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レポート:3/15『非実在青少年』規制に関する緊急集会


2010年3月15日に都庁にて行われた、東京都青少年健全育成条例改正案の緊急集会に参加いたしました。この集会での模様を、議事録としてまとめましたので公開いたします。
会の進行順に、時系列に並べてあります。発言はなるべく編集せず、パネリストの発言をそのまま箇条書きにしてあります。文中すべて敬称略です。問題点、事実誤認等ありましたらご指摘ください。


【イベント名】
「東京都による青少年健全育成条例改正案と『非実在青少年』規制を考える。」
【主宰者】
「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」
(代表者)藤本由香里
(協 力)コンテンツ文化研究会
【日時】
 2010年3月15日 14:00〜16:00
【場所】
 都議会議事堂2F 第二会議室


■吉田康一郎(都議会議員)

  • 『児童が性的に搾取される問題』を解決するための方法論に問題がある。
  • 都議会議員内においても、精査する前になし崩しで進められているの現状である。
  • 妥当で当たり前の結論が得られるような形にしていきたい。

■保坂展人(民主党)

  • 条例というのは、大多数の人は決められてから中身を知ることが多い。
  • アニメや漫画を対象としている法案ではあるが、これをきっかけにありとあらゆることが規制の対象になる可能性をはらんでいる。
  • 明らかにいきすぎではある状況であった為、議論を行ったが「1日だけ」だった。

■里中満智子(漫画家)

  • 漫画はこれまで叩きやすいことからか、分かりやすいことからか、今までも執拗に叩かれてきた経緯があった。理解されなかった場合、作品の流通がしにくくなる為、中身を見てもらう必要性があったが、「見てもらうためにソフトな描写」にするような動きも見られた。
  • 健全な社会、子供のためという目的であれば、みな(規制をする人達)悪気なく規制を行ってしまう。今回の規制のように、「見せないようにすること」が子供の性の育成によいと思われていることは、決して悪いことではない。
  • ただそれは個人個人の意見であって、「これが正義である」と全体の考え方として広まってしまうのはとても危険なことである。
  • 表現者はみな覚悟して作品を描いているため、選びとるのは読者でよい。また表現者はここ(日本)で描けないのであれば、海外で描く等の選択肢を取ることはできるが、読者に対して公平に表現が届くことが大切である。
  • また今回小説はこれに含まれていないことはどういうことだろうか。かつて小説が世の中の若者に影響を与えたのは明白であり、今はどうなのか。漫画とアニメだけということはないはずだ。表面的なことだけで規制されるのであれば、「太陽の季節」はどうなるのだろう。
  • 議員の方々には次世代のために、変な闇が出来ないよう取り組んでほしい。

■竹宮惠子(漫画家)

  • 自分の作品が今回の規制に含まれてしまうのではないか、またこの会場にきている描き手の方々の相当数の作品が含まれるのではないか、と考えている。
  • 疑義をさしはさむべきと考え、意見書を作成させていただいた。
  • どうすれば本当に子供達を正しく育てることが出来るのかを考えなければならない。
  • 実情を知ることにより危険を回避することが出来ることもある。
  • 読むこと、買うことに意味を感じ救いになっている人もいる中、全てをなくすというのは業界としても考えられないだろう。

■さそうあきら(漫画家)

  • 今回の法律の目的を考えて欲しい。児童ポルノ法と同様の形にて、性的搾取をされないよう児童を守ることを、空想のキャッチボールである漫画に当てはめるのはどうなのか。
  • 「これは子供に見せられない」と言う例などいくらでもある。政治家の醜いやり取りは18禁にしてよいだろう。とも言える。
  • 子供に対しては隠蔽したり、押し付けたりすることで健全な育成が出来るわけではないし、子供は馬鹿ではない。嫌なものを見たら閉じることだって出来る。
  • 子供をもっと信じて欲しい。

■齋藤なずな(漫画家)

  • 理屈で考えるのは苦手だが、これを読んだ時にどうもおかしい、変なところがあると思った。私は親父向けのような漫画を描いているが、思い起こしてみると高校生のセックスを肯定的に描いてある作品もある。
  • 私の生徒である学生の作品を見ると、多くの作品が引っかかってしまう。彼らは高校生の頃の経験に基づいて描いていることが多く、性的なものが引っかかることが多い。そういった、学ぶ場所、漫画家としてのとっかかりがあるところで規制されてしまう可能性すら孕んでいるため、条例を通さないように、是非進んでいきたい。

■小川聡(漫画家)

  • 非実在青少年というロマンティックな規定をあげられるが、そもそも青少年は何を見ても性的に刺激されるものである。人間の妄想する自由は誰にも止められないし、侵されたくないもの。読んでてさすがにどうかという作品は確かにあるが、法律で罰してしまってはどうかと思う。
  • 私は青少年時代、永井先生のハレンチ学園等で情操教育をされた世代の人間でもあるが、職員の方にハレンチ学園はどうなのかと聞いた所「ハレンチ学園は大丈夫ですよ」と言われた。恣意的な判断に基づいて、施行される可能性が極めて高い状況であることを理解した。なんとしても阻止したい。

■永井豪(漫画家)

  • 私がハレンチ学園を描いていた当時、この法案が通っていたら世に出てはいなかったし、今の自分も違う自分になっていたのだと思う。マジンガーZのヒロインの描写も、規制にかけようと思えばひっかかってしまう。
  • 今後作品の単純所持がNGということになれば、違う犯罪等の疑惑で踏み込まれた際に、ポルノ漫画所持でしょっぴかれてしまう可能性も出てくるだろう。
  • 秋葉原に各国の人が訪れていることは、日本の魅力的なコンテンツにひかれてのことであり、それは自由に描くことが許されてきたからこそ、出来た土壌。韓国は規制をしたことで、この分野に関しては日本に30年遅れたと言われており、これらの知的財産権はハリウッド並の価値が生まれるとも言われている。それを潰しかねない法案が通ってしまったら、日本の未来にとって大変重要なことになる。マンガ産業が疲弊してしまったらつまらない国になってしまうだろう。
    漫画に携わるおもちゃ業界、放送業界、その他いろんな業界に多大な影響を及ぼすことを知っていただきたい。

■呉智英(京都精華大学客員教授)

  • さそう先生と違って、私は子供は馬鹿だと思っている。子供は馬鹿じゃないから犯罪をおかさないとは思わない。
  • そのうえで私がこの条例を危険だと考える論点は二つ。法律論と文明論からになる。
  • 基本的に行政が司法に対して意見を出すことが、許される場合とそうでない場合がある。
  • これはすばらしい漫画だから読んだほうがよい、読まない方がよいかもしれないなどと「検証すること」はよい。また良いものに対し「是非とも世界の方々読んで下さい」と啓蒙すること自体は問題がない。
  • ただし、これを描いてはいけない、読んではいけないと断じるのはNGである。
  • 禁止については常に警戒せねばならない。子供が性犯罪に走る可能性はゾーニングなどの方法で防ぐことが可能だ。
  • また、これまで日本は文明文化という社会秩序を守ってきた。多くの社会倫理を考えると、文化芸術などは、倫理とは別の論理で動いていることを先人は唱えている。
  • 人間や社会には暗い面、ネガティブな面があり、近代以前、本居宣長の歌論では悪を詠うこともあるとしている。明治のはじめ坪内逍遥や荻生徂徠においても同様に、社会や人間のネガティブな面を無視して、芸術や文化を描くことは出来ないと言っている。社会倫理で抑制することは、文化の活力を削ぐ可能性があるといえるだろう。
  • 私は法案規制反対を推進するわけではないが、描くことに対しては規制すべきでない、という反対の念を抱いている。

■森川嘉一郎(明治大学国際日本学部准教授)

  • オタクの皆さんにとって当たり前のことが、世の中には知られていない。
  • オタクは非オタの方々に、オタクであること、オタク的趣味そのものを隠すことを是とし、一般人のふりを徹するようなことをこれまでしてきた。ただし、しかるべき時には説明していくことも必要であり、今回はこれまで説明する努力を怠ってきたことも原因の一端としてあるかもしれない。
  • 以前、国交省にて海外で漫画がどう扱われているのかを調査することの、音頭役の依頼をいただいたことがあった。その際は6700万円の公的資金が使われたのだが、そのお金は丸々シンクタンクに預けられ、調査書が帰ってきただけの成果だった。
  • アニメや漫画に関わりの少ない方にとって、秋葉原で起こっているような文化の中心は「ジブリ」等によるものだと思われているようだ。ある職員の方に実際はアダルトアニメやゲーム等が中心になっていることを説明すると「それでは良い漫画、悪い漫画はどう分けられるのか」と質問されたことがあった。そもそも良い漫画論、悪い漫画論というものは妥当なのかを考えねばならない。
  • 一般的なオタクでない方にとっての漫画やアニメに対しての認識は、良い作者が良いコンテンツを作り、悪い作者が悪いコンテンツを作る、ような二分された構図になっているらしい。
  • しかしながら、実際の構造としては、知名度の高い作者やアマチュアの作者が作り上げるピラミッド型の構造だ。
  • 日本のコンテンツ産業の豊かさとは、ピラミッドを作る層、ここに参加されている競技人口の豊かさによって基盤が作られ、それがピラミッドを下支えしていることである。ピラミッドの底辺が他国に比べて圧倒的に厚みがある。
  • コミケでは3日間で50万人の参加者がいて、サークル参加者が3万5千にものぼる。彼らはアマチュア漫画ファンの方であり、各々が同人誌を作り、愛好者の方々に頒布している。
  • これらの作品の大半は二次創作のポルノ作品である。また発行点数の3割、部数の5割がエロパロでもある。日本の漫画は、こういった試みを手軽に描いてよい環境、出版物を頒布出来る環境があったからこそ、底辺の厚みが増したと考えてよい。
  • エヴァンゲリオンのエロパロ同人誌を描いた作家は、過去文化庁メディア芸術賞にて優秀賞を受賞している経験があり、プロになった方がエロパロ含めて好きな作品を描くケースも多い。またこの作家はエヴァンゲリオンの公式フィギュアの造形師でもあり、現在プロ、パロディー、権利者との関係は、相互的に作られている場合もある。それを現状わざわざ取り締まろうとする必要性はないのではないか。
  • 過去エロ劇画のようなエロ漫画から、少女漫画のような絵柄を性的なパロディスタイルとして立ち上げ、火付け役となった作品に「シベール」があるが、作者はメディア芸術祭の大賞と手塚治虫文化賞を受賞している。
  • また「かみちゅ」をコミカライズされた作家も同様に賞を受賞しているが、彼は有名なエロ漫画家である。
  • このような潮流がある中、これらを否定してしまうことは、多くの可能性をもった人達が下支えしている構造がずたずたにされてしまう、強い危険性を孕んでいると言えるだろう。

■中村公彦(コミティア実行委員会代表、同人誌即売会連絡会世話人)

  • 日本の即売会関係者が参加している、全国同人即売連絡会というものを作っている。今回のような件があった時に、連絡が取れるにと言う目的だが、あくまで緩やかな連絡会である。
  • 同人誌マーケットは非常に自由なもので、各主催者の考えに基づき創意工夫をもって栄えている。ただし、自由だからといって野放しにしているわけではない。80年代の頃は逮捕者が出るような状況だったが、打開する為に自分達で出来ることを考えてやってきた自負がある。
  • まずは青少年に売ってはいけない、ということが大切。即売会はみな並ばれた机に座って売り、対面販売であるため「子供には絶対に売らない」形を作っている。
  • イベントの主催はアマチュアが最低限の経費で運営しているため、安い場所を選ぶ為、必然的に公共の施設になることが多いが、その際は職員の方が発行物をチェックすることもある。職員の方に理解を得られても、担当の方は3年周期程度で変わってしまうので、1から始めなければならない厳しさもある。

■細萱敦(東京工芸大学准教授)

  • 大学にくる若者の妄想は、異性との恋愛とセックスであることが多い。我々は肯定的に創作表現として前向きに作ってもらっているが、そういった若い才能の芽を摘み取るような条例には反対しないといけない。

■藤本由香里(明治大学国際日本学部准教授)

  • はじめてこの件を聞いた時は「ネタ」と考えており、親しい出版社の方々も「通るはずないよ」と言っていたが、実際の状況を教えてもらうと「このままだと通る」という事実があり驚いた。
  • 期日が迫っている為、mixi日記に情報をまとめ、知り合いの記者に連絡をしたがほとんどが知らないと言い、一人だけ知っている人もいたが、通るはずないと思われていた。
  • このような状況の中、このスケジュール、そしてこのような強行な形で決まっていいはずではない、そう考えている。
  • 対象となる不健全指定が具体的にどういうものなのかを、職員の方に尋ねると「細かい規則は条例が通ってから決めるので、今は答えられない」という返答があった。では16歳と30歳の男女の「真摯な恋愛」において、性行為を描かれた場合はどうかと尋ねると「要検討の必要があります」という返答だった。
  • 彼らは「18歳未満の青少年の性行為を肯定的に描くこと」を問題としており、子供を守るという建前のもと、道徳的な教育を図ろうとしていることが分かった。
  • 果たして規制を強化した場合、性犯罪は減るのだろうか。実際は増えている実例の方が多い。
  • 韓国、米国、日本の性犯罪比率を見ると、表現規制が高い順に高い比率をあげている。日本の性犯罪率は極めて低い。
  • 世界で一番発達した漫画の表現文化をもつ日本から、現況を知ってもらうことが必要なのではないか。
  • 先日、ブラジルで行われた会議では、日本の漫画産業の殆が児童ポルノで締められていると報告されている。明らかに間違った認識を解くためには、知ってもらうこと、表現と社会についての論議を深めていくことが必要だ。
  • もちろん悪いことも漫画の中には含まれているのは事実だが、悪い感情すらも抱きとめる力が日本の漫画にはあり、それが日本の性犯罪率の低さに繋がっているのではないかと、考えている。

■福士敬子(都議会議員)

  • 規制をすることにより、規制という枠の中にはめてしまえば、全部をその枠の中でしか考えられなくなる貧しさがとても怖い。規制によってでしか、会話が出来なくなる状況は防ぎたい。

■山口貴士(弁護士)

  • 表現の自由については、一度作ってはいけないと言う法律を作ってしまうと、精査の対象がいなくなり、精査が出来なくなる為、復活させることは容易にできなくなってしまう。
  • 法律や法案は多数派の意見で決められるものであるが、当然その多数派の意見が正しいかどうかは分からない。決める対象がどちらか判断が付けられないからこそ、多数決という手段は存在する。
  • だからこそ、取り返しのつかない結論については、多数決にしてはいけない。
  • 特に表現の自由が憲法で保証されているのは、多数決による採決から守られるためでもある。個人の価値観の正しさは分からないし、時がたてば変わる可能性だってある。
  • 不健全だという抽象的な理由から、表現の自由を規制してよいものだろうか。
  • 推進される側は「規制した実績」を作ることで、選挙でもネタに出来る為、理解を得るのが容易だが、規制される側の理解を得るためのロジックはとっても難しいものだ。反対される政治家の方々にとっては、異を唱えることは勇気がいり、孤立無援で闘うことはできない。だからこそ皆さんのように支援する人間が必要になってくる。
  • 今回法案が通らなかったとしても、推進派は何度でもリトライ出来るし、その為の細かい準備にも余念をかかさないだろう。動き自体は2007年末にアメリカより児童ポルノを取り締まれ、と言われてからのことであり、今後も動きは続くはず。
  • 国会では民主党と社民党の皆さんが止めてくれたが、今回都条例に当てられてたのは「国で作るのが難しいのなら、都で作ってしまえ」という論理であり、東京都で条例が出来れば他の場所で施行されるのも、時間の問題だろう。

■記者や個人からの質問

Q.ゲームやケータイの規制はどうなるのか?
A.ビジュアル的なものを一律に対象としているので、ゲームやケータイも同様である(山口)。

Q.小説が規制の対象ではない。活字文化を除外するための論理的な説明はあったのだろうか。また挿絵がついている場合はどうか
A.非実在青少年の規定は「18歳に見える」ということのため、小説は表現としてかかりづらいうえ、読まないといけない手間があることも、実務上の運用において一因とされている。小説の挿絵については、ビジュアル要素を含んでくるため、当然対象となる。今回は小説を含まないとしているが、規制は弱い所叩きやすい所から狙われていくため、小説含め他の表現手段が取り締まられていくのも時間の問題だろう(藤本)。

Q.アダルトゲームは何年も前から自主規制をしてきたが、それでもNGなのだろうか?
A.これまでどのような形で自主規制してきたのかによる。上からの言いつけに唯々諾々と従うだけでやってきたのか、ちゃんと考えをもった上でやってきたのかで、対応が変わるだろう。
今回の条例をきっかけに、受け手側も政治などのリテラシーを高めることをしてもらいたい。抑圧された時に、どういう論理でどう反論するかは常に考えていかなければならない。
井原西鶴の好色一代男は、少年による恐喝強姦を描くポルノ作品だが、岩波文庫から古典文学として紹介されている。
この件について以前職員に伺ったことがあるが「そんなものは子供は読まない」と反論された。
こういった過去の事例、事実などを知るリテラシーは絶対に必要であるし、最低限の理論武装は行うべきである。
一般人が無知を棚に上げて批判することはよくないだろう(呉)。