。その一瞬で現れた灰色の煙が立ち上り、曇天の空に混ざらない色を浮かび上がらせた爆炎だ。

 

「……煙?」

「あの方角……墓地か?」

 

 上っている煙の方角の記憶を呼び起こすBlazは行動を起こそうとするが、それよりも先に端末に通信が入り、素早い連絡の入りに驚きながらも応答。通信越しに声を上げるミィナに聞き返す。

 

『今の爆発は!?』

「知るか。それより、爆心地の解析できるか」

『言うと思った。待ってて』

 

 言い返されるのを知っていたミィナが通信越しにキーの上に置いた指を走らせて爆発の起きた場所に対しての解析を行う。起きてまだ一分も立ってないのでエネルギーなどの残留物質は十分に残っていることから解析はすんなりと完了し、結果だけがBlazに報告される。

 

『爆破エネルギーに……なにこれ? 反物質?』

「あ……?」

 

 反物質というワードが出てきたことに思わず苛立ちにも似た声を出してしまうが、Blazは言葉に反して冷静で、通信越しのミィナに聞き返す。

 

「どういうこった。反物質なんてもん誰が……」

『知らないわよ。解析結果でそう出たんだから……でも反物質なんてのが出てくるなんて……』

 

 十中八九ロクなことが起きてないな。立ち上がり消えつつある煙の方角に同じ考えをしていたBlazとミィナはそろって細い目で爆発の跡を眺める。反物質というこの世界にも存在しないはずの物質が検知されているのだ。それを使える誰か、もしくは何かがいるということにほかならず、それを使えるも扱っているもなれば決して楽観できることではない。

 とはいえ、そんな物質を使った爆破を一体何のためにしているのか。気になったBlazは通信越しミィナと双眼鏡で眺める鈴羽に指示を出す。

 

「鈴羽、無線傍受できっか」

「できるけど、この手の場合は大体が専用回線か暗号回線だから時間かかるよ」

「構わねぇ。あの爆発だ、連中(・・)が出てくるのも時間の問題だ」

「……わかった」

 

 Blazの指示に小さく頷いて籠手に装備されている小型のパソコン型端末を起動させる。

 

「……で。ミィナ、あそこ他になんかあるのか?」

『ちーとまってね……うーん……墓地と廃墟、のほかには……廃棄された神社ぐらい?』

「……神社?」

『そう、神社。そんくらいね、予想爆心地のあたりにあるのは』

 

 

 

 

 

 その爆発を目にした蒼崎は、聞こえた破裂音を衝撃波、そしてわずかに漂ってくる焦げ臭いにおいに焦燥感にかられ、廃墟の道路を走り出した。

 今まではのんびりとしつつも早歩きで雨水が極力かからないようにしていたが、立ち上る煙と音、そして無線から聞こえてきたシーカーの言葉に言いえない焦りが彼の中からあふれ出る。

 

『あの方角は……目的地?』

 

 目的地を爆破された。その結果は蒼崎にとってはさして重要ではなかったが、それを爆発させたということに彼の直感は結論をはじきだしていた。

 爆破させたということは戦闘以外で考えられることは一つ。誰かが龍脈のことを知り、それ諸共、破壊するために行った。

 可能性は他にもあるが、戦闘や無作為は考えにくい。戦闘であればエネルギーを先に感知できる。であるなら無作為、実験。もしくは。その中で蒼崎は誰かに先を越されたを考え、これは誰かの先手であるとみて無線越しのシーカーに叫ぶ。

 

「シーカー、最短ルートは!?」

『人使いの荒い……そこを右に曲がってください。林道になってその先に墓地があります』

「墓地って、そこ通るのかよ!?」

『あとは瓦礫と雑木林です。そこで足をとられるよりはマシですよ!』

「それもそうかね……!」

 

 シーカーの案内を信じ、今は進むしかない蒼崎は言葉の通り進んでいた廃道を右に曲がり、そこからさらに墓地に続く坂の道路を駆けあがる。坂道ということで歩く速度は多少遅くなるが、蒼崎のように鍛えられた人の脚力であれば誤差は許容範囲内だ。緩やかだが地味に足に来る坂道に蒼崎は時折聞こえてくる最短ルートを頼りに目的地に急ぐ。

 ……しかし。次の瞬間、蒼崎が墓地に差し掛かりあと少しで爆心地というとこで再び衝撃波が巻き起こる。

 

「ッ……!?」

『これは……転移反応!?』

 

 巻き起こる風に足を止めて力を入れる蒼崎は同時にやってくる横殴りの雨に目をふさがれる。転移時に発生する衝撃波は先ほどの爆発よりも抑えられてはいるが、それでも急な突風の風と共にやってくる雨の妨害に蒼崎は停止を余儀なくされ動けなくなってしまい、彼の足をそこで止めることが目的であるかのようにくぎ付けにされてしまう。

 

「くっ!」

 

 いつもならこんな突風でも動けるはずが雨で足場が悪いせいで動きが鈍ってしまう。しかも雨が正面から襲ってきているので眼鏡などをつけていない蒼崎は気づかぬ間に入ってくる雨水に目を奪われてしまう。

 そして、その風と横殴りの雨が終わった瞬間、蒼崎の脳裏には諦めの言葉と抜けていく緊張感があった。

 

「…………!」

『転移反応消失……対象、ロストしました』

 

 

 風が止み、降り続ける雨を見に受けながら転移が終わった爆心地にようやくたどり着く。

 蒼崎が目にしたのは坂の上に作られた墓地と、その上にスプーンで抉られたかのように消えている石階段の前半だけが残っていた。

 

「抉られたのはあの先か」

『のようです。しかもぽっかりと綺麗な穴が……まるでアイスをすくったかのようですね』

「ああ。綺麗にできてるな。ご丁寧にあそこで転移しましたよって言うくらいに」

 

 墓地の中にある道を進みながら抉られた跡地を眺める蒼崎。その映像はシーカーにも見えているようで、互いにその無残に食われ消えてしまった光景を見て眉を寄せていた。

 神社のあたりだけを綺麗にえぐり取り、食ってしまったかのようなこの光景は先ほどの((転移|……))による影響であるのは間違いなく、残されたのが丸くかたどられた地面と続いていた石階段だけというありさまに二人の中には恐怖よりも無念さと疑問があった。

 

『……蒼崎さん』

「わかってる。これは……」

 

 ここにきてすぐに浮かんだ共通の疑問を口にしようとしたシーカーに蒼崎は全てを聞くまでもなくそれを制し、彼と同じ疑問を考える。それはここに来るまでと来た時に起きたこと。今見えている光景を目にして二人がすぐに持ったごく自然な疑問。

 その疑問への思考、推察を行おうとした時。蒼崎の後ろから足音が響き、駆けあがってくるのが聞こえてきた。近くにいた誰かが爆発などを見聞きして気になってきてしまったのだろう。危険な場であるとわかっているが、それをほっておくほど人の精神が図太くもなく、むしろ誰もがその原因を知りたいと思うのはごく自然のこと。

 しかし、今はタイミング的にも間が悪く、蒼崎はその音に気付くと舌打ちをして、危険な場へに現れた人物の姿を目にする。

 

 

「ッ……誰だ、こんなとこに来るバカ……は……」

 

 振り向いた蒼崎の顔が、そこに居た女性の姿、顔を見て動くのをやめる。表情筋が、口が、目が動くという動作を停止し、瞬間、目にした女性の姿に蒼崎の体だけでなく思考すらも停止してしまう。

 まさに完全な停止で、彼の周りだけ時間が止まっているかのように動かなくなるが、それは墓地に姿を見せた女性も同じだった。

 

 

「──―」

 

 

 目の前にいる女性も階段を上り息を整えて顔を上げた時に蒼崎の顔を見るや、目を大きく見開き、目の前で振り返った蒼崎の顔を凝視する。

 目に映る互いの顔に思考が停止し、硬直してわずか三十秒強。

 先に動いたのは女性の口だった。

 

「──―あ……あなた……は」

「…………」

 

 聞こえてくる女性の声に蒼崎の思考が再び動き出す。しかし、それでも彼の顔は驚愕の色を失っておらず見開いた目で女性の姿を目にしつつ脳裏から沸き起こり再生される記憶を目にする。

 同時に目にする景色と記憶は全く同じではないが、蒼崎にとって。そして、彼女にとっては重要なのはその姿で、震える口は蒼崎の顔を見て再び動き出す。

 

 

「あなた……は」

「……まさか」

 

 現れた女性の蒼崎の口もようやく動き、小さく。それでも確かに蒼崎は確信めいた言い方で彼女の姿に口を動かす。

 ──―彼女はまさか。

 そう言いかけたその時。

 

 

 

「お前は…………!」

 

 

 

 目の前の瞳に、揺らめく怒りの炎が見えた。

 刹那。女性の目が鋭く、歯をきしませて全身に力を入れ、全身から溢れ出す怒りのままに声高く叫んだ。

 

 

 

「お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「…………こんな形で会いたくはなかったな。マリア」

 

 叫ぶ女性、マリアの姿に蒼崎は静かにそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 次回予告

 

 

 

 Blaz「毎度思うんだが、予告って先ストーリーできてからやるもんじゃねぇか?」

 

 ミィナ「それBlazが言うかな」

 

 Blaz「デスヨネー……ってかそろそろ頑張って書かねぇとな……」

 

 ミィナ「ハイ、リアルな話はここまで! 次回「雨の日・聖女の目」」

 

 

 マリア「ところで……これストーリー的に収拾つくの?」

 

 アルト「そこは諦めとけ。Blazだから」

 

 Blaz「なんでそういうの言うかな!?」

 


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