No.1001720

愛しい人へ。物語編-最優先事項-

炎華さん

物語風にしてみました。

2019-08-13 10:12:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:79   閲覧ユーザー数:79

玄関のドアを開けて中に入ると、弟が受話器を手に取るところだった。

『弟』といっても、実の弟ではない。

彼氏のの弟だが、もうすぐ本当に『弟』になる。

 

「はい、もしもし。」

不機嫌な声。

眉間に寄せた皺。

受話器を上げると同時に、舌打ちが聞こえたようだったが。

そんなに面倒くさい相手なのか。

 

靴を脱ぎながら、弟を見上げると、電話の相手の声を聞いたまま、

私を見下ろす弟と目が合った。

が、表情はかえない。

耳に受話器をあてたまま、空いた手で長く伸びた前髪をかきあげる。

その動作がやたら決まっている。

騙される女の子が沢山いるんだろうなぁ・・

 

(いる?)

奥の部屋を指さす。

頷きながら、弟も同じく奥を指さす。

そのときだけ一瞬目が笑う。

だが、すぐに眉間に皺を寄せる。

 

上り框に上ったとき、受話器の向こうから、かすかに女の子の声が聞こえてきた。

(え?もしかして、彼女?)

でも、彼女なのに、そんな眉間に皺を寄せて、面倒くさそうに話す?

おまけに、舌打ち?

 

内容が気になりつつも、足早に弟の横を通り過ぎようとしたとき、

腕を掴まれ引き留められた。

 

「ちょっと待って。」

電話の相手にそう言うと、受話器を口元から外しながら、

「兄貴、まだ寝てるよ。」

 

毎度のことですから。

笑って頷く。

 

歩を進めようとすると、引き戻される。

まだ腕を掴まれたままだ。

訝しげに弟を見ると、

受話器を耳に当てながら、にやりと笑う。

 

なにさ?ここにいろって?

無言で弟を見るが、当の本人はかまわず電話の相手と話している。

 

「いや、明日はだめなんだ。

俺、そう言わなかったっけ?」

おだやかだが、かなりきつい口調で、電話の相手に言う。

「明日じゃないとどうしてもだめなのか?」

いやいや、そんな声と言い方だったら、引っ込まざるを得ないだろうよ。

好きな、大好きな人にそんな風に言われたら・・・

彼女、すごく会いたいんじゃないの?

だって、Dちゃんは明日久しぶりにお休みで。

 

「・・うん。じゃ。」

受話器を置いた途端、電話機に向かって悪態をつく。

「うぜぇな!そういうところが好きじゃねぇんだよ!」

ため息をつきながら、顔だけをこちらに向ける。

柔らかい前髪が、顔に落ちる。

「なんだよ、姉貴?なんか言いたそうだな。」

落ちた髪を邪魔そうにかき上げながら言う。

 

「電話の相手、彼女じゃないの?

明日、お休みだから会いたいんじゃないの?」

弟は、再びため息をついた後、面倒くさそうに言う。

「いいんだよ。

明日は姉貴と買物に行く約束だろ?

俺の服、選んでくれって言っただろ?

忘れちまったのかよ。」

「服だったら彼女と見ればいいじゃん。

私はそんなにセンス良くないよ。」

「いいんだよ!姉貴に見てもらいたいんだよ!

それに、俺が頼んだのに、ドタキャンしたくないんだ。」

 

弟とは長い付き合いになる。

歳の離れた弟は、小学生の頃から知っている。

弟の好きそうな服も、なんとなくわかる。

それでも、服なんて、彼女とデートの途中で一緒に見ればいいのにと思う。

姉と一緒に見たって、面白くないだろうに。

姉が買ってくれると思ってるわけでもなさそうだし。

 

弟は、煙草をくわえ、火をつけようと、ジッポーの蓋を開ける。

なんだよ、格好つけて。

片手でジッポーの蓋開けちゃってさ。

『JPS』なんて吸っちゃって。

煙草の味なんて、わかるのかよ。

それより、私の腕を開放してくれよ。

いつまで掴んでる気だよ。

そんなに『この』姉が好きなのかよ。

 

「・・・シスコン。」

「あ?なんだよ、それ?シスコンって。」

火をつけようとした手をとめ、斜めの角度で私を睨む。

カシャっと音がして、蓋が閉まった。

「私はにーちゃんもねーちゃんもいないから、よくはわからんけど、

普通、彼女とねーちゃんとどっちと一緒にいて嬉しいかっていったら、彼女じゃないの?

せっかくの休みに、ねーちゃんと一緒に服を見に行くって。

それって、どうなのよ?」

言い終わった私をじっとみつめてから、再びジッポーの蓋を開ける。

「姉貴、なんでそんなにあいつの味方するわけ?

もしかして、俺と出掛けたくないわけ?

一緒に歩きたくないとか?」

今度はちゃんと煙草に火をつけ、一口吸って煙を吐き出す。

 

かしゃ

 

蓋を閉める音が響く。

 

「そう!歩きたくないわけ!」

弟と歩くのが嫌なわけではないが、

全てわかった風のその態度と言葉に、

なんだかわからないもやもやした気持ちがわきあがってきて、

思わず口からでてしまった。

理不尽なのはよくわかっている。

が、もう止められない。

 

「Dちゃんといると、知らない女の人達に意地悪されるんだよ!

彼女だったらしょうがないと思うけど、

姉なのに意地悪されたんじゃ、ワリにあわん。」

 

まだ弟が高校生の頃だった。

やはりこんな風にせがまれて、一緒に服を見に行ったことがあった。

その時に、女性の店員さんに意地悪されたことがあった。

選ぶ服に駄目出しされ、弟の近くに寄れないようにされ。

 

「またぁ。

意地悪されたら、意地悪仕返せばいいんだよ。

いつもそう言ってるだろう?」

 

一緒に歩いていれば、わざとぶつかられ、嘲るように見られ、睨まれ。

だいたい、自分のものでもない男が誰と歩いてたっていいじゃないか。

そんなに格好のいい男を全部自分のものにしたいとでも思うのか?

いや!それより!

そもそも、こいつが、こいつが!

 

「ああー!もう!元はと言えば、Dちゃんが、女に愛想良くするからだろ!

冷たくしとけば、周りに被害も及ばないんだからっ!」

「なんだよ!いつ俺が愛想ふりまいたよ?」

「いつもだよ!いつもいつも!」

これじゃあ、恋人同士の痴話喧嘩だ。

「だから離れて歩いてるのに。

振り返って話しかけるな!横に並ぼうとするな!」

「なんでだよ!それじゃ、何のために一緒に出掛けるんだよ!」

 

えっ?何の?何のため、って・・・

 

「どんどん離れて行って。姉貴はちっこいんだから、見失うんだよ!」

だからって、くっついて歩いたら、彼女に見られていじめられるだろうが。

でも、『何のために一緒に出掛けるんだよ』、って・・?

買い物以外に、何かある?わけ?

 

複雑な顔をして弟を見ていたのだろう。

付け足すように弟が言う。

「それに、離れてたら庇いようがないだろうが。」

なんだ?それは矛盾じゃないのか?

庇われたら庇われたで余計いじめられるだろうが。

「ともかく。

俺は、明日は姉貴と服を見に行く。」

矛盾と私の疑問はそのまま流され、話は強引に元に戻っていく。

「それは前から決まってることだろ。

姉貴も、そのつもりでいてくれてる。

それを彼女だからというだけで、横入りしてくるのはどうよ?

そんな理由でドタキャンされて、姉貴、気分悪くねぇか?」

煙草の灰を玄関の石の上に落とし、再び口元に持って行く。

先端が紅くなるのを黙って見つめる。

「・・まぁ、悪くないとは言えないけど。」

返答を促す視線に、しぶしぶ答える。

「そうだろう?

あいつとの約束が先だったら、そっちを優先する。

今回は姉貴と服を見に行く約束が先だった。

だから、それを優先する。

なんか俺、間違ったこと言ってるか?」

そう言うと、薄紫の煙を細くひいたJPSを口に持って行く。

はいた煙に目を細めながら、私を見る。

指、こんなに長くて細かったかな。

そんなことを思いながら、

軽くため息をついてから答える。

「全然間違ってない。」

弟は目を閉じて頷く。

「あいつとは、会いたいときに会う。

会いたくないときには会わない。

それでいいんじゃないのか?

それとも、女は違うのかよ?」

「人によると思うけど。

でも、そんなんじゃ、いつか嫌われるよ。」

「それは姉貴が心配することじゃないよ。

そのときは、そのとき。

だから、明日は頼んだよ、って、ちゃんと最後まで聞けよ!

おい!」

弟が掴んだ腕を放したので、

弟の呼ぶ声を背中に聞きながら、奥の部屋へ向かう。

 

-会いたいときに会う-

-会いたくないときは会わない-

 

確かにその通りなのだが。

それが、常に一方通行だったら、どうすればいいんだ?

会いたいのに、相手は会いたくないと言う。

会いたくてしょうがないのに、今日はだめだと言われる。

本当に自分が愛されているのかわからなくなる。

本当に必要とされているのか、わからなくなる。

そんなとき、どうすればいいんだ?

 

「Dちゃん。そういう想いをしたことあるの?」

弟には聞こえない声で呟く。

・・・ないだろうね。

あったら、きっとそんな事は口にできないよ。

姉は、貴方みたいに恵まれてないんだよ。

だから、そんな風には言えないよ。

 

 

「姉貴、兄貴だって、俺と同じだぞ。

よくわかってるだろう?」

後を追いかけて来た弟が言う。

 

わかってるよ

わかってる。

 

「兄貴にとって、姉貴が最優先事項じゃねぇぞ。」

 

・・・わかってる

 

「それでも、いいのかよ?」

 

それでもいい。

・・・それでもいい、と、思っていた。

あのときまでは。

 

後に、

絶望して、想いを引きちぎるように出てきてしまった。

 

「いいのかよ?」

あのときの弟の声が聞こえる。

 

・・・全然良くなかったよ・・

貴方の言った通りだったよ。

最後の最後まで、最後の時まで、我慢できなかった。

いいんだと、思えなくなったんだ。

 

もしあのとき

いや、もうやめよう。

もう、過ぎてしまったことなのだから。

もう、終わってしまったことなのだから。

 


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